No.64128

ルンルンレアチーズ

みぃさん

恋愛ショートです。

2009-03-19 19:49:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:763   閲覧ユーザー数:743

声を立てるでもなく、うなだれるでもなく。

ただ、静かに。

一点を見つめたまま涙をこぼす彼の瞳はきれいで、目が離せませんでした。

 

 

 

 

 

 

「甘いもの、嫌いなんだ」

 

 

 

 

またしても、一刀両断。

彼は差し出されたものに目もくれず、女の子たちに背を向けました。

 

何度断られても、彼にプレゼントを用意する女の子たちは後を絶ちません。

冷たい目で冷たい言葉をはかれても、近づけるきっかけがあるだけで彼女たちは嬉しいのです。

 

実は私も、きっかけさえあれば彼に近づきたいと思っている一人です。

まさか、そんな機会がすぐにやってくるとは思ってもいませんでしたが。

 

 

 

 

調理部の鍵当番だった私は、のんびりレアチーズケーキを作っていました。

とりあえず、先に実習準備室だけ鍵をかけてしまおうと、ドアから顔を出したところに、彼がちょうど通り過ぎようとしていたのです。

こんなチャンス、逃す手はありません。

 

「待ってください!」

 

背を向ける彼を、私は呼び止めました。

 

「今、レアチーズケーキができたんです。よかったら食べていきませんか?」

「うるせーよ、俺は甘いものはっ…」

「それだったら大丈夫です。レアチーズは元々甘いものが苦手な人も食べられるスウィーツですよ」

「なんで俺がお前なんかの!!」

 

ぐぅ~

 

間の抜けた音に、びっくりしました。

今のはもしや?

 

「おなかが減ってるんですね。ちょうどいいタイミングじゃないですか」

「…あのな、お前ら女が性懲りもなく毎時間毎時間追いかけてくるせいで、食事食い損なったんだよ!!」

「言い訳はいいです。私以外誰もいないので、のんびり食べていってください」

 

彼は、しぶしぶ私の後について調理室に入ってきました。

 

「こんなのもらって食うなんて、久しぶりだな。…なんだよ」

 

じっと目を見つめる私に、彼は不信感を持ったようです。

 

「簡単についてきてくれるなんて思いませんでした」

「…俺だって、受け取ることもあるんだよ」

「入学式前に泣かされた女性がくれたものとか、ですか?」

 

彼は、大きく目を見開きました。

 

「お前、なんでそれっ!!」

「当たり、ですか」

 

 

 

 

 

 

あんなに静かな男の人の泣き顔なんて、見るのは初めてでした。

同級生として再び出会った彼が頑なに女性を避ける姿を見て、きっとあの涙は女性が関わっているんだと、確信したんです。

 

 

 

 

「あなたは、女性嫌いを演じているようですが、なりきれていませんよ。本当に嫌なら、無視でもなんでもすればいいんです。でも、つらい気持ちを知っているあなたは、そこまでできないんでしょうね。だから、女性が集まるんです。ここでなら泣いても大丈夫ですよ。誰にもいいません」

「泣くか!」

「あなたの涙、とてもきれいだと思ったのに」

「うるさい!!」

 

 

 

 

言葉を荒げた彼ですが、どこか寂しそうに、視線を下げました。

やっぱり、ひきずっているのかもしれません。

彼は、レアチーズケーキを大雑把に切って、大きく開いた口に押し込みました。

 

 

 

 

「レアチーズケーキは、冷やして固めただけで、簡単に作れるんですよ。あなたも、心を冷やして固めてしまっているみたいですが、レアチーズケーキみたいに口の中で溶かしてしまいましょう」

 

 

 

そして、ついでといってはなんですが、私の存在を、固めてほしいんです。

 

 

 

 

黙々と食べている彼。

上目遣いでこちらを見る瞳に、心が高鳴りました。

でも、彼に弱みは見せたくありません。

だって、私が彼に興味を持ったきっかけが、泣くほどにまで好きになった女がいたっていう事実からなんて、なんだか悔しいじゃないですか。

 

 

 

 

「お前、なんなんだ?」

 

 

 

 

私ですか? それはもちろん。

 

 

 

 

「あなたのファンの一人ですよ?」


 
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