No.65463

帝記・北郷:十四~決戦合肥・前之二~

いよいよ始まる合肥決戦

今までやったことのない書き方をしているので見にくいかもですが、今回ばかりはご容赦を

オリキャラ注意

2009-03-27 03:18:52 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5079   閲覧ユーザー数:4486

『帝記・北郷:十四~決戦合肥・前之二~』

 

 

「我らが先王の仇討ぞ!!全軍進めぇ!!」

「俺達の将であり、俺達の兄であった龍将への手向けだ!!魂の求めるままに勇を奮え!!」

合肥城近郊の平原。

ここに、新魏王・北郷一刀率いる十二万の軍勢と呉王・孫権率いる十万の軍勢が激突した。

共に、虚構の仇討を掲げ、一人の男にその王器を示さんが為に。

 

 

呉国領内にある小さな街。

街の大きさに比べて人々の行き来は多く、そのほとんどが大陸の各地から呉都・建業を目指す商人達だった。

三国鼎立以前から宿場町としてそれなりの繁栄を見せ、鼎立後は交易都市への中継所としてさらに大きくなりつつある、言わば成長途中の街。

商人や宿屋。飯店にちょっとした軽食屋。

そんな街中に、一際目立つ人物がいた。

紅紫を基調とし胸元の大きく開いた服に流れる長い紫の髪、同世代の女よりも頭一つは高い身長。腰には一刀が見たら日本刀と間違えそうな曲刀を佩びて、ちらちらと飯店の中を覗いては眉をひそめて歩みを進める。

その流れるような挙動、なにより美貌に不覚にも目を奪われる男も少なくない。

というか、むしろ年頃の娘達の方が彼女を見ていたが。

やがてこじんまりとした、それでいてなかなかの賑いを見せる拉麵屋を覗いた時。女はほっとしたような疲れたような顔をしてその店に入ると、隅の卓でスープと麺だけの拉麵を啜っている男に声をかけた。

「…具無しの拉麵とは質素なのかそうでないのかよく解らない食事だな」

「……ほっとけ」

ジト目で器から顔を上げたのは龍志であった。

「それで、いったい何の用だ?風炎(ふぇん)」

風炎と呼ばれた女は一瞬ぴくりと頬を引きつらせ。

「行軍中にお前が突然いなくなったから、後軍の私に捜索命令が出たんだよ龍泰」

「それはすまなかったな。天下の魯粛殿ともあろう方に。それからここでは龍志の名で構わないぞ」

魯粛。字を子敬。真名を風炎。呉の軍師の一人であり冥琳の懐刀とされる将である。

「そうか。それでいいと言うのならそうしよう。それから私の事は風炎と呼べと言ったろうが」

「それは失礼」

肩をすくめる龍志に眉を寄せる風炎。お茶を持ってきた店員にチャーシュー麺を頼むと、おもむろに龍志の向かいに座った。

「で、どうしてここに?」

「何。以前呉を治めた時に、この街で珍しい薬草を見たのを思い出してな。それでだ」

「薬草……冥琳様か?」

龍志は黙って小さく頷く。

「そうか…悪いのか?」

「思ったよりも…な。だがまだ俺の腕で何とかなる域だ。それよりも気になるのは合肥の戦いだろう」

「まあ…な」

不審な動きを見せる蜀に備えて兵の一部を荊州南郡へと向かった冥琳達だが、風炎の案により後軍の兵は万が一の時はいつでも合肥に引き返せるよう進軍速度を落としていた。

「そろそろ戦端が開かれているころだ…正直この戦……」

「呉に勝機があるとは思えないか?」

小鉢に入ったメンマを小皿に取り、風炎に渡しながら龍志が言う。

「…数か月前なら充分勝機はあった。あの頃は呉は孫策様を殺されたという思いで死兵と化していたからな」

しかし時間の経過と共にその熱も冷めつつある。雪蓮と親しかった首脳陣はまた違うだろうが、それらの人々はまた別の事に気付く時期でもあった。

つまり、孫策惨死の噂は本当だったのかと。

「時間をかけ過ぎたのさ孫呉は。あの時の勢いのままに合肥を抜けて徐州まで攻め入っていたら話も違ったろうが。俺の単騎駆けで気勢を削がれ、美琉や張遼による合肥の死守、駄目押しの二張来々……俺を失ったということが新魏軍にどの程度の影響を与えているかは知らんが、それを差し引いても優位性を失いすぎている」

自分の器にもメンマを入れる龍志。

「しかし、それだけではまだ互角。勝機も無いが敗因と言えるほどのものではない。後はいかに相手の勢いを削ぎ自軍の士気を高めるか……」

「それも、すでに手は打っているだろうよ。蒼亀はまだ都とはいえ、新魏軍の参謀は躑躅……人の心理を読むのに長けた彼女ならば絶対に取るであろう策は……」

「二張来々の複写…か」

ずず…。とお茶を啜る風炎。

思いがけない熱さに飛び上がりそうになったが、何とかそれをこらえた。

 

 

