No.621507

太守一刀と猫耳軍師 第26話

黒天さん

今回で対魏戦が終了です。
軍師勢を活躍させようとおもっていましたが、中々難しいですね……。
いまいちパッとしない結果になってしまいました。
やはり軍師は縁の下の力持ち、なのかな。

2013-09-21 23:47:54 投稿 / 全14ページ    総閲覧数:10117   閲覧ユーザー数:7279

曹魏との第二戦を制し、城を奪った北郷軍はそこで数日の休息をとっていた。

 

さすがに曹魏の精鋭相手の二連戦で兵は疲れているし、後方からの援軍を待つ意味もある。

 

その間に、孫呉からの使者がやってきていた。

 

使者は大喬小喬の姉妹。彼女らの持ってきた書状は、北郷と同盟を結びたい、という内容。

 

「うぅん、ありがたいのですけど、現在ご主人様が不在で……」

 

朱里が困ったように、紫青に視線を向けるが、やはり紫青も同じ答え。

 

「そちらの主が半死半生で動けないのはわかっています。

 

ですので、返答ができる状況になるまで、呉は魏と北郷どちらにも加担せず、静観します。

 

北郷軍が呉に侵攻してこない限り、呉が動く事はありません」

 

一刀が復帰するまで静観して待つ、というのが呉の申し出。

 

孫権としては、雪蓮が戦死している事もあり、北郷の将の気持ちがよく分かるため、魏とは組む気にはなれなかった。

 

周喩は、北郷軍の兵が魏に押し寄せたために国境の警備が薄くなっている事を看破し、

 

北郷を今攻めて領地を奪い取る事も提案したのだが、孫権はそれを突っぱねた。

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休息といっても、みな無駄に時間を過ごしていたわけではない、特に朱里、紫青、詠の軍師勢は忙しく動いていた。

 

まず一刀の暗殺があったその日のうちに、魏への塩の輸出を完全にストップさせた。

 

まともに戦うなら、戦の間でも塩の供給は止めない方針だった。

 

塩の供給停止に続く形で、政治面から魏にダメージを与えようと奔走していたのだ。

 

まずは朱里が魏領の太守や県令にあたる人物に次々に書状を送った。

 

内容は一言でいってしまえば脅迫状。

 

曹操に従うのであれば、北郷軍が全力をもって天罰を下しに行く。といった感じ。

 

先の二度の戦闘で曹操が劣勢だと思われている可能性があるし、命惜しさに曹操に下った者達は少し脅せば手のひらを返すだろう。

 

すべてがそうならなくても、少しでも魏の力を削ぎ、許昌を孤立させようとの思惑があった。

 

紫青は、倒れた曹魏の兵から剥ぎ取った武具を身につけた少数の兵を、他の街から許昌への道中に配置させ、

 

北郷の間諜のおそれがあるから許昌には行かせられない、と言って商人をすべて追い返し、交易をストップさせようと試みる。

 

詠は、このさきの夏侯淵が籠城している城への対抗策を考え、その準備を進めていた。

 

そして、兵の休息が終われば、軍は進軍を開始する……。

───────────────────────

 

城の手前まで軍を進めたが、相手からの動きはない。

 

今度は完全に籠城を決め込んでいるらしく夏侯淵はうって出てくる事をしない。

 

「大型弩砲の発射用意をしなさい、射程ギリギリから城にぶつけるわよ」

 

詠が指示を出し、動かしたのは工兵隊に急ぎ作らせた車輪のついた大型の弩。

 

弩を大型化した物で飛ばせるものは槍や石、果ては兵士の死体まで。

 

一刀が言っていたバリスタという兵器を参考にしたシロモノだ

 

試験的に作って試しうちをしたことがあるが、有効射程は短いが飛距離はかなりのもの。

 

今回の攻撃目標は城、少々左右にずれたところで城壁の向こうに届けばそれでいいので問題はない。

 

「紫苑さんと白蓮さんの隊は火矢の発射準備をお願いします」

 

今回飛ばすものは石でも槍でもなく、油の入った壺。

 

詠の選択した策は、火計だった。

 

「放て!」

 

それから油の壺が射出されれば大きく山なりに飛び、それは城壁の向こう側へと飛び込んでいく。

 

