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恋姫†無双  関羽千里行 第3章 22話

Red-xさん

関羽千里行の第3章、22話になります。 この作品は恋姫†無双の2次創作です。 設定としては無印の関羽ルートクリア後となっています。
更新を一週間勘違いしておりました...真に申し訳ありません。
前回に引き続き今章の導入+αになります。
それではよろしくお願いします。

2013-06-04 20:52:33 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2282   閲覧ユーザー数:1877

第三章 22話 ―夕焼けに染まる世界―

 

??「...どうも。」

 

一刀「?どうも...?」

 

 街を歩いていた一刀はたまたま道に商品を広げて座っている人物と目があってしまった。それは先日あの狂気の食べ物を食していた人物だった。ただ、相手からは好意から声をかけてきたと言うよりは目があってしまったから仕方なく挨拶をしたといった意図がスケスケであった。

 

一刀「そういえばあの時は自己紹介もしていなかったね。俺は北郷一刀。君は?」

 

??「...存じております。私は李于と申します、太守様。」

 

一刀「姓が李で、名が于さん?」

 

李「そうですが。どこかおかしいですか?」

 

一刀「いや...じゃあこれからよろしくね、李さん。」

 

李「...よろしくお願いします、太守様。」

 

一刀「そんなに畏まらなくても...」

 

李「...」

 

 無言にじっとこちらを見つめる李さん。...もうそれでいいです。何を考えているんだろうと一刀が頭を悩ます一方で、李于こと楽進は、

 

李(楽進)「(気づかれた様子はないか...しかし、まさかこの御仁がこの国の支配者だったとは思いもしなかったが...)」

 

 あの後、再び店を訪れた楽進は、一緒にいた人物の正体を店主の口からたまたま知ることになった。それから情報収集を兼ねてこの町の住人に北郷一刀について訪ねてみたのだが、皆が口をそろえて言うのは、「徳が高くて親しみやすい」ということだった。普段から曹操という王を見ている自分からすれば、徳が高いというのはわかるとして、親しみやすいと庶人に言われるような人物がこれほどの力を持っているのはどこか違和感があった。というのも、この目の前の男性からは王者の持つとされる覇気が全く感じられないのだ。

 

一刀「ところで...なんでこんなところで商売を?」

 

李(楽進)「あ、ああ...」

 楽進は一刀の言葉に自分の置かれている状況を思い出す。二人がいる通りは決して人通りが多いとはいえない。確かに、商売人としてはこんな場所で商売をすることは間違っているだろう。しかし、楽進にとっては間諜としてこの街に来ている以上、本気で商品を売る必要はないし、むしろ商人としてこの街に留まるには在庫を抱えていた方が何かと都合がいい。そう判断してのことだったが、やはり見る人が見れば違和感があるのは間違いなかった。

 

李(楽進)「まだこの街にきて日が浅いもので...」

 

 とっさにそう答えるとふーむと何か考えるような仕草をすると、

 

一刀「ちょっとついてきてもらってもいいかな。」

 

 まさか引き出されるのかと警戒していた楽進だったが、楽進が連れて来られたのは一軒の民家だった。一刀は軒先でここで待つよう楽進に告げた後、その民家の中へと消えていった。何かを話しているのが薄っすらと聞こえるが内容まではわからない。ただ、状況から考えて正体がバレて牢屋にいれられるようなことはあるまい。そう判断した楽進はおとなしくしていることにした。するとしばらくして、一刀を伴って一人の寡黙そうな初老の男性が出てきた。

 

男性「アンタ?ブツは?」

 

李(楽進)「ブツ?」

 

一刀「李さんの商品を見せてくれって言ってるんだと思うよ。」

 

 意図が伝わっていないと見た一刀がそうフォローをいれる。

 

李(楽進)「ああ、そういうことですか。」

 

 楽進は背中に背負っていた荷を下ろすと、そこから一つを取り出した。竹籠である。

 

男性「ふむ。」

 

 その男性は竹籠を受け取ると、ひっくり返したりしながら注意深くそれを観察し、ひと通り見終わるとそれを楽進に返した。

 

男性「明日の朝、ブツ持ってまた来な。じゃあな。」

 

