No.675272

真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side袁術軍)~ 第零回 プロローグ

stsさん

みなさんどうも大変お久しぶりです!初めましてな方は初めまして!stsと申します!

お久しぶりな方はタイトル見てあれ?と思われたかと思います。

そうです、今日から新年度ということで、心機一転、新作の投稿を開始します!

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2014-04-01 00:00:16 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:6293   閲覧ユーザー数:5073

 

 

 

 

 

 

『天界より舞い降りし白き英雄、その徳望聞識衰えることを知らず、数多ある乱世を治世に導かんため、再度乱世に舞い戻らん』

 

―――稀代の占師・管輅の出した予言より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【徐州、広陵】

 

 

 

「さぁ、もうお前しかいないのだ!さっさとあきらめて観念するのだ!」

 

「クソッ、おれの兵なんて、燕人張飛にかかれば、いないも同じっていうのか・・・」

 

 

 

小さい体に対してあまりにも不釣り合いな、巨大な蛇矛を肩に担いだ少女から自信満々に告げられた最終通告に、

 

黄金色の鎧に身を包んだ青年は、手にした大きな三尖刀を手にし、

 

天然ものの黒のツンツン頭をポリポリかきながら、眠たそうな表情で悔しそうに独りごちた。

 

時節は夏の暑さが厳しい頃合い。

 

ここは徐州の南端、広陵の地である。

 

ここでは、袁術軍と劉備軍が相対していた。

 

袁術軍は本拠である寿春を配下たる孫策軍の離反により追われ、

 

加えて袁術の皇帝僭称やこれまでの暴政に対して討伐を名乗り出た、曹操、孫策、劉備・呂布の連合軍に攻められていた。

 

絶体絶命に陥った袁術軍は、従姉である袁紹のいる冀州へ逃れることを選択。

 

しかし、寿春から北上して徐州に入ったところ、下邳から出陣した劉備軍にその行く手を阻まれてしまったのである。

 

そこで袁術軍は、袁術軍随一の忠臣にして、袁術軍一の猛将、紀霊に劉備軍の足止めに当たらせ、

 

主君の袁術や、大将軍にして紀霊同様袁術軍随一の忠臣、張勲らを先に逃がしていた。

 

出陣した劉備軍の大将は、赤毛のショートヘアにクリクリとした青い大きな瞳、

 

黄色の上着にスパッツといった動きやすい服装をした少女であった。

 

見た目は無害そうな少女であるが、しかし異様なのは手にした得物があまりにも大きすぎる蛇矛であり、

 

その大きさは一丈八尺もあると言われた。

 

劉備と義姉妹の契りを交わした、一騎当千ならぬ一騎当万と謳われる猛将、張飛である。

 

現在、張飛は100人ほどの兵を引き連れていたが、張飛自らがたった一人で、

 

紀霊が率いていた数百人もの兵を容易く退けてしまったところである。

 

袁術を逃がすためにも、できるだけ時間を稼ぐ必要のあった紀霊ではあったが、あまりにも短時間の出来事であった。

 

しかし、兵を失い、一人になってしまった紀霊は、それ以上泣き言をいうことはなく、汗で滑りそうになった三尖刀を強く握りしめた。

 

眠たそうな瞳も、未だその秘めたる鋭利な光を失っていない。

 

 

 

「けど、ここで退くわけにはいかないんでね。最後の一騎打ちといこうじゃないか!」

 

「ふん、命知らずな奴なのだ!」

 

 

 

紀霊の申し出に、張飛は自信満々に肩に担いだ蛇矛を構えることで応えた。

 

 

 

「もちろん、アンタとおれとじゃ勝負にならないのは承知さ。このままじゃ時間稼ぎにもならない。けど、アンタみたいな可愛い幼女に

 

討たれるっていうのなら、それも悪くない」

 

 

「にゃ?」

 

 

 

紀霊は真面目な表情で真剣に場違いな発言を自然な流れで自身の言葉に織り交ぜた。

 

この場の空気が夏の暑さにもかかわらず急激に冷えるかのような錯覚をこの場の多くの人間が感じていた。

 

当然張飛が戸惑いの声を上げるのも無理はない。

 

 

 

