No.588177

恋姫閑話 1日目

futureさん

お久しぶりです。久しぶりすぎてTINAMIの使い方を完全に忘れていました。futureです。
以前こちらで作品を投稿させてもらっていたのですが、私情により放置の形を取ってしまいました・・・申し訳ない。

それでまた別のシリーズを投稿し始めるワケですが、この作品は週1~週2のペースでまったり投稿していく予定です。

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2013-06-16 23:04:31 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1995   閲覧ユーザー数:1800

 

おはよう。

 

・・・ははっ、何だよその顔。まだ不安なのか?

 

大丈夫だって。俺なら上手くやれるさ。

 

そういうトコロが心配? これで良いって言ったのはお前じゃないか。

 

・・・あーハイハイ。俺が悪かったよ。落ち着けって。

 

何? お詫び? またお前は・・・んっ。っはぁ。これでいいか?

 

・・・だな。俺もそう思う。けどもう行かなくちゃ。

 

じゃあな。それとまた後で。

 

行ってきます。

 

 

 

 

ザワザワ・・・ガヤガヤ・・・

「ん・・・ふあぁ・・・」

辺りの喧騒で目が覚める。頭が重い。夢でも見ていたのだろうか。

「ここは・・・教室じゃないか」

「当然です。さっきから何をブツブツと」

「ん・・・愛紗か」

俺の独り言に反応したのは愛紗。このクラスの委員長だ。

容姿端麗で厳格な女生徒。サイドポニーで纏められた美しい黒髪を持つことから、『美髪公』の二つ名で呼ばれることもある。

「それと胸がデカい」

「全部声に出てますよ」

「・・・説明してやったんだよ」

「誰にですか。全く」

呆れた、とばかりに溜め息をつかれる。相変わらず失礼なヤツだ。

「授業中も貴方は寝てばかり。学生としての自覚はあるのですか?」

「これが俺なりの勉強方法なんだよ。睡眠学習法と言ってな? 一度眠ることによって脳を活性化させるんだ。その後」

「そこまで。その言い訳を毎日聞かされる身にもなって下さい」

「言い訳とは何だ。これでも平均より上はキープし続けてるんだぞ?」

「偶には赤点を取ってみたらどうでしょうか。一度痛い目を見た方が貴方の為にもいいかと」

荷物を纏め終えた愛紗が席を立つ。

「飯はどうすんだ?」

「委員会の方がありますので。購買で何か買って食べようかと」

「風紀委員も大変だな。お疲れさん」

では、と頭を軽く下げた愛紗が教室から出ていく。それに続いて俺も席を立った。

 

 

 

 

「チキン南蛮丼・・・いや、キムチ丼も捨てがたいか・・・」

食堂。腹を空かした俺は、一人で此処に来ていた。

「いや待てよ? ここで敢えて麺類を選ぶというのも悪くない・・・」

今日は土曜日。午前授業ということもあり、食堂は空いている。

「でも今日は丼の気分なんだよなー・・・日替わりは・・・ロコモコか。悪くない」

だから俺はこうして、メニューの厳選に時間を費やせるというワケだ。普段だったらただの迷惑行為なんだが・・・。

「・・・よし決めた。ここはオーソドックスにカツ丼と行こうじゃないか」

財布を取り出し小銭を入れる。そのままボタンに指を伸ばし―――

「いよーっう! かっずピー!」

「なっ」

ピッ。ボタンを押す。ガラガラ。釣り銭が戻ってくる。食券と一緒に。そこに書かれていた文字は―――

「う・・・うどん・・・だと・・・!?」

肉でもない。天ぷらでもない。そこあるのは『うどん』の三文字のみ。

「お? かずピー今日はうどんかー。んじゃ俺はカツ丼にしよかなー」

馬鹿が小銭を入れ『カツ丼』の食券を買う。邪魔することも出来たが、俺はたった今起こった悲劇により体を動かすことが出来なかった。

「・・・なぁ及川ぁ」

俺は馬鹿もといド畜生の名前を呼ぶ。当人は呑気な顔をして。

「ん? どしたん? そんな怖い顔して」

「俺にカツくれねえか? お前が買ってんの見て食いたくなっちまった」

「カツ? 別にあげる分には構わんけど・・・」

「勘違いするなよ・・・一切れや二切れじゃねえ。全部だ」

「イヤイヤイヤ!? それもう只の白米やないか!? というか自分、うどん買うてたやん!?」

「うっさい眼鏡割れろ。俺は今無性にカツが食いたいんだよ・・・!!」

「だったら自分で買うたらええやん―――って、ちょ、待っ、あっ、あっ」

 

「アッーーーーーーーー!!」

 

