No.562875

たとえ、世界を滅ぼしても ~第4次聖杯戦争物語~ 蟲謀戦桜(分岐未来)

壱原紅さん

※注意

こちらの小説にはオリジナルサーヴァントが原作に介入するご都合主義成分や、微妙な腐向け要素が見られますので、受け付けないという方は事前に回れ右をしていただければ幸いでございます。
尚、しっかりとこの場で警告をさせていただいているので、受け付けないという方は無理に入る必要はございません、どうかブラウザバックしてくださいませ。

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2013-04-05 14:12:39 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1007   閲覧ユーザー数:990

【9/30まで!】彼女たちのイラスト、描いてみませんか? イベントイラストコンペ投稿サイトOLFAシークレットラボ

カサカサキィキィ、蟲の音が響き笑う。

 

「余計な事をしてくれた、だがそれもここまでよ。」

 

カカカ、と嗤う翁の姿。

蟲の中に埋もれていく、どこの誰かも分からぬ人影。

 

「さぁて、そろそろ桜を呼び戻すかのぅ……準備が必要じゃて。」

 

コツ、コツ、と杖を突く音が響く――――――――――――

 

 

今宵もまた、一人のヒトが喰い殺された。

 

 

 

沼に落ちた者は、苦しみから逃れたくてもがくという。

それでも沼に沈んでいく、逃れられない者がいる。

その先に待つのは無残な溺死、夢に焦がれて死に至る。

 

ならば

 

それならいっそ、沼の底に自ら沈んでしまえ。

その一度沈みきった状態から、底を蹴りあげて上がる事は出来るのだから。

 

絶望を、凌駕する覚悟はあるか。

未来を、望む覚悟はあるか。

 

勇気と無謀は別物で、それでも挑む意志があるというのなら。

 

咲き誇れ宵闇の春華よ――――――――――その選択が、1つの未来を定めるだろう。

 

 

 

―――――――間桐家の一室、雁夜の部屋で、そのささやかな攻防は繰り広げられていた。

 

「桜ちゃん、おじさんそろそろ行かないと…」

「駄目、駄目だよ雁夜おじさん…また倒れたら危ないよ…?」

「うん、そうなんだけどね…」

「バーサーカーもそう思うでしょ?」

「―――――――(コクリ)」

「お、おい…お前な…;」

 

(どうして、こうなったんだろうなぁ…)

 

内心、戸惑いながらも溜息を吐く雁夜。

その腕にしがみ付き、離れようとしない桜の姿があった。

 

 

……事は数分前、バーサーカーが雁夜(マスター)に忠誠を誓ったところにまで遡る。

 

ふと見れば、外はすでに太陽は陰り、完全に夜の帳が降りていた。

聖杯戦争が行われるのは夜――――――戦いが、始まっている。

 

雁夜は再び、間桐の家を出て敵のマスターとサーヴァントを探しに行こうと考えていた。

 

『桜ちゃん…いい子にして待っててね。』

『っおじさん…何処に行くの?』

『うん、おじさんは大切なお仕事があるからね、また街に行かないといけないんだ。』

 

自分に抱き付いて、震えていた少女が落ち着いたのを確認すると、

雁夜はその頭を撫でて宥めるように微笑む。

上手く笑えているか分からないけど、不安にならないでほしいと願いながら。

しっかりと笑った。

その笑顔に何を感じたのか、桜は一瞬その瞳を揺らす。

それに気付かないまま、雁夜はバーサーカーを連れて部屋を出ていこうとした…のだが。

 

『だめっ!!』

 

その、小さな両手が引き留めた。

一体どこからその力を出したのか、子供ながらに精一杯引き留めようとする行動に、雁夜の足が止まる。

 

『さ、桜ちゃん?』

『おじさん、もう夜だよ!こんな真っ暗なのに…行っちゃ駄目だよ、危ないよ。』

 

ぎゅっ…っと、パーカーの裾を握り締めて、放そうとしない桜に、動けなかった。

動けなかったのだ。

必死なその様子に、少女の確かな悲鳴が聞こえたような気がしたから。

 

