No.674719

しあわせを夢見て

くれはさん

如月SS。
……睦月と提督が結婚して、少しの時間が経って。――鎮守府は、ホワイトデーを迎えようとしていた。
結婚後も相変わらず仕事に勤しむ睦月達二人に、如月達は「お休み」をあげようと計画を立てる
――そんなお話。睦月結婚もの第3話。

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2014-03-30 01:02:05 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1247   閲覧ユーザー数:1225

「――もう、司令官も好きなんだから……♪」

「何がよ、なにが……。お菓子の感想言っただけでその反応はおかしいでしょ?

 このえろっ子。……や、美味しいけど。うん」

 

 

 

――そう言いながら、『司令官』はまた一つ、クッキーを手に取る。

ちょっとだけビターめの、チョコチップクッキー。

 

 

「うー、出来が良すぎて近付ける気がしないわ…」

「弱音はダメよ、司令官?『これ』をちゃあんと出来るようにして、

 睦月ちゃんの所に持って行ってもらわなくちゃ……ね♪」

「うぅぅ……義妹が厳しいよぅ……睦月ぃ……」

 

 

ここは、リンガ泊地、鎮守府。

海より来る異形の存在、『深海棲艦』に対抗するべく作られた前線基地。

……けれど、今は。

間近に控えたとある『出来事』の事もあって、女の子たちのかしましい声があちこちで響く場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――Hmmm……これは由々しき事態デス……このままではNo goodデス……」

 

 

――とある日の、お昼時。

私は食堂で、お昼御飯のカレーライスを手に。今日は誰と食べようかしら、なんていう風に考えていた。

 

お昼の時間は、お話の時間。

席を並べて、今日あった事、昨日の事、いろんな事を楽しくお喋りする時間。

もちろん、戦闘の事も……女の子が気になる、お肌や服の事も、ね?

 

 

そうして、私が席を探している時。ふと、そんなことを呟いている金剛ちゃんの姿が目に入った。

……金剛ちゃん、なんだか変な顔してるわね。金剛ちゃんにしては、あんな表情は珍しい気がするかも。

と、そんな風にそう思って。

 

 

「こんにちは、金剛ちゃん。お昼、ご一緒してもいいかしら?」

「Oh,如月ネ?勿論No Problemネー!」

 

 

今日は、金剛ちゃんと一緒にお昼にすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、金剛ちゃん?さっきは何を悩んでたのかしら。

 考えすぎてストレスになると、お肌に悪いわよ?」

 

……食事が始まってから、しばらくは他愛のない話を彼女として。

カレーライスの量が残り少なくなった頃、私は金剛ちゃんにそう切り出した。

やっぱり、私は彼女のあの表情が気になったんだもの。

 

……すると。

金剛ちゃんは、見られていた、という感じの、ちょっとだけばつの悪そうな表情を浮かべた後。

少し考えてから、ゆっくり口を開いた。

 

「Hmmm……如月、実は私、今すごーく悩んでいるのデス……」

 

……やっぱり、珍しい、と思う。金剛ちゃんが、ここまで深く考え込んでいるのは。

普段の彼女は、明るくて、自信に溢れている人だから。

 

「御悩み事なら……私でいいなら、聞くわよ?勿論、恋の悩みでも大丈夫♪」

 

……とは言っても。『ここ』での恋の悩みとなれば、女性同士の恋、という話に十中八九なるのだけど。

だってこの鎮守府は、司令官まで含めて女の子しかいないんだもの。

 

私がそう言うと、金剛ちゃんは。

 

「如月に相談……Hm,成程、そういう事なら……如月に是非とも、相談したいことがあるのデス…!」

 

 

 

 

 

 

 

「――提督と!睦月が!結婚してからまだ一度も一緒にデートしていないのデス!

 これは……これは由々しき事態デース!」

 

 

 

 

 

 

……。

 

…………。

 

……………………ええと、ちょっと予想外の言葉だったわね。

 

 

 

「金剛ちゃん、司令官も睦月ちゃんも、お仕事が忙しいのよ……だから、それはちょっと仕方ないかなあ、って」

「No!Noデース!提督と睦月はこの間Weddingした新婚夫婦!つまり今が一番熱い時期なのデース!

 それなのに仕事で一緒にいる時間が少ないのはNo,Good!良くないデス!二人はもっと、夫婦の時間を大切にするべきネ!」

 

金剛ちゃんが声を張り上げ、叫ぶ。

……どうやら、彼女にとっては大事な事みたい。司令官と、睦月ちゃんの事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2月14日、バレンタインデー。

私達の生活するここ、リンガ泊地の鎮守府で。一つ、大きな出来事があった。

……それは、私達を指揮する司令官と――睦月ちゃんの、結婚。

 

司令官は、女の子。

睦月ちゃんも女の子。だから、2人揃って純白のドレスを着て。

そうして、結婚式を挙げたのよね。

 

 

それから、しばらくの間。私達の間では、2人の結婚の事が話題になっていた。

結婚は、女の子の憧れ。その憧れの花嫁姿を間近で見たからか、

その後の鎮守府はちょっとふわふわした感じになっていて。

……バレンタインデーの前より、今の方がちょっと、空気が熱を帯びてる、かも?

