No.64671

流浪の御使い

このTINAMIでは初投稿となる『真·恋姫†無双』の、三国共通アフターストーリーです。一刀の設定が若干変わってますが、反響次第では中編から長編になる予定です。
描写が変に感じるかもしれませんが、ご感想お待ちしてます!
最初はヒロイン出ません!オリキャラ注意ですよ~!

2009-03-22 13:54:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3468   閲覧ユーザー数:2761

 
 

 

(とある孤児院の保育士の証言)

 

その日の夜、私は雲一つない星空を眺めていました。

明日がちょうど、三国の戦いの幕を、天からやってきたという御使い様が閉ざして二年という静寂な時。

戦災孤児を養い、教育をし、自立出来るまであらゆる支援を備えた“孤児院”という、御使い様が各地区に設立してくださった施設に勤める“保育士”である私は、いつもの様に孤児である子供を寝付かせて、慌ただしい一日を終えたところでした…。

 

「…御使い様が消えて、もうこんなに月日が経ったのね…」

 

私はこうして離れの村に住んでいる者ですので、一度も御使い様のお姿を見たことはなかったんです。

だから御使い様といえば流れ星かな、なんて思ったりして、毎日の仕事を終えては丘の上で空を眺めていました。

でも、その日はたまたま太陽の位置がまだ高い昼下がりで、そんな時にあんなに低く飛んでゆく流れ星なんて見た時は、本当に驚いたのです。

 

「綺麗……あっちは確か砂地の方角だったはず…」

 

私は流星の軌跡に釘付けでした。

村から数十里ほど離れた砂地へと堕ちてゆく流れ星は、私にその時はもしかしたら、と思わせました。

しかし……流れ星がもう少しで地へと堕ちようという瞬間に、その流れ星は霧のように消えていったのです。

 

「一体あれは……私は幻を見たのかしら… 」

 

「「「おねぇちゃ~ん!!いんちょう先生がよんでるよー!」」」

 

その時は孤児院の子供達が私を呼びに来たので、思い半ばでその場を後にしました。

何故かあの流星の輝きを見たあとに、何かこう、頑張らなくちゃって誰かに優しく背中を押された気がして、私の中に力がみなぎったような気がしたんです。

あの流れ星が一体何だったのか…

ちょっと気になったままでしたが、その時にはもう戦で親を亡くし、兄弟を亡くしながらも、笑顔の子供達の事で頭が一杯になっていました。

その数日後、私達の孤児院にあんなことが起きる思わずに……。

 

 

 

「……い、院長先生…一体…今、なんて……?それに…そのお金はこの、孤児院の…」

 

「だから…今までご苦労様だったね、と言ったんだよ。いい具合に貯まってきたこの寄付金は、今日から儂が責任を持って全て管理してやる、とな」

 

私には信じることが出来ませんでした。

そこにいたのは、穏和な人柄である筈の院長先生ではなくて…。

まるで人の皮を被った、鬼の気を纏う、高齢であるはずだった孤児院の長、その人だったのです。

 

「院長先生…!!どうしてですか!?何故、貴方の様な方がそんなことを───!?」

 

「…………」

 

子供達は皆、院長先生の異様な圧気に怯え、私の背中で震えていました。

院長先生は答えてはくれません。

そのまま振り返り、立ち去ろうとする院長先生の後を、獲物を持った柄の悪い男達が続いて行こうとしたので、私は追いかけようとしたんです…。

 

「ま、待って!待ちなさ──っ!??」

 

突然、強い目眩がしました。

体調を崩しているわけでもないのに、私の視界が大きく揺らいだのです。

それは私だけではなく、後ろにいた子供達も同じようでした。

そして気付きました。あの男が、院長先生が院長先生でなかったことに……。

 

「…貴方はッ……一体誰なの…?」

 

振り返った男は高齢の院長ではなく、赤い布を頭に巻いた、不精髭の賊でした。

“しゃしん”というので見たことのある、指名手配の男だったのです。

男は私達を見て…うっすらと口元を卑しく歪めました。

 

「クックッ…。俺が誰だか分からねぇってぇのかよ?ヒデェなぁ。しばらく餓鬼共の面倒をみてやった、心優しき院長先生の顔を、忘れちまったのかい?」

 

「ふざけないで!本物の院長先生をどうしたの!?それに…!!」

 

男が真実を述べるまで、私達は騙され続けていました。

今日という、雷雨の吹き荒れるこの日まで。

 

「俺が、俺であったことに何故、気付かなかったか、だろうよ?クックックッ…俺が作ってきた食事は美味かったかい?」

 

「…なっ──ッ!?」

 

今にして思えば、おかしなことだらけでした。

孤児院に関する金銭の管理や、村人や警ら隊が巡回に来てくださった時は、頑として顔を出さずに私の仕事とし、“薬屋”と名乗る男が定期的にやってきた時は、何故か院長先生が顔を出していたのです。

そして私達の食事には、必ず院長先生の手料理も、食卓に並べられていました。

あの“薬屋”は賊の頭領であったあの男の仲間で、食事には幻覚を引き起こす薬が、毎回盛られていたのです!