『―――ま…スター』

『え、ば、バーサーカー!?ちょ、おま放せぅおおおおおお!?;』

 

その状態に、何を思ったのか、突然バーサーカーがドア付近まで近づいていた雁夜を、

引っ付いていた桜ごとベッドまで引きずり戻したのには、度肝を抜かれたのだが。

 

『バーサーカー、ありがとう』

『―■―――■■』

 

何処か満足げな様子の2人に、何も言えなくなってしまった。

 

 

穏やかな空気が、心地よくて。

暖かいこの空間が、とても嬉しくて。

早く行かないといけないのに、うまく外に出ていく理由が思いつかないのだ。

ふと、もう少しこのままでもいいんじゃないかと、思ってしまう程に。

 

 

確かに今この瞬間、【間桐雁夜】は、当たり前の【幸せ】に触れていられた気がしたから………

 

 

 

 

――――だから、忘れていたのかもしれない

 

 

いや

 

忘れていたかったのかもしれない

 

その平穏が

 

いとも簡単に崩れ去ってしまう事を

 

 

 

 

 

「―――――何をしておる、桜よ。

修練の時間になっても蟲蔵に来ぬとは、よほど教育を受けたくないと見える。」

 

 

 

 

 

その、しわがれた声が、響くまでは。

 

 

「っ臓硯!」

「…おじい、さま…」

「■■■■■――――――!!!」

 

いつの間に入ってきていたのか、扉の空いた気配もなかったにも関わらず―――――――【間桐臓硯】、雁夜にとっての、諸悪の根源がそこにいた。

咄嗟に桜を庇うように自らの背に隠し、バーサーカーが更に雁夜達を守る様に立ち塞がるが、その様子を小馬鹿にしたように臓硯は睨み付ける。

 

「桜の教育は聖杯戦争中も続けると、その契約を持って儂は貴様の聖杯戦争への参加を認めたのだ。

 かと思えば貴様は一体何をしておる?桜への教育の妨害をするあまりか、戦争への参加もせずこの家で入り浸るのみか?

 ふん…誠、碌に役に立たん【半端者】よのお、貴様のような無価値の塊が間桐の大切な『後継者』にこれ以上関わる必要もあるまいて。

 もっとも貴様のサーヴァントが、まともに戦闘も出来ていないようでは…マスターとしての器が知れるというものよ。

 だがそうじゃのぅ――――――貴様があの【オマケ】がいらぬと切り捨てれば、魔力の消費も多少はマシになるかもしれぬがな?」

 

好き勝手言い出すその一方的な言い分に、雁夜は吐き気を覚えた。

そもそも、こんな事になったのは、桜に教育という名の拷問を行っている貴様だろう!と叫んでやりたい程に。

それに「オマケ」とは何の事だと、雁夜がそう思うと同時に脳裏をよぎったのは、確かに自分が追い出した【銀の騎士】の事だった。

 

「爺……俺のサーヴァントを、【ドラグーン】を寄越せとでもいうのか?」

「呵々々々々…雁夜よ、バーサーカーを御しているのだけは認めてやろう。

だがそこまでよ、貴様に【アレ】は荷が重い、儂が気に食わぬなら桜に付けてやるのもよいがどうじゃ…魔力の質は貴様よりも良いからな。

きっとこの聖杯戦争の中でも、優れたマスターとサーヴァントとして暗躍するのも無理では無かろう、そうなれば、間桐は他の参加者を出し抜き勝利する事も出来るじゃろうて。」

「―――っふざけるな!桜ちゃんを聖杯戦争に参加させるつもりか!?そんな事はさせない!!」

 

嗤いながらそう言い捨てる間桐臓硯に、雁夜の怒りが溢れだす。

この町に、安全と呼べる場所はもう殆どない。

下手に出歩けば、その行動が自らの寿命を縮めるような場所に、変わりつつある。

少しでもその状況へ近づけない為に、この家から離れていたというのに、それを面白半分で台無しにするつもりかと。

何よりも、一歩間違えれば即座に【死】に繋がる戦争に、この幼い少女を向かわせると言った事が赦せなかった。

 

