No.637628

真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第十二話


 お待たせしました!

 先帝の追悼の儀式が行われる場で繰り広げられる

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2013-11-17 13:52:47 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:8583   閲覧ユーザー数:6057

 

「儀式の開催まであと三日…此処まではとりあえず静かだったけど、一体

 

 どうなる事やら」

 

 俺は儀式が行われる舞台の設置場所の前にいた。何故俺がこんな所にい

 

 るのかと言うと、そもそもこの舞台の設営を命じられたのが盧植様だっ

 

 たからだ。

 

 何進が提案した儀式であったが、先帝の追悼という事で張譲一派も承服

 

 せざるを得ず、洛陽にいる全ての官職にあるものが参加する事になった

 

 のだが、張譲が条件として『警備はそれぞれが手持ちの兵で行う事』と

 

 『場所の設営は盧植が行う事』の二つを強固に主張してきたのである。

 

 何進としては設営の方はともかく手持ちの兵を出し合う事には反対だっ

 

 たのだが、このまま平行線を辿って開催が出来ない状況になるよりはと

 

 張譲の主張を受け入れたのであった。その結果、盧植様が設営を請け負

 

 い、現場の指揮は俺が執る事になったのであった。そして開催を三日前

 

 に控えた本日、滞り無く設営は全て完成を迎えたのであった。

 

「ご苦労様、一刀。予定より一日早く終わらせるとはさすがね」

 

 現場の視察に来た盧植様がお茶を俺に差し出してくれながらそう言って

 

 褒めてくれる。

 

「いえいえ、本当はもう一日早く終わらせる予定だったのですから俺とし

 

 てはヒヤヒヤものでしたけどね」

 

「あら、そうだったの?それは大変だったわね」

 

 盧植様はそう言って微笑んでいた。

 

 

 

「盧植様、張譲様が御成りです」

 

 そこに兵士さんが駆け込んで来て急の知らせを告げる。

 

「張譲様が?」

 

 いきなりの報告に盧植様は怪訝な表情を見せるが、遠くに張譲の姿が見

 

 えたので、慌てて平伏する。

 

「ほう、なかなか良い出来ではないか。これならそなたを推挙した甲斐も

 

 あったというものだな」

 

 張譲は出来上がった舞台を見ながら満足そうに頷いていた。

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

 盧植様は一応口ではそう言っていたが、その眼は完全に『さっさと帰れ

 

 このクソじじい』と言っているように見える。

 

 それに気付く様子も無い張譲は盧植様の肩に手を置くと、

 

「それと…どうじゃ?あの話は考えてくれたか?」

 

 顔を覗き込むようにしてそう話しかける。

 

「その事は…前にもお話しました通り、私は陛下の御為に働くのが精一杯

 

 にてそこまでの任に堪える程の者ではありませぬ故…」

 

「そう自分を卑下せずとも良かろう。儂はお主なら十分に応えてくれると

 

 確信しておるがの。何進の奴めを追い落としたらお主を大将軍に据えて

 

 も良いと思っておるしの~」

 

 盧植様はそれを断るが、張譲は執拗に勧誘し続ける。しかも話せば話す

 

 程に張譲の盧植様を見る眼がいやらしくなってきており、それを見てい

 

 る内に何だか俺の方がムカついてきていた。さて、このジジイをどうや

 

 って引き離そうか…よし。

 

 俺は服の袖から紙の包みを取り出し、張譲の後ろにいる宦官らしき人の

 

 方へ気付かれないように、その中身をそっと吹きかける。

 

 

 

「「「うっ!?…ゴホッ、ゴホッ」」」

 

「…どうしたのじゃ、急に?」

 

 急に後ろにいる者達が咳き込み始めたので、張譲は訝しげに後ろを振り

 

 返る。

 

「いえ、その…急に喉の調子が」

 

「それはいけません、おそらく長く外にいたせいかと。張譲様、此処は私

 

