No.609138

真・恋姫†無双 異伝 ~最後の選択者~ 第二話

Jack Tlamさん

『真・恋姫†無双』を基に構想した二次創作です。
無印の要素とか、コンシューマで追加されたEDとか、
その辺りも入ってくるので、ちょっと冗長かな?

無茶苦茶な設定とか、一刀君が異常に強かったりとか、

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2013-08-16 03:22:22 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:6349   閲覧ユーザー数:5140

第二話、『戦鐘は静かに鳴る』

 

 

「おぉぉぉぉ久しぶぅぅぅりぃぃぃぃねぇぇぇぇ…ごぉぉぉ主人様ぁぁ、朱里ちゅわぁぁん……」

 

 

 

 

 

そのドスのきいたオネエ言葉は、いっそ懐かしいとさえ言えた。

 

玄関に立つその姿は、紛れもなく俺達が良く知るおとk…ゲフンゲフン、漢女・貂蝉であった。

 

 

 

都の踊り子などと名乗っているが、人外の戦闘能力と恐るべきキモさを誇る怪物。

 

漢女道亜細亜方面現継承者(らしい)。

 

そのくせ人を見る目は一流で、細かな気遣いに溢れた人格者。

 

 

 

 

 

 

―そして、外史を肯定し、守る「管理者」。

 

 

 

 

 

 

かつての外史で左慈や于吉ら「否定派管理者」と対立した「肯定派管理者」の一人。

 

外史を彷徨う俺を陰から見守っていてくれた、恩人とも呼ぶべき人物だ(人間かどうかはさておき)。

 

 

泰山で別れも言えないまま別れたはずの貂蝉が、なぜここに?

 

 

そもそも、貂蝉は管理者。限定的な形でならこちらに来ることも可能なのだろうが、目の前にいる貂蝉は

 

どう見ても本物だ。霊的存在だとかそんな物じゃ断じてない。

 

というか、こんな奴を他の誰かと間違えたら、即隠居を考えるレベルだ。

 

 

「あら、ご主人様。そんなにわたしをずぃーーーーーーーーっっっと見て、どぉぉぅうしたのぉぉ?」

 

「近い!そんなに顔を近づけるなキモいから!!つか、こんな遅くに大声を上げるんじゃない!警察を呼ばれる!」

 

「あぁぁぁらぁん、ひぃぃさしぶぅぅぅりに会ったからってぇぇぇぇ、それはぬわぁぁぁあいんじゃないかしらぁ?」

 

「それはわかったから顔を離せ!」

 

俺は必死になって貂蝉をひっぺがしにかかった。直接貼りついているわけでもないのに、なんという粘着力。

 

こいつの放つ気は、きっと業務用強力接着剤よりもはるかに強い粘着力を持っているに違いない。

 

「…まぁ、今日はご主人様とイチャイチャするために来たわけじゃないし?」

 

「何故に疑問符を付けるか。あとウィンクして舌を出しながらの横目はやめろ。

 

 そして、お前とは世界の法則が完全にひっくり返ってもイチャついてはやらん」

 

「あらん、ご主人様のイ・ケ・ズゥ♪」

 

「♪を出すんじゃない。一体何の用だ、こんな遅くに」

 

「ええ…結構、割と、そこはかとなぁぁく重要な要件なのよ…」

 

「なんだその表現は。重要性がこれっぽっちも伝わってこないぞ。まあとにかく上がれ。朱里、茶の用意を」

 

「はい、一刀様」

 

朱里が一足先に台所に行くのを見送り、俺は貂蝉を迎え入れる。

 

「やっぱりいい子ね、朱里ちゃんは」

 

「ああ、俺にとってはあれ以上の子はいないさ」

 

「多くの娘たちを愛してきたあなたから、そんな言葉を聞くとはねぇ…」

 

「…朱里は特別なんだよ」

 

「いいわねぇ…多くの花に囲まれたご主人様も輝いてたけど、大樹にそっと寄り添う一輪の花という画もまた…」

 

「詩的な表現だな」

 

そんなことを話していると、朱里が台所から湯呑みと急須、そして茶請けを持ってくる。

 

「お待たせしました。どうぞ」

 

「あらん、ありがと♪」

 

「粗茶ですが」

 

そう言いながら、全員分の茶を淹れ、茶請けを配る朱里。本当にいい子だ。

 

あの外史に行って、辛いことや苦しいこと、そして嬉しいことがたくさんあった。本当に色々なことがあった。

 

