No.620304

真・恋姫✝無双 ~夏氏春秋伝~ 第十一話

ムカミさん

第十一話の投稿です。

大梁での戦がようやく終わりを迎えます。

2013-09-17 14:12:26 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:11801   閲覧ユーザー数:9525

 

「くっ…!さすがに数が多すぎるな…弓隊!休み無く射ち続けろ!近接隊!2~3人の組を崩すな!」

 

「秋蘭様!西側の防柵がまた破られました!」

 

「そうか。これで西の防柵は残り1つ。厳しいな…」

 

大梁西門防衛線では秋蘭と季衣の指揮の下、曹軍と義勇軍が入り混じって賊に抗戦していた。

 

秋蘭は部隊への指示の合間に的確に賊を自慢の弓で射ち抜いていく。

 

しかし、いかな秋蘭といえども圧倒的物量の前ではほとんど為す術がない。

 

徐々に防衛線を下げて行かざるを得ず、ここまでに既に3つの防柵を突破されてしまっていた。

 

そして、先の季衣の報告で遂に4つ目の柵すら突破されたことがわかる。

 

なぜ南に配置されたはずの季衣が西にいるのか、というと。

 

西の賊の数の多さ、その他の方角の賊の数の少なさが司馬懿の予想を遥かに上回ってしまったため、急遽西に季衣も集めたからである。

 

なお、その際に空いた南にはそのまま司馬懿が入っていることをここに注釈しておく。

 

秋蘭が残り少ない防柵に頭を悩ませていると黄巾本陣の監視に当てていた兵が慌てて報告に来た。

 

「夏侯淵様!緊急の報告が!黄巾本陣に相当な規模の混乱が発生した模様!更に、黄巾本陣の後方に砂塵が!先頭の旗印は曹!陳留よりの援軍が到着した模様です!」

 

「そうか!よかった、間に合ってくれたか!皆の者!もう少しだ!華琳様達が来てくれたぞ!」

 

「春蘭様も来てくれてるんですよね?!よ~っし!皆~!気合入れていっくよ~!!」

 

『おおぉぉぉ~~っ!!』

 

戦において士気の高さはそのまま部隊の実力にまで直結する。

 

援軍到着の報に一気に沸き立つ西門防衛軍の士気は最高潮にまで達していた。

 

その勢いは圧倒的な数に押され気味だった防衛線を一気に押し返してしまうほどのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん!賊を逃さないように陣形を広げて包囲してください!容赦はいりません!街を脅かす賊を掃討します!」

 

兵を率いて北門に到達した菖蒲は門攻めにばかり没頭する賊を背後から包囲し、殲滅する。

 

曹軍の精兵の力を持って、しかも完全に奇襲が決まったとなれば勝負が付くまでに要した時間は微々たるものであった。

 

賊を殲滅した菖蒲はそのまま北門の防衛軍の下へと馬を進める。

 

防衛軍の最前では楽進が待っていた。

 

「私は曹操軍の将が一人、徐晃と申します。貴方は?」

 

「私は大梁義勇軍の大将の一人で楽進と申します。夏侯淵様、司馬懿様の仰られていた援軍の方ですね。助かりました!」

 

楽進は菖蒲に深々とお辞儀をする。それに菖蒲も礼をもって応えた後、楽進に指示を出す。

 

「私達はこのまま東側、南側の賊を掃討しに行きます。楽進さんはここの防衛隊を率いて西側の防衛隊の援護に向かってください」

 

「わかりました!お気を付けて。北門防衛隊!我々は西門防衛隊の援護に向かうぞ!」

 

『応っ!』

 

楽進は菖蒲の指示通りに防衛隊を引き連れて西門を目指す。それを見届けると、菖蒲は自身が率いている部隊に呼びかける。

 

「皆さん!次は東門に向かいます!」

 

『はっ!』

 

菖蒲に先導され、一同は一糸乱れぬ様子で東門を目指していくのだった。

 

 

 

東門の賊の掃討も僅かな時間で完了し、菖蒲はそこにいた李典、于禁に楽進と同様の指示を出す。

 

その勢いのまま南門の賊も掃討し、残すところは西門に群がる数多の賊のみとなったのである。

 

 

 

 

 

 

 

時を僅かに戻して、ここは黄巾本陣。

 

そこではほとんどやけくそに斬りかかってくる賊上がりの黄巾と一刀、周倉を含む黒衣隊の戦闘が続いていた。

 

