No.625573

とある傭兵と戦闘機(SW編番外)”彼女”と”鬼神” 後編

二つの部隊を守る為、彼女は上層部に赴いた
”人”との戦いを熟知する彼女は覚悟を決めていた
しかし上層部で彼女を待っていたのは予想外の人物と
そしてーーーー真実を知った彼女は・・・
 力の矛先を見失う事になった

2013-10-06 03:35:31 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2460   閲覧ユーザー数:2378

 

 

 「あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

突然、相棒が叫び声をあげて魔法力を発動させる

 

 「うおっ!?サイファー!!」

 

呼んで駆け寄ろうとして吹き飛ばされ、狭い機内の壁に叩きつけられる

 

 「が・・・ぁっ・・・クソッ・・・」

 

 「何があったんですか!?」

 

 「相棒が癇癪起こしただけだ!!操縦に集中してくれ!!」

 

 「りょ、了解!!」

 

俺が起き上がる前に、サイファーは輸送機の扉から空に身を投げた

 

そして、空中を舞うように翼を広げてその空に留まる

 

その翼は、いつもの鷲の翼に変わりはない

 

だが、夕暮れの夕日のせいなのか

 

俺には、血塗られて紅く染まった翼のようににしか見えなかった

 

そんな俺には・・・今の俺は空を飛ぶ手段を持たない唯の人間だ

 

そして、体に深刻なダメージを負った俺はそのまま機内に倒れこんだ

 

 

 

 

 

 

 「では現状を伝えます・・・フィリア・フェイリールド大尉の錯乱と暴走により

 

  私達の管轄空域の一部が飛行禁止区域となっています

 

  空路の封鎖により、民間機や補給機などの運用に支障をきたしている状況です

 

  既に上層部より彼女の保護、捕縛・・・できなければ撃墜との通達を受けています」

 

501のブリーフィングルームには、彼女の暴走の報せと上層部からの電話通達が来ていた

 

 「そんなっ・・・いったいどうしたんですか!?」

 

 「わからないの・・・情報が少なすぎる上に何か事情を知ってるはずのフォルクさんは目を醒まさない状態よ」

 

 「・・・まさか上層部に何か?」

 

と、バルクホルンは様々な疑問の残る上層部の行動に意識を向けた

 

 「・・・可能性は否定できないわ」

 

 「だが、我々に時間は無い。空路、海域を寸断されている事がどれだけの事態なのか

 

  それらを考えると・・・今の我々に残されているのは戦うのみだ」

 

 「そうね・・・ただ今より、フィリア・フェイリールド大尉の保護、捕縛作戦を開始します」

 

 「「「了解!!」」」

 

 

 

 

 

 「うぐっ・・・痛ぇ・・・」

 

痛みを歯を食いしばって堪えながら、俺はベットから起き上がろうとする

 

しかし目の前の女医に体を押さえつけられて起き上がれない

 

 「じっとして下さい、まだ痛みが抜けきらないでしょう?」

 

 「あいつは・・・フィリアはどうなった・・・?」

 

 「・・・まだ、あの空に居るわ」

 

窓枠に切り取られた狭い空を見ながら、彼女は悲しそうに言った

 

ーーー俺はーーー結局は助けれなかったんだろうかーーー?

 

ーーー俺はーーーまた救えなかったのかーーー?

 

ーーー俺がーーーあいつを壊したのかーーー?

 

ーーー俺がーーー俺がーーー

 

 俺が・・・殺した

 

   生きようとしていた、あいつを殺した

 

      必死に、命がけで生きていたあいつを

 

父親にあんな事を言った直後に

 

   決意した直後にーーー

 

 「また・・・また俺にはそんな資格がないって言うのかよ!!」

 

あいつを救い出す為の・・・!!

 

・・・また・・・俺は目の前で壊れる翼をただ見ているだけなのか?

 

そうして考えてーーー俺は気が付いた

 

そうだ・・・まだあいつは死んでない

 

まだ・・・生きている

 

それなら、まだやれる・・・!!

 

俺には、それしか許されねぇ!!

