第31弾 詩乃の罪
詩乃Side
第3回『バレット・オブ・バレッツ』本大会が終了し、待機空間で1分程の時間を要して、いま現実世界へと
けれど私はすぐに眼を開けず、部屋の中の様子を窺ってから、ゆっくりと眼を開けた。
部屋の中、他のところもダイブ前とは特に変わりはない。
アミュスフィアを外してから心を落ち着かせ、一息吐いてから、改めて室内を探った。
キッチンの陰やユニットバスの中、カーテンの隙間からクレセント錠を確認、
玄関の鍵も問題無く作動しているのを見て、ホッと一安心。
どうやら犯人は死銃がやられた段階で逃げ出したか、或いはこの付近に逃亡、待機している可能性もある。
「そうだ、先に電話…」
私は携帯端末を取り出して、幼馴染のケイの家へとコールした。
時間は既に夜の10時10分を経過したところなので、少し申し訳なく思うけど…。
そしてコール音が切れた。
「あの、もしもし。夜分遅くにすみません、朝田ですけど…」
『あら、詩乃ちゃん? こんばんは。どうしたの、こんな時間に?』
「えっと、小父さんいらっしゃいますか?」
『ごめんなさい、今日は深夜をまわってから帰ってくると思うけど…』
ど、どうしよう、この時間だったら小父さんがいると思ったのに…。
「あ、あの、小父さんに、こっちに来てもらうことは、出来ますか?」
『…なにか、あったの?』
「ふ、不審者が、この近くに、いるらしくて…」
この回答ならすぐに来てもらえるかもしれない。
『すぐに夫に連絡を入れるわ、景一にもそっちに向かうように伝えるから!
あと、絶対に鍵を開けないで! 私達が来るまで、絶対に誰も入れては駄目よ!』
「は、はい、お願します…」
『それじゃ、すぐに行くわね!』
そして通話が終わった。なんだか申し訳ない気持ちもあるけれど、こんな不安な時くらいは良いよね。
それにいつでも頼って、って言われてたし…。
―――キンコーン
鳴り響いた電子ロックのインターホン音に僅かに反応し、ドアにはチェーンが掛かっているのを思い出し、
少し安心しながらも警戒しながら玄関へと近づく。
「朝田さん、居る? 僕、新川だけど」
外から見知った声、新川君の声が聞こえてきた。
まさかと思いつつ、レンズを覗いてみると、そこには間違いなく新川君がいた。
「新川君?」
「あ、良かった、居たんだね。お祝いにって、コンビニでだけどケーキを買って来たんだ」
インターホン越しに喋る彼はケーキが入っていると思われる箱を掲げた。
知り合いなら、大丈夫だよね。それに1人でいるよりかはマシだと思うし…。
チェーンを外してから電子ロックを解錠して、彼を部屋の中へと入れた。
勿論、鍵は全て掛け直した。私はベッドに座り、新川君はクッションに腰を下ろす。
「BoB優勝、おめでとう。シノン、GGO最強のガンナーになったんだよね。
でも僕は信じてたよ、朝田さんなら必ず優勝するって」
「あ、ありがとう…」
矢継ぎ早に話す新川君に少し戸惑いながらも、彼の言葉を受け取っておく。
多分、戦闘を見て興奮しているんだと思う。携帯端末で中継を見ていたって、言ってたし。
「そういえば、中継で洞窟でのシーンが映っていたんだけど…」
「あ、あ~…あれね、ちょっと驚いて発作が起きそうになって、
それで「あれはアイツらに脅されてやったんだよね?」、え…新川、君?」
事情を話そうとしたら、彼は話に割り込んでそんなことを言ってきた。
なぜそんなことを言うのだろうか…?
