No.597469

リリカルなのはSFIA

たかBさん

第三十一話 お金では買えないもの。買えるもの

2013-07-14 10:26:45 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:5096   閲覧ユーザー数:4693

 第三十一話 お金では買えないもの。買えるもの

 

 

 

 ヴィヴィオの日記より。

 

 ○がつ×にち、くもり。

 きょうから、きどーろっかで、おせわに、なります。

 わたしより、おっきな、おにーちゃん。おねーちゃん。がいっぱいです。

 わたしは、よくないているくろいおにいちゃんが、おきにいり、です。

 なんで、ないているの?

 

 ○がつ△にち、はれ。

 きょうは、せいおーきょーかいで、キラキラのかみをした、おねーさんのところで、おはなしをしました。

 おにーちゃんは、きょーかいのなかで、は、ずっと、ぷるぷるしてました。

 ここは、こわくないよ?

 

 ×がつ×にち、はれ。

 おにいちゃんが、ぴんくのひとに「ヤラナイカ?」と、あまりだれもいかない、もりのほうに、いきました。

 

 あ、ありしあおねーちゃん。そんなにいそいでどこにいくの?

 

 

 高志視点。

 

 

 

 

 

 アッ――――――――――――――ッ!

 

 

 

 

 

 一分前までは薄暗かった。元、森林だった爆心地で『傷だらけの獅子』の悲鳴が上がった。

 

 ズドオオオオオオオオオンッ!!

 

 と、アリシアの砲撃音を響かせながら…。

 

 『…死ぬほど痛いぞ』

 

 現世で何度目かの死に掛けたことか…。

 思春期を殺した少年は光の中で輝くところだった。

 装甲重視(ガンレオン)で本当によかった。

 

 「…テスタロッサ姉。私は『傷だらけの獅子』と模擬戦(・・・)をやらないか。と、いったんだが…」

 

 「…ご、ごめん」

 

 朝一番でシグナムと模擬戦をしていたら金の砲撃が俺達を襲った。

 機動六課の施設内にある森林地帯で見覚えのある砲撃に俺とシグナムは呑みこまれた。この時、心底思う。

 

 月が出て(オーバードライブ)なくて本当によかった。と、

 

 さすがにあの大砲撃を放たれていたらガンレオンでも蒸発していたかも…。

 ところでこの娘っ子。本当に俺が好きなのか?

 ミッドの女子は()ンデレなのか?それともこれが『傷だらけの』

 

 ―…違う、ぞ?―

 

 強くは否定しないんだな。俺の相棒(スフィア)は自分の宿命に疑問を持っているようだ。

 近くの海上施設ではフォワード陣となのは達隊長陣営が訓練をしている。

 

 くきゅー。

 

 早朝訓練からお昼前まで模擬戦をしていたので腹ペコである。

 さっきまでは死を覚悟したのに食欲がわくというのは、我ながら逞しくなったものである。それとも、いつでも死線に陥ってもいいように栄養は取れるようになったという事なのだろうか?

 

 「おにーちゃーん」

 

 と、考えていたら俺の癒しの幼女がこっちに向かってヴィヴィオが小走りになってこちらにやってくる。が、

 

 「あっ」

 

 ヴィヴィオがこちらに向かって来る途中で足元にあった小さな石ころに躓いた。

 ヴィヴィオの体が一瞬、超低空の空に投げ出される。このままではヴィヴィオは顔から砲撃跡地の地面に顔を叩き付けられることになるだろう。

 そうなればヴィヴィオが泣いてしまう。そうはさせんっ。やらせはせんぞ!

 ガンレオンの装甲をパージ!残った魔力を使って全力で身体能力強化(フィジカルブースト)を使いヴィヴィオと爆心地後の地面との僅かな隙間に手を伸ばすようにヘッドスライディングする。

 間・に・あ・えぇええええ!!

 

 ずざぁあああああっ。

 

 手の平にある感触。それはヴィヴィオを守りきったという確実なる証拠。

 

 「ヴィヴィオ。気をつけて歩こうな」

 

 「うんっ」

 

 元気でよろしい。この笑顔の為に体の前面部全体に擦り傷を作ってでも守る価値がある。お金では買えない価値がここにあるのだ。

 

 「で、ヴィヴィオはどうしてこんなところに来たんだ?」

 

 「うん。おにーちゃんを探しながら探検ごっこ」

 

 「へー、探検か。なにか見つけたか?」

 

 俺の質問にヴィヴィオは少し考えて、にぱぁーと笑顔を浮かべながら答えた。

 

 「お兄ちゃんを見つけた」

 

 ずっっきゅうううううううううううっん!

 俺の心が凄く癒された。

 俺のA・Tフィールドが中和されていく…。

 

 これが…ニコポか。

 

 「うりうりうりうりぃいいいいいい♪」

 

 「にゃあああああんっ♪」

 

 俺は思わずヴィヴィオのほっぺたを手で包んでムニムニと揉みしだく。

 十年ほど前にアリシアに同じことをしていたような気がするが、気にしない。

 

 「・・・」

 

 アリシアの方は俺とヴィヴィの方を見て何故か絶句している。

 

 「ロリコ…」

 

 「言わせんぞ」

 

 というか、十年前にもお前にも同じことをしたよな?