 

 

 

すると、開け放たれた窓から一匹の鷲が入ってきた

 

ガタイのいい、大きな翼を持ったでかい鷲だった

 

 「・・・俺に、その翼を貸してくれ!!」

 

そうその鷲に向かって言うと、鷲は窓枠から俺の肩に乗り移った

 

そして、目の前を真っ白に覆う光と共に俺の体にその気配が宿る

 

 「うそ・・・まさか貴方ーーー」

 

 「あんたが考えてる事がどうだかは知らんが、俺は行かなきゃいけねぇ」

 

 

 

    

 

ハンガーに飛び込んだ俺は真っ先に機体を格納している第三格納庫に向かった

 

 「お、おいラリー!!お前まだ動けねぇだろ!?」

 

整備班長になった友人が俺に怒鳴り散らす

 

 「今はそんな事言ってる場合じゃねぇ!!501のメンバーはどうした!?」

 

 「さっき嬢ちゃん迎えに行った。そろそろ空域に到着してる頃だ!!」

 

 「駄目だ!!あいつは今自分以外は皆敵だと思ってやがる、返り討ちだ!!

 

  それに今のあいつはお前等が呼ぶ嬢ちゃんじゃない!!」

 

そう怒鳴り返し、俺は走った

 

 「か、片羽!?何でアンタ此処へ来た!?」

 

格納庫に駆け込んだ俺にダウェンポートが叫ぶ

 

 「決まってんだろ、戦う為にだ」

 

 「ーーーだがアンタの機体は」

 

と、機体のあった場所を見ると

 

ストライカーと発進ユニットが一機、

 

そこに格納してあるのは、片羽を紅く塗られた

 

イーグルの面影を持つストライカーだった

 

 「無理だ!!そいつはウィッチにしか使えない!!」

 

確かにストライカーという装置は”魔法力”と呼ばれる力がなければ作動しない

 

ウィッチというのは、その魔法力を持つ少女の事を言う

 

確かに俺は男だ。

 

紛うことなき、男だ。だがーーー

 

 「俺は、まだ飛べなくなった訳じゃねぇ!!」

 

そのストライカーという、俺の翼に脚を差し込む

 

そしてーーー俺の体は妙な浮遊感に包まれると同時にストライカーと同調する

 

 「ハァ!?アンタマジで何者だよ!?」

 

 「さぁてねぇ、自分でもイマイチその質問に答えれねーよ。でもな、俺は行かなきゃならない」

 

それだけは変わらないーーー

 

 「ガルム2、Take off!!」

 

だからーーー向かうんだ

 

俺があいつに救われた空に

 

 

 

 

今度は、”俺”が救う番だ

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・・」

 

件のウィッチ・・・蒼の霞ことフィリアは魔法力を制御する為のリミッターを失っている状況にあった

 

ただひたすらに、空に対して魔法力を溶け込ませていた

 

その魔法力は、普段の彼女が用いる魔法力とは正反対の代物であり

 

同時に、彼女が”フィリア”ではない存在という事の証明でもあった

 

翼は赤黒い色に染まり、瞳は普段の蒼色ではなく紅く光を放っていた

 

そんな彼女が存在する空域は

 

ただひたすらに・・・重く、暗く、

 

風一つ吹く事がない”死んだ空”になっていた

 

その空域に到着した501の部隊は、銃器をすべて持ち

 

そして、弾薬を全装填したものを携えていた

 

 「くっ・・・なんて魔法力なの・・・」

 

空域に到達した途端、メンバー全員が恐怖を感じるその魔法力

 

そしてその発生源のフィリアは、ただ一人で空に存在する”征服者”の姿になっていた

 

 「・・・来るな・・・」

 

その一言で、メンバー全員が本能的に銃口を彼女に向けた

 

 「フィリアちゃん!!」

 

芳佳が叫ぶ

 

彼女の名を呼んだ

 

しかし、彼女はそれに答えず

 

代わりに、攻撃で答えた

 

手を横に仰ぐように一閃ーーーそれだけで暴風が生まれる

 

見えない風の攻撃を回避した501メンバーの銃口が一斉に火を吹くが

 

その弾丸は全て彼女に到達する前に勢いを失い、そして空中で止まった

 

そう・・・彼女は”支配者”なのだ

 

