No.574132

魔法少女大戦 4話 煉獄

羅月さん

魔法少女大戦とか言ってまだ一人も魔法少女が出てきていない現実には少し目を瞑って下さい。
あとごめんなさい、5話もまだ日付動いてませんでした。よって火曜は3話構成になります。

2013-05-07 23:08:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:399   閲覧ユーザー数:360

 4話 煉獄

 

 結局、行方不明の生徒は惨たらしい状態で発見されたらしい。出火元らしい体育倉庫で、どうやら火種を囲むようにして焼死体が出て来たとの事だった。勿論生徒には公表されていない情報で、恭も人づてに聞いた話なのでどうにも信憑性がないのだが。

 鑑識の手が回っていない状況で軽率な判断は出来ないそうだが、出火原因は死んだ生徒達が放火したと言う説が濃厚らしい。実際体育倉庫にある物は燃えやすい。乾燥した空気、マットのようなすぐに火が燃え移る媒体、ワックスを塗りたくった木造の床と壁。加えてこの猛暑で、故意に火を付けたならこうなって然るべきともいえた。

 

 「死んだ生徒、何の共通点も無いらしいぜ……」

 「クラスも学年も部活とかもバラバラらしいな……」

 「私ら誰も欠けなくて良かったよね……」

 

 その後の授業は教師一同が会議の為自習と言う事だったのだが、まともに自主学習に勤しんでいる図太い生徒はこの教室には居ない。上にあげたような会話がそこかしこで聞こえてくる。一応クラスメイトが他人事でいられるのは知らない人間だからだそうなのだが、クラスの誰とも面識のない人間が無作為にピックアップされてこうして事件に巻き込まれると言う話は少し異常に思えた。

 恭のクラスは彼自身言及している事だが変態揃いだ。それと同時に誰もかれも交友関係が広い。当然例外はあるものの、このクラスの人間と一次的な交遊関係にある者(友達の友達はカウントしない)を集めれば学校の半分は網羅できそうなくらいだ。

 とりあえず教室待機を命じられてはいたが、生徒達が落ちついていられるわけもなく、それでも人が大勢死んだ後ではふざけて騒ぐ事も無く(この辺の良識を持ち合わせているのがこの変態クラスだと恭は自負している)、教室内は異様な空気に満ちていた。例えるなら可燃性のガスが充満しているかのような。火種がどこかで弾ければ、恐らく瞬時に炸裂する。

 いたたまれなくなったので恭は教室を出る事にした(不在中に教師が戻ってくると面倒なので一応隣の九兵衛に『少し雉を撃ってくる』と言ったが通じなかったので後ろの男子に『トイレ行ってくる』と告げた、その後二人の慣用表現ト―クが始まったのは気にしないでおく)

 自習を命じられているからと言って用を足す事を規制する法律は無い。ただ恭の足は別の所に向かっていた。彼の所属する2年5組教室のベランダである。一応カーテンを締め切っているのでクラスメイトが恭の存在に気づく事は無い。

 煙草みたいな嗜好があるのなら一服やりたいシチュエーションなのだろうが、無論生徒の喫煙は禁止であるし恭にそう言う習慣は無い。ただ黙って空を見るだけだった。空は雲一つなく蒼い光がどこまでも深く満ちていた。

 閉鎖された空間でネガティブな感情を連鎖させるよりも、此処で何も考えないで時間を過ごしている方が何倍も有意義だった。どうせ自習が出来る空気ではない。これが来年の今頃なら違うのかもしれないが。

 思えば、死んだ生徒の中には三年の生徒もいたはずだ。勿論恭自身はその人達の事を知らないのだが、此処まで生きて来てこんな最期を迎えると言うのはどういう心境だろうとふと考えてしまった。それから、死んだ生徒の親もそうだ。家庭環境の違いこそあれ、此処まで育てて来た大事な子供が理不尽に命を奪われると言うのは身を裂かれるような苦しみだろう。

 彼はそれが多数派である事を信じており、それ故に自分自身が異端である事も承知している。両親にとって飾り以下の存在価値しかない自分の居る意味とは何だろうか、考えても答えは出せそうにない。

 

 「きょうちゃん……」

 「……ああ、九べ……きゅうちゃんか」

 

 一応彼も九兵衛を彼女が望むあだ名で呼ぼうと努めてはいるのだが、大勢が居る中でだと何だか恥ずかしく、あまり実行に移せないでいた。ちなみに女子同士ではこの『きゅうちゃん』と言う呼び方で定着しているし、男子も『おいおいきゅうちゃんそりゃないぜ』的な軽口で呼ぶことも多いので別段恥ずかしいわけではないのだが、通常時は圧倒的に『木村さん』が多いので中々そう呼べない。恐らく恭以外の男子にもこう言う奴はいるのだろう。

 一応言っておくと彼女は可愛い。ただひたすら可愛い。白い髪も高齢者の白髪のような褪せた色ではなくほのかに艶を帯びており、ほのかに気品を感じさせる。赤い瞳も血走ったような物ではなく宝石のようで美しいし、何より性格が控えめだ。多くの人が『護ってあげたい』と感じるのだろう。

 だからこそ、やたらと自分に懐いてくる(と恭は思っているし他の人も割とそのような感じではある)彼女の事を親しく呼べないのではないか、恭はそう自己分析している。

 

