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真・恋姫†無双 異伝 ~最後の選択者~ 第三十話

Jack Tlamさん

今回は曹操軍や孫策軍との戦いと、その後の話です。

前回よりもさらに暗い展開になっています。では、どうぞ。

※アンチ展開・残酷描写有

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2014-01-30 21:23:01 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:9945   閲覧ユーザー数:6557

第三十話、『野望の輩』

 

 

―反董卓連合との戦いは続く。俺達は劉備軍を退け、朱里は曹操軍に、俺は孫策軍に当たる。

 

よりにもよってそれぞれの相手の最重要目標となっているのに、なぜこうするのか。それは曹操や孫策の醜さを知りたいが

 

為なのかもしれない。醜さあっての人間、しかしあの二人はあまりに一方的だった。

 

俺達はそれぞれの敵に向かう。手にする刃を煌めかせ、心の中に炎を宿して―

 

 

 

―白十字隊の機動力は、孫策軍と戦っている張遼隊、楽進隊、于禁隊の許に辿り着くのにごくわずかな時間だけで済んだ。

 

この迅速さは、戦場において大きな武器になる。即応性に優れた部隊というのは、高度に組織された軍隊の中では必要不可欠の

 

戦力だ。それを実現した二つの十字隊は、まさに精鋭中の精鋭だ。人員も精鋭揃いで、俺の副官を務める兵は五胡が使うような

 

野性的な大剣を担ぐ猛者だ。かなり辺境の出身らしいが…正直、こいつと「再会」したときは驚いたものだ。

 

「さて、あの三人は上手くやってくれているだろうかな…まあいい。俺は孫策と当たらなければならんかもしれないから、隊の

 

 細かい指揮はお前に任せる。こっちも指示を飛ばすが、基本はお前が統率するんだ。孫策は気が抜ける相手じゃないからな」

 

「はっ…しかし、胸が熱くなりますな。今までは諸侯の犠牲となっていたお嬢様のために、北郷様が…」

 

「…お前、戦いの最中くらい、月の姿を思い出して恍惚とするのはやめろ」

 

「ははは、承知いたしました。さて、我が大剣は今こそ血に飢えている…殺傷はなるべく控えるということでよろしいか?」

 

「ああ。正直、お前は将軍として取り立ててもいいくらいの腕前だからな。殺さない程度に薙ぎ払え」

 

「はっ!」

 

そう、かつて俺と共に龍を斃しに行った、あの董卓軍の兵である。各軍に一人はいた、一流の変態ではあるが…腕も一流だ。

 

あの重そうな剣を片手で軽々と振り回す。俺の隊の兵の中では最強の実力者だ。ためしに『思抱石』を使ってみたら効いたので、

 

経験値が他の兵とは桁違いになっているから、頼れる副官である。

 

地響きを立てて移動する部隊の前方に、孫策軍との戦闘を繰り広げる三つの隊が見えた。見た所さほど損害は出ていないな。しかし

 

いきなり割り込むことはさすがに出来ないから、合図をしなければならない。そういう手筈になっているから、三人とも合図すれば

 

理解して行動してくれるだろう。公孫賛軍で使っていたあれは、真桜に頼んでちゃんと用意してある。

 

「鏑矢放て!」

 

「はっ!」

 

弓兵に命じ、鏑矢を放たせる。甲高い音が戦場を駆け抜け、作戦の次なる段階への移行を知らせる。

 

「よし!これより我らは孫策軍に横撃をかける!先鋒と後衛を分断するぞ!我に続けぇぇぇぇぇぇぇえええぇえ!!」

 

「「「「「「「「「「オオォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」」」」」」」」」」

 

北郷・董卓連合軍最精鋭・北郷白十字隊が孫策軍に横撃を掛けるべく、偃月陣にて全力で突進していく。

 

偃月陣は大将が先頭になる、突破力に優れた陣形だ。この部隊の大将は俺。つまり俺が先頭になる。いいぜ、喰い破ってやる…!

 

「ぶち破れぇぇぇぇぇぇぇええええッ!!」

 

混戦状態から脱した孫策軍を、白十字隊が分断していく。

 

「うおぉーーーーーーーーーーっ!!俺の大剣を受けてみろーーーーーっ!!」

 

副官の兵もまた、自慢の怪力で大剣を振り回し、俺と共に敵陣を分断していく。下手をすれば挟み撃ちになってこちらが全滅する

 

危険のある作戦だが、より関に近い側にいる部隊、つまり孫策軍の先鋒部隊は張遼隊をはじめ三つの隊との戦闘に集中せねばならず

 

こちらを構う余裕が無い。まして先鋒部隊だけでは張遼隊、楽進隊、于禁隊の三つの隊をさばけるだけの戦力が無いからなおさらだ。

 

こっちは先鋒の退路を断ち、また後衛と先鋒の交代を防ぐことが目的となる。

 

完全な分断に成功し、正面戦闘が開始される。突破される際に向こうは被害を被っているので、少し動きが鈍い…って、『陸』の旗が

 

あるということは、後衛を務めていたのは陸遜隊か。やれやれ、厄介な敵が出てきた。しかし陸遜であれば俺達の動きくらいは読めた

 

はずなんだけどな…いや、単に俺達が早すぎて対応が間に合わなかっただけか。

 

「(先鋒部隊のほうは…と。まだ甘寧も周泰も退いていないし、孫策もいるな…)」

 

部隊戦力を分断されたため、敵方に明らかな動揺が見えるが、流石は孫家の軍といったところか、効きが甘い。統率力が凄いからな…。

 

さて、次の手筈は…俺が先鋒の方に回って孫策とやり合うことだな。

 

「(こちらには楽進隊を回し、于禁隊は曹操軍の方に回す。張遼隊はそのまま…よし)」

 

手筈の確認を終えると、俺は兵に指示を飛ばしてから一人そこを離脱し、孫策軍先鋒と戦闘を行っている霞達のほうに向かう。

 

「―お、来たんやな一刀!」

 

「「隊長!」」

 

「お前らよくやった!凪、部隊を率いて白十字隊の援護に回り、先鋒と後衛の両方に攻撃を掛けるんだ!いいな!?」

 

「はっ!」

 

「沙和、お前の部隊は損害が最も少ない!曹操軍の対処に向かえ!既に華雄隊及び黒十字隊が戦闘を行っている!」

 

「了解なの!」

 

「ウチらはどうするん!?」

 

「君の隊はそのままだ!ここで戦闘を行う!」

 

「了解や!」

 

それぞれ俺の指示を受けて動き、作戦を進めていく。当然ながら、向こうもその隙を見逃してはくれなかった。

 

「行かせるか!」

 

「思い通りにはさせません!」

 

甘寧と周泰がそれぞれ部隊を動かそうとするが、それを読んでいない俺ではない。

 

『―鳴風・連!!』

 

無数の斬撃を連続して放ち、二つの部隊の動きを一気に牽制する。たたらを踏んだ甘寧隊と周泰隊は、もう凪や沙和の部隊に対処できる

 

タイミングを逸していた。何も十字隊だけが高機動部隊なのではない。凪や沙和の部隊も、十分に高水準の機動力を持っているのだ。

 

俺と霞、そして孫策達三人が対峙する。兵同士の戦闘は続いており、向こうが退く気配はないが、戦況はこちらに有利だ。

 

「久しいな、孫策」

 

「ええ、久しぶりね。元気?」

 

「ああ。最近どうも胃が痛くてたまらなかったが、やっと治ってきたところでな」

 

戦いの前の軽口をたたき合う。しかし孫策も霞に大分抑えられていたため、余裕が無いのだろう。いつもより覇気がない。よく見れば

 

甘寧は肩に大きな傷を負っている。凪が『脚刃閃』を使ったのだろう。しかし彼女も退く気配はない。そして周泰もやや弱っているが、

 

やはり退く気配が無い。だいぶ追いつめられているというのにな…。

 

「それで?なんであなた達がそっちに居るわけ?」

 

「理由を話す必要があるのか?尤も、あんたに話すようなことは一つもないが」

 

「ふーん…そう。じゃあ、こっちも話すことはないわね」

 

「まあな。あんたが俺を欲しがっているのはわかってるし、理由もわかってる…今さら訊くようなこともないしな」

 

「そうね。別にあなた達二人の仲を引き裂こうなんて思ってないし、今からでもこっちに来ない?」

 

やはり誘いをかけてきたか…だが、俺の答えはもう決まっているし、それを変えるつもりは一切ない。俺は敢えて横柄な調子で答えた。

 

「ふん…そうやって上からものを言っていられるのも今のうちだ。俺を侮ったことを後悔するがいい」

 

「あら、今でこそ袁術の客将だけど、私はいずれ呉を復活させるわ。私は王になるのよ。だからいいじゃない」

 

「なら勝手に王になっているがいいさ。だが俺達はあんたに従うことはない。俺達の使命は大陸の平安だ。呉の繁栄などではない」

 

「大陸の平安のため、呉を繁栄させるのよ。それに協力してほしいと思って、あなたに声をかけたんだけど」

 

「言っていろ。見果てぬ夢を見ながら地に倒れ伏すがいい、江東の麒麟児よ。我が一閃に映る陽の光が、その夢の見納めだ!」

 

刀を蜻蛉に構え、一歩踏み込みながらそう告げる。高まる氣の波動が燐光となって散り、空気が震える甲高い音がその場を支配する。

 

「北郷流剣術正当伝承者、北郷一刀………参るッ!!」

 

脚に力を込め、一気に速度を得る。ますます高まる氣をも推進力に変え、俺は孫策に襲い掛かった。

 

 

(side:朱里)

 

―私は黒十字隊を率い、曹操軍への対応に向かっていた。これも私から言いだしたことだ。

 

さっきの一件で私は、自分が如何に深い闇を抱えているかを真正面から見つめ直すことになった。無自覚の闇とは恐ろしい。

 

私は自分でも自覚の…ある程度はあったけど、それでは追いつかないくらいに心を冒されていたみたいだ。

 

一刀様が私の傍らにいらっしゃるから今は何とか自分を保てているけど、もし一刀様に何かあれば、私は自分でも制御が利かなくなって、

 

破壊衝動に憑りつかれた悪鬼羅刹になってしまうかもしれない。それだけは、何があっても嫌だった。なによりそれは一刀様が望まない。

 

だから制御してみせる。私達の戦う理由が、復讐などになってはならない。それはしっかり心に刻んでいる。だけど…

 

「(…曹操…あなたには一言くらい言ってやらないと気が済まない…私の貞操をあなたなんかに犯させやしない)」

 

女同士の「そういう」関係。その手のこと自体に拒否感があるわけじゃない。でも、あの曹操となんて、身の毛がよだつくらい嫌だった。

 

彼女のことだ、きっと私達を双方とも手に入れ、一刀様の目の前で私を…と考えているのだろうけど。悪趣味すぎて反吐が出る。そんな

 

ことは絶対に嫌。彼女は人の尊厳の何たるかを知らないとはさすがに思わないけど、私を愛玩具にしようとしている…?

