No.563704

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ三十五


 お待たせしました!

 戦の決着はおおよそ着いたものの、命へ忍び寄る

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2013-04-07 15:44:33 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:5759   閲覧ユーザー数:4447

 

 劉弁の軍勢は南皮の手前で少し休息を取る事になった。何故、こんな所で

 

 休息しているのかというと、実は南皮の城内が麗羽の軍の攻撃の折に荒れ

 

 たままになっており、皇帝を迎え入れるのに相応しくないという意見が出

 

 て多少なりとも中を片付けてからという事になり、外でしばらく待つ事と

 

 なったのであった。

 

「面倒じゃの、別に妾は多少散らかっておっても気にせんのじゃがな」

 

「命様、あなた個人はそれで良いのかもしれませんが、仮にも皇帝たるもの

 

 対外的な事に関してはきっちりとしなくてはいけません。ご自重を」

 

 劉弁は愚痴をこぼすが、月にやんわりと注意されていた。

 

 ・・・・・・・

 

 その時、劉弁のいる陣幕の外側に忍び寄る一つの影があった。

 

「何よこれ…ここまでまったく無警戒ね。幾ら戦に勝ったからってこれでは

 

 先は暗いわね」

 

 その忍び寄った者は近衛兵の服を身につけていた曹操であった。

 

 曹操は木陰に来た近衛兵を斬り捨て、その服を着て忍び込み、劉弁の命を

 

 狙いに来たのであった。

 

「陣幕の中の気配は…皇帝と他一名って所ね。おそらく董卓かしら?今なら

 

 護衛もいなさそうね…良し!」

 

 曹操が中に踏み込もうとしたその瞬間、中から声がかかる。

 

「これ、そこにいるのは分かっておるぞ。つまらぬ事など考えず此処へ出て

 

 参れ!」

 

 

 

 その声に曹操は身をびくつかせる。

 

「これ、どうしたのじゃ?妾を狙うのなら堂々と出て参るが良いぞ」

 

(どういう事…まさか、最初から私がここに来る事が分かっていてここまで

 

 わざと通したというの!?ならば周りは既に囲まれていると考えるべきか

 

 …ならば!)

 

「さすがは皇帝陛下、良く私が此処にいる事が分かったわね」

 

 曹操がそう言って姿を現すと、劉弁と月は逆に驚いた顔をする。

 

「何と…本当におったぞ、月」

 

「はい…私も驚きです」

 

 その二人の反応に曹操は戸惑う。

 

「…どういう事?今、私がいるのを分かっててあんな事を言ったのではない

 

 というの?」

 

「うむ…たまにな、周りに誰もいなさそうな時にああいう事を言ってみたり

 

 してたのじゃ」

 

「陛下の退屈しのぎの一つです。毎回そんな事をするのは私としてはやめて

 

 ほしかったのですが…まさか本当にそれに引っ掛かる人がいたなんて…」

 

 二人は驚いたままの顔でそう言っていたが、曹操はもっと驚いていた。

 

「ふっ、まさかこの私がこんな手にね…おかし過ぎて笑うのも馬鹿馬鹿しく

 

 なってくるわね」

 

 曹操は自嘲の笑みを浮かべていた。

 

 

 

「ところで曹操よ。お主が妾の前に現れたという事は、目当ては妾の首か?」

 

 劉弁のその言葉に月の表情が変わる。

 

「あっ!呆けてる場合ではありませんでした…誰かある!」

 

 月の声に近衛兵達が陣幕の中へ入って来る。

 

「ふっ…此処まで入って来て初めて兵士に会うなんてね。ちょっと緩み過ぎ

 

 ではなくて?」

 

「くっ…正論だけに何も言い返せません」

 

 曹操の皮肉に月は顔を歪める。

 

「しかしこれ以上陛下に近付かせません!皆、曹操を討ち取れ!!」

 

 月の号令で兵達が曹操へ躍りかかるが、

 

「ふん、この程度の輩如きにこの曹孟徳がやすやすと討たれると思うな!!」

 

 曹操は次々に兵達を返り討ちにしていく。

 

「これでおしまい?なら拍子抜けね。それじゃ次はこっちの番ね」

 

 兵達を葬った曹操はそう言うと、一気に距離を詰めて劉弁に迫る。

 