 

 

雪の降る、長い冬を終えて。今はまだ、3月に入ったばかり。

司令官と睦月ちゃんが結婚して、大体2週間くらい。

けれど――

 

 

「提督も睦月も、どうしてあんなに働きっ放しでLoveを育む時間がないのに文句がないんデスかー!」

 

 

……そう。

司令官も睦月ちゃんも、今のところ、『2人揃っての休日』っていうものがないのよね。

 

 

かたや、鎮守府をあずかる最高責任者。

 

かたや、鎮守府のエースで参謀役。そして、司令官のお嫁さんで一番の理解者。

 

 

2人ともお仕事に、出撃にと忙しくって。なかなか、長い時間を二人きりで過ごす、というのは難しいみたい。

……ただ、それを金剛ちゃんが懸念してるっていうのは――ちょっと、意外かしら?

そう思いながら、金剛ちゃんの顔を見て。…………ああ、なるほど、と思い至る。

私は司令官達の近くにいる事が多いから、二人も結構満足してるのがわかってるけど。

ちょっと離れたところからだと、『足りてない』様に思えちゃうのね。

 

私の基準で考えたら駄目ね、と。そう思いながら。

私は、金剛ちゃんに聞いてみる。……そういう話なら、協力するのも悪くないかも、と。

……そう、思っていたら。

 

「……もう、そうだよね!提督も睦月ちゃんも、それじゃだめだよね!」

「二人とも、少しはお休みしてもいいと思うのですけど……」

 

と、横から声が割って入る。瑞鳳ちゃんと祥鳳ちゃんの姉妹だ。更に、

 

「金剛さんの気持ち、ちょっと分かる、かも……。『お嫁さん』って、女の子の憧れですから」

「あらあらぁ?羽黒ちゃんも、乙女ねえ♪……もしかして、ウェディングドレス着てみたい?」

「えっ……あの、その」

「ウェディングドレス……ですか。榛名は、白無垢の方が似合うかも。洋装は、あまり」

「榛名!?白無垢って誰と結婚するつもりネー!?」

「い、妹にいつの間にか恋で負けてた…っ!?どどどどうしましょうお姉さま!?」

「えっ……!?い、いえ!榛名は!まだ!まだですから!まだお嫁さんなんて早いです!」

「……ねえ響。暁が一人前のレディになって、一人前のお嫁さんになれる日は何時になるのかしら」

「暁、気にしないでいいよ。その日はちゃんと来るんだから。睦月も結婚しただろう?」

「響ちゃん、睦月ちゃんはちょっと特別だと思うのです……。司令官さんの一目惚れですし」

 

私と金剛ちゃんの話を聞いていたのか、みんながいつの間にか集まってきていた。

……みんな、睦月ちゃん達の事、気になっていたのね。妹としては、ちょっとうれしいかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって、私と金剛ちゃんの話し合いはいつの間にか大人数になっていって。

 

私達で、睦月ちゃん達にお休みを作ろう、という話になったの。

目安は――結婚式から一か月後の、ホワイトデー。

……結婚からの一か月記念日としては、ちょうどいいかしら♪

 

 

 

***

***

 

 

 

「――と、いうことで。睦月ちゃんと司令官には、3月14日はお休みをしてもらいます♪」

「……ぉよ?」

「……はい?」

 

鎮守府、執務室。

みんなでまとめた「2人のお休み計画」を、私はお仕事中の二人に伝えに来た……のだけど。

あら、二人とも固まっちゃった。

 

……少し、間をおいて。司令官が口を開く。

その表情は、少し戸惑った感じで。

 

「えーと……私達の、お休み?」

「ええ、そうよ?」

 

いきなりの提案に、戸惑いを隠せない司令官。それに対して、私は落ち着いて答えた。

 

「……あー、いや。私、提督なんだけど。お休みしたら不味くない?指示とか艦隊運用とか」

「それに関しては、この私……如月が、司令官の代理を務めさせていただきますわ。

 勿論不勉強なのは十分承知です。なので事前に司令官の仕事をしっかり教えてもらってから、ね?

 それに、補助として瑞鳳ちゃん、金剛ちゃん、あと、他の子達にも手伝ってもらうつもりです」

「……もし、私がその話を断ったら?」

「その時は、みんなで一日ストライキの予定です。

 司令官がお仕事をしようとしても……『緊急時以外は』出撃も遠征も、な・し♪」

「私、今の状態でも結構満足なんだけど……」

「んもぅ、司令官じゃなくて、『みんな』がダメなの、よ?

 それに……『結構』っていうことは、司令官も不満、あるのよねぇ?睦月ちゃんと触れ足りない、って思ってない?」

「……うぐ」

 

ふふ、みんなと話し合って、結構きっちり詰めてきたもの。

さあて、司令官はどうするのかしら?

