No.638111

BADO〜風雲騎士〜新奇

i-pod男さん

今回はオリジナルのホラーと一期のホラー(名前だけですが)が登場します。ではどうぞ。

2013-11-19 08:13:02 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:444   閲覧ユーザー数:439

朽ちた洋館にある無数のゲートの封印をララに先を越されてしまった獅子緒はその間ずっと歩き回り、殆ど自棄糞で片っ端からゲートを封印して行った。そうして時は過ぎて行き、遂に日の光は地平線の彼方へと姿を消してしまう。

 

「ここら辺だよな?」

 

「間違い無いわ。ホラーが出現した。ゲートはあれね。」

 

「こいつは・・・・栓抜き?いや、ソムリエナイフか。また妙な物がゲートになったな、全くよお。残留思念は?」

 

「残った感情は、嫉妬ね。お酒に関するホラーだったら、過去に頻繁に出没した奴がいるわ。バヴィネスカって言う偏食な奴よ。パズズみたいにグルメぶってる、いけ好かない奴なの。」

 

ルルバの予想を聞いた獅子緒は口元に手をやって首を傾げた。

 

「まあ、元々酒ってのは古来から宗教体験とか呪術とか、そう言う儀式に結び付けられるからな。しかし、気になる事がある。食われた人間の体が残ってるって事だ。つっても、時間が経てばすぐに消滅しちまうが・・・・」

 

「バヴィネスカは体には微塵も興味が無いの。あいつが食べる、ううん、正確には飲む、と言った方が適切だけど・・・・」

 

もしやと思い、獅子緒はルルバを遮った。

 

「あいつが飲むのは人間の魂か。」

 

「肉体が消滅する前に奴を斬ればどうにかなるんじゃないか、と思ってるかもしれないけど、それは無理。魂を抜き取られた空っぽの肉体は、時間と共に自然消滅する。所要時間は一分も無い。」

 

「追跡しろ、これ以上被害が拡大する前にぶった切る。」

 

「もうやってるわよ!南東に六百二十メートル!」

 

懐からトマホークの様に縮小した魔戒斧を引き抜くと、ルルバが導くままに木々や電柱、更にはビルや民家の屋根も足場にし、高速で移動した。

 

「北に百メートル。あぁ・・・・・また、魂が・・・・・!!」

 

「クソォッ!」

 

獅子緒はルルバの言葉に歯噛みし、毒突いた。更に強く、更に速く足を動かす。

 

「あれよ!あのビルの中!最上階!」

 

腹の底からわき上がる雄叫びと共にまず魔戒斧で窓ガラスに巨大な亀裂を入れ、二撃目の蹴りで突破、着地した。そこは、大理石の床に赤いカーペットを敷き、白い壁と天井から同じく赤いサテンのカーテンが下がっていた。粉砕された窓ガラスの穴から吹き込むそよ風にはためいている。そこには、タキシードを着込んだ男と、露出度が高い丈の短い紫のカクテルドレスに身を包んだ女が一人ずつ。どちらも服がはだけられている。どうやら情事に突入する半歩手前で飛び込んでしまったらしい。

 

「豪華なもんだな。無断で失礼。」

 

さてと、どっちだ?指先で魔戒斧を弄んで回し、斧の刃と柄が更に大きくなり、手斧程の大きさしか無かった小振りな斧が巨大化し、柄は一メートル弱に、刃の幅や刃渡りも先程の倍近くに増大した。柄尻を地面に突き立てると、大理石の床に亀裂が入った。

 

「な、何だお前は?!」

 

虚勢が見え見えな震える声で問う男。だが当然獅子緒は答えず、彼の眼前に魔導火のライターを翳した。緑色の炎に照らされた彼の瞳を注意深く覗き込んだ。だが、何ら変化は現れない。

 

「って事は・・・・」

 

拳を振り上げ、後ろから飛んで来たワインのボトル数本を叩き落とした。その際にボトルは粉々に割れ、絨毯に巨大な染みができ、ボトルを払い除けた獅子緒の腕も赤紫色の液体がポタポタと指先から滴り落ちていた。プラプラと手を振ると、袖に引っ掛かっていたガラスの破片が落ちて行く。

 

「あーあ、良い酒なのに。勿体無い事するなぁ。」

 

「言う事それ?!上着がびしょ濡れでしょうが!」

 

「後で洗えば良いだろうが。魔法衣はそう言う物だ。さてと、」

 

先程ライターを突き付けた男の鳩尾に当て身を入れて気絶させると、女の方に向き直る。

 