本物の院長はいつの間にか奴等に…。

 

「貴方たちは!なんて非道なことを…。こんなことをして只じゃ済まないわ!せっかく御使い様が建ててくださった孤児院に、事件を引き起こしたなんて知られたら、三国全域の怒りを買うのよ!」

 

「知ってるぜぇ。天の御使いって言われたインチキ野郎のことだろう?生憎だが、俺はそんなもん信じねぇよ。世の中は自分こそが全てだ。どんな裏技使ったかは知らねーが、どうせ自分の“力”と“運”を使わずに、あの手この手とずる賢い手段であの戦乱を、生き残ってきたに違ぇねえ。…俺は傭兵だったがよ、生き残ってきたぜぇ。自らの“力”とふてぇ“運”で、三国の兵を何れかに問わずに、皆殺しにしてやったヨ」

 

あの男は化け物だと、私達に思わせました。

私達の鼻には、頭領から血の匂いを嫌という程感じたのです。

表で雷鳴が鳴り響いた時、頭領の表情は私達に死を、悟らせました。

 

「さァて、お話はここまでだなァ!…ボウヤ達ィ、おねんねの時間だぜぇ?安心してくれよ。今はまだ肌寒い季節だからよ…。眠った後に火を使って、身体をあっためてヤるよ。おい、てめぇら………ヤれ」

 

「「へい、お頭!!」」

 

「このッ……外道……!!!」

 

私達に盛られていた薬は少々の毒性も混ざっていたらしく、薬の効果が切れた時でも身体に痺れを残していたため、動けずに、ただ獲物を振り上げようとする頭領の子分達を目の前に、許されたのは瞳を閉じることだけでした。

 

「へっへぇ。悪いなぁ。おじちゃん達とはもうさようならだ。お休み!いい夢を見ろよ───ッ!!」

 

「勿体ないですね、実に。けどお仕事ですから、それも仕方がありません。せめてこの一撃を、子守唄にしてあげますよ…」

 

今でも、こうして生きていられるのが、私には不思議で…。

でも…やはり全ては“あの方”のお陰なんです!

いつまでも訪れぬ死の瞬間に、瞳を開いた私の目の前にいつの間にか現れていた“あの方”が、奇跡でした。

 

「な!何です、貴方は!?一体何処から湧いて……!!?

は、なし…なさい!何時まで私お手製の武器を掴んでいるのです!!」

 

「んだ、貴様はァ!!邪魔しやがって……覚悟があって俺たちに刃向かってるんだろぅなぁ!?」

 

「───覚悟?」

 

風に優しく撫でられるように靡く、その白い服を背に、“あの方”は子分達の獲物を素手で握ったまま、亀裂を相手の手元に走らせていったのです。

 

「──そんなもんは…大地を覆う叫びを聞いた時にとっくに出来てるよ」

 

「「ぐべらッ!??」」

 

突然、砕け散った獲物ごと殴り飛ばされた子分達が自分の左右を通りすぎ、孤児院の塀を突き抜けていった時の頭領の顔は、呆気に取られていました。

 

「………………ほ、ほ~う……やるじゃねぇか。いくら中身スカスカなあいつらとはいえ、一撃で仕留めるとはよ…。何者だ、オメー?」

 

「…どうでもいいだろ。お前が奪ったこの孤児院への寄付金、今すぐ返してもらおうか!」

 

背中越しとはいえ、“あの方”の気迫は、あの非道な賊の頭領を明らかに凌ぐものでした。

押し黙った頭領は懐刀を抜き、自分の“武”の凄さを見せつけるかのように、構えをとって苦々しく口にしたんです。

とても、小さな声で。

 

「く、クソがぁ…この俺と、勝負しようってぇのか?」

 

「……どうした?お前は“運”と、“力”に自信があるんだろう?なら、俺の“力”と“天運”と、どっちが強ぇか比べようじゃないか」

 

