No.620491

リリカルなのはSFIA

たかBさん

第五十話 誰かが望んだその場所へ

2013-09-18 01:04:43 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5083   閲覧ユーザー数:4560

 第五十話 誰かが望んだその場所へ

 

 ジェイル・スカリエッティの陰謀により、ミッドチルダは壊滅の危機にさらされる。

 しかし、それは機動六課を始めとする管理局員の活躍により壊滅は逃れることは出来た。

 首謀者のスカリエッティの捕縛は出来なかったものの彼を作り出した管理局の暗部はレジアス中将の内部告発。そしてゼストの証言からその暗部達一斉検挙された。

 機動六課の皆々は現在。その時の働きを評価されたお蔭で皆が皆、進みたい道と進んでいる。

 

 その中で一番報われた自負する八神はやて。

 彼女はこの事件で自分の家族を取り戻した。九年前に消えてしまった覆われた闇の書の完成プログラム。初代リインフォースが生きていたのだから。

 彼女もそんなはやてを見て嬉しそうには見えた。が、彼女の顔はどこか暗い表情を見せていた。

 

 彼女の恩人である『傷だらけの獅子』。そして、八神はやて達自身も自分達を救った存在を忘れてしまったから。

 

 それはまるで彼と言う存在が元々いなかったような記録だけを残しっていった。

 

 

 リインフォース視点。

 

 「…ふぅ」

 

 「また溜息か。リインフォース」

 

 「…将」

 

 あの事件終結から数か月間。

 私は彼の事を忘れていない人はいないかと訪ね歩いた。彼の痕跡も探した。だが、あの光の雪は彼が残して言った物すべてを打ち砕いて行った。

 そして、その足跡を水の泡のように消し去ってしまった。

 

 更に時は過ぎ、事件終結から五年。

 私の存在は異常なので、私自身をロストロギアとして回収した主はやての元、監察期間を終えた私は無限書庫の司書として働いている。

 そんな私が無限書庫の休憩室で休んでいると、烈火の将がコーヒーの入った紙コップを持って私の休んでいたテーブルの上に置く。

 

 「そんな顔ではお前の探し人は見つからないぞ」

 

 「今は休み時間なんだ。それに勤務中は笑顔で職員や利用者に接しているぞ」

 

「だが、本当に見せたい奴が見つからないから、ため息が出るといったところか」

 

「…そういうことになるな」

 

「…こういうのもなんだがやはりお前は変わったな。リインフォース。なんというかこう女らしくなったというか何というか」

 

 将を始めとする私の関係者は皆、『傷だらけの獅子』の存在を消されている。

 彼女達だけではない高町なのはだけではない。ゼクシスメンバーのアリサ。すずか。そして、命の恩人である高志をランスター兄妹まであの雪の日に消えていったアースラのように忘れてしまった。

 だが、あの雪で記憶を無くさなかった人間はもう一人いる。

 

 「ごめん。少し遅れちゃったかな?」

 

 「いや、集合時間ジャストだ」

 

 黒いミニスカートと上着をビシッと着こなした金色の女性。

 フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。

 管理局では執務官と言う激務に居ながら休みをうまく利用して無限書庫で私と一緒に『傷だらけの獅子』およびスフィアに関しての情報を集めている。

 フェイトが記憶を失わなかった理由は。

 一病院内で絶対安静を宣告されたのでアルフが見張っている間、彼女の病室から出たこともなく、また、誰も入れないように結界を張られていたから。

 アルフは買い出しに行くと言って外に出てしまったがためにあの雪で記憶は消された。だが、フェイトは違う。

 雪が降りやむまで三日。

 その間に一般人や局員達はこの光の雪を浴びれば体力魔力が回復することを知り、こぞってその雪を浴びてスフィアの存在を忘れていった。

 だがフェイトはその三日間。リインフォースからの知らせを聞いて、アルフの作り出した結界の中で療養していた事により、雪に当たることなく記憶をなくすことがなかった。

 『傷だらけの獅子』の事を知っているのは二人だけ。

 そして、二人にとって『傷だらけの獅子』は特別な存在だったから。

 

 「…二人がそんなふうに言うのだからそいつはいるんだろう。だが、証拠が少なすぎるし、そいつの物だと断定することも出来ない」

 

 「カートリッジシステムの負担軽減理論は今じゃ当たり前ですものね」

 

 フェイトは自分の愛機バルディッシュをテーブルの上で転がす。

 バルディッシュもまたフェイトが自分の家族。そして『傷だらけの獅子』と遊んでいる映像データを持っている。だが、それは加工技術で出来るのではないかというオチで終わった。