 

 

そして、睦月ちゃんは。

 

「そ、その……睦月と提督がデートって……で、でもお仕事あるんだよ、如月ちゃん!

 それに、睦月は他のみんなと同じように、時々お休み貰ってるし……」

 

そわそわ、そわそわと。ちょっと落ち着かない様子を見せながら、言葉を作る。

……もう、睦月ちゃんも真面目なんだから。

 

「ね、睦月ちゃん。司令官がお仕事忙しいから、『司令官と一緒のお休み』はなかったでしょう?

 今は司令官と睦月ちゃん……あと私も、で、一緒に過ごす時間は増えたけど。

 睦月ちゃんは、司令官のお嫁さんなんだもの。もうちょっと、一緒にいる時間が増えてもいいと思うわ?……それに」

「そ、それに?」

「最近の睦月ちゃんは『褒められるだけ』で満足、出来るのかしら♪」

「に、にゃ……っ」

 

あらら、睦月ちゃん顔真っ赤。

ふふ、睦月ちゃんの事はよーく分かるのよ?……さて、これで睦月ちゃんは大丈夫かしら、ね?

 

あとは、と。司令官の方へ、私は向き直る。睦月ちゃんの方へちらりと目線をうつして、どうかしら?と。

 

 

 

 

 

 

 

……司令官は、少しの間渋い顔をして。

そわそわとする睦月ちゃんの顔を見てから、

 

「…………あー、わかった!わかったわよ!睦月と一緒に休めばいいんでしょ!」

「ふふっ……♪了解して頂けて、嬉しいですわ♪」

 

はああ、と深い溜め息を吐いてから。

司令官は、了解してくれた。……ふふっ、大成功かしら♪

 

「い、いいの……提督?睦月と新婚さんデート……」

「もう、ここまでお膳立てされたら仕方ないじゃない……。私と睦月の事を思って、っていうのもあるし。

 ……ただ、条件は付けるからね!仕事を教えてて、如月が司令官代行をするのが難しそうならお休みは中止!

 あと、緊急の時はお休み中でも仕事に戻るからね!」

「ええ、勿論。それじゃ、みんなに伝えてくるわね?司令官と睦月ちゃんに了解してもらえた、って――」

 

そう言って、執務室を出ようとしたとき。

 

 

 

 

 

「あ、如月ちょっと待って」

 

 

 

 

 

司令官に、私に声を掛けてきた。……何かしら?

立ち止まり、振り返って。私は司令官の話を聞こうとする。

 

……けれど。

 

 

 

「ねえ、如月。その……うー……………………あ!そうだ!

 ねえ睦月、睦月がみんなに言ってきてくれないかな!

 その方が、みんなも私達がほんとに了解したって思ってくれるし、ね!!」

「おょ?うん、いいよ?」

 

……司令官は、そのまま話を続けず。どうしてか、睦月ちゃんに私の代わりの伝達を頼んでいた。

なんだか……不自然、よね?

 

司令官は、普段はいつも、すっぱりと物を言う方で。

こんなに、歯切れの悪さを見せる事はあまりない。あるとしたら、大体は――あ。

 

 

そう、考え込んでいた間に。ばたり、と執務室の扉が閉じ、睦月ちゃんの足音が遠ざかっていく。

これから、睦月ちゃんはみんなの所へ向かうのだろう。――そして、今は執務室のなかには、私と司令官の二人きり。

私の目の前にいる司令官は、少し目をそらしたりして、落ち着かない。……ふうん?

 

「御用かしら、司令官?御用なら、いつでも大丈夫ですわ。

 それとも、さっき言い淀んでいたこと――もしかして、睦月ちゃんの事、かしら?」

「う」

 

ふふ、と微笑みを浮かべて、私は推測を口にする。……どうやら、当たりみたい、かしら?

司令官は、睦月ちゃんの事となると、いつもこうなのよね。ちょっと臆病になっちゃう、というか。

司令官は、右手で頭を抱えながら、

 

「――あー、やっぱり如月にはわかっちゃうか。どうにも見抜かれちゃうんだよねー……」

「司令官、睦月ちゃんの事で悩んでる時はいつもそうなんですもの。

 ……もうちょっと、強気になってもいいと思うわ?」

「そう、なれたらいいんだけどねー……。いろいろ難しいのよ。

 ま、いいわ。それで如月、ちょっと相談なんだけどね――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お菓子の作り方、教えてくれないかなっ!お願い!」

 

 

 

***

***

 

 

――お菓子の作り方、教えてくれないかなっ!お願い!

 

 

睦月ちゃんと司令官に、お休みの話をした、あの日。

司令官は、まじめな顔で……そう、私に相談してきた。話を聞いてみたら、

睦月ちゃんに、バレンタインと結婚のお返しをしたくてお菓子を作りたい、という事だった……のだけど。

 

今の司令官がどれくらいの腕なのか、見せてもらってもいいかしら?