 まあ、アリシアの場合。嫉妬したプレシアが十トントラック用の充電池(ギガデイン)という名の制裁を加えてきたが…。ガンレオンじゃなかったら死んでいたぞ?

 シグナムにも回復魔法をかけながら、自己修復。じゃなくて回復をした後に大量のランチボックスを担いだリニスを先頭に、ありさとすずか。そして、ボロボロのフォワード陣を引きずりながらなのはやフェイト達がやって来た。

 何気にはやてや祝福の風姉妹。ザフィーラと、ゼクシスと六課主力メンバーの殆どが揃っている。

 

 「…くそっ、手間取らせやがって」

 

 体のあちこちに赤い液体をつけたヴィータ愚痴りながらやってくる。

 非殺傷設定だよね?

 

 「…スバル。ティアナ。キャロちゃん。生きてる?」

 フォワード陣のなかで唯一の生き残り?のギンガが妹と妹の同僚に声をかける。

 

 「………」口から魂魄的な何かがはみ出ているティアナとスバルにキャロ。

 大丈夫。…だよな?

 

 「……親方(フェイト)(さん)」真っ白に燃え尽きたエリオ。

 どちらかといえば親方様ははやてだと思うのだが?

 

 そして、上手にこんがり焼き上がったフリード。

 

 

 大丈夫かフリード?!

 

 

 お昼前だけあって、食欲をそそるいい匂いがするんだが!?

 なのは!その手に持った塩は何だ!喰う気か!それとも拷問用か!

 

 「皆さーん。今日のお昼をお持ちしましたー。デザートに冷えたスイカもどうぞー」

 

 リニスやアリサ。すずかがランチボックスを芝生の上に置きながら、機動六課の施設から見覚えのある物体が。SPIGOTにはめ込まれたスイカがプカプカと浮いていた。

 まるで土星のようだ。そんなふうにSPIGOT使っていいの、リニス?

 あ、なのはの塩はそのスイカ用か。スイカ用なんだよねっ。そうなんだよねっ!

 それからフォワード陣に回復魔法を施した後、そこにいた全員とでランチにする。

 …うむ。美味い。ティーダさんはまた料理の腕前を上げたようだ。

 

 「あ、ほら。ヴィヴィオ。口元が汚れてますよ」

 

 ヴィヴィオがムグムグとお弁当を食べていたら、リニスがヴィヴィオの口元をハンカチで拭う。

 それを羨ましそうに見ているフェイト。

 口元に咥えているサンドイッチからパンくずがぽろぽろ零れているぞ?

 

 「ヴィヴィオ。ピーマンやニンジンも食べないと駄目ですよ」

 

 「う~。苦いの嫌いぃ」

 

 「駄目やで。ヴィヴィオー。好き嫌いしていたら私達みたいに美人になれない」

 

 はやて達みたいに…。

 …うん。

 

 「ヴィヴィオ。力の限り好き嫌いしなさい」

 

 俺が許す。

 

 「タカシさん?!どういう意味ですか!」

 

 …察してくれリイン。

 

 「…すまない」

 

 いや、やっぱスルーしてくれリインフォース。

 …察せられるのも辛いわ。

 

 「…でも、こうしてみるとヴィヴィオとリニスさんって親子みたいですね」

 

 「そうですよ」

 

 「へ?」

 

 「昨日出した保護者預かりの書類が受理されました。しばらくの間ですが機動六課がある間は私がヴィヴィオの保護者になりました。あと、機動六課からはリインフォースが保護責任者として受理されてます」

 

 スバルが何気なくそんなことを言うとリニスはそれをあっさり肯定した。そして、俺に念話で知らせる。

 

 (スフィアの事もありますからね。リンカーコアはありましたが問題視するほどではありませんが、ヴィヴィオはアサキムが関係している。何かあった時は私達三人で押さえれば何とかなりますでしょう)

 

 獅子。乙女。天秤。と、三人で抑え込めばいい。

 騎士カリムの予言だとアサキムと俺達以外に『尽きぬ水瓶』のスフィアリアクターが現れるとか言っているし…。

 ヴィヴィオが『尽きぬ水瓶』のリアクターかと疑ったこともあったがスフィアの反応は無い。

 初期のブラスタや闇の書だった頃の夜天の書がそうだったように、デバイスの中にスフィアが有り、その使い手がリアクターになる。

 だから、ヴィヴィオにはデバイスの類を近づけないように見張っていないといけない。

 

 「そうすると、高志さんがお父さん?」

 

 キャロがこてんと首を傾けながら高志とヴィヴィオを見比べる。

 

 「「「むっ」」」

 

 「…むぅ、そ、そうなるの」

 

 …お。おおっ。そうなるのか!?

 フェイトでは出来なかったお父さんをヴィヴィオに言わせることが…。

 

 「そうはなりませんよ」

 

 「な、何故だ?!」

 

 なんでだ?!なんでぇえええ!

