No.670217

島津一刀と猫耳軍師 2週目 第25話

黒天さん

今回は優雨さんの話しと、詠のデレ回です。

2014-03-12 22:24:59 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:7470   閲覧ユーザー数:5350

「はっ!」

 

「当たらないわよ!」

 

仕事が早めに片付いて、やることもなかったので城内をぶらぶらしてるのはいつものこと。

 

それで例によって勝負してる人物を見かけたので見学中、なんだけど。今日は組み合わせが珍しい。

 

天梁と優雨が勝負していた。

 

もともと刃の無い武器の優雨はそのままいつもの武器で、天梁のは多分、鏃が無い矢を使ってるんだろう。

 

優雨が次々に打ち込まれる矢を躱し、あるいは叩き落とし、反撃の隙を伺ってるように見える。

 

距離があいていては天梁の方が有利か。

 

「そこ!」

 

一気に距離を詰める優雨、そこで天梁は矢筒に手を伸ばし……。

 

勝負あったかな、多分距離を詰められる方が早い。

 

優雨が上段から錫杖を思い切り振り下ろす。同時に激しい金属音。

 

「むっ、やっぱりそうくるのね……!」

 

「いきますよ!」

 

天梁は錫杖を鉄製の矢で受け止めていた。

 

天梁はその矢でもって優雨の錫杖を打ち払い、右足を振り上げて蹴りかかる。

 

靴底に鉄板でも仕込んでるんだろうか、その蹴りを錫杖で受け止めると金属音が響く。

 

ていうか天梁、近接戦もいけたんだな。本当にオールラウンダーだなぁ。

ただやっぱり弓矢の方が得意なのか優雨の方が押し気味だけど。

 

天梁も負けじと鉄の矢を振りかざし、あるいは蹴り、反撃していく。

 

優雨も押してるとはいえ、距離をとった瞬間矢をいかけられるからど近接で殴りあうしか無いのが辛そうだ。

 

「あ……」

 

ハイキックを打ち込もうとした天梁がこちらに気づいたのか小さく声を上げ、慌ててスカートを押さえつけた。

 

そりゃー、ミニスカートで蹴り技多用すればなぁ、普通に見えちゃうよ、うん。

 

「隙あり」

 

「はうっ……」

 

優雨もさすがにそこを思い切り殴るような事はせずに、軽く小突いただけ。

 

「い、いつから見てたんですか?」

 

「ん、近接戦に移る前から」

 

「はう……」

 

「次から中に何かもう一枚着る事をおすすめするわ」

 

恥ずかしそうに赤くなってあうあうとやってる様子はなんだか天泣にそっくり。

 

やっぱり姉妹だなぁ……。

 

「き、休憩がそろそろ終わるので仕事に戻りますっ」

 

そういって天梁は自室の方に逃げるように去っていってしまった。

「……、実際見たのかしら?」

 

「見てない」

 

見たけどね、パンスト越しだったけど。

 

ここは見てないといっとかなきゃダメだろう……。

 

「じゃあそういうことにしとこうかしら。それで、今日の仕事はもう終わりなの?」

 

「まぁね、今日の仕事分は終わり。あと残りの時間はどうしようかって考えてたとこ」

 

「そ、なら私の仕事にでも付き合ってもらおうかしら?」

 

「いいよ」

 

即答するとエッ? っていう顔をされた。冗談のつもりだったらしい。

 

「えーっと、優雨の今日のこの後の仕事っていえば、確か警邏だったっけ?」

 

「そうよ、だから手伝ってもらうことは無いわよ? というかよく他人の仕事まで覚えてるわね」

 

「警邏とか演習とか、時間の決まってるのは大まかには覚えてるよ。

 

ま、一人で警邏いくより2人のがいいだろうしついてくよ」

 

「ま、まぁいいけど……」

 

そういうわけで、優雨と一緒に街にでて歩く。

警邏といっても変わったことをするわけでもない。

 

トラブルがあれば動くけど、俺の場合街の観察って言ったほうが近いし。

 

「おや、島津様じゃないですか。2人でお出かけで?」

 

「今日は警邏だよ。逢引なら良かったんだけどね」

 

「そういや、この前糜芳様と逢引してたの、見ましたよ?」

 

うわぁ、あれ見てたのか、恥ずかしいなぁ。思いっきり腕に抱きついてたからなぁ、天泣……。

 

「恥ずかしいとこ見られちゃったなぁ。それより最近景気はどう?」

 