弩砲によって次々に投げ込まれていく油の壺。

 

それに火をつけるべく、白蓮と紫苑の部隊は火矢を番え、城壁の向こうを狙い一撃離脱で次々に火矢を放っていく。

 

やがて城からは火の手が上がり始めた。

───────────────────────

 

「手こずらせてくれる!」

 

白装束の男どものなかから薄い茶髪の男が現れ、鋭い蹴りを放ってくる。

 

それを鉄扇でもって受け止め、その蹴りの勢いを利用して大きく後ろに飛ぶ。

 

「さっきの、メガネの男の仲間か……? 」

 

「ああそうさ、お前を殺しにわざわざこんな所まで来てやったんだ、感謝しろ!」

 

続け様に二度、蹴りが放たれる。一度目のケリを右の鉄扇で弾いて、二度目を左で受け止め、その足を右の鉄扇で打ち据えようとする。

 

それを茶髪の男は間一髪で避ける。早い。

 

「貴様、何故そこまで動ける!」

 

「俺の仲間が助けてくれるからな。仲間の名前は張遼、呂布、華雄。英雄3人が力を貸してくれるんだ、負けるハズがないだろ!

 

それに俺は現実に帰らないといけないんだ! 仲間のために!」

 

地を蹴り、一気に距離を詰めれば左の鉄扇を閉じて思い切り振りぬく。

 

合わせて放たれる蹴りに受け止められるが、そのままの体勢から右の鉄扇で突きを放つ。

 

「チッ!」

 

茶髪の男は大きく飛び退り、それを避ける。右の鉄扇を腰にさしながら、追撃とばかりに左の一撃を放つ。

 

先ほどと同じように蹴りで受け止められるが今度は違う、袖の内側に仕込んだ小刀を胴体めがけて投擲する

 

「ここは本当に厄介な外史だな……!」

 

小刀をよけきれなかった茶髪の男の右肩をかすり、そこに傷を作る。攻撃の手を緩める気は無い。

 

「何をワケの分からない事を!」

 

牽制に羅漢銭をその顔と、胴体、体の右側へと投げつけながら距離を詰め、左からすくい上げるようにして鉄扇を振りぬく。

 

「おとなしく俺を通せ! みんなが、桂花が俺を待ってるんだ!」

 

茶髪の男は体勢を崩しながらもその鉄扇を受け止めようとするが、おそらく足に手傷を負ったハズだ。

 

鉄扇に確かな手応えを感じた。

「ふん、どうせ貴様の体はもうすぐ朽ちる、ここに来た時点で貴様の負けは決まっている」

 

そういうと茶髪の男は白装束の群れの中へと消えていく。

 

「待て!」

 

「追ってはだめ!」

 

桂花の鋭い制止に俺は足を止める。

 

「あの男が言ってる事は本当よ……。一刀の体は弱ってきている。だから、賭けに出るわ。敵陣に一点突破をかけて出口に向かう策を取る

 

騎兵隊を先頭に魚鱗の陣を、中程に歩兵隊、後方に弓兵隊を配置……」

 

「報告します! 敵後方より砂塵、味方の援軍です! 旗は十文字!」

 

曹操との第二戦が始まったのか、増援の報が飛び込んでくる。

 

「迷ってる暇はないわよ、増援が来たこの機を逃したら突破は難しい、犠牲が出る事に一刀が悩むのはわかる。

 

でも、一刀がここで死んだら、みんなの死は犬死にになってしまう。どうやってでも、あなたは生きて戻らなきゃダメ」

 

俺の躊躇を察したのか、桂花が俺の背を押すようにそういってくれる。その言葉に俺は頷き、声を張り上げる。

 

「騎兵隊を先頭に魚鱗の陣を取れ! 目標は増援が来た方向、敵陣中央に一点突破をかける! 全軍突撃!」

 

後方からの援軍と挟撃をかける形で全軍を勧め敵陣中央を強引に突破を試みる。

 

白装束の集団をかき分け、叩き伏せ、屍を踏み潰しながら前へ前へとにかく進む。

 

「もう少し、もう少しよ」

 

白装束の向こう側の十文字が見えてくる、集団の中を抜ければその先にはどこまでも続く荒野が見えた。

 