 

「――――――ほう、貴様、一体【誰の】許可を得て刃向うか。」

「ぐぅっ!?がっ、う゛ぁああああああああああああ!!」

 

 

だが、その怒りも長くは続かなかった。

臓硯が冷ややかにそう言った瞬間、刻印虫が雁夜の体内で暴れだす。

神経を蹂躙し、肉を喰らい、骨を軋ませる。

常人ならば数秒と耐えることも叶わずに精神を壊される激痛。

ソレが今、雁夜を内から容赦なく痛めつけ苦しめていた。

 

 

「■■■…ッ!!」

 

 

その傍で、何もする事が出来ず立ち尽くすバーサーカー。

そもそも、バーサーカーは臓硯を殺そうと思えばすぐにでも出来るのだ。

しかし………そんな事を考えて行動に移れば、それよりも先に雁夜が殺されると、

バーサーカーは『理解』していた。

狂化されながらも、微かに残った【理性】が、確かにバーサーカーに告げているのだ。

『あのバケモノは、ただで死ぬようなモノではない』と、目の前の【敵】の異常性を伝えていた。

だから、何も出来ない。

目の前で、苦しんでいるマスターを助けられない。

その事実が、残酷なまでに、この主従を苦しめていた。

 

 

「おじさん!?雁夜おじさんっ!お爺様、おじさんを傷付けないでください!蟲蔵もちゃんと行きます!だからお願いします!」

 

 

その時、自分の前で崩れ落ちた雁夜の身体に縋り付きながら、桜が必死に叫んだ。

苦しむ雁夜の前に出て、自分から臓硯に近付いて頭を下げる。

 

「ほぅ……そこまで雁夜を庇うか、桜よ。

よかろう、お主の顔に免じて、この場は赦してやろうではないか。

さて、蟲蔵に行くのじゃ桜―――――これまでの分も、しっかりと【教育】せねばならんからのう。」

「はい、分かりました…」

 

小さく頷いて、最後に一度雁夜達を見ると、そのまま部屋を出ていく桜。

 

「さく、ら、ちゃん…!駄目、だ…!!」

「■■…■■…!」

 

だから必死に、雁夜はその後ろ姿に手を伸ばす。

 

確かに自分の声で叫んでいた桜が、自分のせいであの地獄に戻される等、雁夜には耐えられなかった。

けれど、それを阻もうとしても、未だ身体の中を暴れまわる蟲が邪魔をする。

立ち上がろうにも痛みが走り、息をするのも精一杯の状態では、令呪を使うのも難しい。

 

それでも、自分の傍で唸り声を上げるバーサーカーに命じて、助けさせれば間に合うかもしれない――――――だが。

 

「調子に乗るでないぞ雁夜…貴様の中には儂の刻印虫がいるのだ。

サーヴァントで何か企めば、瞬く間に貴様の心臓を食い荒らさせる事も容易いのだ。

何より、桜の為に聖杯を取ってくるのじゃろう?さっさと敵のサーヴァントを倒してくる方が早いと思うがのぅ?」

「―――――っそんなの、分かっている…ぅぐっ!」

「…■■…!」

 

焼けるような痛みに、胸を強くつかんでその場に倒れ伏す。

その雁夜にバーサーカーが寄り添うのを、臓硯はつまらなさそうに見やると、鼻を鳴らして部屋から出ていく。

 

「せいぜい励むがよい、どれだけ足掻こうと遠坂の小倅に貴様が勝てるとは思わんがな。

桜はこれから存分に教育を施していく…手遅れになる前に、急ぐのだな…もっとも、もはや手遅れかもしれぬがな?」

「臓硯…!」

 