「脅されて狙撃役をやらされて、だけど最後にグレネードで巻き込んで倒したんでしょ?」
「きょ、脅迫とかそんなんじゃないよ。ただ、トラブルが起きたから、あの3人に協力したの。
丁度私も、自分のことを乗り越えるべきだったし」
「じゃ、じゃあ乗り越えることができたんだね! 優勝もしたし!」
「え、た、多分…まだ、解らないけど…」
正直、まだ戻ってきたばかりだから大丈夫なのかは分からない。
それよりも、彼がどうしてここまでの反応を示すのか……もしかして、返事を待っているのかもしれない。
「乗り越えるまで待ってて」と、私は彼に伝えたから。
「あのね新川君。私、貴方に伝えないといけないことがあるの…」
「あ、うん」
嬉々とした表情を見せる彼にまたまた申し訳なく思いながら、それでも私の気持ちを伝えることにした。
「新川君は、私をGGOに誘ってくれて、色々と教えてくれて、時には助けてくれた。
本当に凄く感謝しています。だけど、ごめんなさい…」
「え…? なん、で…」
「私、他に好きな人がいるの…」
伝えた、ようやく、私の言葉を伝えることが出来た。
「う、嘘、だよね…? そん、な、冗談…」
「嘘でも、冗談でもないの…。私には、他に好きな人がいる…」
「そ、それって、あの銀髪の奴? アイツに脅されて「違う」…」
「昔からある1人の男の子が好きなの。私が傷つけてしまって、それでもいつも守ってくれている彼が、
私は…「それって、あの一緒にバイクに乗っていた奴?」え?」
認めようとしない彼を諭そうと話していると、その言葉を放った。
なんで、私がケイと一緒にいたことを…。
「あんな奴、朝田さんには必要ないよ。いままで、僕がキミを助けてきたんだ。
それに朝田さんはもう十分に強くなったよ。
優勝して、全部乗り越えた、だからこれからは僕が朝田さんを守ってあげる。ずっと、一生…」
「し、新川、くん…? や、やめてっ!」
「ぐっ…! だ、だめだよ、朝田さんは僕の事、裏切っちゃ…」
何かに憑りつかれたかのように話しだす彼が怖くなり、私に触れようとした彼を突き放した。
けれど彼は着ていたジャケットの中から、20cmほどある筒状のものを取り出した…注射器のようなものだ。
「な、なにを…」
「これは無針高圧注射器っていってね。中身は『サクシニルコリン』っていう薬で、
これが体に入ると筋肉を止めてすぐに肺と心臓が動かなくなるんだよ」
つまり、私を殺すということ?そして薬品で殺す、それはハジメが話してくれた推測で、ということは…。
「貴方が、死銃の実行犯の内の、1人なの…?」
「さすがは朝田さん、その通りだよ。いままでは『ステルベン』を僕が操って、今回初めて僕が実行犯になったんだ。
朝田さんを、僕以外の男に触られたくないからね」
まさか、彼が、死銃の1人だったなんて…。
恐ろしい現実と恐怖に体が強張る、小母さんの言う通りにして、誰も入れるべきではなかった。
「さぁ、朝田さん。これで、僕と1つに「詩乃っ!」なっ!?」
外のドアから私の名を呼ぶ人の声がした。私が、彼の声を聞き間違えるはずはない。
「っ、助けてぇっ!」
私の叫び、その次には外から強烈な
「くっ、朝田さんは、僕のだっ!」
「い、やぁっ!」
まるで狂いだしたかのように動き出す新川君から逃れようと動こうとしたけれど、
足元のクッションに足を取られ、バランスを崩し、ベッドに倒れてしまう。
そこに彼が覆い被さるように、そして注射器を私に向けて掲げてきた。
「僕が、朝田さんの全てにっ!」
「いやぁっ!?」
必死に抵抗し、なんとか逃げようとするなか…それは起きた。
―――ダァンッ、ダァンッ!ドガァンッ!