 

 「高志さん。貴方にはヴィヴィオの保護能力が無いからです」

 

 え?それって、どういう…。

 

 「…あの、その。とても言いにくいんですが貴方は今、無職(・・)

 

 ぐぱぁっ。と、前世の古傷が開いた音がした。

 む、無職じゃねえよ。だって、諜報員として…。諜報。…あ。

 

 「ブラスタが前回の『偽りの黒羊』の時に木っ端みじんに吹き飛んでしまって修理不可能。使用不能。つまり…」

 

 諜報活動が出来なくなった。と…、

 

 「更に、一時期とはいえ、行方をくらましたので捜索依頼費と活動費」

 

 …おお。確かに。

 だ、だが、それでも今まで稼いできたお金が…。

 

 「スフィアの存在をくらませるための隠蔽費とその維持費」

 

 そ、それでも余裕がある。

 

 「ガンレオンとして活動している今も、出来るだけスフィアの活動を隠蔽しないといけないし…。おかげで借金も」

 

 借金もあるのか!?

 ああ、ガッツリとられたのね。だ、だけど、月村の家で歌ったマクロス関係性の歌を歌っている。あの歌で手に入れたお金がそう簡単に尽きるはずが…。

 

 「あの歌で笑顔になった人達もたくさんいました。見ますか?」

 

 ちくしょぉおおおおおおうっ!

 そんなこと言われたらその人達からお金を取れるわけがないじゃないかっ。

 て、あれ?俺って機動六課やゼクシスに属しているんじゃ…。

 

 「高志君に民間協力者としてのお給金やMVPとしての金一封はでとるよ?だけど、な。ガンレオンの整備やら何やらでお金がかかるんや。一応、それも異世界の技術で作られとるからなぁ」

 

 そういやそうだったね。ガンレオンはロストロギアでしたねっ。て、ことで。

 

 「高志君。君は一応、私の部隊の協力者ではあるのですが、それは一時的な物なんです。ヴィヴィオの保護者になるには長期的に安定した高収入の人ではないと慣れないんです。残念だけれど、その、不定期労働者。無職の人にはちょっと…」

 

 実のところを言うと、闇の書事件から、システムU―D。マクロス関係の歌の著作権。そして、諜報活動に破壊工作。そして、微々たる活躍ではあるが機動六課やゼクシスでの活動で得た褒賞なら余裕で足りるのだが、そこはリニスとはやて。

 あまりに桁違いの財産に高志は理解していないだろうと判断して法外な賠償を求めた。

 負債があればある程、高志は返そうとする。つまり、彼女達から離れられなくなるはず。

 

 「お、俺が…。無職…」

 

 兄貴質な高志にとって、そして、前世では就職難民だった高志にこれほど胸に刺さる言葉は無かった。

 頼られれば嬉しいのに、頼るしかないという状況はクルものがある。

 もう、ヴィヴィオにお菓子を買い与える余裕もないのかと思い至ったのか両手を地面に突き白くなっていた。

 そんな高志の前に優しく声をかける一人の女性。月村すずか。

 

 「ねえ、高志君。この間聖王教会で歌っていた歌をまたお姉ちゃんに売りだしてもらおうか?そうすれば、少しは足しになるかも。だけど」

 

 高志は思わず、その優しく微笑んでいるすずかの手を取ろうとしたが躊躇った。

 バサラファンでもあるが、ジャムファンでもある高志。また、あのすばらしき歌を広めるだけでも嬉しいのにお金を取ってしまっては、彼等の歌を汚してしまうのではと思ってしまう。

 

 だが、そんな躊躇いももう一人の女性の差し出した紙切れ一枚で吹き飛んだ。

 

 「ねえ、タカシ。これ、あんたが地球に落ちてきた時に壊した別荘(いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生した。の五話より)の修理費なんだけど…」

 

 「魂を込めて歌わせてもらいます!」

 

 さすが、社長令嬢が二人。やり方がえげつない。

 こうして現『傷だらけの獅子』を現世に縛り付ける因果が出来た。借金という名の鎖が。

 

 「だ、大丈夫だよタカシ。タカシとヴィヴィオくらいなら私が養ってあげるから」

 

 「フェイトッ。それを言っちゃ駄目!」

 

 白くなった高志の背中に無職という言葉以外に借金。そして、ヒモ。の文字が突き刺さる。

 金髪姉妹の言葉の刃が獅子の背中に突き刺さる。

 

 「それを言ったら今まさに私達機動六課やゼクシスで高志君を喰わせているようなもんやな」

 

 「はやてちゃん!?」

 

 ヒモという言葉に確定。そして、継続中という言葉が追加される。

 なのはははやてを止めようとしたが一歩遅かったらしい。

 

 (リニス。彼の『悲しみ』が増大しているんだが…)

 

 (『選択』を間違えましたかね?ちょっとやり過ぎた?)

 

 二人のスフィアリアクターはさめざめと泣いている高志を見て少し考えたが、これで彼がまたどこかに去ろうとしなければいいかと思った。

 そして、高志は思った。

 お金でしか買えない物があることを…。

 それは、

 

 「…甲斐性なし」

 

 ヴィータの発した言葉に高志はその場に崩れ去ったのであった。

 

 


 
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