荒く息を吐きながら、ギリッと歯を食いしばって雁夜は臓硯を睨み付ける。

しかしそれに振り返る事無く、臓硯はそのまま姿を消した。

 

「――ます、ター…」

「バーサーカー…少し休んだら行くから、俺と一緒に戦ってくれ…頼めるか?」

「―――は――イ――マスター」

 

途切れ途切れながらの返答、それでも確かに了承を伝えてくれるバーサーカーに、雁夜は微かに笑みを向ける。

【大丈夫】だと、自分のサーヴァントの鎧に頭を預けて、息を整える。

臓硯がああ言っていた以上、桜の身は今まで以上に危険なモノになってしまうかもしれないのだ。

休んでいる暇はない、急いでこの戦争を終わらせないといけない、でなければ――――――――また、桜は壊されてしまう。

 

だからこそ。

こうして傍にいてくれる黒い騎士、今はその存在がこんなにも心強く感じる。

バーサーカーがいれば、きっと大丈夫だと信じられるのだ。

たった1人、「味方」がいるのだというその事実が、間桐雁夜の心を支えていた。

 

 

――――それでも、ふと思う。

 

 

【守る】と言っていたのにも関わらず、この場にいない銀の英雄の事を。

命令はしたかもしれない、それでも、あの時から一度も会わないままの【彼】の事を。

 

 

(ドラグーン………お前、今何処にいるんだ…………?)

 

黒い騎士の鎧に体を預けながら、雁夜は少しだけ眼を閉じる。

その瞼の裏に―――――――――最後に視た、【彼】の横顔を思い出しながら。

 

苦痛を耐え、前へと進む事を選び、今尚「ソレ」を望まないマスターは。

未だ擦れ違い続けている、拒絶してしまったもう1人のサーヴァントの事を、その胸の内で呼んでいた。

 

 

<SIDE/間桐臓硯>

 

雁夜の部屋を出てから、臓硯は桜へ施す【教育】の事を考えていた。

蟲による調教か、あるいは毒の入った水を飲ませて苦しませるか、はたまた逆飲まず食わずの絶食をさせた後に蟲蔵に籠らせるか。

 

…そう、明らかに【教育】とは呼べない【虐待】。

間桐の本来の【属性】。

【水・吸収・束縛】から派生した魔術は、【蟲】を中心に使用するようになってしまった。

それが、【今】の間桐家の魔術。

主に【刻印虫】という、魔術的寄生虫を肉体に宿らせていくという。

間桐家の魔術が【本来の形】を失った、畜生にも劣る外道の魔術であった。

 

しかし、臓硯はソレを何とも思わずに桜や雁夜に、寄生させている。

これが、彼等が臓硯に逆らえない理由。

 

文字通り身体の中から【自分自身の命】を盾にとられては、反抗なんて出来ないのだから。

 

………だから、桜が初めて、自分から話しかけてきた時、それが間桐臓硯には予想外だった。

 

「お爺様…教えてほしい事があるんです。」

「―――――ほう?なんじゃ桜よ、言ってみるがよい。」

 

蟲蔵の前に辿り着いた時、桜が臓硯に向けて声をかけてきたのだ。

今まで蟲蔵に入る前に、少女が老獪に話しかけてきた事はない。

その事実を覆す行動に、臓硯は多少驚きながらも面白そうに声を返す。

 

「―――――お爺様、雁夜おじさんの為に私は何かできませんか?」

「…何?」

「私の魔力が、『美味しそう』だってドラグーンさんが言ってたんです……それが…何か、役に立てるのかなと、思って……」

「そうかそうか…あのオマケがそのような事を言うたか、我が孫を【餌】とみておったか…」

 

突然の言葉に片目を釣り上げる。

その様子に怯えているのか、桜が途切れ途切れに話した内容に、臓硯はニヤリと口の端を上げた。

 

「…ふむ、いいじゃろう。

その間桐家の為に役に立とうという意思を酌もうではないか…だが分かっておろうな?