「こ、こいつ・・・変態か!?」

 

 

 

そして、当然張飛隊配下の兵士たちも黙っていない。

 

紀霊の問題発言にざわざわと色めきだっている。

 

 

 

「いいか、幼女ってのはなぁ・・・そこにいてくれるだけで、世界は救われるんだよ・・・」

 

 

 

しかし、そのような張飛側の反応など我関せずとばかりに、紀霊は自身の場違いな主張を力強く発していく。

 

 

 

「だめだ・・・こいつ、早く、何とかしないと・・・」

 

 

 

兵士たちのざわめきが一層強くなったが、しかしその時、戦いの最中も常に眠たそうな表情をしていた紀霊が、

 

急に覚醒したかのように目をカッと見開いて、その淡いダークグレーの瞳を爛々と輝かせた。

 

体中からはその場にいるものを押しつぶしてしまいそうな闘気がにじみ出ている。

 

 

 

「だが!!それは張飛ちゃん、アンタじゃねぇ!!曹操んとこの許緒ちゃんや典韋ちゃんでもねぇ!!!呂布んとこの陳宮ちゃんや高順

 

ちゃんでもねぇ!!!孫策の野郎んとこの尚香ちゃんでもねぇ!!!我らが絶対的主君、傾国の美幼女、袁公路様ただお一人だけだ!!!

 

はぁああああああああ!!!!」

 

 

 

紀霊はそこまで一気に叫び終えると、気勢と共に張飛に向かって駆けだした。

 

 

 

「よくわかんないけど、勝負なのだ!!!」

 

 

 

張飛もポカーンとした表情で紀霊の言葉を聞いていたが、紀霊が駆けだすと共に、自身もまた紀霊に向かって跳びだした。

 

紀霊は自身の得物である三尖刀はかなりのリーチを持ったものだと自負していたが、

 

しかし、張飛の蛇矛はそれをさらに上回るリーチを持っていた。

 

そのため、紀霊は張飛の蛇矛の間合いを自身の兵士たちがやられるうちに瞬時に判断し、

 

今回一気に駆けだすことで張飛の蛇矛の間合いの内に入ることに成功していた。

 

 

 

「おぉおおおおおおっっ!!!!!」

 

 

 

そこから紀霊は渾身の突きを放つ。

 

 

 

―――しかし・・・

 

 

 

「甘いのだ!!」

 

 

 

張飛はあり得ない程の柔らかい手首の返しを以て紀霊の突きをいともたやすく防いだ。

 

常人なら確実に手首の腱が切れているほどの動きだが、張飛だからこそできる離れ業であった。

 

そこから一合、二合と打ち合いを続けるが、傷を負うのは紀霊ばかり。

 

張飛が紀霊を押していることは誰の目から見ても明らかであり、決着がつくのは時間の問題であった。

 

 

 

(美羽様、申し訳ありません・・・どうやら、約束は果たせそうにありません・・・七乃、楊弘(ようこう)、美羽様のこと・・・頼んだぞ・・・)

 

 

 

そして、

 

 

 

「これで、終わりなのだ!!!」

 

 

 

張飛の最後の一撃が、鋭く風を切る音と共に放たれた。

 

 

 

―――その刹那、

 

 

 

ドカーーーーーン!!!!!

 

 

 

「にゃ!?」

「――――――ッ!!??」

 

 

 

ものすごい轟音が、張飛と紀霊のそばで鳴り響くと共に、辺り一面に砂埃が立ち込めた。

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、袁術軍が広陵に入り、張飛隊がその進軍を阻みに来たとの伝令が入った頃。

 

 

 

「七乃!早く美羽様を連れて楊弘と合流して冀州へ向かえ!早くしないと完全に敵軍に進路を塞がれんぞ!今更引き返すなんて選択肢は

 

無しだ!寿春に戻ったっておれ達に居場所はない!この際贅沢は言ってられないんだ!殿はおれがするから、袁紹嬢を頼って落ち延びる

 

んだよ!」

 

 

 

紀霊は、張飛隊が出陣したという報を聞き、冀州に向かうのは無理だと七乃と呼ばれた女性が言い出したこと受けて、

 

眠たそうな表情のまま珍しく声を荒げてこのまま冀州に向かうべきだと主張していた。

 

