『弱いな、弱過ぎる…』
「ぐ、テメ…!!」
壁の破壊されたリニア車両。
その内部にて、黒騎士によって一気にボロボロな状態に陥ってしまったロキ。うつ伏せに倒れているところに、黒騎士によって容赦なくその背中を踏みつけられている。
『その程度の力で、よくこれまで生きてこられたものだな。これでは守りたい物を守れなくなってしまうのも時間の問題か…』
「ッ……随分、と…勝手な事を……言ってくれんじゃねぇ、か…!!」
ボロボロになってもなお立ち上がろうとするロキだったが、黒騎士の踏みつける力の方が圧倒的に強くなかなか立ち上がれない。
『…何故そこまでして、立ち上がろうとする』
「俺は……こんな所じゃ死ねねぇんだよ…!! 今までも、俺は……進むべき道を、自分で選んできたんだ…!!」
『ほう…? だが、ここで死ねば全て終わりだろう?』
「あぁ、そうさ……認めるかよ…こんな、所で……終わる事なんざよ…!!」
背骨がメキメキ音が鳴り始めてるにも関わらず、ロキはその苦痛に耐えながら意地でも立ち上がろうとする。
「だから……テメェを倒す…この戦いを、生き残る為にもなぁっ!!!」
『!』
ロキの口調が荒くなってきた事に気付いた黒騎士は、素早くロキの首を掴んで締める。
『悪いが、お前の“能力”は使わせんぞ』
「が………ち、く……しょ…」
首を絞められた事がトドメになったのか、ロキは身体中から力が抜けてその場に崩れ落ちていく。
『終わる訳にいかんのなら、もっと強くなってみせろ……キリヤ・タカナシ』
(!? 何、で……俺の、名…を…)
黒騎士が告げるも、ロキは直後に意識を失い完全に倒れ伏してしまった。ロキが気絶したのを確認した黒騎士は、腰の鞘から一本の剣を抜く。
-シュピィィィィィンッ-
『…すまないが、俺に不意討ちは効かん』
「ッ!?」
真後ろから槍状の弾幕を放ったガルムだったが、既に気付いていた黒騎士によって斬撃で掻き消されてしまった。
「…分かんねぇな。お前という奴が」
ガルムは警戒しつつも、黒騎士と正面から向き合う。
「お前からは、本来ある筈の生体反応というものがまるで感じられやしねぇ……お前、何で
『ほう……見ただけで、そこまで分かるのか。東風谷裕也』
「!? 何故俺の名を……お前、本当に何者なんだ?」
『俺の名は黒騎士……今の俺という存在は、それ以外の何者でもありはしない…』
「…まぁ何だって良いけどさ」
ガルムの両腕が、魔力で黒く染まっていく。
「うちの仲間がやられちまったんだからな……ちょっとばかりは、やり返してやんねぇと気が済まねぇんだよなぁ…!!」
『…やはり、そう来るか』
黒騎士も剣を構えたのを見て、ガルムも姿勢を低くした状態でゆっくりと構える。
「キ、キリヤ……どうして…」
認識阻害用のサングラスが割れてしまった影響で、ロキの正体に気付いてしまったフェイト。かつて自分の前から姿を消した男が、今こうして現場で見つかったのだ。あまりに突然過ぎる事態が続いて、脳内で現在の状況を整理出来ないでいる。
「そんな……何で…何でキリヤがここに…!?」
「チィ…!!」
フェイトが動揺を隠せないでいる中、非常に面倒な事態になった事を悟ったヴァーチェはすぐにリニアの方まで向かおうとする。
「悪鬼、あなたにだけは行かせない!!」
「!? 貴様ァ…!!」
しかし、それをなのはがさせない。無数の砲撃が飛来して来るも、ヴァーチェが張ったGNフィールドによって全て防がれる。
「我々の邪魔をするなど……万死に値する!!!」
GNフィールドで攻撃を防ぎながらも、ヴァーチェは右腕に装備したGNバズーカを胸部の太陽炉と直結させ、砲撃の構えに入る。
「消し飛べ!!!」
「なっ!? くぅ…!!」
避けないとマズいと直感で気付いたのか、ヴァーチェの繰り出した砲撃をスレスレで回避する。そして砲撃はそのまま直線上にいたガジェット達を次々と粉砕していき…
「なのは!! 今助けてや…ぶばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」
助ける仕種をしてなのはにアピールしようとしていた神崎も、その砲撃が直撃して再び撃墜されていってしまった。そして哀れな事に、そんな彼の惨劇に目を向けている者は誰もいない。
「はぁ、はぁ…!!」
先程までガルムと戦闘を行っていたミナキは、全身に受けたダメージに耐えながらも地面から立ち上がっていた。
「な、何が起きてるの……こんなの、私は知らない…!!」
ミナキが見上げるリニア車両の屋根上では…
『ムゥンッ!!』
「ぬぉっと、この…!?」
車両の屋根を走りつつ、ガルムと黒騎士が激戦を繰り広げていた。黒騎士はミナキの能力とは比べ物にならない程の猛スピードで攻撃を繰り出し、流石のガルムも防御に徹するのが精一杯な状況にまで追い込まれていた。
(くそ!? こいつ、文と同じかそれ以上のスピードだ…!!)