一刀達の手には波才の周囲にいた賊から奪い取った武器が握られていたが、所詮は賊が手に入れるような武器である。

 

既にここまでの戦闘でその刃は欠けに欠け、使い物にならなくなっていた。

 

奪った武器が使えなくなった隊員達は既に苦無による速度重視の戦法へと移っている。

 

しかし、その苦無にしても結局は試作品であり、未だに長時間の戦闘に耐えられるような代物ではなかった。

 

「隊長!最早我々の武器は限界です!」

 

「ああ、マズイな…武器を全て失った者はいるか?!余裕のある者は賊の武器を奪うことも考えてくれ!」

 

一刀はそう言いつつ目の前の賊に槍を突き刺す。

 

その一突きは確かに賊の命を刈り取ったが、それと引き換えにその刃が遂に折れてしまった。

 

「ちっ…俺のも限界だったか」

 

「おい!こんな多勢に無勢な状態で相手の武器奪うとか普通無理だろ?!」

 

「それでもやれなけりゃ、ここで死ぬだけなんだ、ぞっ!」

 

周倉の尤もな質問に答えつつも一刀は徒手空拳で斬りかかってくる賊を打ち倒す。

 

その際、殴り飛ばす直前に賊の手を捻って武器を落とさせる。

 

一刀はそれを最後の武器の限界を感じて四苦八苦している隊員に向かって蹴り上げる。

 

「使え!」

 

「っ!ありがとうございます、隊長!」

 

飛んできた槍を掴んだ隊員はその手に持っていた壊れかけの苦無を捨てて槍を構える。

 

「まだ2、3本はいるか…?さすがに間に合わない…これは本格的にマズイ…な」

 

一刀は懐から自身の苦無を取り出しつつ状況を冷静に分析する。

 

だが、さすがに状況は芳しくない。それは周囲の黒衣隊も十分に分かっていた。

 

そして遂に…

 

「死ねぁ!」

 

「くっ…なっ?!…かはっ…」

 

「!?しまった…!」

 

賊に攻撃をしかけられた隊員がそれを受け止める。しかし、その隊員の武器は既に限界を超えてしまっていた。

 

結果。その隊員の武器は砕かれ、賊の凶刃に倒れてしまったのであった。

 

一刀はその様子を横目で見やる。

 

(すまない…!)

 

心の中でその隊員に謝るも、視線は目の前の賊から離さない。

 

その状態のまま一刀は自らを鼓舞し、隊員達をも鼓舞するために声を張り上げる。

 

「武器の限界が近い者は無理に攻撃を受け止めるな!受け流すように受けろ!お前達は我らが軍の中でも選りぬきの精兵だ!その上で我が訓練を受けているのだ!必ず出来る!己を信じよ!己が時間を費やした鍛錬を信じよ!間もなく援軍も到着するだろう!それまで、必ず生き抜くぞ!!」

 

『応!!』

 

 

一刀たちは気合を入れ直し、応戦を続ける。

 

しかし、いくら気合いを入れようが、士気が高まろうが、数の暴力にはそう簡単には逆らえない。

 

賊の攻撃を受け流し損ねた隊員が斬り倒される。

 

武器奪取に失敗した隊員が槍に貫かれる。

 

ジリジリとその数を減らしていく黒衣隊。

 

ほとんどの隊員が最早ここまでか、と諦めかけたその時。

「おおぉぉおおりゃああぁぁぁああぁぁ!!」

 

凄まじい

叫び声とともに一人の人物が斬り込んできた。

 

黒衣隊も賊も、皆が何事かとそちらを見やる。そして。

 

『夏候惇様!!』

 

「春蘭!!」

 

一刀達が一斉に歓喜の叫びを上げる。

 

その直後、夏候惇隊の兵士達が続々と突入してきた。

 

「一刀か?!何故こんなところで戦っているのか知らんが、とにかく、もう大丈夫だ!おい、賊共!この集団はすでに我らの軍が包囲している!死にたくないのであれば大人しく投降しろ!!」

 

春蘭のこの言葉に賊達はより一層やけくそになり、斬りかかってくる。

 

それも当然と言えば当然か。

 

言葉で言ってわかるような者は皆、既に一刀達の投降勧告に従って投降しており、今現在抗っているのは所詮そのような輩でしかなのであるのだから。

 