この、暗い空の

 

そして、その弾丸は全て彼女達の武器に跳ね返されていき

 

一度に、全員の武装全てを無力化した

 

ーーー彼女達を傷つける事なく

 

 「私達への攻撃を躊躇っている証拠ね・・・」

 

破壊されたMG42を手放したミーナはどこか暗い表情になる

 

私達には・・・この闇は暗すぎる

 

あの子は・・・こんなに暗いものを抱えていたんだと

 

そして彼女のあの優しい笑顔も、本当の笑顔ではなかったのだと

 

勘の鋭いミーナだからこそ、それが痛いほどにわかった

 

これが彼女の持つ”闇”であると思うと

 

彼女の過去が悲しくて、命の恩人を救う事ができない事が悔しくて

 

501メンバーはその空域から彼女を見る事がやっとだった

 

だが・・・

 

 「!!・・・後方より高速で接近して来る機影があります」

 

サーニャが魔法針を反応させながらその方向を向いた

 

瞬間、何かが高速で彼女の真横を通過していった

 

そして、そのままその高速の物体はフィリアに真っ直ぐ向かう

 

その物体を、フィリアはその場でクルリと一回転して回避する

 

その物体は・・・物体の正体は

 

 「よう相棒・・・まだ生きてるか・・・?」

 

ストライカーを装備した

 

彼女の隣を飛んでいた

 

元寮機の、ラリー・フォルクさんだった

 

 「どうしてストライカーを・・・装備できているの・・・?」

 

その姿を見たミーナが、思わずそうこぼした

 

本来魔法力を持つ事ができないハズの男性が

 

魔法力を持ち、ストライカーユニットで空を飛んでいるのだ

 

そして、リーネは幼き日に母から聞いた話を思い出す

 

 (魔法力は、決して女性のみが持つ力ではないの)

 

当時のリーネはまだ魔法力を持たず、何の事だかさっぱり理解できなかった

 

 (魔法力を持つ女性の事を”ウィッチ”と呼ぶのなら

 

   魔法力を持つ男性の事は、”ウィザード”と呼ぶのよ)

 

父母が貿易商という仕事の関係から様々な噂話や神話を聞く機会があったリーネだからこそ

 

この噂話が、実際に存在する事だという事を501の誰よりも早く理解する事ができた

 

 「ウィザード・・・」

 

そのウィザードは、特別なものをもっていなければならない

 

その特別なものが何なのか、全く理解していないラリーはただ飛んでいた

 

 「私に・・・近付くなッ!!」 

 

フィリアは魔法力を圧縮、そして右手に青白く光る剣を作り出す

 

それを、軽く横に薙いだ・・・瞬間

 

 ゴゥッ!!

 

私達の居る空域の、”空が揺れた”

 

姿勢を保つのも困難な暴風に、更に彼女の魔法力で作られた真空の刃で雲が消滅する

 

幸い瞬時にシールドを最大展開した芳佳のお陰で501のメンバーに被害は出なかったが、

 

目下の無人島には、何か大きく引っかかれたように森林が薙倒されていた

 

 「こちらフォルク、501は即座にこの空域から離脱しろ!!」

 

同じく剣を携えた彼は彼女と刃を交えながら、私達に撤退命令を出した

 

 「そんな事、出来るわけ無いじゃないか!!」

 

シャーリーが反論する、が

 

 「はっきり言う、手も足も出ないなら大人しく引いてくれ!!」

 

 「でもーーー」

 

 「でもも何も言わせねぇ!!こいつがこうなったのは俺の所為なんだ

 

  俺がやらねーといけないんだ、さっさと逃げろ!!取り返しがつかなくなる前に!!」

 

剣と剣がぶつかり合い、時折火花を散らして空に軌跡を描く

 

その度に、周囲の空気がビリビリと揺れる

 

 「総員・・・撤退しなさい・・・」

 

 「で、でもっ」

 

 「任せるしかないわ・・・私達には、彼女に触れる事すら叶わない

 

  ・・・基地に戻り、消耗した銃器などの補給等を実施します」

 

ミーナは有無を言わせず501のメンバーを引っ張っていく

 

そのメンバー達は、疲労と気力消耗

 