食堂内に馬鹿の叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

「・・・今日は厄日や」

「そっか」

ズルズルとうどんを啜る。因みにこのうどんは馬鹿の奢りで肉うどんに進化済みだ。

「まぁいいじゃないか。こうして俺の昼飯に貢献できたんだから」

「それを喜びと感じる人間は、世界中何処を探してもおらんやろなぁ・・・」

「いるじゃないか」

目の前に座る馬鹿を指さす。

「・・・このカツ丼旨いなぁ」

逃げやがった。

「つかお前どうしたんだよ。こんなトコで油売ってていいのか?」

「会長にも休息は必要なんよ? 親友と飯食うくらいは許されるやろ」

「そっか。その親友とやらはお気の毒にな」

「かずピー酷いなぁ・・・」

とは言いつつも笑顔でカツを頬張る及川。コイツとも結構長い付き合いだ。こうやって軽口を叩き合うのも既に日常と化している。

「まぁ忙しい時期ではあるけどな? この後もスケジュールがギッシリでな?」

「ふーん」

そうなのだ。この男。名前は及川佑。軽い見た目とは裏腹に成績優秀。運動神経抜群。おまけに我が校の誇る生徒会長様と来た。

・・・まぁ会長になった動機はとてもくだらないのだが。一応凄いヤツではある。

「ふーんてお前。もうすぐ何があるか分かっとるん?」

「ハロウィンパーティー」

「・・・それ、先週終わったヤツやで」

「違ったか。んじゃあクリスマスパーティーだな」

「その妙な自身はどこから湧いてくるん? ・・・文化祭や文化祭!」

「あー」

文化祭・・・11月下旬に行われるイベントだ。どうやらもうそんな時期らしい。

「しかしこの学校もお祭り大好きだよな。こないだのハロウィンに今度の文化祭。んで12月にはクリパか。詰まりすぎじゃね?」

「まぁ確かにな。でも皆がやりたいって言うんだから、やらんワケにもいかんやろ?」

「お前、いいヤツだったんだな」

「おぉ! かずピーが褒めてくれるなんて珍しいな! もっと褒めてくれてもええんやで!?」

訂正。やっぱり馬鹿だ。

「おっと。もうこんな時間か。そろそろ行かんとなー」

時間を確認した及川が席を立つ。

「かずピーはこの後どうするん?」

「どうするも何も、土曜の一般生徒は午前授業だしな。普通に帰るよ」

「そっか。んじゃまた来週な?」

「おう」

及川が居なくなった食堂で、一人ズルズルとうどんを啜る。

「・・・帰るか」

ごちそうさま。

 

 

 

 

バスを降りて、近くのコンビニで立ち読みをする。商店街のショーウィンドウを眺めながら帰路に着く。家に着くころには、辺りはすっかり夕闇に包まれていた。

「ただいまー」

おかえりー、と返事をする者は無く。

・・・いや、リビングから物音が聞こえる。何だ。居るんじゃないか。

「居るなら返事をしろっての・・・おーい」

「んお? おかえりー」

空返事だけが返ってくる。当の本人は俺に興味が無いのか、テレビから視線を逸らす様子は無かった。

「・・・」

しばらく待ってみたが、何の反応もないので冷蔵庫に向かう。そして。

「ほい」

「わひゃあっ!?」

背中に氷を入れてやった。うむ。実にベタなリアクションだ。

「ちょ、ちょっと一刀!? なにしてくれてんのー!」

「兄貴が帰ってきたのに見向きもしないからだろう。それと呼び捨てはやめろとあれほど」

「えー一刀は一刀じゃーん。じゃーどうだったらいいのさー」

若干涙目になりながらも尋ねてくる。

「そうだな・・・。ここはベタに『お兄ちゃん♪』でどうだ?」

「却下」

「何故だ!? まさか『お兄様♪』の方だったか!?」

「そういうのが駄目なんだって。あと一々裏声出さないでよ気色悪い」

「き、きしょ・・・」

凹んだ。素直に凹んだ。が、この辺の会話も日常化してきたのでまぁ良しとしてやる。

「それはそうとして蒲公英。姉貴は帰ってないのか?」

「何言ってんの? 翠お姉ちゃん、こないだからバイト始めたんじゃん?」

「あぁ・・・コンビニだったか」

この会話から分かる通り、俺には姉と妹がいる。目の前でやっと氷が取れてホッとしているのが妹の蒲公英。ホッとした表情が可愛かったのでもう一個氷をくれてやった。

この妹も小学生の頃まではお兄ちゃんっ子だったのだが、中学に上がった途端このザマである。妹キャラの運命であるような気がしないでもないが。

んで今此処にいないのが姉の翠。年齢で言うならば俺の2つ上に当たる。高校を卒業した後、何処かの大学に進学した・・・としか知らない。これは基本俺の興味が無いからなのだが。

