No.578827

マクロスF~とある昼行灯の日常~

これっとさん

外伝シェリルシリーズ後編の前半です。ストーリー自体に関わりはありません。


注意:「なろう」の時よりかなり変わっています

2013-05-22 00:25:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:8547   閲覧ユーザー数:7823

【シェリル外伝後編①】

 

 

 

あれから数週間が経った。

ダイチの捜索状況ははっきり言って芳しく無い。

何故か?

私が、ダイチのことを知らなさ過ぎていたから。

 

ダイチが勤める会社、ダイチの行き付けの店、ダイチの趣味、ダイチの嗜好、ダイチの性へ……っと、これは違うわね。一番知りたい事項ではあるけれど。

無一文のまま、外で生活しているのかしら?働いているところに、少しは融通をきかせてもらっているのかしら?

ちゃんと食べてる?風邪引いていない?お風呂にはちゃんと入ってる?

 

 

………ダメ。ダイチのことを考え始めたら時間が経つのも忘れてしまう。

そんな状態の私、でも仕事をおろそかにするわけにはいかない。

私はシェリル。シェリル=クロガネなんだから!ダイチと同じ、ラストネームに傷をつけるわけにはいかない

 

そう頭では思っている。

思っているのだけど…

 

「……逢いたいよ、ダイチ……」

 

どうしても、心がついていかない。滑るように口から感情が出てしまう。

何かにのめりこんでいないと、すぐこうやって…

 

 

「シェリル?そろそろラジオ番組の生放送よ?今回で4回目で軌道に乗ってきているし、いつもの調子でお願いね?」

 

「えぇ、分かっているわ。グレイス」

 

「………」

 

 

待機部屋の外から声をかけてくれたグレイスにも捜索を手伝って貰っている関係上、彼女の顔色も芳しくない。常に私の傍にいるから顔には絶対出さないのがグレイスらしいわね。

そっか、ラジオか…

……

………ん?

今日のお題は確か…

これは賭けね。ダイチがラジオを聴いているかどうか分からないけど、行方が分からない以上手段を選んでいられないわ。

 

お願い、神様。

一つだけ。たった一つだけの、私の願い。

私にとっての希望の紐。

どうか、今夜の放送をダイチが聞いていてくれますように…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、娘娘です。差し入れに来ました」

 

 

おろ?珍しいな、娘娘の店員さんが事務室まで来るって。

普通、肉体派が屯ってる武道場とか、警備の詰め所とかに行くんだが。

ま、そこは気にしても仕方無ぇ、特に反応することなく、デスクワークに励む。

 

ふむ、2週に1回の休みと。新入り達大丈夫かよ?

ま、オレが気にする必要ないか。っと、良し。これで最終チェックも終わったことだし、少し休憩してお茶でも…

 

 

「どわっ!?」

 

「……」

 

 

ちゃ、チャイナ服の女の子がオレのすぐ後ろに立ってやがった。

びっくりするわ!何で無言で佇んでんだよ?!

 

 

「………」

 

「…あ~…オレに何か用?」

 

 

ピクリと肩を震わせる反応を返してくるが、その後は再び無言。

周りの奴らも手を動かしながらもこちらをちらちら窺ってやがる。くそ、何でオレがこんな目に。

 

 

「5年前」

 

「え?」

 

「…5年前…私達を助けてくれた、よね?お礼が言いたかったの」

 

 

5年前…?

あー…確かテログループが急にドンパチやらかしたせいでS.M.S.の初動が急遽動くことになって。

んでオレが人員に欠があったスカルグループに叩き込まれて現場に向かったんだっけ。

でも、オレ何かしたっけ…?

 

 

「背中」

 

「あ、こら」

 

 

ジャケットを脱いでいたせいでTシャツ1枚だったオレの後ろに回り、めくりあげる彼女。

背中には、オレの、5年前の贖罪がそのままの形で残っている。

ある家庭の、親御さんを幼い兄妹の目の前で死なせてしまった…贖罪。

 

女の子が見るにゃあ刺激が強すぎんじゃね?