 Dエクストラクターも全て粉々になってしまった所為か、あの雪を浴びてもそれが直ることは無かった。

 スフィアを元にして作った者の因果なのだろうか、最後の最後でスフィアに嫌われてしまったようだ。

 

 「私のスフィア。ガナリーカーバーも蒐集した魔術と騎士達の集大成だろうといわれた」

 

 たしかにあの砲撃は高町なのはの砲撃に似てはいるが…。

 ちなみにスフィアの事に関しては機動六課のメンバー。そして、ゼクシスメンバーだったアリサとすずかにしか伝えていない。

 アリサとすずかの二人もあの雪を多少触れてしまい、彼の事を完全に忘れた。かと思いきやなんとなく、夢で見たような…。と、私とフェイト程ではないが彼の事を覚えていた。

 ただ、あまりにもうろ覚えなので、もう一度思い出してといわれても恐らく思い出せないだろう。

 あまり多くの人にスフィアの知られるのはまずいという事でこの話は以上のメンバーには話していない。

 

 「…はぁ」

 

 「…テスタロッサ。お前まで」

 

 「……妹」

 

 「何?」

 

 「私には確かにお姉ちゃんがいたの。お母さんがいたの。そして、シグナムは私を呼ぶときは『テスタロッサ妹』って、言っていた」

 

 「…はぁ。これは重症だな」

 

 フェイトのため息に苦言を入れると逆に言い返されたシグナムは二人と同じようにため息をつく。

 

 「お前達しか持っていない記憶はバルディッシュの記録媒体だけだしな。それくらいならいくらでもいじれるだろう。実際、物的証拠が何一つ見つからない。これはどう説明するんだ?」

 

 「それは…」

 

 「それもスフィアの力だというのか?」

 

 リインフォースは仮説を立てた。

 自分達が地上に転送された後。高志・アサキム。そしてジ・エーデルの三すくみでまず、どちらかが先に潰れた。

 いや、あの雪が降る前に感じ取った魔力。思えばあれは彼の魔力だった。だから、アサキムかジ・エーデルのどちらか、もしくは両方が倒れた。

 だが自体はそこで急変した。

 そこで何かが起きてアサキムが戦線離脱したのだろう。もし、彼が無事なら私のスフィアを奪いに来る。だが、その兆候は見られない。

 残る可能性は…。

 

 「考えたくはないが…」

 

 地上で打ち砕かれた『聖王のゆりかご』の映像。それが主はやてや将のデバイスデータでは何故か宇宙で複数のアルカンシェルで撃たれた映像に入れ替わっていたのだ。

 『偽りの黒羊』が暴走して戦っていた高志達を『聖王のゆりかご』に見せかけて撃ちこんだのではないか?

 そのアルカンシェルを撃たれた映像を何度の何度も解析していくと爆発のほぼ中心部分が黄金に輝いているように見える。

 それは私が最後に見たマグナモードの光にそっくりだった。

 

 つまり、ガンレオンはアサキム。ジ・エーデルごとアルカンシェルで吹き飛ばされた。

 その時生じたスフィアの力がミッドに降り注ぎ、あの雪になった。

 だとしたら、あの雪は…。『傷をいやすことが出来た』あの雪は…。

 

 いや、違う。絶対に違う!あれはジ・エーデルのスフィアだ!でなきゃ、赤紫の雪なんて降らなかったはず、だ。

 

 強く否定することが出来なかった。

 私は俯き、溢れてきそうな涙をこらえていた。

 その時、フェイトも至妙な面持ちでシグナムから渡されたコーヒーを飲むのではなく、カップを手の中で零さないようにまわしていた。

 シグナムはもう一杯コーヒーがいるな。と、言い席を立つ。

 

 「…お姉ちゃん。…お母さん。…リニス」

 

 家族と過ごした。という大事な記憶が周りから嘘だといわれている気がしてならないフェイト。時々、バルディッシュの中に記録したデータを展開することもある。そのたびに空しさを慰め、空しさが募る。

 

 …会いたいよ。高志

 

 二人の思いが偶然にも重なった瞬間。

 血相を変えたシグナムが二人の元に走ってくる。

 

 「テスタロッサ!リインフォース!いるか!いるな!スクランブルだ!急げ!」

 

 シグナムは守護騎士の甲冑を身に着ける。

 フェイトはそれに頷き返すと瞬時でバリアジャケットを展開。

 リインフォースは司書であるが同時に嘱託魔導師扱いを受けているので二人に同行することも可能。シグナム同様守護騎甲冑を展開する三人とも高速で空へと飛び立つ。

 

 「何があったんですか?」

 

 「主はやてからの指示だ。とあるポイントで次元震を感知したそうだ」

 

 「どういうことだ?」

 