 

 

「別に袁紹さんのところが嫌とか、そういう贅沢で引き返そうって言ってるんじゃありませんよ。たとえ寿春がダメでも、まだ西の地に

 

逃れることができるじゃないですか。それに、劉備さんはまだ話し合いが成り立つ人ですし、もしかしたらということも考えられます。

 

私が言いたいのは、張飛相手に変態さんが殿なんてしたら絶対―――」

 

 

 

そのような紀霊の言葉を受けて、紫の瞳をやや揺らして反論している女性は、

 

紺色のショートヘアをピンで留め、客室乗務員を髣髴とさせる小さな青と白の帽子をちょこんと乗せ、

 

白と紺を基調にした上着に、赤のミニスカートをはき、腕には袁と書かれた金色の腕章がつけられている。

 

帯刀したその女性の名前は張勲。

 

主君たる袁術の暴政に愛想を尽かすことなく付き従い続けている、紀霊同様袁術軍随一の忠臣である。

 

現在、袁術軍は曹操、孫策、劉備、呂布の四連合に囲まれているが、

 

兗州の曹操、江東の孫策、徐州の劉備・呂布というように、東南北が抑えられているにすぎず、まだ西の包囲は完成していなかった。

 

また、劉備は曹操や孫策と違い非戦的な思想の持ち主であった。

 

そこに張飛と紀霊との実力差を考えての張勲の主張であったが、しかし、紀霊にその言葉は食い気味にさえぎられてしまう。

 

 

 

「いいか、今最優先なのは何よりも美羽様の安全だ!オレら配下の命なんか二の次でいいんだよ!」

 

 

 

紀霊の口ぶりから、どうやら紀霊自身も、殿を務めた先にある自身の行く末を理解しているようであった。

 

 

 

「でも―――!」

 

「張勲!!さっさと行け!!無駄な時間使わせんなよ!!」

 

「美羽様もこの変態さんを止めてください!」

 

 

 

張勲が助けを求めたのは、まだ幼さを残した顔に、長いブロンドヘアを足もとまで伸ばした小柄な少女である。

 

大きな紺のリボンに銀の王冠、黄色を基調にしたドレスを身に着けた、美羽様と呼ばれたその少女の名前は袁術。

 

彼女の主君である。

 

 

 

「七乃の言う通りなのじゃ!紀霊よ!やはり、妾は袁紹など頼りとーない!お主は以前、あの軍神関羽とも互角にやり合っておったでは

 

ないかえ?お主ほどの腕があれば、張飛など楽勝じゃろ?お主も妾の配下なら、その武で張飛など倒して見せよ!それでそのまま寿春に

 

帰るのじゃ!この前は少し油断したが、恩知らずの孫策など、さっさと追い出してくれるわ!」

 

 

「美羽様!!」

 

 

 

確かに、紀霊は軍神と謳われる関羽と一騎打ちの末引き分けるという戦績を収めたことはあったが、

 

その時はこれ以上長引けば自身が敗けるのは時間の問題と悟った紀霊が休息を申し出、

 

息一つ切らしていない関羽から事実上逃げ帰ったという実情があった。

 

また、孫策を含めた配下の大半が離反している中、今孫策から寿春を取り戻すことは不可能と言って間違いなかった。

 

つまり、袁術は全然事態の深刻さを理解できていないようであった。

 

 

 

「美羽様、勿論おれの手にかかれば張飛ちゃんなんてちょちょいのちょいです。けど、今寿春を孫策の野郎から取り戻すのは難しいです。

 

特に兵と兵糧が圧倒的に足りません。だからといって西に逃げても当てがありません。それだと美羽様が天下を掴むことは難しいですし、

 

下手すれば食糧が尽きて野垂れ死んでしまいます。だから、ここは一度わざと袁紹嬢を頼ったふりをして、袁紹嬢を油断させるんです。

 

それで、こっちの準備が整ったところで、袁紹嬢の領地を一気に奪ってしまえば、再び美羽様の天下が訪れます!どうしても寿春を取り

 

戻したいんなら、それからでも遅くないですよ」

 

 

 

紀霊の今までに見たことないような必死の訴えかけに、

 