裂傷がそのままの形で残ってるはずだしな。

しかし、な。5年前、お礼、背中のことを知ってる、ってことは…

 

 

「…もしかして、ブレラの妹さん?」

 

「…」

 

 

背中越しに、彼女が頷いたのが分かった。

 

 

「私の名前…ランカ。ランカ=スターン」

 

 

まさか名前を教えてくれるとはな。ならオレも名乗らなきゃな。

 

 

「ランカちゃん、か。こんな体勢だけどオレも。鉄 ダイチってんだ。よろしくな」

 

「…うん」

 

 

空気に触れたままの背中に、温かい何かがくっついた。

さらさらした感触に、柔らかい…何か。

 

 

「…あったかい」

 

「へ?まさか…ってちょちょ、ちょっと?!」

 

 

な、何してくれてんですかこの少女は?!

急いで離れようとするがランカちゃんがなかなか離れてくれない。

むしろ、オレの腰に手を回して抱きついてきた。傍から見てもヤバイんじゃねぇかコレ。

上半身めくり上げられて少女に背中をほお擦りされてる30近いおっさん…

やべぇ、オレだけが警察行きだわ間違いなく。

 

急いで離そうとするオレは、彼女の一言でぴたりとその動きを止めた。

 

 

「今、困ってる…?」

 

「へ?い、いや?あ、今のこの体勢はちょっと困るというか何というか」

 

 

固まってるオレ、んでこっちを凝視している周りの奴らを尻目にランカちゃんは真剣な声で聞いてくる。

 

 

「今、何かに困ってるんでしょ…?ブレラ兄さんから聞いた」

 

「………」

 

「何か、私達に出来ることがあれば何でもする。言って?」

 

 

……ははっ。

 

上手く誤魔化していたつもりだったんだが、この兄妹には何かあったって筒抜けだったってことか。

にしてもブレラめ、昨日あれだけしか接点無かったのにどうやって見抜いたんだか。

それともただ単に、オレが分かりやすいだけかもしれん。

でもよ、数週間で生活は一変したが、『困る』ってほどじゃねぇ。

寧ろ、誇らしい気分だな。

 

 

「ランカちゃんよ」

 

「…?」

 

「オレぁ、困ってんじゃねぇんだ。今、今までの自分とは違う自分を作ってんだわ」

 

そう、上手く言えんが、そういうことだと思う。

 

「シェリル…あー、オレの義妹がよ、こないだ立派に成長したって結果を見せてくれてな」

 

 

ん、あれはホントに感動モノだった。

 

 

「引き取った時にはオレの後を着いてまわってた女の子が…な。歳をいくつも食って無ぇ女の子が、自分自身の力で道を切り開いていったのを、オレは一番近くで見てた」

 

 

そのうちオレの心の中に、彼女に対する羨望、そしてライバル心が生まれた。

 

 

「こんなちっちゃかった子が、ここまで成長できたんだ、育て親のオレが成長しなくてどうする、ってな」

 

 

だから、オレはオレを『作る』。

今までの、子離れ出来て無ぇような親の立場から、一人の男として。

 

 

「てな訳だからよ、ランカちゃんもあんま気にすんなよ?今のオレの状態はオレが望んで作ったんだからよ。ブレラもそうだし、気にしすぎなとこは兄妹揃ってやっぱ似てんな。あっはっはっは」

 

「…ダイチさんが気にしなさすぎ…」

 

「ぐはっ」

 

 

ランカちゃん、おじちゃんに対して容赦ないですな。

ま、ようやく離れてくれたことだし後はデスクワークの続きでもしますか。

 

 

 

「…聞いてた?ブレラ兄さん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、今週も始まりました『シェリル・フロンティア・ネットワーク』。聴いてくれているリスナーの皆のお陰で、今回4回目を迎えることができたわ。本当にありがとう。今日も2時間、私がフロンティアに住む皆の情報の発信源となってお送りするからきちんと聴くこと。良いわね?」

 

 

やれやれ、アイツの妹も随分と出世っつーか、メジャーになりやがったな。

たまにはこうやって残業しながらラジオを聴くっつーのも良いもんだな。新しい発見があるし、何よりこの『S.F.N』は他人では無い奴がMCをしているってだけで聴いてみようって気になる。最初から聴けたオレは相当運が良いはずだ。

 

ダイチの野郎は…ふっ、只管デスクワークに励んでやがるな。

ジェフリー社長に恩があるってのは聞いているが、毎日遅くまで残業し、各部署に調整に行き、そしてオレと体術の訓練もこなす…これを10年近くも続けているのだ。

オレにはとても真似できん。何がお前をここまでしてるんだ?

