No.636924

You’re Going Down

i-pod男さん

とある民間軍事会社に勤めていた傭兵は、僅か二十六でその生涯に幕を閉じたが、次に目を開けた時には、赤ん坊として生まれ変わっていた!

チートな特撮の武器も『神の介入』と言う事で出します。

2013-11-15 00:36:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:566   閲覧ユーザー数:552

雨が降り始め、徐々に勢いを増し始めた。ここで俺達は新たな問題に直面した。避難した住民達だ。幾ら要塞とは言え、内側からの防御並びに結束の崩しは防ぎようが無い。手っ取り早い方法はコイツらを一人残らずぶち殺せば良いが、流石にそれも気がひける。

 

今も苦情を垂れ流す市民に痺れを切らした沙耶が対処に向かっている。孝とコータは念の為一緒に付いて行った。病み上がりだから心配なのだろう。俺も沙耶に呼ばれて一応避難した奴らがいるテントの入り口でこの様子を見ていた。チームの仲で唯一威厳がある大人である俺が話をつける手筈になっている。沙耶曰く、いざとなったら『パパがやった事と同じ位インパクトのある方法で』やって欲しいと。

 

「何度言ったら分かるのよ!殺人病なんてまるっきりの戯言!何故死体が動き回っているか政府が把握出来ていないからそう言ってるだけ。只のパニック対策よ!大好きな日本的気遣いって訳!」

 

「じゃあ、本当に死体が立って歩き回ってるってのか?!馬鹿馬鹿しい。あれは新種の病気か何かだよ!そうに決まってる!」

 

中年の男性がふんと鼻を鳴らして沙耶の言葉を一蹴した。

 

「そうよ!理由も無しでこんな事が起きる筈無いわ!」

 

けばけばしい化粧の女がそれに便乗して付け加える。

 

「それならそれで良いけど!理由を確かめるには素人じゃ無理!専門家が落ち着いた環境でたっぷり時間をかけなきゃ出来ないし、私達には不可能よ!それとも、貴方達の中にそれが出来ると言う人はいるの?出来ないでしょ?!だったら今この場で最も重要なのは<奴ら>に食われずに生き残る事よ!どうしたら良いかは、パパが教えてくれたでしょ?」

 

「そうなのね・・・・結局はそれが言いたいのね?高校生の癖に銃なんか振り回してると思ったら・・・!」

 

「「「はあ?」」」

 

「皆さん、聞いて下さい。ここの連中は我々を暴力で屈服させようとしている!世界がこんなになって、アジアにも無数に困っている人がいると言うのに!」

 

この時ばかりは俺達の思考はシンクロしたであろう。何故ここでアジアを引き合いに出すんだ?コイツら議論するまでもなく馬鹿だろ?

 

「皆さん、聞いて下さい!我々に殺人者になれと強制しているのは殺人を肯定するあの男の娘なのです!」

 

もう黙れよ!俺もいい加減我慢の限界だ。どいつもこいつもピーピーとうるさい事だ。

 

「あの、一体何の話をしてるんですか?」

 

「子供が口を挟む事じゃない!」

 

「子供って・・・・僕達が今までどんな目にあって来たか」

 

「ナンセンス!ここからは大人が決める事よ!搾取階級の豚共や、暴力に酔った高校生ではなく、平和を愛する大人がね!」

 

とうとう我慢の限界が来た俺はホルスターからマシンピストルを持って大股で中に入ると、ソイツらの足元に向かって銃弾を散撒いた。泥や土、そして水を巻き上げると、グリップ内部にマガジンを押し込んで剣に変形させた。右手にはシグを持ち、構える。

 

「平和を愛する大人?お前ら現実逃避も大概にしろ。俺から見れば大人こそが社会で最も汚れた生き物だと思う。俺だって例外じゃない。それは兎も角、どっちみち原因の解明なんて出来やしないんだ、病気だと思うのならそれは結構、そっちの想像に任せる。」

 