普段なら難しい話をされたら途中で聞き流してしまう袁術も、珍しく真剣に耳を傾けている。

 

 

 

「美羽様、聞いてはいけませんよ!ここは一度劉備軍と和議を結ぶんです!劉備さんならもしかしたら命までは―――!」

 

 

「もしかしたらじゃダメなんだよ!!確実に美羽様の御命をお守りできる手段を選ばなくちゃダメなんだよ!!劉備は所詮曹操の手駒に

 

過ぎないだろ!?和議なんかに応じるはずないんだよ!!袁紹嬢は馬鹿だけど、一族に対して誰よりも誇りを持ってる奴だ。たとえ曹操

 

たちと本格的に対立することになろうとも、同族のよしみで必ず匿ってくれるはずだ!!」

 

 

 

そのような二人の言い合いをよそに、うーんと唸りながら目を閉じて何かを考えていた袁術であったが、やがて、

 

 

 

「うーむ、よくわからんが、妾は劉備と和議など結びとーない!紀霊よ!今すぐ部隊をまとめ、張飛軍を蹴散らしてくるがよいのじゃ!

 

七乃!妾たちはその隙に袁紹のところに行くのじゃ!」

 

 

 

袁術は紀霊の意見を採用し、それぞれに命じた。

 

 

 

「御意!!」

「お嬢様!!!」

 

 

 

袁術の決定に張勲は再び諌めようとするが、袁術が一度決めたことを覆すことがないことを張勲は知っているため、

 

何も言うことができなかった。

 

 

 

「七乃、美羽様のこと、ちゃんと頼んだぞ・・・!」

 

「・・・紀霊将軍も、御武運を・・・」

 

 

 

結局、紀霊は本当の意味での別れの言葉を張勲に告げ、張勲も月並みの送り出しの言葉を述べることしかできず、

 

そのまま袁術ら本隊と紀霊の殿軍の二手に分かれたのであった。

 

 

 

 

 

 

「七乃!いつまでフ抜けた顔をしておるのじゃ!妾たちは袁紹の元へ行くといっても、べつに配下になるわけではないのじゃ!いずれ、

 

皆で袁紹を出し抜いて再起を図るのじゃから、最初からそのように景気の悪い顔をしてどうなるのじゃ!」

 

 

 

紀霊と別れて数十分、その後劉備軍の動向を窺うために別行動をとっていた楊弘と合流した袁術たちであったが、

 

紀霊と別れて以来ずっと俯きっぱなしでほとんど言葉を発していない張勲に対して、

 

籠から顔を出した袁術は傍で馬に乗っている張勲を元気づけようと叱咤した。

 

しかし、久しぶりに口を開いたかと思うと、俯いたまま張勲の口から出てきた言葉は、袁術が想像だにしないことであった。

 

 

 

「・・・美羽様、もう皆が揃うことは・・・紀霊が戻ることは二度とありません・・・」

 

「何を戯けたことを言っておるのじゃ!紀霊なら、必ずや妾の元に戻って―――!」

 

「紀霊はもう戻りません・・・なぜなら、張飛と紀霊では力の差は歴然・・・必ず、紀霊は張飛に討ち取られてしまいます・・・」

 

「な・・・んじゃ・・・と・・・?」

 

 

 

当然張勲の言葉を否定しようとした袁術であったが、さらに被せるように放たれた張勲の言葉に、袁術は驚愕の表情と共に言葉を失った。

 

 

 

「わかっていらっしゃるのですか?・・・紀霊は、そのことを知ってなお、美羽様をお助けするために、自らの死を知ってなお、殿を

 

買って出たのですよ・・・?」

 

 

「う、うそじゃ・・・そんなはずは・・・」

 

一言一言噛みしめるようにゆっくりと語られる張勲の見解を、袁術は受け入れることができない。

 

 

 

「美羽様が、あの時紀霊を止めて下さらなかったから・・・紀霊は・・・もう・・・」

 

「い・・・いやじゃ・・・嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!!!七乃!!今すぐ引き返すのじゃ!!」

 

 

 

袁術はここに来てようやく自身が取り返しのつかないことをしてしまったと理解し、すぐに紀霊を助けに戻るよう張勲に命じた。

 