 

 

『それじゃあ、今週のお題は【片思い】について、ね。フロンティアの皆、特に女性のリスナーから多くのお便りを頂いているわ』

 

 

っと、今回はオレにはあまり向いてない話題のようだな。

キャシーと結婚してもう5年経つが未だに新婚のような感じだからな。

 

 

『まず1通目ね……PN【配食娘】さんからのお便り。…私はとあるところの食堂に勤めています。男性の多いところですから好奇の視線を沢山あびているのですが、その男性人の中で唯一、そういった視線を向けない人がいます。私はその人の番になるとちょっとサービスして多目に盛り付けます。前の人と明らかに量が違うのですが、その人は全然気づいてくれません。最初はちょっとした興味からだったんですが、段々と本気になってきている自分が居ます。これって、片思いですよね?どうにかその人に、自分の気持ちに気づいて欲しいのですが……うん、普段からの言動で内面から好きになっていったって事ね。素敵じゃない!こういった男性って普段ボケボケってしている気がするから、ガンガンアタックしなくちゃ。個人的に呼び出して直接伝えるのが一番良いかもね。頑張って!』

 

 

かぁっ、こんな話題が2時間も続くのかよ。明らかに女性向けのお題だな。

 

おっと、ちっとは終わらせておかないとダイチの野郎にどやされちまう。

ちっと集中するか。ラジオはつけたままだが支障は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、これで今日の放送の最後となったわね。リスナーの皆、メッセージを沢山送ってくれてありがとう。時間の都合上、読み上げてあげれなかった人もいるけど、そこはガマンして頂戴」

 

 

約1時間45分、その全ての時間を使い、今回の放送分『片思い』の紹介を終えることができた。皆、それぞれが心の中に苦しく、そして甘酸っぱい想いを持っているっていうことを実感できて本当、心強い。

 

これから私がやること、それはデビューしたてのアイドル歌手としてタブーなのかもしれない。

でも…私は逃げたくない。

 

 

10年かかって気づいたこの想い…どうか届いて。

 

 

「ここで少し、私の話をしても良いかしら?」

 

 

室外では、プロデューサーが焦ったような表情でこっちを見てる。

予定に無いのだから当たり前ね。

 

 

「みんなの話を聞いていて、あぁ、私も同じだったんだなって思うことがあったの」

 

 

記憶から溢れ出す、彼との想い出。

 

 

「私にはね、小さい頃から傍にいてくれた人がいる、いえ、いたの」

「私は、あの人がいたから歩いてこれた」

 

 

そう、引き取ってくれて滅私の覚悟で私と向き合い、育ててくれた。

そしてずっと守ってきてくれた。

 

 

「私は、あの人がいたからシェリルとして、シェリル=ノームとしてのデビューができた」

 

 

妖精、をイメージしてつけた芸名。

架空の世界では、ノームという妖精は地を守護する。

そう、『大地』を。

 

 

「でもね、その人は私がデビューしてから、自分がいると色々と迷惑がかかるからって姿を消してしまった」

 

 

これは私の意志。

誰にも譲れない、断固たる鉄の意志。

今まで守られっぱなしだった彼を、これからは私も守る。支える。

 

「今、どこにいるのか、何をしているのか、そして何を思っているのか。私には分からない。それが辛い」

 

 

いなくなってから気づく、大切なもの。

それを取り戻したい。

 

 

「今日紹介したリスナーの皆、そしてメッセージをくれたリスナーの皆には分かってもらえるわよね」

 

 

言ってて、自分にあまりに都合のいい考え方に苦笑が出てしまう。

いつから私はこんなに我侭になったんだろう?

 

 

「今日、今この時、ラジオを聴いてくれているかもしれない、その人へ、私からのメッセージ」

 

 

お願い。

この想い…フロンティアを巡ってあの人へ届け。

 

 

「逢いたい。逢って顔を見たい。逢って話がしたい。逢って…私を見てもらいたい。10年の場所で待ってる…いつまでも…」

 

「…なんてね。

今日は片思いってテーマだったから私も色々と考えてみたんだけどどうだったかしら?まぁあまりにも荒唐無稽だったかしらね。…さて、次回のテーマは、『私の仕事』について、よ。来週も2時間、生放送でお送りするからどしどし送って頂戴ね。………それじゃ、また来週。BYE♪」

 

 

…ふぅ、これで良いわ。

さて、と。後は向こうで怖い顔してスタンバイしてるプロデューサーに謝りに行かなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~~~…!」

 

 

デスクワークで鈍った身体を背伸びする。

バキバキと身体の節々から聞こえてくるがそんなに長くやってたっけ?