 に任せて皆様と一緒にお帰りを」

 

 宦官の一人が喉の違和感を訴えると、盧植様は一気にそうまくし立てて、

 

 張譲に有無を言わせずに宦官達を馬車に押し込めてしまった。

 

 張譲はまだ何か言いたげな表情を見せていたが、馬車はそのまま宮中の

 

 方向へ消えていったのであった。

 

 ・・・・・・・

 

「ふう、まったく嫌になるわね…ありがとう、一刀。助かったわ」

 

「はっ!?…いえ、特に私は何も…」

 

「しらばっくれても無駄。張譲は騙せても私の眼は騙せないわよ?今のは

 

 何?毒というわけではないわよね?」

 

 全てお見通しってわけか…仕方ない。

 

「これは確かに毒ではないです。少々人にとって不快な成分が入っており

 

 まして、吸い込むと少しばかり咳き込ませる効果があります。せいぜい

 

 他人の注意をそっちの方へひきつける程度の物ですけどね」

 

 俺は包みを取り出すと、盧植様の方へ飛ばないように気を付けながら中

 

 身を見せる。

 

 

 

「へぇ…一刀って薬師なの?」

 

「薬師?」

 

「だって、こんな薬、普通の人には調合出来ないでしょ?それに侍女長も

 

 一刀の作った煎じ薬で頭痛が治まったって言ってたわよ」

 

 ああ、この間侍女長さんの頭痛を治したあれか…一応秘密にって言った

 

 のに、盧植様には話したのか。

 

「ああ、ちなみに侍女長が最近頭痛に苛まれた様子が無いんで私と樹季菜

 

 と義真様で聞き出しただけなんだけどね」

 

 そういう事か…そりゃ三将軍に詰め寄られたら答えざるを得ないわな。

 

「それで?あなたは薬師なのかしら?」

 

「薬師では無いです。薬に関しては、先祖代々伝わっている物です。私の

 

 家には少々変わった技が継承されてまして…薬もその中の一つなのです」

 

 俺の答えに盧植様は感心したように頷いていたが、好奇心に満ちた眼で

 

 さらに質問をしてくる。

 

「へぇ…変わった技ねぇ。もしかしてあなたの一族って密偵や間諜を生業

 

 にしてるの?」

 

「…そういう事をしている人もいたとは聞いてますが、基本的には依頼を

 

 受けて色々な仕事を請け負う事を生業にしていたそうです」

 

「していた?過去形なのは何故?」

 

「私の国ではあまりそういう仕事が必要とされていないんです。だから私

 

 の技は祖父が先祖代々継承されてきた物を絶やさない為に私に伝えた物

 

 なのです」

 

「ふぅん、なるほどね…だからこそ月は一刀を洛陽に派遣したのね。その

 

 上で自分の情報網まで別に持つんだから抜け目無いわよね」

 

「?…董卓様が何か?」

 

 盧植様は俺の質問に答えずに自分の腕を俺の腕に絡める。

 

「ふふ、月も良い子を紹介してくれたなぁって♪もう一刀がいない生活な

 

 んて考えられないわね♪」

 

 

 

「ちょっ、盧植様!?いきなり何を…人目もありますし、こんな所で」

 

「あら、なら人目のつかない所ならいいんだ♪」

 

 盧植様は俺の耳元でそう囁く。やばいって、これ本当にやばいって!

 

 俺は理性を総動員させて何とか落ち着こうとするが、盧植様が押し付け

 

 てくる胸の感触に体の方が勝手に反応し始めてくる。

 

「ちょっ、あの、盧植様…」

 

「なあに?…あら?」

 

 その時、盧植様の眼は俺の下半身の一点に注がれていた。

 

「いえ、あの、これは…そういうのではなく」

 

「違うの?…やっぱり私みたいなおばさんじゃダメ?」

 

 盧植様はそう言って上目遣いで俺を見る。正直、その仕種は年齢を感じ

 

 させない位に可愛く見える。本当にこの人はアラフォーなんだろうか?

