No.686510

戦国†恋姫~新田七刀斎・戦国絵巻~ 第12幕

立津てとさん

どうも、たちつてとです
本庄のオッサンですが、狂った感じの表現故にすんごく読みにくくなってるかもしれません
どうかご了承ください


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2014-05-13 21:55:11 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:1800   閲覧ユーザー数:1602

 第12幕 リアクト

 

 

 

 

 

 

 

 

 岩場

 

松葉の隊が鬼達を引きつけている間に、美空率いる本隊は既に戦場へと到着していた。

 

「あれが鬼・・・初めて見たけど、随分とやってくれてるじゃない」

 

遠目で見てもわかる、鬼の殺し方。

人間の戦ではない、動物の狩りでもない。目的の無い虐殺。その言葉がピッタリであった。

 

「ざっと見て数は2千・・・ねぇ秋子?」

「はぁ・・・なんですか」

 

秋子は美空のこの顔を知っていた。

彼女が家督を継いでこの顔をするのはもう何度目だろうか、という程だ。

 

「松葉の隊もヤバそうよねぇ?」

「そうですね」

「てことは手っ取り早くあいつらを倒す方法っていうのが必要じゃない?」

「そうですね」

「私にはその方法を知ってるわよねぇ?」

「そうですね」

「じゃあ、やっちゃっていいわね?」

「はぁ・・・ただの内乱に使うなと言いたいですが、相手が相手ですしいいでしょう」

 

秋子はどこか諦めた様子で頷いた。

 

「よーっし!ようやっと鬱憤を晴らす機会が巡って来たわー!」

 

美空が単騎で突出する。

 

「まったく・・・でもあんな化け物に対して使うのがあのお家流の本来の使い方なのかしらね」

 

ため息をつきながら、秋子は全軍に後退指示を出すのであった。

 

 

 

先程と同様、本庄の腕がまっすぐ飛んでくる。

剣丞も先程と同じようにスルリと避けた。

 

「いくら強くたって、攻撃が当たりさえしなけりゃ!」

 

再び大木のような腕をバッサリと斬る。

ズシンという音を後ろに聞き、剣丞は一気に本庄に肉薄した。

 

「ヌウゥッ!」

「こいつで――『剣丞、横だ!』ッ!?」

 

咄嗟に横を見ると、剣丞が斬ったのと逆の腕が横薙ぎに振るわれていた。

意識外からの攻撃に戸惑っている隙を突かれ、剣丞はまともにその腕に殴られることになった。

 

「スケベさん!」

 

100mほど離れた所にいる柘榴の声が聞こえる。

それほどの大声を出させているのか、と剣丞は自分の状況を客観的に見ていた。

 

(アメフトやラグビー選手が複数で全力タックルをしてきたらこんなんだろうな・・・)

 

体は痛みを通り越して感覚が麻痺しつつある。

直後何かが体に強くぶつかった感覚を遠くに感じた時、剣丞は自分が吹っ飛ばされ岩に激突したのだと理解した。

 

遅れてやってくる痛みに思わず声が出る。

 

「グ、フッ・・・」

 

状況に対して意識が遅れてやってくる。

体中から襲い掛かってくる激痛に剣丞は思わず呻いた。

 

(ヤベぇ、体が動かねぇ・・・それに意識も・・・)

 

断続する痛みとは裏腹に、意識の方は段々と薄れていくのがわかった。

 

「グゥハハハハハハ!やハリこの世は力こそがスベて!孺子、きサマも捻り潰シてやる!」

 

興奮した本庄が足早に剣丞に止めを刺そうと近づく。

 

「スケベさん、逃げるっす!」

 

柘榴は叫びながら槍を杖代わりに立とうとするも、ガクッと立膝になるまでで限界であった。

 

「旦那がヤベぇ!」

「助けに行きてぇがこの鬼とかいう奴つえぇ!」

「クッソ、邪魔なんだよこのクソッタレが!」

 

足が速い個体である鬼は既に七刀斎隊と交戦している。

鬼の足止めだけで精一杯の彼らに剣丞の援護をする余裕はないだろう。

 

 

やがて本庄が倒れ込んだままの剣丞のすぐ目の前で足を止める。

 

「終わリダ」

 

再生された腕が振り上げられる。

鋭い爪と岩のような筋肉の脈動が剣丞の命を絶とうとしていた。

 

「死ねェッ!」

 

目の前にいる鬱陶しい孺子をを殺し、後は柘榴に先程の続きをする。

そう思いながら腕を一気に振り下ろしたその時、本庄はある違和感を感じた。

 

「ヌゥ・・・?」

 