「殿は我らに任せて君主様は早くあちらへ!」

 

兵の声にうなずき、俺は走る。横に追走する騎兵の一人が俺を馬上に引っ張りあげて一気に自分の来た方向へと走る。

 

こいつは確か、霞の隊の兵だ。

 

「張遼様は自分を守って傷ついた君主様をずっと気にかけておられました。張遼様のためにも、命に替えても現世へ!」

 

流石霞の兵、霞には及ばないまでも、馬術の技能は高く、俺を乗せているというのにその走りは非常に早い。

 

戦の喧騒は後方へ消え、騎兵の居ない白装束の集団は後ろの方に置き去りになる。しばらく走った所で、馬を止め、俺を降ろす。

 

「この先が我らの来た方向、死者たる我らがお供できるのはここまでです。この先をまっすぐ走れば、必ず現世に戻れます」

 

兵にうなずき、俺は荒野をひた走る。出口なんて俺には見えない、どこまでも続く荒野だ。

 

息が切れ、胸が苦しい。本当に出口などあるのか、そう思いはじめたころ。そして唐突に、俺の意識は途切れた。

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目を開けると見慣れた天井。

 

ゆっくりと体を起こす。ひどく体が重い。

 

「一刀!」

 

ベッドの横に座っていた桂花が俺に抱きついてくる。

 

「馬鹿! 何で私をかばったりなんかしたのよ! 本当に、本当に死んじゃうかと思ったんだから!」

 

俺の胸に顔を埋めるようにして、声はなんだかふるえていて涙声。

 

慰めるようにして背中に手を回して、背をさするように撫でる。

 

「ただいま。桂花のお陰で帰ってこれたよ。ずっと、傍に居てくれたんだな」

 

どうも本当に泣いてしまったようで、少し頷くだけで返事は返してくれない。

 

少し強く抱きしめると、驚いたようにぴくりと震えるが、もたれるようにして身を任せてくれる。

 

「俺、どれぐらい倒れてた? 今、曹操との戦はどうなってる?」

 

桂花を落ち着かせて話を聞くと、どうも数日間は意識不明だったらしい。

 

現代なら点滴なりなんなりで延命のしようはあるがここでは数日でも目覚めなければ命に関わってくるだろう。

 

状況は二戦目を勝ち抜き、現在休止中で、そろそろまた戦闘に入る、との報が入ってきているらしい。

 

戦闘中に二度目の援軍があったことから、二戦目があったのだろうということは感じていた。

 

「それなら、俺も行かないとな……」

 

「ちょっと、何考えてるのよ!? 正気なの!?」

 

「俺が起きたってことを教えて安心させてあげないとね」

 

ベッドから立ち上がろうとすると、やはり本調子じゃないか、体がふらつく。

 

桂花が倒れそうになる俺を支えて、ゆっくりとベッドに座らせてくれる。

 

「今、戦場に出ていけるような体じゃない……。っていっても聞かないわよね

 

せめて、しっかり食事を取ってもう一日休みなさい。そうしたら、私が連れてってあげるわ」

 

「じゃあ、他のわがままを聞いて欲しいんだけど……」

 

「何よ」

 

「墓参りに行きたい」

 

「バカ!! ほんとに何考えてるのよ! あんなことがあったばっかりだっていうのに全然こりて無いじゃない!」

 

俺の襟首を掴んでがくがくと揺さぶってくる。また涙目になりながら、多分この顔は結構本気で怒ってるな……。

 

「あんなことがあったからだよ、あれだけ兵達に助けてもらったんだから、礼はきっちり言わないと……」

 

「せめて今度にして、今、護衛できる人がいないから」

 

桂花は泣きそうになりつつ大きくため息をついた

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城攻めは難航していた。たしかに城に火をつけることはできたが、それだけでは夏侯淵は出てこなかった。

 

城壁は当然燃えないし、食料庫等の重要施設は燃えなかったとみえる。おそらく地下にあるか、石造りの建物か……。

 

「報告します! 敵後方に砂塵! 旗は曹!」

 

「……まずいですね。曹操さんが来る前に落としきれなかったとなると……」

 

「城門、開きます! 敵が討って出てきます!」

 