「くっ、討たせません!」

 

 月は身を挺して防ごうとするが、

 

「良い、月は下がれ」

 

 劉弁がそう言って月を突き飛ばしてしまった。

 

「陛下!」

 

「どういう風の吹き回しかは知らないけど、その首貰ったわよ!」

 

 曹操が剣を振りかぶる。しかし、

 

「ふっ、戯けめが!」

 

 劉弁が何処からか取り出した剣を抜き放って逆に曹操に斬りかかる。

 

 曹操はその一撃を何とか防いだものの、その衝撃で一間余り吹き飛ばされ

 

 てしまっていた。

 

 

 

「なっ…これはどういう事?」

 

「『どういう事』とは心外じゃな。まさか妾にまったく武の心得が無いとで

 

 も思っておったのか?」

 

 戸惑う曹操に劉弁はそう言い放つ。

 

「なめるでないわ!我が名は劉弁、自ら剣を取って再び漢を創り上げた世祖

 

 劉秀の血を引く者!我が剣『定王伝家』の名に賭けて、お主如きに後れな

 

 ど取らぬ!!」

 

 劉弁の身から闘気が溢れ出し、曹操を圧倒する。

 

「くっ、まさかここまでとは…けど、このまま終わりには出来ない!」

 

 曹操は気力を奮い立たせて立ち上がる。

 

「残念ながらもう終わりにして欲しいのだけどね」

 

 その背後から突然かけられた声に驚いて振り向いた曹操の目の前には、刀

 

 を彼女に突きつける一刀の姿があった。

 

「何じゃ、早かったの一刀。愛する妾の為に駆けつけて来てくれたのじゃな」

 

「いえいえ、陛下にご報告に挙がろうとたまたま近くに来ていただけの事で

 

 すけど」

 

「むう、此処は嘘でもそう言って女を喜ばせるのが作法じゃぞ」

 

「嘘でいいのなら幾らでも」

 

「…もう良いわ」

 

 何時の間にか闘気を治めていた劉弁はそう言って頬を膨らませていた。

 

「さて、陛下の機嫌も治まった所で『治まっておらんぞ!』…まあ、それは

 

 ともかく曹操殿。あなたの往生際の悪さもなかなかのようですが、ここら

 

 へんで諦めていただきたいのですが」

 

 

 

「何を諦めろと?」

 

「あなたの野心をです」

 

「野心…ふん、今更私がそれを持っているとでも思ってるわけ?」

 

 曹操はそう自嘲気味に言う。

 

「ほう、野心は無いと…ならば何故陛下に反旗を翻したのです?」

 

「確かに先帝が崩御された時は劉備を傀儡に私が天下に号令をかける気持ち

 

 はあったわ。そして幽州を簒奪した時もね。でも…」

 

「でも?」

 

「結局全てうまくいかなかった。常に北郷…いえ、諸葛亮に先回りされてし

 

 まった。今回も五胡を動かして戦力の分散を謀ったにもかかわらず、失敗

 

 した挙句、圧倒的な戦力と各軍勢の連携の前に全てを失ったわ。そして、

 

 それは私に天命は無かったという事だと悟ったわ。その時から既に野心な

 

 ど無くなっていたのよ」

 

 曹操のその言葉に俺達は驚きを隠せない。

 

「ならば、何故ここまで戦ったのです?」

 

「かといって今更、漢の忠臣になるなど私自身が許す事が出来なかったのよ。

 

 ならば…私は漢への反逆者として歴史に名を残すのみ。漢がこの先何百年

 

 続くのかは知らないけど、何時までも語り続けられる程のね」

 

 そう言った曹操の眼に嘘は感じられなかった。

 

 そうか…彼女も彼女なりに考えていたという事か。しかし…。

 

「ふざけるな…」

 

 俺の口からはそう言葉が出ていた。

 

 

 

「ふざける?私がふざけているというの!?」

 

「そうだよ…お前の考えは分かった。だけどな、お前の意地と誇りの為だけ

 

 の戦でどれだけの人間が死んだと思ってるんだ!お前一人の意地と誇りは

 

 そんなに大きいか!?俺にしてみたらそんな物、鼻くそにすら劣るわ!」

 

 俺はそのまま刀を構える。

 

「まあ、いい…お前は反逆者だ。ならば望み通りに斬ってやる」

 