2発の銃声、直後に大きな音が鳴った。それはまるで、扉が破壊されたような。
呆然として動きが止まる私と新川君、そこに足音と共に現れた人影は、
新川君を殴り飛ばし、私を引き寄せて自身の背中に引き寄せた。
「……詩乃、無事か?」
「ケ、イ…なん、とか…」
やっぱり、景一だった。私が大好きな、私のせいで傷つけてしまった人。
それでも彼は、また助けに来てくれた。
「お、お前、お前がぁぁぁっ!」
「……動くな」
「うっ…」
「ケ、ケイっ!?」
殴られて鼻と口から血を流す新川君が動き出そうとしたけれど、
ケイはその手に持つ拳銃で制止を掛け、私は思わず声を上げた。
「……雫さんのSPから借りてきて正解だった。鍵とドアを破壊する羽目になったが…。
もう諦めろ、すぐに警察がくる。警視庁の警部まで同伴してな…」
さっきの音は鍵とドアを壊した音だったのね。警視庁の警部は多分、ケイのお父さん。
「……何故、そこまで詩乃に執着する?お前のそれは、ただの恋愛感情じゃない。明らかに、それ以上の何かを感じる」
「朝田さんは、凄いんだ…。本物のハンドガンで、悪人を射殺したことのある女の子。
そんな凄い朝田さんの為に、死銃伝説の銃には
僕にとって、朝田さんは憧れなんだ…悪人を射殺した、僕の憧れなんだ!」
愕然とした、恋愛感情だけでの暴走の方がずっとマシだった。
そんな、そんな理由で私を……いや、もしかしたら…これこそが私への罰だったのかもしれない。
罪と向き合おうともせず、背中を向けて、膝を抱えて逃げていた私への。
「……詩乃。キミの周囲は、真実を知らないのか…?」
「…うん。私は訂正しなかったの、だって…本当なら私が殺していたはずだもの…」
ケイの言葉の意味は分かっている。それが、今回の一件を招いたと言っても過言じゃないから。
彼もまた、私のせいで加害者となった被害者なのだから…。
だから、彼には真実を知る権利がある…。
「新川君、私は……朝田詩乃は、誰も殺していないわ」
「え……な、何を言ってるんだい!? キミは、小学生の時に強盗を黒星で…」
「確かに私は郵便局で強盗に襲われて拳銃を奪った。けど、強盗を撃ったのは私じゃない」
私が話したことに信じられないとばかりの表情を浮かべる新川君、そしてその続きをケイが話し始めた。
「……おそらく、キミが調べたのは新聞などの地方欄で書かれた程度のことや噂であったこと程度なのだろう。
確かに詩乃の地元では、彼女がその地に残っていたことからそういう話になった」
「じゃ、じゃあ、誰が犯人を殺したんだよ!?」
彼はイラつくようにケイへと問いかける。
私は眼を瞑って自分の拳を強く握り、ケイは一息つくと言葉を放った。
「……私だ。私が、詩乃が奪った拳銃を使って、犯人を銃殺した。それが真実だ」
「そん、な……でも、朝田さんは、否定しなかったじゃないか…」
「私が殺したようなものだから…。ケイに人を殺させてしまったから、だから私は否定しなかったの…」
それが事実にして真実、私が背負おわなければいけないと思い誓ったこと。
「それ、でも…僕にはぁっ、シノンしかぁっ!」
「……っ、バカ野郎がっ!」
「がっ…(どさっ!)」
全てを知っても、真実という現実を受け入れることのできなかった新川君はケイに飛び掛かってきたけれど、
ケイはそれをあっさりと躱し、彼の首に手刀を当て、気絶させた。
「……キミは現実を捨て、仮想だけを現実にしてしまったんだな…」
ケイは気絶した新川君にそう言葉を投げかけ、彼が手に持っていた注射器を押収して袋につめた。
それと同時に、外からサイレンの音が聞こえた。
詩乃Side Out
To be continued……
後書きです。
原作と違い、詩乃がモデルガンを持つシーンなどがありません。
理由は簡単、景一はログアウトしてすぐに彼女のアパートに向かったからです。
菊岡への報告と連絡は和人と明日奈がしますからね。
しかも景一、朝霧SPさんから銃を拝借しています・・・勿論彼の行動も認可できるものではないので、そこら辺は次回で。
次回は今回の話から直接続きます、あと景一と詩乃の関係も・・・。
それでは・・・。
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第31弾です。
大会を終えてリアルに戻った詩乃、そんな彼女の元に・・・。
どうぞ・・・。