No.672825

真・恋姫†無双 ~胡蝶天正~ 第三部 第05話

ogany666さん

す、ストックが・・・・無くなってきた。
遅筆なものである程度原稿を貯めてからの投稿だったのですが・・・。
このままだと投稿が手持ちの原稿に追いつきそうです。

2014-03-22 15:32:56 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:7105   閲覧ユーザー数:4921

 

 

 

 

 

 

この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪蓮様、華雄を倒した司馬懿めが後方へと下がりました。今が汜水関を落とす好機です」

連合軍の左方、袁術軍の前衛に立つ孫の牙門旗。

その旗に集いし兵たちを束ねる将の一人、鈴の甘寧が主である江東の小覇王孫伯符へと進撃の命を受けに訪れる。

「私もそう思ったんだけどね・・・・。思春、あの二つの部隊が見えるかしら?」

孫策は一刀率いる兵の両翼、自分達の目の前に展開する星と稟が率いる一万の部隊をそれぞれ指差した。

「両翼の動きが早過ぎる・・・・・・・これでは中央の部隊と連携が取れず分断してしまう」

「それは違うわ思春。司馬懿たちはわざとあんな動きをしているのよ」

「・・・・・どういう事ですか?」

孫策の言う一刀の意図が分からず、思春は疑問の表情を浮かべる。

「私も最初は捕まえた華雄を餌に関の兵を鶴翼の陣へ誘い込むのかと思ったんだけど、どうも違うようなのよね」

「あの両翼は私達諸侯に対する牽制だろうな」

そう口にしたのは孫家の軍師、周瑜であった。

彼女は二人の会話に割って入ると、眼前で展開されている一刀の采配を説明し始める。

「左右の部隊が関から出てきた敵部隊を弧を描くように迂回しているのは、釣られた敵の背後を取るのと共に自らの兵を盾にする事で汜水関への経路を塞ぎ、諸侯の"加勢"を防いでいるのだ」

汜水関を守る将が排除された今、関を抜けるのはさほど難しい事ではない。

だが、将を討たれた兵は仇を討つため、今回の場合は捕縛された将を助けるために躍起になって敵将を討ち取りに向かう。

そんな兵をいなす為に、本来なら後退をして兵の消耗を最小限に抑えるのだが、一刀達は後方の部隊を二つに分けて左右両面から進撃させた。

これでは先鋒の後退する瞬間を狙い、汜水関一番乗りの功名を得ようとしていた諸侯は突撃する経路を一刀達友軍に遮断された形になり、前へ進むことが出来ない。

「無理に進行をすれば友軍である司馬懿の戦闘を邪魔したと悪名が付く。諸侯も自らの名を落とす様な真似はそうそう出来ないだろう」

「袁術がその事を分かっているかしらねぇ・・・・」

「袁術様より伝令。汜水関は将を失い手薄、直ちに突撃し関を落とすようにと!」

孫策がそう述べた直後、袁術からの伝令が彼女達の元に訪れる。

予想通りの内容に孫策は呆れてものも言えなくなるが、呆けてばかりもいられない。

周瑜は主であり友でもある孫策に判断を仰ぐ。

「相変わらずお前の勘はよく当たるな・・・・・。それで、どうするんだ?」

「袁術と一緒にこっちの名まで落ちるなんて冗談じゃないわ。全軍このまま待機、袁術のところには私が行って説得してくるわよ」

「分かった・・・・。聞いたとおりだ思春。我が軍はこのまま待機、司馬懿軍のお手並みを拝見するとしよう」

「御意・・・・。冥琳様、一つご質問があります」

持ち場に戻る直前、甘寧は説明を聞いた事で思い浮かんだ新たな疑問を周瑜に問いかける。

「司馬懿たちは何故両翼と中央を分ける様な動きを取るのです?我々の介入を阻むのなら鶴翼の陣を敷くだけで十分なのでは?」

「それならば簡単な話だ・・・・・」

周瑜は甘寧が抱いた疑問を、一刀達が取るであろう行動を説明する事で解消する。

「奴は両翼を釣られた敵の背後に回り込ませて汜水関に張り付いた後、中央の部隊と連携して敵を包囲、そのまま磨り潰す気なのさ」

 

 

 

 