しかし、これだけは間違いなく言える。

 

 

 

 

―朱里と出会い、愛し合った事こそ、あの外史で得られた最大の宝だと。

 

 

 

 

数分ほど、会話は無かった。

 

俺と朱里はどうにも落ち着かなく、しきりと貂蝉と互いを交互に見ていた。

 

切り出すタイミングを計っているのだろうか、貂蝉も八橋を黙って齧っている。

 

何とも言えぬ居心地の悪さが漂う。ここは自宅のはずなのに。まるで見知らぬ誰かの家のようだ。

 

そんな雰囲気を破るかのように、朱里が口火を切った。

 

「…あの、貂蝉さん」

 

「なぁに?」

 

「今日はどういったご用件でいらしたんですか?」

 

すると貂蝉は手に残っていた八橋を口に放り込み、胃に収めた後、口を開いた。

 

「用件があると言っても、あなたたちなら大体の見当はついているんじゃないかしらん?」

 

「…見当はついても、何故という気持ちが消えるわけじゃない」

 

「それもそうね。じゃあ、本題に入りましょうか」

 

 

「わたしが来たということの意味、あなたたちならわかると思うわ」

 

「…ああ。あの外史に関係する事なんだろ。お前はあそこの管理者なんだし」

 

「その通り。外史を肯定し、守る存在として、わたしはあの外史に存在しているのだから」

 

本題に入ると言ったくせに、なかなか入ろうとしないな、こいつ。そんなに言いにくいことなのか?

 

「もったいぶらずに、結論から話してくれ」

 

「…その方が良いでしょうね。あまり猶予もないのだし」

 

猶予?どういうことだ?

 

「…貂蝉さん、そんなに言いにくいことなんですか?私たち、なりはこんなですが、その辺の人よりは遥かに

 

 人生を長く歩んでます。そうそう驚きはしませんよ?」

 

朱里の言う通りだ。俺達は見た目こそ未成年にしか見えないが、積み重ねてきた時はこの世の誰よりも長いだろう。

 

そう簡単に驚かない自信はある。

 

「それじゃあ、話を進めましょう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あの外史が再び新生し、そして今、崩壊の危機に陥っているのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―なんだって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは本当なのか、貂蝉!?」

 

「本当よ。嘘は言わないわ」

 

「そんな…輪廻は終焉を迎えたのではなかったのですか?」

 

朱里の言っていることはもっともだ。

 

俺が真相に気付き、朱里と共に外史を脱した以上、あの外史はもうこれ以上輪廻を繰り返すことは無くなったはずだ。

 

なのに、何故?

 

「積み重なった想念が、あまりにも強すぎたのよ。そのせいで、ご主人様が介在しない形で外史が新生してしまったの。

 

 突端が存在しないという、想定外の形でね…」

 

そうだ。

 

外史が生まれるためには突端が必要だ。そして、俺はあの外史の突端として、主人公として存在していた。

 

だが、なぜそれが外史の崩壊に繋がる?

 

「…なぜ、外史が崩壊しかかっているんだ?」

 

「…ご主人様はあの外史の突端であり、主人公。

 

 ご主人様がいなければ、あの外史に存在する想念たちの行き場がなくなってしまうの。

 

 想念のエネルギーは強大よ。化学反応だとか、そんなものじゃあ決して生み出せない莫大な力。

 

 そんなものが行き場を失くしてしまったら、一体どうなるのか…想像はつくでしょう?」

 

強大なエネルギーが行き場を失くす…すると、今の新生した外史は…

 

「暴走状態なのか?」

 

「近いけどハズレね。でも、外史に『綻び』ができてしまったのは事実。

 

 それが、外史の崩壊を齎す存在を呼び込んでしまうのよ」

 

「外史の崩壊を齎す存在?左慈たちのことか?」

 

「そんな連中もいたわね。でも、その存在に比べたら、あんな連中、その辺の石ころにすら劣るわよ」

 

左慈たち否定派管理者は、強大な存在だった。

 

無限に近い傀儡を兵力として用い、月を利用し、華琳を操り、冥琳を唆し…

 

総て、ただ一つの目的「外史を滅ぼす」ために連中がやったことだ。

 

まあ、左慈の場合は、個人的な怨恨もあったようで、最後まで俺を殺そうとしていたが…

 

どちらにせよ、強大な存在だった。謎の多さもあって、非常に不気味な敵だった。

 

そんな連中を、石ころ扱いに貶めるほどに強大な「存在」があるのか?