 

 

「もう無理です・・・道中の橋は落としてしまいましたし、立ち止まれば別の追っ手に襲われる危険もあります・・・私は紀霊に美羽様

 

の御命を託されましたから・・・もう後戻りはできません・・・」

 

 

「嫌じゃ嫌じゃ・・・そ、そうじゃ!!七乃、お主、妾をからかっておるのじゃろ!?お主の悪い癖じゃ!!妾がこの前こっそり蜂蜜水

 

を飲んでしまったことをまだ怒っておるのか!?そうなのじゃろ!?」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

袁術は無理に楽観的に考えようとするが、張勲からの返答はなかった。

 

 

 

「な、なら・・・き、紀霊は・・・し、死んで、しまうのかの・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

袁術が一番聞きたくない答えを、しかし張勲は答えようとしない。

 

普段ならこの辺りで「あんな変態さんなんて死んだ方が世のため人のためですよー♪」くらい言ってのけるはずだが、

 

今回のようなだんまりが続くのは初めてのことであり、

 

そのことから、袁術は自身が想像した最悪の事態が現実に起こっているということを悟った。

 

それも、自身の特に深く考えもしないで決定した命令が原因なのである。

 

元々色白である袁術の顔面が一層蒼白になった。瞳から急激に熱いものがこみ上げ、そのまま無抵抗に一筋垂れ流す。

 

そして、戦慄く口元から何とか絞り出した言葉は、我儘極まりない心からの叫びであった。

 

 

 

「ぞ・・・ぞんだど・・・い、いやじゃ!!!いやなのじゃぁ!!!紀霊ぃ!!!ギレイ゛ィ!!!戻っでぐるどじゃァ!!!妾どぼど

 

に゛ィ!!!・・・妾どォ・・・!!!」

 

 

 

しかし、当然袁術がどんなに大きな声で泣き叫ぼうと紀霊に聞こえるはずもなく、

 

また、そのことを袁術自身理解していたため、徐々に声のトーンが落ちていってしまう。

 

そして、大粒の涙をぽろぽろ落としながら、ふと思いついたかのように、ポツリポツリとすがるようにつぶやいた。

 

 

 

「そ、そうじゃ・・・御遣いじゃ・・・管路の占った・・・天の御遣いにお祈りするのじゃ・・・そうしたら・・・きっと紀霊も・・・」

 

「美羽様・・・」

 

 

 

張勲もついに堪えきれなくなったのか、瞳を潤ませ、口元を手で覆いながら袁術から顔を背けた。

 

それほど、今の袁術は張勲にとってとてもではないが見ていられるような状態ではなかった。

 

 

 

「天の御遣い様・・・大好きな蜂蜜も我慢するのじゃ・・・じゃから・・・どうか紀霊を・・・妾の大切な部下を・・・助けてほしいの

 

じゃ・・・」

 

 

 

そして、袁術は手を合わせてうわ言のように天に向かって祈った。

 

その声色は、弱々しくも真剣そのものである。

 

 

 

―――しかし・・・

 

 

 

「へいへい、そこ行く団体さん。そんなに急いで何処へ行こうってんだい?」

 

「へへ、あんなに馬鹿みたいに大声で叫ぶなんて、逃げている自覚っていうのがあるのかねぇ?」

 

「フッ、残念ながらここは通行止めだぞッ!?貴様ら袁術軍は特になッ!」

 

「さぁ、観念して我らが劉備軍躍進の贄となるがいい!」

 

「だが安心しな、すぐには殺さないからな、ククク・・・」

 

 

 

袁術軍の行く手を、数十人程の劉備軍の追っ手と思われる兵士たちが阻んだ。

 

 

 

「くっ、先回りをされていましたか・・・!」

 

 

 

張勲は悔しそうに歯噛みしながらつぶやいた。

 

袁術側の兵の規模も数十人ほどいたが、もはや十分に戦えるほどの余力は残っていない。

 

 

 

「・・・やはり、妾は大切な部下を使い捨てにしてしまったから・・・その報いなのかの・・・」

 

 

 

袁術の瞳は涙でぬれているにもかかわらず、そこには光がみられない。

 

