No.600124

リリカルなのは×デビルサバイバー GOD編

bladeさん

8th Day 友とそうでないもの

2013-07-21 21:40:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1769   閲覧ユーザー数:1674

 

 なのは、フェイト、はやて。

 

 彼女たちの様子から、管理局がなのはたちを通してカイトから何らかの情報を引き出そうとしているのがわかった。

 

 それを、それだけのことと割り切るか。

 

 それとも、割り切ることが出来ないか。

 

 どちらにせよ大事なことは、人の感じ方というのはその人の価値観次第なのだ。

 誰にだって思い当たることはきっとあるはずだ。自分の何気ない言葉が、誰かの心を傷つけてしまったことが。

 だから、なのはたちのその何気ない行動・発言はカイトにとって耐え難いことだった。

 更につけ加えるのならば、カイトから見た管理局およびなのはたちに対するイメージはどうであろうか?

 管理局はなのはたちにカイトから情報を引き出すように仕掛けた。それが客観的な見方。

 であればカイトから見たイメージではなのはたち(比較的親しい者たち)に自分から情報を引き出すように上から指示があった。こうとれる。

 そして問題はここ、『比較的親しいものたち』の部分だ。管理局は私的に親しいものを差し向けた。その事実はカイトにとって触れてはいけない……そんな部分であった。

 

 だからカイトは、なのはたち(管理局)と決別することを決意した。

 

* * *

 

 一足早く教室に戻ってきたカイトは、次の授業の準備をしていた。だがそのとき、一通のメールが軽やかな着信音と共に届いた。

 

 差出人はAT-LOW。

 勿論本名ではなくただのハンドルネームだ。

 本当の名前は木原篤郎。現在を持って、カイトにとってただ一人の親友だ。

 

 タイトルは「解析完了したけどさ……」

 

 本文にはこう書かれていた。

 

 『なんだよこれっ!? ナオヤさんに手伝ってもらって調べてみたけど、確かにCOMPの機能を拡張させるものだって結論が出たよ。勿論ナオヤさんのお墨付きでさ! でもこれをどこで手に入れたんだよ……?』

 

 短い文章ながらも、カイトを案じているのがわかる。

 そりゃ不安にもなるはずだ。本来あちらでしか存在しないはずのCOMP。そのアップデートプログラムが存在しているという、意味不明な状況だからだ。

 

 『手に入れた時の詳しい状況は、今度会ったときにでも話すよ。ありがとう』

 

 短くはあるが、そう返信した。

 分からないのは、カイトとて同じなのだ。どこで手に入れたのかは語ることが出来ても、どうしてそれがここにあるのか。それを語ることは出来ない。

 

 そして、真実を知っていた人物はすでにこの世に存在しない。

 

「……もし、ラプラスメールが今も動いているなら、行動指針として利用できたんだけどなぁ……」

 

 机に突っ伏しながらカイトは言う。

 

 未来予測を予測したメール、その名を『ラプラス』という。

 東京封鎖での戦いで、カイト、アツロウ、ユズ。この三人のみが――作成者たるナオヤもまた知っていたであろうが――受け取っていた。その内容は、大雑把に未来を予測したものだ。

 

 いつ、どこで、なにが起きるのか。

 

 ラプラスメールはそれらの内容を記したものだ。

 そしてカイトたちは当時、そのメールと自分たちの余命を数字で見せる機能、この二つによってその日の行動の計画をたてていた。

 大げさかもしれないが、カイトが今こうしていることができるのは、このラプラスメールのちからがとても大きい。

 しかし、そのメールも東京封鎖の最終局面において使用不可能となっている。そしてそれは今も変わらない。

 

「さてさて、これからどうしたものかな?」

 

 賽は投げられた。

 他のだれでもない、カイトとそしてなのはたちの手によって。

 おそらくなのはたちは、食堂でのカイトの言動をきめ細かく――デバイスに録音機能が搭載されているそうだ――報告するだろう。

 そして次に起こす行動は、カイトに話を聞きに来る……最悪、家の中を勝手にあら捜ししようとするだろう。

 カイトの言動の裏を取るために。

 とはいえ、カイトの許可なしに家に入ることは"絶対"に不可能なのだが。

 

 そこまで考えた所で、授業開始の鐘の音が鳴り響いた。それと同時にアリサを先頭にしていつものメンバーが教室へと入ってきた。

 

 一瞬、カイトとなのはの目が合ったが、逸らされてしまった。

 

 そのなのはの様子にすこしだけ笑いをこらえて、これからのことを思う。

 

 ――さて、これからどう動こうかな? と

 

* * *

 

 カイトたちが午後の授業を受けているとき、闇統べる王は家で一人紫炎の書を睨みつけていた。けれど深刻な様子は全くなく、むしろ……どこか笑みを浮かべているようにさえ見えた。

 

「く、クックック……アーハッハッハッッハッ!! はぁ……」

 

 闇統べる王は一人高笑いをあげ……そして落ち込んだ。

 いつもの癖で笑ったのはいいものの、カイトに引かれたときのことが少々トラウマになっているせいか、高笑いを上げるたびにあのときの光景がフラッシュバックするようだ。

 