 

「…」

 

「驚くのも無理はないわ。私たち肯定派管理者にとっても想定外の事態なのよ」

 

「…今の外史は、非常に危険な状態だと?」

 

それまで黙っていた朱里が口を開く。

 

「ええ。本来なら私たち管理者で何とかする問題で、ご主人様たちには持ち掛けたくない話だったんだけど」

 

「話してくれ、貂蝉。お前が俺達に会いに来たのは、ただそれを報告するためだけなのか?」

 

「…いいえ、違うわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………もう一度、外史に行ってほしいのよ。新生した外史に、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはりか…

 

どこかでわかっていた。いずれ、外史に再び関わる日が来ることを。

 

そんなことにはなってほしくなかった。でも、現実は厳然として目の前にある。

 

ややあって、朱里が再び口を開いた。

 

「…一つだけ思い当たったのですが、今私たちがいるのもまた、一つの外史なんですよね?」

 

「ええ、そうね。ご主人様がかつて、朱里ちゃんと共に生きていくことを願って作りだした…新たな外史よ」

 

「…この世界は、あの外史の存在を前提として成り立ったもののはず。

 

 そもそも私はあの外史の出身者なのですし、あの外史があったからこそご主人様と私は出会うことができ、

 

 共に歩んでこられたのです…」

 

「朱里?」

 

何に思い当たったんだ?この世界がどうかしたのか?

 

「…あの外史が崩壊の危機にあるというのが、この世界に密接に関係しているから…

 

 私たちにも危険が及ぶ可能性が高いから、貂蝉さんは私たちを訪ねてこられたんですよね…?」

 

「…鋭いわね。流石は伏龍孔明」

 

何だと?

 

つまり……………まさか!?

 

「あの外史が崩壊すると、こっちまで巻き込まれてしまうのか!?」

 

「100%確実とは言えないけど、そうなるわね。

 

 もし関係が無かったら、わざわざご主人様に出張ってもらわなくともよかったのよ。

 

 でも、そうなる危険性が非常に高いから、こうして二人に会いに来たの。

 

 今、卑弥呼や管輅ちゃんに対処を任せて、わたしはご主人様に話を持ちかけるために、ね」

 

「管輅?天の御遣いが大陸に降り立つと予言した占い師か?そいつも管理者なのか?」

 

「ええ、私や卑弥呼と同じく肯定派管理者に属しているわ。話を戻すけど、外史は今危険な状態なの。

 

 そして、もし外史が崩壊すればそれに引っ張られてこの世界まで崩壊してしまう可能性があるわ。

 

 それを救えるのはご主人様だけなの」

 

何ということだ…

 

卓上の湯呑みに添えた手が震えるのを感じる。朱里も、ぺたんと座り込んだその恰好のまま、わなわなと震えていた。

 

俺は湯呑みから手を引き剥がし、朱里の肩を抱き寄せる。体格が小さいため基礎体温が高いはずの朱里だが、今の朱里は

 

震えのためか、まるで冷水を浴び続けた直後のように冷たく感じた。

 

「…もしも嫌なら、あなたたち二人だけなら別の外史に逃がしてあげることもできるけど」

 

それは魅力的な提案に思えた。これまでの戦いなどとは次元の違う戦いに行くよりは、そうしたほうが良いように思えた。

 

しかし…

 

朱里は、俺を見上げると、僅かに首を横に振るしぐさを見せた。

 

俺は朱里を見たわけではないが、胸に伝わってくる感触で、朱里が首を横に振ったのがわかった。

 

「…一刀様」

 

「なんだ、朱里?」

 

「…逃げちゃ、駄目です…逃げるなんて、一刀様らしくないです…」

 

「朱里…」

 

「どんなに苦しくとも決して諦めなかった。

 

 限りなく広く、底知れ無く深い慈愛を持ち、そして誰よりも強く、誇り高かった。

 

 あなたは、敗北することはあれど、真の敗北を許す方ではなかった…」

 

「…」

 

「時として非情な判断も下されていた…でも、失われた命を誰よりも悼んでおられました」

 

「…朱里」

 

「…私は、大丈夫です。あなたが居てくだされば、私はどこまでも行くことができます。

 

 だから………ご主人様」

 

その呼び方は…

 

「この私に…諸葛亮孔明、あるいは北郷朱里に…命じてください。ただ一言で良いのです…お願いです」

 