「いやー、さすがに冬場はね、果物屋は売る物が無いから」

 

「あー、やっぱり?」

 

「なんてね、冬はコレを売るんでさ。島津様もどうぞ」

 

そういって、店のおじさんがくれたのは干し柿。干し柿か、何か懐かしいなぁ。

 

「冬は乾物屋に早変わりってね。っと、警邏ならあんまり引き止めちゃ申し訳ない、また来てくださいよ」

 

「はは、ありがと」

 

「……、手伝いっていうよりどっちかといえば邪魔な気がするわ」

 

何だか若干不機嫌そうな様子で、ジト目でこちらを見ながら優雨がそういう。

 

「優雨も食べる?」

 

「あ、いただくわ、ってそうじゃないわよ……」

 

「町の人と交流するのも大事だとおもうけどね、俺は。うん、うまい」

 

干し柿をもぐもぐとやりながら歩き始める。

 

なにか物言いたげながらも、干し柿を食べながらついてくる優雨。

何だか今日はトラブルが多く、菓子屋の夫婦喧嘩の仲裁に入ったり、

 

食い逃げが居たので捕まえたり……。

 

「……、ずいぶん街の人に好かれてるのね。

 

あなたが顔を出した途端に夫婦喧嘩がピタリととまるし……」

 

「まぁ、あの菓子屋は顔なじみだし……」

 

ていうか、何で幽州に居たはずの菓子屋の姉さんが洛陽にいるんだ……?

 

見かけてから、やっぱりケーキの作り方を教えて作ってもらうようにしてるけど。

 

あと、ダッチオーブン作ってもらった鍋屋もあったしなぁ……。こちらも同じく、また作ってもらってる。

 

それから、鉄扇の制作、修理をしてくれた鍛冶屋もあった。こっちも今、武器を発注中。

 

あとは、華雄の着物やら月と詠のメイド服やら買ったやたら品揃えが良くてお手頃価格の服屋。麗ちゃんのメイド服注文したのもここ

 

前の時、俺の評判聞いて他の街から流れて来た人だったら、洛陽に流れてきててもおかしくはないんだけど。

 

商人の誘致は相変わらずやってるし。

 

見たことある顔が一杯あるから嬉しいのは嬉しいんだけどね。

 

「優雨も街の人ともっと話ししてみたら?

 

街の人をよく見て、話しを聞くのも政に携わる者としては大事だとおもうよ」

 

「まぁ確かにその通りね」

 

「ん、よろしい」

 

頭を撫でようとすると、さりげなーく避けられた。

 

ちょっとショックだった。

───────────────────────

 

「眠い!」

 

思い切り背伸びをしてみる物の眠気がなんとも収まらず。

 

いや、原因ははっきりしてるんだけどさ。

 

「あはは……、ごめんなさい」

 

「いや、麗ちゃんは悪くないってば! ……、でも冬にこの暖かい部屋はダメだ、ものすごい眠い……」

 

そう、これでもかっていうぐらい温めてる部屋が原因なんだよな……。

 

燃料費は自腹。ダッチオーブンやらケーキやらの技術料でそこそこ財布が暖かいしこれぐらいなら問題無い。

 

お昼ごはん食べてしばらく仕事して、丁度眠くなる頃合いだし。

 

「でも仕事に支障が出るし、申し訳ないけどあっちで仕事してくるよ、麗ちゃんはこっちでのんびりしてて。

 

あと、1刻に1回は換気するように」

 

「はい、では私は部屋のお掃除でもしておきます」

 

あっち、というのは月と詠が作ってくれたほうの自室の事。

 

あっちは極寒なんだろうなぁ。

 

火のついた炭をいくつか皿に入れて持って行こう……。

 

必要な書簡と炭を台車に積んでと。

何でさらっと台車が出てくるかって?

 

そりゃあ、作ったからだけど。良く本屋とかで見かけるアレにそっくりなのを。

 

ちなみに本体は木製で車輪は青銅製。この時代にボールベアリングなんてあるわけないから、取り回し悪いけど。

 

書簡はかさばるからなぁ……。

 

ちょっとした物を運ぶのに便利だっていうんでこれがまた売れる事売れる事……。

 

車輪をちょっと大きめに作ってあるから石畳なら問題なくいけるし、ゴムの代わりに皮を張って振動を軽減させたり。

 

問題は機械油的なものが無いあたりだったんだけど、こればっかりはどうしようもないんで料理の廃油を利用。

 

