No.624814

太守一刀と猫耳軍師 第33話

黒天さん

今回は呉の軍勢との戦いになります。
華歆は生存ルートになりました。

2013-10-03 17:00:51 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:8498   閲覧ユーザー数:6404

兵達に指示を出して一息つく。

 

今は桂花らの増援に向かうために軍の編成中でようやく一区切りついたとこ。

 

「そういや、ご主人様は華歆の処理どないするんやろ」

 

華歆の話しは紫青から聞いて、だいたい把握しとる。

 

子を人質に取られて仕方なくそう行動したっちゅうし、ご主人様の事や、殺しはせんやろうとおもうけど。

 

どうも月ちゃんに似た境遇やから、他人ごとに思えへん。

 

「何か、嫌な感じするなぁ。なんでやろ……」

 

城内を歩きながら、ゆっくりと思考をめぐらしよる間に、紫青と出くわした。

 

「紫青の方の仕事、おわったん?」

 

「ええ、今しがた終わりました。そちらは?」

 

「ん、こっちもだいたい終わりや。ご主人様は?」

 

「一刀様ですか? さっき、華歆さんと話しをしにいくといって牢の方に行きましたけど」

 

「華歆と話し? んー……。あ」

 

おそらく呉が動いたんは華歆の事でウチらが軍を動かしたせいや。

 

桂花らがどうにか追い払ったって聞いたけど、敗北同然でかなり危なかったらしい。

 

ご主人様にとって桂花の事は特に比重が重い。

 

多分、事情の確認にいったんやろけど、下手に華歆が挑発でもしたら殺しかねん。

 

殺させたらあかん。そんな気がした。

足を早めて牢屋に入っていく。そこについたら、ご主人様は剣を振り上げとって、華歆は首を差し出すようにしとる。

 

「あああぁぁ!!」

 

「あかん!!」

 

剣を振り下ろそうとしとるのを見て、咄嗟に自分のエモノを投げつけた。

 

狙い通り、ご主人様の剣にそれが命中し手から弾き飛ばされた。

 

「……霞?」

 

「ごめん。なぁ、ご主人様、華歆を殺すんはちょっと待ってーな」

 

牢屋に入って、自分の武器と、ご主人様の剣を拾う。

 

ご主人様は黙り込んだまま。なんで殺そうとしたか自分で分かってへんのかもしれん。

 

「ウチ怖いねん。確かに、戦の時やら、咄嗟の事で人を殺したことがあるのは知っとるで。

 

でも、ここで華歆を殺したら、ご主人様の人が変わってしまうような気ぃしてな。

 

ご主人様が優しいご主人様でなくなったら、月ちゃんも桂花も悲しむやろし、当然ウチもイヤや」

 

「ちょっと、勝手な事するんじゃないわよ!」

 

華歆の言葉にピンと来る。多分、華歆は娘のために死を乞うたんや。

 

「華歆はここで死んだ。表向きはそれでええやん。娘の事やったら、きっとご主人様が助けてくれる。そやろ?」

 

「あ、ああ……」

 

ご主人様が頷くんを見てから、ウチは華歆に向き直る。

 

「華歆は、娘が助かったら、ご主人様のために頑張って罪滅ぼしするって約束してんか。

 

ウチのもとの主も、そうやってまだ生きとるから」

 

「もとの主……?」

「ウチの名前は張遼文遠。主の名は董卓。董卓ちゃんも、両親を人質に取られて戦のきっかけを作ってしもた

 

でも、ご主人様はそれを許してくれた。ウチはすぐそばでそれを見てきたから、華歆の事はよーわかるつもりや」

 

華歆の目が驚きに見開かれる。まぁ当然やろな、月ちゃんが生きとるっていうんはごく一部のもんしか知らんし。

 

「約束するわ。娘を……お願いします」

 

「ご主人様、ごめん。勝手な事して」

 

「いや、いいよ。俺も多分、華歆をここで殺したら絶対後悔してたとおもうし。

 

多分これでいいんだとおもう。ありがとう、霞。

 

華歆、しばらく不自由かけるけど、子供は俺が助けるよ。約束する」

 

「ほんなら行こか、華歆の娘を助けるためにも、早いとこ軍の準備せなあかんし」

 

ウチは軍の編成を急ぐために、ご主人様と一緒に牢屋から出た。

───────────────────────

 

「早くみんなに合流して助けないとな」

 

軍の準備に2日を費やし、周辺の街からかき集めた兵は追加で1万。

 

現地に向かう道すがら街から兵を集めていき、3万ほどまで増やしていく予定だ。

 

「一刀様に提案があります」

 

