No.65936

SFコメディ小説/さいえなじっく☆ガールACT:35

羽場秋都さん

フツーの女子高校生だった主人公・夕美はフツーでない父親のせいで、フツーでない体験をどんどんしておるわけでして、なかなか進まない話はまるで伝説の野球マンガのようですが、気長におつきあいくださいませ。

2009-03-30 00:17:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:729   閲覧ユーザー数:692

「直った…ゆうても急場しのぎ、っちゅうやっちゃ。メモリは生きとるみたいやが、液晶もあんまし長い間は点いてへんと思う。あ、そーっと、そーっと。ハンダ付けしてるわけとちゃうから荒うに扱うと壊れるで」と、とりあえず部品同士をくっつけた状態の元・携帯電話を亜郎の手に載せてやる。

「あ、ありがとうございます!───わわわ」

 考古学上の発掘物を扱うみたいにこわごわ受け取ると、文字通りの“壊れ物”であるが、ちゃんと液晶に文字が浮かんでいた。

 

 

 着信は何度もあったようで、どれもがメディア部副部長の平賀からのものだった。力を加えすぎないようにキーを押すのは至難の業だったし、液晶が割れているので所々読みづらかったものの、いずれも連絡を乞う、という内容で、やはりクレーン事故の続報と経過のことだった。

「あの事故のこと?」

「ええ。学校は休校でも、平賀先輩は…あ、彼はメディア部副部長なんですが、休校にもかかわらずこっそり登校して僕がいない間も例の屋上から取材を続けてくれているようです」

「あの屋上…あぶないことないのん?」押し寄せた人の波を思い出して夕美が尋ねる。

「ええ、いまは先生たちを別とすれば彼だけですからね、学校にいるのは。事故現場はあのとおり離れてるし、押しかけてくる野次馬もいませんから安全でしょう」

「テレビのニュース。観てみたら…」といいかけて、ふと夕美は頭上に広がる青空を見た。そこにはたしかテレビのアンテナもあったはずだが、たとえアンテナが残っていたとしても、肝心のテレビはリビングと一緒に消え去っていた。「あ。ははは。笑うしかないわ」

「いちおう、この携帯にはテレビ機能がついてるんですが…映るかどうか?」

 亜郎は時計職人のように背を丸くして床に置かれた壊れかけの携帯電話の操作を始めた。が、下手にいじるとすぐにでもバラバラになりそうな有様だったので、時間も掛かりそうだった。

「ところで夕美ちゃん」それを見越してほづみが声を掛ける。「ちょっと。こっちで訊きたいことがある」

「ん?なんやの、あらたまって。」

 ほづみは携帯電話の操作に余念がない亜郎まで声が届かない距離を見計らってから、夕美に小声でささやいた。

「…昨夜のこと蒸し返して悪いんだけど、あの時君はどれくらいスイッチ薬を口にしたか憶えてるかい?」

「あー、そやそや。お前、原液を飲んだんやろ。」

 いつの間にか耕介もそばに来ていた。

「飲む、いうてもあの激マズやんか。ペロッと舌先でねぶった程度や。それでも自分で舌をちぎり棄てたぁなるほどエグかったでぇ」

「無茶しよんなあ」

「ほんとだよ。原液はかなり濃いんだ。もしもこの前みたいにひと口、なんて飲んでたらもっと大変なことになったと思うよ」

「え」

 たしかにそうだろう。以前ドリンク剤と間違えてひと口含んで吐き出した時でさえ、出てきた未知のパワーで玄関から廊下を通して台所が吹き飛んだ。今回は指先についたハチミツ程度の量を舐めただけで、服も周りの空間にあったものすべてを───かばっていた亜郎を例外として───消してしまった。威力が服用する分量に比例するとなるとはかりしれない破壊力を生み出すのかも知れない。

 

 これを武器、兵器の観点から考えるならば、19世紀にノーベルが発明したダイナマイトや20世紀に発明された原子爆弾に匹敵する、新世代の超兵器の登場ということになる。しかも工場も複雑な仕掛けもいらない。ただ、その薬を適量飲むだけで良いのだから。

 夕美は背筋が凍る思いだった。自分はそんな恐ろしい物を口にしたのだ。しかも、昨夜の連中もそれを狙ってきたのに違いない。いや、昼間自分と亜郎を尾行してきた二人組も同じ目的だったのだ。

 

 昨夜はドタバタしまくっていたし、オチがオチだったので四人の侵入者をまじまじと見たわけではないが、すくなくとも昨夜の連中の中には昼間夕美をつけていた二人組は混じっていなかった。

 となれば、敵はまだ近くに残っているのか、さもなくば、ふた組いることになる。

「どどど、どないしょう、ほづみ君。また悪い奴らが薬を盗りに来るわ」

「やっと事の重大さが解ってくれてホッとしたよ。だからこそ、薬の正しい使い方を知る必要もあるし、効き目の正確なデータが必要なんだ」

「あたしは実験体か!?」

「しゃあないやないか。それを実際に飲んだんはお前だけなんやから」

「な、な、なんやとぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! お、お父ちゃんが、あ、あんなフツーのトコに、家の冷蔵庫にまぎらわしい容れ物に入れて並べといたからやんか!!」

「わっ」

 ぐしゃっ。夕美の突然の怒声に驚いた亜郎が手元を狂わせてしまい、調整中の携帯電話にトドメを刺したのだった。

「あ〜〜〜〜〜〜。」がっくり肩を落とす亜郎。

「あ………。ご、ごめん亜郎君」

「いや。ハハハハ。」

「まあ、一応メールチェックもできたんやろ?そしたらウチの電話から掛けたらええやん」

「ですね。…あっ。」

「今度はなんやのんな」

「ば…」

「ば?」

「番号…控えるのわすれてた…」

「───あほ。知らんわ。」

 

 手の中でバラバラになった携帯を見つめつつ、悲喜こもごもの顔をしながらも亜郎は一瞬、別のことを考えていた。

 大阪弁の女の子の“あほ”って、なんて可愛いんだろう、と。

 

 

〈ACT:36へ続く〉

 

 

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 (作者:羽場秋都 拝)

 

 

 


 
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