 

「(…ああ、駄目だ…大変申し訳ありません、一刀様。私はもう、自分を抑え込むことができません。弱い私をお許しください…)」

 

曹操が私達に何をしようとしているのかを考えた時、私の中には抑えきれないほどの怒りが狂ったように燃えていた。さっきよりはまだ

 

ましだけど、私はもう、自分が既に破壊衝動に憑りつかれていることをいやがおうにも気付かされた。

 

「(…これが戦争の狂気…私はかつて、これを生み出す立場だった…今ではその狂気が私を染めている…)」

 

一刀様も同じことをお考えだろうけど、きっとこれが本当の戦争なんだと思う。私は前線で指揮を執ることもあったけど、基本的には

 

後方で全体指揮を執っていたから、戦場の狂気というものがよくわかっていなかったような気がする。それに、これまでの戦いは正直

 

綺麗過ぎた。そして、それを主君の理想という甘美な果実によって美化しているのが、かつての私であり、そして現在までの劉備軍。

 

その在り様は何一つ変わっていない。『正義』という言葉で飾り立てただけの、紛れもない戦争の狂気のままに、『悪』とされる者を

 

討ちに行く。そこまで徹底して否定するつもりはない。わかり合うための道を探ろうとしていたことだって、私は知っている。でも、

 

それはきっと、目に見えない大きな歪みを孕んだものなんだと、今の私にはそう思えてならない。

 

そして、乱世にその名を轟かせようとする傑物がまた一人…魏の覇王、曹孟徳。彼女もまた、大きな歪みを内に孕む者。

 

今はその彼女との戦いをしなければならない。黒十字隊は目的地点に到着する。戦況は五分五分と言っていいが、華雄さんの剛勇と、

 

華雄隊の奮戦によって少しこちらに戦況が傾いている。親衛隊の『許』の旗は見えるけど…それにしては兵の数が合わないみたい。

 

考えを巡らせる…うん、どうもこれは罠みたい。でも荀彧さんにしては随分と単純な策…見縊られたかな。そうは問屋が卸さない。

 

「これより黒十字隊は戦闘を開始します!かかれ!」

 

「「「「「「「「「「オオォーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」」」」」」」」」」

 

黒十字隊が華雄隊と合流し、曹操軍を押し戻していく。各隊の連携訓練は特に重点的に行ったので、何の混乱も無く二つの部隊が連携、

 

有機的に連動することで戦力の有効性を最大限に引き出す。まもなく沙和さんの隊が到着するはずだ。別に沙和さんの隊でなくても、

 

損害の少ない隊がこちらに回ってきてくれる。戦力に不安はない。

 

さて、誰が出るか…順当に行けばおそらく、夏候姉妹が出て来るはず。私の旗は曹操も知っているはずだから、最大戦力をぶつけて、

 

私を確実に捕えようとするに違いない…何人同時でも構わない。全員喰い破ってみせる。

 

「お待ちしておりましたぞ!」

 

夏候惇と対峙する華雄さんが声をかけてくる。華雄さんの猛攻に、さしもの夏候惇も押され気味だったみたいだ。罠のために手加減でも

 

していたのかもしれないけど、あいにくその罠は事前に想定済みだ。華雄さんに目で合図すると、彼女もそれに応えて無言のままに私を

 

狙っているであろう奇襲部隊への備えに入る。

 

「来たな、北郷朱里!」

 

「ふむ、貴様一人か…我が主、曹孟徳の命により、貴様を捕えさせてもらう。悪く思うなよ」

 

夏候惇、夏侯淵の姉妹が進み出てくる。両者共に獲物を見つけた狩人の貌…ことに夏候惇は修羅の如き不敵な笑みを浮かべている。

 

「夏候惇、そして夏侯淵…曹操の左右の守り。黄巾党との決戦以来ですね」

 

「覚えていてくれたようでなによりだ。さあ、我らの陣営に来てもらおう」

 

「随分と単純に仰るのですね。単純なのは良いことだという言葉が天界にもありますが、交渉事はもっと手順を踏むものでは?」

 

「それはそうだがな。だがここは戦場。手短に行かせてもらおう」

 

夏候惇はずっとこちらを不敵な笑みを浮かべて見ているが、夏侯淵は彼女らしく冷静に、私の言葉に応対した。ふと彼女の後方から、

 

何物かの気配が近づいてくるのを感じ取る。それは私にとっては懐かしい気配であり…生理的嫌悪で全身が粟立つような気配だった。

 

 

「―とうとう私の踵下につく気になったようね、北郷朱里」

 

 

…やはり、曹操。死神の如き鎌『絶』を片手に、悠然と歩み寄ってくる。不敵な、人を見下したような笑みを浮かべながら。

 

「あなたとも久しぶりですね、曹操さん」

 

「ええ。さて、夏侯淵から聞いているとは思うけど、私の許に来てもらうわよ」

 

「…」

 

「あら、不満?でも、そんな不満も私の手で…ね。できれば北郷一刀も欲しいところだけど…」

 

曹操は嫣然と微笑み、それはもういやらしい声音で勝ち誇ったように言う。『始まりの外史』に近いと思うのは気のせいじゃないはず。

 

今のこの人から感じるのは支配欲…征服欲と言っていいはずだ。まして相手は『天の御遣い』とされている私。天下を手に入れるという

 

野望を抱く彼女が、それにたまらない魅力を感じ、抑えようともせずに食指を伸ばしてくるのは、当然と言えることだけど…

 

「…私のみならず、一刀様にまで屈辱を与えるつもりですか」

 

「あら、いけないかしら?それを見抜かれていたとは恐れ入るけれど、敗者に屈辱を与えるのも王として当然の在り方ではなくて?」

 

「…」

 

「ふふふっ…まあ、こうして敵として相対している以上、あなたを打ち倒して連れて行くことになるけどね。春蘭!」

 

「はっ!見事捕えて御覧にいれましょう!」

 

曹操は夏候惇に命じ、夏候惇も即座にそれに応えて襲い掛かってくる。無闇に傷付けるつもりはないということか、夏侯淵には何も

 

命じず、峰打ちができる刀を持っている夏候惇だけに命じたんだ。別に二人同時でもよかったんだけど、この際だからまあいいや。

 

「でぇぇぇぇぇええええい!!」

 

素人では見切ることは不可能な夏候惇の剛撃が迫ってくる。だけど、それは私にとっては永遠にも等しいくらい、あまりにも長く

 

感じられる時間だった。一刀様やおじい様、淋漓さんと仕合を繰り返し、超絶的な高速戦闘に慣れた私にとって、威力こそあっても

 

その攻撃が強力とはとても思えなかった。私はあっさりと躱し、構えを取らずに自然体のまま立ち、夏候惇に語りかける。

 

「…一つ、ご忠告申し上げておきましょう、夏候惇…」

 

「忠告?はっ!この私に忠告だと?そんなものを聞く価値はないな!我が剣を受けてみよ!はぁぁぁぁぁああああっ!!」

 

やはり夏候惇は取り合わず、襲い掛かってくる。別に期待はしていなかったけど、人の忠告は聞くものだと言うのに。まあ、私も

 

言いたいことを言ってしまえば取り敢えずそれでいい。避けようともしない私を見て、曹操がにやりと笑う―

 

 

「―前座は黙っていなさい」

 

 

それだけ言って、私は『幻走脚』を使って一瞬で夏候惇に肉薄し、彼女の剣を叩き落としながら顔面に向かって蹴りを繰り出す。

 

虚を突かれた夏候惇に息を継ぐ間も与えず、私は剣を収めそのまま再び肉薄、今度は擦れ違いざまに彼女の腕を掴み、飛び上がって

 

背負い投げの要領で思い切り地面に向かって投げ落とし、地面に激突して動けない夏候惇の腹部目がけ、『幻走脚』と『空歩術』で

 

加重した上空からの蹴りをかます。これで駄目押しだ…夏候惇は気を失った。すかさず夏侯淵が三本もの矢を同時に放ってくるが、

 

そんなものは私には通じない。飛んでくる矢を再び抜いた剣で払いのけ、私は再び『幻走脚』で加重した蹴りを、今度は立ったままの

 

夏侯淵の腹部目がけて繰り出す。夏侯淵は大きく後方に吹き飛び、そのまま起き上ってこなかった。

 

時間にして十数秒。そんな僅かな時間で重要な戦力である夏候姉妹を、本来は軍師である私にあっさりと無力化された曹操は流石に

 

呆気にとられてしまい、珍しく当惑したような顔をしている。心底その表情がおかしかった。だけど私は冷然と告げる。

 

「さあ、次は何方です?私を欲し、大陸に覇を唱えんとするなら、もう少しましな前座を用意していただきたいものですね」

 

「…」

 

さっきとは打って変わって一言も発しようとしない曹操に、私は敢えて挑発的な口調で、不敵な笑みを作りながら言う。

 

「北郷流二刀剣術正当伝承者、北郷朱里………この刃を恐れぬのなら、かかってきなさい!!」

 

高まる氣の波動は燐光を生み、空間を震わせる。ここで初めて構えを取り、曹操をさらに挑発する。さっきの自然体はこの伏線だ。

 

流石に怒ったか、曹操が『絶』を構える。狙い通り…これで舞台は整った。そして私達は、どちらからともなく相手に襲い掛かった。

 

 

(side:一刀)

 

―長引かせるつもりはない。最初から叩き潰すつもりで行く。

 

とはいえ、相手は孫策だ。いくらこちらが強くなったとはいえ、決して楽観視していい相手じゃない。孫策の剣撃を受け流し、その

 

剣を切り裂くつもりで鋭い斬撃を放つ。さすがに受け太刀は不味いと見たか、孫策は俺の斬撃を受け止めず、一歩下がって回避した。

 

「ほう、回避したか」

 

「あなたの使う技…厄介ね。おまけにその刀、切れ味良さそうだし」

 

「まあな。熟練者が使えば、鋼鉄の鎧でも紙のように切り裂ける。大陸の剣とは違って、刃の切れ味で斬ってるからな」

 

「ふーん…じゃあ、次は私の『南海覇王』の切れ味を…受けてみるっ!?」

 

「冗談!」

 

余裕がなさそうに見えてそれなりに体力は残っていたのか、孫策は先程よりも強烈な圧力を持つ一撃を繰り出してくる。しかしながら

 

それはやはり、俺にとっては虫がとまって見えるくらい遅い一撃だった。慣れとは怖いものだ。じいちゃんや淋漓さんの攻撃は簡単に

 

音速を超えるからな…鞘名でさえ、全力で振り抜けば亜音速の剣撃を繰り出せる。この程度の速度では、脅威にはなり得ない。

 

お互い受け太刀をしないので、まるで演舞のような戦いとなる。孫策の剛とした一つ一つの動きに圧力が伴う舞と、俺の北郷流剣術の

 

『柔』の側面を活かした流れるような舞。見慣れない俺の動きに、確実に孫策は翻弄され、体力を消耗していく。

 

「くっ…本当に厄介ね!」

 

「惚れた女を守るためには強くなきゃな!あんたとしては強い敵と戦えて満足だろ!」

 

「まったくもってね!いいわ、すごくいい!」

 

体力を消耗しているくせに、この女はまるで活性化していっているように見える。流石は修羅…さながらその様は狂戦士と呼ぶべきか。

 

相対してみると、それがよくわかる。この女の強さは武力そのものではない。戦いに身を焦がし、血を滾らせる修羅故に、戦いに際し

 

一切の迷いが無い。それこそが修羅の強さと言うべきか。修羅は迷わない。戦いにおいて迷いは命取りになる。それが一切無い。

 

まったく性質の悪い相手だ。

 

「あっははははーーーーーーーーーっ♪」

 

笑ってやがる。俺との戦いを心底楽しんでいるあたりは、やはり修羅だな。春蘭でさえここまでじゃないぞ。

 

「そんなに戦いが楽しいか!」

 

「ええ、楽しいわよ!あなたみたいな強い敵と戦ってるんだから尚更ね!」

 

「修羅め…!」

 

「それは褒め言葉にしかならないわね!はぁぁぁぁぁああああっ!!」

 

凄まじい威力を内包した一撃が危ういところを掠めていく。こちらの命を取るつもりはなさそうだが…スイッチ入ってるからな。

 

俺は一度大きく後退し、態勢と息を整える。孫策も取り敢えず息を整え、こちらの様子を窺っている。仕切り直しをしたかったのは

 

向こうも同じだった、ということか。ほとんど息が上がっていない俺と違って、孫策は随分と息が上がっている。

 

戦闘していた時間がそもそも孫策の方が多い。俺と鈴々の戦いは時間にして三分ほどしかなかった。しかし孫策は霞とかなり長時間

 

戦闘を行っていたのだから、息切れしていても無理はない。霞のほうは今は甘寧を牽制している。周泰はこちらの戦いを見守っては

 

いるが、周囲の兵に指示を出して戦闘を続行しているようだ。しかし張遼隊は軍再編以前からの精鋭だ。孫策軍側が確実に不利。

 