敵の数は籠城していた夏侯淵の隊も合わせればざっと6万。

 

その程度で済んでいるのは朱里が送った脅迫状のおかげか。

 

魏軍の曹操自身が増援としてやってきたことで士気が上がっている。

 

対して北郷軍は城攻めと連戦で疲れている。おそらく、北郷軍の疲れた頃を狙ってやってきたのだろう。

 

陣形を野戦向きのものに変え、迎撃を始めるが、北郷軍が押されている様子。

 

撤退を視野に入れ始めた頃、朱里の元に伝令が走ってくる。

 

「報告します、後方に砂塵! 旗は十文字と荀です!」

 

「ご主人様と……桂花さん……?」

 

「なんだと……?」

 

朱里の周囲に居た者が一斉に振り返れば、遠くに高々と掲げられる十文字の旗と、それに寄り添うように荀の旗。

 

そして1万ほどの援軍。念の為に街においてきた兵を連れてきたのだろう。

 

一刀が現れた事で北郷軍の士気は盛り返し、魏軍を押し返し始める。

 

本陣に一刀が到着すれば、朱里と紫青、詠がまず駆け寄って、その様子を見てはっとする。

 

自分で馬に乗って行くのが難しかったのだろうか、桂花と同じ馬に乗り、

 

無理に無理を重ねてここまでやってきたのか顔色は悪い。

 

「ご主人様、どうしてこんな……」

 

「みんなが俺のために戦ってくれてるって聞いたのに、一人で寝てるわけにはいかないからな

 

ごめん、こんな体できても邪魔なだけなのに」

 

馬から降りようとして、体がふらつき、倒れそうになる。それをわかっていたのか、兵がその体を支えた。

 

「そんなことないです、一刀様が来てくれたとあれば、もう負ける心配はありません。

 

一刀様が、我が軍にとって最強の援軍ですから」

 

紫青がそう言って正面へ視線をうつした。

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「……見つけた」

 

「呂布奉先!」

 

最悪の相手に出会った、というのが夏侯淵の本音。

 

即座に矢を放つが無造作に振るった方天画戟がその矢をはたき落とす。

 

「弱い……。ふんっ!」

 

「お前と比べられたらほとんどの将はそうだろうな!」

 

夏侯淵は近寄られるまいと、次々に矢を放つが、恋はそれをいともたやすく避け、落としていく。

 

「こっちの番」

 

一気に距離を詰めればはたから見れば、無造作にその獲物を振り下ろしただけに見える。

 

夏侯淵はそれをどうにか受け流すが、見た目に似合わず、その一撃は非常に重い。

 

続いて恋が左右から連撃を繰り出せば、夏侯淵はそれを受けきれず、2撃目を食らう事となる。

 

「ぐっ!」

 

無言で恋がかけた追撃は、夏侯淵をたやすく地面に沈める事となった。

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将である夏侯淵を失い、魏の兵士達の動揺が走る。

 

その隙を見逃す将達ではない。一気に攻勢をかけて魏軍を圧倒していく。

 

軍が魏の本陣まで到達するまで、多くの時間はかからなかった。

 

「久しぶりだな、曹操」

 

「公孫賛、あなたが来たのね」

 

「投降しろ、もうお前の負けだ」

 

「わかってるわ。許昌はほぼ孤立し、援軍がくるあてもない

 

よく短期間でここまで手を回したものだわ」

 

「うちの軍師は優秀だからな。それで、投降するか?」

 

「私は魏の王なのよ? 兵がいなくなったからといってそう簡単に投降なんてできないわよ。

 

捕虜にするなら腕ずくやってごらんなさい」

 

「私は一騎打ちならしないぞ? お前には勝てないし、

 

北郷が生きて戻った以上、ここで死ぬわけにはいかないしな」

 

白蓮が片手を上げると、周囲の兵が前に進み出て、馬上で一斉に弓を構える。

 

「おあつらえむきの相手を用意してやるよ」

 

兵に曹操を牽制させながら呼子を吹き鳴らすと近くに居た霞が駆けつけてくる。

 

同じ騎兵ということで霞の隊とは近くで行動することが多い。

 