だが、と俺は続けた。

 

「はっきり言ってお前らは屑だ。現実を受け入れようともせず、自分の身を自分の手で守ろうともしない、身勝手な腰抜けだ。力のある者の加護下にあると言うのに、何かに付けてソイツらを非難し、協力を拒む。まるで安全な所にお前らを避難させるのがソイツらの義務だとでも言う様に。」

 

「当たり前でしょそんな事!」

 

「お前は黙ってろよ、ケバ女。次にその口開けたら、朝方の総帥がやったみたいにお前の頭もこの場でぶった切るぞ。分かったか。」

 

俺は左手の剣の切っ先を彼女に突き付けた。

 

「ここは、右翼団体の本拠地だ。ここにいる奴らは、警察でも、ましてやその他の公僕や公務員じゃない。お前らを助ける義理なんて無かったのに、命を張ってお前らを助けた。お前らは生きてる。それが不満だと言うのなら、今すぐ立ち去れ。だが忘れるな、お前らには後が無い。先も無いがな。」

 

皆の反応を観察した。このまま不満の火種は燻り続け、いずれは爆発するだろう。

 

「どこぞで死のうと俺達に関係は無いが、手前勝手な都合で他人を巻き込むな。」

 

そう締めくくると、俺もテントを出て孝達と一緒に屋敷に戻った。

 

「あの、二人共、お疲れ様でした。」

 

コータがなんとか労いの言葉を捻り出した。

 

「ああ。孝も言ってたろ、沙耶?時間の無駄だって。お前が怪我を無視して何かを言う必要なんか無かった。いざとなれば、あいつらは囮にする。使えない奴が多い程組織の移動スピードは落ちる。グズる奴はわんさかいるからな。」

 

「何も見て来なかった訳じゃないかもしれないけど・・・・でも、連中の気持ち、ちょっとは分かりますよ。」

 

「私に喧嘩売ってるの、デブチン!?」

 

「まあまあ・・・・」

 

気色ばんだ沙耶を孝が宥めた。だが、コータの言葉に孝の表情が暗くなるのを俺は見逃さなかった。コイツも思う所があるんだろうな。

 

「誰も自分を否定されたくない。だから分かっていても何もしないんです。こう言う時、一番最初に出て来る反応は、現状を元に戻そうとするんです。たとえそれが出来ないと始めから分かっていても。何故なら、」

 

「「変化を認めなければ自分の過ちと愚かさを認めずに済むから。」」

 

ほぼ同時に沙耶と俺が続けた。

 

「なるほどなあ・・・・勉強になったよ。」

 

それを聞いて孝と俺以外の奴らは目を丸くすると、にっこり笑った。

 

「やっぱりこいつが適任だな。そう思わないか?」

 

「はい。そうですね。」

 

「だよね。」

 

「だから、何の話だよ?恥ずかしいけど、本当の事だぜ?」

 

「そう言う所がお前の良い所なんだよ。」

 

「そうね、だからアンタはあたし達のリーダーたり得てるって事よ!」

 

「ちょ、待てよ!リーダーだったら、俺じゃなくて滝沢さんの方が適任じゃないか?強いし、何をするべきかもちゃんと分かってるし。」

 

「だが俺はお前みたいに人を纏める様な能力は無い。俺は基本的にスタンドプレーしかしない。SATにいた頃もそうだ。やるなら精々、沙耶と同じ参謀役って所だろうな。助言はするが、最終的な判断はお前に任せるよ。」

 

孝は今後の活動を高城総帥に伝える為にどこかに行き、沙耶と静香はまだ治療の為に別室にいる。恐らくありすとジークもそこだろう。そんな中俺は微かにだが雨の中で聞き取る事が出来た。車のエンジン音が。それが誰なのかは、考えるまでも無い。良いだろう、俺の忠告を聞かなかったのはお前だ。命で償ってもらおう。

 

 

 

 

