No.666562

愛情のすれ違い

瑜月ゆりさん

ここのつ者のバレンタイン企画で梨苺ですー

金烏梨/玉兎苺/遠山黒犬/黄詠鶯花/魚住涼

2014-02-27 17:25:26 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:361   閲覧ユーザー数:358

もう、もう、もうっ!!りんなんて知らないっ!

 

『ばれんたいん?なんだそれは。』

 

『知らん、そんな行事。菓子が欲しけりゃ他へ行け。』

 

本を読みながらぞんざいに言う金烏梨を玉兎苺は頭の中で思い返していた。

嘘つき嘘つき。りんの嘘つき。本当は知ってるくせに。りんが読んでいた本を以前何気なくめくったときに書いてあったことを苺は覚えていた。

いつも冷たい梨。でも、今日ぐらいはきっと。そう思っていたのに。

ずんずんと進めていた歩みを止める。熱くなっていた頭がだんだんと冷えてくる。

 

酷いこと、言っちゃったかな。

そういえばここどこだろう。

 

 

「どこ行ったんだ、あいつ…。」辺りを見回すが見当たらない。てっきりここらへんで遊んでいるものかと…もっと遠くへ行ったのだろうか。

 

『りんなんて、嫌い!!』

ふは、とため息を吐いた。ちょっとやり過ぎたかな。

 

台所にいる魚住涼と黄詠鶯花に尋ねる。

「苺を見なかったか?」

「苺ちゃんですか?うーん見ませんでしたね…。」

「僕もちょっと…いないんですか?」

大したことはない、と言って台所を出る。室内にいる二人が見ていないのだから室内にはいない、か…。

梨が頭をかいて悩んでいると、遠山黒犬が視界の隅に入った。

 

「おい、黒犬。お前に頼るのはひじょーに、ひじょーーーーーに癪だが、が、事態が事態だからしょーがない…」苺といることが多い彼だ。回数は私の方が断然上だがな!

「何がいいてーんだ?」梨がそんな苛立ちを抱えているとは知らず、どこからか取ってきた林檎をかじっている。能天気な奴め。

苺の居所を尋ねる。

「どこにいんのかはしんねーけど、ずんずんと森の方へ歩いていくのは見たぞ。」

ほらあっち、と指さす方には木々が茂っていた。

梨は嫌ーな予感がした。

 

あんがと、と短く礼を言ってその場を後にした。

 

 

「ふえ~…ここどこぉ?」

もう軽く涙目になっていた。方向も特に考えず突き進んだ結果がこれだ。気づけば周りは生い茂る木ばかり。固かった地面もいつの間にかぬかるんで、泥が跳ねる度に小さく悲鳴をあげた。

これこの前新しくしたばかりなのに~。

まだ昼間なのにそこは暗かった。ガサガサと奇妙な音がして、鳥が羽ばたく音にすら怯えてしまう。

 

「誰かーいませんかーいるならいるってー」言ってくださーい…声は虚しく響くばかり。

ぐっと、寂しさと恐怖をこらえる。泣かない、泣かないもん。口をかたく結んで、おまじないを心の中で唱える。梨が教えてくれたものだ。

きっと、りんが迎えにきてくれる。…でも、嫌いなんて言ってしまった自分のところに来てくれるだろうか。りん、いちごのこと嫌いになっちゃって、それで、いちごがいなくなっても心配なんかしてなくて、それで。

 

涙をこらえようとすればするほど景色が滲んだ。一歩踏み出すと視界が回った。

「いったぁ~い…」膝の痛みがじわじわと弱った心に染みてくる。見上げてもいつも差し伸べられる、自分を起き上がらせてくれる手はない。しょうがないな、と呆れた顔もない。

どうしようもない孤独感。

 

もう、むり…

 

 

「なーくなー泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな泣くな!!!!!お前が泣いたら地球が滅亡!!この世の終わり!!お願いだから一滴たりとも地面に落とすなよお願いします!!!」

 

後ろの茂みから音がしたかと思えば突然泥が跳ねて、奇跡的にそれをかわすと泥んこだらけで、ぶっ倒れてる黒い塊があった。

しばらく立ち上がる気配がなかったので、ちょんちょんとつつく。つついたその手を突然掴まれた。

 

「ひえっ」

「…無事か…怪我はないか…元気か…泣いてないか…泣いて…ないか…?」

「うっ、うん。泥んこだけど、ひざもちょっとすりむいたけど、ちょっとなきそうになったけど、だいじょぶっげんきっ!!」

「全然大丈夫じゃなくね、それ…」

 

むくりと起き上がる梨。よく見ると着物のあちこちが破れていた。

 

「りんのほうがけがいっぱい…」

「あったりめーだ。ここらへんの地形もよく知らないくせにずんずんと適当に歩き回るからこういうことになって私が探しに行くはめになったんだろうが!何回転んだと思ってる!」

 

十回、いや、二十回は転んだな!まあいい!早くここを出るぞ!

一方的に言いたいだけ言って苺をおぶさった。苺も言いたいことは山ほどあった。ありがとう、ごめんなさい…でも、今は黙っておこう。白い腕を梨の首に回す。

梨は迷いなく歩いていた。目印を残してきたらしい。道が開けてきて、あたりは真っ暗だった。苺が森に入ってから大分経ってしまったらしい。

 

とんだ一日だったな、と梨は呟いた。宿までもうちょっとだから、頑張れよ。うん、と苺は頷いた。そういえばおぶってもらったの何年ぶりかな。

梨も同じことを考えていたらしく、懐かしいな、と言った。あの頃よりだいぶ重いけどな。太っただろお前。えっそんなことないもん!背がおっきくなっただけだもん!りんのバカ!

ぽかぽかと背中を叩くと梨は笑った。苺も笑った。

 

笑いが収まると、沈黙が訪れた。先に口を開いたのは梨だ。

「ごめん。私が、悪かった。」

 

何となく、照れ臭かったんだ。ほんと、ごめん。

 

「…いちごも、酷いこと言ってごめんね。」

 

嫌い、なんて言っちゃって。

 

「まあ、普段大好きーなんて言われてる分にはいいんじゃないか?たまには。」

 

いちごはね、りんが世界で一番大好きだもん。首に回している手に力を込めるとぐえ、と梨が大げさに呻く。

 

「…私も、世界で一番、大好きだぞ。」

 

だからはい。梨が手渡してきたのは小さい桜色の箱。今は食べるなよ、夕飯前だからな。中身は言わなくてもわかってる。

 

「って今りん、大好きって言った!?」

 

「えーなんのことかなぁー」

 

「言った言ったぜったーい言った!!もう一回言って!」

 

「あ、月がきれいだなーほら見てみろー」

 

「もうっごまかさないで!もう一回!お願い!」

 

「ぎゃー揺さぶるなー重いんだからー!」

 

 

友人として家族として。一人の人間として。こんな私と一緒にいてくれるお前が…

 

ありがとう。

 

月夜に響き渡る二人の喧騒。

正反対な性格で、両極端で、たまにすれ違うこともあるけど。だからこそ、分かり合えるのかもしれない。

 

こっそりと心の中で思った。

 

 


 
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