って言って、翌日に執務室の準備室に備え付けてある簡易調理場で、お菓子を作ってもらったんだけど。

 

 

――ど、努力はしてるのよ、努力は。うん。

  美味しくならなかったけど。……というか、美味しくないよね、私のお菓子。

 

 

入れたら、きっともっと美味しくなるはずだ、って。

そう思っていろんなものを入れて、甘味と酸味のバランスが取れなくなったケーキ、とか。

隠し味のつもりが逆効果になっちゃった、なんだか味に違和感のあるクッキーとか。

 

 

司令官、ふつうのお料理は作れるから、惜しいところまではいってるんだけど……。

んもう、張り切り過ぎて失敗する女の子のいい例じゃない。慣れてないものなのに、凝ろうとする、なんて。

……いえ、ふつうのお料理が作れるから、なのかしら?

 

 

そんな風にして。

私は司令官に、お仕事を教えてもらって。

司令官は私に、お菓子作りのやり方を教えてもらう、っていうことになったの。

……ただし、睦月ちゃんには内緒で。ホワイトデーまでに腕を上げて、渡したいんですって。

 

 

そうして、私のお勉強と、司令官のお菓子作りの特訓が続いて。

今に至る、のよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ん、ご馳走様。やっぱり美味しい。如月は料理もお菓子作りも上手で、羨ましいよね……。

 服も化粧もしっかりしてるし、私よりずっと女の子らしいや」

 

そう言いながら。

司令官は、私が『お手本』として作ってきたチョコチップクッキーの、最後の一枚を食べ終わる。

クッキーを美味しいって、そう言ってもらえて。少しだけ、嬉しくなる。

甘いだけじゃなくて、ちょっとだけビターな……司令官好みの味。そうした甲斐はあったかしら、って。ふふっ♪

 

……あら、いけない。もっと厳しく司令官に教えなくちゃ。喜ぶのはいいけど、それを忘れちゃだめだもの。

そう思って、ちょっとだけ怒った顔を作ってみる。

 

「し・れ・い・か・ん?これを出来るようになってもらわなきゃ、ダメなのよ?」

「……はい。お菓子作りって意外と地味な作業なのよねー……。うー、もうちょっと派手にやりたい……」

「もう、まだ凝ろうとしてるわよ?お菓子作りは、まずレシピと手順を守ることから。

 自分流の『アレンジ』は、そ・の・あ・と。いい?」

「うぅ、やっぱり厳しいよー……。いつか如月を唸らせるようなの作ってやるー……」

 

その言葉に。私はふふ、と笑って。

 

「あらあら、司令官に嬉しいこと言われちゃった…♪

 でも、これはあくまで睦月ちゃんの為の物なんだから、ね?――睦月ちゃんが一番よ?」

 

 

 

 

***

***

 

 

 

 

 

――そして、ホワイトデー当日。

 

 

「それじゃ行ってくるね、如月ちゃん!」

「いい?危なかったら府内全域で緊急放送流すのよ?いいわね?」

「はいはい。司令官は心配性なんだから……何かあった時はちゃぁんと頼るから、安心して?」

 

 

 

「「――行ってきます!」」

 

 

 

行ってらっしゃい、と。鎮守府の本部施設の玄関から、普段とは違う、私服の装いの二人を見送る。

そして、二人がだいぶ離れたことを確認してから、踵を返して、建物へと向かう。

 

これから、睦月ちゃん達はどんなデートをするのかしら、ね?

この鎮守府には、司令官が私達のために軍部に掛け合って作ってくれた広場や、

アクセサリショップ、ブティック、他にもいろんなお店があるけど……そこに行くのかしら?

それとも全く別の場所で、二人きりで過ごすのかしら。

 

 

なんて、歩きながら考えていたら。

 

「如月ー、早くするネ!」

「まずは今日の出撃についての会議、しなきゃ!ほら、如月ちゃん急いで!」

 

建物の傍で待っていた金剛ちゃんと瑞鳳ちゃんが、私に声を掛けてくる。

……ええ、そう。今日の私は、司令官代行、ですものね?みんなを待たせちゃいけないもの。

 

それじゃあ……二人の休日のための、大切なお仕事。始めましょう♪

 

 

 

 

***

 

 

 

 

――会議を終えて。みんなが出撃していって。

少しだけ、鎮守府が静かになる。

 

そんな中、私は金剛ちゃんと瑞鳳ちゃん……それに、弥生ちゃんと卯月ちゃんに手伝ってもらって、仕事をする。

仕事の中身は、探索を終えた海域の最近の状況の報告を見たり、この後の遠征の計画を立てたり。

 

そんな、お仕事の中。

 

 

「提督と睦月さん、ブティックにいらっしゃってましたわよ?お二人とも楽しそうでしたわ。

 でも、提督はちょっとエスコートが甘いところがあると思いますの。もっとこう――」

「くーまーのん?そんなこと言って、あんな風にイチャイチャしてる二人が羨ましいだけなんでしょ?」

「な――」

「ほれほれ、もっと素直になりなよー?好きな人とイチャイチャ、したいんでしょー?

