No.607932

ALO~聖魔の剣~ 第18剣 事情と報告

本郷 刃さん

第18剣です。
デュエル後のキリトとユウキの会話から始まります。

どうぞ・・・。

2013-08-12 09:47:29 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:11805   閲覧ユーザー数:10854

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第18剣 事情と報告

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトSide

 

俺達が決闘を行った小島の砂浜、そこで話しをすることにした。

 

「それで、キリトがボクと話したいことはなんなのかな?」

 

俺の雰囲気、空気を悟ってか、彼女は真剣な様子で聞いてきた。

 

「そうだな……まずは、本名を教えておこう」

「…どうして、本名を教えることになるの?」

「予測が正しければ、俺はユウキの本名を知っていることになる。なのに、キミだけ俺の本名を知らないのはフェアじゃないだろ?」

 

本名を知っている、その言葉はつまり素性を知っているということにも繋がる。

それを聞いたユウキは困惑の表情を浮かべる。

 

「俺の名は桐ヶ谷和人だ。そしてキミの本名は『紺野 木綿季(こんの ゆうき)』、そうじゃないかな?」

「っ!?……取り繕っても、無理みたいだね…。うん、キリトの言う通り、ボクの名前は紺野木綿季だよ」

「やはりか…」

 

彼女は動揺と驚愕の表情をしてから、すぐにそれを諦めに変え、苦笑しながら認めた。

予測はほぼ確信として立てていたので驚きはやはりなく、納得しかなかった。

 

「キリトは、ボクのことをどこまで知っているんだい?」

「知っていると言っても、キミが紺野木綿季であること、横浜港北総合病院に入院していること、

 そして『メディキュボイド』の被験者であること、この3点くらいだな」

「それじゃあ、ボクの病気や細かい事情は知らないんだね?」

「ああ」

 

知っていることを伝え、ユウキが確認したいことを聞いてきたので頷いて応えると、彼女は少しホッとした様子を見せた。

 

「どうしてボクのことを知ってるのか、聞いてもいい?」

「偶然だったんだよ。俺は独学でVR技術の研究をしていて、

 メディキュボイドの設計・開発に携わっていた神代凜子博士と知り合いで、彼女から色々教わったりもしている。

 そんな時、その神代博士からメディキュボイドについて話しを聞きに行くから、一緒に来ないかと誘われたんだ。

 そして、彼女に付いて行き、北総合病院で倉橋医師から話しを聞いた…というのが、ことの次第だ」

「そうだったんだ~」

 

話しを聞いたことで納得してくれたようだ。しかし、彼女はそこで表情を申し訳なさそうなものに変えた。

 

「なら、ボクの病状がどういうものか、キリトは知っているよね?」

 

ユウキの問いかけに、俺は無言のまま頷いた。「そっか」と、一言漏らした彼女は喋り始めた。

 

「ボクは、ボク達はね……証を遺したいんだ。ボク達が、ここに居たよっていう証を…」

「…決闘は、その為ではなさそうだったが…」

「うん。決闘はね、その証を遺す為に手伝ってくれる人を探そうと思って、始めたことなんだよ」

「つまり、戦って見極めようと?」

「そういうことだね」

 

遺したい証、それがどういうものなのか、俺は知らない方がいいだろう。

ユウキがそれを語るのは、遺すべき証を手伝う者だけの方が良いということだと思う。

 

「頑張れよ、ユウキ。事情を知っている俺は、手伝うべきじゃないだろう…。

 同情、とは思われたくないし、キミもそう思いたくないだろ?」

「キリト……ありがと、気に掛けてくれて。ボク達、頑張るよ!」

「おう」

 

俺達は互いに笑みを浮かべる。彼女はおそらく、何も出来ないでいる俺の遣る瀬無さを何処かで感じていると思う。

それでも、敢えて俺が引き下がったから礼を告げたのだ。

 

「そういえば、キリトにも印章(シギル)がついてるってことは、ギルドに所属してるんだよね?」

 

「そうだ。ギルド『アウトロード』、主な活動内容は各種族領、各ギルド、ソロプレイヤーなどからの依頼を受けることだ。

 アインクラッドのボス攻略や領土戦は受けていないが、迷宮での護衛やクエストの手伝い、素材調達の依頼とかは受けるかな」

「へぇ~、なんか本格的だね~」

 

俺達は元の場所に戻りながら、色々なことを話していた。

特にユウキはALOに来てからあまり日が経っておらず、知りたいことが多いらしい。

その中でも、ALO最強の剣士である【漆黒の覇王】の異名を持つのが俺だと知った時のリアクションは凄かった。

女の子らしからぬ大きな声を上げていたからな、まぁ元気な性格ではあるみたいだが。

 