爪は確かに剣丞を捉えていた。

だが、その爪は剣丞が倒れているすぐ横に深々と突き刺さっていたのだ。

 

だが、違和感はそれだけでは無い。足下からもであった。

 

「ナッ・・・!」

 

本庄の右足は膝から先が無くなっていた。

見ると切断された右の足先が地面に転がっているのがわかる。

どうやら右足を失ってバランスを崩したことにより狙いがズレたようだった。

 

「馬鹿ナっ、何故!」

「ヒッハハハ・・・」

 

かすかに聞こえた笑い声から、本庄が急いで剣丞を見る。

先程まで使われていた刀2本は既に鞘に納められており、その手には光輝く1本の長刀が握られていた。

 

「キッ、貴様・・・!」

 

更に気が付くと本庄の両腕、両足、胸、顔、すべてが一瞬で斬り刻まれていた。

 

「グオオオォォッ!?」

 

支えを失い倒れる本庄とは真逆に、ゆっくりと立ち上がる剣丞。

 

「つまんねぇなぁこの刀。スパスパ斬れちまったら感触が味わえねぇだろうが」

「きさマ、一体・・・!」

「あぁ?自己紹介はアイツがしただろ」

 

肩に長刀を担ぐように持つ。

 

「どうせすぐ無くなる命なんだから冥土の土産に持って行けよ。新田七刀斎って名前をよぉッ!!」

 

長刀で地面に転がる本庄の胴体を袈裟懸けに斬る。

本庄の体は真っ二つに両断され、血なのか粒子なのかわからないサラサラしたものが断面から流れ出ていた。

 

「オラ、まだだろ?鬼ってのは簡単に死なねぇよなァ?」

 

七刀斎が残った本庄の体をグサグサと遊ぶように刺していく。

四肢の無い本庄は防御をすることも出来ずされるがままとなっていた。

 

「グオオオオォォ!駄目ダ!もっと、もっと力を!!」

 

腕を瞬時に再生させ、丸薬の袋から数粒取り出し飲み込む本庄。

すると残りの肉体すべてが再生され、攻撃の合間を見計らって一気に立ち上がり後ろに跳び距離をとった。

 

「おうおう、まだやれるじゃねぇか」

「オ、オノレ・・・!」

 

本庄の体つきは先程よりも異様なものだった。

身長は4mに届くのではないかというほどに伸び、自慢の腕はその辺の木よりも立派になっている。

バキッ、パキッというひび割れのような音と共に動く体はまさに岩と形容するに相応しかった。

 

「・・・短ぇな。楽しみは少しだけか」

 

七刀斎がつまらなさそうに本庄を見る。

 

「ヌアァァ・・・殺ス!殺シテヤルゾ!」

「もう満足に言葉も喋れねぇじゃねぇかよッと!」

 

本庄が腕を振り下ろすのと同時に、逆にその腕を足場にして七刀斎は本庄の胴体に斬りかかった。

 

「オラァ真っ二つ!」

 

すれ違いざまに袈裟懸けの軌道を描く長刀が本庄の胸部に触れた瞬間、七刀斎は予想外の感触を味わうことになった。

 

「あぁ?んだこりゃあ」

「グッハッハッハ!」

 

ガキィンという音が辺りに響く。

七刀斎は違和感を感じつつも、スルリと本庄の脇を抜け、距離を取った。

 

「ドウシタ新田七刀斎・・・先程マデノ威勢ハドコヘ行ッタ」

 

振り向いた本庄の胸に傷は無く、斬られた痕も無いようだった。

 

「ほう、まるで亀だな」

 

七刀斎が感じた感触。それは固い甲羅のようなものを鉄の棒で叩いた感触であった。

 

「拙者ニ鎧ナド要ラヌ!」

「皮膚を硬化させ装甲代わりか。何でもアリだな」

 

胸部だけでなく腕、足、胴体や顔など。本庄は体中の主要な部位を硬化させていた。

 

「ソノ光ル刀モ最早通ジン!」

 

異形の顔付きで不敵な笑みを浮かべる本庄。

しかしそれは七刀斎も同じであった。

 

「ならそのハリボテもろともぶった斬ってやるよッ!」

 

長刀を納め右手に刀を、左手に脇差を持ち突進する。

剣丞の時よりも速いそのスピードは本庄の不意を突く形となった。

 

「ハッハハハハハーーーッ!!」

 

高笑いと共に本庄の巨大な体を斬りまくる。

本庄は予想外だったのか、その巨体故か、止まることのない七刀斎の動きを捉えきれていないようだった。

 

 

「あれ、本当にスケベさんっすか・・・?」

 