 

 そんな事を考えていたら急に頬をつねられる。

 

「痛っ、急に何を…」

 

「何か失礼な事を考えてなかった?」

 

「……いえ、そのような事は」

 

「…間が少し気になったけど、まあいいわ。今日の所は帰りましょう」

 

 盧植様はそう言うと腕を絡めたまま俺を引っ張る。さすがにこの状態は

 

 どうかと思い腕を外そうとするが、さすがは武官というべきか盧植様の

 

 力は予想以上に強く、ガッチリと絡められたまま屋敷まで一緒に帰った

 

 のであった…うう、結構恥ずかしかった。ちなみに盧植様は屋敷に帰っ

 

 た頃にはすっかり上機嫌であった…まあ、それで良しとしよう。

 

 

 

 そして三日後。

 

 設営した舞台は色とりどりに飾り付けられ、今や遅しと儀式の開始を待

 

 っている状況であった。ちなみに追悼なのに何故飾り付けがされている

 

 かというと、先帝がお亡くなりになってから二十年経ったが大陸は変わ

 

 らず平和だという事を祝うのが主眼であるかららしい。

 

 その舞台の飾りの華やかさとは対照的に場の雰囲気はとてつもなくピリ

 

 ピリしていた。それもそのはず、張譲一派も何進一派も自分の兵でがっ

 

 ちり守りを固めている状況で、お互いの兵達が完全に一触即発の雰囲気

 

 になっていたからだ。

 

 ちなみに盧植様達三将軍及び曹操さんの兵はそれとは少し距離を置いて

 

 兵を配置していた。それが一応の抑えになっているのか、張譲側も何進

 

 側も事を起こそうとまでは至っていない。

 

「大丈夫なのかな…絶対どっちも儀式を遂行するつもり無さそうだし」

 

「そもそも何進の思惑が儀式の遂行に無い以上、仕方ない事よ」

 

 俺がげんなりした顔で呟いていると、近くにいた曹操さんがそう話しか

 

 けてくる。

 

「でも…もし本当に事が起きたら戦ですよ、これ」

 

「そうね、今の状況では何進側に分があるかしらね。でも張譲側も何もし

 

 てないなんて事は無いでしょうけど」

 

 そう言っている曹操さんの顔はなかなか不敵な感じだった。それはまる

 

 で戦が起きる事が望みなのではないかと感じる位に。

 

 

 

「陛下の御成りです!」

 

 そこに宦官の人が皇帝陛下が来た事を告げると、全員がその場に平伏し

 

 てその登場を待つ。

 

 しばらくすると張譲に先導されて一人の女性が姿を現す。あれが命の母

 

 親…でも何だかおかしい。実際俺のいる場所はかなり離れているのもあ

 

 るが、それを差し引いても命達に聞いた印象と違う感じがする。

 

「一同、頭を下げて陛下と泉下におわす先帝に対し礼を捧げよ!」

 

 そして張譲のその一声でそこにいる全ての者が頭を地面にこすりつける

 

 かのように下げる。

 

 そしてそれから一刻程は儀式がつつがなく進行したのであるが…。

 

「儀式の途中ではあるが陛下におかせられましてはお体の具合がおもわし

 

 くない故、此処で下がられるとの事。後の段取りは不肖、この張譲が取

 

 り仕切るようとのご達しである」

 

 張譲のその一言で場の雰囲気が一変する。

 

「それはおかしい話だな。そもそもこれは先帝の追悼の儀式、陛下のご病

 

 状の事はともかく、後の段取りを宦官如きが取り仕切るなどと言語道断

 

 であろう!そもそも此処に何故姫君方がいらっしゃらないのだ!?陛下

 

 のお体が公務に耐えられぬのなら、劉弁様か劉協様が代理で行うのが筋

 

 なはず。もし姫君方のお体もすぐれぬというのなら、陛下の義兄である

 