既に、頭領が懐刀を持つ手は震えていました。

対して“あの方”は、腰に差していた木刀を床に刺しつけたまま、正面切って頭領を睨み付けたんです。

“それ”に精神を追い詰められたのか、頭領から段々と低い捻り声が…。

 

「…うッ…うう……ううう…うううっ!うおおおおっ!!ふざけるんじゃねぇッ!俺はどんな過酷な戦場でも生き残ってきた!それは俺に“力”があり、“運”が太いからだ!…俺の計画は完璧なんだ!訳も分からずに突然現れたテメェなんかに、崩されるわけがねえぇんだあぁっ───!!!」

 

魂の咆哮とも呼べる、その叫び声と共に、“あの方”に向かって突進してきた頭領に、私も、怯えたままの子供達も、目を見開かずにはいられませんでした。

頭領が握っていた、刃の刀身が一直線に“伸びた”のです。

迫りゆく凶刃にも“あの方”は、不動のまま…。

 

「………知らないのか?それらを越える『生きる意志』というものを…」

 

刹那、再び雷鳴は轟きました。

その余りにも凄い光に、私達は身を焦がされるような思いでした。

 

「───カ、カハッ!?…ば…か…なぁ……」

 

…天の怒りでした。空から雷が、頭領の持っていた懐刀の刀身に向かって、降りおちたんです…!

倒れてゆく頭領の身は、無惨にも焦げて、天の怒りの大きさを表しているかのようでした。

 

「───“避雷針”だよ。悪いことするといつか、不思議と神様に怒られちまうんだぜ…」

 

そして頭領の身が完全に地面に伏せ落ちた時、私は確信したんです。

勝負が決するまで荒れ狂っていたあの雷雲が、賊が倒された瞬間に見事に晴れ渡り、雲の隙間から太陽の日射しが“あの方”を照らしたのです。

あぁ、間違いなくこの方はあの『天の御使い様』だと!

 

「あ、あの…御使い様!もしかして、貴方は天の御使い様ではありませんか!?」

 

痺れが無くなってきた私は、助けて下さったあの男性の元へ駆け寄りました。

頭領の手から離れていた寄付金袋を手にとりながら、振り向いた男性は苦笑を浮かべてこう言いました。

 

「…いや、俺はよく分かんないけど、なんだか懐かしい気がする呼び名だな…。そんなことより無事か?怪我はないか?」

 

「はい!御使い様のお陰です!あの!私はずっと前から空を見てて、きっと御使い様がいつか戻って来てくれると信じておりました!やっぱり…」

 

「落ち着いてくれ。今は早く、この寄付金を持って子供達を頼むよ。……全員、気絶しているようだから」

 

「えっ──!?」

 

初めて間近で見た雷の凄まじさに、孤児院の子供達は気を失っていました。

御使い様に促されて、私は慌てて子供達の元へ駆け寄ったんです。

幸い、外傷は見られずに気絶しているだけでしたので、私はそっと一人ずつ気付けをしました。

子供達が、瞼を擦りながら起き上がるのを見て、私はようやく安堵感を得たのですが…。

 

「…おねぇちゃん。あの悪いおじちゃんは~?」

 

「大丈夫よ。天の御使い様が私達を助けて下さったの。だから、皆でお礼を言いにいきましょう?」

 

あれほど怖い体験をしたというのに、泣き出す子供はいませんでした。

私が一人ずつ宥めている間に、年長の女の子が、私の服を引っ張りました。

 

「…ねぇ、姉者。姉者が言ってた御使い様って何処にいったのですか?」

 

「え?御使い様なら、ほら、あちらに……あっ……!?」

 

「「「かくれんぼだぁ~!!」」」

 

そこにはもう、御使い様のお姿はおろか、賊の死体すら無かったのです。

元気組と呼ばれる孤児達は、我先に見つけてやるんだと駆け出し、残りはただ透き通るような青空を見つめ、唖然とするほかにありませんでした。

私達が見た御使い様は決して幻ではなく、ただ、いつまでも引き留めておけるお人ではなかったのです。

 

「天に…いえ、きっとまた、大陸中の救いを求める人達の元へ、旅立ったのよ…」

 

私が御使い様に関して、言えることはこれが全てです。

ですが、私達はこの出来事を忘れることなどないでしょう。

あの時、御使い様を照らした日射しは、今は私達の心を照らし続けているのですから…。

 

【報告 了】

 
 

 
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