「まさかここまでとはね…正直、予想外よ。いい意味でね」

 

「光栄だな。俺としては種馬扱いは想定の範疇だったが…感情は別だ。随分と失礼なことを言ってくれるじゃないか」

 

「それは悪いとは思っているわよ。でも、必要だったから言っただけ。別に悪意はないわ」

 

「ふん…周泰はともかく甘寧は絶対に納得したくないっていう顔をしているけどな」

 

甘寧を話題に持ち出す。それはそうだ。孫策の目的の一つとして、孫権の婿に俺を迎えたいと考えているだろう。甘寧は孫権の意志

 

あらばおそらくそれを尊重するだろうが、感情は別のはず。かつての俺とは印象が完全に違っていても、敵対者だ。そんな人間を、

 

まして孫権の婿に迎えることなど、甘寧個人としては我慢ならない事だろう。

 

「あら、興覇にしたってきっとあなたを気に入ってくれると思うわよ?強いし」

 

「言っただろう。俺にはもう、半身と呼ぶべき女がいると」

 

「私も言ったと思うけどなぁ。あなた達二人の仲を引き裂こうなんて考えてないって。ただ、私の妹の…」

 

「孫権仲謀、だろ?」

 

「…あら、知っていたのね。それも天の知識?」

 

「まあな。しかし、何と言われようと俺は答えを変えるつもりはない」

 

「ふーん…意志の強い男ね。それとも…あなたをそれほどまでに縛るあの子は、いったい何者なのかしら?」

 

 

―何かが切れる嫌な音がした。

 

 

「…縛る?」

 

「ええ。そうでしょ?こっちでは向こうの法に縛られなくてもいいんだし。そりゃ、こんないい男なんだから独り占めしたくなるのも

 

 わからない話じゃないわよ。私だって女だもの。でも、あなたほどの男の子孫なら、少しでも多く残しておきたいと思うのはそんな

 

 不自然なことなのかしら?あなた達の関係を美しいとは思うけど、あなたみたいな男にはそういう使命があるものだと思うわよ?」

 

「…」

 

「あなたほどの男の胤を一人の女だけに任せておくのは勿体ないと思わない?」

 

「…」

 

「人間は運命を背負って生まれてくる。あなたは貴種で、この乱世の大陸に降り立ったのだから、平和のために―」

 

 

「―軽々しく運命などと口にするな。貴様が言う運命など…目を向けるにすら値しない」

 

 

尚も言い募る孫策に、俺もとうとう限界が来た。運命だと?いつ、誰がそんなことを決めた?

 

「…」

 

俺の怒気を感じ取ったのか、孫策もさすがに口を噤んだ。しかし、先程までとは俺の口調が変わっているせいか、不思議そうに俺を

 

見ている…甘く見られたものだ。自分が優男だとは自覚しているが…男としては女に甘く見られることは屈辱以外の何物でもないな。

 

「教えてやろう、孫策…貴様は三つの過失を犯した…一つ、俺を侮ったこと」

 

「敵を侮ったことはないけど?」

 

「…一つ、俺を敵に回したこと」

 

「…」

 

「…そして、最後に一つ―」

 

これまでにない氣の高まりを感じながら、俺は告げる。目の前にいるのは孫策…雪蓮。あの時、俺の目の前で逝った江東の小覇王。

 

俺自身、彼女を愛おしく思っていた。最後の最後まで王であり、嵐のような壮絶な人生を駆け抜けた女。それは重々わかっている。

 

だが、今それにどのような意味があろう?今の俺には依って立つべき信念が、大義がある。そしてそれはかつて彼女との約束により

 

背負った役目とは全く違う。それを選んだのは俺だ。俺の運命を選べるのは俺だけだ。何人たりともそれを変えることはできない。

 

そして………朱里が俺を縛っているだと………?………上等だ………血祭りに上げてくれる!

 

 

「―貴様は、俺を………怒らせたッ!!!」

 

 

咆哮と共に己の氣が全身から燐光となって爆裂するのを感じる。全身を獄炎の如き激痛が苛み、俺の中の思考が消し飛んでいく。

 

「うぉおおぉッ…おぉああぁあぁぁぁぁあぁぁぁああああぁぁぁああああッ!!!」

 

後に残った僅かな思考を総動員して、俺は孫策に向かって空いている左掌を思い切り突き出す。たったそれだけの動作だった。

 

「なっ!?…うっ…ぐ、ああぁあぁぁあぁぁぁああぁああぁぁぁあぁぁあぁあぁあっ!!??」

 

掌を突き出しただけで、孫策の全身各所の皮膚が裂け、鮮血が噴き出す。孫策の絶叫が響き渡る。それは奇しくも俺の絶叫と重なり、

 

戦場の喧騒の中に消えていく。明らかに異常な絶叫に、周辺で戦っていた甘寧や周泰が駆けつけてくる。

 

「「孫策様っ!!」」

 

周泰は真っ先に駆け寄り、激痛のあまり動けない孫策を確保する。そして甘寧はといえば、燃え盛る怒りをこちらに向けてきた。

 

 

「おのれ…『天の御遣い』!貴様、よくも孫策様を!」

 

凄まじい怒りの形相で甘寧が敵意剥きだしの言葉を向けてくる。しかし俺には甘寧が何か言っているな、程度の認識しか無かった。

 

「何が『天の御遣い』だ!この(あやかし)めが!」

 

「…」

 

「貴様のような男、生かしておけるか!ここで死ね、偽りの天よ!いやぁぁぁぁぁあああああっ!!」

 

曲刀『鈴音』を手に踊りかかってくる甘寧。その圧力は先ほどの孫策もかくやと言うべきものだった。しかし俺は回避する事すらも

 

頭に無く、ただ無造作に左手を振るった。それだけの動作で、直接触れてもいないのに甘寧は各所から鮮血を飛ばしながら吹き飛ぶ。

 

「ぐぁぁぁぁああああっ…!」

 

ただでさえ傷を負った甘寧は、そのダメージも祟ったのか、中々起き上がれないでいる。

 

「思春殿っ!」

 

周泰の悲痛な声が聞こえる。その横で、いつの間に動けるようになったか、孫策は立ち上がっていた。

 

「ぐっ…まさかこれほどとはね…氣を使う人間は…初めてじゃないけど…うぐっ!」

 

「雪蓮様っ!いけません、これ以上はっ!」

 

「まだ戦えるわ…痛みと比べて傷は深くないみたいだから。行くわよ…はぁぁぁぁぁああああぁぁああっ!!」

 

孫策が再び剣を手に斬撃を繰り出してくる―しかし俺はまたも無造作に、今度は刀を振るって目の前に迫る女の剣に打ちつける。

 

「なっ!?」

 

それだけだった。あの強固な『南海覇王』は、それだけで粉々に砕け散った。刀身も、柄も、全てが。

 

俺はすぐさま返す刀で孫策の腹を捉える。峰打ちにするだけの思考は残っていたが、それは手加減というにはあまりにも強烈な威力を

 

持った峰打ちだった。音速に近い速度で繰り出される峰打ち…常人が受ければその時点で内臓が潰れて死亡してしまうはずだ。

 

「がはっ!!??」

 

孫策は吹き飛び、倒れ伏す。意識はあるようだが、周囲の兵が慌てて介助に駆け寄って立たせなければ立てない程の痛みに顔が歪み、

 

とてもではないが戦闘を続行できる様子ではない。甘寧も先程から動こうとはしているが、全く動けないでいる。そちらも兵が介助し、

 

どうにか撤退しようとする。

 

「くっ…許さないっ!甘寧殿や孫策様をここまで傷付けたあなたはっ!」

 

見ると、完全に頭に血が上ったらしい周泰がこちらに今まで見たことも無いほどの速度で襲い掛かってきていた。彼女の身長ほども

 

ある直刀『魂切』を振りかざし、憤怒に眼を爛々と輝かせ、その長い黒髪を怒り狂った猫のように逆立てながら迫ってくる。

 

―いいだろう。ならばお前は戦利品として貰っていく。

 

僅かな思考で考える間にも、鋭い斬撃を弾き飛ばして『魂切』を砕き、体勢を崩した周泰の懐に踏み込み、腹に正拳を突き入れる。

 

「うぁっ!」

 

短い悲鳴を上げ、周泰は気を失って俺の左肩にもたれかかるように崩れた。俺の激痛もそこで収まり、思考が戻ってくる。

 

「「明命っ!!」」

 

孫策と甘寧の声が重なる。俺は周泰を担ぎ上げると、張遼隊の兵に渡してから、『開闢弓』を取り出して自ら鏑矢を放つ。

 

戦闘はこれで終わりだ。見れば孫策軍側はかなり被害を被っている。死者はほとんどいないが、それはこちらの作戦上のことだ。

 

負傷者は数知れずといったところか。孫策や甘寧も負傷しているし。周泰は目立った負傷はないが…彼女はこちらの捕虜だ。

 

「一刀!撤退やな!?」

 

甘寧が俺の方に来たので一般兵の相手をしていた霞が駆け寄ってくる。張遼隊は既に撤退の態勢に入っているし、敵陣の分断に

 

残しておいた俺の白十字隊と楽進隊も目的を達したようで、移動を始めている。孫策軍側は追撃しようとしているが、こちらの

 

機動力はほとんど削がれておらず、追いつけずに終わるだろう。

 

「ああ!朱里の方も間もなく終わるだろう!引き上げるぞ、霞!」

 

「了解や!張遼隊、殿で撤退や!行くで!」

 

霞の掛け声で張遼隊が撤退していく。それを見て甘寧がなおも動こうと身を捩じらせる。

 

「逃がすか…!」

 

「そんな状態でどうやって追撃すると言うんだ、甘寧?」

 

「貴様ぁっ!!」

 

甘寧は声だけは張り上げるが、身体が言うことを聞かないのだろう、兵に介助されて立っているのがやっとという様子だった。

 

「傷に響くからやめておけ」

 

「くっ…周泰を返せ!」

 

「残念だがそれには応じられない…心配しなくとも、彼女の待遇はちゃんとする」

 

「貴様の言うことなど誰が信じるか!董卓に加担する悪鬼などのっ!」

 

まあ、そうなるよな…そう思っていたから、俺は残っていた怒気を彼女に叩きつける。急に喉を締め付けられたようになって、

 

甘寧は口を噤んだ。ただでさえ、息も絶え絶えなのだ。こちらの怒気をまともに受ければ、いくら甘寧でも身がもつはずがない。

 

「…これ以上やりあうつもりは無い。退くがいい」

 

「…あら、朝敵のあなた達が捕虜を得ようとするなんて。ちょっと不味くない?」

 

「残念だが、朝敵はそっちだ。問題はないさ。なに、彼女を傷付けたりはしないから安心しろ」

 

「…その言葉を違えたら承知しないわよ。孫呉の牙を侮らないことね。甘く見ていたら必ず後悔することになるわよ」

 

「それは今のあんただろう?あんたは俺を甘く見すぎていた。結果はこれだ。自分の認識の甘さを後悔するんだな」

 

「…」

 

黙りこむ孫策を一瞥し、俺は先に引き上げた霞達を追っていった。見ると遠くに黒十字と『華』と『于』の旗が見える。向こうも

 

上手くいったようだ。曹操軍は追撃不可能なほどに消耗したのだろう。あるいは…朱里と曹操の間に何かあったか?