しかし、今ここに居るのは曹軍筆頭将軍の夏候惇、その人の部隊。実力は折り紙つきであり、そこにいる賊との実力差は火を見るよりも明らかである。

 

結局、僅かもしない内に抗った賊は皆斬り伏せられたのであった。

 

 

 

 

「春蘭!一刀!ここの制圧終わったんなら早く西門の賊のとこに向かいなさいよ!」

 

賊本陣の制圧を終えると、息つく間もなく桂花が次なる指示を持ってくる。

 

「桂花殿、元々よりこちらで戦闘していた兵は既に疲労困憊の状態です。この兵達は本隊にて保護し、休息を与えてやってください」

 

「構わないわ。あんたは?」

 

「私はすぐ西門へ向かいます!行こう、春蘭!」

 

「ああ!」

 

一刀は黒衣隊を桂花に任せると西門へ向けて春蘭の部隊と共に駆け出す。

 

桂花は2人を見送ると近くにいた兵に黒衣隊員を回収させた。

 

その内の一人、隊一の実力者に対して桂花は問う。

 

「ある程度予想はつくけど一応聞いておくわ。何でこんなとこにいたの?それとどうなったの?」

 

「はっ。隊長の作戦の下、賊の首領を討ち取りに。最小限の犠牲は覚悟の上で早期に戦を終わらせる為、と。隊長は覚悟を問うた上で残った隊員を引き連れて作戦を決行されました。なお、今作戦にて隊員3名は殉死しております」

 

「そう…わかったわ。その3名、あとで報告書に名前を挙げといて。隊の性質上、秘密裡になって申し訳ないけど、家族に恩賞を預けとくわ」

 

「ありがとうございます」

 

それきり質問も返答も途切れ、隊員は本隊へと移送されていく。

 

「いくら何でも無茶しすぎなのよ…」

 

一人になった桂花は誰にも聞こえないような小さい声でぼそりと呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

「一刀!秋蘭はあそこにいるのか?!」

 

「わからない!だけど、司馬懿殿は賊が重点的に攻めるところに最大戦力をきっちりとぶつけるようにしてたから、きっとあそこにいると思う!」

 

西門の賊の集団へと向かう道すがら、春蘭は一刀に秋蘭の所在を問いかける。一刀が自身の自身の推測を踏まえてそれに答えると、春蘭はより一層気合を入れて部隊を鼓舞する。

 

「そうか…よし!夏侯惇隊!速度を上げるぞ!一気呵成に賊の集団を突き破り、秋蘭達を助け出すのだ!!」

 

『おおぉぉぉっ!!』

 

夏侯惇隊はその名に恥じぬ統制の取れた様を見せつけ、速度を上げて突き進む。

 

その様子を目にして周倉はただただ感嘆の声を上げるのみであった。

 

「こいつぁ…すげぇな…」

 

「ああ、春蘭の部隊は曹操軍一の部隊と言っていいだろうからな」

 

「お前みたいな化物でも副官、そしてその上にこんな奴らがいるってんじゃぁ…やっぱ、あん時に下手に逆らおうとしなくて正解だったんかね」

 

「いずれその判断が大正解だったと思わせてやるさ」

 

是非そうしてもらいたいもんだ、と周倉は心の中で独りごちる。

 

そこまでで2人は会話を打ち切り、夏侯惇隊に遅れないように速度を上げて追従するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「夏侯淵様!徐晃様のお力によって北門の賊の掃討、完了しました!助太刀します!」

 

「楽進か!ありがたい!」

 

秋蘭と季衣が持ちこたえていた西門に、北門から向かっていた楽進が合流する。

 

「夏侯淵はん、柵は無事でっか?」

 

「沙和達も助太刀に来たの~!」

 

更に東門からも李典、于禁が駆けつける。

 

「李典か!防柵は残り一つだが、援軍到着まで持てばそれでよい!防衛に参戦してくれ!」

 

「了解や!ウチの螺旋槍の力、とくと見せたろうやないかい!」

 

「真桜ちゃん、味方の兵隊さんだけは巻き込まないよう気をつけてなの~」

 

「そんなん言われんでもわかっとるわい!」

 

援軍が到着したことで多少余裕が出来たのか、漫才じみたやり取りをしつつ、2人は各々の武器を構える。

 

将クラスの実力者が5人。さらに三方の門に散っていた防衛戦力が集結。

 

こうなっては最早、数だけの賊に勝目はほとんどなかった。

 