という風に色々工夫してみた結果使い勝手はかなりよくなった。

 

書簡運ぶのも一苦労だったもんなぁ、台車作る前は。コレ作ったおかげで部屋の移動が楽に。

 

「ん?」

 

部屋についたはいいけど、中から人の気配がする……。

 

気配を殺して少しだけドアを開けて中を覗く。

 

あの後ろ姿は詠か? メイド服じゃなかったから一瞬わからなかったけど。

 

俺の服を手に取って、ぎゅーっと抱きしめてみたり、それに袖を通してみたり……。

 

詠なら不審人物でもないから部屋に居るのはいいんだけど。

 

でも良からぬ事をしてるしちょっとお灸すえとくか。

音を立てないように素早く部屋に入り、詠の背後に忍び寄って。

 

「動くな……」

 

なるべく声を低くして、左手で口を抑えて、右手で首に筆の柄を当てる。

 

「……っ!」

 

びくりと体を硬直させて、それから顔から血の気が引いていき、小刻みに体が震え始める。

 

突然の事に首に押し付けられてる物が丸いとか、そのへんには気が回らないらしい。

 

ま、これぐらいで勘弁してあげようか。

 

「俺の部屋で何やってるの? 詠」

 

「か、一刀……?」

 

そういって両手を離すと、詠は振り向いて俺を確認したかと思えば、その場にへたり込んでしまった。

 

うーん、詠なら食って掛かって来るかと思ったけど、ちょっと脅かしすぎたかな。

 

声がひっくり返っちゃってるし。

 

「そ、俺だよ」

 

「お、お、驚かすんじゃないわよ!」

 

「いや、驚いたのは俺の方だけど。ほんとに何やってるの? それ」

 

「あ……」

 

「ま、申開きはじっくり聞くよ。現行犯だし」

 

そういって廊下に置きっぱなしの台車を部屋に持ってはいって、火鉢に炭を入れて。火鉢に土瓶を乗せてと……。

 

冬場は火鉢で湯を沸かせるのが便利だよなぁ。

詠はといえば、言葉を失って、さっき青ざめていた顔がみるみる赤くなっていく。

 

可愛いなぁ……。

 

「黙秘は……」

 

「ダメ」

 

「話すまでボクを帰さない気?」

 

「うん」

 

悔しそうな恥ずかしそうな顔をしてその場に立ち尽くす。

 

何かイタズラを見つかって叱られてる子供みたいだなぁ。

 

「……ぃ」

 

「ん?」

 

「昼休みにうたた寝してたら、変な夢を見てどうしようもなくなって、

 

気がついたらここでこうしてたのよ! 悪い!?」

 

「変な夢?」

 

「夢の中身は覚えてないけど、急に、その……」

 

ひょっとして、紫青や桂花が見たっていう、『感情』が一気に戻ってくる夢を見たのか……?

 

思い出してから聞いた話しだけど、桂花はそれが原因で袁紹の所から飛び出して俺を探しに出ちゃったらしいし……。

 

紫青は……、どうにか押さえ込んでたらしいけど。その積み重ねがこの前のけだものだったそうな。

 

それで今日はなんか、ツンツンした感じが少ないのか。

「でも、どうしてそんなことしたの?」

 

まぁいくら俺が鈍くたって分かるけど、それでも詠の口から聞きたくて、問いかける。

 

前の時は詠の口から慕ってるとか好きだとか、一言も聞いたこと無かったから。

 

「どうだっていいじゃない」

 

「んー、詠だったらさ、俺が詠の部屋でさっきの詠みたいな事してたらどうする?」

 

「……、蹴り倒して後悔するまで殴り倒してやるわ」

 

「じゃあ、俺も罰則だそうかな」

 

「何よ」

 

「俺の真名、返して?」

 

俺がそう言った瞬間、詠の顔が一気に青ざめていく。

 

「……本気? それ、絶縁状叩きつけてるのと大差無いのよ!?」

 

「じゃあ聞かせてくれる? 詠がなんでこんなことしたか」

 

「……、そこまでして言わせて嬉しい? そうよ!

 

あんたのことが気になってしょうがなかったのよ!