李(楽進)「は、はぁ...」

 

 合点のいっていない楽進をおいて、その男性はさっさと屋内に戻っていってしまった。

 

李(楽進)「どういうことですか?」

 

一刀「ああ、説明してなかったね。今のは...」

 

 旅の商人が増えるのはいいことだが、商売をしようとすればどうしたって皆人の通りが多い場所を使いたい。そういう旅の商人の間での場所の取り合いが騒動に発展することもある。先ほどの男性はこの辺りのそういう商い場を争いが起きないように取り仕切っている組合の棟梁で、商品を見せてくれといったのは商品の質を見定め置きたかったからのようだ。

 

李「それで私は結局どうなったのでしょう?」

 

一刀「うーん、これは前に聞いた話なんだけど。あの人のところに一度、南蛮で仕入れたって言って麻竹をもってきた人がいたらしいんだ。それが実際にはそこら辺に生えてるような代物で、見た途端に突っ返されたらしいよ。こんな商品をこの街にくるお客に買わせる訳にはいかないって。他にも場所を融通してもらおうとしてあの人のとこにお金を包んでいった人がいたらしいんだけど、それを出した途端、儂を馬鹿にしとるのか!ってすごい剣幕で怒られてすぐに叩き出されたらしいよ。後日、謝った上でちゃんとした手順踏んで商品を持って行ったら、ちゃんと場所を割り振ってもらえたらしいけど。それくらい真面目な人だから、明日来いって言われたってことは李さんの商品を品定めした上で、ちゃんと場所を貰えるんじゃないかなぁ。」

 

李(楽進)「そうなのですか。便宜を図って頂きありがとうございました。(一介の商人にこんなことをするなんて...この御仁は世話好きなのか?)」

 

 そんなことを裏で考えていると、

 

一刀「いいって。それよりこの後何か用事があったりする?」

 

李(楽進)「いえ、特にはありませんが...」

 

 急に尋ねられそう答えるも、

 

一刀「そうか、それはよかった。ならまだ日も浅いって言ってたし、街を案内するよ。」

 今この時だけは、そう答えたことを後悔したのであった。

 

霞「なぁ、愛紗ー。鍛錬しよ、鍛錬。」

 

 小脇に書類を抱え、城の廊下を歩いていた愛紗の後ろから、霞が腕をブンブンと振り回しながら声をかけてきた。表情はいつもの様にニコニコしているが、その体からは有り余るほどの闘気が感じられた。

 

愛紗「ほう、なんだ今日はいつもよりやる気があるじゃないか。」

 

 そんな姿を見せられれば武人としての血が騒ぐというものだが、生憎愛紗は雑務に追われている最中だ。生真面目な愛紗はこれからの事務作業を考え内心少し残念に思いながらも、目の前の彼女に応対する。

 

霞「だって、折角久しぶりに暴れられるー思っとったのに、ウチはお留守番やろ。なんだかお預け食らったみたいでモヤモヤするんや。」

 

愛紗「まあそれは私も同じだ。だが、軍師殿の采配であれば仕方あるまい。最近は何かと物騒な噂もあるしな。」

 

 愛紗の仕事が増えるのはそういった理由から警邏の体制の見直しなどの仕事が回ってくるからだ。雛里いわく、間諜の出入りが行われている可能性も高いとのことだが、正直旅の商人などに扮して紛れ込んでいるような輩を看破することはほぼ不可能だ。それこそ、各宿泊施設を回って室内を引っ掻き回すくらいの勢いでなければ見つけることなどできないだろう。

 

霞「ああ、反董卓連合に参加した諸侯が潰されてるってやつやろ?連合に参加した中にはウチらだけやのうて曹操とか孫策とかもおるし、その喧嘩売っとるんはホンマにアホちゃうんかな...」

 

愛紗「だが今まで捕まったことがないということは、相当の手練ということだろう。我らもしっかりと警戒しておかねばならん。」

 

霞「せやな。だとしたら、一刀なんか見つかった途端に瞬殺やろうしなぁ。」

 

愛紗「...悪いな、霞。ちょっと用ができた。」

 霞のその一言に、愛紗の頭の中からはこれからしなければならない書類作業などは一瞬で吹き飛んだ。今頃彼は街にいるということだったろうか。

 