柘榴は七刀斎の事を知らない。

京の町で1度会ってはいるが、七刀斎と美空の戦いに柘榴が来てからは2、3言話したくらいで剣丞に変わってしまっていたために七刀斎の存在を知ることはなかったのだ。

 

「体・・・ちょっとは動くっすね」

 

剣丞の上着のお蔭であらわになった上半身は既に隠せている。

ダメージが残ってはいたが、槍を振れないわけではなかった。

 

「本庄のオッサンはスケベさんに任せるとして、柘榴はあっちを助けるっす・・・!」

 

柘榴は立ち上がると、激しさを増した七刀斎隊の防衛戦をグッと見据えた。

 

 

 

先程まで松葉の部隊と鬼が戦っていた場所をただ1騎で走り抜ける。

甘粕衆は優秀で、あまり被害を出さずに鬼の部隊を引きつけながら押し込んでいた。

 

その甘粕衆は既に後退し、手綱を握る美空の目の前には2千もの鬼の軍勢がやってくる餌を貪ろうと進行してきている。

 

「とうッ!三昧耶曼荼羅!!」

 

馬に乗りながら護法五神を呼び出す。

ついでに誰も見ていないだろうとさりげなくポーズをとっていた。

 

「滅しなさい!」

 

美空の合図とともに護法五神が鬼の上空に飛ぶ。

すると鬼達がいる地面とその真上に、鬼全てを囲うように五芒星が描き出された。

 

次の瞬間、五芒星から光の柱が立ち上り、傾きかけた日光にも負けない程の眩い光が辺りを包み込んだ。

 

「「「「「グオオオォォォーーー・・・」」」」」

 

五芒星の中にいた鬼達は断末魔を上げながら、その強靭な体が光の中で溶けるように消えていくのを感じていた。

 

 

やがて光は収まり、護法五神も姿を消す。

残されたのは三昧耶曼荼羅によってほぼ丸く抉れた岩場と、それを発動した張本人のみとなっていた。

 

「んーーーーーースッキリ!!」

 

背伸びをする美空。

彼女の後ろには、圧倒的な力の差に喜びの鬨の声をあげる長尾勢。

彼女の前には未だ残る2千ほどの鬼の軍と、それに立ち向かう僅か502の人影が見えた。

 

 

 

 それとほぼ同刻

 

「おわぁ、なんだありゃあ!?」

「あれは三昧耶曼荼羅だ!御大将のお家流だぁ!!」

「きたああああ!これであの辺にいた鬼は全滅だな!」

 

遠くに現れた光の柱を目にした七刀斎隊もまた士気が上がっていた。

 

奇跡的というべきか、2人で1体に当たるという戦術が良かったのか、七刀斎隊の死者はまだ1人も出ていない。

しかし、疲労だけは彼らの中に確実に溜まっていた。

 

「ガアアァァァァーーー!」

「し、しまったぁ!」

 

ついに1人が鬼に隙を見せる。

鬼はその本能的な瞬発力で彼の隙を見逃さなかった。

 

「危ないっす!」

 

死の覚悟を決めた隊員の背後から槍が飛び出る。

 

「大丈夫っすか?」

「あ、姐さん!」

 

鬼に突き刺さった槍の持ち主が一気に前へと踏み込む。

 

「串刺しっすー!!」

 

鬼を刺したまま、柘榴は後方にいる鬼もまとめて限界まで一刺しにしていた。

 

「姐さん、お怪我はもういいんですかい?」

「まだちょっと本調子じゃないっすけど、足手まといにはならないっす!」

 

一振りするだけで数匹の鬼が塵となって消えていく。

 

「よっしゃあああ!姐さんがいりゃ百人、いや千人力だぜ!」

「野郎ども、このまま持ちこたえんぞぉッ!」

「「「「「ウオオオオオオオオーーー!!」」」」

 

柘榴の力は足軽達から見たら雲の上の領域だ。

そんな彼女が隣で戦う安心感も七刀斎隊の士気を上げる要因となっていた。

 

 

 

休むことなく攻撃を加え続ける七刀斎。

その攻撃はついに本庄の硬化された皮膚にヒビを入れるほどだった。

 

「ヌウウゥ、ヒビダト!?」

「ヘッ、やっぱりハリボテじゃねぇか!」

 

器用にヒビのある部分を斬る。すると、その刃はスゥッと本庄の体を斬り裂いていった。

 

「グオオオォォーー!」

 

苦し紛れに本庄がパンチを繰り出す。

まるで岩が飛んでくるかのようなパンチを、七刀斎は避けることなく待ち構えた。

 

「ハッハハハハハハァーーーーッ!!」

 

瞬時に長刀に持ち替え、剣道のように飛んでくるパンチへと振り下ろす。

すると硬化させていたはずの本庄の腕が真っ二つに裂けていった。

 