 

頭撫でてもらってる天泣が羨ましかったし、抱きしめて欲しいとか思ったし、

 

く、口付けだってしてみたかったし、でもそんなこといえるわけもないから……っ!?」

その手を取って引き寄せて、ぎゅっと抱きしめて。

 

詠は抵抗する事もなく、俺の腕に収まった。

 

「やっと聞けた。前も気づいてたけど、結局詠の口からは聞けなかったからさ。

 

やっぱり詠の口から直接聞きたかったから」

 

「だったら、真名を返してくれっていうの、撤回してよ……」

 

頷いて、軽く頭を撫でる。そうすると照れくさそうな表情に代わり、先ほどの青ざめた顔はどこへやら、また顔を赤くして。

 

「口付け、する?」

 

「改めて聞くな!」

 

「じゃあ聞かない」

 

そういって詠の唇を奪う。いざ唇を重ねてしまえば大人しく、されるがまま、といった様子。

 

「んっ!?」

 

抱きしめてて逃げられないのをいいことに、思いっきりディープキスしてあげた。

 

時々ぴくっと体を震わせたり、鼻にかかった声が漏れたり。

 

「な、なんてことするのよ……」

 

ようやく解放したときには、ぽーっとした表情で、口のはしからよだれが垂れてたりするのが妙になまめかしい。

 

何だか足元ふらふらしてるし。手を離してあげても離れる気はないらしい。

 

「あんた、まさかとはおもうけど、このまま生殺しにしたりしないわよね……?」

 

仕事が残ってるんだけどなぁ、何て思いつつ。

 

まぁ、残った分は明日残業しよう、と考えて。

───────────────────────

 

今まで素直じゃなかった分、デレたとおもったらすごかった。

 

何がって甘えっぷりが。

 

「一刀ぉ……」

 

詠のこんな甘えた声初めてきいたよ、いやほんとに。

 

事が終わった後だけかもしれないけど。抱きついたまま離してくれないし。

 

「普段もこれぐらい素直だったらなぁ」

 

「イヤよ、恥ずかしい……」

 

「じゃあ、こういうのは?」

 

そこで俺は一つ詠に提案をする。

 

詠はその提案に頷いた。

 

余談だが……。

 

「どうして詠なの!? ねぇ、なんで詠と寝たの!?」

 

翌日、涙目の桂花に首を絞められた。どーにも、朝に俺の部屋から出て行く詠を見たらしいのだ。

 

そういえば桂花は詠と相性悪いんだった……。

 

「私が素直になっちゃったからダメなの!? 罵らないとだめなの!?」

 

桂花に機嫌を直してもらうのにすごく苦労した。その日と翌日の2日続けて桂花が夜襲かけてきたし……。

 

───────────────────────

 

一方その頃

 

「詠ちゃん……、抜け駆けしないって約束したのに……」

 

「そ、そそ、それは、その……」

 

「詠ちゃん……」

 

「ハイッ!」

 

めったに見ない黒い笑みを浮かべながら、月が詠に迫る。

 

「覚悟はいいかな……?」

 

「イヤアアァァァ!?」

 

それから数時間後、妙にやつれた詠が虚ろな目で歩いているのが目撃されることとなった。

 

何があったのかは詠は決して語ろうとしなかった……。

 

 

あとがき

 

どうも黒天です。

 

今回は詠にデレてもらいました。

 

どうやって本音話してもらおうかなーっておもって思いついたのが「真名返せ」でした。

 

この後に対袁紹戦の予告が入りますが、中身の台詞等がそのまま使われるとは限りません。

 

タイトルについては2週目第一話のナラヤさんのコメントから取りました。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。

 

 

「嘘やろ……?」

 

呆然と霞が視線を落とすのは見るも無残に叩き折られた自身の獲物。

 

「罠を張りましょう、成否は問題じゃありません、必ず報復に来ます」

 

「私が囮になろう」

 

軍議の最中、思わぬ人物が名乗りを上げる。

 

「死ね」

 

ただ只管武器を振るい、屍の山を築き上げる者。

 

兵は悲鳴を上げ、

 

あるものは勇敢に立ち向かい、首を刎ねられ

 

あるものは逃げ惑い

 

あるものは放心状態で立ち尽くす。

 

兵は口をそろえて言う。

 

あれは冥府の使いだ、と。

 

「ご主人様……?」

 

言葉への返答の変わりに向けられるのは刃。

 

屍の山を築き上げる者は、知っている、ほぼ確実に血の雨を降らすことが出来る魔法の言葉を……。

 

「さぁ、2つにわかれた間違いを正そうじゃないか……」

 

男は口角を釣り上げ、楽しそうに笑った。

 

対袁紹軍、悪夢の一夜~覚醒、妖怪首置いてけ~

 

「あなたは、───を覚えているかしらん?」


 
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