「そんな、有り得ません!」

連合軍の右方に陣取る華琳たち曹操軍一行。

彼女達の間でも、一刀が取る今後の行動を議論している真っ最中であり、状況を考察した華琳の推測に桂花は異を唱えていた。

「いくらあの変態が敵将を討ち取ったとしても、敵兵の数とは倍近く!磨り潰すどころか内側から食い破られるに決まっています!」

桂花の指摘はもっとも。

将不在で統制が取れていないとはいえ、釣れた敵は汜水関を守る総数の半分以上にも上る。

そんな数を相手にしては、いくら先鋒の数が多くとも所詮は地方の州牧の兵数。

あっという間に飲み込まれてしまうと彼女は読んだのだ。

だが、華琳の考えは違った。

「秋蘭、あなたはどうかしら?一刀の兵ではあの数を相手に敗走すると思う?」

「・・・・・・いえ、この程度の兵力差でしたら歯牙にもかけずに殲滅するかと」

秋蘭の言葉に桂花は驚愕する。

剣を振り回すだけが取り得の愛すべき○鹿である春蘭ならばともかく、秋蘭は文官の仕事もそつ無くこなす頭脳派。

そんな彼女の口から論理的且つ現実的ではない言葉が出るなど、桂花は思っても見なかった。

桂花は何故そう思うのかと秋蘭に問おうとするが、それを華琳は手で制して彼女の方を向く。

「あなたは知らないのだからそう判断するのは当然だけど、一刀が育てる兵の精強さは他の追随を許すものでは無いわ」

その言に桂花は疑問の色を浮かべるが、気にする事無く華琳は続ける。

「事実、一刀の兵はたった数十で洛陽城内を地獄へと叩き落している。恐らく一兵卒ごとの力量が普通の軍ならば百人長にも匹敵するでしょうね」

「なっ!?」

俄かには信じられない話だったが、汜水関へと目を向けると回り込んだ部隊は既に関へと到達しており、中央の部隊は敵軍を反包囲して攻撃を開始している。

敵兵は数こそ多いものの、退路を断たれたことに対する不安と全方位からの猛撃に怯み混乱。

立て直せる将も居ない事から、いつ瓦解してもおかしく無い状態だった。

その光景を目の当たりにして桂花は反論する事が出来ずに押し黙ってしまう。

華琳は桂花の肩にそっと手を置いてやさしく囁く。

「良く見ておきなさい桂花。あれこそ私の覇道に立ちはだかるであろう最大の障壁、今から策を練っておいても遅くは無いわよ」

「あ・・・・・・はいっ!」

華琳の言葉に萎えた気持ちを奮い立たせる桂花。

その瞳には曹操軍随一の天才軍師としての対抗心と、敬愛する華琳をあんな全身精液男に渡すものかという嫉妬が混ざり合った炎が宿っていた。

そんな周囲が眼に入っていない軍師をよそに秋蘭が華琳に話しかける。

「しかし華琳様。このままでは汜水関での功を全て一刀に持っていかれてしまいます」

「それも面白く無いわね・・・・。かといって今の状況で加勢しても不評を買いかねないのだけれど・・・・・何か良い案はある?」

「・・・・・・」

華琳は意見を求めて周囲を見回すと、この軍議が始まってから一言も発さず一刀が居るであろう先陣を黙視している春蘭の姿が眼に入った。

こういう時、真っ先に突撃すべきと発言する春蘭にしては珍しいと感じた華琳はそれとなく話を彼女に振る。

「春蘭はどうかしら?この状況を打破する良い案はある?」

華琳に声を掛けられた事に気が付いた春蘭は、直ぐに彼女の方へと向き直り自分の意見を述べる。

「は、はい。今から一刀へ加勢したとしても大した功を得ることは出来ません。それならいっそ、この場の功はあいつにくれてやって天下無双と謳われる呂布が守る虎牢関のために力を温存した方が良いのではと思ったのですが」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

春蘭の言葉にそこに居る全員が押し黙る。

自分の世界に入り込んでいた桂花ですら、その発言が耳に入った途端我に帰って声の主を凝視したほどだった。

当然だろう、いつもの春蘭ならば一刀に対抗心を燃やして"今こそ血気盛んに攻撃すべきです!"と華琳に進言するに決まっている。

その彼女の口から戦の先を見越した発言が飛び出すとは夢にも思っていなかったのだから。

「な、なんだ秋蘭。私はまた変な事でも言ったか?」

周囲の視線とこの場を支配するえも言えぬ空気に居た堪れなくなったのか、春蘭は妹に助言を求める。

「いや、至極まともな意見だったと思うぞ・・・・・」

「・・・・ええ、これ以上無いくらい最良の一手でしょうね」

「猪もたまには的を射る事があるのね」

「なんだとっ!」

まるで水の中にアルカリ金属を投げ込んだかの如く、桂花の言葉に反応する春蘭。

そんな二人を諌める為に華琳が二人を制する。

「はいはい。じゃれ合うのは汜水関を抜けた後になさい。秋蘭、凪たちに現状維持のまま待機するように伝達。汜水関が陥落し次第進軍するわよ」

「御意」

 