背負った修羅に耐えきれなくなり、桃香の許を去ってまで俺との接触を図った朱里。

 

その朱里が、俺と共に戦うことを命じてほしいとまで言っている。並大抵の覚悟ではない。

 

…逃げるという提案に一瞬心がぐらついたのは、他でもない朱里の存在があったが故だ。

 

彼女にはもう、辛い思いはしてほしくない。

 

その彼女が今まさに、辛い思いをしてもかまわないと。俺と一緒なら、どんなことも乗り越えられると。

 

そう宣言したのだ。

 

「…」

 

…朱里の言葉に、思い出させられた。

 

あの外史で俺達は出会い、共に歩み、時には敵として対峙し、幾度となく繰り返されてきた時の中、俺達は

 

再び結び付けられた。

 

俺達を出会わせ、育み、そして結びつけたあの外史は、朱里にとっては故郷。

 

そして、俺にとっても、新たに作られた外史の中にあって故郷こそもはや無いに等しいが、あの外史は、

 

紛れもない魂の故郷だ。

 

かつて愛した者達が生きる、不可思議に満ちた世界の崩壊を、許すわけにはいかない。

 

あの外史の崩壊を許すことは、俺達の過去の否定に他ならない。

 

何があっても乗り越えてきた。平和のため、未来のため、ただ命を懸けて戦い続けてきた過去を、否定するのは

 

言語道断だ。

 

だから―

 

 

「…貂蝉」

 

「なに?」

 

「…覚悟は決めた。あの外史に行くぞ」

 

「一刀様…!」

 

「…いいのね?たとえどれほどの修羅を背負うことになろうとも、決して膝を折らないと誓えるわね?」

 

これまで見たこともないような厳しい表情で覚悟を問うてくる貂蝉。

 

だが、俺の答えはもう決まっている。

 

「愚問だな。俺を誰だと思ってる?」

 

「…数多の想いを背負い、悠久を戦い続けてきた賢王。そうだったわね」

 

そうだ。

 

俺はどんなことがあっても、諦めずに戦ってきた。

 

諦めるのは本当の負けだ。

 

戦士として、軍師として、王として。

 

あの外史、繰り返される歴史という悠久を生きてきた。

 

そして、戦いの中で世を憂う王者たちの想いと素顔を知り、共に歩んできたのだ。

 

 

 

 

覇道を歩んだ誇り高き超世の傑―魏の武帝・曹操孟徳、あるいは、華琳。

 

 

愛と共に乱世を駆け抜けた英傑―江東の小覇王・孫策伯符、あるいは、雪蓮。

 

 

多くの遺志を継いで目覚めた王―呉の大帝・孫権仲謀、あるいは、蓮華。

 

 

ただ優しき世を願い起った仁王―昭烈帝・劉備玄徳、あるいは、桃香。

 

 

 

 

四人の王と共に歩み、数多の出会いと別れを繰り返してきた。

 

俺は歩み続ける。

 

形は違えど、真っ直ぐに未来を求めていた彼女たちの想いを継いでいるのだから。

 

そうだ。たとえこの身が人ならざる修羅へと堕ちようとも。

 

「俺は往く。あの外史を救うために」

 

「私も、共に往きます」

 

「…決意は固そうね。というか、私がわざわざ問うまでもなかったかしらね?」

 

「いや、お前の言葉で一層の覚悟が決まったよ」

 

「そう。お力になれたようで嬉しいわん」

 

ややあって、貂蝉がどこからともなく手紙を出して言った。

 

「これを、ご主人様の実家に持って行ってちょうだい」

 

「なんで俺の実家に?」

 

「それを、ご主人様のおじい様、おばあ様に渡してほしいの。あの二人なら内容を理解してくれるはずよ」

 

「…ちょっとまて、貂蝉。お前、じいちゃん達と知り合いなのか?」

 

「知り合いも何も…一緒に楚漢戦争を戦った仲間だもの」

 

「楚漢戦争だと…?」

 

背中に嫌な汗が流れる。まさか…?

 

「ええ。あなたのおじい様はともかく、おばあ様はあの外史よりもはるか昔の年代に当たる外史の出身なのよ」

 

「なんだって…!?」

 

俺だけじゃない、前例があったのか…しかも、俺の身近に…!?