そして、悔しさを噛み殺して

 

奇跡を信じるしかなかった

 

嵐が止む事を、祈るしかなかった

 

 

 

 

刃を交える俺とサイファーは、近接格闘戦・・・ドッグファイトという名のコンマ零秒の空戦を繰り広げていた

 

そして、俺はこんな状況を恐れる訳でもなく、ただ”楽しんで”いた

 

 「前にもお前と、こんな状況で向き合ったよな」

 

 ギィンッ

 

あの時ーーーあのアヴァロンの地で、俺はこいつに負けた

 

俺の全てを懸けた戦いは、今目の前に居る”鬼神”の前に捻じ伏せられた

 

一対一、正面からの一騎打ち

 

確実にあいつのF-15より高性能な機体

 

元々、ベルカが秘密裏に生み出した一機だけの試作戦闘機を駆使して俺は相棒に挑んだ

 

だが、ことごとく兵装を無力化され、そして正面からの攻撃で致命的な損傷を受けた

 

俺はーーー死ぬはずだった

 

しかしーーー俺は生きている

 

 「お前のお陰で、今俺はここに居るんだぞ?」

 

 「ーーーーーー!!」

 

青白く光る剣を振り回し、俺を近付けないように遠ざける

 

がむしゃらに、無差別に振り回したその剣は

 

空を浮遊する雲を細切れにして消滅させる

 

 「だからよ、今度は俺がお前に勝つ」

 

勝って、そして連れて帰ってやる

 

帰ったらたっぷり文句言ってやる

 

帰ったら・・・ああ、文句だけじゃ足りねーなこりゃ

 

だからーーーー壊し続けた俺が、今度は守る為に

 

またあいつの隣を、肩を並べて飛び続ける為に

 

俺はーーーー

 

 「今度はーーー負けねぇからな」

 

剣を握り締め、そして正面に見据える

 

目の前のアイツも、俺と同じように正面にその剣を構えた

 

あいつの戦闘スタンスは、高速で追従して格闘戦

 

ぴったりと後ろに張り付いて、機銃で相手を砕いていく戦法だ

 

そして俺の戦闘スタンスもまた、あいつと同じだ

 

得意な戦闘形態が同じならーーー

 

 「対等、ハンデ無し、手加減無用・・・上等だッ!!」

 

瞬間、互いに同じタイミングで急加速、ヘッドオンの完全一撃離脱戦闘

 

 ギィンッ!!

 

火花を一瞬散らして、互いに通り抜けた俺達は急旋回

 

再びヘッドオンという状況になる

 

 ギャリィッ!!

 

再び刃を交えて急旋回

 

その繰り返しだ

 

奇しくも、俺達が最後に戦ったあの時を再現したかのような空中戦になっていた

 

邪魔する者は誰もいない

 

そこに居るのはたった二人、地獄の番犬をモチーフにしたエンブレムを翼に描いた

 

一番機と、二番機だけしか存在しなかった

 

あの・・・俺達の最後の空に

 

そう・・・あそこが最後の戦闘だった

 

だからーーー

 

 「円卓の鬼神なんて、もう存在しなくてもいいんだよサイファー」

 

 「ーーーーーっ!!」

 

動きを止めるサイファー

 

 「俺達の・・・”ガルム”はあの空で終わったんだよ

 

  同時に、お前の過去も空に居る時じゃ関係なかっただろう?

 

  円卓なんてそういう場所を体現した場所だっただろうが

 

  上座も下座も、上官も下官も関係ない

 

  生き残る事がすべてだったあの空で、俺達は生き残った

 

  それが全てだろうが、もう縛られる必要なんてない」

 

 ”本当にーーーそれでいいの?”

 

 「ーーーーーっ!?今のは・・・あいつの声か?」

 

頭に響くように、俺の体に響くようにその声はかなり遠くから聞こえてきた

 

 ”私はーーー何なの?”

 

あいつの訴えが・・・叫びが・・・

 

俺に、問いかけるように聞こえる

 

 「お前はお前だよ」

 

 ”私ってーーー誰?”

