No.58618

Memory Rigrett

Haru0321さん

記憶を辿って

紡がれていくお話

少女は笑った

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2009-02-17 03:23:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:395   閲覧ユーザー数:369

 

初めてだった。忘れていた記憶を取り戻した。

その時に、ひとつだけ思い出せないでいた人が居た。

それはきっと、私の大切な人だ。

 

それなのに、私は今でも思い出せないでいる。

そして昨日。

 

初めて彼の顔を繊細に思いだすことが出来た。

いつも思いだそうとすると、彼の顔は闇で包まれてしまう。

昨日は違ったのだ。

 

私を優しい声で呼びかけてくれた。

私の名前を何度も呟いてくれた。

だけど私は返事を出来なかった。

答えても彼は微笑むだけ。

 

 

「あなたの名前は何?」

 

何度問うても彼は微笑んだまま。

私は今日、古い友人を訪ねてみることにした。

もしかしたら彼女は知っているかもしれない。

 

 

ドアを何度かノックして、彼女の家へと踏み入れた。

彼女は快く出迎えてくれた。

 

レモンの入った紅茶と小さくて甘すぎないクッキー。

お盆にそれらを載せて彼女は私の居るソファに戻ってきた。

 

 

「私に、大切な人はいたのかしら」

 

 

私は紅茶の表面に映る自分の惨めな顔を眺めた。

大切な人さえ思い出せない私は、きっと最低な人間だ。

 

どうして私が事故に合ったんだろう。

私でなくてはいけなかったはずはないではないか。

 

すると彼女は口を開いた。

とても重そうに、ゆっくりと話し始めた。

 

 

「思い出せないのね」

 

哀しそうに言う彼女は、言った。

砂糖の二つ自分のカップに入れて、彼女は続ける。

 

 

「彼はね。あなたの恋人だったのよ」

 

 

その言葉に、あまり驚きはしなかった。

でもどうして、私はその恋人を思い出せないのだろうか。

 

「一年前にあなたを守って亡くなったわ」

 

躊躇しながら彼女は告げた。

私は何も言えずにいた。

 

 

「ありがとう」

 

私はそう言って家を出た。

一人になりたかった。

 

だから、私は記憶を思い出せなかったのだろうか。

彼が、亡くなって辛かったから、思い出せないのだろうか。

 

勝手に、頭がそれを拒んでいるのだろうか。

いつになれば私はその囚から抜け出せるのだろうか。

 

 

「さようなら」

 

 

丁度、空には星が輝いていた。

流れ星は、待っていても来ない。

 

 

 

自分から、掴みに行かなければ。

 

早く、早く。

 

君を探し出さなければ。

 

 
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