 

「じゃ、じゃあ、一刀様のおじい様も…天の御遣いと呼ばれていたのですか!?」

 

「ええ。ご主人様と違って、繰り返してはいないけれどね」

 

「繰り返していない…?」

 

「ご主人様の方が特殊な存在なのよ。外史出身者の血が流れているというのはご主人様のお父様や妹さんも同じだけど、

 

 御遣いとしての力はおじい様よりもご主人様の方が強いの。純粋な武力ならともかくね」

 

「俺とは違うんだな…」

 

しかし、じいちゃんが天の御遣い…よりによって楚漢戦争の時代に行っていたとは思わなかった。

 

あの時代は俺が行っていた三国志の時代よりも苛烈な戦いが繰り広げられていたはずだ。じいちゃんが強かったのも、

 

今になって納得できた。

 

「詳しいことは二人から聞いてちょうだいね。

 

 後、ご両親にも会いに行きなさい。お母様も事情を察してくれるはずよ」

 

「おい、お袋もなのかよ…っつか、親父がそうなのか!?」

 

「そうだけど?」

 

「ちなみに、いつの時代だ」

 

「後漢王朝が成立する直前だったかしらねぇ…あの時は卑弥呼が主に行っていて、私はあんまし関わらなかったけど」

 

「いろいろアブないな、俺の一族!ってか、さっきまでのシリアスな空気が台無しだよ!」

 

「何を言ってるの、ご主人様。自分がいた陣営がことごとく和やか~な雰囲気になったのはご主人様の…

 

 何て言えばいいかしらね」

 

「ジンクス…ということでどうでしょうか、貂蝉さん?」

 

「そうしましょうか」

 

「俺のせいだったのかよ!というか、ジンクスって良くないじゃんか!」

 

「シリアスをぶち壊しにしたのは一刀様ですよ?いつもそうでしたけど」

 

「…もう何も言うまい」

 

俺は急須からお茶を注ぎ、熱いのもかまわず啜った。

 

しかし、なんだか懐かしい空気である。そういえば、俺がいた陣営はどこでもこんな感じになっていたなぁ…ずずず。

 

「何をしみじみとお茶を啜っているのですか」

 

ああ、久しぶりに見たな、朱里のジト目。

 

「ご主人様が魏や呉にいた時は締めてくれる娘が何人かいたからよかったけど、蜀にいた時は劉備ちゃんと

 

 合わせてお気楽パワーが2倍…いえ、2乗だったものね?朱里ちゃんも大変だったでしょう?」

 

「私はそこまでは。愛紗さんのほうがいろいろと苦労されていたように思いますが」

 

「そうねぇ…あなたと愛紗ちゃん、鈴々ちゃんは始まりの外史からのご主人様とのお付き合いだものねぇ」

 

「五虎将の皆さんはみんなそうですけどね」

 

「俺は桃香ほどお気楽じゃないぞ。というか、彼女が相手だと俺もツッコミに回らざるを得ない」

 

「…まぁ、ご主人様は締める時は締めてたしね。その辺はさすがだったわ」

 

…すまん、桃香。ここだけは譲れないんだ。今度会ったら謝るよ。

 

 

その後も和やかな談笑が続き、時計が11時を指す頃になってようやく本題に戻った。

 

「それで、いつ出発なんだ?」

 

「外史とこの世界を繋げるには特殊な条件がいるわ。管理者ならともかく、あなた達が外史に渡るためには

 

 あと三か月の時が必要よ」

 

「猶予が無いんじゃなかったのか?」

 

「猶予が無いのは本当だけど、こればっかりはどうにもならないの。条件が整うまで、準備を進めておいてねん」

 

世界転移には条件が必要というのは、SFにもよくある設定だし、理解できる。

 

それに、急いては事をし損じるとも言う。念入りに準備をしておくに越したことはない。

 

「それと、これが重要なの」

 

貂蝉が、またあの厳しい表情で話し出した。

 

「新生した外史は、ご主人様…つまり、外史の外からの因子が欠けているのはまだしも、そこで物語を紡ぐのに

 

 必要な存在だった朱里ちゃんが欠けてしまったため、修正力を用いてそれを補ったわ」

 

「それはどういうことだ?」

 

「…新生した外史には、諸葛亮孔明…つまり、朱里ちゃんが存在しているわ」

 

「!」

 

新生した外史に…朱里がいる!?

