No.60663

魏ルートアフター 一刀帰還編

kirikamiさん

説明どおりの作品。
以前無断転載されていたのを加筆修正しました。見たかった人がもし居たらそれはそれで嫌なので。

2009-02-28 00:41:15 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:23866   閲覧ユーザー数:17919

いつもとは違う眩しさを感じて目が覚める。

目を開けて大学の準備をしようとしたとき、ここが自分の部屋でないことに気づいた。

 

「……ここはどこだ」

 

俺は自分の部屋で寝ていたはずなんだが、ここは明らかに外である。

さらにいえば、日本にはこんな広大な、地平線が見渡せるような土地は存在しない。

 

「もしかして……」

 

あの世界に戻ってきたの……か?それともまた別の世界に飛ばされたのかも。

 

「何にせよ、町を目指そう」

 

幸いなことに比較的近い位置に町が見える。あそこまで行けば、何かわかるだろう。

 

 

 

 

 

「……どうやら許昌みたいだな、ここ」

 

町並みはかなり変わってはいるが、警備隊長として毎日歩き回っていたから、間違えることは無い。

ここは間違いなく許昌だ。やっと、やっとこの世界に戻ってくることが出来た。

 

「戻ってくるまで5年もかかっちゃったなぁ」

 

もう戻ることは出来ないと思ったこともあったけど、こうして戻ってこれた。

故郷に戻ってきたような懐かしさがある。とにかく、城に行って皆に会おう。

会いたい、皆に。

 

 

 

 

そうして城に向かって城下町を歩いていると

 

「そこの怪しい奴!止まれ!」

 

呼び止められてしまった。ま、こんな格好してる奴は他にいないし仕方ないだろう。

 

「……あれ、もしかして隊長ですか?」

「俺のこと知ってるの?」

「当然じゃないですか!新兵時代に少しだけですが、隊長と警備をしたこともあります!」

「ああ、あのときの!ずいぶん立派になったなぁ」

「隊長のおかげですよ。しかし、どこに行ってたんですか?急に居なくなるから皆寂しがってたんですよ」

 

警備隊長として働いているときは人望の無い隊長だと思っていたが、そうでも無かったらしい。

そう考えると感慨深いものがあるなぁ。

 

「とりあえず、隊長代理殿に連絡します」

「隊長代理って……俺が居なくなった新しい隊長は来なかったの?」

「そうですよ。隊長が居ない間、隊長の代理をに楽進様がやっているんです。

噂によると、曹操様が代わりの隊長を任命しなかったとか、李典様、于禁様が隊長以外を隊長

とは認めない!といって追い返したとか言われてますけど」

 

……あの3人がそこまで俺のことを想ってくれてたなんて。うう、ちょっと泣きそう。

 

「とりあえず自分は報告をしてきます」

「ああ、いいよ。一緒に行くから大丈夫」

「分かりました。ではご案内致します」

 

 

 

 

 

警備兵の案内で新しくなった詰め所に向かう。昔に比べると、ずいぶん立派になったもんだ。

 

「とりあえず自分が報告しますので、隊長は外でお待ちください」

「ああ、分かった。いきなり俺が出て行ったら凪も驚くだろうし」

 

「楽進様、報告があります!」

「そんなに慌ててどうした。事件か?」

「隊長が帰ってこられました!」

「……何だって?」

「隊長が帰ってこられたんです!今外に……ぐへっ!?」

「隊長、隊長はどこに!?」

「楽進様、きまってます!そんなに絞められたら……がくっ」

「ええい、こうなったら自分で探す!隊長!!!」

「そんなに大きい声出さなくても俺はここにいるよ」

「隊長!……隊長~~~~!!!!」

 

突進してきた凪をどうにか抱きとめる。前の俺だったらそのまま倒れてたぞ、絶対。

 

「隊長、どうして黙って居なくなったんですか!私たち3人は、ずっと隊長についていくって決めてたのに!」

「……ごめんな。俺も帰りたかったわけじゃないんだけど」

「……うわ~ん!」

 

 

 

 

 

しばらくの間凪に抱きつかれていると、

 

「隊長が帰ってきたってホンマか!?」

「隊長!!」

 

戻ってきた沙和と真桜にも抱きつかれる。この体制はいろんな意味で苦しい……

 

「沙和に真桜。久しぶり」

「久しぶりじゃないわこのドアホ!ウチらがどんだけ心配したと思っとんねん!」

「……ごめん」

「……沙和、隊長に捨てられたかと思っちゃったの」

「捨てるわけ、ないじゃないか」

「でも、帰ってきてくれて、嬉しいの」

 

その後、3人は泣いたまま抱きつき、愚痴を言い、最後には笑顔になってくれた。

 

「3人とも落ち着いたみたいだし、離れてくれ」

「え~」

「ぶーぶー」

「……もう少しこうしていては駄目ですか?」

「いや、駄目じゃないんだけど、他の皆にも会いに行かないといけないから」

「そういや、隊長は魏の種馬やったもんな~。会わないかん女はぎょうさんおるよな」

 

真桜に言われた一言が胸に刺さるが気づかない振りをして3人と離れる。

 