 「いかんいかん。しっかりせねばな……」

 

 これから起きることを……起こしていくことを考えれば過去のことを思い返し、立ち止まることは許されない――否、彼女自身が許さない。

 これから彼女が起こす行動によって、一人の少年に選択を迫ることになる。

 

 もし彼女の思うべき道を選べば、当然彼女自身喜ぶことは確実で、その反面誰かを傷つけることになる。

 ではその逆の選択を選ぶとするなら……それはそれで彼女にとって、とても悲しい出来事になる。

 だがそれでも、彼女は立ち止まらない。

 そもそも何故自分が、それを成そうとしているのかとか、それすらもわかっていない。けれど……それでも闇統べる王は立ち止まらない。なぜなら、それこそが、彼女が彼女である所以であり、彼女を知る者たちが彼女に望む姿でもあった。

 

 だからこそ彼女は行く。

 誰かの、一番身近にいる者たちの期待に答えるため。

 なにより、自分が望む結末を得るために。

 闇統べる王は全力を尽くす。

 それは間違いなく――闇統べる王という一つの存在が持つ、アイデンティティと言える

 

「待っているがいい、塵芥共……いや、あの小鴉……っ!」

 

 以前の戦いで邪魔をしてきた者たちを……八神はやて属する管理局のことを思い出す。

 それだけで、腸が煮え返るほど思いになる。

 だがそうなってしまったのは、自身の弱さからであることも、闇統べる王は知っている。

 

「今度這いつくばることになるのは、貴様らの方だということをなっ!!」

 

 そういうと再び、はーはっはっはっは! と、大きな高笑いをした。

 今度は過去のことを思い出すことなく、ただただ笑い続ける。

 その前を見続ける事ができるのは強さだろう……だがしかし、闇統べる王は知らない。

 自分が住む家の防音耐性があまり良くないことを……。

 自分の笑い声が辺りに響き渡りまくっていることを……。

 

 闇統べる王がそのことを知るのは、近所の苦情を受けたときだった。

 

 

* * *

 

 

 海鳴市海上公園。

 海鳴市に住む人なら、一回は来たことがあるであろうこの公園は、時間に関係なく人がココには居る。

 

 朝にはジョギングやペットの散歩をしている人たち。

 昼には小さな子どもを連れた若い女性や、ゆったりと時間が過ぎていくのを楽しみながら、子どもたちを見守っている老人。

 夕方近くになると、それらの人々を含めた様々な人達が会場公園を訪れる。

 

 その中に一人の少年――天音 カイトも居た。

 

 誰と話すこともなく、ただ一人で紅く染まる海を見ながら、ぼーっとしている。

 そんな彼に近づく二つの影があった。

 

「学校さぼってなーにやってんのよ、あんたは」

「皆心配してたよ? 早退したって聞いてたから」

 

 アリサとすずか。

 二人の少女が彼を挟むようにして、隣になった。

 その視線は彼に向けられることなく、ただ前に――紅い海に向けられていた。

 

「勿論なのはたち……特にはやてが心配してたわよ? なんであんたが早退したのか、その理由は分からなかったみたいだけどね」

「そっか……それは悪いことしたな」

 

 思えば今日ははやての復帰一日目だったのだ。

 それなのに、初日にそんな思いをさせてしまったのは少しだけ悪かったかな……とカイトは思う。

 けれど我慢できなかったのだ。

 あの三人のあの目――自身が正しいことをやっていると信じ、正義の名のもとに、真実を追い求めるあの目。

 悪気はなかったのかもしれない。

 それでも、カイトは妥協することが出来なかった。

 

 正義の名のもとに法を順守させる者たちが、実のところ最も守っていない。

 

 その事実に気づいていない彼女たちの追求を、カイトは許すことが出来なかった。

 

 それが当然だと。

 それが自分たちの特権だと。

 それが自分たちのなすべきことであると。

 

 そう思っている彼女たちにの追求は、カイトにとって到底許すことができるものではない。

 

 だからこそカイトは後悔していない。

 たとえ、はやてが最も楽しみにしていたであろう、今日という日を台無しにしていたとしてもだ。

 

「それで? 実際のところはどうなのよ? 体調不良は嘘でしょ?」

「まぁな」

「ならやっぱり、原因はお昼のときの会話なのかな?」

「うん。そのとおりだ」

 

 さらっと、悪びれることなく言うカイトに、アリサとすずかの二人は目を丸くしながら言う。

 

「少しはごまかすかと思ったんだけど、簡単に肯定するわね」

「二人に隠した所で意味は無いだろ? 二人共頭いいからね」

「褒めてもらって嬉しいけど、あまり嬉しくはないわねー」

 

 それ以前に、カイトが早退する理由なんてのは、昼の会話しかありえないとも言える。

 そういう意味において、カイトの言葉は嫌味ともとれる言葉だとも言えた。

 

「信じるか信じないかはお前たち次第だ。どっちに受け取ってもらってもいいよ」

 