 

「本来、外史に生じた『綻び』というものは、外史が持つ修正力によって修復することができるものなの。

 

 ある程度、管理者でコントロールしてあげる必要はあるんだけど、今回みたいな事態には通常ならない」

 

「…その修正力を使って、物語に必要な、諸葛孔明を新たに生み出したってわけか」

 

「ええ。だから、『綻び』への対処に手間取っているの。

 

 繰り返した影響で想念のエネルギーがこれ以上ないくらいに強大になってしまったのが一番の原因だけど、

 

 物語から欠けてしまった朱里ちゃんの存在を補うために、莫大な修正力を消費してしまったのよ」

 

「…じゃあ、私は…」

 

「…諸葛孔明を名乗るのは、やめておいた方がいいわね」

 

そう言われた朱里は一瞬目を伏せたが、意を決したかのように貂蝉と視線を合わせた。

 

「…いえ、私はもうその名を捨てました。先ほどはその名を持ち出しましたが…」

 

「わかってるわ。あなたの覚悟をご主人様に伝えるためでしょう?」

 

「はい」

 

そうだな。

 

一度捨てた名を名乗るのには、余程の覚悟がいる。朱里の覚悟は、痛いほど伝わってきていた。

 

やっぱり強いよ、朱里は。

 

「ご主人様、何かほかに質問はない?」

 

「…修正力が利かなくなっているということは、俺は歴史を改変してもお咎めなしか?」

 

「魏にいた時のことを言ってるのだったら、それは心配しなくてもいいわ。望むままにやりなさい」

 

「わかった」

 

あの時は大局を変えまくったから、俺は華琳をはじめ皆と別れることになってしまった。

 

定軍山の戦いもそうだが、決定的なのは赤壁だったな。あそこで魏が勝利したことで、決定的に歴史の大局が

 

変わってしまったんだ。

 

だが、今回は歴史改変の代償を心配しなくてもいいようだ。少しは気が楽になった。

 

「ご主人様と朱里ちゃんに頼みたいのは、想念の集積点…『想念の継承者』を見出す事。そうすれば、外史の

 

 崩壊を防ぐことができるわ。どの道『外史を蝕むもの』との戦いは避けられないでしょうけど、それが終われば

 

 継承者に外史を託して、ご主人様たちはこちらに戻ってこれるわ。想念の行き場が定まることで、外史の力が安定し、

 

 『綻び』を修復することができる」

 

「…つまり、俺の後継者を、あの外史で見出せってことか」

 

「理解が早くて助かるわん。おじい様…悠刀様は咄嗟の判断力には優れていたけど、普段は…ねぇ」

 

「…激しくわかる」

 

そう、じいちゃんは咄嗟の判断力は凄まじいが、普段は抜けまくっているので、よくばあちゃんにどやされている。

 

「…私たちが防いでいられる間はいいけど、防ぎきれなくなったらすぐに知らせるわ。少なくとも、三国統一までは

 

 どうにかもたせられるでしょうけど、その後は修正力が完全に消失してしまうから、長くはもたないわ。

 

 それまでに対策を進めておいてね。私たちならともかく、人間がまともに戦って勝てる相手じゃないから」

 

「わかった」

 

「ご主人様の持つ知識をフルに使えば大丈夫よ。必要な物はあっちで揃うから。

 

 後、これまでの外史には無かったようなものとか、いなかった人とかがいると思うけど、それも活かしてね。

 

 朱里ちゃんも、がんばってね」

 

「はい」

 

「それじゃ、今日は御暇させていただくわ。三か月後にまた会いましょ♪」

 

「ああ。気を付けろよ」

 

「あらん、ありがと♪…それとね、ご主人様。一つ忠告」

 

「何だ?」

 

「…選択肢は、そう多くないわよ?」

 

選択肢…?

 

「それじゃあ、ね」

 

そういうと、貂蝉はフッと消えてしまった。

 

「消えた…」

 

俺達はしばらく、その場を動かなかった。

 

「…一刀様」

 

「…ああ。明日、鹿児島の実家に連絡を取ろう。それと、親父たちにも。鞘名も呼んでおかないとな」

 

「鞘名さんも?」

 

「朱里はあいつとまだ顔を合わせてないだろ?」

 

「それは、まあ」

 

「そろそろ、あいつに朱里を紹介してやらんとな。あいつにとっても義理の姉になるわけだし」

 

「は、はい…///」

 

鞘名は、俺の妹だ。

 

聖フランチェスカの1年生で、本来なら朱里と同学年のため、顔を合わせる機会はあったはずだが、

 

入学早々に病気で入院し、長期入院の必要があったため、夏休みの今まで顔を合わせる機会が無かったのだ。

 

それ以前はと言えば、聖フランチェスカに進学する直前まで留学していたので、やっぱり機会に恵まれなかった。

 

…見舞いに行けばよかっただろうって?