 ……ま、好きな人が出来るまではあたしが代わりに付き合ってあげるから、さ!」

「鈴谷は……調子に、乗りすぎですわ。……でも、その提案。乗ってあげても宜しくてよ?」

「お、意外ぃ」

 

 

「アクセサリ屋さんに、提督と睦月ちゃん、来てたわよ?」

「二人とも、真剣な表情でじっとアクセサリを見てて……いいですよね、きっとお互いへのプレゼントですよ!」

「あら、……五月雨ちゃんも、もしかしてアクセサリ欲しい?」

「え!?いえ、私は、ちょっとだけ羨ましいなって思って……もう、夕張さんてば!」

 

 

なんていう風に、今日はお休みの子達が睦月ちゃん達の様子を話しに来てくれたり。

それにしても、睦月ちゃん達、いろんなところを回ってるのね?楽しんでくれてると、嬉しいわ。

……あら?そういえば、そのお店。

 

 

――もう、女の子ばっかりなんだからその辺配慮してよ!戦いだけしてろとか馬鹿じゃないの?

  具体的には服屋とか!化粧品とか小物とか!あと本とか!談話室とか!?

  戦果きっちり挙げてるよね?なら、それくらいはしてくれてもいいんじゃない?

 

 

そんなふうに言って、司令官は上層部に掛け合って。

私達のために、鎮守府に少しずつ手を入れていってくれたものなのよね。

……でも、私達じゃなくて自分が行くことになるとは、思ってなかったんじゃないかしら、ね♪

 

 

 

 

***

***

 

 

 

――そして、仕事をしながら時間は流れていって。

 

 

 

 

 

執務室の窓から、茜色の光のが差し込む。――もう、夕方。

金剛ちゃん達には休憩に行ってもらって……今は、執務室で私一人で仕事をしていた。

 

「……ふぅ。司令官のお仕事って、大変なのね」

 

溜め息を、一つ。一日中お仕事をしている、というのは思ったより大変ね……。

と、思ったとき。その私の言葉に応える様に、執務室の扉が開き――

 

 

 

「――調子はどうかな、如月」

 

 

「思ったより大変、かしら。……司令官と睦月ちゃんは、いつもこんな事をしてるのね。

 それで……ご用事は何かしら、響ちゃん?」

 

 

きぃ、と開いた扉の向こう。そこから現れたのは……響ちゃんだった。

執務室に入ってきた響ちゃんの銀の髪に、茜が射しきらきらと光る。彼女は、その陽の当たる部分を軽く撫でながら。

 

「なに、司令官がやっと休みを取ってくれたのが嬉しくてね。それを話しに来たという訳さ。

 彼女はいつも、頑張っているから」

 

ふ、と響ちゃんが少しだけ笑う。……少しだけ、遠い目で。

その言葉に、他にも話したい事がある――と、そう察して。相槌を打つように、私も話を続ける。

 

「……ええ、本当に。今まで全然休んだことがないんですもの。

 ちょっとくらいは私達に任せてくれてもいいのに……」

「任せられない……いや、任せたくないんだよ、司令官は。

 彼女は、ただ必死に自分の力で皆を守ろうと――自分が、守るんだと。そう思っているから」

 

あの時みたいに、ね――と。響ちゃんは、そう言った。

 

 

 

 

 

 

――あの時。

 

南西諸島海域の、未探索の領域に進んで。

私達と……そして、いつもの様に一緒に来て指揮をとっていた司令官は、深海棲艦に襲われ、危機に陥った。

 

私達の持つ弾薬は残り少なく、受けたダメージも大きい。

それに対して、向こう――重巡級の深海棲艦は、ほぼ無傷で。絶体絶命の状況だった。

 

 

……そんな時。

 

 

 

 

――ここは、私が足止めする。……陸仕込みの技術じゃ、さすがに水上戦闘には向かないけど。

  勝つのは無理でも、囮くらいは出来るでしょ。だから、みんなは鎮守府まで戻って。

 

 

 

 

司令官は、そう言って。

足に履いた、私達についてくる為の疑似艤装を唸らせ――私達と、重巡級の間に立った。

手には、私達の様な砲――じゃなくて、長い棒……棍や、槍のようなものを持って。

 

 

私は、司令官を止めようとした。

……戦うのは、私達の役目で。それなのに、司令官が私達のために戦うなんて――って。

そう言おうとしたら――。

 

 

 

 

――わかった。睦月達は、撤退すればいい……ん、だよね。

  みんなは、睦月が守る、から。だから、無理しないで……っ、ねっ。

 

 

 

 

私の言葉を、遮って。

睦月ちゃんが、司令官の言葉に頷いた。……震えて、今にも泣きそうな声で。

 

意外だ、と、その時は思ったのよね。

だって、睦月ちゃんと司令官はすごく仲が良くて。こんな時に、離れようとするなんて思わなかったから。

 

 

 

 

――で、でも!絶対!絶対だよ!絶対、帰ってきてね!

