No.58758

交わらない者たちの邂逅

長月 秋さん

オリジナル小説です。
魔法が使えるファンタジー世界を舞台に少年少女が登場します。

2009-02-18 00:44:46 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:468   閲覧ユーザー数:455

交わらない者たちの邂逅

 

 

 

 

校内の掲示板に掲載されていた生徒紹介録で、目にした名前の少女。

文面伝手に名前を知ってから一ヶ月ぐらいが経って、氷雨(ひさめ)はようやくその少女と対面する機会を得た。

「ありがとうございました・・・っ」

「どういたしまして!階段上ろうとしたら上から人が落ちてくるんだもの、びっくりしちゃった」

何度も頭を下げる氷雨に、センリファーナが笑い返す。

栗色の髪に、常磐色の瞳。エバーグリーンの名に相応しく、その瞳は生き生きとした生気に満ちている。

段差を踏み外した自分を、倒れながらも逃げずに受け止めてくれたセンリファーナのそんな瞳に、氷雨は好意を持った。

ひとしきり感謝の言葉を述べて、今は食堂でお礼のお茶を奢っているところだ。

「センちゃん、掲示板にかかれてた通りに頼りになるええ子やねっ」

迷惑をかける形での出会いとなってしまったが、幸いにしてセンリファーナはそれを気にしていない。

むしろ掲示板という言葉に疑問を抱いたようで、目を瞬いて氷雨を見返してきている。

濃い赤色をしたアッサムにミルクを入れて、求められるように氷雨は説明しだした。

「あのね、掲示板があるやろう?そこにセンちゃんのことが書かれとって・・・やけ、会ってみたいなと思ってたんよ」

嬉しそうに顔を緩まされては、センリファーナも悪い気がしなかった。

件の掲示板とやらはあとで覗きに行こう、と自分の中の行動スケジュールに加えて紅茶を一口飲む。ちなみにこちらはダージリンだ。

「そっか。・・・それにしてもヒサメ、具合とか悪いの?寝不足?」

階段から落ちたことをさしているのだろう。

問う言葉には氷雨を気遣う気持ちが込められていて、氷雨は真紅の瞳を細めた。無意識に首に下げているサングラスに指先を触れさせて、頭を振る。

「違う、んよ。私アルビノやけ、階段上っとったら窓から光がさしててな、眩しくてよろけてしまったん」

「あ、だからサングラス?」

氷雨が無意識に触れていたサングラスに視線が行っていたのだろう、センリファーナは納得したように指差した。

華奢な氷雨にそのサングラスはちぐはぐなイメージがあり、もともと目に付いていたのだ。

「校内ならかけんでも平気かと思っとったんやけど・・・早く、治癒魔法覚えたいな」

治癒魔法?とセンリファーナは首を傾げた。

氷雨の胸元で結われたタイの色は確かに魔法学園の、治癒魔法を学ぶ癒治学科に在籍する生徒のそれだった。

しかしそれとアルビノである氷雨とがどう繋がっているか彼女にはわからない。

それを察した氷雨は苦い笑みを浮かべて、自分が世界に名高い魔法学園へ入学した理由を述べた。

 

色素がなく、外に出られなかった幼少期。

ひっそりと薄暗い森の深く、光から逃げるように一人で暮らしていた氷雨は、それでも太陽に憧れていた。

太陽の光が、平等に、すべての者に与えられはしないことを幼くして氷雨は知っていた。

与えて欲しいのなら、待っているだけではだめなのだ。

前へ、前へ。血が滲むほどの努力をしなければ、きっとそれは得ることができない。

 

「私、太陽が見たい。皆と一緒に、晴れた昼間に肌をさらして遊んでみたい」

 

独断で治癒魔法を学び続けていた。

難しい蔵書を必死に読み解こうと、それこそ日夜関係なくかじりつくように読み続けた。

アルビノが治癒魔法によってその体質を改善したと言う文献はどこにも見つからなくて、それでも氷雨は諦め切れず、学び続けた。

『ねえ氷雨。前例がないのなら、氷雨が作り上げるしかないと、ぼくは思います』

古くから付き合いのある自称親切な魔法使いがそう言った。

空間転移という難易度の極めて高い魔術を使う魔法使いだったが、氷雨の体質を治してはあげられない、と言った。

そして彼は、魔法学園への入学推薦書を氷雨に手渡したのだ。

 

「人のため、とかやないの。全部自分のため。褒められた入学理由なんかやない。でも・・・私は諦めたくないの」

言い終えて紅茶を飲み干した氷雨を前に、センリファーナは考え込むようにして黙していた。

訝るように自分を呼ぶ声にも、彼女は気付かずに何かを悩み、決断しかねている。

「―――・・・とは、絶対・・・なのよね、ああ、でも。・・・・・・・・・長老衆が・・・・・・ム様に・・・」

「センちゃん?センちゃん・・・っ!」

氷雨はセンリファーナの肩を揺さぶった。そのゆるい動作にセンリファーナは常磐色の瞳を丸くして氷雨を見つめ返した。

見つめた先の真紅の瞳は、急に考え込み呟きだしたセンリファーナを心配している。

それを見て――センリファーナは、決意した。

「会おう、ヒサメ!」

「、へ?」

がしぃっ!と華奢な少女の肩を掴んで勢いよく言っても、当然ながら氷雨には何のことだかわからない。

「そうと決まったらのんびりお茶なんか飲んでらんないよね!」

がたがたっ!と勢いよく立ち上がって、ついでとばかりに腕を掴まれ立ち上がらされても、やはりわからない。

腕を引かれながらついて行けば、周囲からは奇異の眼差しが向けられている。

「せせっ、センちゃん・・・っ!どこ、どこ行くんっ?」

 

立ち止まり、振り返ったセンリファーナは、とても嬉しそうに笑った。

 

「―――私の上司のところ!」

 

 

 

 

 

 


 
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