「そういえば、決闘初日に他の闇妖精族(インプ)の人に、『胸糞悪い』って言われたけど、なんでなんだろう…?」

「あぁ~……悪い。それ、俺の仲間なんだ…」

「え、そうなの?」

 

まさか彼女の口からその話しが出るとは思わなかったのだが、折角なので事情を話すことにしよう。

 

「こういうのは、他の仲間達にも理解し難いことなんだけどさ、俺と他数名の仲間はリアルで武術を学んでいるんだ。

 ユウキの技は、VRMMOとはいえ経験と技術を集めて生み出したものだろ?」

「あ、うん…とっても大切な技だよ。あ、もしかして…」

「俺達はそういったモノを大事にするからさ、アイツらにはそれが引っ掛かったみたいなんだ。

 ただ、ユウキに悪気が無いのは知っているし、アイツらもそういうことを言ったことは申し訳ないと思っているから、

 また今度会う機会が在ったら謝りに来ると思う」

「そうだったんだね…。でも、そういう人もいるから、今度からはボクも気を付けるよ」

「悪いな」

「気にしないでいいよ」

 

どうやら彼女は元来から明るく、笑顔をほとんど絶やさない性格らしい。

少しの申し訳なさや翳りは見せてもすぐに笑顔を浮かべるのは、自身の境遇に絶望しているからではなく、

現実を見据えて何が出来るかを考えているからかもしれない。

そして仲間達の姿が見えたところで、俺はユウキにある言葉を掛けることにした。

 

「ユウキ。良かったら、フレンド登録してくれないか?」

「え…でも、ボクは…」

 

言い淀む彼女、その気持ちは分かる。だが、俺にだって譲れないものはある。

 

「保険みたいなものだよ。もしもこの先、キミが望むような人が現れなかった時は、相談なりしてくれたら嬉しい」

「………うん、それじゃあお願いしようかな。もしもの時は相談させてもらうね」

 

ユウキはフレンド登録の窓を開き、俺の前にもそれが現れたのでOKボタンを押す。

 

「あ、でもボクに浮気したら駄目だよ? 彼女さんが悲しむからね♪」

「誰がするか!」

 

俺はアスナ一筋だ!というか、これ系のネタでからかわれるのは何度目だ…。

 

「冗談、冗談♪ それじゃあね!」

「…ったく、またな」

 

彼女は笑みを浮かべながら、夕方の空を飛び去っていった。

最後の俺の言葉が聞こえたのか、最後に振り返って手を振ってから、再び駆け去っていった。

 

 

「そんで、オメェさんはあの娘と何を話してきたんだよ」

 

戻ってきた俺にクラインの第一声、雰囲気からしてからかっているのではなく、純粋な興味と気掛かりだろう。

なんせ彼女持ちの男が、別の女性と2人きりで人の居ない場所で話しをしてきたのだ。

トールが変装したフレイヤという、NPCの時とはわけが違う。

どうやら他のみんなも同じような感じらしい。

 

「リアルで知り合いだったから、そっちの方面で話してきたんだよ」

 

別に嘘ではない。俺が一方的に知っていて、事実を少し暈かしただけだ。

嘘も方便、それにみんなはまだ知らない方がいい……気楽に知っていいものではないし、覚悟のない今ならばなおさらだ。

 

「さて、俺は自宅に戻ったら一度落ちるよ。

 あれほどのデュエル、ハクヤ達以外とはあまりしたことないし、さすがに疲れた。1時間ほど寝る」

「……そういえばキリトは、今日の昼前に帰ってきたんだったな」

「Uターンラッシュだったろ? 人も多かったんじゃないのか?」

 

話しを逸らすように、一度ログアウトする旨を伝えると、ハジメとシャインが言葉を発した。

確かに早くに新幹線に乗ったが、それでも人はかなり多かったな。

乗る時間がずれていたら、どんなことになっていたやら…。

 

「まぁ、それもあって疲れてる…。夕食の後にはちゃんとダイブするさ」

 

そう言葉にして、俺達は各自解散することになった。

それにしても、まさか【絶剣】が紺野木綿季だったとは……なにが起きるのかな?