「ふん、私からも言いたい事は山ほどあるけど…ここは剣で語るのみね」

 

 曹操も得物を構える。

 

 その瞬間、俺は一気に距離を詰めて曹操に斬りかかる。

 

「ぐっ…さすがね。でもこの程度では私は斬れないわよ!」

 

 曹操は俺の一撃を受け止めると、すぐさま攻撃に転じる。

 

「おっと、危ない。ふん、まだまだ元気そうだな」

 

 俺は飛びのいてかわすと、再び斬りかかる。

 

「北郷、あなたの剣筋は確かになかなかの物だけど、そう一直線の攻撃ばか

 

 りは通用しないわよ!」

 

 曹操はそれを再び受け止めるが、

 

「おぉぉぉぉぉーーーーー!」

 

 俺は雄叫びと共にそれごと押し込む。

 

「ぐっ…何、この力…受け止めきれない」

 

 その圧力に耐え切れなかった曹操は膝をつく。

 

「悪いが、これで終わりだ!!」

 

 

 

 

 俺がさらに力を込めようとしたその瞬間、

 

「させるかぁぁぁぁーー!!」

 

 突然の叫び声を共に踊りこんでくる一つの影があった。

 

 俺はそれを何とかかわしてその姿を見ると、それは夏侯惇だった。

 

「おいおい、夏侯惇にまで入られてるなんてあまりにも警備が緩すぎるんじ

 

 ゃないのか?」

 

 俺がそう言ってため息をつくと、

 

「姉者だけではないぞ!」

 

 その声と共に矢が飛んで来た。

 

「おおっ、秋蘭!無事だったようだな!!」

 

 現れた夏侯淵の姿を見た夏侯惇は嬉しそうな顔を見せる。

 

「ああ、何とかな」

 

 そう言った夏侯淵の左肩には包帯が巻いてあり、少し血が滲んでいた。

 

「はぁ…月、どうなってるんだ?本当に近衛兵に指示出したんだろうな?」

 

 その俺の呆れ気味の言葉に月は顔を歪めてうつむく。

 

「ふん、木端どもが幾ら来ようが我らの敵では無いわ!」

 

 夏侯惇がそう胸を張って言うと、

 

「ほんなら、あんたの相手はウチがしたるわ」

 

 そこに霞が現れる。

 

「私もいますわ!」

 

 続けて現れたのは紫苑であった。

 

「なっ、張遼!?」

 

「ぐっ…黄忠っ!」

 

 その姿を見た夏侯姉妹の顔が忌々しげに歪む。

 

 

 

 二人のすぐ後に兵士を連れた朱里と詠が入ってくる。

 

「陛下、月、大丈夫!?」

 

「ご主人様、遅くなりました!」

 

 二人の指示により劉弁と月の周りに兵が配され、曹操達が近付く隙は無く

 

 なってしまった。

 

「やれやれ、ようやく形勢逆転のようだな…さて曹操殿、どうする?出来れ

 

 ば此処はおとなしく降伏して欲しいのだけどね」

 

「何をバカな事を!我らがお前ら如きに降るわけが無かろう!!」

 

 夏侯惇がそう言いながら剣を構える。

 

「そうだな…普段なら姉者を止める所だが、此処は賛同させてもらう!」

 

 夏侯淵も弓を構える。

 

「二人とも…そうね、此処で降伏する位なら最初から刃向かったりはしない

 

 わ。悪いけど、此処は抗わせてもらうわ!!」

 

 曹操も剣を構え、闘気を漲らせる。

 

「一刀、今更こいつらがおとなしくボク達に従うわけ無いでしょう。そんな

 

 奴らにこれ以上付き合う必要は無いわ。皆、あいつらを討ち取りなさい!」

 

 詠の号令で兵達が曹操達に襲い掛かる。

 

「ふん、お前ら如き者達に『お前の相手はウチや!』…くそっ、張遼!」

 

「姉者!『あなたの相手は私です!』黄忠…邪魔をするな!」

 

 夏侯姉妹を霞と紫苑が抑えている間に兵達が曹操に迫る。

 

 

 

「お前達如きに取られる程、我が首は安くないぞ!!」

 

 多数の兵がやって来ようとも、曹操は怯む事無く次々に葬り去る。

 