「私と紫青からね」

 

紫青は、華琳と何度か戦術について話しあったりするうちにそこそこ打ち解けてくれたようで真名で呼ぶことを許したらしい。

 

「提案?」

 

「合流しに向かわない方法で桂花さん達の隊を助けようとおもいます」

 

「合流して戦う事ばかりが援軍ではないわ。

 

少し進軍経路を変えて敵軍の背後を突く方法を取る、という提案よ。

 

一応追い払ったという報告はあったけど、おそらく体勢を整えるために一時的に引いたにすぎないはず。

 

今頃多分、荀彧達は籠城で時間稼ぎをしてるはずよ」

 

「忍者隊からの報告によると、戦闘が起きている周辺で呉がつかえる城は一つ。

 

そこを落としてしまえば、補給するにしても相当な遠回りをしいられる事になり、事実上孤立します。

 

背後からそこを攻め落としてしまえば敵軍を撤退に追い込む事が可能かとおもいます」

 

「なるほど……、確かに兵糧がなくなれば兵の士気はガタ落ちになるし撤退せざるを得なくなるか」

 

「その城は元々外からの侵略を防ぐ事を前提に建てられている。背後からの攻撃には弱いはずよ。

 

落とすとしてもそう苦労はしないでしょう」

「呉の領内を進むとなると、こちらの兵糧の輸送はどうする? 一応遠征という形になるとおもうんだけど」

 

「輸送経路はいくつか候補があるので、そちらから進めれば問題ありません」

 

「それと華琳に聞きたい事がある」

 

「何かしら?」

 

「どうして呉との戦に力をかしてくれるんだ?」

 

「あなたは馬鹿かしら?

 

肉親を盾に取られた者の気持ちは分かるし、華歆は元は魏の将であった者よ。

 

あなたはこういう言い方は嫌うでしょうけど、私の所有物だった者。

 

それを好き勝手に弄ばれて私が怒らないはずがないわ。確かに計略を仕掛けたのは公瑾かもしれない。

 

しかし、その主である孫権にも然るべき罰を与えるべきと私は考えるわ。

 

可能であれば私は私の持てる全力をもって呉を罰する。

 

それに魏領をあなたから取り返すためには、多くの功績が必要なのでしょう?」

 

「わかった。なら、華琳と紫青の出してくれた案でいく。華琳、力を貸して欲しい」

 

華琳と紫青の提案にうなずき、その案で行く事に決定すれば早速行動に移す。

 

華歆の領から北上していき、いくつかの街を経由し、兵を補充する。

 

予想より兵の集まりは良く、華琳を慕ってやってくる兵も多い。

 

戦闘が行われる地域からほどよく離れた地点から呉の国境を超えて呉の領内へと侵入する。

 

村や街の無い地点を選んだが、国境にしっかりと斥候を配置しているなら、こちらに気づかれるかもしれないが、

 

最悪、もし気づかれても、敵の援軍をひきつける事ができればそれでも援護にはなる。

「このあたりは既に呉の領土、どこで敵と鉢合わせしてもおかしくない事を念頭に置いていかないとだめよ。

 

このあたりの軍は北に釘付けになっているとはいえね」

 

「国境へ向かう呉の本隊と遭遇する可能性がありますが、それ以外なら、大部隊と出会う事は無いでしょう。

 

城を攻める事を考えれば、遭遇戦で兵力を損なうのはさけなければなりませんし」

 

「分かってる。とにかく一刻も早く、城を攻め落とそう」

 

周囲に忍者隊を配置し、敵を探させながら進軍を続けうち、忍者隊の一人が本陣に駆け込んでくる。

 

「報告します! 6里ほど前方に大部隊を発見しました!」

 

「大部隊……?」

 

「数はおよそ10万! 呉の軍勢です!」

 

「噂をすれば影が刺す、か。

 

呉の本体ね。丁度国境に向かう所で鉢合わせ……。4万では相手にするのはかなり厳しいわね」

 

「そんなことはお前に言われずとも分かっている!」

 

華琳の言葉に愛紗が食ってかかり、その様子に俺は大きくため息をついた。

 

「相手がこっちに気づいてる様子はありましたか?」

 

「そこまでは……、しかし国境へ向けて進軍中のようでしたので、今は横を向いている形です。

 

こちらに気づいていなければ、もうしばらく待てば背を向けるでしょう」

 

「……。攻めようか」

 

「ご主人様!?」

 

愛紗が驚きに目を見開く。

 

「駆虎呑狼の計を説明したところで、手傷を負った呉は止まらないとおもう。それなら、一気に叩き潰す。

 