一切の希望を断たれ、年若くして死を悟り、しかし自身の愚行の結果とそれを受け入れようとしていた。

 

 

 

「・・・なんとしても美羽様だけでも・・・楊弘ちゃん!ここは私が少しでも時間を稼ぎますから、楊弘ちゃんは親衛隊の兵士さん達を

 

率いて何としても美羽様を逃がしてください!」

 

 

 

張勲に楊弘と呼ばれたその人物は、滑らかに流れる濃紺のセミロングヘアに濃紺のパンツスーツのような装束に身を包んだ、

 

外見バリバリのキャリアウーマンといった様相の女性である。

 

袁術軍一の切れ者と言われる彼女の凛とした鋭い濃紺の瞳からは、一瞬戸惑った色が見え隠れしたものの、すぐに鋭さを取り戻した。

 

 

 

「だからちゃん付けやめろって・・・それは別に構わんが、いいんかよ?あんたがやってること、あの変態となんも変わらんぜ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

しかし、張勲は楊弘の質問に答えられない。

 

事実を突きつけられたためぐうの音も出ない。

 

それでも、張勲にはこの選択しかもはや主君たる袁術を救う方法が見つからなかった。

 

 

 

「・・・ま、やってやんよ。どんな手を使ってでも美羽様を逃がしてやんよ。そんで、あんたや変態の分まで美羽様をぺろぺろして

 

やっから安心しな」

 

 

 

そのように楊弘はニヒルな笑みを浮かべながら嫌味たらしく張勲に了解の意を告げた。

 

 

 

「・・・頼みましたよ・・・」

 

 

 

しかし、このような楊弘の挑発的ないつも通りの対応が、楊弘が冷静である何よりの証拠であり、張勲を安心させることができた。

 

そして、張勲をその場に残し、楊弘は数名の兵士を引き連れ、袁術の乗る籠を担がせ進路を変更した。

 

 

 

「ま、待つのじゃ楊弘!!七乃を置いていくなど妾が絶対許さぬのじゃ!!!」

 

 

 

しかし、袁術は紀霊に続き張勲までも失おうとしている状況を何としても避けるため、目一杯籠の中で暴れて進行を防いだ。

 

 

 

「え、袁術様!!そのように暴れられては―――!!??」

 

 

 

そして、その小さいながらも精いっぱいの抵抗に屈した兵士たちは、担いでいた籠を落としてしまった。

 

落ちた衝撃で袁術が籠から転げ落ちてくる。

 

 

 

「「美羽様!!!!」」

 

 

 

地に転がった袁術のもとに張勲と楊弘は駆け寄るが、その隙に袁術たちは完全に劉備軍に囲まれてしまった。

 

 

 

「・・・もう良いのじゃ。これ以上大切な部下を失うくらいなら、妾はここで討たれるのじゃ!」

 

 

 

涙でぐちゃぐちゃになった顔ではあったがしかし、その言葉にはもはや迷いはなかった。

 

 

 

「フッ、いい心がけだなッ!だが楽に死ねるとは思うなよッ!取り押さえろッ!」

 

 

 

そして、袁術軍を取り囲んでいた劉備軍が一気に襲いかかってきた。

 

もはや逃げ場はなく、抵抗する術もない。

 

せめてもの悪あがきと、張勲と弘楊は袁術を抱きしめ守ろうとするがこの状況では意味を成さない。

 

万事休す。

 

しかしその時、空が一瞬煌めいたかと思うと何か光るものが地目掛けて飛来してきた。

 

 

 

―――そして・・・

 

 

 

ドカーーーーン!!!

 

 

 

その謎の光る飛来物は袁術軍に襲いかかろうとしていた劉備軍を吹き飛ばしながら轟音と共に地面に墜落した。

 

 

 

「「「「「ギャァアアアアアアア!!!!!?????」」」」」

「「「――――――ッッッ!!??」」」

 

「―――ッててて、まったく、いくら袁術軍再建に紀霊が必須だからって、二回も落とすことないだろあの変態オカママッチョめ・・・」

 

 

 

劉備軍の悲鳴鳴り響く砂塵の中からは、なにやらよく分からない悪態をついている男の声がした。

 

 

 

