No.672901

真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第三十二話


 お待たせしました!

 捕えた張松の口から黒幕が劉焉である事を

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2014-03-22 19:38:55 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8447   閲覧ユーザー数:5694

 

「劉焉じゃと?…おのれ、あのクソ親父めが!しかも五胡の奴らにまで攻め込ま

 

 せるなど、正気の沙汰とは思えぬ!」

 

 俺は洛陽に戻ると張松から聞いた事を皆に伝える。それに真っ先に反応したの

 

 は命だった。

 

「確かにあの者の所業はもはや看過出来ない所まで行っているようですね…しか

 

 し、向こうの目的と手段が分かった以上はこちらとしても打つ手はあります」

 

「どうするのじゃ、夢?」

 

「そもそも、益州は劉焉の下で必ずしも一枚岩になっているわけではありません。

 

 配下の武将の中には劉焉の剛腕ぶりを嫌っている娘の劉璋に心寄せる者達も多

 

 いという話を聞いた事があります。その者達をこちら側に付ける事が出来れば

 

 有利に事を進める事が出来るかと」

 

「その劉璋側の者達の名は具体的には分かるのか?」

 

「そこまで詳しくは…でも巴郡太守の厳顔がその筆頭格であるとは聞いています」

 

「なるほどのぉ、ならばまずはその厳顔とやらに接触してみるのが良さそうじゃ

 

 が…どう接触するかじゃな」

 

 命のその言葉に皆が首を捻る。確かにこの中にその厳顔さんと面識のある人間

 

 がいない以上、接触は難しいのは間違いない事だ。皇帝からの使者と言ってし

 

 まえば向こうも会ってはくれるだろうが、それでは劉焉にまでこちらの意図が

 

 筒抜けになる可能性が大である。

 

 

 

「で、結果俺が潜入してくるのか?」

 

「すまぬ、そういうのはお主が一番優れておるし…」

 

 命はそう申し訳無さそうな顔で言う。

 

 結局決まったのは、俺が巴郡に潜入して厳顔さんとの接触の機会を探るという

 

 物だった。正直、成功の確率はほぼゼロと言って過言では無いとは思うのだが、

 

 どうやら空様が『私の勘はそれでうまくいくと言っている』と言ったらしい。

 

 …本当にいいのか、それで?

 

 ・・・・・・・

 

 それから数日後、俺達は巴郡の街にいた。何故『達』なのかというと…。

 

「あっ、お兄ちゃん、輝里お姉ちゃん、あっちに大きな鳥さん!」

 

「へぇ…本当に大きい鳥ですね。南方から連れてきたのかしら?」

 

 輝里と…何故か璃々まで一緒に来ていたのであった。(ちなみに北郷組の他の

 

 面々は留守番である。留守番組の顔が不満気だったのは言うまでもない)

 

「でも本当に璃々も連れて来て大丈夫だったのかな?」

 

「こういうのは男女二人組より子供連れの方が怪しまれないものですよ。万一の

 

 場合、璃々を抱えて逃げれば良いのですし」

 

 輝里はそう言っているが…まあ、今更それを気にしても仕方ないか。

 

 そのまま俺達は街を散策しつつ城の方を観察していたのだが…まったくと言っ

 

 て良い位に入り込める隙が無いな。やはりいきなり来て接触は無理か…とりあ

 

 えず街の人から情報でも集めてみようか。

 

 

 

「結果分かった事は厳顔さんは巴郡の民から慕われているという事と、劉焉とは

 

 折り合いが悪いという事だけか」

 

 街の食堂で食事を摂りながら俺と輝里は集めた情報を話していたが…大した情

 

 報は集まらなかった。というより、隠し事が少ないという事のようだ。どうや

 

 らそれが厳顔さんの人柄という所みたいだが。

 

「出来れば顔位は拝見しておきたかったですけどね…」

 

「そう簡単に太守様と会えないだろうけどね。しかも今は賊退治に出ているよう

 

 だし」

 

 俺達はそう言ってため息をつく。その時…。

 

「厳顔様のお帰りだ!」

 

 そう言いながら道を走って行く人がいた。ほう、これはチャンスか?折角来た

 

 のだから遠くからでも顔を見ておきたい所だ。

 

 ・・・・・・・

 

 俺達は領民達の後ろの方から軍列を眺めていた。璃々は俺が肩車している。

 

「どうやらあの人が厳顔殿のようですね…」

 

 輝里の指差す方を見ると、軍の中心辺りにいて酒徳利のような物をあおってい

 

 る女性の姿が見える。何とまぁ…しかも肩当には大きく『酔』って書かれてい

 

 るし。

 

「しかしなかなか豪快な人だな。なぁ、璃々…どうした?」

 

 璃々からの返事が無いので視線を向けてみると、璃々の眼が一点に注がれてい

 

 る。厳顔さんの方を見ているのかと思ったのだが、どうやらその視線は隣にい

 