 そう言われた二人は、互いに顔を見合わせ、小さなため息を吐いた。

 

「なんでそんなに捻くれてるの?」

 

 すずかはカイトに詰め寄った。

 

「私たちはただ天音くんを心配してるだけなんだよ? なのになんで……?」

「しんぱい……? 誰を?」

「あんたをに決まってるじゃないっ! ふざけてんの!?」

 

 とぼけるカイトに堪らずアリサが食って掛かる。それでもカイトはうろたえるばかりだ。

 

「…………しんぱい。…………しん、ぱい。……心配?」

 

 "しんぱい"という言葉を、幾度と無く繰り返す。

 

 その言葉を理解出来ないために。

 その言葉を理解するために。

 

 そして、その言葉の意味を。すずかとアリサの言った言葉の意味を理解したとき、カイトは堪らず……笑い出した。

 

 大きく口を開けて。

 腹を抱えて。

 うっすらと、涙を浮かべながら。

 

 その涙を見て、笑顔を見てアリサたちは動きを止めた。

 今までもカイトが笑っているところを、アリサたちは見たことがある。

 けれどそれは本当に"笑って"いたのか。

 本当の意味での、少年の笑顔を自分たちは初めて見たのではないか? アリサはそう思った。

 

 それからしばらくして、ようやく笑うのをやめたカイトが「ごめん、笑いすぎた」と言った。

 

「……なんでもいいけど笑い過ぎじゃない?」

 

 我に返ったアリサが、頬を膨らまして少し拗ねたように言った。

 

「悪い悪い。なんだろうな――うん。嬉しかったんだ。……あ、嘘じゃないぞ?」

 

 機嫌がいいのか、カイトは普段よりも饒舌に話す。

 

「なにせ友達なんてのは、アツロウ……あぁ、俺の親友以外にはもう居ないと言っていいからなぁ」

 

 「まぁ、自分から友人とは離れたんだけどさ」と、続けて言った。

 

「でも友達、友達か……。悪くはないな――本当にさ」

「なんであんたが、そんな反応するのかわからないけどさ……。まぁ、その……そんなに嬉しそうにされると少し照れるけどさ」

 

 顔を背けているアリサと、ニコニコと二人を見ているすずか。本当に対照的な二人である。

 

「……そうだな」

 

 少年は自身が言った台詞を思い出していた。

 ゼスト・グランガイツに言った保険という言葉。

 それが自分にも当て嵌まるのは、当然のことだ。

 そして、その保険はすでに用意してある。しかしだ、万が一の時。その時が来た時、誰かの言葉で彼に……アツロウに自身がしてきたことを、伝えなければならないと思う。

 

 カイトは、自身の前に居る二人を見る。

 

 自身のことを友といった彼女たちであれば、その役目を快く果たしてくれることだろう。

 

 カイトが居なくなったとき。

 

 という条件でなければだが。

 憂いとなるものは、その保険を残すためには自身のことを話さねばならないということ。

 天音カイトという存在について語らねばならないということ。

 それはつまり、自分が「人間ではない」ということを話すということにほかならない。

 

 誰かが言った。

 人は、知性ある動物は、排他する生物であると。

 

 その排他するという行動の根底にあるもの。それは、自分とは違うものを否定する本能にほかならない。

 

 天使が悪魔を否定するように。

 悪魔が神を否定するように(一部の悪魔は、唯一神に奪われた神格を取り戻すという、目的もあるのだが)。

 人もまた例外ではなく、自分とは違う異常な姿、才能、考え。様々な異なる物に恐怖し、その恐怖から逃れるために排他をする。

 

 「「……?」」

 

 黙って二人を見ているカイトに疑問を感じたのか、二人は少し困惑したように首を傾げている。

 その二人の様子に少し、頬を緩めてからカイトは決断する。

 

 二人から拒絶されてもいい。

 嫌われてもいい。

 友達でなくなってもいい。

 

 今ある二人からの信頼。それを信じて、それに頼らせてもらおう……と。

 

「どうしたんです?」

「いや、なんでもない……。少し長くなる話をしようと思ったんだ」

 

 ひらひらと手を振りながらカイトは言う。

 

「長い話……?」

「あぁ。すっげー長くて、すっげー胡散臭い話」

「なによそれ? ていうか、すっげーすっげーってバカみたいよ?」

 

 ふざけたようなその言葉に、呆れながらアリサは言った。

 

「バカとはひどいな。せっかく、どうして俺が悪魔使いなのか。その理由を話そうと思ったのに」

 

 カイトがそう言った瞬間、時が止まった。

 勿論比喩ではあるが、少なくともアリサとすずか。この両名がまるで時が止まったかのように動かなくなったのは事実だ。

 

「……本当に?」

「あぁ、本当だ。――だって」

 

 訝しむ二人をあやすように――。

 

 

 否。

 

 否定され、拒絶されるかもしれないという、自身の恐怖を打ち消すように、カイトは微笑みながら言う。

 

「俺たちは友だちなんだろ?」

 


 
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