屋敷の広間で座っているとどこから持って来たのか、日本刀を腰に下げた冴子が階段から下りて来た。麗もライフル保持用のガンベルトにM1A1が吊ってある。荷物も俺達がテントに出ている間から纏めていたのだろう。

 

「滝沢さんはどうするんですか?ここに残るんですか?」

 

「まだどっち付かずだ。」

 

麗に聞かれて俺は頭を掻き毟る。

 

「お前達と一緒に静香を連れて行けば危険は少なからず伴うがここもそれなりに危ない。静香をどうこうしたいと言う下衆な輩もいるからな。ありすは、まあ、静香の事を気に入ってるみたいだし・・・・分からん。正直俺はどうするべきか分からない。」

 

「孝、準備出来たよ?毒島さんも連れて行って欲しいって言ってるけど。」

 

「それは別に良いけど、何もワザワザ僕達の為に先輩が命を張る必要は無いのに。」

 

「ご家族を明後日までに連れて帰るのだろう?だったら二人だけでは物足りない、誘導すらままならなくなる。」

 

「それはそうですけど。」

 

すると突然麗が足早に玄関の方に向かって走って行った。行き先は紫藤だ。

 

「麗っ!!」

 

雨の中濡れていて、右翼のメンバーの一人と笑顔をその顔に貼り付けたままで話していた。麗は紫藤の顔にライフルの銃剣を突き付けた。

 

「随分とご立派じゃない?紫藤先生!」

 

「み、宮本さん、ご無事で何より・・・・」

 

銃剣の先を顔に突き付けられ、紫藤の顔は恐怖に引き攣った。

 

「何で私が槍術が強いか知ってる?銃剣術も教わってるからよ。県警の大会じゃ負け知らずのお父さんに。そんな彼を貴方は苦しめた。どんな事にも動じなかったお父さんが私に泣いて謝った。自分の所為で私を留年させたって!そして私には分かってる!成績を操作出来るのは貴方だけだって!」

 

そう言う事か。麗の父親は公安の刑事。紫藤の父親、一郎に何かを嗅ぎ付けられて警告代わりに留年させた。なるほど。聞けば聞く程殺意が増した。

 

「でも、我慢した・・・・お父さんの操作が上手く行けば、アンタも紫藤議員も逮捕出来るって聞かされたから!」

 

銃剣が紫藤の顔に更に近付き、切っ先が彼の頬に食い込んだ。たらりと一筋の血が流れ落ちて行く。

 

「さ、殺人を犯すつもりですか・・・・?刑事の娘でありながら、は、犯罪者になると・・・・?」

 

「アンタになんか言われたくないわよ、偽善者!!!」

 

麗のライフルを握る手に更に力が籠った。

 

「ならば殺すが良い!!!」

 

高城壮一郎の霹靂一声が雷鳴と共に轟いた。相変わらずその表情は一睨みで死に至る様な迫力を持っていた。

 

「その男の父親とはいくらかの関わりがある。だが今となっては無意味だ。望むのならば・・・・・殺せ!」

 

「ちょ、総帥!」

 

「無論!私ならばそうする!」

 

孝は麗を止めようとするが、冴子が止めた。無言で首を振り、麗の方に再び視線を移す。彼女が自分自身で決めなければならない。

 

「良いでしょう!殺しなさい!私を殺して、命ある限りその事実に苦しみ続けるが良い。それこそが、教師である私が生徒の貴方に与えられる最高の教育です!」

 

銃剣の先は一分程してからようやく下ろされ、チームの皆が安堵の溜め息をついた。

 

「それが君の判断なのだな?」

 

「殺す価値もありませんから。」

 

麗は汚物を見るかの様にもう一度紫藤の顔を見やり、そう吐き捨てた。

 

「だったら次は俺の番だな。」

 

俺は助走を付けると、紫藤の元へ一直線に駆け出し、ジャンプした。そしてそのまま両足での飛び蹴りを叩き込んだ。片方は胸、もう片方は鳩尾に。玄関から階段の下まで吹き飛び、剣を引き抜いた。