「ナ、バ、馬鹿ナ!」

 

硬さに絶対の自信があった本庄の顔が驚愕に染まる。

 

「やっぱ戦いはよぉ、相手の鼻をへし折ってこそだよなぁッ!」

 

長刀を本庄の胴目掛け突き出す。

七刀斎はこれまた器用にヒビを狙い、長刀で本庄の体を深々と貫いた。

 

「サヨナラだぁ、雑魚野郎!!」

 

更に刀で本庄の胸を貫く。

 

「グアアアァァァーーーーー!」

 

巨体が、大きな地響きを立てて仰向けに倒れ込んだ。

 

 

 

「これで何匹目だァッ!?」

「知らねぇ!10から先は数えてねぇぜ!」

「けどよぉ、キリが無ぇにも程があんぞ!!」

 

足の遅い鬼も戦いに加わり完全に2千たい約500の戦いになってから、七刀斎隊は徐々に押されていた。

死者はいなくとも、怪我をした者はすぐに後ろに下げているため、戦っている人数などは既に半数に近い。

各員奮闘していたが、数の差は覆せていなかった。

 

「くっそぉ、このままじゃ・・・」

「弱音を吐くんじゃねぇ!旦那に顔向けできねぇぜ!」

「諦めるなっす!」

 

仲間を激励しながらも槍を振るう柘榴。

しかし彼女の中にも本当にやれるのかという不安感があった。

 

「おい、アレ!」

 

七刀斎隊の中から特に上ずった声があがる。

その声の主が指さす方向を見ると、彼らの見慣れた旗が近づいてきているのがわかった。

 

「あれは・・・御大将の旗っすー!」

 

柘榴の言葉を皮切りに、隊の中から喜びの声があがっていった。

 

「甘粕さまの旗もあるぞー!」

「直江さまの旗もだ!よっしゃああああ助かったんだ俺達!」

「気ィ抜くなぁ!味方が来るまでまだかかる!それまでなんとしても持ちこたえるんだ!」

「旦那に言われたろ!1人も死ぬな!怪我人は早く後ろに運んでやれぇ!」

「「「「「オオオオオォォォーーー!!」」」」」

 

息を吹き返したかのように武器を振るう七刀斎隊。

柘榴も戦いながら考え事をする余裕ができていた。

 

(そういえば、スケベさんは大丈夫っすかね・・・?)

 

「ちょっとスケベさんの方見てくるっす!後は頼むっすよ!」

「はいでさぁ、姐さん!」

 

柘榴は一時戦列を抜け、剣丞が戦っているであろう方向に駆けて行った。

 

「ところで、スケベって誰だ?」

「さぁな、それよりよそ見してると死んじまうぞ!」

 

 

 

動かなくなった本庄から突き刺していた刀と長刀を抜き取り、全てを鞘に納める。

 

「あぁー楽しかったぜ。ま、オレの敵じゃなかったけどな」

『う、うぅ・・・』

「あ?んだ剣丞。今頃お目覚めか」

『七刀斎・・・そうだ、鬼は!?』

「そこに転がってんだろ。そこそこ楽しめたからオレは満足だ」

『そうか、倒したのか・・・』

「んじゃあ後はよろしくな~」

『あぁっ、お前勝手に!』

 

剣丞が抗議の声を上げる前に、七刀斎はさっさと体を返してしまった。

 

「クソッ、あいつめ・・・」

「スケベさーーーーん!!」

 

元気そうな声が背中に浴びせられる。

 

(ああ、よかった・・・無事だったんだな)

 

顔を綻ばせ、振り返る。

こちらに走って来る柘榴の向こうには、奮闘する七刀斎隊と遠くに美空の本隊が見えた。

 

「援軍・・・間に合ってくれたのか」

 

いくら鬼と言えどもこうなれば数の差で押し切れるだろう。

それはとりあえず美空に任せ、今は一息つかせてもらおう。剣丞はそう思った。

 

 

 

「ほーらほらほら!皆どきなさい!毘沙門天の加護が薄れるわよー!」

「全軍、さっきと同じように後退」

「七刀斎隊にも伝えてください!」

 

三昧耶曼荼羅の巻き添えにならないよう、全軍に接敵を避ける命令を出す。

七刀斎隊にも使番がその旨を伝えに行った。

 

「おい、退けってよ!」

「なんでだ?まだ鬼全部ぶっ殺してねぇぞ!」

「御大将が一発やらかすんだってよ!とっとと退かねぇとこっちが死んじまうぞ!」

 