 

 「おまえは・・・どうありたいんだ?」

 

 ”私はーーー私はーーー”

 

あいつは自問自答を繰り返してるだけだ

 

錯乱しても仕方ねぇ・・・あんな事を一度に理解できる人間は居ない

 

 ”壊すーーー私以外の全てをーーー!!”

 

再び戦闘態勢に入るサイファー

 

周辺の空気が、あいつを中心に集約されていく

 

どうやら、次に放つ一撃で終らせるつもりのようだ

 

あいつの戦力を削ぐにはーーー

 

あいつにとっての・・・戦う翼を奪う事が一番だな

 

 「全力でーーーその翼を削ぎ落とす」

 

一点集中・・・それを剣に集約させる

 

この剣自体は、あいつが使っていたあの西洋剣そのものだが

 

何故か、俺の魔法力を馴染ませていく

 

そうして、あいつの”空”を吸い込みながら

 

俺の握る剣は魔法力というエネルギーを圧縮した刃を形成した

 

 「ーーーーーッ!!」

 

正面、高速で接近してくるサイファーを正面に捉え、そして

 

俺も切っ先をサイファーに向けて一気に急加速

 

接触まで一秒もない

 

そんな間に、俺は確信していた

 

そう、同じだ

 

あの時と変わらない

 

あいつは、あの時のあいつだ

 

それならーーー

 

 「C'mooooooooooooon!!」

 

俺達の刃が共に接触する瞬間

 

俺はあいつの刃に俺の刃をぶつけないように回避する

 

30度右ロールをしながら接触のタイミングをずらして、俺はあいつの背中の赤い翼に刃を突き立てる

 

そしてそのまま・・・剣を振り抜く!!

 

 「ーーーーーー・・・・」

 

何か重い、乾いた布を切り裂くような感覚を剣越しに感じて

 

声に出ない叫びを聞きながら、あいつの翼を引き裂いた

 

俺が、奪った

 

だが・・・あんな翼で飛ばせるよりはーーー

 

自由落下するサイファーを受け止め、意識のない彼女に聞いた

 

 「結局、お前も縛られたままだったんだな・・・」

 

あの空に・・・この空に

 

だが、これから考え込むのはこいつなんだ

 

もちろん、開き直るのも考え込むの自分次第だ

 

 「・・・鬼神なんて捨ててもいだろ?」

 

そんな、壊すだけの力はお前には必要ないだろ

 

そうして見つめていると、サイファーの髪の色が徐々に薄くなっていた

 

そして、この暗がりの空からあの重苦しい空気はいつの間にか消え去っていた

 

それこそ、溶け込んでしまったように

 

 

 

 

 

 「・・・該当空域より魔法力の消失を確認」

 

補給を終えた501メンバーが再度向かっている最中にサーニャが報告する

 

 「それは・・・彼女が止まったという事?」

 

 「・・・該当空域にある反応は一つです・・・」

 

すると正面から一つ、機影がこちらに向かってくるのを確認した

 

それはラリー・フォルクという名の”魔術師”

 

そしてその腕の中には、ぐったりとした水色よりも薄い色の髪になって

 

眠るように動かないフィリアさんがあった

 

 「・・・」

 

 「フォルクさん?」

 

無言で、そのまますれ違いで基地の方向に真っ直ぐ向かう彼の後姿には

 

なぜか、薄暗い翼が見えた気がした

 

 

 

 

基地に戻ってサイファーを医務室のベットに寝かせる

 

 「本当に・・・お前はあそこが好きなんだな」

 

窓に切り取られた青く向こう側に広がる空を見て、俺はそう思った

 

 「・・・・・・」

 

あの翼は・・・あの血で染まったような翼はあいつの歩んだ道そのものなんだろう

 

今まで捨てきれなかった想いが、罪悪心が、後悔が

 

そのまま具現化した形なんだろう

 

そういう風に捉えるのも、こいつが優しくて真っ直ぐな証拠だ

 

 「世の中ってのは本当にいかれてるよ。お前を見てそう思えるんだ」

 

独り言のように、俺は投げかける

 

なぜ、お前のような人間が無理矢理戦場に出る?

 

なぜ、ゲームで人殺しを愉しむ人間が戦場に出ない?