 る弓を持った女性の方に向けられている。弓?まさか…。

 

 

 

 俺がそう思った瞬間、璃々が大声で叫ぶ。

 

「おかあさ~~~~~~ん!!」

 

 その声に弓を持った女の人が反応する。そして、こちらを見つけるなり馬から

 

 降りて駆け寄ってくる。俺もすかさず璃々を降ろす。そして…。

 

「璃々!?璃々なの!?本当に…良かった、もう諦めかけていたのに…ごめんね、

 

 本当にごめんね…」

 

「おかあさん、おかあさん、おか、あ…さん…ウワァァァァーーーーーン!」

 

 璃々の眼からは大粒の涙が零れている。

 

 女の人は同じく大粒の涙を流しながら璃々をそっと抱きしめている。

 

「どうやらこの人が璃々のお母さんの黄忠さんのようですね」

 

「ああ、まさか此処にいるなんてな。世の中不思議な事もあるものだな」

 

 俺達がそう話していると、

 

「ほぅ、どうやら紫お…黄忠の娘が世話になっていたようだな」

 

 近寄って来た厳顔さんが俺達に話しかけてくる。

 

「いえいえ、世話などという程の物では…」

 

「まあ、とりあえず此処では何だから一先ず城の方へ。色々聞きたい事もあるか

 

 らな」

 

 こうして期せずして俺達は巴郡の城の中に入る事が出来たのであったが…さて

 

 これからどう話を持っていこうか?

 

 

 

「お礼が遅くなりまして申し訳ございません。私の名は黄忠、璃々の母でござい

 

 ます。この度は娘が大変お世話になりました」

 

 城の謁見の間にて、黄忠さんはそう言って深々と頭を下げる。しかし、

 

「ふん、本当に世話をしていたかどうかも怪しいものだ!本当は厳顔様や黄忠様

 

 に取り入る為に利用していただけじゃないのか!?」

 

 後ろに控えるブラ○クジ○ックみたいな髪型の女の子がそう訝し気な目線で俺

 

 達を睨む。まあ、そう怪しまれても仕方がないっちゃ仕方がないのだが。

 

「焔耶、何をたわけた事を!そもそもこの方達は紫苑が此処にいる事も知らなか

 

 った様子。それに眼を見れば分かる、この方達はそのような事をする人達では

 

 無い」

 

 厳顔さんはそう言ってくれるのだが…正直微妙だ。確かに璃々を利用するつも

 

 りは欠片も無かったのだが、厳顔さんに繋ぎを取りたかったのは事実だし。

 

「ならば何故こやつらが紫苑様のお子を連れているのです!?」

 

「それについてはちゃんと順番立てて話をしなければならないでしょう…その前

 

 に自己紹介から。私の名前は北郷一刀、この者は徐庶、共に董卓様にお仕えす

 

 る者です」

 

 俺がそう言った瞬間、場の空気が変わる。そして、

 

「やはりそういう事か!ならば此処で成敗してくれる!!」

 

 ブラッ○ジャッ○さんが金棒みたいな武器を振り回して攻撃してくる。その攻

 

 撃を俺達は何とかかわす。

 

 

 

「ふん、少しはやるようだな。だが…皆の者、こいつらは劉焉様の敵だ!取り囲

 

 んでしまえ!!」

 

 その号令で周りの兵士が一気に俺達を囲む。ちっ、この数を突破するのは容易

 

 じゃないぞ…俺がどうしようか考えたその時、

 

「待てぇぃ!この方達に手を出してはならん!!」

 

 厳顔さんの号令で兵士は囲みを解く。

 

「桔梗様、どういう事です!?こいつらは…」

 

「確かに董卓殿の家臣と名乗ったが、だから何だというのじゃ?まさかお主本気

 

 であの耄碌親父に従うつもりか?それに此処でお二人を『劉焉の敵』などと言

 

 ってしまったら耄碌親父が洛陽に敵対する気満々じゃという事がばれるのでは

 

 ないか?」

 

「ぐっ…しかし此処でこの者達の口を封じてしまえば『ああ、それは既に皆知っ

 

 てますので』…どういう事だ!?」

 

 俺が張松から聞いた事を告げると皆驚きを隠せない表情になる。

 

「何と…では既に迎撃態勢が?」

 

「当然。それに私は董卓様にお仕えしてはいますが、実は厳顔様にこれを渡すよ

 

 うある方から仰せつかっております」

 

 俺がそう言って取り出した書状を開けて見た瞬間、厳顔さんの顔色が変わる。

 

「まさか…そんな」

 

「一体何が書いてあると…えっ!?」

 

 横からそれを見たブ○ック○ャックさんの顔色もみるみるうちに青ざめる。

 

「「し、失礼しました!!」」

 

 そして二人はその場に平伏したのであった。

 

 

 

「本当に申し訳ありませんでした!!」

 