 

俺も孫策に深手を負わせているから何とも言えないが…今の朱里は加減が利くような様子じゃないんだよな。後で様子を見に行こう。

 

急いで殿を務めていた張遼隊に合流する。俺は殿の殿を務め、こちらの軍が全員関に戻ったのを見届ける。追撃に出てきているのは

 

公孫賛軍…それだけだな。他は…袁術軍は動きもしないか。後ろにいる有象無象共も、まるで動かない様子だ。

 

白蓮達にしたって、あれは連合側の動きを妨害する目的で軍を進めてきているのだろう。関の前で戦闘を展開すれば、他の連中は

 

乱戦に巻き込まれることを嫌って近寄ってはこない筈だ。まして大きな被害を被っている現状、被害を被っていない連中は自分から

 

動くことは絶対に嫌がる。袁紹軍には動く気配がある。まあ麗羽だし、そろそろ苛立ってきたということだろう。だが。

 

「(白蓮が上手くやってくれたおかげで、こちらがまた一斉射撃を始めれば公孫賛軍が連合を押し戻せる状況ができた。さて…

 

 これで後は時間を暫く稼ぐだけだ。こちらも負傷者がいるし…兵達の傷が癒えるのを待って虎牢関に移ることにしよう。詠も

 

 その頃には長安への撤退のための準備を終えているだろうし。徐々に撤退させていけばいい。しかし作戦は少し変更を加えて

 

 やらなければならんな…連中を確実に洛陽に誘導するには…虎牢関に連中を誘導した後で、汜水関を別働隊に封鎖させるかな)」

 

前を開けて後ろを閉じれば、前に進むしかなくなる。連合軍は董卓を排除し、皇帝に謁見して正義を証明するという目的があるので、

 

故に洛陽への道を開けてしまえば、洛陽に進軍するだろう…いや、そうするより他ないのだ。仮にも董卓は、皇帝の信頼を得て相国に

 

就任したことになっている。それが皇帝を傀儡にしたが故だと連合側が言っているにせよ、その連合側に正確な情報は何一つ伝わって

 

いない。つまり董卓を排除し、皇帝を確保しなければ、連合側の正義は証明されないのである。

 

そして、今や洛陽に至ったとて、連合軍は朝敵として追及を免れず、処罰されることは既に決定しているのだ。月のために立ててきた

 

後ろ盾は、そのまま才華の後ろ盾にもなる。つまり、各地の有力者から支援を得ることで才華も連合を組んだ諸侯に対して強気に出る

 

ことができるのである。『次回作』のほうも順調だ。見ていろ、連合の俗物共。野望の報いは、あまりにも重いからな…。

 

関を閉めるという声が聞こえて来たので、俺は踵を返し、関の中に駆け込む。そして、汜水関は閉ざされた。

 

 

(side:朱里)

 

―私は曹操との戦いを長引かせるつもりはなかった。しかし向こうはそうは思っていないみたいだった。

 

曹操だって武人としては一流。楽観視していい相手じゃない。それに彼女が扱う『絶』は鎌だ。剣を相手にするのとは勝手が違う。

 

相対する曹操はこちらを嬲るつもりみたいだけど、上手くいかないので苛立っているみたい。当然、夏候惇らが目を覚ますまでの時間

 

稼ぎもあるだろうし、本人自ら私を捕えたいという想いもあるだろう。だけど…

 

「(この期に及んでまだ自分が相手より優位に立っているという考え…嫌悪感を通り越して物悲しさすら覚えますね…)」

 

彼女は常に人の上に立っていたい人間なんだろう。そして、そうでなければならないと思い定めているから性質が悪い。個人的には、

 

『閉じた輪廻の外史』の彼女は王者の風格が前面に出ていてそれはそれで好感を持てたけど、ここの彼女は『始まりの外史』に近い

 

雰囲気があるので、正直な話、嫌悪感がこみ上げてきて胃に悪い。『輪廻の外史』の彼女は、簡単に他者を侮ったりなどしなかった。

 

本当に力ある者は、他者を決して見下したりはしない。他者を見下して己を誇る人間は、本当は弱いのだと私は思う。

 

「正直、侮っていたわ…まさか夏候姉妹がああも簡単に倒されるなんて…ねっ!」

 

曹操の『絶』が唸りをあげて迫ってくる。その切っ先をひらりと躱し、続く攻撃を受け流しながら彼女の話に応じる。

 

「部下を信頼するのは良いことですが…自分が優位に立っていると思い込むのは…危険ですよッ!」

 

言いながら鎌を弾き、防御が一瞬薄くなった曹操の懐に飛び込み、向う脛を蹴りつけてから、『護光壁』を一瞬だけ発動させて曹操を

 

吹き飛ばす。曹操の防具には無駄が無い。ウィークポイントになりえる個所は、ほぼ全て防御されていると言っていい。あるいは曹操

 

自身、自分の技量の限界をわかっているからなのかもしれない。彼女自身の技量は、本人曰く「相当に高い」程度に留まり、自分には

 

一騎当千級の武力は無いと彼女自身が言っていた。全て高水準であっても、抜きん出たものは無い。それでも、全面的に他人と比べて

 

抜きん出ているので問題ないのかもしれない。

 

「くっ…ふふふ…この私をもここまで翻弄するなんて…想像以上だわ」

 

「お褒めにあずかり恐縮ですが、それをわざわざ言うほどあなたには余裕が無いのでは?」

 

挑発的な物言いを続ける。だけど向こうもこちらの狙いがわかっているのだろう。私の誘いに中々乗ってくれない。

 

「あら、私の限界はまだ来なくてよ。これまで後方指揮を執っていたのだから。あなたこそ限界なのではなくて?」

 

「生憎とこの程度で息が上がるほどやわな鍛え方はしておりませんので」

 

「そう。ふふ…ますます欲しくなってきたわ。ここまで私と戦ったのだし、あなたには高い地位を約束してあげるけど、どうかしら?」

 

「…」

 

私は無言になって戦闘を続行する。曹操の刃は確かに鋭い。しかしこちらを殺しては意味が無いということなのか、その刃に殺意は無い。

 

本当に殺すつもりはないにせよ、私はもう十二分に剣に殺意を乗せている。でも彼女はそうしない。この期に及んでまだ彼女に侮られて

 

いるようで癇に障る…侮ってるんじゃなくて、自分が誰かの下風に立たされているということを想像することができないだけなのかも。

 

自分が常に最上位に居なければ納得できない…子供の論理だ。劉備とは別の方向性のように見えて、実はそこまで方向性は違っていない。

 

違うのは地位を望むか望まないか、それくらいだ。それ以外の部分では二人は似た者同士…それを考えて、尚更癇に障った。

 

「あら、考え事?悩むのはわかるけれど、葛藤する必要などないわ。あなたは迷わずこちらに来ればいいの」

 

「…」

 

「あなたは大陸に安寧を齎すために天から降りて来たのでしょう?なら、私の覇道を助けることこそが最大の近道になるのよ」

 

「…」

 

「ふふふっ…世の優れた才は、すべて私のものになる。それが運命なのよ。それはあなたも同じ。さあ…私のものになりなさい…。

 

 董卓などという者にあなたの才を無為に潰させるのはあまりに惜しい。そして、あなたの愛らしさをあの男…北郷一刀などという

 

 物の道理がわからぬ男のものにしておくのは、それこそ惜しいなどという領域を通り越して…不条理の極みというものよ」

 

 

―何かが切れる嫌な音が聞こえた。

 

 

「…不条理?」

 

「ええ。あの男は確かに有能かもしれない。それはもう実証されているし、私も認めているわ。けれど、使命を抱き天より舞い降りた、

 

 『天の御遣い』ともあろう者が、その使命を果たす最善手を見極められないというのはそういうことでしょう?そのような男などに

 

 あなたの才覚を任せておくことはできないし、あなたを満足させるだけの器量も無いでしょうしね。あなたは本当にそれでいいの?」

 

「…」

 

「それでいいはずがないわ。許されるはずがない。あなたもそう思うでしょう?」

 

「…」

 

「さあ、北郷朱里…あなたの運命を受け入れなさい…あなたの力と魅力を活かす最高の舞台と悦びを甘受するのよ―」

 

 

「―軽々しく運命などと口にしないで。あなたが運命を与えると?笑止千万…魅力どころか、悪臭を放っていますね」

 

 

只の侮蔑にしか聞こえない曹操の言葉に、私の方が限界を迎えてしまった。運命?いつ、誰がそんなことを決めたの?

 

「…」

 

私の怒気を感じてか、曹操が黙る。その顔から自信過剰な笑みは消えていないけど、私が言った内容の真意を量りかねているという

 

様子…やはり彼女は私を侮っているんだ。いつまでも自分が優位だという考えにしがみついているような人間がそんなことを言うとは。

 

「曹操…あなたは取り返しのつかない過失を犯しましたね」

 

「過失?この私がどう過ちを犯したというの?」

 

「…かつて私は『龍』と呼ばれ、より良い世を作るために、我が君・北郷一刀様に数々の献策をして参りました」

 

「わかっているわ。だからこそ、さらに良い世を作るために、私のものになりなさい」

 

「…そう。あなたは大きな過失を犯した。それは、『龍』の逆鱗に触れてしまったこと。それがどういう結果を齎すか―」

 

関羽を相手にした時以上の氣の高まり。あの時の私は狂気とも言える怒りに支配されていたけど、今はどこか澄んだ、混じりけの無い

 

怒りが全身に満ちていくのを感じる。目前に立つ曹操…大陸の覇王を僭称する者。その実、孤独に病んでしまっただけの少女。しかし、

 

私が仕えるべき主は一刀様を置いて他にない。彼と共に依って立つべき信念を、大義を持つ今、私は他の誰にも従うつもりは無い。

 

曹操は私が曹操に仕えることこそ私の運命だなどとのたまった。私の運命は私だけのもの。そして私は一刀様と共に在る運命を選んだ。

 

なにより、私が一刀様と共に在ることが不条理ですって………?………いいでしょう………血祭りに上げて差し上げます!

 

 

「―猛り狂う龍の怒り………思い知れッ!!!」

 

 

全身から己の氣が湧き上がり、燐光となって爆裂するのを感じる。あまりの氣に全身を激痛が苛み、私の思考が消し飛んでいく。

 

「うううぅぅッ…ああぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁあぁああぁぁぁああぁあッ!!!」

 

残った僅かな思考が、目前の敵を捉える。ほとんど無意識に両手の蛇腹剣を解放し、その敵…曹操に向かって繰り出す。

 

「なっ!?」

 

曹操の驚愕が見て取れる。私は湧き上がる破壊衝動のままに蛇腹剣を操り、氷よりも冷たい左手の『月狼』を曹操の鎌に巻き付ける。

 

鎌が砕け散り、その破片が曹操を襲う前に右手の『陽虎』が曹操の右肩を焼き焦がしながら貫き、同時に『月狼』が曹操の腹の防具を

 

砕くついでに曹操の脇腹を切り裂く。その間、僅かに数瞬。追尾する蛇腹剣を回避することもできず、曹操は二頭の龍の牙を甘受した。

 

「ああぁぁぁぁぁあああぁぁあああっ!!??」

 

曹操の絶叫は戦場の喧騒の中に消えていく。しかし私の破壊衝動は消えず、蛇腹剣はそれに応えて曹操の肉を切り刻み続ける。

 

 

「あぅっ!!あああっ!?あぁぁぁああぁぁあああっ!?」

 

曹操の悲鳴は途切れない。瞬く間に傷がいくつも増えていく。一つ一つの傷は然程深くない。しかしそれがいくつも、全身にできる

 

ことで痛みは相当なものになる。連続して少量の鮮血が飛び散り、曹操の周囲には彼女自身の血が染めた赤い舞台が出現し、曹操が

 

傷を受けるたびに身を捩じらせる姿は、舞台の上で踊っているようにも見えた。

 

―ふと、近くで何かが動き出す気配が生じる。夏候惇と夏侯淵が目を覚ましつつあるみたいだ。

 

「うっ…ぐぅ…か、華琳…様…?」

 

比較的近くにいる夏候惇の声が聞こえてくる。まだ完全に覚醒しておらず、曹操がどのような状況に陥っているかを認識できていない

 

様子だ。夏侯淵は私が蹴り飛ばしたので少し遠いが、同じようにまだ完全には覚醒していない。気配がまだ弱く、戦意を感じられない。

 

「し、春…蘭…っ!」

 

曹操も夏候惇の覚醒に気付き、声をかける。それが一瞬の…決定的な隙を生み、決定的な一撃が曹操を捉えた。

 