説得するならその後になるとおもう。紫青、攻められるかな?」

 

「敵との位置関係とその間の地形を利用すれば可能です。ただ、それなりの損害は覚悟してください」

 

「分かった」

───────────────────────

 

「左翼より砂塵! 北郷軍です!」

 

「何! 左翼からだと!?」

 

孫権が兵士へ怒鳴るように聞き返す。

 

「はい! 大将旗の十文字、曹、張、司馬!」

 

「数は?」

 

「およそ2万です!」

 

「たった2万で10万に挑んでくるだと……? 気でも狂ったか?」

 

「敵影、なおも速度を上げて左翼に突撃を仕掛けてきます!」

 

北郷軍は鋒矢の陣を敷いて一気に左翼へと突っ込んだ。前列が霞、中程に華琳、後方本陣に一刀と紫青の隊。

 

紫青の出した案として、先ず第一に、敵の士気をあげさせない。

 

計略の事をしらない呉からすれば北郷が侵略者なのだ、口上を述べさせたり舌戦などを行わせてはいけない。

 

そのため電撃的に攻撃を仕掛ける必要があった。

 

「我が名は張文遠!! 雑兵に用事はあらへん! ウチが用事があるのは将だけや!

 

命の惜しい奴はさっさと逃げるんやな!」

 

霞の声が戦場に響き渡る。呉軍勢は左翼の隊が横腹を突かれる形になり、一気に壊滅する。

 

10万もの大群なのだ、とにかく小回りが効かない。

 

正面切っての勝負ならその力を存分に発揮できるが、横や背後を突かれるとどうしても対応に遅れが出る。

 

ほぼ奇襲と言って差し支えない形で攻撃を受けたのだ、初撃は完全に対応出来てないない。

 

しかも悪いことに左翼の端にいるのは、孫権とは相性の悪い李術。兵の士気が低いために容易に隊は潰走してしまう。

 

まず5000が蹴散らされ、霞によってあっさりと李術は戦闘不能に追い込まれる。

 

その隊を潰すと北郷軍は即座に転進し引き始める。

「陣形を整えよ! 逃がすな! 追撃をかけろ!」

 

孫権が叫び、呉の軍勢が動く。

 

隊をくさび形に並べる魚鱗の陣を敷いて孫権軍は2万の北郷軍を追いにかかる。

 

「掛かりました。ふふ、魚鱗の陣で追うは愚かです……」

 

馬上で紫青が薄く笑う。それと同じくするように、敵部隊後方、右翼から声が響き渡る。

 

「我が名は関雲長! 幽州の青龍刀にして北郷が一の家臣!! 

 

我らが友の命を脅かす愚か者どもに怒りの鉄槌を下すのだ!

 

突撃いぃぃ!!」

 

伏兵として待ち構えていた愛紗が敵後方、右翼へと突撃を仕掛ける。

 

魚鱗の陣は鱗のようにいくつもの隊に兵を分けるのが特徴。

 

その多数の隊のうち外側の隊一つに狙いを絞り、愛紗は一万の兵を率いて突撃していく。

 

その隊を削り取るように進軍し、蹴散らしていく。

 

右翼の端も、やはり孫権と相性の悪い呂壹。こちらの隊も、李術の隊と同じように早々に潰走する。

 

愛紗もやはり将である呂壹を一点突破で狙い、これを打ち取る。

 

それと同じくして左翼でも、夏侯惇と秋蘭の隊が声を上げる。

 

「我が名は夏侯元譲! 孫呉の兵よ、魏武の大剣の力を思い知るがいい! 突撃いいぃぃ!!」

 

「全軍前進! 敵兵共を血祭りにあげよ!」

 

夏侯惇の隊は一直線に李術の抜けた穴へ突撃していく。

 

華琳の隊も、秋蘭、夏侯惇の隊も、どちらも士気が高い。

 

元々魏の兵として戦っていた者達だ、陣営は違えど再び同じ主の下で戦えるが嬉しいのだろう。

 

将を失って統制の取れなくなった李術配下の兵を次々に蹴散らしていく。

 

両翼からの挟撃を受けて呉の兵たちが混乱し、一瞬動揺したのを見逃す紫青と華琳ではなかった。

 

兵達に指示を飛ばし、反転逆撃の体勢へと移る。

「兵達よ、聞けい! 我が名は曹孟徳! 

 

呉はかつての我が臣であり、今の北郷の臣であった華歆の子を人質に取り、計略のコマとして弄んだ!

 

曹孟徳が兵として罪を憎み、罰を与えよ! 北郷の勇者として、主と仲間の苦痛を敵に知らしめよ!