お主の魔力を奴らにくれてやるというのなら、その為には魔力の供給路パスがなければならぬ。

……選ぶがよい、あのサーヴァントに犯されるか、お主の血を多量に奪われ死にかけるのかをのぅ…

カカカ…!だがどちらも大した事ではあるまいて、今までも同じじゃったろう?蟲か使い魔かの違いしかなかろう。

しかしこれはお主が言い出した事、勿論―――――――――【自分自身】で雁夜に直接頼み込んでくるのじゃぞ。」

「……はい、お爺様。」

 

臓硯の言葉に桜は顔を伏せて、承諾する。

満足そうに自らの顎を撫でると、臓硯は素早くその思考を回転させる。

 

(自らのサーヴァントに桜を目の前で犯されるか、あるいはその血を啜られ苦しむ姿を見せつけられれば、アレも多少は張り切って戦争に励むじゃろう。

中々面白い事になりそうだのう…だが、やはりあのサーヴァントは桜を餌として認識しておるか…その事実を突き付ければ、令呪で自害させるかもしれぬな。

…しかし、それはちと勿体ない…あのサーヴァントは本来は【もっと役に立つ】…桜を使い、儂のサーヴァントにする事が出来れば…あるいは。)

 

―――――――――間桐臓硯は、今の今まで雁夜達をずっと監視していた………昼間は蟲が堪えられない為、外で行動できるのは【夜】だけなのだが。

 

他のマスターとサーヴァントも然り、【今回】の聖杯戦争は静観するつもりで視ていたのだが、

霊体化して移動を繰り返すドラグーンの追跡は、街中に蟲を放った臓硯ですら困難を極めるものだった。

 

その中で臓硯は単独行動を繰り返す【ドラグーン】に疑問を抱いていたのだ。

 

明らかに、マスターである雁夜と、その命令で守る様に言われている桜を避けるような行動。

自らの魔力を回復させようとしている割には、手っ取り早い筈の『魂食い』を拒んでいるその意志。

そして………いっそ【異常】な程に、徹底した隠密による情報収集と、敵サーヴァントとの戦闘の回避行動。

 

恐らくまだ死んでいないだろうアサシンのサーヴァントすら発見していない―――――――――あのサーヴァント、【ドラグーン】は…

 

 

下手に戦うと、すぐにその正体が【分かってしまう】程、名のある英雄なのではないのだろうか?

 

 

 

(カカカ……!笑いが止まらぬわ…たかが落伍者風情が呼び出したと思えばとんだ儲けモノではないか!!令呪をもって命じれば、抵抗はするじゃろうが…バーサーカーを他のサーヴァントと相討ちにさせ、桜と雁夜を人質にすれば恐らくは従うであろう。

他の参加者の令呪もその間に奪い、更に重ねて命ずれば大人しく命令を聞く【傀儡】に出来よう…そうなれば、此度の戦争で聖杯に届くやもしれぬ…!)

 

臓硯の中では、もはや静観する意志は完全に消え失せていた。

今までにない勝利への布陣が、臓硯には見えていたのだから。

それをハッキリと自らの内で認識すると、臓硯は桜を改めて真正面から見据えて言い放つ。

 

「じゃが…そういう事ならば、蟲蔵には長くは籠れぬな。

サーヴァントの魔力供給は魔力を消費するのだ…雁夜如きでは確かに足りぬと不満もあろう。

蟲蔵で消費する分も供給してやれば、桜よ――――――――お主にサーヴァント共も【鞍替え】するかもするやもしれぬな。」

「え…?」

「おお、案ずる事はないぞ桜よ。

そのような事は雁夜が許そうとはしまい、お前はただ、あのサーヴァント共を満足させてやればよいのじゃからな?

さて、自分の部屋に戻るがよいぞ桜……お主には、これから【存分】に役に立ってもらうからの…」

 

(そう、自らに忠誠を誓おうとするサーヴァント共に戸惑うお主と、憤る雁夜の姿が目に浮かぶわ!