 

―私が繰り出した『陽虎』の切っ先が、曹操の右の目に突き刺さったのだ。

 

 

「っうぁぁあぁぁぁああああぁぁぁぁぁあああぁあぁぁああぁぁぁあっ!!??」

 

「「か…華琳様ぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁあああぁぁぁぁぁぁぁあああぁあっ!!!」」

 

夏候惇の絶叫が近くから聞こえてくる。夏侯淵の悲痛な絶叫も、少し遠いが見事に夏候惇の絶叫と重なって聞こえた。目を潰された

 

ダメージが曹操にとって決定的となり、遂に彼女は地に仰向けに、力無く倒れる。死んではいないが、もう立ち上がれない筈だ。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁああぁああぁぁぁぁあぁあぁああぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」

 

夏候惇が凄まじい速さで私が弾き飛ばした『七星餓狼』を引っ掴み、大上段で斬りかかってくる。その眼にも、顔にも、私に対する

 

憎悪と殺意しかない。それら全てを乗せた斬撃は、先程までの曹操とは比べ物にならない圧力と威力を内包していた。しかし私には

 

欠片ほどの恐怖も無い。右手の『陽虎』を繰り出しながら回避し、それを夏候惇の剣に巻き付ける。『陽虎』が秘める膨大な熱量が

 

『七星餓狼』に伝導され、その剣を瞬く間に融解させる。

 

「なっ、なにぃっ!?…がぁぁぁぁあああっ!?」

 

夏候惇が驚く間に、『月狼』の切っ先が夏候惇の左肩を貫く。冷気が傷を凍てつかせ、細胞を壊死させていくのがわかる。そのまま

 

私は彼女の背後に回り、脚から『脚刃閃』を放って夏候惇の背にざっくりと傷を付け、そこに向かって氣弾を放つ。その傷を介して

 

氣弾の衝撃が夏候惇の全身隅々に伝導され、意識を失った彼女は地に倒れ伏した。

 

「下郎がぁぁぁぁぁぁあああああっ!!!」

 

主と姉を倒された夏侯淵が、憤怒にその眼を爛々と輝かせ、有り得ない程の速度で矢を連続で射ってくる。蛇腹剣を操ってそれらを

 

全て弾き飛ばし、『幻走脚』で急迫、夏侯淵の『餓狼爪』を『月狼』で砕き、『脚刃閃』で右肩を切り裂き、そこに氣弾を撃ち込む。

 

夏候惇と同じように全身を氣弾の衝撃に喰らい尽くされ、夏侯淵もまた倒れ伏す。

 

「ぐっ……春…蘭………秋…蘭…っ!」

 

まだ意識を保っている曹操が、夏候姉妹に呼びかける。しかし戦場の喧騒にあって、それはあまりに虚しく掻き消されていった。

 

私は曹操の傍らに歩み寄り、剣を突きつける。もう私の全身を苛む激痛は収まり、言葉を放つだけの思考も戻ってきていた。

 

「…人間ってね、痛い目を見ないと学ばないんですよ」

 

「ぐぅっ…こん…な…よく…も…!」

 

「私に敵意を向けるだけの余裕は残っているんですね。流石は曲がりなりにも覇王を僭称する者。その執念、称賛に値します」

 

「…僭…称…です…って…?」

 

「王の器を持つ事と、王であることは同義ではないのです。王の器を持っていても、王になれない人間はいるのですから」

 

「…ぁぅうっ…この…曹孟徳…を…甘く見た…ら…!」

 

「甘く見たら?痛い目を見る?後悔する?いずれにせよ、それは今のあなたの状況そのものではないのですか?」

 

「…ぐっ…ううっ…!」

 

「…あなたは『なれる』人間なのでしょうが…いずれにせよ、あなたに仕えるつもりなど毛頭ありません。ご承知おきを」

 

「…」

 

「…私の運命は私が決める。あなたの運命はあなたが決めるがいい。でも、私の運命をあなたが決めるというのは許さない。そして

 

 覚えておいてください。特別な存在…特別な命など、どこにも存在しない。『天は人の上に人を造らず』…以て人は平等なのです。

 

 あなたもまた、私達にとっては救うべき人間です。ですが、それでも私達の前に立ち塞がろうとするなら…その行動の故が、偏に

 

 あなたの意地でしかなかったとすれば…その時こそ、あなたの命を奪わせていただきます。この、私の手で」

 

宣戦布告を済ませると、私は許緒と戦闘を行っている華雄さんの許に歩いていく。背後で曹操が何か言っている気がするが、私には

 

もう何も聞こえなかった。ううん、聞こえてはいたけど、耳を傾ける価値を感じなかった。それもまた、曹操には屈辱に思えた筈だ。

 

「華雄さん、退きますよ」

 

華雄さんに近づき、そう声をかけると、いつもの如く一際豪快に鉄球を弾き飛ばし、華雄さんは私に向かって頷いて見せてくれる。

 

「あっ!お前っ!お前だけは逃がさないっ!!」

 

次の瞬間、鉄球と一緒に弾き飛ばされたはずの許緒が、その鉄球を振り回しながら迫ってくる。

 

「でぇりゃああああぁぁぁぁぁぁあああっ!!」

 

純粋な、混じりけの無い敵意が鉄球に乗って襲い掛かってくる。しかし軌道は単純だ。私は脚に氣を込め、飛び上がって鉄球を脚で

 

蹴り飛ばす。同時に蛇腹剣を許緒の手元に伸ばし、けん玉型のグリップも弾き飛ばすことで、許緒は鉄球に持っていかれずに済んだ。

 

「うそっ!?ボクの『岩打武反魔』を蹴飛ばすなんて!」

 

…あの鉄球を蹴り飛ばして特に痛みを感じないのは、少し意外だった。それでも私は、驚愕する許緒に冷徹な声で語りかける。

 

「…まだまだですね」

 

「っ!なんで…なんで華琳さまをっ!春蘭さまや秋蘭さままでぇっ!」

 

「…戦場では誰もが平等に傷つく可能性を持つのです。今回はそれが曹操や夏候姉妹だった。それだけの話ですよ、許緒」

 

「そんなのっ!」

 

気持ちはわかるけど…同情はしない。それなりに実戦経験はあるみたいだけど、まだまだ認識が甘い。鈴々ちゃんの方が余程大人だ。

 

「それを言うなら、私の隊の兵はどうなるのです?何人もこの戦いで傷付いているんですよ?あなたに傷付けられた兵も何人か…」

 

「えっ…」

 

「…戦場に立つのなら覚悟なさい。傷付けられる覚悟が無ければ、傷付ける資格はないのだと。自分が傷付けられても、それは即ち

 

 自分がしていることそのものなのです。個人同士の諍いはともかく、その事実に私情を差し挟む余地は無いのです。いいですか?

 

 私だって部下が傷付けば悲しいですし、もし一刀様が傷付けられれば怒り狂うかもしれません。でも、傷付けた相手を責めたりは

 

 しない…自分もまた、他者を傷付け戦場を生きているのですから…勿論、あなたの怒りは尤もです。なればこそ、その怒りを以て

 

 戦いを忌むべきです」

 

「…」

 

少し熱くなってしまった。でも、まだ幼いと言えるほどに若く、未来ある彼女に、これは先達として伝えておきたかった。

 

流石に良心が咎めたというのもあるけど…戦う信念を、敢えて剣を取り他者を傷付ける理由を示す気概が無ければ、戦士たる資格は

 

無いと私は思っている。だから私はその覚悟を許緒に示しただけだ。純粋に曹操の力になりたいと戦っている許緒の姿に、昔の私を

 

重ねたからかもしれない。『始まりの外史』では理想云々ではなく、民のために奮闘する一刀様の力になりたいと、純粋に願った。

 

そんな昔の自分を、今の許緒に見出したからかもしれない。

 

その場に立ち尽くした許緒を残し、私は皆を率いて撤退していく。一刀様のほうも上手くいったみたいだ。

 

後で色々と話したいことがある。一刀様もそうだろう…そう思いながら、私達は汜水関に入り、そして関は閉ざされた。

 

 

□反董卓連合軍・孫策軍陣地

 

―戦闘後、孫策達は兵の介助によりどうにか陣に帰りついていた。

 

「雪蓮っ!」

 

「雪蓮さまぁ~っ!」

 

それぞれの傷は浅いとはいえ、全体として見れば深手を負ったと言っていい状態の孫策を見て、周瑜と陸遜が駆け寄ってくる。

 

周瑜は孫策を介抱し、陸遜は甘寧を介抱する。しかしそこに周泰の姿が無いことに気付くと、陸遜が孫策に訊ねた。

 

「明命ちゃんは…?」

 

「…董卓軍に囚われたわ。あの『天の御遣い』…北郷一刀の手によって」

 

「えぇ~っ!?そんな…」

 

陸遜が甘寧を抱きかかえたまま崩れ落ちそうになる。慌てて兵が陸遜を支えたのでそれは免れたが、不意に動かされたので甘寧が

 

微かにうめき声をあげた。彼女は先程一瞬気を失い、今は意識こそあるが、痛みが酷く、とても会話に参加できる状態ではない。

 

陸遜はそれを見て取ると、甘寧を衛生兵が待機している天幕に連れて行く。負傷した兵達もそれに従い、天幕に向かっていく。

 

周瑜は孫策を抱きかかえ、同じく天幕に連れて行きながら、話を続けた。

 

「…お前や思春をここまで追い詰め、明命を捕えるとは…あの男はこちらの想像以上だったということか」

 

「その前に私は張遼、思春は楽進と当たって、思春はその時点で肩に傷を負っていたわ。私も張遼との戦闘で少し疲れていたし…

 

 でも、それを差し引いたとしても、あの男は強かった。正直な話、今の私じゃ彼の技量には遠く及ばないわ…母様以上かもね」

 

「文台様以上だと…!?」

 

「ええ。それと、私はあの男の刀で傷を付けられたわけじゃない。この傷は全てあの男が放った氣によるものよ」

 

「なっ!?」

 

「祭でさえ、氣弾はおいそれと使えないし、岩を砕く威力はあっても人間の全身に一瞬で傷をいくつも付けられるようなものじゃ

 

 ないわ。でもあの男の氣…あまりに威力が違い過ぎる。あれは常識外れどころの話じゃないわ。下手をしたら私は…死んでたわ。

 

 『南海覇王』も、あの男の振るう刀に触れただけで粉々に砕け散ってしまった…もう修復は出来ないわね」

 

「…」

 

周瑜は孫策の親友だ。孫策の技量が他者と懸絶していることはわかりきっている。そして先代の王・孫堅の圧倒的な強さを直に知る

 

人間でもある。『江東の虎』の戦いぶりを知っている者は孫策軍全体にかなりの数がいるが、その傍らで戦いを見ていた人間はそう

 

多くない。宿老・黄蓋や、戦場で馬に括り付けられた周瑜は勿論、孫策もその一人だ。その孫策が、『天の御遣い』の技量を己以上…

 

あろうことか、孫堅をも上回るかもしれないと評したのだ。周瑜が衝撃を受けるのも、無理からぬ話であった。

 

「格が違い過ぎるわ…あの男ともう一人…北郷朱里が汜水関の上に現れた時の覇気といったら…」

 

「…それは私も感じていた。かつての文台様を想起させる、しかしあまりにも異質で強烈な覇気だった」

 

「見立ては間違っていなかったかもしれないけど…甘く見過ぎたわね」

 

「そのようだな…しかし、祭殿や蓮華様がいない以上、これで我が軍の主要な武将は全員が戦闘不能になったか」

 

「これじゃあ今後の戦闘には参加できないわね…少なくとも傷が癒えるまでは。兵もかなり負傷者が多いし…」

 

孫策が何気なく放った一言は、しかし重大な意味を持って周瑜の耳に届いた。名軍師として名高い周瑜は、その言葉が持つ意味に

 

即座と言っていいほどすぐに気付いた。そしてその冴え渡る思考は、董卓軍側の作戦を見抜くまでに至ったのである。

 