「っていうか、袁術軍再建なら、せめて橋蕤(きょうずい)たちが討ち取られる前に飛ばせって話だよ。末期すぎるだろ・・・」

 

 

 

劉備軍は謎の飛来物の衝撃によって完全に意識を失ってしまっている。

 

そんな中、謎の男の声は淡々と悪態をつき続ける。

 

 

 

「けど、なんとかギリギリ間に合ったって感じかな・・・」

 

 

 

砂塵が徐々に晴れていくと、何者かの影が確認できた。

 

その手には刀のようなものが、そして片脇に何かを抱えているようである。

 

 

 

「もしや・・・紀霊・・・なのか・・・?」

 

 

 

一体何が起きたのか理解できず呆然としている張勲、楊弘をよそに、袁術はそのような有り得ない希望をふと口にしていた。

 

 

 

「恋たちは助けた・・・流琉も助けた・・・雪蓮も助けた・・・白蓮も助けた・・・董卓たちはこれから・・・張角たちもこれから・・・

 

袁紹たちもこれから・・・」

 

 

 

しかし、謎の男の声は袁術の問いかけに答えることなく、再び意味不明なことを呟いている。

 

 

 

「そして今回は、袁術、君だ・・・!」

 

 

 

ようやく砂塵が晴れ、袁術たちの目の前に姿を現したのは、紀霊、ではなく、

 

白い衣に身をまとった、この時代に似つかわしくない風変わりの男であった。

 

その片手には直刀、もう片方の腕には目を回している紀霊が抱えられていた。

 

そして、袁術をまっすぐ見据えたその男は高らかに宣言した。

 

 

 

「オレの名前は北郷一刀、天の御遣いだ!袁術、君を助けに来た!!」

 

 

 

乱世を治世へと導く英雄、天の御遣い・北郷一刀の五度目の伝説が、今、幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

side袁術軍の第零回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

さて、side呂布軍をお読みになった方はお気づきかと思いますが、

 

この第零回の構成は、呂布軍の始まり方と非常に似ております。(というかほぼ同じ、、、汗)

 

ですが別にこれは考えるのをさぼったとかそういうことではなく、

 

一刀君のセリフにもありますように、このお話はside呂布軍のその後のお話になりまして、

 

ループを意識して敢えて似たような構成にしたんですよ!ほ、本当ですよ!

 

 

では、一応オリキャラについてネタバレしない程度に軽くご紹介をば、、、

 

 

紀霊:キレイ。袁術軍随一の忠臣にして袁術軍一の猛将の青年。普段着と化している黄金色の鎧を身に着け、黒髪のツンツン頭は天然ものであり、常に眠たそうな表情をしている。得物は巨大な三尖刀。幼女をこよなく愛するが、中でも美羽ちゃんに対する愛情は七乃さん

とタメを張れるくらい異常なもの。そのためお互いよく美羽ちゃんを巡って何かと争うことがあるが、同時にお互いのことを認めてもいる。本作のメインキャラの一人。

 

楊弘:ヨウコウ。袁術軍随一の忠臣にして袁術軍一の切れ者。文官。凛とした鋭い濃紺の瞳に、滑らかに流れる濃紺のセミロングヘア、濃紺のパンツスーツのような装束に身を包んだ、見た目バリバリのキャリアウーマン風の女性。年齢は二十代前半ぐらいかも。口調はやや荒っぽい男性的なもの。よく他人に対して嫌味たらしい物言いをするが、それが通常運転の為特に気にする必要はない。七乃さん、紀霊くん同様美羽ちゃんに異常なまでの愛情を持っている。本作のメインキャラの一人。

 

 

ということで、本作の袁術軍は、武が紀霊くん、知が楊弘さん担当といった感じで、

 

七乃さんは原作と恋姫を合わせて一応文武両道な感じかな~と考えてたりします。

 

あ、勿論美羽ちゃんは一切設定に手は加えませんのでご安心ください 笑

 

ちなみに一刀君は五回目の恋姫世界ということで、色々チートキャラな予感です、、、

 

少なくとも鈴々から紀霊くんを奪取できるだけの能力は有しているっぽいですし、、、

 

もちろん一刀君何歳?とかいうツッコミはなしでお願いしますね。次元が違うので多分時間の流れも違うのです。

 

 

それでは最後に本作の投稿ペースについて、

 

side呂布軍との同時投稿になるのですが、やはりメインは呂布の方なので、

 

こちらの袁術の方は月一投稿を予定しております。

 

呂布の方もかなりのスローペースなのにこちらはそれ以上のだらだらスローペースになってしまいますが、

 

どうかside呂布軍と併せてこちらもどうぞよろしくお願いします。

 

 

それでは次回は五月一日の投稿になるかと思います。

 

また次回お会いしましょう!

