No.60261

I Do,I Do,I Do,I Do,I Do

星 倫吾さん

アイドルマスター・如月千早のSSです。
ミニ・ウェディングを着てチャペルでPV撮影中。Pのほんの些細な言葉に傷ついた千早は……。ちなみにタイトルはABBAの曲からです♪

2009-02-25 23:32:22 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1506   閲覧ユーザー数:1357

「千早ちゃんスタンバイ出来ましたー!」

式場の係員に付き添われ、衣装に着替えて撮影現場に現われた千早に、

皆、目を奪われ、言葉を飲んだ。

千早の身を包むのは、純白のミニウェディングドレス。

結婚式場のチャペルを貸し切ってのPV撮影、

荘厳な雰囲気であるはずのチャペルは、

バージンロードと祭壇を囲むように撮影機材に占拠されたところに、

やっと場にふさわしい主役が現われた……といったところか。

元々千早自体がルックスが大人びているので、

ウェディングドレスに身を包んだ千早を、誰も彼女が15歳の少女だとは思わないだろう。

 

「あの……変ですか、プロデューサー?」

「イヤ、綺麗だよ、千早」

「……」

「……」

「あのー、そろそろリハ始めたいんで、スタンバって下さーい!」

「それでは行ってきます、プロデューサー」

本業である歌を評価してもらえるのも嬉しいが、千早とて年頃の女の子、

たとえ衣装の力でも「綺麗だ」なんて言われて、嬉しくないわけがない。

 

リハーサルは順調に済み、いよいよ本番。

本番までのしばしの間に、事件は起きた。

「しかし、こうしてウェディングドレス姿の千早を後ろから眺めていると、

 まるで花嫁の父親にでもなった気分だよ。

 ……もし本当に近い将来、千早が結婚する時、

 俺が父親代わりに千早を送り出す役をやらなきゃいけないのかな……」

プロデューサーの一言に、場が凍りついた。

千早が一瞬、潤んだ目で彼をにらみ、チャペルから走り去った時には、もう遅かった。

 

 

「……痛っ!」

感情に任せて職場放棄した上、足を挫いてしまうとは……。

泣きっ面に蜂とは、まさにこの事。

自己嫌悪と、何より悲しさで涙が止まらなかった。

バージンロードの先で自分を迎えてくれ、

一生を共に歩んでくれるだろうと思った彼が口にした言葉は、

いつか彼の手を離れて他の誰かに自分を委ねるという、別離の言葉。

……もっとも彼からは聞きたくない言葉だった。

 

「隣、いいかしら?」

千早を見つけたのは、小鳥さんやプロデューサーと同年代とおぼしき女性だった。

地味目なブラウンのスーツを来ていることから、この式場の関係者であろう。

「びっくりした……こんなところで千早ちゃんを見つけるなんて。

 あ、千早ちゃんなんて、馴れ馴れしいですか?」

「別に、構いません……」

「どうして泣いていたかは、聞かない方が良いのかも知れないけど。

 ……もしかして、彼のせい?」

「彼、といいますと……?」

彼女が告げた名は、プロデューサーの名。

「あの、プロデューサーのお知り合いの方で……?」

「そうね、今風に言えば、元カノって言った方が分かりやすいかな」

「そう……ですか……」

自分より長く人生を生きている彼の事だ。当然、人並みに恋愛も経験しているだろう。

「でも、千早ちゃんが思っているような事は何一つなかったから、安心して」

「そ、そんな事……!」

不意を突かれ、千早は赤面してしまう。

「そうね……自分の夢を叶えるために都会に出て行った彼との遠距離恋愛。

 今みたいに学生の身でケータイ持っている人なんていなかったから、

 月に何回か電話でお話しするか手紙のやりとりをするくらい……。

 でも、それもいつしか疎遠になって、遠くの想いよりも近くの温もりが心地よくなって、

 よくある遠恋の破局のパターン……彼とはそれっきり。

 だから、いつでも彼がそばにいてくれる千早ちゃんがうらやましいなぁって」

「……」

「彼って、鈍感なのか、女の子のキモチを分かってないというか、

 時々思慮が足りない言葉を吐くかもしれないけど……

 だからって彼のことキライになったり、見限ったりしないで欲しいなぁ……と、元カノからのお願い」

「プロデューサーの事を嫌いになるなんて……!」

「ふふふ、やっぱり千早ちゃんって彼のことが好きなのね♪」

 

「千早、こんなところに……って!」

千早に駆け寄ろうとしたプロデューサーが、一瞬足が凍りついた。

「……あなたって人は、また女の子を泣かせるつもり?

 あなたのせいで泣く子は私だけにしてって約束したよね?」

「その、スマン……」

「謝るなら、千早ちゃんにして」

「その、すまなかった……千早」

「……」

「何がどうすまなかったのか、それじゃ分からないわよ?

 あなたもバカじゃないなら、千早ちゃんの気持ち分かっているなら、

 他に言うべき言葉があるでしょ?

 私は何も見ないし聞かないから、存分にどうぞ」

 

「千早……今からリハーサルするぞ。いつか二人で本番を……」

「はい、プロデューサー。あ、『プロデューサー』ではありませんね」

 

「あと、千早ちゃん、足痛めちゃったみたいなの。ちゃんと責任取りなさいよ?」

「あ、私なら大丈夫です。後で事務所に戻ったら湿布でも……きゃあっ!」

プロデューサーは千早を抱え上げる、いわゆるお姫様抱っこ。

「あの、プロデューサー、このまま現場へ……? その、恥ずかしいですから……」

「俺だって恥ずかしいけどな……イヤではないぞ」

「私も、です……」

 

 

【終】

 

 


 
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