 

 「結局、俺には壊す以外にお前を救えなかった

 

  これで良かったのか今でも判らん。どうなんだ?サイファー、答えてくれよ」

 

ふと、膝の上の拳に雫が落ちる

 

雨漏りか?それとも涙か?

 

俺には関係なかった

 

俺は、結局の所破壊者でしかなった

 

救う為という言い訳で、そんな美名の為に・・・

 

・・・惚れたやつの事ですら、壊す以外の方法を選べなかった

 

もう相棒の体に、体温と呼ばれる温もりは残っていない

 

手のひらから伝わってくるのは、理解しがたい冷たさだけだった

 

 「おかあさん・・・どうしたの?」

 

と、後ろから幼い声が聞こえた

 

振り向けない、逃げ出したくなる

 

罪悪感で、押し潰されそうになる

 

 「どうして、おかあさん起きてくれないの・・・?」

 

服を引っ張られて、俺はその質問が誰に向けてのものなのかを理解した

 

それでも、俺は意を決して答える事にした

 

 「おまえの・・・お前の母親は俺が殺した・・・」

 

俺は、正面から向き合えずにサイファーの手を握ったまま答えた

 

何も言わずに、フィアはサイファーの横に寝転んだ

 

そして、フィアがサイファーに抱きつくと

 

魔方陣が部屋いっぱいに広がり、そしてその空間が青白く輝きを放つ

 

 

 

 

 

 

 

私は、どうしてこんな暗い場所に居るんだろう?

 

私は、どうして生き残らないといけないんだろう?

 

私は、どうして戦い続けないといけないんだろう?

 

 「ねぇ、どうしてだと思う?」

 

隣でくつろいでいる、自分の使い魔である大鷲に尋ねる

 

 「それはお前がそういう風に生きると決めたからだろう?」

 

 「決めた?決めさせたんでしょ?」

 

 「そうだな。運命がそうさせたとしか言えないな」

 

運命・・・か

 

 「それを覆す事はできる?」

 

 「できんな。覆すのは不可能、運命とはそういう物だ

 

  回避できないのが運命だからな

 

  水の流れる川と同じだ。たった一人の力ではどうしようもできない」

 

 「そうなんだ・・・」

 

なら、諦めるしかないのかな

 

 「だが、抗う事はできる」

 

 「?」

 

 「本当に、抗う気があるのか?」

 

抗う気・・・

 

私が、破壊者ではなく

 

普通の人として生きれるの?

 

普通の生活を過ごせるの?

 

 「そうだな・・・後はお前次第だ」

 

そう言って、隣に座る鷲はバサッとひとはばたきして空に上がった

 

 「それなら、この翼は持っていくぞ。さらば、空の覇者よ」

 

そうして、鷲は行ってしまった

 

空の向こう側に、飛んでいって消えてしまった

 

 「・・・ありがとう」

 

私に、私が歩むべき道を教えてくれて

 

やっと・・・全てが決まった気がした

 

 「なら、戻るだけだね」

 

あそこに

 

あの場所に

 

あの、空に・・・って

 

 「戻れればいいんだけどね」

 

私の翼は、今私の使い魔が持っていった

 

今の私には、空を飛ぶ力もなければ戦う為の力も無い

 

つまり、空に戻る事は不可能なんだよね

 

 「それと同じように、私は目覚めるきっかけを失った・・・って事だよね」

 

木陰・・・そう、ここはいつも夢見るあの場所

 

来た覚えも無い場所なのに、何度もここに来てるから夢の中の世界だって気が付く

 

そんな木陰の草原に、私は寝転んだ

 

もう、休んでも構わないよね・・・

 

生い茂る木の葉の間から、ちらほらと光が私に届く

 

 「ーーーーフィリアなの?」

 

後ろからーーー声を投げかけられた

 

私は、それに答えるかどうかを迷っていた

 

 「あなたは・・・フィリアなの?」

 

 「・・・・・」

 

そこに居る人は・・・この人は・・・

 

 「・・・お母さん」

 

答えてしまった

 

 「・・・!!」

 

そうして私に泣きつくように、縋るように抱きつくその人

 

私と同じように蒼い長髪をしている、ふんわりした雰囲気が本当に懐かしい

 

 「フィリアっ・・・!!」

 

私の・・・お母さんだった

 

 「おかあさん・・・」

 

 「ああフィリアっ・・・本当にフィリアなのねっ?」

 

 「うん、お母さん・・・」

 

何も言えない

 

私には、お母さんになにも言えなかった

 

 「どこにいたの?今までどうしてたの?」

 

 「・・・お父さんについていってた」

 

そんな少しだけの身の話をして、私は思った

 

 ”また、私は普通の生活に戻れるの?”