そして、僅かな時間の後、黄巾の敗北を更に決定的なものとすることが起きた。

 

後背から夏侯惇隊の参戦、南側から司馬懿を引き連れた菖蒲の参戦、そして曹軍本隊による包囲である。

 

この事態に完全に崩れ去った黄巾は瞬く間に制圧されてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「夏侯惇隊!賊を突破するぞ!遅れずについて来い!」

 

春蘭が声を張り上げ、西門に群がる賊の後背から突っ込んでいく。

 

後ろを気にしていなかった賊達はてんやわんやの大騒ぎである。

 

「大分入り込まれてる…!防柵もかなり壊されたみたいだな…」

 

「一刀!防柵はいくつ作っていたんだ?!」

 

「各方角5つずつだ!」

 

それを聞いた春蘭が僅かに苦い顔をする。

 

「あそこに見えるのが4つ目の防柵だろう?まずいな…」

 

春蘭の言葉通り、一同は今まさに4つ目の防柵の残骸を横目に見ていた。

 

そこから暫し無言のままで進軍を続ける。

 

すると、前方に賊の集団が見えた。

 

その集団を、更にその先に防柵を利用してなんとか耐えながら応戦している秋蘭達の姿を確認し、春蘭は目に見えて元気になる。

 

「よかった!秋蘭達は無事だ!待ってろ!今行くぞ!!」

 

「季衣に楽進、李典、于禁も揃ってるな。どうやら他の全方位ともケリがついたみたいだな。よかった…」

 

義勇軍大将達を含めて西門に武将級が全て集っている。

 

これは即ち、他の門には最早戦力を廻す必要が無くなっている事を意味している。

 

それを確認して一刀は安堵の息を吐いていた。

 

「貴様ら、どけぃっ!秋蘭!季衣!大丈夫か?!」

 

「姉者!!」

 

「春蘭様!!」

 

春蘭が柵の前にいた数人の賊を大剣の一振りで吹っ飛ばし、秋蘭と季衣に呼びかける。

 

2人は斬り込んできた春蘭の姿を目の当たりにすると歓喜の声を上げた。

 

「助かったよ、姉者。予想以上にこちら側に来た数が多くてここまで押されてしまっていたのでな」

 

「春蘭様~、やっぱり春蘭様は凄いです!ボク達の危機に颯爽と現れてくれました!」

 

そんな2人の声に半分被さるような形で一刀の指示の声が響く。

 

「春蘭、ちょっと突っ走りすぎだ!総員、柵前まで突破後、反転して横列陣形!陣形を形成後、賊を追い返していくぞ!」

 

『はっ!!』

 

春蘭に続いて一刀と周倉、更に夏侯惇隊の兵士が賊の中を突破してくる。

 

一刀は兵士に指示を出してから秋蘭達に振り返る。

 

「秋蘭、季衣、それに楽進、李典、于禁。皆無事でよかったよ」

 

「それはこちらの台詞だ、一刀。どうせまた無茶でもしたんだろう?」

 

「兄ちゃん何してたの?」

 

秋蘭は呆れたような顔をしつつも笑顔を浮かべて一刀に応える。

 

一方、何も知らない季衣は純粋に疑問をぶつけてくる。

 

一刀は一瞬だけどう答えるか迷ったが、とりあえずはぐらかす事にした。が。

 

「はは、ちょっとな」

 

「一刀は賊の本陣にいたぞ。他にも数人兵士がいたな」

 

春蘭が余計な一言を言ってしまう。

 

それを聞いて秋蘭以外は俄かにざわめき立つ。

 

「兄ちゃん、そんなことしてたの?!」

 

「あ、余りにも無謀です!夏侯恩殿!!」

 

「それやった上でこうやって帰ってきてんねやろ?あんさん、すごいな~」

 

「は~、沙和には絶~~っ対に無理なの~」

 

4者4様の反応を見せる中、一刀が声を上げる。

 

「はい、そこまでそこまで。今はさっさとこの賊を片付けちゃおう」

 

見ると、夏侯惇隊は横列陣を組み終わり、賊を押し返し始めたところだった。

 

「こいつら散々やってくれたしな。ここらで一丁お返ししたらななぁ!」

 

「沙和もこいつらにはムカついてるの~!!」

 

「こ、こら、真桜!沙和!余り私達だけが突っ走ったら駄目だろう!」

 