三昧耶曼荼羅がどんな威力を誇っているかは先程の光の柱で確認済みだ。

怖いもの知らずの七刀斎隊の面々も、巻き添えを怖れて下がらざるを得なくなった。

 

「怪我人は担いででも運んでけー!」

「誰も死んでねぇだろうな!?死んでたら旦那に顔向けできねぇぞー!」

「大丈夫だー!皆生きてるぜー!」

「テメ、早く行けよ!」

「うるせぇ!こっちは人しょってるんだよ!」

 

統率感は無かったが、誰もが怪我人を庇いつつ後退していった。

 

 

「七刀斎隊の後退を確認!」

「よーし、またまたやっちゃうわよー!三昧耶曼荼羅!!」

 

本日2回目の護法五神が現れる。

その神々しい姿に恐れをなした兵達が自然と歩みを止め、美空から距離を取る。

鬼も生き物としての本能故か、逃げようとする動きも見てとれた。

 

「逃がさないわよ。柘榴の隊をやってくれたこと、何倍にもして返してやる!」

 

5つの光る影が宙を舞い、鬼達の頭上に躍り出る。

すると、先程と同じように光の柱が彼らを包み込んだ。

 

 

 

七刀斎隊が苦戦していた鬼達を一瞬で葬り去った光の柱は、剣丞からもよく見えた。

 

「うっひゃー、俺下手したら京都でアレ喰らってたんだな・・・」

『ハッ、オレだったら避けるか耐えるかできらぁ』

「いや、俺の体そこまで頑丈じゃないから・・・」

 

呆れている剣丞のもとに、遠くから柘榴の声が浴びせかけられた。

 

「スケベさーん、無事っすかー?」

(か、彼シャツだ・・・!)

 

走って来る柘榴の出で立ちは助けた時と変わらず上着がフランチェスカの制服だったが、剣丞はそれが彼氏のシャツを彼女が着る(実際には彼氏彼女の関係ではないが)彼シャツ状態だということに気が付いた。

 

(まぁ、仕方ないよな。貸さなきゃ、ほら・・・見えてたし)

 

上着を貸す時しっかりと目に焼き付けておいた柘榴の豊満な胸が網膜に蘇る。

柘榴は目の前の相手がそんな邪な気持ちを抱いているとは露知らず、無事を確認するために近づいてきていた。

 

「ああ、大丈夫だよ柘――――」

 

その瞬間、剣丞は己の体が万力に挟まれるかのような感覚を味わった。

 

 

「ッ、ぐああああぁぁぁーッ!?」

「グハッハッハッハ!」

 

突然の出来事に混乱する剣丞。

離れた場所にいた柘榴には見えていた。

 

突如起き上がった本庄がその巨大な手で剣丞を文字通り掴み持っていたのだ。

まるで人形遊びをするかのような大きさの彼我差が剣丞を苦しめる。

 

「ぐ、ぐぐぐぐ・・・!」

「コノ拙者モ一瞬危ウイと思ッタゾ・・・!」

 

歯を食いしばることしかできない。

腕ごと胴体を掴まれた剣丞は刀を抜くことも出来ず、自分の体がミシミシと音を立てるのを聞いていた。

 

「な、なんで・・・死んでないのか・・・ッ!」

「グウハハハハハッ!拙者ハ人間ヲ超エタ!貴様ノ攻撃ゴトキデ死ヌモノカ!!」

「スケベさんを放すっすー!」

 

柘榴が槍を本庄目掛け突き出す。

しかし、それは硬化した皮膚に防がれた。

 

「なっ・・・!」

「フッ、柿崎。最早貴様ナド物ノ数デハナイワ!!」

 

剣丞を掴んでいない方の腕でパンチを繰り出す本庄。

まだ本調子でない柘榴にこれを避けるのは難しかった。

 

「柘榴!!」

 

苦し紛れに声を張り上げる。

しかし、それで柘榴が攻撃を避けられるわけでもなかった。

 

だが、そこに横から入り込んでくる人影が1つあった。

 

「姐さん、危ねぇ!」

 

七刀斎隊の1人が柘榴を突き飛ばす。

鬼との戦いを終えた七刀斎隊は剣丞の様子を見るべくこちらに向かって来ていたが、彼はその中でも特に足が速いために1人先に来ていたのだ。

 

「わわっ!」

 

突然の衝撃にバランスを崩し倒れる柘榴。

どこかを打ったのか、そのまま起き上がることなく意識を失ってしまったようだった。

 

「お前・・・ッ!」

「旦那、後は頼みますぜ!」

 

柘榴は突き飛ばされたことによって安全圏に移動できたが、突き飛ばした方はそうではなく、本庄のパンチを防御することもできずモロに喰らう。

すると隊員はいとも簡単に吹っ飛ばされ、いとも簡単に絶命してしまった。

 

「ばッ・・・バカ野郎!」

「フン!ゴミが出シャバリオッテ」

 

本庄が落ちていた袋を取り上げる。

 

(クッ、まだパワーアップすんのか!)