時間は…げっ、もう10時近ぇし。

 

 

「お、おい!ダイチ!?」

 

「んあ?」

 

何だ?オズマの野郎かなり慌ててやがんな。

しきりに手招きしてる奴のデスクへと移動する。

 

 

「何だってんだ、一体?」

「良いから黙って聴け!」

 

 

ラジオ?ったく、仕事中にんなの聴いてやがったんか。しょうがない奴だ。

 

 

『私にはね、小さい頃から傍にいてくれた人がいる、いえ、いたの』

 

 

この声は…シェリル?

驚いてオズマの方を向く。奴は黙って頷く。どうやら間違い無ぇみてぇだな。

 

 

『私は、あの人がいたから歩いてこれた』

 

 

あん?何言ってやがんだ?お前ぇは自分自身の力で歩んできたじゃねぇか。

ま、まさか彼氏でもいたんか?うわ、こいつぁちょっとショック。

 

 

『私は、あの人がいたからシェリルとして、シェリル=ノームとしてのデビューができた』

 

 

シェリル=ノーム?ははっ、名実ともに他人になったな。

 

 

『でもね、その人は私がデビューしてから、自分がいると色々と迷惑がかかるからって姿を消してしまった』

 

 

ん?

 

 

『今日紹介したリスナーの皆、そしてメッセージをくれたリスナーの皆には分かってもらえるわよね』

 

 

どういうことだ?

 

 

『今日、今この時、ラジオを聴いてくれているかもしれない、その人へ、私からのメッセージ』

 

 

ちっと待て…何かがおかしい。

 

 

『逢いたい。逢って顔を見たい。逢って話がしたい。逢って…私を見てもらいたい。10年の場所で待ってる…いつまでも…』

 

 

がりがりと頭をかく。そうじゃねぇとオレの頭はパニックでどうにかなりそうだ。

前からいた彼氏、じゃなくて、んで10年育てた、傍にいたってことは…

オズマがラジオを消し、こちらを注視してくる。

そして、オレの椅子にかけてあったジャケットをオレに放り寄こした。

 

 

「ダイチ、今日のところはコレで帰れ。帰る場所は…分かってんな?」

 

 

何神妙な顔して言ってやがんだよ。

オレには帰る場所なんざ…

 

 

「ダイチよ。お前の考えも分からんでもない。だがよ」

 

 

そう言って、オズマはラジオの方へ視線を投げる。

 

 

「考えられるか?今や人気絶頂の彼女が、ああやってラジオの生放送で感情をぶちまけたんだぞ…後の方のフォローはどう考えても後付けだ。彼女は今、お前に正直に感情をぶつけてきている」

 

「だったら…育ての親として、兄としてでも良い。お前も、正面から向き合うんだ」

 

 

バタン!

 

オズマの言葉が切れるのを待ってたかのように、一人の青年が室内へと入ってくる。

 

 

「お待たせしました、ダイチさん。さぁ、行きましょう」

「ぶ、ブレラ?お前ぇ何でここに」

「話は車内ででもできます。さ、早く」

 

 

お、おぉお?はっきり言って意味分からん。

何がどうしてこうなった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふふっ、どうやら上手くいったようね。

できるだけ自然に、そして少し強引に計画を立ててみたのだけど概ね計画通り進めたのは僥倖だったわ。

 

 

私はブレラ君とランカちゃんを呼んだ後、すこし協力をお願いした。

ランカちゃんには、彼の職場に顔を出すこと、そして…この『発信機』を彼のジャケットの襟に仕掛けてもらった。これがあれば、私のハッキング能力でいつでも会話が拾えるし映像に出すこともできる。

そこから受信する会話の内容から、彼が残業でデスクワークをする日を割り出し、そしてその日にシェリルのラジオ生放送の日程を組む…もちろん、お題は『恋』に関すること。

そして今日の放送が始まる前にブレラ君を車でS.M.S.の近くで待機しててもらう。

ブレラ君と私とで連絡を取り合い、彼がシェリルの感情を聞いて混乱している所で強引に連れ出し、アパートに向かってもらう。

もちろん、シェリルは私が最短でアパートまで送っていく…まぁ、こんな感じかしら。

 

 

 

…まぁ、計画外と言えばランカちゃんの行動ね…

 

ま、この辺りは彼達『3人』でじっくりと話し合ってもらいましょうか。

 

 

 

私達にここまでさせておいて、ハッピーエンド以外認めませんからね?ダイチさん。

 

 

 

 

 


 
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