 

 

 

汜水関より少し離れ、反董卓連合軍の後方に陣取る劉備軍。

戦が始まる前に斥候を放って得た情報を諸侯へ提供した後、手持ちの兵が少ない上に州牧になったばかりでは兵の練度も低いだろうと言う事で後方の配置となっていた。

後方待機では奇襲でもない限り戦闘にはならない為、彼女達は物見に汜水関の状況を逐一報告させていたのだが、その一方的な戦況に驚愕の色を浮かべる。

「これが・・・・・・司馬懿さんの実力」

「力で兵数差を覆すほどの精兵を有し、自身も猛将を討ち取るほどの武を誇る名君。それにあの坎尼會戰(カンナエの戦い)を思わせる巧みな用兵術・・・・・恐らくこの連合の中で一二を争うほどの実力の持ち主かと」

これから敵になるであろう一刀の力量を冷静に分析して発言する諸葛亮に、美しい黒髪を靡かせて一人の女性が歩み寄る。

大陸でも有数の武将にして劉備の義妹、関雲長だった。

「朱里、お前の眼から見て司馬懿とはどんな男だったんだ?」

本陣の守備に就いていた為軍議に出る事が無かった関羽は、今先陣で戦っている一刀を直接その眼で見た軍師の諸葛亮に彼の評価を問う。

「正直、よく分かりません。曹操さんのように大陸に覇を唱える野心を胸に秘めている印象がありますが、それ以上に司馬懿さんからは得体の知れなさを感じました」

「得体の知れなさ?」

諸葛亮の言葉の真意をうまく掴みきれず、関羽は彼女に問い返す。

その問いを受けて諸葛亮もより一層、神妙な面持ちになり自分が一刀から感じた印象を冷静に分析しながら答える。

「はい。雍州での治政や桃香様に助言をするあたり悪い人では無いと思うんですが、司馬懿さんの見ている先が何なのか全く読めないんです」

「どういう事、朱里ちゃん?」

「えっとですね。桃香様は皆が幸せに暮らせる平和、曹操さんは大陸の覇者という"終着点"を見据えているんですが、司馬懿さんはその終着点が読み取る事が出来ない。そんな眼をしているんです」

「朱里は司馬懿と言う男が思想家のように達観していると?」

「そうは言いません。桃香様や曹操さんは手段は違いますが、どんな形であれ大陸の統一するという帰結に辿り着きます。でも司馬懿さんはそれすら見ていない気がするんです。それが何かまでは、よく分かりませんが・・・・」

諸葛亮はその疑問に自ら答えを出すべく黙して思慮を重ねるが、その解答に辿り着くほど一刀の器を推し量れてはいない。

そんな煮詰まった状態の彼女を見て、劉備は自分なりの考えで助け舟を出す。

「まぁ、答えが出ない事を考えてもしょうがないよね。今は都で苦しんでいる人たちをどう助けるかを考えよ」

「鈴々もお姉ちゃんの意見に賛成なのだ!」

「お前は難しい事が分からないだけだろう・・・」

「むぅーー、愛紗は手厳しいのだ」

関羽の言葉を聞いて頬を膨らませて拗ねる張飛。

その様子を肴にその場の空気を和ませつつ、劉備は諸葛亮に今後の方針を問う。

「それで朱里ちゃん、この後私達はどうすればいいかな?」

「はい。先ず汜水関ですが、今から前線へ上がっても着く頃には司馬懿さんが関を落としてしまうと思うんです。ですので今は力を温存して虎牢関での戦いに備えた方が良いと思うんです」