 「雉を撃ちに行くって、女の子で言う所の『お花を摘みに行く』ってことなんですね。勉強になりました。自主学習の時間恐るべしです」

 「そうか、なら良かった……んで、どうしてここが?」

 「ちょっとあの部屋に閉じ込められてるのが嫌になったので……きょうちゃんもいたのが意外ですが」

 

 思えば好きこのんでベランダに出る生徒はあまりいない。それが小学校時代の『ベランダに出るな』と言う謎のルール(勿論危ないのは分かっている、なら何故作ったと苦言を呈したいわけだ)の刷りこみの成果なのかは分からないが、実際こうして誰かと一緒に此処に来る事など恭には無かった。

 する事がないからというのが理由かもしれない。走りまわれないし、こうしてカーテンがかかっている訳でもない状況では秘密の場所にもなりえない。何かをしてばかりのうちのクラスメイトが、何もしない事を強制されるこの場所に来たがらないのもある意味では当然なのかもしれない。

 

 「ご一緒してもいいですか?」

 「別に良いけど……」

 「ありがとうございます、きょうちゃんは優しいですね」

 

 そう言うと、九兵衛は軽くて柔らかい体を恭の横にもたれかからせる。ふんわりとした匂いが恭の鼻腔を満たし、彼を何だか変な気分にさせた。クラスのアイドル(になりつつある)と肩をくっつけて日向ぼっこなど早々出来るものではない、やたら熱いのは太陽のせいだけではないのではないかと恭は動悸の激しい心臓を押さえて思う。

 

 「ん……私、こんな風に学校生活を送りたくて。今、とても幸せなんです」

 「前のクラスで、何かあったのか……?」

 「まあ、そんな感じで……」

 「そういやさ、きゅうちゃん。どの辺に住んでんの?」

 「相浦って所に、一人で住んでます。私、元々両親を亡くしてて、後見人の方に色々面倒を見てもらってまして……」

 「相浦か……バス通学か?」

 「はい……そんな感じです」

 

 その目は恭ではない別のどこかを向いて、彼女は自分の出自を淡々と語ってくれた。どこまでも不思議な子だと恭は訝しんだが、嫌な感じはしなかった。むしろ、彼女が少しだけ輝いて見えたのだ。

 彼女の、大変だけれども頑張っているその姿を見て、別段大変でもないのに家庭環境の劣悪さから少し引き気味になっている自分が恥ずかしくなるくらいに。

 

 「実はさ……俺の母さん、本当の母親じゃないんだ」

 「え……?」

 「俺が覚えてないくらい前に離婚して、父さんに引き取られたんだ。んで再婚した。家庭環境は最悪だよ、母さんは連れ子の妹を溺愛して俺の事は塵屑扱いだし、母さんにべったりな父さんは俺の事なんて考えてくれないし。その点、きゅうちゃんは自分一人で頑張ってて偉いよ」

 「そうでもないですよ……後見人の方が凄く良くしてくれるから……」

 「そうか……俺も、妹が良くしてくれるかな」

 「妹が居るんですか?」

 「まあ。妹一人居れば両親なんて居なくていいくらいの良妹だよ」

 

 ……と、そうこうしている間に教室がざわつき始める。先生が戻って来たらしい。俺が先に入るから、と釘をさして彼女をトイレ側に行かせる。そして何食わぬ顔で恭は教室に入ると先生に事情を説明した。

 

 

 その日の放課後は全部活動が活動を禁止されてしまったので、恭は一人でいつもの道を歩いていた。いつものように、自転車を押しながら歩く。いつしかそれが彼の日常になっていたから。

 だが、鳴はいない。どれほど探してもその痕跡さえ見つからない。部活の皆と撮った写真からも彼女の存在は消え、連絡網の名簿も不自然にブランクを生じていた。

 忘れたいわけではない。だが、忘れなければならないのではないかと言う自分も居る。でなければ壊れてしまいそうだった。薬物依存とさして変わりはしない。もしかしたら忘れてしまえば何事も無く日々を過ごしていけるのかもしれない。

 

 「……でも、そんなの……」

 

 嫌だ。

 嫌だった。鳴の事を忘れて、別の誰かを好きになるのが嫌だった。彼女との思い出を、今は自分の心の中以外のどこにもないそれを消してしまうのが嫌だった。彼女は世界一の人間では無い。だが、彼女は彼が世界一愛している相手なのだ。

 ……それにしても暑い。太陽はその光で恭の身を貫かんとするほどだ。早く帰って涼まろう、そう決意して足を踏み出すスピードを上げようと……

 

 トン。恭は軽く首筋を押された。そこまで痛くは無かったが、彼はふらっとよろめく。自転車を倒しそうになりながらもギリギリで踏みとどまり、そんな事をした犯人を問い詰めようと振り返る。

 

 そこには誰もおらず、次に襲って来たのは強烈な倦怠感だった。

 

 「なっ……んっ、ぐっ……」

 

 だるい。気持ち悪い。目が回る。吐き気がする。これが熱中症か、意外なほどに冷静な頭に感心しながらも、彼は近くの影を目指した。駄目だ、喉が焼ける、口の中が乾いてかすれた声しか出ない。

 

 「かはっ……だ、ぇ……ぁ……」

 

 自転車の下敷きになって道端に倒れる恭。体が動かない。後少しで日陰だったのに、それは彼を覆い、匿ってはくれなかった。

 

 暑い、熱い、あつい……誰か、誰か助けて……

 

 

 その後、朦朧とする意識の中彼は身体がふわりと浮くのを感じた……


 
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