 その後、別室に移ってからも○ラックジャ○クさんは平伏したままだった。

 

「いえいえ、もう気にしてませんからどうぞ頭を上げてください…ええっと」

 

「そうでした、私の名前は魏延と申します!度々のご無礼、平にご容赦を」

 

 そう言うなり魏延さんはまた平伏してしまう。困ったな…このままじゃ話も進

 

 まない。

 

 俺がそう思いながら厳顔さんへ眼を向けると、それを察してくれたのか、

 

「焔耶、北郷殿もそう仰られている事だしそろそろ頭を上げんか」

 

 魏延さんにそう言ってくれる。その言葉にようやく魏延さんが頭を上げる。

 

「それでは改めまして…私達は董卓様にお仕えする者ですが、此処には陛下から

 

 の命を受けて参りました」

 

「それなら何もお忍びで来ずとも普通に参られますれば…」

 

「焔耶、それをしたら間違いなく耄碌親父の所にまで話が筒抜けになる危険があ

 

 ろう?だから北郷殿はわざわざこのような事をされたのだ」

 

「でも本当はどう厳顔さんと接触するか悩んでいた所だったのです。その点では

 

 璃々に感謝しなければなりません」

 

 俺がそう言うと璃々は嬉しそうな顔をする。

 

 

 

「しかし何故璃々があなた方の所に?」

 

「おっとそうでした、それはですね…」

 

 黄忠さんの質問に俺は璃々と出会った所から今までの経緯を説明する。

 

「そのような事が…では北郷殿は馬騰様とも既にお知り合いで」

 

「はい。でも、もしそこで黄忠さんと馬騰様が知り合いだって事を知っていたら

 

 もっと早く会わせてあげられていたのに…それは少し残念です」

 

「いいのです。こうして無事に再会出来たのですから…しかしそうすると璃々は

 

 陛下や董卓殿にもお世話になったという事なのですね」

 

「うん、月お姉ちゃんはとっても優しい人だよ!命お姉ちゃんや夢お姉ちゃんも

 

 すっごく月お姉ちゃんの事を信頼してるんだから!」

 

「…まさか真名も既に?それにもしかして後のお二人って…」

 

「はい、劉弁陛下と劉協様の事です。董卓様と同じでよく璃々の遊び相手になっ

 

 てくれてましたから」

 

 俺がそう言うと三人は開いた口が塞がらない状態になっていた。

 

「ならば間違いなく袁紹の言ってる事がおかしいという事になるのぉ」

 

「しかもそれを裏で画策しているのが劉焉様という事なのですね…一体何の目的

 

 でそんな事を?」

 

「わざと動乱を起こさせてその責任を陛下になすりつけて退位させて自分が後釜

 

 に座らんとしてるようです」

 

 

 

 俺がそう言うと、厳顔さんの顔が苦々しげに歪む。

 

「くっ、あの耄碌親父が…益州の州牧だけでは物足りんというのか」

 

「でもこちらの情報ではご息女の劉璋様はお父上に反目されておられると聞いて

 

 おります。もしよろしければ厳顔様から何とか…『それは難しいな』…どうい

 

 う事です?」

 

「劉璋様は今は囚われの身になっている。一応謹慎という名目ににはなっている

 

 がな」

 

「なっ、まさか…」

 

「ああ、そのまさかだ。あの耄碌親父は諫言する者は例えそれが実の娘であろう

 

 とも捕縛の対象になるのだ。幸い儂は少々離れた所にいるのでまだそこまでは

 

 いっておらんがな」

 

 厳顔さんはそう言ってため息をつく。

 

「居場所は分かるのですか?」

 

「城内の何処かとしか…成都から離れた此処ではそれ以上は分からん。成都にい

 

 る同志に繋ぎが取れれば或いは…しかし儂が直接するとあの耄碌親父に気付か

 

 れるかもしれんしな…」

 

「その同志の方の名は?」

 

「法正、字は孝直『えっ!?』…何じゃ?徐庶殿は法正を知っておるのか?」

 

「はい、燐里…法正は水鏡女学院の同期でしたから」

 

 なるほど…これは少し光明が見えてきたかな?

 

 

                                 …続く。

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回、ようやく璃々と紫苑が再会しました。

 

 少々…というか大分強引な展開になってしまい

 

 ましたが、ご容赦の程を。

 

 それと、紫苑が北郷組入りを果たすかどうかは

 

 もう少ししてからの話なので少々お待ちを。

 

 とりあえず次回は成都潜入編です。今作でも燐里

 

 が登場ですので。

 

 

 それでは次回、第三十三話にてお会いいたしましょう。

 

 

 追伸 桔梗の側近の兵士は皆子飼いの者達ばかりなので

 

    一刀達の事を成都に通報する者は一人もいません

 

    ので、劉焉はまだ何も知らないという状況です。

 

 

 

 


 
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