「そうか…そういうことか…!」

 

「冥琳?」

 

「奴らは…こうして負傷者ばかり増やすことで、こちらを物理・精神双方で追い詰める気だ!」

 

「え…?どういうこと…?」

 

理解が追い付いていない孫策を簡易寝台に寝かせながら、周瑜は説明を始めた。

 

「まず負傷者を増やせば、治療の必要が出る。まさか治療すればまだ戦える兵をそのままにしておくわけにはいくまい?」

 

「ええ…」

 

「そうして負傷者が増えれば、薬や包帯など治療に必要な各種物品の消耗が早くなる」

 

「…あっ!」

 

「そして私達連合軍は補給一つとっても手間がかかる。治療ができないような状態に陥れば、動けなくなる。動くとしてもそれは

 

 玉砕上等の最後の手段となってしまう。兵の士気も下がるし、統率力も下がる…向こうは洛陽から随時補給でき、しかも籠城を

 

 決め込めばこちらとしては打つ手なしだ。そしてもし無理やりにでも兵を動かそうとしたならば、風評も悪化してしまうだろう」

 

「傷ついても勇敢に突撃したってことでちょっとは良い影響もあるんじゃない?」

 

「それをして何になる?我々は滅びるために戦っているわけではないのだぞ?加えて、連合の掲げる大義は董卓の非人道性に由来

 

 している。その連合に属する軍が非人道的な戦いを行えばどうなると思う?人道的な戦いなど有り得ないとはわかっているがな」

 

「…内部にも外部にも悪影響が出るってことね。それも結構取り返しがつかないっぽい影響が」

 

「そうだ。私達の軍は結びつきが強いからある程度はどうにか…しかし他の軍はどうなるかわからん」

 

「要するに?」

 

「…連合は奴らの策にまんまと嵌まったというわけだ。私達は素直に兵の治療を行うしかない。それ以外に手立てはない」

 

「冥琳が答えに窮するってことは…相当な苦境に立たされたってわけね。それに、もしかしたら…連合はとんでもない間違いを…」

 

「…そうかもしれんな。董卓は悪政など敷いておらず、現在の状況は偏に袁紹の嫉妬によるものだとしたら…」

 

孫策と周瑜は顔を見合わせる。ここまで来た以上、今更退くことは出来はしない。まして今の孫策軍は袁術軍の別動隊扱いなのだ。

 

袁術が退かない以上、退くことは出来ない。そして袁術に何を言っても我儘を通される。どうあっても袁術は退かないだろう。

 

「…状況は最悪ね」

 

「ああ。しかも、単純な手ながらここまでの状況を作りだす手腕…そしてお前達を簡単に圧倒する武力…危険な存在だな、奴らは」

 

「やっていること自体は当然なんだけどね…別に奇策というほどのものでもないし。でも今の連合にとっては手痛いわね」

 

「ああ。戦略としても筋が通っているし、私としても対応に苦慮するほどの策を編み出す手腕に感心しているさ。だが連合の弱みを

 

 把握しているのはまだ理解できるが…何もかも納得づくで準備してきていたかのような対応の素早さだったな。私はそう思ったよ」

 

「…言われてみれば…そうね。まるで全部わかってるみたいに、こっちがどう動いても向こうは動揺しなかったわね」

 

「…まさに神算鬼謀ということか…北郷朱里…あの娘は軍師だと聞いたが…危険だ」

 

「ええ…今後は格上の相手だと思った方がよさそうね…その今後がどうなるかわからないから…戦いが怖いと思ったのは久々よ」

 

二人は今後自分達を待ち受けるであろう更なる逆境を思い浮かべ、その身を不安で震わせるしかなかった。

 

 

□反董卓連合軍・曹操軍陣地

 

―曹操軍は、孫策軍以上に悪い状況に陥っていた。それは何よりもまず、曹操自身が深手を負い意識を失っていたからだ。

 

「か、華琳様ぁっ!」

 

将の中で唯一陣にいて指揮を執っていた荀彧が、血相を変えて曹操に駆け寄る。その間に夏候惇、夏侯淵の両名は兵達の手で天幕に

 

運び込まれていく。兵の撤退指揮を執っていた許緒はそれを見届けると、気が狂ったかのように曹操にしがみつき、彼女の真名を呼ぶ

 

荀彧の許に駆け寄る。

 

「華琳様!華琳様っ!お願いです!目を覚ましてぇっ!」

 

「桂花駄目だよ!華琳さまの傷に響いちゃう!」

 

「これが落ち着いていられる!?華琳様が…華琳様がっ!」

 

「駄目だって!」

 

曹操が負傷したとの報を受け取ってから、荀彧はほぼ完全に我を忘れていた。指揮を執れる人間も他に居らず、右往左往する荀彧の

 

代わりになれる人間は現在の曹操軍にはいなかった。不幸中の幸いというべきか、厳しく訓練された曹操軍の兵は、動揺はしても

 

統制を失うようなことは無く、各中隊長らが各隊を指揮し、対応に奔走したため大混乱とはならなかった。

 

しかし、士気は別である。大将が人事不省に陥ってしまい、さらには曹操軍最強の戦力である夏候惇、夏侯淵の姉妹までも同じように

 

動けない状態になっている今、曹操軍はほぼ完全に戦意を失っていた。敵軍に碌な損害を与えられなかったことも手伝って、まさしく

 

虚脱と言っていいくらいの状態に陥っている兵もいる。

 

全員が全員そうではないのが救いかもしれないが…今の曹操軍は、戦闘ができるような状態ではなかった。

 

「華琳様!華琳様!華琳様ぁっ!!」

 

「だから駄目だって桂花!離れて…よっ!」

 

許緒はその怪力で以て、体格では自分を上回る荀彧を曹操から引き剥がした。荀彧は年頃の少女にしてはかなり小柄で痩せているし、

 

巨大鉄球『岩打武反魔』を自在に振り回す許緒にとって、そんな荀彧を抱きかかえて曹操から引き剥がすことは児戯に等しかった。

 

しかし荀彧は既に我を忘れている。我を忘れた人間が暴れる時には普段以上の力が出るものだ。文官としては体力がある方の荀彧が

 

暴れれば、さしもの許緒も抑え込むのに苦戦していた。

 

「は、離しなさい季衣!」

 

「駄目だってば!華琳さまはもう血がいっぱい出てる!桂花が華琳さまを殺しちゃうよ!」

 

「離してっ!離してぇっ!」

 

暴れる荀彧を抑えつけようとしても、荀彧はますます暴れる。現状では唯一の軍師として指揮を執らなければならないはずの彼女は、

 

もう指揮どころかまともな会話すらできない状態になっていた。許緒とて先の華雄との戦いで疲弊している。いずれ限界が来る。

 

「駄目だって!桂花っ!」

 

「ああっ!ああ!あああぁあぁああぁぁぁぁぁああああっ!!」

 

「こんの…分からず屋っ!大人しくしろっ!」

 

「あぁああっ!あぁあぁああっ!ぁあっ!ああああっ!!」

 

「暴れるな…って!桂花!しっかりしてよっ!」

 

「あああぁぁあああぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁあぁぁああああぁぁあああぁぁぁああぁあぁぁあぁぁぁあぁああああぁぁあっ!!!」

 

猛り狂い暴れる荀彧は最早、曹操に『我が子房』と評された軍師としての姿ではなかった。一人の少女というにもあまりに悍ましい

 

その姿は、許緒の故郷の近辺に比較的よく出没するような人食い熊…つまり、獣の姿と何ら変わりはなかった。許緒はそう感じた。

 

周囲の兵も、人間ではない何かを見るような目でそんな荀彧を見つめている。許緒に手を貸そうとする兵もいるが、荀彧が振り回す

 

手足に配慮して近づけずにいる。傷付けることを覚悟の上であれば止めることは容易だ。しかしそんなことをすれば首が飛ぶ恐れが

 

ある。曹操が荀彧を寵愛していることを知っている兵達は、狂える荀彧を抱きかかえた許緒に手を貸せないでいた。

 

「こ…のっ!いい加減にっ…しろぉっ!!」

 

遂に焦れた許緒が荀彧の首根っこを掴んで片手で持ち上げると、荀彧の鳩尾目がけて正拳を叩き込んだ。

 

「ぁうっ!?」

 

荀彧は途端に糸が切れた人形のように大人しくなる。気を失った荀彧を抱きかかえると、許緒は彼女を天幕に運び、寝かせた。この

 

天幕は負傷兵用のものではなく、許緒と荀彧で使っていた天幕なので、兵達に迷惑をかける心配はない。今、負傷兵は数知れずだ。

 

簡易寝台に荀彧を寝かせてから、許緒はうなだれたまま天幕を出る。

 

「許緒将軍…」

 

兵の一人…許緒隊内の一中隊を率いる中隊長が声をかけてくる。隊内では許緒の副官的存在で、許緒としても気の置けない仲間で

 

あった。まだ幼いと言える許緒にとっては悩みを相談できる身近な大人の一人でもある。まだその男は落ち着いていた。許緒は自分

 

自身も落ち着きを失っていて、荀彧のことは言えないなと思っていたが、部下の手前、取り乱すわけにもいかなかった。

 

「…ごめん、みんな不安なんだよね。他に誰も指揮できないし…ボクがやるしかないよね」

 

「…はい。何か困ったことがあればご相談ください。何でもお力になります」

 

「ありがと。まず負傷兵の治療を急いで。それから部隊の再編と、戦える人の数を確認しておいて」

 

「はっ。指揮系統の調整も並行して行います」

 

「ごめんね、お願い」

 

副官の兵は頷くと、各方面に指示を飛ばし始めた。これでも許緒は曹操軍の将軍だ。このくらいのことはできる。

 

「…」

 

しかし許緒も内心では不安に押し潰されそうになっていた。太陽が沈みゆく西の方角を見る。燃え盛る夕陽は、いつものようには

 

見えなかった。綺麗なはずの夕日は、まるで血に染まっているように見えて、許緒は不意に強烈な吐き気に襲われた。といっても

 

吐くようなものは腹に残っていない。しかし、これでは食欲など出ようはずもない。

 

「…傷付けられる覚悟が無ければ、傷付ける資格はない…か。あの人はボクに何を言いたかったんだろう…?」

 

先程の北郷朱里の言葉を反芻する。許緒とてそんなことはわかりきっているのだが、その言葉には何か含意があるように感じられ、

 

不安に苛まれる心の中で、その意味を考えていた。敵に言われたこととはいえど、何か裏があるような気がしてならなかった。

 

「…ボクじゃわかんないかも………流琉…流琉ならわかるよね…?………会いたいよ、流琉………」

 

ふと郷里にいるであろう、姉妹同然の親友に呼びかける。しっかり者の親友なら、許緒の疑問に答えを出してくれるかもしれない。

 

そう思って、許緒は親友を想い、しゃくりあげることもなく涙を流していた。寂寥と不安から救い出してほしいと、そう願って。

 

しかし、その親友と近いうちに最悪の形で再会することになろうとは、この時の許緒には想像できる筈もなかった。

 

 

(side:雛里)

 

―私達のところに愛紗さんがほとんど瀕死の重傷を負ったという報告が届いたのは、陽も傾いてきた頃だった。

 

「愛紗ちゃんっ!!」

 

桃香様が愛紗さんに駆け寄っていく。桃香様自身は医学の心得があるけど、取り乱している今、とてもじゃないけど治療を行える

 

状態じゃない。なので衛生兵も桃香様を愛紗さんに近づけさせず、治療を優先していた。簡易寝台に寝かされた愛紗さんは、もう

 

全身が血塗れで、とても痛ましい姿だった。意識が無いみたいだけど、時折うめき声のようなものをあげている。朱里ちゃんも今、

 

胸を両手で抱え込み、蹲ってしまっていた。

 

「愛紗…」

 

後から戻ってきた鈴々ちゃんも、辛そうだ…報告では、誰が愛紗さんを傷付けたのかが内容に無かったけど…まさか…。

 