 

孫呉のすべてを地獄へ導き、懲罰を与えるのだ! 全軍突撃!」

 

華琳が隊を鼓舞し、士気を押し上げ、追いすがってくる呉の最前列、鼻っ柱を折る形で踏み潰す。

 

挟撃をかけられ両翼が壊滅し、軍が混乱し、動揺したこと。

 

それにくわえて名乗りを上げたそれぞれが、北郷と魏の顔とも言える有名な人物達。

 

呉の軍勢の士気は確実に下がり始めている。

 

「伏兵か!」

 

「蓮華様、まずいですよぉ」

 

「穏! 弱音を吐くな! 数が増えたとはいえ相手は4万だ! 押し返せ!」

北郷軍は確実に将を狙い、軍をすすめていく。

 

一人、また一人と将が討ち取られていき、次第に軍の統制が取れなくなり始める。

 

こうなるともはや烏合の衆、背を向けて逃げ出すものまで出始める始末だ。

 

「見つけたで、孫権! あんたに恨みは無いけどその頸もらうで!」

 

「張遼……!」

 

「そんなことさせる物かっ!」

 

孫権へ切りかかる霞の飛龍偃月刀を、甘寧がその剣で受け止める。

 

「親衛隊の甘寧やったか? ええやろ、まずアンタから討ち取ったるわ。そらそらそら───ッ!!」

 

「ふん、貴様ごときに討ち取られるほどやわではない!」

 

霞が続け様に二度、斬撃を繰り出す。それを弾いて剣を振り上げ、霞の喉元を狙い、切り上げる。

 

「なかなか速いやないか、ほんでも、速さ勝負やったら負けへんで!」

 

霞は柄でその剣の腹を打ち上げて軌道を反らせ、ついで突きを繰り出す。甘寧は大きく後ろに飛んでそれを避ける。

 

「甘寧、遊んどってもかまへんのんか? はよウチの頸をおとさんと大変なことになるでぇ?」

 

「何……!?」

 

「じきここまで来るわ。関羽と、夏侯惇がな。ウチと、猛将2人をいっぺんに捌ききれるやろかな?

 

さぁ、さっさと勝負つけんと、孫権の頸が落ちるで!」

 

下段から振り上げた飛竜偃月刀を、甘寧が受け止める。

 

「ならば、その頸、早々に叩き落としてやろう!」

 

「やれるもんやったらやってみい!」

 

甘寧の繰り出す剣をはじき返した所で、声が響き渡る。

 

「呉王孫権よ、もはや軍勢は機能していない、大人しく北郷殿の下へ来てもらおうか」

 

現れたのは、夏侯惇と秋蘭。

 

「私は呉の王だ! そうやすやすと敵の縛は受けん!」

 

「ならば、実力で討ち取らせてもらおう。行くぞ姉者。生け捕りにせよとの命だ、殺すんじゃないぞ?」

 

「おう!」

 

秋蘭が矢を牽制目的で3本、続け様に放ち、その後ろを追うように姿勢を低くした夏侯惇が走りこむ。

 

孫権はその矢をかろうじて避けるものの、走りこんできた夏侯惇に対応が追いつかない。

 

その大剣を受ける事はできたものの、受けるだけで精一杯、といった様子。

 

「蓮華様!」

 

「よそ見しよる余裕があるんか? ハァ──!!」

 

甘寧がそれに気を取られた一瞬を見逃す霞ではなかった。

 

その飛竜偃月刀の峰が甘寧の腹を正確に捕らえる。

 

甘寧は咄嗟に後ろに飛んで威力を殺そうと試みたが、全力で振りぬかれた偃月刀は甘寧に立ち上がることも難しい痛打を与える事になった。

 

「勝負ありやな」

 

「蓮華……様」

 

甘寧が孫権の方へと視線を向ければ、丁度孫権は夏侯惇の大剣により打ち倒された所だった。

あとがき

 

どうも黒天です。

 

華歆さんを生存させて欲しいという声があったので生存ルートになりました。

 

今回は呉の本隊との戦闘になりましたが、用いた戦術は分かる人は分かるとおもいます。

 

そう、釣り野伏です。

 

このSSを書いている時に色々調べていて知ったのですが、どこかでこれをやりたくて、今回やることにしました。

 

原作で呉が用いていた魚鱗の陣は挟撃や包囲に対して弱いという特徴を知り、やるならばここか。と思いまして……。

 

あと、作中で描写はしていませんが、春蘭と秋蘭は一刀から直接の指示ではなく、

 

華琳経由の命で動いています。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。


 
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