No.668426

アマノガワサワガニのぼうけん〈三次創作〉

きのすらさん

三次創作
星の意志

2014-03-06 02:03:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:408   閲覧ユーザー数:408

アマノガワサワガニのぼうけん

 

天の川の近くにある泉に、小さな虹色のカニが住んでいました。

小さなカニはいつも美味しいご飯を食べたり楽しい遊びをしていましたが、ある時泉の底にちらちらと街が見えることに気がつきました。

街ではたくさんのニンゲンがせわしなく動いていて、まだ幼い小さなカニにはそれがとても楽しそうにみえるのです。

「ボクもあの街にいきたい」

そう思った小さなカニは、天の王さまにないしょでこっそり地上へおりてみることにしました。

 

天の川から西に行ったあたりにある、雲でできた長い長い階段をおりていくと、だんだん空気がよどんできました。

「ゲホッゲホッ!なんだこれ!」

小さなカニは驚いて戻ろうとしましたが、そのときでした。

お日様がしゃんしゃんと金の鈴を鳴らしながら登ってきて、雲の階段がどんどん消えて行くのです。

「うわあっ!誰か助けて!!」

小さなカニは急いで階段を駆け上がろうとしましたが、階段はもうすっかり消えてしまっていて、足をかけるところももう真っ白な煙になってしまっていたのでした。

小さなカニは天の川に帰れなくなってしまったのです。

「どうしよう、お母さん、お父さん」

上を見上げても、真っ青な空しかありません。

とたんに小さなカニは胸の中がわっと重くなって、泣き出してしまいました。

「やっぱり天の王さまにないしょで来たからいけないんだ」

地上はからからで、見たこともない草や灰色の木が生えていて、びかびか光っているのでした。

どれもこれも、小さなカニには初めて見るものばかりです。

 

喉がかわいた小さなカニは、水を探すことにしました。

しばらく歩くと、緑色のため池を見つけました。けれども変なにおいがするのでおそろしくなり、小さなカニは水を飲むのをやめました。

もうしばらく歩くと、今度は大きな泉に出ました。いそいで水辺に駆け寄りましたが、今度は口が届きません。

「もう帰りたいよ、お母さん、お父さん、天の王さま、ごめんなさい」

小さなカニはは上を見上げてわんわん泣きました。しかし、とんびがばかにしたようにくるくると回って飛んでいるだけで、天の川の影も形もありません。

 

そのうち泣きつかれて眠っていると、ぽつりと頭の上に水が落ちて来ました。

「わあっ、なんだこれ」

雨を知らない小さなカニは驚きましたが、落ちて来る水が美味しかったのでとても元気になりました。

「わあい、お水だお水だ!」

ハサミを振り上げて喜んでいると、突然大きな誰かに持ち上げられました。

びっくりした小さなカニは体をガタガタと震わせて目をぎゅっとつむり、

「ああ、ぼくはもしかしたら食べられてしまうのだろうか」

と思っていたのですが、いつまでたっても食べられる気配はありません。

 

何事だろうと恐る恐る目を開けてみると、帽子を目深にかぶった、あわく光る誰かが小さなカニをつまみ上げているのでした。

光っている人を見たのは天の王さまをのぞけば初めてです。小さなカニはかしこまりました。

「あなたは誰ですか、光っているから神様なんですか」

「うん、わたしは方位命というんだよ、ぼうやはここの生き物ではないようだけれどいったいどうしたことなのか」

帽子のせいで顔は見えませんが、その人は優しい声音で小さなカニに語りかけるのでした。

「ぼく天の王さまにないしょで天の川からここに来てしまったんです」

泣き出しそうになりながら小さなカニは答えました。

方位命はふむ、とうなずいて

「ああ、それはいけない。今ごろ天の王さまはとても心配なさっているよ。けれど安心しなさい、今から私が天に返してあげようね」

と言うと、突然小さなカニを放り投げ、持っていた杖をぐっと握り大きく振りかぶりました。

「わあ」

小さなカニは野球の球のようにはじかれ、空がぐんぐん近づいてきます。

「気をつけてお帰りよ」

「ありががとうございます」

手を振る方位命がどんどん小さくなったかと思うと目の前が真っ白になり、それから小さなカニはたくさんの星に囲まれました。

天の川を通り抜けたのです。

 

そのままふわふわと天の川のほとりに着地した小さなカニは、いっさんに駆け出します。

お母さんが小さなカニを見つけて走ってくるのが見えたのです。

「お母さん、ごめんなさい」

「まったくおまえという子は!天の王さまにたくさん怒ってもらいますからね!」

お母さんはそう言って小さなカニをぎゅっと抱きしめました。とたんに小さなカニは安心してわっと泣いてしまいました。

 

 

「そうですか、方位命神があなたを。ではお礼をしないといけませんね」

水晶のお宮へ挨拶にいくと、金の屏風の前に座った天の王さまが笑ってそう言いました。

やはりあの神様はほんとうの神様だったのです。

「もうかってに色んなところへ行ってはいけませんよ」

そう言われて小さなカニは深く頭を下げました。

 

それからというもの、小さなカニはどこへ行くにもちゃんとお母さんに話すようになりました。

いつか小さな妹や弟ができて大きなカニになったら、ちゃんとどこかへ行かないようめんどうをよく見るお兄さんになろうと決めた小さなカニは、とても良い子になることでしょう。

 

とっぴんぱらりのぷう

 

〜後日談

 

「おや北天帝、あなたが地上に来るなんて珍しい」

「この度はありがとう存じます、わたしの眷属がご迷惑をおかけしました」

緑生い茂る小さな庵で、帽子を目深にかぶった方位命と、落ち着いた藤色の袿をまとった幼い北天帝が向かい合っていました。

「これを、よろしければ……」

「おや、もったいのうございます」

漆塗りの箱には天の川特産の「星空金平糖」と書かれた美しい包紙がされており、さっそくお茶請けにと方位命が蓋をとった瞬間

 

「とげェ?」

 

箱の中にみつしりと詰まつてゐたとげいぬが、丁度げっぷをしているところでありましたとさ。

 


 
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