 シグナムが言うにはこのミッドでとある場所で次元振動の予兆が見られたらしい。それは高次元空間で発生するエネルギー。そのままにしておくと大変危険な物。

 

 「その場所は?」

 

 「…」

 

 「将?どうした?」

 

 フェイトの質問にすぐには答えなかったシグナムに私は再度尋ねると、将はゆっくりと口を開いた。

 

 「元機動六課があったあの場所だ!」

 

 そこは彼と過ごした思い出の場所でもあった。

 同時に彼女達にとっても思入れのある場所。

 近い内に改装して特務六課という新たな部署にする予定の場所。

 新しく作る私達の帰る場所。

 

 「急ごう!」

 

 「ああ」

 

 そこを壊されるわけにはいかない。私達は全速力そのポイントへと向かった。

 

 

 なのは視点。

 

 私とはやてちゃん。そして、ヴィータちゃん達守護騎士メンバーで地上から二千メートルほどの空で異常なエネルギーを感知したので急行してみると確かに何もない空で黒い雷がパチパチと火花を散らしている。でも、それは手の平で収まるほどの小ささだった。

 

 「シャマル。どんな感じや?」

 

 「えーと、危険な魔力は感じないんですけど巨大なエネルギー?みたいのは感じ取れます」

 

 シャマルさんの鉄線仕込みのクリスタル。クラールヴィントが周囲の状況を把握しながら詳細を伝えてくる。

 

 「危険じゃないけど巨大?なんじゃそりゃ?」

 

 「うーん。攻撃魔法とかではないのは確かななの。ただ、これは補助?…ううん。転送魔法ね。もしかした中型の次元航行船が転移してくるかも」

 

 「なぜそのような物が?ここは転移禁止地区のはずだが?」

 

 基本的に個人で転移するのも特別な権限が無いと転移できないし、許可もいる。でないと何らかの事件や事故でそれが分かったら真っ先に疑われるから。

 

 「わからないけど…。もしかしたら次元の漂流船とかかな?次元振動に巻き込まれて一度は戻れなかったけど、時間を置いて戻って来れるようになったとかじゃないかしら」

 

 「だとしてもここに転移したらあかんやん。まったく船の責任者とはお話せんとな」

 

 「にゃはは。はやてちゃん。そう怒らないでよ。相手だって転移したくてしたわけじゃないかもしれないんだし」

 

 そうこう言っている間にシグナムさんがフェイトちゃんとリインフォースさんを連れてやって来た。

 

 「まだ大丈夫か、異常はまだ出てないな?」

 

 「大丈夫っぽいで。何やら大きなものが転移してくるかもやと」

 

 シグナムさんが息を荒くしながら私達に尋ねるのを見てはやてちゃんが落ち着くように手を振る。それを聞いたフェイトちゃんが私に質問を投げかける。

 

 「大きな物?」

 

 「うん。シャマルさんが言うにはなんか次元航行船が転移してくるかも。だって」

 

 「それって…」

 

 リインフォースさんが何かを喋りかけたその時。

 

 「皆、気をつけて!何かが転移してくるわ!小さな動体反応がある!」

 

 バチバチと黒い雷が強さを増しいく。それは一メートル五メートルの球体へと次第に大きくなっていく。

 まさか、リインフォースさんが言っていたアサキムが…。

 私達が警戒して距離を置くとその球体はどんどん大きくなっていく。

 やがて、その巨大な穴がどんどん巨大になっていく。そして、その穴の向こうから巨大な魔力を感じる。

 

 「シャマル!動体反応って!」

 

 「小さい反応が二十以上。…ガジェットかもしれない。皆気をつけて!それにこのプレッシャー…。少なくても隊長クラスの魔力も近づいてくる!」

 

 少なくても最上位クラスの一個下のSSクラスの魔力。更にはこの穴の向こうからやってくるのが分かる。

 不測の事態に備えてスバルやティアナ達といった元フォワード陣は地上で待機させているが今からでも撤退させるべきかと考えていたときだった。

 

 「…来ます!」

 

 シャマルさんの言葉を聞いて私達は臨戦態勢を取る。

 そして、その巨大な穴から状態を這いずり出て、

 

 

 

 [ぎー]

 

 

 

 落ちた。

 それも一回だけじゃない。何回も何回も。

 

 [ぎー] [ぎー] [ぎー] [ぎー][…ぎー][ぎー][ぎー]

 

 一抱えぐらいしそうな黄色と黒の小さな塊がぎーぎー。と、鳴き声?を上げながら落ちていく。ボロボロ落ちていく。

 まるで、

 

 転送完了。って、ぎゃああああっ!

 (転送先の)Z軸がずれてるっ。ずれてるよーっ!

 俺が下敷きになるだと?!