「だが、他の諸侯も同じ事を考えているのではないか?」

「はい。そこで私達は他の皆さんが呂布さんや張遼さんと戦っている間に、兵の少ない身軽さを利用して虎牢関に一番乗りしちゃおうと思うんです」

「なるほど、寡兵の利を用いると言うわけか。ではその役目は私が行こう」

「あっ!さり気なく一番乗りをするつもりなのだ!狡いのだ!」

何食わぬ顔で一番乗りをしようとしていた関羽に気付き、張飛はまるで子供が駄々をこねるように抗議し始める。

そして図星を突かれた関羽は些か動揺した様子を見せながら言い訳ともとれる反論を口にした。

「わ、私はただ話の流れから自分が名乗りを上げるべきだと思っただけで・・・・・・」

「そうやって取り繕おうとしても後の祭りなのだ」

「鈴々っ!」

「まぁまぁ二人共、誰が行くかは後でゆっくり決めようよ」

ちょっとした口喧嘩になりそうな関羽たちの間に割って入る劉備。

「・・・そうですね。では鈴々、後ほどゆっくりと“話し合おう”ではないか」

「愛紗でもこればっかりは譲れないのだ!」

「ふ、二人共あんまり危ないことはしないでね・・・・・・そ、それじゃあ、虎牢関へ向けて頑張ろう!」

諫められてある程度冷静になった二人を確認して、劉備はこの場を締めた。

「御意!」

「応なのだ!」

「御意です」

 

 

 

 

「という事を諸侯の方々は考えているのではないかとー」

「ならばこちらは袁紹を持ち上げて奴を前線へと送り、指揮権を委譲して貰った方が得策でしょう」

汜水関を攻める先陣として戦う一刀の本隊。

その指揮を当初から取っていた風と、彼女の補佐に回った稟は今の状況から諸侯がどう動くのかを予測していた。

何故釣られた敵陣の後方へ回り込んだ右翼を指揮していた稟が本隊に合流していたかと言うと・・・・。

「それにしても、お兄さんは本当に人の虚を突くのが上手いですねー」

「まったくです。兵だけを敵の後方へと送るために、指揮官である私を右翼後方へと配置するなんて賭けにも近い手など、ほかに誰もやりませんよ」

武将である星が指揮する左翼に対して、右翼を指揮していたのは軍師の稟。

戦う事が出来ない彼女は本来なら前線に出るべき存在ではないのだ。

それを承知してはいるものの、他に適任の人材が居ないのもまた事実。

そこで一刀は、稟がいつでも離脱出来るように右翼の後方へ配置、中央の本隊が敵とぶつかるどさくさに紛れて自分と稟の持ち場を交代するという手を取ったのだ。

指揮官が交代すれば当然、兵たちに多少なりとも乱れが生じ、敵に付け入る隙を与える為このような手段は普通は取らない。

にも関わらずこのような手を取ったのは・・・・・。

「一刀殿のお気遣いには頭が下がります」

「そうですねー。お兄さんは目的を達するために効率的な手段を取りますが、周りの人を第一に考える方のでー」

「そんな優しい方だからこそ、私達も仕えたい思うんですよ。風」

「おやおや、稟ちゃんの中でお兄さんの評価が急上昇中ですねー。このままでは曹操さんでは無くお兄さんに思いの丈をぶつける日も近いのではないですかー?」

「な、何を言っているのよ風!?私が一刀殿に・・・・・・ぷはっ」

戦の最中、稟は盛大に鮮血(鼻血)を天に向かって発射する。

そんな彼女の後ろへといつもの様に回り、後頭部を軽く叩いて介抱をはじめる風。

「ふがふが・・・・・・」

「稟ちゃんをからかうのはこのくらいにしましょうかねー。それでですね、この戦の話なのですが・・・・」

「ふが・・・・・・ええ。一刀殿が馬をやられた事で多少もたつきはしましたが、二人を前線に送り込んだ事でこの戦の勝利は粗確定しました」

「ですねー。混乱した敵兵は風達が指揮する部隊で十分ですし、お兄さん達に張り付かれて関を抜かれてしまった以上、相手も為すすべが在りませんからねー」

「それでは、私達は諸侯を含めた戦場の動きに注意を払いつつ敵を掃討。一刀殿と合流後に先ほどの話を相談するという方向で・・・・」

二人が今後の方針を相談している最中も戦は続く。

彼女達がふと汜水関の上へ目を向けると、関の上に建つ展望閣から火の手が上がっていた。

 

 

 

 

「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」」」

汜水関の象徴とも言える展望閣が炎上したのを見て周りの兵達は鬨の声を上げる。

本来展望閣は関を守る武将、今回の場合は華雄が詰めていることでそう簡単に落ちるものではないのだが、将不在となってしまっては最早砂上の楼閣、俺が関へ登る前に星が片を付けてしまったようだ。