「つっても親は仕事で遅いしな。飯どうするよ」

「知らなーい。一刀は氷でも食べてたらー?」

「お前はどうすんだよ。言っておくけど俺は飯作らないからな」

「作れないの間違いでしょ。じゃあ弁当でも買ってきてよ。はいダッシュ」

「お前はまたそうやって・・・偶には妹の手料理も食べてみたいんだけどなー?」

「あーあーお腹すいたなー」

無視。しかもこの妹、自分から動く気は全く無いと見える。

・・・まぁ冷やかしついでに行ってみるのも悪くないか。

「分かった分かった。行ってくるよ。ついでに欲しいものとかあるか?」

「別にいいよー。さっさと行って帰ってきてよ」

「はいはい」

因みにコイツのこの反応は、何か別の物も欲しいというサインだ。買ってこなかった場合、向こう1週間は不機嫌になる。

「んじゃ行ってくるよ。・・・あー。そうだ蒲公英」

部屋を出ようとして、一度振り返る。

「・・・なに?」

「『ご主人様♪』も中々の需要があると思うのだが如何だろうか」

「さっさ行け」

閉め出されてしまった。

 

 

 

 

♪♪

お決まりの入店音と共にドアが開く。時計は既に7時を回っていたが、店内にはチラホラと客の影が見えていた。

「いらっしゃいませー・・・っと、何だ。一刀じゃないか」

「姉貴お疲れさん。ホイ差し入れ」

そこらで買った缶コーヒーを手渡す。因みに姉貴は微糖までしか飲めないので勿論ブラックを買ってきた。

「ああ有り難う。後で貰うことにするよ」

気づいてもよさそうなものだが、仕事中ということもあり姉貴はそのままコーヒーをレジ下に仕舞ってしまった。

「・・・? なんだよニヤついて。良いことでもあったのか?」

これから起こるんですよ。お姉様。

首をかしげる姉を放って目的の物を探す。弁当に適当な菓子・・・それと蒲公英の件のヤツ。ついでにこれも買っておくか。

必要なものは大体揃ったので俺はレジに戻ることに。

「ホイこんだけ。頼むよ」

「はいはい。ってまた弁当か? 偶にはちゃんとしたモノ食べろよ?」

「そりゃお互い様だろ。姉貴も最近帰ってくるの遅くてちゃんと食べてないだろ」

「・・・確かにな。そういう時自分で料理出来ればいいんだけどな」

「あぁ。そりゃ確かに」

言って姉弟2人遠い目をする。そうなのだ。俺たちは揃いも揃って料理が下手なのだ。無論蒲公英もである。弁当を買うのがメンドクサイからと言って料理を作ってみろ。北郷家に血の雨が降るぜ・・・。

「俺が練習しないといけないのかねぇ・・・簡単なモノしか作れないってのもなぁ」

今はこうして家族と暮らせているが、いずれは出て行かなければならない。

その時炊事スキルってのはあった方がいいだろうし。

「面倒だなぁ・・・」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、何でも」

どうやら考え事してるうちに精算が終わっていたようだ。代金を渡して商品を受け取る。

「んじゃあな。姉貴もあまり無理すんなよ?」

「分かってるよ。一刀は相変わらず心配性だな」

ハハハと笑われる。そりゃ家族なんだから心配したくもなるっての。タダでさえこの姉には猪突猛進なトコロがあるのだから。まぁ高校を卒業してから少し落ち着いたようだけど。

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」と、姉の声を背中に受けながら店を後にする。

携帯を確認すると蒲公英からのメールが来ていた。内容は「遅い!」の一言だけだが。

「文句を言うなら自分で行けっての・・・」

他に目立ったメールは無いようだし・・・おっと、愛紗からか。

「珍しいな・・・あぁ文化祭の件か」

アイツはアイツで毒ばっか吐く上に俺をこき使うからな・・・俺が何をしたと言うんだ。

改めて考えると俺の周りにはロクな女性が居ない。何故だ。前世がとんでもない女たらしだったとかか。そのツケが回ってきたとかそういう感じか。

「くそ・・・俺に安息の時は訪れないというのか・・・」

仕方ない。最近行ってなかったし明日はアソコに行こう。俺がこの街で最もお気に入りとしている場所だ。

ふと空を見上げる。今日の天気は確か曇りだったはず。だとしたら星が見えないのも納得だ。

「明日は見えるといいな」

そんな事を呟きながら、俺は再び帰路についた。

 


 
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