  ぷ、プロポーズ……っ、睦月、まだお返事してないんだから……っ!

 

 

 

 

……震えながら言った、睦月ちゃんのその言葉に。司令官は、重巡級を睨んだまま。

 

 

 

 

――当たり前、でしょ!まったく、睦月は心配性なんだから!

  『好きな子を死んで守る』、なんて冗談じゃないもの!私にはかわいい睦月がいるんだから!

 

 

 

 

微かに笑って、そう答えた。

そして、司令官は重巡級に向かって水上機動用の疑似艤装で駆け――、

 

 

――司令官一人じゃ、帰ってこれるかどうかは分からないからね。私も行くよ。

 

 

そう言って、響ちゃんが司令官に着いて行き。

私達は、司令官達を信じて……鎮守府へと、撤退した――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして、そのあと。

私達は――私達も、司令官達も。鎮守府に帰り着く事が出来たのよね。

みんな、少なからず傷は負っていたけれど……けれど、誰も失わなくて済んだ。

 

「殿を務める、というのも、皆を守れるなら悪くない――と。そう言ったら、司令官に怒られたんだ、あの時は。

 何言ってるの、あんたも帰るんだから――とね」

「ええ、響ちゃんはそう言ってたわね。懐かしいわ……」

 

響ちゃんの言葉に、私はあの時の「後」の事を思い出す。……あの時、響ちゃんが司令官と一緒に帰ってきたとき。

それまで、司令官のいない鎮守府で気を張っていた睦月ちゃんは、泣き出しちゃったのよね。

直前まで……司令官が帰って来るまで、睦月がここを守らなくちゃ――なんて、言ってたのに。

 

 

 

 

 

……そんな風に、昔の事を思い出していたら。

 

「ねえ、如月。私達の司令官は、昔に比べてずっと頼もしくなった……と、そう思うんだ、私は。

 みんなを守る、というその言葉も、昔よりもずっと力強く聞こえる。だけどね」

 

そこで、一旦言葉を切って。響ちゃんは、真っ直ぐ私の方を向く。

 

「……司令官は、もう少し私達を頼ってくれてもいいんだ。『私達みんなで守ればいい』と、

 司令官はそう言ってくれるけど……やっぱりまだ、睦月以外にはすべてを預けてはくれないんだ。

 だから、如月――」

 

 

 

「――私達も強くなっているんだと、今日の『休日』で司令官が認めてくれたら嬉しい。そんな風に、思っているんだ」

 

 

 

ふ、と笑った後。

恥ずかしい事を言ってしまったな……と、言って。響ちゃんは、目深に帽子を被り、つばを下げる。

 

鎮守府に、人が増えてから。司令官が前線へ出る事は少なくなった。

私達だけだったころとは違って、今は沢山の子達がいる。

だから、司令官はみんなを守るために……そして、みんなを不自由なく生活できるようにするために。

複数艦隊での遠征での資源確保や、武装開発の強化とかの、後方支援も多く行うようになった。

 

……けれど。

それでも司令官は、新しい海域の探索を行うときは、一緒に来てくれるのよね。

その場所を知らなきゃ、安全に往く方法を確保してからじゃなきゃ、

私はみんなを安心して送り出せないから……って、そう言って。

 

 

……顔を隠した響ちゃんに、

 

「笑わないから、大丈夫よ?私だって、そう思っているもの」

 

そう、私は返す。……本当に、司令官はもう少し位、私達に責任を預けてくれてもいいのに、ね?

私の言葉を聞いてから、響ちゃんは帽子のつばから手を離し、再び被り直す。

 

 

「Спасибо.そう言われて、悪い気はしないな。……ああ、そういえば」

 

帽子を目深に被ろうとして、私から離した視線。

それを再び私に合わせてから――響ちゃんは、言った。

 

「睦月や司令官だけじゃなくて……如月も、あの頃くらいから少し変わった気がするよ。

 司令官を誘惑するような言動は変わっていないけれど――こう。そうだね。

 張り詰めた様な感じが、なくなったような気がするね」

「あら、響ちゃんにそう言われるとは思ってなかったかしら?……でも、そうね――」

 

唇に、指を当てて。

私は内緒話をするように――小さな声で、響ちゃんに答える。

 

 

 

「――どんな時も、相手の事を大切に思っていて。みんなも大切にしてくれて。

 そんな、格好良くて可愛い、ずっとそばに居たいって思える素敵な人を……2人も見つけちゃったから、かしら♪」

 

 

そばに居るために――じゃ、なくて。そばに、居たいから。

あの出来事の後、私はそう思えるようになった……のかも、しれないわね。

 

 

睦月ちゃんと司令官に抱いている、私のこの気持ちは。

もしかしたら、恋心の様なものなのかも、ね?