最初は黒騎士のスピードに付いて来れていたガルムだったが、黒騎士の攻撃スピードが少しずつ速くなっていき、とうとうガルムでも完全には反応し切れない程のスピードとなっていた。これまでになかった事態に追い込まれた事で、ガルムは思わず舌打ちする。
『どうした? お前も所詮、その程度なのか?』
「ッ…おいおい調子に乗っちゃいけねぇぜ、この甲冑野郎がよ!!!」
『!?』
挑発されてカチンときたガルムは振るってきた剣を強引に弾き飛ばし、黒騎士の胸部にカウンターによる一撃を炸裂させる。攻撃が命中した事で爆発が起こり、煙で黒騎士の姿が見えなくなる。
(少しは喰らってくれよな…)
その直後…
『フンッ!!』
「な…がぁっ!?」
煙の中から、無傷の黒騎士がガルムの首元を掴んで来た。
『温いな……お前の持っている力は、こんなものではない筈だが?』
「…言ってくれんじゃん。そこまで無傷だと、こっちもいくらかプライドが傷つけられるな」
ガルムの周囲が、少しずつ温度が低くなっていく。
「んじゃま…………チョットバカリ、本気出シチャッテモ問題ハ無イヨナァ?」
『ほう……それもそれで、面白いかも知れんな』
ガルムの瞳からハイライトが消えたのを見て、黒騎士は興味深そうに呟く。
その時…
-ドシュンッ!!-
『ッ!?』
「!?」
黒騎士の兜に、謎のビーム射撃が連続で命中する。それが原因でガルムを掴んでいた手が離れ、その隙にガルムは素早く後方に下がる。
「珍しいな、お前でも簡単に倒せないなんて」
「okakaカ……ロキハドウシタ?」
「心配ねぇよ。部下達が既に回収済みだ」
ビーム射撃の正体は、ジェットスライガーに乗っているファイズが構えたフォンブラスターによるものだった。ジェットスライガーの後方には、戦闘不能となったロキを抱えているライオトルーパーの姿もある。
「それとガルム、ここで本気を出すのは控えとけよ。ここは無人世界じゃないんだ、勝手に本気出して暴れたりなんかすれば、いくら団長でも黙ってねぇぞ?」
「…あぁ、分かってるさ」
ファイズの忠告を受け、ガルムは瞳にハイライトが戻り周囲の空気もいつも通りの気温に戻る。そんな彼等の前方では、無傷の黒騎士が先程弾かれた剣を拾っていた。
『岡島一城……相変わらず、良い射撃だ』
「!? おいおい、何で俺の名前を知ってやがる…?」
『答えられる事は何も無い』
黒騎士は一回だけ剣を素振りしてから、再びガルム達と向き合う。それを見たガルム達も同じく一斉に構えたその時…
『okaka、ガルム、聞こえるか?』
「「!」」
ファイズとガルムの通信機から、二百式の声が聞こえてきた。
「何だ? こっちは今、色々とヤベぇ状況なんだが」
『そっちの状況は把握している。ロキを回収して、一度
「な、おい待て二百式!? まだレリックの回収が出来てねぇぞ!!」
『ロキの治療が最優先だ。それにこれは俺の命令じゃない、団長の命令だ』
「!? 団長の…!!」
「仕方ないか……okaka、一旦引こう」
「…あぁ、そうだな。総員、撤退するぞ!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
ファイズの指示を受けたライオトルーパー達は、一斉に空間転移で撤退し始める。
「あ、皆逃げちゃうよ!?」
「待ちなさい、逃げるつもり!?」
「あぁ逃げるつもりさ。お前等もちゃっちゃと逃げないと、あの甲冑野郎はマジでヤベぇぞ?」
「!! ま、待ってキリ―――」
フェイトの言葉を最後まで聞かないまま、ファイズとガルムもその場から転移していなくなってしまった。