「遼来々!!」

「張郃推参!!」

斬り裂かれる孫呉の右翼。

その先を行くは、先の戦いで孫呉の心胆を寒からしめた霞と美琉……ではなく、煉霧(れんむ)こと臧覇と藤璃。

何時もの彼女達と違う事は、煉霧は紺碧の羽織を身に纏い、藤璃は長弓を持ち眼鏡をかけていることだろうか。

「ったく。他人の武名を使うってのはどうも気持ちが良いもんじゃねぇな」

朴刀を振り回しながら煉霧がぼやく。

何時もなら炎のような赤髪がそれに合わせて舞い踊るのだが、今日は髪留めで無理矢理纏められた揚句に窮屈な兜をつけられているため、それも無い。

「そうぼやかないぼやかない。使えるものは何だって使うのが戦というものじゃないか」

雑兵の額を見事撃ち抜いた藤璃が苦笑しながらそう言った。

彼女は黒髪の美琉と違い、真名のような鮮やかな藤色の髪をしているが特別それを隠してはいない。

「そりゃ解ってるけどよ。こいつらどいつもこいつも張遼だ張郃だって…なんか釈然としないんだよなぁ」

「まあ、同じ武将として気持ちは解るけどねぇ」

藤璃も本音では弓よりも鞍に掛けている大斧を振り回し己の武威を孫呉に叩きつけたいのだ。

とはいえ、それは私事。私事と公事を混同するほど不敗(まけず)の徐晃は馬鹿ではない。

「他の所も順調に行ってるみたいだな」

右翼と同じように旗を乱し始めている敵左翼。

あちらには二人と同じように霞に扮した真桜と炎(ほむら)こと廖化が暴れまわっているはずだ。

「五組の二張作戦の第一段階…まずは順調みたいだね」

五組の二張作戦。

その名の通り、霞と美琉に加えて彼女達に扮したそれぞれ四人ずつの武将が縦横無尽に出没し敵を撹乱する作戦。

発案者は躑躅。命名は一刀。

孫呉の兵の恐怖心を突いた見事な策だと藤璃は思う。実際にその効果は目の前の戦況がよく示している。

とはいえ……。

「名付けの感性はあんまりないみたいだな…兄上は」

実はこの藤璃のぼやきがこの作戦に参加している諸将の心の声だったりするのだが…それはとりあえず関係ないので割愛する。

 

「ぶえっくしょい!!」

「汚い!!」

新魏軍本陣にて、盛大なくしゃみをした一刀と跳ぶようにしてそれを避けた華琳。

「あーごめん…うーん、風邪かなぁ」

「誰か魏の種馬の噂でもしているんじゃないの?あ、今は新魏の種馬ね」

「おいおい…」

身も蓋もない言い方に、頬を掻いて苦笑する一刀。

否定しないあたりが彼の日頃の行いを表しているが。

「それはそうと、戦況はこちらが優勢みたいよ」

「そうか。流石は躑躅の作戦だな」

次の策の準備の為に本陣を離れている軍師の妖艶な美貌を思い出し、一刀は司馬懿という名は伊達ではないというようにうんうんと頷いた。

「とはいえ予断は許されないわ。この混乱は一時的なものだろうし、次の段階に孫権を乗せるには決定打に欠けている」

「そこは中央を担当している霞と美琉…そして藍々の働き次第かな?」

「まあ…ね」

ふとここで妙に歯切れの悪い答え方をする華琳。

その姿に、一刀は落ち着いた様子で。

「華雄のことかい?」

「ええ…その通りよ」

本来ならば中央突破の布陣には華雄も含まれていた。しかし、昨日の作戦会議において彼女は一刀から直々に配置を移動させられていたのだ。

「正直、彼女は大きな戦力よ。それをどうしてあんな所に?」

「うん…理由は二つ。一つは、もしこの合肥の戦いと俺の知っている合肥の戦いに共通点ができるとしたら、たぶん華雄の布陣が大きな意味を持ってくる」

「もう一つは?」

「……華雄が龍志さんから真名を返されたって話は聞いただろう?」

その問いに華琳はゆっくりと頷いた。

彼女が龍志に真名を返上されたことは昨日の報告の中に入っていた事柄だ。

「それについて、華雄がどう思っているかは解らないし龍志さんの意図も俺には解らない。でも、ひょっとしたらって思う事があるんだ」

「と言うと?」

「龍志さんは、華雄に独り立ちして欲しいんじゃないかって……龍志さんと華雄の過去を俺は深く知らないけど、華雄の中で龍志さんの存在が大きければ大きいほど、華雄は龍志さんに依存している気がするんだ」

生き甲斐を見失った。そんな華雄を助け、武を磨き軍を教えた男・龍志。

その存在が華雄の中でどれほど大きく、そしてどれほど遠いものであったのだろう。

思えば、一刀も龍志の背を追っていた。

彼に認められる王となることが、一刀の心に中に少なからぬウェイトを占めていた。

そして龍志がいなくなった時。一刀の胸に去来したのは哀しみと恐れ。

自分をそれとなく導き支えていた存在の喪失。

それは同時に一刀に龍志の重さを教えると共に、一つの思いを生み出した。

『このままでは駄目だ』

確かに龍志の存在は大きい、大きいが故にそれに甘えてしまう。

恐らくそれは一刀だけでなく、維新軍譜代のメンバーは皆そうであろう。

だから一刀は決めた。彼の認める王ではなく、彼の想像すら越える王に……と。

それが今まで自分を導いてきた男への恩返しだと。

いずれは、彼が孫呉に行ってしまったその理由(わけ)すら受け入れられるように。

そして同じことを、華雄にも解ってもらいたい。

龍志という存在から解き放たれた一人の将に、これから進む道と覚悟を決めてもらいたい。

華雄を前線から外したのはその時間を少しでも与えるためだった。

「……私は龍志や華雄と深い仲ではなかったからどうこう言える立場じゃないけど」

黙って一刀を見ていた華琳が口を開く。

「あの二人の関係って…不思議なものね」

「そうだね。とても強くて、故に危うい」

その関係への苦笑だろうか、はたまた華雄の進む道への不安を隠すためだろうか、或いは過ぎし日の二人を思い出したのだろうか。

華琳は一刀の口元に浮かんだ笑みから、その心を伺う事は出来なかった。

 

                   ~前之二に続く~

 


 
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