 

あのブラコンが入院しているところに彼女なんか連れて行ったら病状が悪化するどころじゃすまないぞ。

 

…今会っても病気がぶり返すだけじゃないかって?

 

…心配になってきたな。

 

「予定が決まったら、すぐに動こう」

 

「はい!…それで、あの、一刀様」

 

「ん?どうした?」

 

「…やっぱり、不安が消えそうにないんです。

 

 …お願い、出来ますか?」

 

…そういうことか。なら、俺の答えは一つだ。

 

「…わかった」

 

「片付けをして、入浴してから参ります。先に入浴なさって、私の部屋で待っていてください」

 

「俺の部屋じゃないのか?」

 

「…私の部屋の方が、ご近所に聞かれる危険性が小さいんです」

 

そうでした。俺の部屋は隣家に接しているが、朱里の部屋は他の家に接していない。

 

「わかった。朱里の部屋で待ってるよ」

 

「お願いします」

 

…さて、久しぶりだからな。念入りに体を洗ってこよう。

 

貂蝉との話で、嫌な汗もかいたからな。正直、少し背中がべとついているような気がする。

 

俺はいったん部屋に戻り、着替えを持ち出すと、風呂に向かった。

 

 

「…ありがとうございました」

 

事を終えた俺達は、寝台の上で寄り添っていた。

 

「…一刀様」

 

「ん?」

 

「…一刀様も…複雑な身の上だったのですね」

 

「外史なんてものを経験しただけでも、複雑すぎるくらい複雑な身の上だけどね」

 

「そんな外史から来た私も、複雑な身の上ですね」

 

互いを見合わせ、笑いあう。穏やかな時間が流れていた。

 

「さて、もう寝ようか。明日から早速動かないといけないからな」

 

「…以前の一刀様だと、これだけじゃ足りなかったような気がしますが」

 

「朱里の頭の中で俺はどんだけ絶倫になってるんだよ」

 

「皆さんからの情報を総合すると、平均して一度につき三回以上は…」

 

「…」

 

五十人近く嫁が居て、全員と関係を毎夜のように持っていた。しかも平均して一度に三回以上…

 

 

 

 

 

どう考えても絶倫です。本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 

「…面目ない」

 

「いえ、そんな一刀様を好きになったのは私ですし」

 

「朱里…」

 

頬を赤らめてこちらを上目遣いで見つめてくる朱里があまりにも可愛いので…

 

「…へ、は、はわわ!?か、一刀様!?」

 

抱きしめた。

 

「ごめん、君があまりに可愛かったから」

 

「は、はわわ~」

 

みるみる真っ赤に染まっていく朱里。体温も上がっているのか、むしろ熱いくらいだ。

 

でも、このままだとまた昂ってきそうなので…

 

「…寝ようか、朱里」

 

「そ、そうですね…もう寝ましょう」

 

そう言って、共に枕に頭をのせる―

 

 

 

 

 

 

―なにか固い感触が。

 

 

 

 

 

「なあ、朱里」

 

「はい?」

 

「枕の下に何かある?」

 

「へ………あ!?」

 

何だ?見られちゃまずいものか?

 

そこで俺の悪戯心が首をもたげる。

 

「見せてくれよ」

 

「だ、駄目でしゅ!絶対に駄目でしゅ!」

 

噛んでる。これはなかなか朱里にとっては俺に見られちゃまずいものなんだな。

 

でも、朱里の腐女子趣味は知ってるし、そんな朱里も好きだから、それ関係が出て来たところで

 

今さらどうこう思わないんだけどなぁ。

 

「駄目でしゅ!見ちゃ駄目でしゅよ!」

 

「そう言われると見たくなるんだよなぁ…」

 

「あ、か、一刀しゃま!?手でおしゃえないでくだしゃい!」

 

俺は片手で朱里を抑え込む。愛紗や鈴々ならともかく、朱里では到底俺の力にはかなわない。

 

ただし、朱里も俺に触発されてか、武技の稽古をじいちゃん達につけてもらったおかげで、今ではそこらの

 

チンピラやヤーさんではまるで歯が立たないほど強くなっている。

 

…例えが悪かったかな。あの外史で言えば、少なくとも武技にも長けた呉の軍師ーズより強いはず。

 