「エエイ、マドロッコシイ!」

 

その中からまた丸薬を取り出すのかと思いきや、本庄はその袋を丸々飲み込んでしまった。

 

「グオオオオオォオォォォァァーーー!」

 

本庄の口や目から煙が上がる。

掴む力が若干弱くなり、掴まれている剣丞にはそれが本人にとっても有害なのだと理解できた。

 

「サァ!殺ス!殺ス!コロスコロスコロス!!」

 

多少緩まっていた握力が戻るどころかさらに上がる。

 

「ぐううううぅぅ・・・!」

 

あと少しでも力を込められたらグシャグシャにされる。

そう確信できるところまで力を込められていた。

 

「コノママアノ生意気ナ小娘ヲ屠リ、拙者ガ長尾家ヲ意ノママニ支配シテクレルワ!!」

 

誰に言うでもなく、独り言を大声であげる。

 

『おい、早く代われ、死ぬぞ』

「ぐぐぐ・・・嫌だね!」

『んだと?死の淵で何も出来ねぇテメェが何言いやがる!とっとと代われ!』

「黙れ!!」

 

温厚な剣丞らしからぬ声に、七刀斎も一瞬怯んだようだった。

自分の力と理想に酔っている本庄には剣丞が何かを喋っているのに気付いていない。

 

「これは、俺の戦いなんだ・・・!このままじゃ柘榴が酷い目に会う。だから俺が助けんだよ!」

『キレイゴト並べても死んだら意味ねぇだろうが!』

 

傍から見たらデカい独り言を言っている剣丞の事はいざ知らず、本庄は独白を続ける。

 

「ユクユクハ拙者ガ天下ヲ統一シ、スベテノ人間ヲ跪カセルノダ!」

 

人はそれぞれ本音が出る状況は違うが、本庄の本音の出しどころは勝利を確信した時のようだった。

 

それが隙となったのか、本庄は剣丞を掴む腕に何かが刺さるのを感じた。

 

「ヌゥ・・・?」

「あ、あんたは!」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・!」

 

本庄の腕に刺さっていたのは刀。刺したのは男。

その男の顔を、本庄も剣丞も知っていた。

 

「キサマ、北条!」

「本庄どのッ、もうお止めくださいッ!」

 

北条は血塗れで、剣丞の事にも気付いていないようであった。

だが、その刀は力強く深々と本庄の腕に突き刺さっている。

 

「北条、ソノ体デココマデ来ルトハ・・・」

「あなたは間違っている!外法に身をやつしッ、大恩ある長尾家を支配しようなどッ!

 

血反吐を吐きながら訴える北条。

だがその悲痛な叫びは、人でなくなった本庄には届かなかった。

 

「死ニ損ナイガァッ!!」

「がッ!」

 

すぐさま殴られ軽々と吹っ飛ばされる北条。

だが本庄にうまく力が入らなかったのか、吹っ飛ばされた先で北条は呻いていた。

 

「フンッ、シブトイ」

 

生死の境を彷徨う北条を心配する一方で、剣丞はあることに気付いていた。

 

(あの刀・・・何で刺さってるんだ?)

 

北条の刀は別段特別なものでもない普通の刀だ。

だが、本庄の腕――肘の裏側部分に深々と突き刺さっていた。

 

(・・・まさか)

 

「興ガ削ガレタカ・・・ダガ!」

(ッ、やられる!)

「「「旦那ァーッ!」」」

 

刺さった刀を抜き、本庄が剣丞を握り潰そうとした瞬間、七刀斎隊の足自慢3人が遅れて走ってきていた。

 

「お、お前ら!」

「お前は姐さんを運べ!俺達は旦那を助けんぞォッ!」

「「オオォッ!!」」

 

1人が気絶している柘榴を担いで離れ、2人が剣丞を助け出そうと刀を抜く。

常人ならとても立ち向かおうとは思えない姿をした化け物に勇敢にも向かっていく2人。

彼らはそれぞれ一太刀ずつ入れた所で驚愕の表情を浮かべた。

 

「な、なんだこの硬さ!」

「刃が通らねぇ!」

「バカ、逃げろ!早く!」

 

剣丞の叫びも無駄に終わり、2人はバカ正直に斬りつけている。

だが本庄にとってそれは蚊に刺されるのと変わらなかった。

 

「邪魔ヲスルナァ!」

 