「あんたが曹操か、ふふ、逃さへんで……! ウチは張遼文遠。さぁ勝負せぇ!」

 

「張遼、あなたは私の陣営にいて欲しかったわね」

 

「願い下げや、さぁ、いくで! ハァ────!!」

 

張遼が飛竜偃月刀を振りかざし、曹操に向けて駆けていく。

 

武器を打ち合わせる事4度。それで勝負は決まった。

 

曹操の手からその大鎌が弾き飛ばされて地面へと突き刺さる。

 

「さぁ、おとなしゅう縛についてもらおか」

 

曹操が討ち取られた事で一気に戦況が動き、魏軍は潰走した。

───────────────────────

 

戦が終わった後、俺はみんなにもみくちゃにされた。

 

真っ先に俺に俺に飛びついてきたのは朱里と紫青。2人はそのまま泣きだしてしまった。

 

愛紗には無理をしたことで怒られ、星や紫苑がなだめにかかる。

 

なんだか懐かしいと感じる光景。みんなそれぞれに、俺の復帰を喜んでくれた。

 

でも俺はここまでさんざん無理をしてきて、戦闘が終わった安堵感からか、俺の体から力が抜ける。

 

そのまま、意識を失ってしまった。

 

次に目覚めた時には俺は城にいた。どうやって運んだんだろうとか、そこらは聞かない事にした。

 

結局数日の間、俺は部屋で安静を言い渡され、無理をしないように監視する、という名目で誰か一人が常に俺の部屋にいる。

 

その監視の順番をめぐって壮絶な争いがあったとかなかったとか。

 

しかし、俺が目を覚ましてから、それぞれの態度が少し変わったような気がする。

 

一番顕著なのが桂花。酒なしでも、酒の入ってた時と同等……とはいわないまでも、かなり素直になった。

 

で、取り敢えず動けるようになって最初の仕事が曹操達の処遇の決定。

 

というか、曹操軍の重鎮を軒並み捕縛してたのを俺は復帰するまで知らなかった。

 

現在牢屋に放り込んであるらしい。

 

愛紗は処刑すべき! とはいうものの、俺はどうにもそういう気にはなれない。

 

確かに殺されかけたのは事実だけど、戦時下にあっては暗殺も普通にありえることだしそれも策のうち。

 

一度話してみようと思い、取り敢えず曹操に会う事にした。

 

曹操は随分とおとなしくしているとの事。

牢屋に向かい、牢番の使っている椅子を借りて曹操の牢の前に椅子を置き、座る。

 

みんなには大丈夫とはいったものの実は長時間立っているのはまだ辛い。

 

軽く話してみた所、暗殺の理由については部下の独断で自分は関わっていない。

 

また、結果的に暗殺という手段を取ってそれは半ば成功したにもかかわらず、君主不在の軍にぼろぼろにやられたため、諦めもついたという。

 

覚悟はできているからいつでも処刑しろ。

 

と、要約すればこんな感じ。

 

「処刑する気はないんだけどなぁ……。暗殺も立派な策といえばそうだし」

 

「甘いわね」

 

「まぁ流石に無罪放免ってわけにはいかないけど、思いつかないから処分は保留。

 

あと牢屋にこうやって入れとくのはあんまり気乗りしないから、もうちょっとマシな部屋を用意する」

 

曹操の表情はといえば、何考えてんだこいつ。ってところだろうか

 

「どうしてあなたのような甘い人間に負けたのかしら」

 

「さぁ、俺は死にかけてたから何とも」

 

「北郷の兵は、その末端までもが修羅のように怒り狂い、凄まじい戦いぶりを見せたわ。

 

道具を使う主がいないにもかかわらずあそこまでの働きぶりを見せた」

 

「道具じゃないよ、仲間だ」

 

「本当に甘い考えなのね、部下は道具よ。あなたは、名も無き一兵卒相手にも同じことが言えるかしら?」

 

「言えるよ」

 

「ならその名も知らぬ一兵卒の死に涙を流せて?」

 

「流せる。というか、その一兵卒のために墓参りをしていて刺客に襲撃されたんだけど」

 

言いよどむ事無く言い切ると、曹操は驚いたように目を見開き、続いて大きくため息をついた。

「私はその考えに負けたのかもしれないわね。

 