「ッ……キリヤ…」
『…フン』
フェイトは空中に浮いたまま呆然としてしまい、黒騎士は剣を鞘に納めてその場から移動する。
「ん、通信…?」
一方、miriの方にも通信は来ていた。
『聞こえるか、miri』
「二百式か。どうした?」
『緊急事態だ、ロキが謎の人物にやられた』
「!? ロキがやられただと、おいおい何の冗談だよそりゃ!?」
『冗談ならこんな通信はしない。ロキはokakaやガルム達によって回収された、お前も一旦
「団長の……チッ、分かったよ」
miriは舌打ちしてから通信を切り、その場から転移して撤退する。
「!? 撤退命令だと…!!」
同じく通信を受けたヴァーチェは、なのはに一発の砲撃を放ってから撤退の準備をする。
「残念ながら、今回はこの辺りでお開きのようだ。またいずれ会うとしよう」
「な、逃がしませんよ!!」
「では、さらばだ」
なのはがバインドを繰り出そうとするも、ヴァーチェはすぐさま転移して姿を消してしまった。
「シャーリー、転移先は!?」
『すいません……反応、ロストしました」
「ッ…逃げられちゃったか…」
反応を追う事も出来ず、なのはは悔しそうな表情をする。
それから数分後、結局レリックの入ったケースは機動六課の手に渡る事となるのだった。
『……』
ミッドチルダから姿を消した黒騎士。彼は現在、とある次元世界に転移して来ていた。
『…進むべき道を自分で選んできた、か』
リニア車両での戦闘で、自身が撃破したロキから聞かされた言葉。それが今も、黒騎士の脳裏に思い浮かんでいた。
『俺も足掻いてみせよう。たとえ運命が、始めから決められていたとしても…』
そしてそのまま、闇の中へ溶けていくかのように消えて行くのだった。
「…遂に動き始めましたか、黒騎士」
リニアで発生した戦闘の一部始終を映像で眺めていた竜神丸は、若干だが忌々しそうな表情で黒騎士を見据えていた。
「今更、何をどう抵抗しようというのでしょうか……“アレ”に逆らう術など、何処にも存在してはいないというのに…」
「何の話をしているんだ? 竜神丸」
「…!」
竜神丸の背後に現れた男。その男の姿を見て、竜神丸は小さく笑みを浮かべる。
「おや、ようやくそちらの仕事が終わったようですね」
「何とかな。出来る事なら、そう何度もやりたくない仕事だったよ」
「それはそれは。お疲れ様です」
竜神丸が労いの言葉を告げるも男はそれにあまり反応を見せず、椅子に座ってコーヒーを飲む。
「…それで、そちらでは何が起こった?」
「えぇ、その事なんですが……黒騎士が遂に動き出しました」
「! …そうか」
「それと、その黒騎士によってロキさんも敗北した模様で」
「…何?」
ロキが敗北した。その言葉を聞いて、男はほんの僅かに反応を見せる。
「あのキリヤが?」
「はい。手も足も出ずにやられてしまったようです。今は医務室でしっかり休まれています」
「…あの馬鹿め」
男が椅子から立ち上がる。
「む、どちらへ?」
「医務室だ。手も足も出ずに負けるとなっては、俺が少しばかり鍛え直してやらないといかん」
「あらあら……まぁ何にせよ、程々にお願いしますよ? あなたが暴れるとあっては、この
「あぁ、分かっているさ」
「これでも俺は、タカナシ家の長男なんだ。流石に自重くらいはいくらでもするさ」
男―――ソラ・タカナシは、両手をパキポキ鳴らしながら告げるのだった。
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黒騎士、見参