No.565810

ガールズ&パンツァー 我輩は戦車である ~誓約編~

tkさん

角谷会長無双の裏側を想像してみると、けっこう深い理由があったんじゃないかなと思ったり。

2013-04-13 22:10:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:961   閲覧ユーザー数:934

 我輩は戦車である。名をチーム名にちなんで『あんこう』という。

 『Ⅳ号戦車D型』という制式もあるが、先日改修を受けG型仕様となった。秋山殿いわく『マークⅣ スペシャル』だそうだ。

 そんな私は薄暗い倉庫の中で同僚の戦車と共に決戦の時を待っていた。

 そう、決戦である。決勝戦である。

 大洗の興廃この一戦にありなのだ。

 我々はあと数時間後には学園艦から運び出され、決勝の地となる東富士演習場へと向かう。待ち受けるは昨年まで九連覇を成し遂げてきた強豪黒森峰。相手にとって不足なし。…まあ、どう見ても下馬評では我々の方が下なのだがそこは気分と言うものだ。

 

 私がそんな一人相撲とも言える思考をしていると、倉庫へと足を踏み入れる者の気配を感じた。

 視界を向けた先には見知った影。生徒会長の角谷杏殿だ。

「…改めて見ると、壮観だね」

 しかしてその表情は私の見慣れないものであった。

 感慨深げに我々を見上げる顔は、常に余裕を見せ威風堂々としていた彼女のものとは思えなかった。

 困惑している私の脇を抜け、彼女の愛車である38t殿(正確には先日の改造によりヘッツァー殿になったともいえるが)へと歩み寄る。ほどなくしてその冷たい装甲へと手のひらを乗せ、彼女は静かに呟いた。

 

「今まで、ごめんね」

 それは私が初めて聞く彼女の真摯な謝罪であった。

 

 なぜ彼女が我々に謝罪しなければならないのか。ますます困惑する私を知る由もなく、彼女は言葉を続ける。

「最初はここまで来れるなんて思わなかったんだ。優勝すればなんとか廃校にならなくて済むなんて言ったけど、絶対に無理だって思ってた」

 目立った活動のないこの大洗が戦車道の全国大会で優勝すれば、学園艦の統廃合を避ける事ができる。我々にそう語ったのは他ならぬ彼女であった。その彼女も本当は良く分かっていたのだ。それがどれほど無謀な挑戦であるかという事を。

「希望を持ちたかったって言うのは本当だよ。でも、最後に思い出が欲しいというのが本音だったと思う」

 …そうか。だから彼女は。

「今思えばさ。小山と河嶋、そして西住ちゃんに全部任せて何もしなかったのは、きっと言い訳が欲しかったんだね」

 私の推察を彼女は自身の言葉で肯定していく。

「自分は本気でやらなかったから、何もしなかったから負けても仕方ない。そんな逃げ道を作って全部みんなに押し付けてた。………でないと、負けた時に耐えられないって分かってたんだ」

 思えば、戦車道を再興すると宣言したのは彼女であった。

 生徒会長として、一人の生徒として、彼女の大洗女史学園への愛情は誰よりも深く大きなものだったのではないか。

 一戦一戦を常に背水の陣で挑まなければならず、しかしそれを極僅かな友人を除き他者と共有する事が許されなかった彼女の苦悩を、誰が理解できるのだろう。

「…でも、今は違うよ。あの吹雪の中で西住ちゃんが教えてくれたから」

 一息つき、彼女は38t殿を見上げる。その顔は私達が良く知る表情に戻っていた。

 常に余裕を持ち威風堂々。それは正しく小さな暴君と呼ばれる、角谷杏生徒会長殿であった。

「西住ちゃんと皆が本気でやってるのに、こっちだけ何もしないなんてかっこ悪いもんね。それじゃあ、生徒会長失格だ」

 晴れ晴れとした顔をする彼女は、自分の愛車に誓約する。

「全力でやるよ。勝っても負けても悔いがない様に」

 それは、我々大洗女史学園の戦車道が一つとなった証の一つ。

「どんな結果になっても大丈夫。小山が、河嶋が、西住ちゃんが、皆が一緒だからさ」

 今こそ我々は十全となった。

 たとえ相手が常勝古豪の黒森峰といえど、恐れる事は何もない。

「もちろん、やるからには勝ちに行くけどね!」

 不敵に笑う生徒会長殿は明日の決勝戦で死力を尽くすだろう。それが我々の勝利への一助となる事を、私は確信した。

 

「さって、あんまり遅くなると二人が心配するか」

 颯爽とした足取りで彼女は倉庫を去っていく。

「今日はカツを食べてげんを担ぐって煩かったっけ。ま、河嶋らしいよね」

 そういえば西住隊長達も今夜はカツパーティをすると言っていた気がする。その辺りの連帯感も彼女達が優れたチームワークを発揮する一面なのだろうか。そんな益体もない事を考えながら私は彼女を見送った。

 

 

 さて、こうして大洗女史学園生徒会長、角谷杏殿が決勝戦でいか程の活躍をしたのか。それは諸君も知っての通りだと思うので割愛させていただく。

 私が述べる事は唯一つ。彼女は誰よりもこの学園を愛しているのだろうという事のみである。


 
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