 

それを、受け入れてくれるのかな?

 

お父さんと・・・お母さんは・・・

 

意を決して、聞いてみた

 

 「お母さん・・・」

 

 「何?」

 

 「私は・・・戻れるの?」

 

 「どこに?」

 

 「ここに・・・」

 

この・・・暖かい場所に

 

 「・・・いつでも、待ってるわ」

 

私の問いかけに、お母さんはそう答えてくれた

 

 「だから・・・いつでも戻っておいで」

 

優しい笑顔で、お母さんは言ってくれた

 

 「・・・ありがとう」

 

本当に、この時程自分が幸せ者だって思った事はなかった

 

 「お母さんっ!!」

 

と、空を見上げるとフィアが落下してきた・・・って

 

 「うわぁっ!?」

 

丁度直上だった為なんとか受け止めれたけど、危なすぎだってそれは

 

 「フィリア・・・この子は?」

 

 「えっとね・・・私の大切な娘」

 

 「おかあさん、行かないとっ・・・」

 

 「うん、そうだね・・・そろそろ行かないと・・・」

 

フィアを抱っこしたまま立ち上がり、そのままお母さんに笑顔で答える

 

 「いってきます、お母さん」

 

 「ーーーいってらっしゃい、フィリア」

 

背中を押され、そして私はイメージする

 

もう一度、本当に飛ぶ為だけの翼を

 

ただ軽い、本当にそれだけの翼を

 

それさえあればーーー

 

ーーーー私は、また空に戻れるからーーーー

  

 

 

 

 

そうして・・・私の娘は風と共に消えてしまった

 

まるで、本当はそこに居なかったかのように

 

 「私は、フィリアの帰りを待ってるから・・・」

 

だから私は、それまであの子の・・・あの子達の居場所を守るだけだわ

 

 「あら・・・そろそろ迎えの時間かしら」

 

腕時計を確認するとほぼ同時に、黒い車が私の後ろで停止する

 

車から降りてきたのは、茶髪を後ろで纏める形にしている女性は私の後ろから声を投げかけてくれた

 

 「定刻通り、お迎えに上がりました」

 

 「ご苦労様。ごめんなさいね、わがまま言っちゃって」

 

 「いえ、私は貴女方の一族に付き従うのが使命なので

 

  それに、幼馴染のわがままぐらいどうって事ないのよ」

 

 「いつも・・・ごめんね」

 

 「いえいえ。それより今、貴女と他に誰かここに居なかったかしら?」

 

 「ーーーええ、居ましたよ」

 

そのまま、彼女の横を通り過ぎて車に乗り込む

 

 「(私の・・・大切な一人娘がね)」

 

そうして、私の隣に続くように座る側近

 

 「では、自宅に戻りましょう」

 

そのまま、黒い一台の車は草原を走り抜ける

 

そして、一本木から遠ざかる

 

彼女にとっての過去の証と

 

未来の安らぎの場所を残して

 

 

 

 

 

部屋の魔法力が収まると共に、サイファーの横で寝ていたフィアが目を醒ます

 

そして、いつの間にか俺が握るサイファーの手に温もりと心臓の鼓動が戻っていた

 

 「・・・よう、相棒・・・まだ生きてるか?」

 

くそったれ・・・堪えても涙が出てきやがる

 

そうして、フィアが俺の横で服を引っ張る

 

 「・・・おかあさんはまだ生きてるから」

 

 「・・・そうか・・・ありがとな」

 

小さなあいつの頭を撫でる

 

サイファーも最初はこんなんだったろうな

 

 「ゆっくり休んでおけよサイファー」

 