 この大将軍何進が取り仕切るのが筋であろう!それを事もあろうにお前

 

 が場を仕切るなど越権…いや、不敬も甚だしいわ!」

 

 何進の言葉に袁紹以下何進一派も騒ぎ出す。

 

「黙らっしゃい!恐れ多くも陛下ご自身からのお言葉であるぞ!!それに

 

 対し不平を申すなどそれこそ不敬であろうが!!」

 

 張譲の言葉に今度は張譲一派も騒ぎ出す。

 

 そしてもはや場は追悼の儀式などとはかけ離れた喧騒に包まれていたの

 

 であった。

 

 

 

「どうなってるのよ、これ?」

 

 さすがの曹操さんもこれには眉をひそめていた。

 

 そして周りの人を見ると、皆どちらかに参加して互いに対する罵詈雑言

 

 を喚き散らしているか喧騒の行方がどうなるか注視しているかになって

 

 いる。よし、行くなら今だな…。

 

 俺は気配を殺すとその場から離れる。盧植様も曹操さんも俺がいなくな

 

 った事にはまったく気付かなかったのであった。

 

 ・・・・・・・

 

「さて、隠し扉はっと…よし、此処だ」

 

 俺は設営された舞台の裏手の警備にあたる兵士達からは死角になる場所

 

 に来ていた。実はこうなるであろう事を予測して密かに陛下の場所まで

 

 行けるように隠し扉と通路を造っておいたのだった。

 

 俺は素早くそこに潜り込むと一気に壇上まで上がる。

 

 そしてそっと壇上の様子を覗くと、張譲は何進達と罵り合いの真っ最中

 

 であり、兵士達の眼もそっちに向いている。それじゃ…。

 

 俺はそっと陛下に近付くと後ろから手で口を抑える。

 

 陛下は突然起こったそれに驚きの声をあげようとするが、口を俺が塞い

 

 でいる為、喧騒の音にかき消されて誰も気付かなかった。

 

 そして俺は陛下を椅子の後ろに引っ張る。

 

「そなたは誰じゃ、私と誰だと…」

 

 陛下がそう声をあげると同時に、

 

「陛下の偽者でございましょう?」

 

 俺がそう言うと陛下?は驚いた様子で固まる。

 

 

 

「何故分かったのです?」

 

 少しして陛下?の口から出たのはその一言だった。

 

「姫君方から聞いた印象と大分違われたようなので…しかも遠目からなら

 

 ともかく、近くで見るとあまり姫君と似てはいらっしゃらないですし」

 

「ま、まさか…姫君様方を知っているのですか?」

 

「私はその姫君方から命ぜられて洛陽の現状と陛下の無事を確認する為に

 

 来た者です」

 

 俺がそう言うと、陛下?の眼から涙が溢れてくる。

 

「ああ…そうなのですね。姫君様はご無事なのですね…ようございました」

 

 陛下?はそう喜びの声をあげる。

 

「あなたは?」

 

「私は後宮に仕えている侍女です。少しばかり陛下のお顔と似た感じがす

 

 るからと張譲に替え玉として連れて来られて…あまり長くいるとバレる

 

 からすぐにこの場を辞去する事になっていました。あなたが姫君様から

 

 遣わされた方というのなら、お願いがあります。陛下を…どうか陛下を

 

 お救い下さい」

 

 替え玉の侍女さんはそう言って俺の手を取り鍵のような物を渡す。

 

「これは?」

 

「陛下が囚われている牢獄の鍵です。もしかしてこのような事があっては

 

 くれないかと密かに持ち出したのです。場所は…」

 

 替え玉の侍女さんはその場所を教えてくれる。

 

「まさか…そんな所に?てっきり張譲の屋敷辺りかと思ってたのに」

 

「それが張譲の狙いだったのです。さあ、お早く。この喧騒が収まらない

 

 内に」

 

「ありがとうございます。どうかあなたもご無事で」

 