霞「愛紗、さすがにそれは分り易すぎるで。」

 

愛紗「な、何がと言うんだ!わ、私は別に一刀様のことが急に心配になったりなどしてないぞっ!」

 

霞「はぁ。」

 

 忠心ここに極まれりといったものだろうか。霞は愛紗の過保護とも言えるその様子に軽い嫉妬も覚えたのであった。

 

日もすっかり傾いてきた頃、雛里ら一行は軍事演習という名目である場所に向かっていた。雛里は今回の行動のためにあらゆる手を回していたため、誰にもそれを怪しまれるようなことはなかった。

 

祭「本当にいいのか?」

 

 荒野を行軍する馬の背中で揺られつつ、横を進む雛里にそう言い放つ祭。その言葉に、

 

雛里「...はい。今回だけは可及的速やかに対処しなければいけませんから。」

 

軍師雛里は前を見据えたまま、決意のこもった瞳でそう答えた。実際、自分が行動を起こさなくても最終的には事を構える結果になる。ならば、最高の機会に最小限の被害でことを処理するのが最善だ。彼には怒られるかもしれないが、その時の罰はいかなるもので甘んじて受けよう。それが彼という翼をこの大陸に羽ばたかせるのに必要なのであれば。そう判断した雛里に迷いはなかった。

 

祭「ならよいが。しかし、お主が賛同するとは思わなんだがな。」

 

 同じく隣を行く人物に声をかける。その言葉に対し、その人物はただ淡々と前を見据えたまま、

 

思春「あのお方はお優しすぎるところがあるからな。その分、こういう汚い役をやるのは私の役目だ。」

 

 そう答えた。彼女も、一刀を慕っているからこそ、彼のためにこのような役回りを受けいれられるのだろう。

 

祭「まあそれもあやつの良いところじゃがな。今回に関してはそれが仇となったが、そこはお主の言うとおり、儂らで補えば良い話じゃな。じゃが、本当に儂らだけでどうにか出来るものなのか?」

 

雛里「はい。情報が確かならこれだけいれば遂行には十分です。」

 

祭「お主がそう言うなら信じるが...(追ってこいよ、北郷。何か嫌な予感がする。)」

 祭は一度だけ、自分たちが歩いてきた方角を思いやる。一行はただ黙々と赤く染まる荒野を進んでいくのだった。

 

李(楽進)「今日は有難うございました!私のようなものに太守様自らここまでして頂いたのは、少し気がひけるのですが...」

 

一刀「良いって。これで君がこの街を好きになってくれて、旅先でこの街のことを話してくれればそれだけで利益になるからね。」

 

 日が傾いて街中が真っ赤に染まる中。したり顔でそう答える彼を見た楽進は、この人物は本心ではそんなこと二の次なのだろうと理解してしまった。美味しい甘味屋により二人で入ったり、またいつぞやの飯店に二人で入ってまた騒ぎが起こったり、話しかけてくる子どもたちと一緒に戯れたり。間諜として日々任務に緊張感を持ってあたっていた楽進にとっては、そんなどこにでもありふれているような時間がとても貴重に感じられたし、純粋に楽しかった。この感覚は自分たちの街で、あのワイワイ騒ぐ二人と一緒に出歩いている時とも似ていた。

 

 そこへ、

 

??「か~ず~と~さ~ま~?」

 

一刀「ギクッ!?」

 

愛紗「何がギクッ、ですか!全く、近頃は物騒だから早めに戻っていただくよう、あれほど申し上げたではありませんか!それに!この女性とはどういう関係で?!」

 

一刀「まだ夕方だよ!?この人は旅の商人でまだこの街に来て日が浅いっていたからちょっと案内を...」

 

愛紗「ほう?一刀様は街に来た商人は皆案内なさるので?それならいっそ街の入口に居でも構えて仕事なさったらどうです?」

 

 ジト目で見つめつつそう追い詰めてくる愛紗にオタオタする一刀。その光景を見た楽進は二人の関係も気にはなったが、それ以上に、

 