手を離そうとしたが、逆に握り返されて俺はそこを動けなかった

 

 「逃げないでよ・・・臆病者」

 

いつの間にか覚醒していたサイファーがそう俺に言い放つ

 

 「すまない・・・俺はお前の翼を・・・」

 

 「そうだね・・・私にもう戦う為の翼はない・・・けどーーー」

 

 「?」

 

 「私には、まだ飛ぶ為の力は残ってる」

 

 「・・・そうか」

 

 「それと・・・ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 「ありがとう・・・」

 

ラリーが私の、あの過去の翼を破壊してくれたお陰で

 

私は、私の飛ぶべき空の道を決められた

 

方位も、高度も・・・全てに私の意志がある

 

 「何だ?俺は何か感謝されるような事したっけか?」

 

 「そうだね、でもお咎めなしって事にはならないよ」

 

 「・・・おう、何でもしてやるよ」

 

 「フィア、おいで~」

 

 「はいっ、お母さん」

 

あいかわらず可愛いね・・・自分の娘だからかな

 

もう一人のーーー昔の私

 

 「フィア、今度からこの人の事を”お父さん”って呼んで」

 

 「ぼっ!?」

 

うんうん、すっごい動揺してるね相棒よ。でも容赦はしない

 

 「はいっ!!お父さん!!」

 

すかさず実行するフィア

 

それにしても心がこもってるね・・・ちょっと言わせた事に後悔した

 

ラリーには勿体無いもん

 

・・・

 

 「お、おう・・・フィア」

 

そう言いつつも、ラリーはフィアの頭を撫でていた

 

 

 

 

 

 

 「あの・・・あそこに居るのって・・・」

 

 「家族よ。唯のね・・・番犬なんて名前は似合わない程仲がいい夫婦よ」

 

 「感動的です~・・・和みます~」

 

外でじぃっと様子を窺う若き英雄達とその元相棒は

 

何かしらニヤニヤしながら微笑んでいた

 

 「あー私も将来あんな風になりたいなぁ~」

 

 「そうですね・・・」

 

 「”なりたい”じゃなくて”なる”んじゃないですか?」

 

 「「それね(です)っ!!」」

 

・・・英雄とは思えない程に輝かしい目をしてたりするのは

 

”普通”に憧れを抱く”異常”を日常とする彼女達故の羨望なのかもしれない

 

 

 

 

  ~それから四日後~

 

 

 「おい、何だコレは?」

 

補給庫に入りきらない資材箱が、ハンガーに積み重ねられて置かれていた

 

 「はい・・・恐らくこれが原因かと」

 

と、整備員が一部の新聞を整備班長に渡す

 

その一面を飾る白黒写真には、この基地にいる英雄の姿が映っていた

 

 「”蒼の霞の姿を捉える・・・その姿はまさに空の蒼姫”

 

  ・・・なぁ、これを見て驚いたやつ居たか?」

 

 「その答えは、もちろんノーです」

 

 「だよなぁ・・・もう驚きを通り越して落ち着くに至ったからな」

 

見慣れたからそうでもないが、エリートっぷりが半端じゃないしな

 

それにしても・・・完璧すぎないか?

 

頭も回るし空では負け無し

 

聞いた話じゃ父親が軍のトップで

 

嬢ちゃん自身の見た目は美少女以外に表現できないくらいだ

 

 

 

 「この写真が出回って三日と経たずにこれか、嬢ちゃんもすっかり本物のエースだな」

 

 「ですね、蒼姫さんは本当にエースですよ」

 

 「・・・で、この大量の補給物資や資材は何だ?」

 

 「それも蒼姫さんのお陰です。彼女曰く父親からの贈り物だそうで」

 

 「・・・・・・」

 

世の中疑っちまうよ・・・全く

 

 

 

 

 

 

  意外、それは投稿が早くできた

 

  さてさて、どうもっていくかな~これ

 

  作者もちょっと考えてるだけで他ノープラン★

 

   「後で執務室に来なさいね?作者さん」

 

  あっ・・・お呼ばれみたいです、はい

 

  意見感想募集中☆

 

  よろしくお願いします

 

  

    その後の作者を見た人間は誰もいない(大嘘

 

 


 
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