あやつ等が存分に戦おうとすれば、自然と桜が必要となる事も分かり切った事となろう…そうなれば、もう雁夜は【用済み】。

桜の目の前で殺すもよいが、やはりサーヴァントの行動を考えれば生かして蟲蔵に繋いでおくのが一番じゃろうなぁ……カカカカカ!!)

 

内心でそう嗤いながら、臓硯は【その時】が訪れるのを楽しみにしつつ、桜へ背を向けて蟲蔵の中に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが―――――その時点で、間桐臓硯は気付いていなければ(・・・・・・・・)ならなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故、【桜】が【ドラグーン】に魔力供給をしたいと言い出したのかを。

何故、アサシンでも追跡が難しいドラグーンを、【間桐臓硯】が、追跡できていたのかを。

 

『名のある英雄』と分かっているサーヴァントが、その追跡に【気付いていない】と、自分が【思い込んでいた】のを。

 

 

そして

 

 

「………………………はい、お爺様。」

 

 

 

その後ろ姿を、しっかりと【怒り】が宿った瞳で―――――――睨み付けている、【桜】がいた事に。

 

 

<SIDE/間桐桜>

……蟲蔵まで移動している間、桜は静かに思い出していた。

 

床の上で胸を押さえながら悲痛な声で自分の名を呼ぶ雁夜と、その傍から離れようとせずとも何かを訴えるかのように言葉にならない声を紡ぐバーサーカー。

それはどちらも、自分の事を案じて、必死に行ってはいけないと呼び止めようとしてくれた。

その2人の姿に、桜は、確かに自分の胸の内が温かくなるような気がしたのだ。

 

 

(ああ―――――私、ちゃんと心配してもらえてるんだ。

おじさんも、バーサーカーさんも、私の事大切に想ってくれてるんだ。)

 

 

それは、確かに失ってしまっていた筈の感情(モノ)

桜にとっては、既にいらないと切り捨てた筈のソレ。

 

けれど、その感情の、なんて価値がある事かと、今は分かる。

自分を想ってくれる相手の気持ち、ソレを汲み取れる事の、なんて温かい事か。

 

それを―――――――思い出させてくれた人達は、こんなにも自分を守ってくれようとしている。

 

だから、【守らなければ】。

守られるだけなんて、駄目だ。

そんなの、今までと何も変わらない。

【何も出来ない】のと、【何もしない】のは違うから。

 

 

あの銀色の人が、言った言葉が、今もこの耳を掠める。

 

 

≪―――――――生き人形の人生が好みか?お前は本当にそれでいいんだな?≫

 

 

…いいわけが、ない。

そんなのきっと、間違ってる。

目を伏せるのは簡単だけど、それは狡い事だった。

しょうがなかったと言えば、それまでで。

抗えなかったと言えば、その通りなんだろう。

 

願っても、行動しなかった私。

祈っても、黙って見ていた私。

ずっと、そのままでいいと思ってた。

それだけが、私を守る一番の手段だと、信じていた。

 

 

 

けど、【何もしないで、何が変わる】のだろう?

声を上げなかったのも、手を伸ばさなかったのも、結局は【桜】だった。

 

 

 

どんな理由でも、どんな理屈でも、一度も何もしなかった私。

もしも、この一年間の中で、一度でも遠坂のお家に駆け込んでいたら、何か変わってたかもしれない。

それを怖くてしなかった、お爺様のお仕置きも怖くて、あの人達に気持ち悪いと言われるかもしれないのが怖かった。

 

 

(……………………そのせいで、私を助けようとしてくれた雁夜おじさんが、いっぱい苦しんで、あんなに痛いって泣いていた。)

 

 

だから、【戦わないと】。

今までの分も、【間桐桜】は戦うのだ。

きっと、下手をすれば負けてしまうけど。

でも―――――それでも【負けない】でみせる。

 

だって、【彼】はこう言ったのだ。

 

 

≪勇気と無謀は別物だ、ただ闇雲に突っ込んだところで、待っているのは無残な敗北。

でも、最初から【戦わない敗北】と【戦った後の敗北】は意味が全く違うんだ、そもそも目の前の敵が強大でも、絶対に勝てないなんて誰が決めた?