 

 

 

さぁ、一刀君が加わったことで袁術軍が選択した次なる行動とは、、、!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北郷「―――って誰だよこのいかにもできますって感じの御遣いはぁあああっっっ!!!!!」

 

 

 

北郷の寝ぼけた叫びが早朝の成都城内に響き渡った。

 

ここは益州成都城にある北郷の寝室である。

 

 

 

北郷「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ゅ、夢か・・・」

 

 

 

もう春がやってきたとはいえまだまだ成都の朝は肌寒いと言った気温であるにもかかわらず、北郷は全身汗びっしょりになっていた。

 

北郷は寝台の上でキョロキョロ周りを見回し、今見た光景が全て夢であったと自覚すると、ふぅと一息ついた。

 

 

 

北郷「まったく、ご丁寧にあとがきまでついてるとかどんだけだよ。っていうか二役同時進行とか、殺す気かっていう話だよな」

 

 

 

そのような訳の分からないことを呟きながら窓際に歩いて行き、朝日を見上げ陽光で寝ぼけた頭を強制的に叩き起こした。

 

 

 

北郷「うーーーん、あ、そういえば、今日は元いた世界だとエイプリルフールだな・・・」

 

 

 

大きく伸びをしながら体を覚醒状態に持っていった北郷は、ふと、そのようなことを思いだした。

 

 

 

北郷「・・・手始めに、ねねに惚れ薬を飲んじゃったとか言って迫ってみるかな」

 

 

 

一級フラグ建築士の名に恥じない、新年度早々自ら危険なフラグを立ち上げる北郷なのであった。

 

 

 

【真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 特別編 えいぷりるふ~る 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

 

はい、という訳でここからが本当のあとがきです。

 

一度はやってみたかったエイプリルフール企画、いかがだったでしょうか?

 

おいおいまさかこんなアホな企画考えてたせいで一か月も投稿サボってたんじゃないだろうな?

 

と思われるかもしれませんが、この企画は虎牢関編辺りですでに完成していたので(そんなに前から何考えてんだか、、、)

 

3月は本当に第三章ずっと考えてましたから。そのおかげで何とか間に合いそうです。

 

とはいえ、このside袁術軍は実は恋姫のss投稿をしようと思い立ったときの候補の一つだったりしました。

 

最終的にはねねが美羽ちゃんに勝ったということで呂布軍メインの話になりましたが、

 

美羽ちゃんメインの話も今考えると先が見えないという意味で面白そうではありますね。

 

一刀君が平行世界を巡って多くの恋姫を救うという設定も、次回作を考える上で利用できそうですしね。

 

 

それでは最後になりましたが、一言言わせていただきたく・・・

 

 

 

祝   ・   1   ・   周   ・   年   !   !   !

 

 

 

そうなんです!去年の3月から投稿を開始しました御遣い伝説も1周年を迎えることができました!

 

最初は3日坊主ならぬ3回坊主にならないかと心配でしたが、無事1年間ゆっくり投稿できました。

 

しかもだいたい数十人くらいかなぁとか思っていた閲覧者数も気づけば1000人規模の方々に閲覧いただき、

 

更に200人を超える方々にお気に入り登録していただき、改めて恋姫というビッグネームの持つ力を実感しました次第です。

 

今後も、特に4月からは環境の変化から一層のスローペースになることが予想されますが、

 

どうぞのんびり気楽に楽しんでいただければと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 

 

それではまた次回からは通常通りside呂布軍を投稿しますのでもしお時間あればお読みいただければと思います。

 

(恐らく第1か第2日曜の0:00になるかと思います)

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

次は祝2周年!を目標に頑張りますので、今年度も宜しくです!

 


 
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