鋭く巨大な爪が横に振られ、2人がいっぺんに血飛沫を上げる。

1人は即死だったようだが、もう1人は残った命を振り絞り、剣丞を掴む手に刀を突き立てた。

 

しかしそれもガキィンと弾かれる。

残されたのは剣丞に呼びかけることだけだった。

 

「旦那、すいやせん・・・しくじりました・・・」

「お、お前・・・!」

「旦那、どうか――」

 

言い終わる前に本庄の爪が彼を貫き、わずかな命を摘み取った。

 

「雑兵ガ・・・」

「ああっ・・・!」

 

全てがスローモーションに見えた。

 

ゆっくりと崩れ落ちていく隊員。

ゆっくりと吹き出る血。

ゆっくりと力を込める体。

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

次の瞬間、剣丞は本庄の手の中で力の限り刀を振るった。

 

 

 

急にズタズタにされた手を見て、本庄は驚愕した。

持った薬を全て呑み、確実に殺せる力は手に入れたはずだ。

 

勿論、手も硬化させてある。それがここまで無惨に斬り刻まれるのは想像もつかなかった。

 

「ナッ、ガッ、貴様・・・!」

「はあああぁーーーーッ!」

 

凄まじい剣幕と共に斬りかかる。

振り下ろした刀は本庄の皮膚に弾かれ、腕が痺れるほどの反動が返って来るほどだった。

 

「フッ、フッハッハッハ!ドウヤラサッキノハ偶然ダッタヨウダナ!」

「クッ!」

 

剣丞のバランスが崩れたところを見逃さず爪を突き出す。

しかし、本庄はここでも驚かされた。

 

確かに捉えたはずだったが、剣丞は恐るべき反応速度でそれを避けて見せたのだ。

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、これは・・・」

 

剣丞は自分でも動いていた。

避ける瞬間、剣丞には自分に向かってくる爪が限りなくスローモーションに見えた。ということでは無い。

通常より速く動けるようになったということでも無い。

ただ、自分の反応が格段に速くなったのだ。

 

「ヌゥ、ガアアァァッ!」

 

再び本庄が腕と爪で剣丞に次々と攻撃を繰り出していく。

その攻めは怖ろしく速いものだった。

 

(このスピード!霞姉ちゃんに勝るとも劣らない感じだ・・・けど!)

 

剣丞はその攻撃をすべて避けた。

 

『剣丞、お前・・・』

「わからない。だけどよ、今すっげぇ『見える』んだ」

 

最初は視力が格段に良くなったのだと思っていた。

だが違う。剣丞の『見える』というのは物がよく見えるのではなく、相手の動きを見た瞬間に見極められるというものだった。

 

通常、人間は危険を察知してから体が行動を起こすまでに約1秒を要する。

しかし今の剣丞はその1秒を完全にすっ飛ばして反応していた。

その1秒はすなわち避ける時間となり、反撃の時間となった。

 

「クッ、やっぱり硬ぇ・・・どうする?」

 

斬りつけても斬りつけても斬れない。

刃こぼれしないこの刀でなければ既に折れていただろう。

 

「ゼアアアァァーーッ!」

 

どれほどのスタミナがあるのか、本庄の攻撃スピードはまったく衰えない。

攻撃を避けつつ、伸び切った相手の腕を目を凝らして見ると、あることを発見することができた。

 

(あの肘裏、さっき刀刺さってたよな?・・・関節部か!)

 

試しに肘裏目掛け刀を振る。

すると刃は弾かれることなく肘裏に食い込んでいった。

 

「ッグウウゥゥ!?」

「通った!」

 

どんなに硬くとも、体のつなぎ目は動かすために柔らかい。

剣丞の読みは的中し、本庄の鉄壁の体を打ち破ることに成功したのだ。

先程剣丞が本庄の手から脱出したのも、指の関節部を無意識に斬っていたからできたことである。

 

これで腕が斬れることは証明された。

なら次は、足だ。

 

(立ち止まってる暇はない。すれ違いざまに斬る!)

 

本庄は今や人間の何倍もの大きさだ。

横を潜り抜けることは不可能だったが、股下のスペースも屈めば人が通れるくらいの余裕はあった。

 

(なんにしろ時間がない・・・!)

 

本庄が腕を斬られ、隙を生んだ今こそがチャンス。

剣丞は脇差を2本とも抜き、両手に持ったままスライディングを仕掛ける。

 

「うおおおぉぉぉーーーッ!」

 

下手をしたら動きを読まれて足蹴にされるかもしれない。

素早く腕で潰しにくるかもしれない。

足を閉じられ、進退窮まるかもしれない。

 

(んなこと知るもんか!)