これで俺達の軍は汜水関の将、一番乗り、完全制圧の三つの功を手に入れた事になる。

汜水関は連合軍ではなく司馬仲達が落としたと声を上げられても誰も文句は言えないだろう。

「これだけ武功を上げれば、虎牢関の戦い以降、状勢を日和見するであろう勢力も少しは俺達に靡くかな・・・・っと」

今後の大陸の動きを予測しながら、俺は上から飛んできた矢を正宗で叩き落とす。

今俺が居る位置は関を抜けた汜水関の裏側であり、敵味方が入り乱れて戦っている状態。

下手に矢を放てば味方にも被害が出るにも拘らず射ってくるという事は、敵も相当混乱しているらしい。

「将が居ないから撤退もままならない様だな。勝手に逃げ出してくれれば無理には追わないんだけど・・・・・」

「そ、側面より敵襲ーーーッ!!」

統制の取れていない敵への対応を思考していると、けたたましい兵士の声が耳に入り意識を完全に声の方へと向ける。

「どっせぇぇぇーーいッ!!!」

気迫と共に襲い掛かる槍のひと薙ぎ。

俺の頸を取りに来たその一撃を正宗で受け流し、敵の追撃を警戒しながら間合いをあけて相手を確認する。

さっきの気迫と見覚えのある偃月刀・・・・・・やっぱり。

「くははっ!中々やるやないかアンタ。ウチの攻撃を凌ぐところを見ると相当場慣れしとるな」

「し、張遼さんか・・・・神速と謳われるあなたにそう言って貰えるとは光栄だね」

戦場の殺気に当てられて咄嗟に彼女の真名を呼びそうになるが、それをぐっと堪えて平静を装いながら返事をする事に勤める。

正直なところ、彼女から命を狙われたことに対して俺は動揺していた。

この世界では黄巾党の一件以外で面識が無い上に今は敵同士、戦場で出会ったのならばこうなるのは自明の理といえる。

理屈では分かってはいるのだが、感情的な面になるとそれはまた別の話。

波立った心中を落ち着かせ、俺は彼女の一挙手一投足に気を配る。

「アンタと顔を合わせるんはこれで二回目やな。あんときは最近売り出しとる地方太守って思うとっただけやけど、自分から前に出てくるっちゅう事は本職はこっちの方と見てええか?」

程よい緊張を持ちつつも、霞は偃月刀をクイッと上げて俺へと質問してくる。

「そう言う訳でも無いんだけどね。・・・・それにしても意外だな、張遼さんは虎牢関に下がっているとばかり思っていたんだけど」

冷静さを取り戻し、頭の中がクリアになったことで当然の疑問が思い浮かぶ。

汜水関を攻めるときには彼女がここに居るという情報は上がっていなかった。

もし、彼女が初めから汜水関に居たのなら、ここまで攻め込まれる前に立て直している筈・・・・。

いや、霞が補佐に付いていたのならそもそも華雄が一騎打ちに出てくること事態無かった可能性もある。

そうなればこんなにも早く汜水関を抜ける事は出来なかっただろう。

俺は今になって霞が出てきた意図を模索していると、彼女の口から至極単純な答えが返ってきた。

「いや~、ウチもホンマは虎牢関で呂布っちの補佐やったんやけどな、汜水関で華雄が暴走してへんか心配になって加勢に来たんやけど・・・」

「なるほどね、案の定心配は的中して汜水関を抜かれてしまっていたと・・・・。それでどうするんだい?ここまで攻め込まれてしまった以上、今さら加勢したとしても形勢を覆す事が出来ないですよ」

「せやな、いくらウチでもこないにやられた関を取り返す事はかなわんわ。せめてアンタの頸でももろうて虎牢関で楽させ貰おうか?」

そう言い終えると、霞は手に持った得物を構えて臨戦態勢に入る。

こちらも応戦するために正宗を構えようと柄に手をかけるが、途中で良い事が思いつき左手を前に突き出し彼女を制す。

「張遼さん、一つ取引をしませんか?」

「取引やて?反董卓連合のアンタがウチとなんを取引するん?寝返れっちゅう話なら、お断りや」

「そんな話じゃないよ、俺はこれから汜水関の完全制圧するんだけど、張遼さんはこの汜水関に居る兵全てを率いて虎牢関まで後退してくれないかな?その間こちらからは追撃をしない」