「…星さん」

 

私は傍らにいた星さんに、小声で話しかける。星さんにしか聞こえないように。

 

星さんは頷いて、立ち尽くしている鈴々ちゃんの肩を叩いて連れて行く。私は一度桃香様達の方を振り返ってから、星さんの後を

 

追った。治療用天幕から離れ、私達三人は沈みゆく夕陽の残光を眺めながら、しばらく無言のままでいたけど…ふと、星さんから

 

口を開いた。

 

「…鈴々。辛いとは思うが…何があったのかを話してくれぬか」

 

「…うん。鈴々と愛紗は、お兄ちゃんや朱里お姉ちゃんと戦ってたのだ」

 

…やっぱり。旗の動き方からしてそうだと思ったけど、やっぱりお二人はまず劉備軍と戦う目的で動いていたんだ。決別の意志を、

 

これ以上ない形で示すために。桃香様を抑えるのは大変だったけど、必要なことだから仕方ない。これでもし現場に居たら、確実に

 

桃香様は…ううん、考えるのはやめておこう。状況が終わった今、「もしも」の仮定に意味は無いから。

 

「…鈴々はお兄ちゃんと戦ってたからよくわかんないけど、愛紗の悲鳴が聞こえたからお兄ちゃんと一緒に行ってみたら…」

 

「…ああなっていた、というわけか」

 

「うん…」

 

「そうか…愛紗はどうも、朱里の逆鱗に触れたようだな」

 

「ええ…それも、ほとんど瀕死の重傷にまで追い込まれるなんて…余程朱里さんの神経を逆撫でしたんでしょう」

 

そうとしか考えられない。鈴々ちゃんはお二人のお気持ちをちゃんと理解して、桃香様や愛紗さんを度々諭していたけど…一方で、

 

愛紗さんは、私はともかく星さんや鈴々ちゃんの切言にも耳を傾けようとはしなかった。一応、話を聞いてはいたけど、お二人が

 

居ない場所では常に『ご主人様』または『御前様』と呼んでいた。お二人の言葉は、無駄になったんだ。

 

桃香様も同じ。愛紗さんほどひどくはなかったと思うのは、耳を傾けてから「そうじゃないよ」と言っていたからだと思う。この

 

違いは正直、大きいとは思うけど…それに果たしてどれほどの意味があるんだろうか。本質的には何も違わないから。

 

「それを報告しなかったのは何故だ、鈴々?」

 

「…愛紗のことは置いとくけど、桃香お姉ちゃんはお兄ちゃんのことが好きなんだよね?」

 

「…おそらく…いや、推測するというにもあまりに単純な問いだな。間違いなくそうだ」

 

「だから報告しなかったのだ…いけないってわかってるけど…」

 

「鈴々ちゃん…?」

 

鈴々ちゃんは一体何を考えて報告をちゃんとしなかったのか………え?まさか、そういうこと―

 

 

「―桃香お姉ちゃんは、朱里お姉ちゃんに嫉妬してるのだ」

 

 

「!!」

 

私は息を呑む。傍らの星さんも、目を丸くして驚いている。鈴々ちゃんは話を続けた。

 

「もちろん、朱里お姉ちゃんのことを尊敬してるとは思うのだ。でも、お兄ちゃんと朱里お姉ちゃんで態度が変わってたのだ」

 

「…」

 

「朱里お姉ちゃんには普通のお友達みたいに…でも、お兄ちゃんには…」

 

「…そうか。しかしそこまで見抜いたのか?」

 

「あくまで鈴々の考えなのだ。これで朱里お姉ちゃんが愛紗を傷付けたなんて桃香お姉ちゃんが知ったら…」

 

「…なるほど。そういうことか」

 

「どういうことですか…?」

 

私は星さんに確認する。もう既に私の中では、おそらく星さんと同じ解答が得られている。それでも確認せずにはいられなかった。

 

「…恋は人を狂わせもする、ということだ。この意味が解るな、雛里…?」

 

「…はい」

 

なんてこと…桃香様は、常に一刀さんの傍らにいらっしゃる朱里さんに嫉妬していたなんて。「みんなのもの」と言っている以上、

 

独占欲ばかりが強いとは考えにくいと思う…でもそれはあくまで一般論だ。あの人に常識は通用しない…本当に、悪い意味で。

 

「あの方はそう嫉妬心が強い方ではないが…表出していないだけで、本当は愛紗よりも嫉妬深いかもしれんな」

 

「はい…鈴々ちゃん、ありがとう。他に何かある?」

 

「…もう無いのだ」

 

「うん、わかったよ。それじゃあ、愛紗さんの傍についていてあげて」

 

「わかったのだ」

 

そう言って、鈴々ちゃんは治療用天幕に戻っていく。それを見届けてから、私と星さんはまた夕陽に視線を戻した。夕陽はもう、

 

ほとんど沈み、空は今、血で染めたように赤く燃え盛っていた。雲も一切ない、快晴の日…その色を綺麗だとは思えなかった。

 

「…星さん」

 

「わかっている…おそらくもう桃香様は今日は…っ!?」

 

星さんが驚いたようにあさっての方向を向く。私もつられてそちらに顔を向けると、桃香様が一人で猛然と陣を飛び出ていくのが

 

見えた。星さんがそれを追って走り出す。私も星さんに遅れること数瞬、全力疾走で星さんの後を追った。桃香様が向かったのは

 

もしかしなくても公孫賛軍の陣地だ。息を切らしながら、私は力の限り走った。

 

 

(side:白蓮)

 

―私達は関を突破するために動いたフリをして、連合軍を押し戻すことに成功した。まあ劉備軍始め、それぞれ敗走していたから

 

私達の仕事は袁紹軍を押し戻すくらいで終わった。麗羽には散々文句を言われたが…「死にたかったのか?」と脅したら、途端に

 

何も言わなくなったので、面倒な絡みをあしらう羽目にならなくて済んだ。

 

「…お姉様」

 

「水蓮か」

 

水蓮が歩み寄ってくる。夕陽は既に沈みかけ、空は血で染まったような深紅の姿を見せていた。とても美しいとは思えない。

 

「…戦いは、醜い、ですね…」

 

「ああ…」

 

おそらく一刀達もこう思っているだろうが…私達がこれまで見てきた戦いは綺麗過ぎた。素直過ぎたのだ。戦いとはかくも醜い。

 

悲嘆、憤怒、そして流れる血。それがまた悲嘆と憤怒を生み、やがてそれは憎悪となって人々の心を蝕んでいく。そしてその果て、

 

人は自分が人間だということすら忘れ果てていくのだろう。ただ破壊する、阿修羅…いや、獣となって…。

 

「報告が、ありました。孫策軍、並びに、曹操軍は、大将の負傷により、行動不能。指揮系統は、滅茶苦茶だそうです」

 

「そうか…劉備軍は?」

 

「関羽将軍が、負傷。危険な状態だと、いうことです」

 

危険な状態…か。旗の動きを見ていた限り、愛紗は朱里と戦っていたようだが…何があったんだ。

 

「…愛紗…お前は一体何をした…?」

 

「…劉備軍に潜入している、忍者兵の、報告では…一刀さん達の言葉に、耳を傾けようとせず、一方的に訴えた、とのことです…」

 

「そうか…やはり、ということか…一刀達の想いは、何だったんだろうな…」

 

「はい…関羽さんには、辛いでしょうが…同情は、できませんね」

 

「お前にまでそう言われるとなると、相当なものだな。お前がそうやって誰かを非難することは、滅多にないのだからな」

 

水蓮は誰かを非難するということをしない。戦いに際しては勇敢で、実力も一族の中では最強だ。しかし気性はとても穏やかであり、

 

姉としてはよくできた妹を持てて嬉しく思っている。しかし、その水蓮が非難めいた言葉を口にするということは、おそらくはその

 

非難の対象が水蓮の許容範囲を突破してしまったのだろう。私と水蓮の関係は姉妹故に当然長いが、こうして水蓮が誰かを非難する

 

場面に遭遇したのは、片手に収まるほどの回数しかないのだ。それが今一度回数を増やしたのは…当然の成り行きか。

 

「…お姉様、誰かが、来ます」

 

水蓮が誰かの気配に気づいて振り返りながら言う。この状況で水蓮が警戒心を持って迎える「誰か」は、一人しかいない―

 

 

「―白蓮ちゃんっ!一体どういうことっ!?」

 

 

―やはり、桃香か。ふん…白眼を以て迎えるべき訪問者だな。

 

「一人で来たのか?陣を放り出して…お前は一軍の大将だろうに」

 

「恍ける気っ!?どうしてご主人様と御前様が向こうにいるの!?どうして!?どうしてなのっ!?」

 

「…二人が涿を出てからの足取りは、私にもわからん。正直、私も驚いている…」

 

「なんで…なんで、どうして…っ!」

 

胸を抱えて蹲ってしまう桃香。数瞬遅れて再び誰かの気配を感じる。見ると、星と雛里が桃香を追いかけてきていた。

 

「お前達…」

 

「…白蓮殿…」

 

桃香がここにいる以上、下手なことは言えない。『計画』を最も知られてはならない、最重要目標…『あ』目標である桃香には、

 

何も知られてはならないのだ。雛里のことも真名では呼べない。私達が真名を交換したことは極秘なのだから、それも当然だ。

 

「…桃香、立て。こんなところで蹲っていてもしょうがないだろう。ほら」

 

私は無理矢理に桃香の腕を取り、立たせる―

 

 

「―どういうことか、説明してもらいたいものですわね」

 

 

―桃香を立たせようとしていると、今度は麗羽がやって来た。説明を求めに現れたのだろう。顔良と文醜もついて来ている。

 

「麗羽…桃香は今、誰かに何かを説明できるような状態じゃない。私が代わりに説明してもいいか?」

 

「白蓮さんにどのような責任があるというんですの?一刀さん達は劉備軍所属の筈。劉備さんに説明を求めるのは当然のこと。

 

 そうではなくて?これは劉備軍が叱責や追及を受けるべき事態で、白蓮さんには何の責任もないのですわ。さあ…劉備さん、

 

 説明していただきましょうか。なぜあの方々が、董卓軍などにいて、あなたの許にいないんですの?」

 

「…」

 

「…はぁ。意識はあるのに人事不省ですわね。良いですわ、質問を変えましょう…あなたはあの方々に、何をしたんですの?」

 

…麗羽…その質問は…!