 

攻撃する場所は『見えて』いた。

どんな屈強な者でもそこを斬られれば最悪死に至る部位。

地を滑り本庄の股下を潜り抜けた剣丞はすれ違いざまに脇差を振りぬいた。

 

「ガアアアァァァーーーー!バ、馬鹿ナ・・・コノ拙者ガ!」

 

両方のアキレス健を斬り裂かれた本庄はたまらずバランスを崩し膝をつく。

背後に回った剣丞はその隙を見逃さず無我夢中に攻撃を加え続けた。

 

刀や脇差を使い、足の付け根、腕の付け根、膝裏、腰など関節部が集中しているところのみを斬る。

 

「フザケルナアアアァァーーー!」

 

アキレス健の再生を終えた本庄が腕を振ってくる。

だが剣丞の超反応は、不意打ちであったそれすらも避けて見せた。

 

「見えてんだよ!」

 

本庄が正面を向いたことにより更に狙う場所は増えた。

 

刀を1本ずつ本庄の両腕に突き刺し、脇差をそれぞれの腕の付け根に突き刺す。

その4本はいずれも腕の筋を断ち切っていた。

 

「ナッ、ウッ、動カン・・・!」

 

力の限り地面を蹴り、本庄の肩に手をかける。

 

「これはあいつらの分だ!」

 

小刀を2本、本庄の目に突き刺す。

苦しみの雄叫びをあげる本庄の肩を足場代わりに、剣丞は天高く跳んだ。

 

残された刀は1本。

自分の丈に迫る長い刀を振りかざし、剣丞は本庄の脳天を捉えた。

 

「だあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッッ!!」

 

叫びと共に本庄の額に切っ先を食い込ませる。

その刃は顔を伝い、胸、腹の硬い皮膚さえも斬り裂いた。

 

 

 

「ヌゥ、グ、ガァァァァ・・・」

 

傷口からサラサラと粒子の煙を出し、よろめきながらも本庄はまだ倒れずにいた。

 

「クッ、まだ立ってるのか・・・!」

 

対して剣丞は目の酷使による超反応の影響か、ふらついて長刀を杖代わりにしないと立っていられない。

 

「グ、ッフッフハハハハハ!ショ、セン・・・拙者ハ、誰ニモ・・・グアアアアオオオオァァァォォォ!!」

 

急に苦しみ始める本庄。

その体はヒビ割れ、更に煙を噴き出した。

 

「なっ、なんだ!?」

『やっぱりな・・・剣丞、終わりだ』

「どういうことだよ?」

『過ぎたる薬は毒ってな。体力の限界を迎えたあいつのキャパは蓄えすぎた鬼の力に耐えられなくなったんだよ』

 

本庄の体が粒子となって消えていく。

剣丞は動くことも出来ず、本庄が叫びながら塵となって消えていく様を見ていることしかできなかった。

 

 

「勝った・・・のか」

『あの野郎の体力を限界まで減らしたのはお前だ。勝ちでいいと思うぜ』

「そう、か・・・あ、北条とかいう人は!」

 

残る力を振り絞り、北条が吹っ飛ばされた場所へ向かう。

北条は先程と変わらず、その場にいた。

 

「大丈夫か!?」

「う、うぅ・・・あんまり大丈夫じゃないかも・・・痛ぇ」

 

そういう北条だったが、しっかりと生きていた。

せめてもの応急処置として、傷を塞ぎ止血をする。

疲れて手元がおぼつかない剣丞であったが、なんとか布を縛るくらいの作業はできていた。

 

「七刀斎ーーーーー!」

「旦那ァーーーーーー!」

 

遠くから剣丞を呼ぶ声がする。

 

「美空、それにあいつらか・・・」

 

鬼をすべて葬り去り、勝利の勝鬨をあげる長尾勢は帰城の準備を進めながらも、総大将である美空自ら剣丞を探していた。

 

「御大将!あそこに旦那が居やすぜ!」

「本当!?嘘だったら承知しないわよ!」

 

その声がどんどん近くなる。

 

「みんな無事か・・・よかった」

 

一気に脱力し、その場にドサリと大の字に倒れ込む。

隣の北条は既に寝ていた。

 

(柘榴も無事かなぁ・・・きっと無事だよな、ちゃんと助けてくれたはずだ)

 

ウトウトと意識が微睡の中へ沈んでいく。

仮面の下の瞼は完全に閉じられていた。

 

(あ、刀・・・回収しておかな、きゃ・・・・・・)

 

 

 

これにより越後の内乱は鎮圧され、長尾家はその体制を盤石なものとした。

次の彼らの目標はかねてより言われていた越中制圧と、織田との同盟でった。

 

 

 

 


 
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