そんなことを考えながら、俺はユイと共に自宅へ帰ったあと、ログアウトした。

 

 

ログアウトしたのが夕方の6時前、それから1時間ほどの仮眠を取り、目を覚ましてから家族4人で夕食を取った。

8時頃にはスグと交代でシャワーを浴び、準備を整えてから再びALOへとダイブした。

自宅(ホーム)のベッドの上で眼を開いた俺は身体を起こして部屋を出ると、リビングから良い香りがしてきた。

 

「あ、キリトくん♪」

「アスナ、先に来ていたのか」

 

もう少し後で来るかなと思っていたアスナは、私服にエプロン姿という出で立ちでいた。

その両手にはオーブン用のトレイに焼き立てのクッキーを乗せていることから、

この後に訪れる仲間達の為に作っていたのだろう。

 

「みんなにも早く会いたかったからね」

「なるほど…あれ? ユイは何処かに行っているのか?」

「うん、リーファちゃんと一緒にお買い物に行ってくれたの。飲み物とかお菓子類とか、多分足りなくなると思うし…///」

 

姿の見えない愛娘の行方を聞いてみて、納得。

これから集まるのはギルド『アウトロード』の仲間達、クラインとエギル、ギルド『月夜の黒猫団』の5人という面々だ。

大人数であるのだから、それなりに用意する必要がある。

そしてアスナが僅かに頬を染めた理由、それは俺もなんとなく分かる。

それから少しして、ユイとリーファが戻ってくると、他の仲間達も続々とやってきた。

昼とは違ってクーハとリンクも来ている。

表向きは久しぶりの全員集合なので話しでもしようと集まったのだが、本命はまた別である…。

テーブルなどに置かれているお菓子、みんなに行き渡った飲み物、それを確認してから俺は口を開いた。

 

「さて、ここでみんなに報告したいことがある」

 

全員の視線が俺に集まる。

アスナは席を立って俺の傍に立ち、子供の姿であるユイと彼女を膝に乗せて抱えるリーファ、

それにクーハとリンクは笑みを浮かべている。

いまから俺が話すことを知っているからだ。みんなの顔を見てから、改めて立派な爆弾を放つ。

 

「俺とアスナは元旦の結城本家で、当主であるアスナの祖父から正式に婚約者として認められたんだ」

「今回はその報告です///♪」

「「「「「「「「「「……………えぇぇぇぇぇっ!?」」」」」」」」」」

 

俺達の宣言に大きな間を空けてから、盛大な驚愕の声が放たれた。

無論、俺とアスナ、ユイとリーファ、クーハとリンクは事実を知っていたのでそれに備えて耳を塞いだりした。

 

「折角だから全員が揃える時に話そうと思ってな。この場を使わせてもらった」

「え、いや、それはいいんだけどさ……婚約者って、マジで?」

「大マジだ」

 

困惑するハクヤの問いに簡潔に頷く。

僅かな動揺の後に落ち着きを取り戻したのはエギル、ティアさん、カノンさん、最後にシャインも冷静になった。

敢えて言おう、シャインとティアさんの時も俺達の反応は似たようなものだったからだ。

すぐに『神霆流』の面々も冷静さを取り戻してきたが、相変わらずクラインや他の女性陣、

黒猫団の面々達は混乱状態……あ、状態異常の混乱じゃないぞ?

 

「リーファ、知ってたっすね?」

「えへへ。ごめんね、黙ってて。こういうのは本人達から報告した方がいいし、2人もそうするつもりだったから」

 

ルナリオがジト目でリーファを見つめ、彼女はイタズラを見つかったような笑顔で答えた。

 

「ということは、ユイちゃんも?」

「はいですよ♪」

「驚かなかったどころか笑っていたってことは、クーハとリンクも?」

「その通りだよ、シノン姉」

「俺とリンクの場合は直接結城の本家に出向いたんだよ。正月の挨拶ってやつだ」

 

シリカの問いにはユイが、シノンの問いには時井兄妹が平然と答えた。

まぁ全員が落ち着きを取り戻したところで、もう一度話す。

 

「俺とアスナがこういう関係に成れたのは、みんなが居てくれたからだと思ってる」

「みんながわたし達を支えてくれなかったら、無理だったかもしれないから…」

 

俺もアスナも素直に感じた事を言葉にし、

 

「「だから……ありがとう」」

 

礼を述べた。みんなの反応は様々、照れる者、誇らしそうにする者、喜ぶ者、嬉しそうにする者、

むず痒そうにする者、笑みを浮かべる者といった感じだ。

そのあとは全員で気が済むまで、宴会気分を楽しんだ。

俺達のことを、自分達のことのように喜び、祝ってくれた仲間達に感謝しながら…。

 

キリトSide Out

 

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

 

 

 

後書きです。

 

原作と違い、キリトとユウキがこの段階で馴染んで友人となりました。

 

キリトからみたユウキは“元気な妹”、ユウキからみたキリトは“なんでも知っている兄”的な感じです。

 

そしてキリトが【絶剣】と戦って勝利したことを、キリトとアスナの爆弾発言で一気に忘れた仲間達w

 

次回の話は原作でアスナ達がホームで勉強をしていた描写になります。

 

それでは・・・。

 

 

 

 

 


 
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