 

「あの方々が何故董卓軍などにいるのか、その理由は今はどうでもいいことですわ。ですが、わたくしはあの方…一刀さんには

 

 この顔良の危機を救っていただくなど恩があり、お人柄を信頼して真名を預けましたの。何らかの故あって董卓軍にいるとは

 

 思うのですが、それ以前に…あなたは、もしやあの方に見限られるようなことをしたのではないですの?」

 

「っ!そんなこと、してません!あの人は、わたし達のご主人様なんです!そんなこと絶対にしませんっ!」

 

「ご主人様…ねぇ。それはあなたが勝手に言っているだけなのではなくて?」

 

「違いますっ!」

 

「…成程。よくわかりましたわ…どちらにせよ、あなたは見限られたというわけですわね、劉備さん」

 

「違うぅっ!違う!違うぅぅっ…!!」

 

桃香は麗羽の追及から逃れるように、絶叫しながら走り去っていった。その後ろ姿は悲痛だったが…当然の報いでしかない。

 

「…白蓮さん」

 

ふと、麗羽が話しかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「…わたくしは、間違いを犯してしまったのでしょうか?」

 

…曹操ほどではないにせよ、この自信家がこんなことを言うとはな…正直、予想外だよ。しかし『今回』は既に一刀と面識が

 

あり、真名まで預けているのだから、麗羽の不安も当然と言えば当然だな。こいつ、根は善人だからな…気を許した相手には、

 

情を見せるのだ。人間であればそれは誰でも同じなのだろうが…こいつはこいつでお姫様だからな…。

 

「…それはこれからの戦いでわかるだろう。私もその答えを知りたいと思う」

 

「…そうですわね…」

 

「しかし、報告によれば曹操や孫策が負傷し、劉備軍も大きく士気と戦力を削がれた…もう有力な軍は私とお前、それからお前の

 

 従妹の袁術の所しかないぞ。攻め続けるにしても厳しい。どうする?まさかまだ『雄々しく云々』なんて言わないよな、麗羽?」

 

「…言えませんわ。美羽さんのお尻をひっぱたいて何とか戦力は揃えますが…」

 

「そうか」

 

「…元はと言えば、これはわたくしの責任ですわ。皆さんを責めることはできませんわよね」

 

「お前だけじゃない。曹操軍や孫策軍…劉備軍ですら一刀達を確保しようとそれぞれ動いたんだ…それを許したのはお前の適当な

 

 作戦だが、動いたのはあいつらなんだ。誰にとっても自業自得の結果となった…それだけなんだよ、麗羽。そう思っとけばいい」

 

麗羽は苦笑したような表情を浮かべ、私の言葉に頷きを返して、三人一緒に去っていった。後には私と水蓮、星と雛里が残される。

 

「…現実は常に非情だ。私達の想いとは関係なく、時は流れていく…今後どうなるかは、私たち次第だとしてもな」

 

夕陽の残滓がほとんど消え、夜がやってくるそのさまを見ながら、私は誰とも無しにそう呟いていた。

 

 

(side:一刀)

 

―関に帰ってからは色々と慌ただしかったので、朱里と話す時間がとれたのは夜だった。

 

負傷者の治療や今後の作戦会議など、やるべきことはたくさんあった。捕虜にした周泰にしても、武器を破壊し鎧を奪ったとは

 

いえ、まだ油断できない相手であるので、地和から教えられた『封印術』で封印を施した錠を牢に取り付け、解呪しないと決して

 

開けられないようにした。これで周泰は外に出ることは出来なくなった。大人しくはしているのだが…。

 

「…一刀様」

 

「来たか、朱里」

 

遅れて城壁の上にやって来た朱里を迎える。憔悴したような表情の朱里は、俺の方を見ようとせずに、遠くを見つめていた。

 

「…何を話せばよいのでしょうか。こういう時、何も思い浮かびません…」

 

「俺もだ。何がどうなっているかはちゃんとわかってる。だから…君も何も話さなくていい…」

 

「はい…」

 

朱里に近づき、肩を抱き寄せる。朱里は抵抗せず、俺の腕の中に受け入れられることを甘受した。

 

そのまましばらく、東から昇ってきていた月を眺めていると、ふと隣からすすり泣く声が聞こえてくる。朱里の声だ。

 

「…っ…ぐすっ…うぅっ…」

 

「朱里…」

 

「…っ…ぅっ…か、一刀様…私、わかってしまったんです…」

 

「…」

 

「…私の、剣が…私の剣が、蛇腹剣になったのは…私の中にある、狂気と、破壊衝動に影響を受けたからなんです…私の中の

 

 破壊衝動が、あんな凶悪な武器となってしまったんです…そして私は、その衝動に突き動かされるままに…華琳さん達を…」

 

破壊衝動…か。卑弥呼は『思抱石』を変化させて武器を作る場合、俺達に適した武器が出来上がるだろうと言っていたが、それは、

 

決して俺達が使い慣れた武器という意味だけではなく、俺達自身を反映した、俺達の分身とも呼ぶべき武器ができあがるということ

 

だったのだろう。俺の場合はまだわからないが、朱里は…使い慣れた二刀剣術用の武器であり、朱里自身の破壊衝動を映しこんだ、

 

蛇腹剣への展開機構を秘めた武器として、『陽虎』や『月狼』は誕生したんだ。少なくとも、朱里はそう考えたのだ。

 

「うぅっ…うぅ…ぐすっ…っ…」

 

「…」

 

俺は俺の胸にしがみついて泣く朱里の背を撫でながら、空に輝く月を見上げる。その銀色の光に、優しさはまるで感じなかった。

 

「…朱里、いいんだ…誰も君を責めやしない…」

 

「うう…っ…うっ…ううぅうっ…!」

 

泣きじゃくる朱里の姿は、戦場の中で見せた時よりもなお弱々しかった。自分自身が納得づくで傷付けたにせよ、破壊衝動によって

 

突き動かされていたとわかってしまっては、覚悟を決めている人間でも、たまらないくらい辛いだろう。それを楽しめるほど朱里は

 

堕ちていない。修羅に堕ちようとも『計画』を遂行するという強烈な信念を持ってはいても、やはり彼女も人間なのだ。

 

「…」

 

誰かを傷付けることは、今でも怖い。俺達はそれを『計画』遂行のためと言って割り切ってやっているだけなのだ。その実、誰かを

 

傷付けることへの恐怖を使命感で糊塗しているだけに過ぎないのかもしれない。戦いの中で恐れなど抱かずとも、戦いを怖くないと

 

思ったことは無い。戦いの中で恐れることは命取りになる。生き残るため、そうしたものを超克する必要がある。

 

…しかし、戦いへの恐怖を乗り越えなければならない。そしてなおかつ、その感情を決して忘れてはならないのだ。

 

そうでなければ、俺達は本当の修羅に堕ちてしまう。ただ破壊するだけの、悪魔の如き修羅に。

 

「…」

 

戦争は残酷だ。人間から何もかもを奪い去っていく…じいちゃんは太平洋戦争の頃に外史に飛ばされ、世界間の時間のずれにより、

 

戦争が終わった翌年、つまり一九四六年に帰ってきた。だから戦争の悲劇を、直接は知らない。学徒動員される年齢ではあったが、

 

外史に飛ばされてしまったので軍需工場などに行ったことは無いという。

 

俺は小さい頃、ひいばあちゃんから戦争の話を聞いたことがある。小学校の頃に戦争に関する学習活動の一環で、当時日本軍にいた

 

人や、東京大空襲の現場に居合わせた人からの話を聞いたこともある。原爆の話も、もちろん聞いた。

 

だがそれは、直接知ったことにはならない。実際に戦争に直面して、はじめて人は知るのだ。戦争が如何に残酷で、許されないもの

 

であるかを…俺は外史に飛ばされたことで、そうした戦争…俺達の時代ほど簡単に人が死ぬわけではないにせよ、人間同士の戦いを、

 

殺し合いを見てきた。それでも俺は、周囲が支えてくれたから荒まなかった。俺は人々を治める立場にあった。そんな人間が平静を

 

失ってはいけないと思って、無理に頑張っていた部分もある。

 

…しかし、俺は今この時になって、自分の心にできていた傷と向き合わなければならなくなった。

 

それと向き合ってきたことは何度もある。だが今回は訳が違う。自らの手で人を傷付けているのだから、これまでとは質が違うのは

 

明らかだった。無論、この外史に来てから賊を斬ったりなどで人を斬ったことは何度となくあるし、それと何が違うかと訊かれれば

 

それまでだが…何も思わなかった時は無い。しかし今回は色々と考えなければならないことが多すぎた。

 

「…」

 

胸に朱里の涙の熱を感じながら、俺は月を眺める。俺達が生きる時代よりも、月はずっと大きく見える。確か月って少しずつ地球から

 

遠ざかっているっていう話を、以前科学雑誌で読んだ覚えがある。この時代は日本で言う「上代」よりもはるか昔なので、月も大きく

 

見えるのだろう。俺達の時代の月は小さく、これほどの存在感はない。それは都市の灯りが、月や星の存在感を相対的に弱めている、

 

そういうことなのかもしれない。だが遠くに見える連合軍の陣で焚かれる篝火の灯りと、この汜水関で焚かれる篝火くらいしか灯りが

 

無い今、月や星は本当によく見える。空気も澄んでいるし、雲もなく快晴の夜だ。

 

しかし、俺に今、それらに美しさを感じる余裕はなかった。俺は空から目を離し、連合の陣地の方を見やる。

 

「…」

 

向こうでは何が起こっているのか。考えられることはいくつもある。しかし劉備軍はともかく、曹操軍と孫策軍は大将が負傷し、機能

 

不全に陥っている。そうである以上、次なる動きは袁紹軍と袁術軍、公孫賛軍が主体となって行われるだろう。だがこちらはもう関を

 

出るつもりは無い。亀状態で戦うだけだ。しばらく時間を稼ぎ、虎牢関に移る。そこで決戦となるだろう。

 

「…」

 

俺は再び月に目を戻す。変わらず月は天空に輝いていた。これほど月の光を冷たいと思ったことは無かった。

 

 

 

―その白銀の光は、あまりに超然としていて、無慈悲だった。

 

 

あとがき(という名の言い訳)

 

 

どうも、Jack Tlamです。

 

ますます寒くなってきていますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

 

私は夜勤中に唇が割れて血が…今も痛いです。乾燥のせいです。おかげで上手く喋れない。

 

またしても半月ほど空いてしまいました。大変お待たせいたしました。

 

 

今回は前回からの続きで、曹操軍や孫策軍との戦いをお送りしました。他にもいろいろ…戦闘後のことも。

 

 

まず孫策軍ですが、なんと明命を捕虜にすることになりました。

 

今後孫呉関係でも色々起こる予定ですので、見守っていてください。孫策軍との戦いではそこまで残酷な

 

描写はしたつもりはありませんが…思春は既に負傷していたし、雪蓮も氣弾で負傷したのでそこまでとは

 

思っていません。それでも血が噴き出したりとか残酷な描写はありましたが…。

 

戦闘後の話も冷静に動いています。冥琳は周瑜でもあるので、元は諸葛亮である朱里にとっては三国志的な

 

好敵手として位置づけています。私の中で、冥琳は朱里に次ぐか全くの互角くらいの軍師だと思うので。

 

今の朱里には敵わないでしょうが…。

 

 

そして曹操軍…こちらは非常に残酷な描写となりました。

 

何が起きたかは本文を見ていただいてここまで読んでいただいた以上、改めて説明しなくてもお分かり頂ける

 

かと思いますが…本当に苛烈な描写となってしまいました。

 

戦闘後の話でも、季衣はまだ理性的に行動していますが、桂花は完全に気が狂っていますし…ついには言葉を

 

発せなくなり、獣のように吼え猛るだけ…書いていてあまりに酷薄かと思いましたが、戦争を描いている以上、

 

こうした描写も必要と思い、書かせていただきました。

 

 

華琳も雪蓮も、運命に翻弄され続けた一刀達に『運命』を持ち出したために二人の逆鱗に触れたわけです。

 

この二人もまた、輪廻する外史という抗えない力に翻弄されていますが、今はそれに自覚が無い以上、それが

 

二人の口から出るのはいずれ必ず起きていた事象なのだと思います。

 

雪蓮は提言で、華琳は強制という違いはありますが。

 

 

怒りのままに行動させた時点で格の違いも何もないとはお思いになられるかもしれませんが、一刀達と二人の

 

王が戦場で相対することで、格の違いを二人の王は思い知った形です。朱里なんて華琳を『覇王を僭称する者』

 

なんて呼んでいるくらいですから。見下しているわけでは決してなく、敢えて言っているだけです。

 

 

今回も色々とありました。麗羽が色々と冷静なので、白蓮が『毒』としての機能を弱めてしまっている…

 

いいことなんですけどね。他にも鋭すぎる深謀遠慮を見せる鈴々など、ちょっとやり過ぎた感はあります。

 

 

次回からは虎牢関戦、つまり後半戦に移ります。またしても色々と起こる予定です。

 

 

 

次回もお楽しみに。

 

 

 

追伸

 

 

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皆様、ご愛読ありがとうございます。

 

ますますクセの強くなる物語ですが、今後ともよろしくお願いいたします。

 

 

次回予告

 

 

 

反董卓連合を糾合せし河北の雄・袁紹。諸侯を糾合せしむるはその我欲か、或いは名家の誇りか。

 

 

次回、『報復の剣・前編』。

 

 

人が為すこと、何事も報われる。それが如何なる形にせよ、確かにそれは行いへの報い。

 

 


 
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