No.571809

真恋姫無双幻夢伝 第十二話

第二章も、この話入れて残り3話の予定です。

2013-05-01 10:51:57 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3890   閲覧ユーザー数:3443

 真恋姫無双 幻夢伝 第十二話

 

 

「一体これはどういうことですの?!皆さん!」

 

 連合軍の作戦会議。その中で麗羽は諸将に憤然と怒りを表していた。関からおびき寄せたにもかかわらず、華雄をみすみす逃してしまった。敵よりも味方の被害の方が大きい。今回の作戦は明らかに失敗だ。

 麗羽の矛先はこの作戦を提案した劉備たちに向いていた。

 

「劉備さん!この責任、どうなされるおつもりかしら!」

「え、えと」

「は、はぅ…」

 

 桃香は何も言葉が出ず、作戦を提案した朱里は涙ぐんでしまう。ここで傷心の朱里を庇おうと、一刀が反論した。

 

「待ってくれ!こちらは誘い出すことに成功したじゃないか!打ち取れなかったのは全員の責任だろ?!」

 

 その発言に全員のムッとした目線が彼を刺す。その眼は「なぜお前に言われなければならないのだ」と言わんばかりだ。一刀はその気迫に押され、思わず一歩下がる。

 しかし華琳は小さくため息をつき、その意見に同調した。

 

「そこの男の言うとおりよ。包囲したのはここの全員。それを易々と破られたのは私たちの責任だわ」

 

 その言葉に全員苦々しく頷いた。麗羽も渋々その怒りの矛を収めた。

 これ以上反省点を探しても仕方がない。会議は現状の確認に移った。

 

「華琳さん。虎牢関の状況はどうかしら?」

「あちらも駄目ね。呂布にやられてズタボロよ。王匡なんて国に帰ろうとしていたわ」

「しかし、勝手に逃げ出していいのか?」

「脱退は董卓に味方したと見なします。そういうお約束だったはずですよ」

 

 疑問を呈した公孫賛こと白蓮に向かって、にっこりと七乃は微笑んだ。白蓮はゾッと顔を引きつらせた。この大軍に攻められるのだ。地方の一勢力など木端微塵だろう。

 

「ということは朝廷内部から揺さぶるという計画は無理だな」

「姉さま。なんだか賢そうに見えますよー」

「ちゃかすな!」

 

 異民族問題や李確の独立で少し乱れている涼州から馬騰は離れられず、代わって娘の馬超(翠)とその従妹の馬岱(蒲公英)が参加していた。蒲公英が年上であるはずの翠をいじるのは、ここでも変わらないようだ。

 翠が言ったことはこうだ。連合軍にとって、食料が少なくなっている以上、長期間かかる城攻めは苦しい。そこで野戦に持ち込み、董卓軍に大勝する。そうすることで、たとえ関を破れなくても、朝廷内部の董卓反対勢力が立ち上がりやすくする。董卓軍は内部から瓦解するという算段だ。だが、どちらの関でも負けてしまった以上、この作戦は台無しだ。

 ところが一つ思わぬ副産物があった。

 

「酒保商人が続々と集まってきたわよ。この近くからじゃなくて、もっと遠くからね。おそらく大きな合戦があったから、その噂が広まって集まってきたのかしら」

「妾のおかげじゃな」

 

 高らかに笑う美羽。七乃がその傍らから「さすが美羽さま!人の手柄でも横取りしちゃうなんてさすがですよ!」と褒め?讃えた。実際、必死になって酒保商人を集めた雪蓮としてはやるせない。見えないようにグッと拳に力を込めた。

 

「でも、まあ、これで腰を据えて城攻めできるわね。華雄は負傷したのでしょう?」

「うん、そうだよ!愛紗ちゃんがやってくれたんだよ」

 

 先ほどとは一転、ニコニコとしながら桃香は華琳に答えた。『愛紗』と聞いて華琳の目が少し光ったのを、一刀は不思議そうに見ていた。ちなみに、華琳が桃香たちに愛紗をねだるのは、この後である。

 長期戦になると、諸将が確認する。これで今回の会議の議題は尽きた。一応、連合軍の長である麗羽はこう締めくくった。

 

「皆さん。この度は負けてしまいましたが、構うことありません。正義は我々にあります。そして名家出身のわたく「解散!」

 

 白蓮の背後にいた星がそう号令をかけると、まだ話している麗羽を後目に諸将は席を立つ。「やれやれ」とか「ふう」など言いつつ、次々と会議場から姿を消していった。。

 

「え?あの?ちょっと?」

 

 麗羽が戸惑っている間に、全員すっかりいなくなってしまった。唖然とする麗羽。その背後に控えていた斗詩はため息をつく。そして自分たちも帰ろうとして、隣にいる相方を見た。猪々子はというと、立ちながら鼻ちょうちんを膨らませていた。

 斗詩はもう一度、大きく、ため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 関の外側とは対照的に関の内側では、幸先良く勝ちを拾えたことに皆喜んでいた。その夜、振る舞われた酒の効果もあろう。「連合軍何をするものぞ!」とか「数は多いとはいえやはり烏合の衆、敵ではない!」などと、戦い前の恐怖も消え失せ、兵士は意気揚々としていた。テキパキとした彼らの動きに、そういった喜色が現れている

 しかし董卓軍で一人だけ喜んでいない人がここにいた。

 

「不本意だ」

 

 右肩を包帯で包んだ華雄が、自室の椅子に座りながら苦々しい表情をしていた。その顔に隣で座る霞が笑う。

 

「まあまあ。褒められるのはええ事やんか。『英雄さん』」

 

 そう言われた華雄はキッと彼女を睨んだ。「おお、こわ」と霞はそれに怯むことなくおどけてみせた。

 彼女が怒っている理由。それは『連合軍を一人で打ち破った』という名誉にあった。罠にかかったとはいえ、罵詈雑言を浴びせてきた劉備軍に一撃を与えた華雄の武勇は、董卓軍の全兵士にとって誇らしいものであった。まさしく彼女は“英雄”である。不思議なことに、ほとんどの兵士はなぜ彼女が助かったのかを知らない。

 しかし天下屈指の猛将である華雄にとって、この“賞賛”は“屈辱”以外の何物でもなかった。助けられた上に、全ての功績を譲られたのだから。まるで自分の武勇までも軽んじられている感覚を味わっていた。

 そんな華雄の怒りは収まらない。

 

「アキラもアキラだ!なぜ自分の手柄と言わない?!私に恩をかけたつもりか!」

「別にそこまで怒らんでも」

「ふん!!」

 

 怒り心頭な彼女の様子に、霞はおかしくてたまらないようだ。華雄に睨まれても、笑いが込み上げてしまう。

 詠が入ってきたのはちょうどその時だった。彼女が見たのは、しかめっ面の華雄とその隣でにやにやとする霞だった。

 

「変なの。何かあったの?」

「おう、詠。ちょうどええ。これがおもろくてなぁ」

「面白くない!」

 

 はぁとため息をつく詠。いい気なものだ。詠はさっさと話題を変えた。

 

「華雄。怪我はどう?」

「このくらいなんともない。すぐに痛みは引く」

「3日で元に戻る?」

「3日?」

「具体的な数字やな。どういうことや?」

 

 詠は扉の外に誰もいないことを確認してから、二人にもっと近づくように促した。二人は詠の息がかかるところまで近寄る。

 詠はぼそっと言った。

 

「逃げるわよ」

 


 
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