 

 

***

***

 

――響ちゃんが帰って。

それから、休憩を終えて帰ってきた金剛ちゃん達とお仕事をして――お仕事が、終わって。

 

 

「睦月ちゃん達は、素敵なデート、出来たのかしらね?」

 

 

……そう、私は一人きりの執務室でつぶやく。もう日は沈んで、窓の外には星が輝いていた。

今日の分のお仕事は、もう終わり。出撃や遠征に行ったみんなも帰ってきて、鎮守府は朝と同じ賑わいを取り戻していた。

金剛ちゃん達が、お仕事が終わって帰った今――あとは、睦月ちゃんと司令官を待つだけ。

 

睦月ちゃんと司令官は、今日はどんなデートをしたのか。

それを聞くのが楽しみで……そして、それを嬉しそうに話すだろう二人の顔を見るのも、楽しみ。

 

……と、そんなことを思っていたら。

 

「ただいまなのです、如月ちゃん!」

「ただいま、如月。……緊急事態はなかったみたいね?ふふ、ありがと」

 

きぃ、と執務室の扉を開けて……睦月ちゃん達が帰ってきた。

私の予想通りの、嬉しそうな顔で……ふふっ♪

 

「ええ、勿論。睦月ちゃん達のデートに、水を差すわけにはいかないもの。

 みんな、頑張ってくれたから。後でみんなにも、そう言ってくれると嬉しいわ」

 

……と、そこまで言って。

椅子から立ち上がって、司令官に近づいて。私は小さな声で、囁くように聞く。

 

「――ね、司令官。ホワイトデーの『お返し』は、上手くいったかしら?」

「ええ、大丈夫だったわよ。如月のおかげで、ね」

 

司令官は、そう私の言葉に応えて。……そして、睦月ちゃんの方をちらりと見て。

睦月ちゃんが、頷いた……ように、見えた。そして、

 

 

 

「――ふっふっふ……実は睦月、如月ちゃんにご褒美があるのです」

「今日一日、頑張ってくれた可愛い義妹に、ね。さ、目閉じて」

 

 

ご褒美、と。睦月ちゃん達は、そう言った。

……うーん、とちょっとだけ悩む。だって私は睦月ちゃん達のためにお仕事をしてたのに、それでご褒美、っていうのは。

でも……睦月ちゃん達が何をご褒美にしてくれたのかは、ちょっと気になる……かしら。

 

 

「あら。ね、司令官……私に目を閉じさせて、どうするつもりなのかしら♪」

「はいはい、いやらしい事なんてしないから安心なさい。……睦月ってお嫁さんがいるのにそんな事する訳ないでしょ」

「はぁい♪」

 

目を閉じて、その『ご褒美』を待つ。

何をしてくれるのか、少しだけ期待しながら。

 

 

「――ん、っ」

 

 

――ちゃり、と。首元に冷たい感触がふれて、

ふいに触れたその冷たさに、声が漏れる。

 

 

「はい、できた」

 

 

司令官のその声に。

目をゆっくりと開いて、『それ』を私は確かめる。

私の首に付けられたものがなんなのか、見やすいように手に取って確かめようと、して。

 

 

 

――私の目に入った『それ』は。

銀色の、三日月の飾りを付けた――ペンダント、だった。

 

 

 

 

「――え」

 

……予想とも、期待とも、違っていた。

『ご褒美』だって、そう言うから。もっと、何でもない、ありふれたものだと、思ってた。

でも。でも、これは――。

 

一目見て、装飾の精緻さがわかる。これは、高価な細工物……よね。ありふれたものなんかじゃなくて。

睦月ちゃんならともかく、『私』がこんなものは受け取れない、と言いそうになって……ぐっと、抑える。

これは、司令官と睦月ちゃんがくれたもの。だったら、そんな風には言えないもの。

 

 

「……あら、司令官。こんな高価そうなもの、私には勿体ないわよ?

 こういうのは、お嫁さんに送るべきものだと思うの。……ふふ、もしかしてプロポーズかしら?」

 

睦月ちゃんがいるのだから、それはないわよね、と思いながらそう言うと。

――帰ってきたのは、予想外の答え、だった。

 

 

「……ま、そうね。似たようなもの、かな」

「――」

 

言葉に詰まる。

そんな私を見て、司令官は一拍おいて。

 

 

「今日はありがとね、如月。おかげで、睦月と思いっきり過ごせちゃった。

 ……ただ私達って、今までこんなに長い時間を取れたことがなかったから……あはは、

 途中で何をしていいか分からなくなっちゃって」

「それで睦月達、何をしようか、って一生懸命考えて。2人同時に思い付いたのが、如月ちゃんの事だったのです」

「如月も、ずっと近くにいたからかしらね?」

 

司令官の言葉に、睦月ちゃんが続く。えへへ、とちょっと恥ずかしそうに笑いながら。

折角、二人でデートさせてあげたのに……という目で見ると、司令官はちょっとだけばつの悪そうな顔をした。

 