 おかあーちゃあああんっ!

 ・・・空の上にいる。

 転送先が石の中よりはましだよな!

 おーちーるー。

 

 と、言っているかのように

 

 あまりにもコミカルな動きを見せながら落ちていく鋼鉄の塊たち。

 まるでブルドーザーがトランスフォームしたかのような人型人形が十体ほど落ちていく。

 その光景を見て私達は固まってしまった。

 

 [ぎー] [ぎー] [ぎー] [ぎー][ぎー]

 

 おーしっ。周りが呆けている間にボーリングするぞ!

 おーっす。

 目標地点に何やら建造物らしきものがあります!

 ぶち抜け!

 何の躊躇いなく言い切るその姿!そこに痺れる憧れるぅうううっ!

 

 その小さな塊たちは機動六課の駐車場の一角を背中に背負った工具で穴を掘り始める。

 て、のんきに見ている場合じゃない!

 

 「フォワード陣の皆!あれだけいるんや、皆とりあえず全力攻撃!誰のシマに手を出したか思い知らせたり!」

 

 もうすぐ完成する自分の基地の駐車場で穴掘り作業をするプラモデルのような物体達に攻撃するように叫ぶ。

 だけど、はやてちゃん。その台詞はまるで89○だよ…。

 地上でははやての8○3な指示を出したはやてに従って行動に移ろうしたが、それをリインフォースさん止める。

 

 「待ってくれ!あれは…。あれは!」

 

 感極まった表情を見せるリインフォースさん。そして、フェイトちゃんは口元に手をあてて目の前で動いているプラモデルを一体抱き上げた。

 

 「チビレオン!」

 

 [ぎー]

 

 姉ちゃん。作業の後になら抱きしめてもいいから離してくれないかい?

 

 と、言っているように高速で移動したフェイトちゃんに捕まったプラモデル。もといチビレオン。

 そんな事をしている間に着々と穴掘りを進めるチビレオン達。

 

 「ちょ、離して!リインフォース!私の、私の基地がぁああああっ」

 

 「お願いします!主はやて!待ってください!あれは!」

 

 [ぎー] [ぎー] [ぎー][ぎー]

 

 あったどー!

 これが俺達のワンピース。

 本当にひとかけら(ワンピース)っすね。

 173番の奴。おっぱいに埋もれて羨ましい。

 

 チビレオン達は何やら一つの欠片を掘り起こすとその場で小躍りし始める。

 見ていて微笑ましいのだが、何故かそう言っているように見えるのは何故だろう。まるで以前も見ていたような…。

 その時だった。

 

 

 

 オオオオオオオオオオオオオッ!

 

 

 

 力強い獅子の咆哮が目の前の黒い穴の向こう側から鳴り響く。

 その力強い咆哮と共に肌に響く力強い魔力。

 暗闇を思わせるその黒い穴の奥から黄金の光がこちらに近付いてくる。

 

 

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

 

 

 獅子の咆哮がどんどん強くなる。近づいてくる魔力も私。いや、私達の中で一番魔力総量が多いはやてちゃんよりも多い魔力。シグナムさんよりも力強い波動を感じさせる魔力。

 それなのに恐怖は欠片も感じない。むしろ、心強く感じる。

 

 

 

 「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!しゃらああああああああああッ!ようやくたどり着いたぞぉおおおっ!」

 

 

 

 どこかで聞き覚えがある声。

 頼りなさそうで、すこし待抜けている。

 だけど、どこか間抜けて、安心できて、不器用な優しさを持っている。

 そんな声をあげながら黄金の翼を持つ『傷だらけの獅子』が黒い穴から飛び出してきた。

 

 

 

 黄色と黒の二色に染めた機械装甲。その背に背負った黄金の翼。

 悪魔じみた風貌なのに、その中から聞こえる男の人の声を私は知っている。

 その黄金の翼から吹き荒れる黄金の風を浴びた私達の脳裏に蘇る。

 

 

 誰よりも弱くて強かった。

 誰よりも寂しがりで、強がりで。

 誰よりもボロボロになって、誰よりも傷ついて、誰よりも目の前で立ち上がり進んでいった。

 不器用で優しい獅子。

 

 

 

 「「「「「高志(さん)!」」」」」

 

 

 

 次に語られるのはこの世界の『傷だらけの獅子』の最後のお話。

 だが、その前に。

 

 「えーと、とりあえず。…ただいま」

 

 なのは達は初めて満面の笑顔で笑う高志の顔を見て、

 

 「「「「「おかえり」」」」

 

 彼を笑顔で迎え入れた。

 

 

 次回、最終話。いきなりパチュンした俺は『傷だらけの獅子』の獅子に転生した。

 

 


 
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