呉の場合を見るに、軍師が武力を身に付けておくことは悪いことではないはずだ。

 

元々武官だった亞莎や、冷静で力の行使も辞さない冥琳はともかく、あのトロそうな穏も戦えるのだから。

 

戦える軍師が居ても、まったくおかしなことではない。

 

というか、朱里の水鏡女学院の学友に徐庶がいたはずだ。徐庶は撃剣の使い手で、バリバリ戦えたはず。

 

朱里自身、戦えないことを気負って、身の丈に合わない剣を振るって鍛錬をしようとまでしていたのだ。

 

強くなりたいと思い、それに邁進した朱里は、今ではじいちゃんから五本中二本は取れるほど強くなっていた。

 

呑み込みの早い朱里は、恐るべき速度で修得し、既に北郷流二刀剣術の免許皆伝一歩手前まで来ている。

 

 

それでも、俺にはかなわない。なまじ行為の後なのだ。体力の消耗はいつもより激しいはず。

 

 

「気になって眠れなさそうなんだよな~」

 

「駄目でしゅ!」

 

そんなやりとりを続けながら、枕の下から取り出したるは………本?

 

それなりの厚さだが、短めのラノベ程度の厚みだ。布製のブックカバーも付けられている。

 

「あ…」

 

「なになに…」

 

窓から入る月明かりで読んでみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―それはBL小説だった。しかも、受けが標準語、責めが関西弁で、高校生という設定のようだ…って!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…これが………孔明の罠かッ………!」

 

 

 

 

 

 

それは、どう見ても及川が話していたBL小説だった。

 

 

あとがき(という名の言い訳)

 

こんにちは、Jack Tlamです。

 

今回は貂蝉からの依頼と孔明の罠(?)をお送りしました。

 

まだ濡れ場をぼかしてでも書く勇気が出ませんでしたので、今回は「やった」という事実だけを

 

文中に提示した形になっております。

 

 

一刀の祖父母や両親が普通じゃないと言う設定はもうこの界隈だとありきたりだと思います。

 

でも、あんな少年の両親とか祖父母が普通だったら世の中狂ってるぜ!ってなわけで、

 

あえてありきたりな設定を採用させていただきました。

 

今は誰かは秘密です。

 

ただし、じいちゃんや親父の境遇は一刀とは異なるので、今後その違いが現れてくるかと。

 

 

この作品の世界観をここで一気に貂蝉に喋ってもらったのは、

 

それだけじゃどういうことだか判断がつかないからです。

 

人間じゃまともにやり合ったら勝てないとか言ってますが、じゃあまともにやり合わなければ

 

いいんじゃね?的な考えで対策の設定は既に用意してあります。

 

 

否定派管理者に出番はあるのか不明ですが、せめて名前くらいは、と。

 

 

あと、朱里は既に及川の彼女作のBL小説を入手していました。

 

裏設定ですが、これは後に作中世界のその手の人達(腐女子)から人気を博し、なんと同人界を

 

躍り出て映画化までされるベストセラー作品に成長します。

 

朱里は及川の彼女と面識があり、互いに腐女子を感じ取ったため、わざわざ及川の彼女が手配して

 

製本までしたものを朱里にプレゼントした、ということになってます。

 

ちなみに、一刀も及川の彼女とは面識があります。

 

というか、この二組のカップルは何度かダブルデートをやってます。仲が良いのはいいことですね。

 

 

朱里が勝てるということはじいちゃんそこまで強くなくね?なんて思われるかもしれませんが、

 

じいちゃんは本気を出した恋を相手にしても朝飯前に下すくらい強いです。

 

というか、例えるなら本気を出した恋に対して蒲公英が戦いを挑むようなものです。

 

本気出したじいちゃん相手にしたら、もし取れたとしても朱里では五本中一本取るのが精いっぱいでしょう。

 

逆に、この作品の朱里は本気の恋に勝てるかもしれないくらいの強さを手に入れているということになります。

 

まあ、まともに打ち合ったら負けるでしょうけどね。恋の戟は重いし。

 

 

今回は長文となりました。

 

次回は一刀が両親と共に鹿児島の実家に帰ります。

 

ただし、両親や妹とは別行動ですが。

 

ブラコン妹と朱里が遂に邂逅します。その出会いの行く末は?

 

 

ではまた、次回に。

 

 

 

…あと、ここってある程度なら濡れ場書いても大丈夫ですかね?


 
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