義勇軍の三大将がここぞとばかりに賊に向かって飛びかかっていく。

 

「ずっとやられっ放しだったんだもんね。ボクもやっちゃうよ~!」

 

更にその後に季衣が続いていく。

 

そんな皆の様子を横目に見つつ、一刀は秋蘭に耳打ちする。

 

「秋蘭、陳留に帰還したら相談したいことがある。桂花以外にも軍師級が欲しいところだから秋蘭にも聞いて欲しい」

 

「黒衣隊絡みか?機密情報の類か?どちらにせよ、私は構わんよ。大して役にたてるとは思わんがな」

 

「そんなことはないさ。秋蘭の冷静な判断力、武官視点からの意見は絶対に役に立つから。とにかく、ありがとう」

 

「礼を言われるほどのことではないさ」

 

小声での2人のやりとり。それが終わるか終わらないかのタイミングで春蘭が割って入ってきた。

 

「2人でコソコソと何をしているんだ!ほら、賊どもを掃討しに行くぞ!」

 

春蘭のその様子に2人は顔を見合わせた後、それぞれの顔に笑みを浮かばせて応えた。

 

「ああ、行こうか、春蘭」

 

「うむ、承知した、姉者」

 

世に屈強と謳われ始めている夏侯惇隊。そこに将軍級の武人が6人。

 

いくら数がいようとも、そのほとんどがただの農民上がりである黄巾には最早為す術もなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「秋蘭様!季衣ちゃん!一刀さん!ご無事でしたか?!」

 

「楽進達も無事か?!」

 

賊を掃討した後、一刀達が揃って曹軍本隊の下へと向かっていると、南側から賊に包囲・突撃で大打撃を与えていた菖蒲と司馬懿が駆け寄ってきた。

 

「菖蒲か。北から南の門の賊を掃討してくれたそうだな。ありがとう、おかげで助かったよ。零も見事な指揮だった。かなり兵の損害を抑えられているはずだ」

 

「や、菖蒲さん。援軍の到着が早かったおかげで皆大した怪我もないよ」

 

「お~、司馬懿はん。ウチらは大丈夫やで~」

 

「お疲れ様でした、司馬懿様」

 

皆の返答に菖蒲と零はホッと胸を撫で下ろす。

 

そんな菖蒲に季衣が重大な事を告げるかのように話しかけた。

 

「聞いて、菖蒲ちゃん。兄ちゃんがさ、少人数で賊の本陣に突っ込んで行ってたんだよ!」

 

「それはまた…随分と無茶をなされたのですね、一刀さん」

 

「戦を早期決着させるために必要だと考えたからね」

 

ところが菖蒲の反応は実に淡白なものであった。

 

「あれ?驚かないの、菖蒲ちゃん?」

 

「一刀さんの武は知っているつもりですから」

 

「ん~…確かに兄ちゃん強いもんね!」

 

その言葉でどうやら季衣は納得したようであった。

 

しかし、秋蘭はどうやら疑問を持ったようで、皆に気づかれないように一刀に小声で話しかける。

 

「一刀。菖蒲も知っているのか?」

 

色々と省かれた発言ではあったが、状況を考えれば伝えんとしていることは明白であった。

 

「ちょっとした事があってね。黒衣隊のことまでは知られてないけど」

 

「そうか。何にしてもあまりバレすぎることにだけは気をつけて置けよ?」

 

「ああ、そこは大丈夫だ。菖蒲さんの時のは半分事故みたいなもんだからな」

 

それきり2人は会話を打ち切って皆の輪に戻って本陣を目指して歩いていく。

 

「……」

 

そんな様子を言葉を発さずに見つめる春蘭の姿があることに、その場にいた者は誰も気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「只今戻りました、華琳様。此度の援軍、誠に感謝しております」

 

「大切な部下の為だもの、当たり前のことよ。よく耐えてくれたわ。詳細は陳留帰還後に報告して頂戴」

 

「はっ」

 

「他の者も此度の賊討伐、大義であった」

 

曹軍の本陣に戻ると、まず秋蘭が華琳に報告を行う。

 

互いにほとんど事務的な対応でありながら、そこには確かに相手を真に想う気持ちが含まれていた。

 

簡潔な報告が終わると華琳は拱手した後頭を垂れている3人に視線を向ける。

 

「それで、そこの3人は?」

 