 

「お前は公正無私な教師なんかじゃ無い。ただの疫病神だ。お前ら良く聞け。こいつは人間の風上にも置けない様なお前ら以下の屑だ。生徒は洗脳されてて、電話したら交わりの真っ最中だったぞ。」

 

「な、何を馬鹿な事を・・・・」

 

腹を蹴られてまともに呼吸が出来ていないが、やっとその言葉を吐き出した。顔は恐怖で引き攣っている。

 

「そうよ!証拠も無しに勝手な事を言ってるんじゃないわよ!」

 

「証拠があるから言ってるんだよ。こいつはここに来る前に斥候を寄越してる。」

 

痩せっぽちのガキを剣で指差した。そしてソイツの持ち物だった携帯を引っ張りだし、発信履歴を確認した。

 

「一番最近の電話が紫藤先生、通話時間はおよそ三分二十五秒。紫藤、勝手ながらお前の斥候から携帯を奪って話していた時に、会話全てを録音させてもらった。これを聞け。これでもこいつが、教師の鑑だと思うのなら、お前達の目は節穴だ。」

 

紫藤の顔が恐怖で歪む。再生ボタンを押して、俺達の会話が全て流れた。

 

『よう。誰かと思えば黒のピンストライプ着てた自分の身も守れない貧弱教師じゃないか。そっち側は随分と楽しそうだな、喘ぎ声が聞こえるぞ?車内乱交は楽しんでるのか?』

 

『おや、貴方はバスを皆さんに捨てさせた方ですか。生きていたんですね。』

 

『心にも無い事ほざいてんじゃねーぞ、大根役者。警告しておく。もし、お前が屋敷に近付いて来る様な事があれば、殺す。俺はお前をぶっ殺しに行く。そのボロ車をお前らごとバラバラに吹き飛ばす。必ずだ。偵察に寄越したコイツはもう諦めろ。俺に見つかった時点でもう終わりだ。』

 

『別に構いはしませんよ。あなたがいる場所が安全だと言う事は分かったのですから、彼はもう用済みです。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。』

 

「そう言う事だ。」

 

「最っ低・・・・」

 

「出来損ないの下らん屑めが。」

 

「何でこんな奴が生きてるんだ。」

 

麗が呟き、高城総帥も刀を抜かずにいて精一杯の様だ。コータはAR-10の引き金に指を掛けるまでに至っている。先程まで紫藤の元に集まっていた避難民達も今は侮蔑的な視線を彼に向けている。紫藤は絶望した。これでコイツの居場所はここには無い。顔から血の気が引き、殆ど真っ白になったソイツの目の前で手を振っても反応しない。俺は紫藤のシャツを握って噴水辺りまで引き摺って行った。

 

「麗、本当に何もしなくていいんだな?やるなら今だ。殺すのは俺だ、お前じゃないぞ。」

 

麗は無言で頭を横に振った。俺は頷いて深呼吸をすると、紫藤の心臓を的確に貫いた。刃を水の中に付けて血を洗い流すと、マシンピストルに戻してマイクロバスに乗って来た学生達に向けた。

 

「ガキを殺す趣味は無い。バスを置いて失せろ。お前らの存在もコイツと同じ、百害あって一利無しだ。」

 

生徒達が去り、門が閉まるのを確認するまで、俺はその場を動かなかった。

 

「君には借りが出来たな、滝沢君。」

 

「総帥でも同じ事をした筈ですよ。違いますか? 俺はあくまで貴方の代わりに彼を殺したまでです。貴方が殺せば、この組織のインフラが崩れる。まあ、あの住民を背負い込んだ時点で少し崩れてますがね。」

 

「その様子では、彼らは見捨てると言う事だな。」

 

それは質問ではなく確信の言葉だった。

 

「百合子がお前を捜していた。ガレージに行ってくれ。ここにいる坂本が案内する。」

 


 
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