民の幸福を重く考え、兵を等しく仲間と言い、将は家族のように大切に扱う。

 

私からすれば限りなく甘いけど、徹底すればそれも強さということかしら。

 

あなたは私を処刑する気はないっていったわよね?」

 

「何らかの罰則はつける事になると思うけど、命をとる事はしないつもりだよ。

 

罰則なしだと、みんな絶対納得しないからなぁ……。俺は別にいらないと思ってるんだけど」

 

「なら、その甘い考えのままどこまで行けるか、見物させてもらおうかしらね。それと、コレを渡しておくわ」

 

曹操が懐をまさぐり、俺に小さな巾着を差し出してきた。

「これは魏の王印。国の象徴であり、魏の国王の証。

 

……この印の中には、建国のために戦った名も知れぬ数々の兵の命と

 

勇ましい将たちの魂がこめられているわ」

 

「……、いいのか?」

 

「あなたの軍は王不在の状況で魏の軍を打ち負かしたのよ。

 

完敗もいいところだわ。だからあなたにはこれを受け取る資格があるし、

 

民を守る事の出来なかった王の私には、もうこれを持っている資格は無い」

 

俺がそれを受け取ろうとすると、曹操は手を少し引っ込める。

 

「経緯はどうあれ、暗殺、という手段を取ってしまった私にこんなことを言う資格はないかもしれないけど、

 

叶うならば約束してちょうだい、魏の民たちを悲しませるような事はしない、と」

 

「ああ、そんなことはしないよ。もう交易の停止も解除させてるし、塩の輸出も再開してる。安心していい」

 

改めて、それを受け取って俺は頷いた。

 

「それにしても、この戦乱の世にどうしてそんな甘い考えになれたのかしらね」

 

「俺には身内が誰一人居ないんだ。元の世界からこちらに放り出された時から。

 

そんな時に、俺の仲間になってくれた愛紗……関羽や張飛は家族も同然だった。

 

俺の身近にいる他の将も、兵も家族だとおもってる。

 

親しくしてくれる民達はみな友人……。だからみんなのために俺は動く。魏の民はどう言うかわからないけど、

 

やっぱり俺を受け入れてくれれば友人として接するとおもうよ。ある意味、寂しさから来てるのかもしれないな……」

 

お互いに喋らず、しばしの沈黙。

 

「確か、曹操の所には結構な数の書状を送ったはずだ。あの書状の通り、曹操にも仲間とはいわないまでも、

 

友人ぐらいにはなって欲しかったんだけどな」

 

「頷く訳ないでしょ、そんな甘い人間の言葉に。

 

でも、私はもう王ではなくただの敗者であなたの捕虜よ、口説くなら気が済むまでそうするといいわ。

 

もしかしたら私の気持ちが動くかもしれないわよ。

 

少なくとも、私を打ち負かしたあなたに、興味を持っているのは事実だから」

 

「ならそうさせてもらうよ。さて、それじゃあんまり長くここに居るとまた心配かけそうだから俺は戻るよ」

 

椅子から立ち上がると、ふっと立ちくらみ。鉄格子にすがりつくような格好になる。

 

「ちょっと!?」

 

曹操が鉄格子の向こうから俺に手を伸ばし、体を支えてくれた。

 

「まったく、その体たらくで国の統治が務まるのかしら」

 

「はは……、まだ本調子じゃなくてね」

 

呼吸を整えてから、ゆっくりと立ち上がる。

 

「取り敢えず、数日中にここから出られる事になるはずだから。曹操も風呂ぐらい入りたいだろうしね」

 

「あら、それはありがたいわね」

 

くすくすと、曹操が笑った。

あとがき

 

どうも黒天です。

 

一刀が復帰し、魏が滅び、桂花がデレた。というわけで一気に状況が動いた回でした。

 

点滴等が無い状態で、意識不明の状態に置かれたために、一刀の体はボロボロになってしまいましたが。

 

次回からまた拠点って感じになるかなー。

 

勢いで北郷軍に下る事を約束してしまった春蘭やら、一刀に興味を持った華琳やらがどう動くか楽しみですね。

 

華琳の性格を掴みかねてるので違和感あるかもしれません。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。

 


 
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