「こちらの3人は大梁義勇軍を率いていた3大将でございます。この者達の働きがありました故に今回の防衛戦は辛くも成功したと言えます」

 

華琳の質問に司馬懿が直ぐ様答える。司馬懿に続いて楽進達も顔を上げて華琳に自己紹介を行う。

 

「お初にお目にかかります、曹操様。私は大梁義勇軍の大将を務めさせてもらってます姓を楽、名を進、字を文謙と申します」

 

「同じく姓を李、名を典、字は曼成や。以後よろしゅう頼んます」

 

「同じく于禁、字は文則なの~。よろしくお願いしますなの~」

 

「そう。貴方たちもよくやってくれたわ。褒美をとらせましょう。何でも言いなさい」

 

愛する部下が皆無事であったことに機嫌を良くしているのか、華琳は条件を絞ることもなく欲しい褒美を問うた。

 

それに対して3人は互いに目配せし合った後、楽進が代表して欲する褒美を述べ上げる。

 

「何でもいいと仰られるのでしたら、我々を曹操様の旗下に加えてはもらえないでしょうか?」

 

「へぇ…それは義勇軍が我が傘下に加わると、そういうことかしら?」

 

「はい、その通りです。曹操様がこの大陸の未来を憂いておられることはお聞きしました。そして、曹操様の善政は我々も聞き及んでおります。我々は曹操様に大陸の未来を見ました。些少な戦力ではありますが、曹操様のお力の一端にでもなれたら、と」

 

楽進の要求に華琳は面白そうに微笑を浮かべる。

 

対する楽進も華琳の迫力に怯むことなく毅然と見つめ返している。

 

「秋蘭、零。この者達の実力は?」

 

「楽進は既に将軍級に匹敵する実力を有しております。残りの2人に関しても武の素質はあるかと」

 

「秋蘭様に加えますと、李典の工作技術の高さはかなりのものです」

 

「なるほど。いいでしょう、貴方たちを我が傘下に加えます。今後も活躍を期待しているわ」

 

秋蘭と零の太鼓判もあり、華琳は3人の参画を認めた。

 

それを聞いて緊張に表情を強ばらせていた3人はホッと胸を撫で下ろす。

 

「ありがとうございます!私の真名は凪です。この名を曹操様にお預けします」

 

「ウチの真名は真桜や。気楽に真桜って呼んだってな」

 

「沙和の真名は沙和なの~。私も真名をお預け致しますなの~」

 

「ええ、貴方たちの真名、確かに受け取ったわ。私の真名は華琳よ。貴方たちにはこの名を呼ぶことを許可しましょう」

 

『ありがたき幸せ!』

 

 

 

義勇軍の3人組が華琳と話している隙に、一刀は桂花に近づいて報告を行う。

 

「桂花殿、第一種の報告が」

 

「第一種?数は多いとは言え、ただの賊の雑兵討伐でしょう?」

 

一刀の報告を遮って桂花が疑問をぶつける。

 

黒衣隊の報告には通常報告の他に第一種から第三種まで情報の種類を定めている。第三種は不確定度が高く、取り扱いの注意が必要な情報。第二種は味方内の謀反の確定情報。そして第一種は緊急性が高く、早急に上司判断を仰がねばならない情報である。

 

「此度の戦で黄巾の幹部と覚しき者一名を降らせることに成功。その者から張角たちの情報を得ることが出来ましたが…」

 

「何か問題がある、と?」

 

「はい、秋蘭にも既に報告しておりますので陳留帰還後、すぐに統括室の方で」

 

「…わかったわ」

 

黒衣隊の者は皆情報の収集能力及び要点を抑えた報告の能力が非常に高い。その中でも一刀は頭抜けていた。その一刀が第一種の情報でありながらもこの場での報告ではなく帰還後の報告を選んだ。この一事だけで桂花はその情報の重要度と複雑性を理解し、頷いたのであった。

 

簡潔に話を終えると一刀は再び元の場所へと戻り、華琳達の会話を聞くのだった。

 

 

 

 

 

その後、凪達3人は曹操軍の将軍、軍師皆と真名を交換した。その中には一刀も含まれていた。

 

なお、凪達は一刀に将軍になるだけの武功がまだないと聞かされると非常に驚いていた。

 

これらの事を一通り終えた後、華琳は桂花に命じて兵の一部を大梁の街の復興に尽力させる為に残させ、他の部隊は陳留へと引き上げ始めるのであった。

 


 
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