「お前がホラーだって事はもう分かってる。良いからさっさと姿を見せろ。」

 

斧を構える獅子緒。

 

「待ちなさい。私は人間と何ら変わらないわ。人間は生きる為に他の動植物の命を奪い、捕食する。ホラーもまた然り。方法は違えど私達も食べなければ生きて行けない存在よ?それに、私はお腹が空いた時だけしか食べない。」

 

「もう黙れ。」

 

凄まじい勢いで斧を振るうと、その風圧で革張りのソファーがひっくり返った。斧のリーチを生かし、女が迂闊に近づけない様に戦う。

 

「分からず屋ね、貴方。」

 

「獣は手懐けられる生き物じゃない。俺は誰にも尻尾は振らねえ。お前にもな。うだうだ下らない事言ってる暇があるなら、俺を殺そうとするなり魂を抜こうとするなり足掻いてみろや。」

 

斧を両手でクルクルと振り回し、斧が更に巨大な、本来の大きさに戻って行く。

 

「魔戒騎士の魂の味・・・・・考えただけでゾクゾクして来たわ。ンフフフフ・・・」

 

「気色の悪い女だ、なっ!!!」

 

本来の大きさを取り戻した魔戒斧を振り下ろした。だが、彼女の周りから赤紫の液体が滾々と沸き上がって来る。ワインだ。そのワインは間欠泉の様な凄まじさで吹き出し、重い一撃を繰り出す斧の勢いを殺し、遂には弾いた。

 

「っととと・・・・」

 

弾かれた勢いを利用した獅子緒は飛び退り、再び構えを取った。ワインの奔流に飲まれた女が姿を現した。

 

「来るわよ!」

 

「おう。」

 

ホラー、バヴィネスカの姿は、まるで古代ギリシャの神話に登場する人型の化け物の様な物だった。体中から蔦が生え、左腕には巨大な銀色のタストヴァンの様な円状の楯、右手にはハルバードの様な長柄の得物。地獄のコロシアムにでも登場しそうなグラディエイターだ。

 

「女に憑依してた割には随分と物々しい格好ね。」

 

獅子緒は地面に円を描き、肘辺りで僅かに腕を曲げた状態で両腕を広げた。己の体躯より一回り大きい緑色の鎧が装着され、獣身騎士戯牙に姿を変える。

 

「行くぜ。」

 

だがその時、幾多の凄まじい撃発音が響き渡り、バヴィネスカは体中を穴だらけにされてしまう。何が起こったのか分からないまま、痛みと憎しみに吠えていたが、最後の一発が眉間を貫き、バヴィネスカを消滅させた。

 

「何だ・・・・?」

 

空薬莢が大理石の床ではねる音がして、影の中から黒尽くめの人間が姿を現した。両手には華美な彫刻が施された二丁の自動拳銃が握られている。

 

「お前は、魔戒法師、なのか?」

 

「答える必要は無い。お前に興味は無いからな。私の目的は復讐を果たす事。それだけだ。私の邪魔をするな。」

 

そう言い残し、その人間は再び沈む様に影の中へ吸い込まれて行き、姿を消した。

 

「何だったんだ、あいつ?ホラー、じゃあないよな?」

 

「ええ。あれは人間よ。でも、私達の事を知っていると言う事は、彼もまた魔界の存在を知る『こっち側』の人間。くぐもった声と体が外套とフードですっぽり覆われていたから性別も判断出来ない。一旦元老院へ報告に戻りましょう?」

 

「まだだ。残っている魂を弔いの炎で成仏させる。気配は?」

 

「ワインクーラーの中。」

 

鎧を再び召喚した獅子緒は、獣身斧に魔導火を近づけた。緑色の炎に照らされた斧は松明の様に薄暗い部屋を照らす。腹に力を入れ、斧を天高く振り上げると、そのクーラーを真っ二つに叩き斬った。クーラーは中に入っていたワインのボトルと共に燃え尽き、中からビー玉程の大きさがある青白く光る球体が幾つも割れた窓から外に飛び出して行く。

 

「せめて、来世はホラーがいない世界だと祈っている。」

 

それを見つめる獅子緒は震える声でそう呟くと、ワインラックに鎮座しているボトルを二本抜き取った。

 

「ラフィット・ロートシルトに、シャルドネ・・・・・今夜は献杯だ。」

 

「あんた、意味分かってるの?て言うか、報告前にそんなモン飲むんじゃないの!」

 

「うるせえ。」


 
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