「仕方ないじゃない、もー。……ま、そんな次第でね。如月の事を思いついてから、私達いろいろ考えたのよ。

 うん、さすがに如月が出てくるようじゃ新婚っぽいデートとはいえそうにない、って。

 それで、いろいろ。今から何をしたいとか、戦いが終わってから何をしたいか、とかいろいろ話し合って。

 ……そうしたら、だいたい如月が出てくるんだもの、私達」

「二人でこうしたいああしたい、っていうのはあったけど、如月ちゃんも一緒に、っていうのも多かったんだよ?」

「……もう、2人のデートなのに。ダメじゃない。睦月ちゃんも、司令官も。

 今度デートするときは、ちゃんと『2人で』楽しく過ごしてもらわなくちゃ」

「あはは、ごめんごめん…。ま、今回は結婚後初めてだし、ね?」

 

嬉しさと同時に、デートをセッティングしてあげたのに、という不満もちょっと混ざる。

 

「それで、ね。如月。睦月といろいろ話してて、思ったのよ。

 2人で過ごすのもいいけど、みんながいても私達楽しいんじゃないか、って。

 それで、デート中、睦月と二人でいろいろ話してて――」

 

 

 

 

「遠い話になるけど……いつか全部が終わって、海が静かになったら。

 ……私達みんなで、『家族』でどこかで暮らすのも、悪くないかなって。そういう話になってね」

 

 

 

……とくん、と。

胸が、少し高鳴った気が、する。

 

「……『家族』って」

 

『家族』って、誰の事を呼んでいるのだろう。

……と、そう聞こうとする、前に。

 

「『義妹』なんだから、家族でしょ?私の家族。そうじゃない、なんていわせないからね、如月」

 如月も、弥生も、卯月も、皐月も……文月とか、他の妹達も。みんな私達の家族。……だから、『これ』は」

 

そう言って、司令官と睦月ちゃんは目配せをして――二人とも、胸元に手を入れて。

 

 

「私達の家族のしるし、ってことで。――まあ、三日月で揃えはしたけど弥生や文月達と違うのは勘弁ね?」

「ふっふっふ……でも、司令官と睦月、如月ちゃんで、3人でお揃いなんだよ?」

 

 

胸元から取り出されたのは――銀の、三日月。

司令官と睦月ちゃんは、私の首に掛けられたものと同じものを着けていた。

 

 

……お揃いの。私達の、『家族』のしるし。

そう聞いて、とくん、と。再び高鳴る。

 

 

「――家族」

 

 

家族。……私が、家族。司令官の……家族。

私は、睦月ちゃんと違って司令官と結婚してるわけじゃないのに……。

 

私を、家族って……思って、くれてるの?

 

 

 

 

「……だったら、」

 

胸に溢れる、嬉しさを隠しきれないで。笑顔になる表情を、冗談を言って誤魔化す。

 

「ね、だったら……司令官?鎮守府のみんなを『家族』にしちゃっても、いいんじゃないかしら?」

 

私がそういうと、司令官はぷ、と噴出して、

 

「うーん……さすがにそこまで大所帯にする気はないかなー、あはは。

 ま、必要ならやるけどね。それも賑やかそうだし。

 ……睦月達が『私達だけじゃ寂しいよ!』っていうならそれも、ね!」

 

 

それも悪くないわね、と。司令官は、そう言った。

……そして、もう一度実感する。

 

 

 

 

 

 

 

 

――私は。2人に、『家族』だって、思ってもらえてるんだ、って。

 

 

***

***

 

 

執務室に、今日の確認のため――という名目で、睦月ちゃんと司令官を二人っきりにしてあげてから。

私は、一足先に部屋に戻って来た。

 

 

 

――いつか全部が終わって、海が静かになったら。

  ……私達みんなで、『家族』でどこかで暮らすのも、悪くないかなって。

 

 

ベッドの上に座りながら――思い出すのは、さっきの司令官の言葉。

ネックレスの三日月の飾りを、胸元でぎゅっと握りこむようにして胸に当て、

……とくん、とくん、と。いつもより少しだけ早い心臓の鼓動が、手に伝わってきた。

 

「……っ」

 

 

――義妹なんだから、家族でしょ?私の家族。

  そうじゃない、なんていわせないからね、如月。

 

家族っていう、その言葉を思い出すたび――また少し、鼓動が早くなる。

お嫁さんの睦月ちゃんだけじゃなくて、私も。

これからも、一緒にいていいって……一緒にいてほしいって、そういわれたようなものだから。

 

「家族、だなんて……もう、どきどきしちゃうじゃない」

 

……でも、この高鳴りは、気持ちいい。

睦月ちゃんと司令官の傍で、私も。……私達も、一緒にいる。そんな素敵な未来を、思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とくん、とくん、と胸が高鳴る。

大好きな人たちと一緒の、あたたかく幸せな――いつかの未来を、夢見て。

 

 


 
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