「で、他の皆は?元気にしてる?」

「表向きは。ですが、隊長が居なくなった後は大変でした。特に、華琳様にいつものきれが無くて」

「そうそう。春蘭様も秋蘭様も元気なくなるし、隊長に懐いてた流流ちゃんも季衣ちゃんも落ち込んじゃうし」

「霞様も旅に出る約束は!?言うて暴れるし、風はよく寝るし、稟は全然鼻血出さなくなるし、

桂花は華琳様が落ち込むのを見て心配したりいらいらしたりするし」

「勿論、我々3人も心配していました」

「……いろいろ迷惑かけちゃったね」

「ホンマやで。この埋め合わせはたか~く付くからな。覚えといてや」

 

この3人ですらこうなんだから、他の皆への埋め合わせ、特に華琳のはたか~く付きそうだな……

 

「とにかく、他の皆にも謝らないと。城に行こうかな」

「私たちはここで待っています」

「何で?」

「隊長が戻ってきたときの騒ぎに巻き込まれたくなかったら、ここに居たほうがいいと思うぞ」

「うっ……隊長、1人でいってらっしゃ~い、なの」

 

そんなに皆に心配かけたのか。華琳の奴、ちゃんと皆に説明してくれなかったのかな?

まあ説明したところで納得できるもんでもないだろうけど。

 

「では、私が城までお送りいたします。最近の兵には隊長を知らないものもおりますし」

「そうしてくれるとありがたいな。じゃ、行ってくるよ」

 

 

 

 

 

「ここまででよろしいですか?」

「うん、ありがとう」

「ではまた」

 

さて……とにかく華琳に会いに行かないと。

 

「もしやお前……北郷か!?」

「その声は春蘭?ああ、やっぱり春蘭か。久しぶり」

「……斬る!」

 

ビュン!

 

「どわあっ!?いきなり何すんだよ!」

「この大馬鹿者!お前が居なくなったことで、華琳様がどれだけ悲しんだと思っている!」

「……華琳が?」

「そうだ!そのせいで私も秋蘭も落ち着かないし、そもそも私だってお前のことを!」

「……春蘭も心配してくれてたんだ。ありがとう」

「っ!?誰もお前のことなど心配しておらん!今華琳様は玉座にいらっしゃる。とっとと行け!」

「だから剣を振り回すな!」

 

春蘭から逃げ出して玉座を目指すが、適当に走り回ったせいで迷子になってしまった。

俺が居たときから比べると、遥かに宮殿が大きくなってるし。

誰かに案内してもらおうと歩き回っていると、誰かの後姿が見えた。あれは……

 

「秋蘭」

「男で私の真名を呼ぶのは……まさか一刀か?」

「ご明察。お久しぶり」

「……お前に言いたいことは色々あるが、まずは華琳様に挨拶に行け。その後みっちり詰問してやる」

「……分かった」

 

あの秋蘭がここまで言うんだから、相当怒ってるんだろう。

 

「それはいいんだけど、宮殿が広すぎて迷っちゃったんだよね。案内してもらえるかな?」

「いいだろう。玉座に案内する」

 

 

 

 

 

「華琳様」

「秋蘭?貴方今日は非番ではなかったかしら?」

「北郷一刀が帰ってまいりましたので、ご報告に」

「一刀が……?」

「ええ」

「……久しぶりだな、華琳」

「……秋蘭、ご苦労だったわ。皆私が言いというまで下がっていなさい!」

「はっ」

 

華琳は何かをこらえるようにそれだけ言うと、こちらをじっと見つめている。

こ、怖い……俺は一体何をされるのだろう?もしかして死刑?

 

「何しているの?早くこっちに来なさい」

「は、はい!」

 

そういう華琳の声は、やっぱり何かをこらえているようだ。これはものすごく怒ってる?

恐る恐る華琳に近づく。その距離はもう1mも無い。

華琳が右手を挙げる。ああ、叩かれるぐらいで済めばいいなぁ、と思いながら目を瞑るが、

いつまでたっても予想していた衝撃は訪れない。

 

「この……バカ!」

「えっ!?」

「私がどれだけ寂しかったと思ってるの!?どうして勝手に消えたりしたの!この嘘つき!」

 

華琳が、俺に抱きついて泣いている……?

その一事だけで、俺がどれだけ華琳に心配をかけたか、愛されているか、寂しい思いをさせたか、

すべての事が伝わってくる。あの曹孟徳が泣いているのだ。彼女の涙を見たものが、今までに幾人いたことだろう。

その小さい体には似合わない強い力で抱きしめられながら、俺も華琳を抱きしめ返す。

 

「ごめんな……」

「ごめんじゃないわよ!……この代償は、高く付くんだからね」

「勿論。何でもするよ。何がいい?」

「今度こそ、今度こそ私から離れないで。ずっとここにいなさい!」

 

涙を流しながら自分を見上げる華琳を見て、不謹慎にも綺麗だ、なんてことを考えてしまった。

最後のときも華琳の声は嗚咽をこらえているようだったし、きっと泣かせてしまったんだろう。

女の子を、それも好きな女の子を泣かせるなんて、最低だな、俺。

 

「約束する。もう勝手に離れたりしない。ずっとここにいる」

「当たり前よ。今度は離れようとしたって絶対に逃がさないんだから!」

「よろしくお願いするよ」

 

華琳が落ち着くのを待って離れようとするが、華琳は離してくれない。

 

「あの、そろそろ離してくれると嬉しいんだけど?」

「……嫌よ。もうしばらくこうしていなさい」

「はいはい……あ、そうだ。言うの忘れてた」

「何を?」

「ただいま、華琳」

「……お帰りなさい、一刀」

 

その言葉と同時に、華琳が目を閉じる。しばらくぶりに交わした口付けは、少ししょっぱい味がした。

 


 
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