李(楽進)「(この者...鍛え抜かれた体、それにうちに秘めた気力。春蘭様と同等か、もしやそれ以上...?)」

 

 新たに現れた人物の力量に驚愕していた。ここに来る前の資料に黄巾の大群を一人で蹴散らしたという旨の眉唾ものの報告があったが、これほどの武人がいるならば、それもあながち嘘ではないかもしれないと楽進は感じ取っていた。しかし、他人の力量が推し量れるのは相手も同じで、

 

愛紗「はぁ。ところで貴殿、中々の使い手と見えるが...我が軍に仕官する気はないか。貴殿ほどのものならそれなりの待遇は用意できよう。」

 

李(楽進)「いえ、私はただの商人ですから...武と言っても野盗から身を守るために身につけたものですし。」

 

愛紗「それは残念だな。一度手合わせだけでもしてみたかったが。」

 

一刀「え?李さんってそんなに強かったの?凄く所作が綺麗だなぁとは思ってたけど。」

 

愛紗「見てわからないようなら、一刀様もまだまだ鍛錬が必要ですね。」

 

一刀「はい...」

 

 少し旗色が悪くなってきたようだ。ここは戦略的撤退が最善と判断した楽進は、

 

李(楽進)「それでは、私はこれで失礼します。太守様もお気をつけてお帰りください。」

 

一刀「あ、ああ。ありがとう。警邏の人もいるけど夜外を出歩く時は李さんも気をつけてね。」

 

李(楽進)「ご忠告痛み入ります。それでは。」

 

 去っていくその背中を見送る傍ら、

 

愛紗「あれで商人とは...世の中とは不思議なものだ。いや、商人があれほど鍛錬せねば身を守れなくなるほど世が荒れていると考えるべきか。しかし、彼女ほどの人物が我が軍に加わってくれれば、中々に心強かったのですが。」

 

一刀「そういえば、探しに来たってことは何か問題でも?」

 

 一刀は巡り巡ってまた再燃しないように話をふる。それに、愛紗は夕日で既に赤くなった方をさらに赤くすると、

 

愛紗「いえ...最近は物騒な噂もありますし...」

 

一刀「心配して探しに来てくれたのか、ありがとう。」

 

愛紗「...貴方に何かあってはいけませんから。」

 

 そう言って二人で城への帰路につく。だが、愛紗の要件はそれだけではなかったようで、少しの間くらい顔を浮かべていたが、やがて口を開いた。

 

愛紗「雛里のことですが...」

 

一刀「ああ。可能性としてはありうる...もしもの時のために、すぐに動ける用意だけはしておいてくれ。」

 

愛紗「御意。」

 

一刀「杞憂であってくれればいいんだけどね...でももしそうなったら、中々決められない俺に責任があるんだけど。」

 

愛紗「...情報が揃ってから万全の体制で臨みたいというお気持はわかります。それに、戦乱の時代にあって、本人に死ぬかもしれないからまだ行くなと言ったところで無理でしょう。」

 

一刀「そうだね。」

 

 いつもは綺麗な夕焼けに染まる世界も、この時は少し不吉なものに感じられた。

 

―あとがき―

 

いつも読んでくださっている方は有難うございます。最近タイトルをつけるのにえらい時間がかかるれっどです。こういうのつけるの得意な方がいたら、お手数ですがなにかヒントをくださいまし;

 

 前回に続き、この章のさわりの部分になります。一応補足しておくと、前回からはそこそこ日が経っているということになります。にしても楽進の偽名安直過ぎますね...戯志才とかかっこいいのが付けられればよかったのかもしれませんが、考えるのが凪さんだと考えるとこんなかんじになるのかなぁと思ってみたり。 ちなみに戯志才はこの時点ではまだ魏軍には加わっていません。全員上げるとキリがないのでしませんが、名前が上がっている人以外はだいたいまだ野にいると考えていただければ。華琳社長に根こそぎ取られないようにしなければ。

 

 今月、少し大事な用事があるので、更新が来月頭になるかもしれません。そうでない場合はなんとかまた再来週辺りにあげたいと思います。更新があやふやで申し訳ありませんが、暇な時にでも読んでやってくだされ。それでは次回もよろしくお願いします。

 


 
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