 しかし、段々と疲れからか曹操の動きも鈍って来て、一刻も経つとその体

 

 は傷だらけになっていた。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、どうした、もう終わりか?私はまだ半分の力も

 

 使ってないぞ!!」

 

 そんな姿でも曹操の言葉と眼はまだ気力を失っていなかった。

 

 ・・・・・・・

 

「なかなか頑張るのぉ」

 

「命様は今の内に城内へ!何時までも此処にいる事はありません」

 

「そう言うな、月。折角危険を冒して妾の首を狙いに来たのじゃ。その最期

 

 まで見届けてやるのがせめてもの情けというものじゃろう」

 

 月からの城内に入るようにとの言葉を劉弁は拒否してそのまま戦況を見つ

 

 める。

 

 ・・・・・・・

 

「「華琳様!」」

 

 何時の間にか夏侯姉妹が曹操の側にいた。しかし、二人のその姿は曹操と

 

 同じく傷だらけになっていた。

 

「くっ、結局曹操の所に行かせてもうたか」

 

「なかなか粘りますわね」

 

 夏侯姉妹を追って霞と紫苑もやって来る。

 

 

 

「ふふん、どれだけ兵を揃えようとも我らに傷一つ付ける事など出来んぞ!」

 

「いや、あんたら傷だらけやろ」

 

 夏侯惇の言葉に霞がツッコむ。

 

「でもこれだけ追いつめても討ち取れないのは恥じるべき事ね」

 

「紫苑の言う通りだな。正直、曹操達の執念をなめていた所はあったな」

 

 俺は後ろに下がると朱里に合図を出す。

 

 それに合わせて朱里は弓兵を並べて一斉に矢を放たせる。

 

「くそっ、卑怯な!!我らと正面から戦って勝てないからと分かった瞬間に

 

 このような手に出るか!」

 

 そう叫んだ夏侯惇は矢を打ち払いながら曹操をかばって離脱しようとする。

 

 その夏侯惇に狙いをつけようとした兵を狙って夏侯淵は矢を放ちその兵を

 

 屠っていく。

 

 しかし紫苑が放った矢が夏侯淵の右胸に刺さり、夏侯淵が倒れると、一気

 

 に弓兵の矢が夏侯惇に集まり、その内の何本かが夏侯惇の腕や足に刺さる。

 

「ぐっ、何のこれしき…秋蘭、無事か!?」

 

「うっ…あ、ああ…少しばかり不覚を取ったが何とかな」

 

 夏侯淵は何とか立ち上がったが、その眼は大分虚ろになっていた。

 

「春蘭、秋蘭、此処まで良く私に付いてきてくれてありがとう。でも此処が

 

 私達の終焉の地になるようね。だから…」

 

 曹操がそう言って夏侯姉妹の前に出ようとしたその時、大地が突然に揺れ

 

 始めた。

 

「地震か!?」

 

 それと同時に曹操のいた場所が突然崩れて、三人はそこへ飲み込まれてい

 

 ってしまった。

 

 地震が治まった後、俺達は総動員で三人の行方を探したが、遂に三人を見

 

 つける事は出来なかったのであった。

 

「申し訳ありません、陛下」

 

「一刀が気にする事は無い。じゃがもし生きておっても、あやつらに戦う力

 

 は残っておるまい。戦はこれで終わりとする!」

 

 陛下は力強くそう宣言したのであった。

 

 

                                           続く。

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回は少し早く書けました。

 

 一応これで戦の決着は着きました。

 

 曹操達が生きているのか死んでいるのか…それはご想像に

 

 お任せします。

 

 しかしどうも原作キャラを直接殺す描写を避けるとおかしな

 

 表現になってしまいます。そもそも陛下の周りの守りが手薄

 

 過ぎるだろうとか私自身も書いていて思ってしましました…

 

 ご不快に思われた方々もおられるでしょうが、ご了承の程を。

 

 一応、次回は戦の後処理がメインの予定です。

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ三十六でお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 命の持っている剣の名の『定王伝家』ですが、劉弁の先祖である

 

    光武帝のそのまた先祖である長沙定王劉発から代々伝わっている

 

    …という設定を勝手に考えて作った物です。脳内設定では桃香の

 

    持っている『靖王伝家』の色違いな感じで考えております。 

 


 
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