俺の口から出た言葉に何か裏が在るのではないかと眼を細くする霞。

だが今しがた汜水関に付いたばかりであろう彼女にはこちらの意図を探るには情報不足の様で、俺に話しかけて真意を探ってくる。

「ウチがここの兵を連れ帰るっちゅう事は虎牢関の兵が増員されるいう事や、自分らにとってはここで兵力削っといた方が後々良いんとちゃうん?」

「確かに連合軍全体としてはここで敵の兵力を削っておいた方が良いし大した利益はないだろうね、でも俺個人には結構大きな利益があるんだよ」

霞は春蘭や華雄達と一緒で戦闘狂の部類に入るが、彼女達のように猪突猛進では無い。

俺の頸を取れなかった場合は、適当に相手をいなしながら撤退するのは眼に見えている。

そうなれば手柄を焦って大物頸を取り逃がしたと悪評が立ってしまいかねない。

ならばいっその事、霞に汜水関の兵を連れて虎牢関まで退いてもらった方が、諸侯が介入する前に関の制圧が出来るので俺達にとっては都合が良い。

霞を仲間に引き込む良い機会を一つ失うのは正直心苦しいが、虎牢関でも機会はあるだろうし、今は汜水関を完全制圧する方が先決だ。

「汜水関に付いたばかりの張遼さんには分からないだろうけど、今この関で戦っているのは俺が率いている兵だけなんだ。他の勢力は手柄を立て損ねると慌てて加勢しようとしてるか高みの見物と洒落込んでるだろうね」

「なんやて!?アンタだけでこんなん早く汜水関を抜いた言うんか?」

「そう言う事になるね、麗羽・・・・袁紹達が介入する前に汜水関を制圧して自分一人の手柄にしてしまいたいんだけど、将を失って混乱した官軍の対処に手を焼いていてね。張遼さんが連れて後退してくれるんなら有り難いんだけど・・・」

「ウチらとしては兵を失わんでええし嬉しい話やけど、アンタはそれでもええんか?こないな話、袁紹たちにばれたら袋叩きに遭うで?」

「汜水関の裏側や内部は俺の兵で固めてるし問題ないよ。ただし、余り時間が残っていないのもまた事実だね、この話に乗るのなら直ぐにでも行動を起こしたい」

一通りの話を聞き終わった後しばしの間考え込む霞だったが、直ぐに手に持った偃月刀を下ろしてこちらへの警戒を解いた。

「ええわ、その話乗ったる。ホンマはアンタの頸を取った混乱に乗じて兵を退かせるつもりやったし、願ったり適ったりや」

「交渉成立だね、それじゃあ早々に汜水関内に居るうちの将に伝令をだすよ。張遼さんは回りに居る官軍を率いて撤退してくれ」

「ほいさ・・・・・あ、そうや司馬懿。一つ聞いてもええか?」

俺の前から去ろうとした霞は何かを思いついたかの様な素振りを見せると、こちらに質問をしてくる。

「応えられる範囲で良ければ応えるけど、何かな?」

「聞きたいのはアンタに対する個人的な興味や。司馬懿、アンタの見ている先や」

「俺が見ている先?」

「せや、アンタは袁紹たちみたいん欲望丸出しで何も考えとらん訳や無い。曹操みたいな感じがするんやけど、それも少し違う気がするん。なら、アンタに直接聞いたほうが早い思うてな」

なるほどね、竹を割ったような性格の彼女らしい質問だ。

いくら霞とは言え今は敵同士。

適当にはぐらかしてもいいのだが、彼女には余りそう言う態度を俺は取りたくは無い。

具体的には言えないが、ここは正直に話しておこう。

「俺が見ている先は、"天下の先"さ」

「"天下の先"やて?」

「ああ。それ以上今は言えないけど、これが俺の正直な解答だよ」

俺の言った言葉の意味を考え、霞は黙したまま真剣な眼差しでこちらを射抜く。

しばしの思慮の後、霞は先ほどと同じように再び俺に声を掛けてきた。

「アンタが最後に何をしたいかは、よう分からんけど、当面の目標が天下取りっちゅうんはよう分かったわ。ま、天下を掲げてるんなら今のウチにとっては、ただの敵や」

「今はそうだろうね、今後どうなるかは分からないけど」

「ないない、何考えとるかよう分からんのを大将に掲げるんはウチの性分や無いわ。ほな、ウチは行くで」

「ああ」

別れの言葉を交わした後、お互いにその場を退いて各々が為すべき事のために行動を起こす。

伝令を使えば他の諸侯にこの取引が知られる可能性がある為、俺は諜報員を通して今の内容を星に伝えた。

星自身、敵とは言え恐怖で半狂乱になった敵を一方的に命を刈り取る今の現状を余りよく思っていなかったので快諾。

霞のお陰で敵が迅速に引いた事もあり、他の諸侯が汜水関に到達する前に完全制圧する事に成功した。

 

 


 
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