 俺は侍女さんに礼を言うと素早くその場を去ったのであった。

 

 

 

 そしてしばらく進むと…。

 

「一刀、何処に行っていたのかしら?」

 

 そこには笑顔で佇む盧植様がいたのであった。

 

「あなたこそ何故此処に…」

 

「質問をしたのはこっちですよ。少なくとも今の主は私のはずよね?」

 

 盧植様は笑顔のまま俺に詰め寄ってくる。うわっ、これマジ怖いんです

 

 けど…。

 

「一刀が月から何かしらの指示を受けて動いていたのは分かっていました。

 

 それが漢の為であるならばと今まで黙認していましたけど…今日の行動

 

 はこのまま看過するわけにはいきません。さあ、何処に行っていたので

 

 すか?」

 

 なるほど…さすがは盧植様。ならばこっちも黙りっぱなしというわけに

 

 もいかないか。

 

「一つだけ訂正させてもらいますが…俺は董卓様の指示だけで動いていた

 

 わけではないです。俺の雇い主は…劉弁様ですから」

 

 俺のその言葉に盧植様の眼は完全に驚きに見開かれていた。

 

「そ、それじゃ…姫君様達は」

 

「そういう事です」

 

 そして俺は本来の目的を明かす。

 

「なら…もしかして?」

 

「はい、今からそれを確かめに行く所です」

 

「だったら…」

 

「いえ、此処は俺一人で。もしそれも罠であれば盧植様がその場にいる事

 

 自体が危険ですから」

 

 盧植様は同行しようとするが、俺はそう言って押し留める。罠のはずは

 

 無い事は確信しているが此処は念には念を入れての事だ。

 

 

 

「ならば俺達も邪魔だな」

 

 そこに現れたのは朱儁将軍と皇甫嵩将軍だった。

 

「一刀、実はあなたが瑠菜の所に来てからずっと注意して見ていました。

 

 もしあなたの行動が漢の為、陛下の為に害となるのであれば排除するつ

 

 もりでね」

 

「じゃが今のではっきり分かったわい。まさか黒幕が姫君方とはな」

 

 三将軍はそう言うと笑いあっていた。

 

「よし、ならばこれを持っていけ」

 

 皇甫嵩将軍に渡されたのは一枚の割符だった。

 

「何処まで行くのかは知らんがそれがあればある程度の所まで入れるはず

 

 だ。こっちは俺達に任せてお前は行け」

 

「ありがとうございます」

 

 俺は割符を押し戴くと深々と礼をする。

 

「そうと決まれば一刀は早く行きなさい。樹季菜、義真様、行きますよ」

 

 盧植様達は頷きあうと兵を纏めて張譲や何進達が騒ぎを起こしている最

 

 中の所へ進んでいった。それにより混乱はますます広がる。

 

 俺はその隙にその場を離れ、侍女さんから聞いた所へ向かったのである。

 

 ・・・・・・・

 

「あの…華琳様?我々はこのままこうしていて良いのですか?」

 

 実は曹操の軍のみは全く動かずにいたので、夏侯惇がおずおずとそう尋

 

 ねると曹操は不敵な顔で答える。

 

「あんないざこざに巻き込まれるのは御免よ。どうせ私達の事なんか誰も

 

 気にする事もなさそうだし…ところで秋蘭、北郷の行方は分かった?」

 

 そして曹操の問いに青髪の女性…夏侯淵が答える。

 

「どうやら盧植様の軍の中にはいないようですが…何処へ行ったかまでは」

 

「そう…北郷、やっぱりあなたは別の誰かの指示で動いていたのね。秋蘭、

 

 引き続き調べて」

 

 曹操は夏侯淵に指示を出すと、また不敵な顔で場の喧騒を眺めていたの

 

 であった。

 

 

 

 俺はその頃、既に宮中の奥近くにまで入っていた。警備の人は皆、儀式

 

 の場での喧騒に気を取られていたのと、俺が割符を持っていたのとで特

 

 に調べることもなく俺を通してくれた。

 

「此処か…まさかこんな倉庫の奥にとはね。ていうかこの間盧植様のお供

 

 でこの前を通り過ぎたよな」

 

 其処は古い木簡や竹簡を保管しておく倉庫である。確かに此処は宦官達

 

 が管理している場所だし言われれば納得だ。

 

 俺は侍女さんから貰った鍵で扉を開け、中へと入っていった。

 

 ・・・・・・・

 

「本当にこんな広い地下室があるとはね…地上より広くないか、これ?」

 

 俺は侍女さんに言われた場所に行くとそこには隠し扉があり、その先に

 

 は倉庫よりも広いであろう地下室が広がっていた。そしてその奥には格

 

 子のような物が見える。

 

「誰だ?今日は皆、儀式とやらで出払ってるはずだろう?」

 

 俺の足音に気付いたのか、格子の奥から女性の声が聞こえる。この人が

 

 そうか…。

 

「お初にお眼にかかります、陛下。私は劉弁様の命を受けて参りました者

 

 です。北郷と申します」

 

 俺のその言葉に奥で寝転がっていた女性はガバッと起き上がり手前まで

 

 寄ってくる。

 

「命の!?…命と夢は無事なのか!?」

 

 なるほど…間違いない、このオーラは間違いなく命の母君だな。

 

 

 

「はい、今は天水におられます」

 

「そうか…無事に月の所まで行けたのか。ところで…北郷と言ったな、お

 

 前は何故此処まで来れたのだ?」

 

 俺は儀式の場での出来事を話す。

 

「そうであったか…感謝せねばならんな」

 

「さあ、まずは此処から出られませ」

 

 俺は鍵を開ける。

 

「うう~ん、久々の外だな。幾ら広めとはいってもやはり牢の中とは違う」

 

 陛下がそう言って身体を伸ばしていると、上から物音が聞こえる。

 

「この足音はどうやら張譲の私兵どもだな…ちょっと肩慣らしと行くかね」

 

 陛下はそう言うと近くにあった六尺棒を肩に担いで階段を登る。

 

 すると上から驚きの声が聞こえた瞬間、複数の人間の悲鳴が聞こえる。

 

 俺が上に登ると其処には…完全に頭を叩き潰されていた張譲の私兵達の

 

 死体が転がっていた。何故張譲の私兵か分かるかというと、前に張譲が

 

 盧植様を訪ねてきた折に側で警護にあたっていた人の顔があったからだ。

 

 その時、その人は『張譲様に雇われた者だ』と偉そうに言っていたので

 

 印象に残っていたのだ。

 

「ふふ、こんな物かな。準備運動にもならなかったけどね」

 

 陛下はそう不敵に笑って血みどろの棒を捨てると今度は死んだ兵から剣

 

 を奪って腰に差す。

 

「さあ、行くぞ北郷!」

 

「はい、陛下が来られれば儀式の場の喧騒も収まりましょう」

 

「何を言ってる?私が行くのは娘の所に決まってるだろうが」

 

「…はい?今何と…」

 

「娘のいる所…天水に行くと言っているのだ」

 

 ちょっ、突然何を言い出すんだこの人!?

 

 俺は半ば呆然とその言葉を聞いていたのであった。

 

 

                                           続く。

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回ようやく皇帝陛下の所まで辿り着けましたが…当の陛下は

 

 とてもぶっ飛んだ事言い始めてます。皇帝としての責任とかは

 

 どうするのでしょうかと書いていて私も思ってしまいました。

 

 さて、次回はとりあえず…陛下に振り回される一刀の様子など

 

 をお送りする予定です。

 

 

 それでは次回、第十三話にてお会いいたしませう。

 

 

 

 追伸 本当はもう少し違う展開を考えていたのですが、気付い

 

     たらこうなっていました…さてさて。

 

 

 

 

 

 

 


 
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