そしてそれ以上に重要なのは、【何の為に戦う】のか?それこそが【戦う者】にとって譲れない価値として、その心を最後まで支える柱となるんだ。

だから【桜】、勝つ事に執着するな、負けが【死】に繋がらないなら、どんなに無様でも地を這ってでもその【生】こそ価値がある。

何よりお前は、此処で【生きて】いるんだ、【俺】はその事実こそが――――――きっと、何よりも尊いんだと思う。≫

 

 

【戦え】と、【生きろ】と、自分の眼を見つめて言った【彼】。

その場凌ぎで簡単に言ったのではない、その言葉。

暖かな日差しが降り注ぐ中、一度だけ頭を優しく撫でて、そう言ってくれた。

嫌だと怖いと、もう何も見たくないと、心を閉ざして逃げ出した。

その逃げた自分()を、責めるのでもなく怒鳴るのでもなく、哀れむのでも涙するのでもなく。

 

 

≪それに、今は逃げれても、絶対にソレはお前を追いかけてくるぞ。

どれだけ遠くに離れようと、いつか必ずお前に追いついて苦しめてくるだろう。

立ち向かいたくても、それに立ち向かう力が足りなくて怖いというのなら、いい加減にその手を伸ばせ。

お前には…ちゃんと、その手をつかんで守ってくれる奴が―――――――カリヤ達がいるんだ、もっと頼れ。≫

 

 

ただ事実として受け入れて、そうして自分の力に変えろと、

何よりも、桜は【助けを求めて】もいいんだと、【彼】はそう告げた。

 

 

 

≪――――お前の、願いは――――≫

 

 

 

私の、【桜】の願い。

 

最初はただ、帰りたいというものだった。

それは無理だと諦めたモノで、何処にも行けないと知った。

次は、この生活から助かりたいというものだった。

蟲に犯され蟲に生かされ蟲に全て支配される、そんな毎日に諦めた。

そんな中で、何もかも諦めれば楽になれると、目を伏せた中で―――――――

 

 

                『桜ちゃん』

 

 

優しい声が、優しい人が、自分の傍にいてくれた。

完全に壊れてしまいそうな自分を、抱き締めてくれた人。

姿も変わり果ててしまいながら、それでも温かい人が、傍に。

 

 

…………………間桐桜の為に、あんなに、傷付いてまで傍にいてくれる【雁夜おじさん】がいた。

 

 

まだ、間に合うだろうか?

この手を伸ばして、届くだろうか?

この声をあげて、挑む事は出来るの?

 

怖い、きっと苦しい思いをする。

嫌だ、今までよりもずっと痛いのは。

 

このまま何もしないで、今までのままでもいいのかもしれない。

だって誰もソレをしろとか言ってない、私はしなくてもいいのかもしれない。

 

 

 

   (でも―――――――今ここで、【何も】出来なければ、きっと私は後悔する。)

 

 

 

 

その小さな体は、自らに降りかかるであろう苦痛に怯えながらも。

その小さな心は、確かに今自らの意思で立ち向かおうと打ち震えながら。

 

 

 

幾つかの会話をした後に、蟲蔵に去っていく翁の背を視る、少女の瞳には―――――――――――

 

 

 

(許さない、赦さない…!雁夜おじさんを苛める人は赦さない…!だって、雁夜おじさんは私を守ってくれた、私の為に戦ってくれた。

だから、次は私の番…もう逃げない…私も、雁夜おじさんを守るの…!【雁夜おじさんと一緒にいたい】、それが今の私の【願い】だから…!)

 

 

 

――――――――――今確かに、自らの意志で戦うという、覚悟が宿っていた。

 

 

 

<SIDE/?????>

 

小さな選択、小さな反逆。

それは少女の胸の内で叫ばれた、確かな宣戦布告。

一瞬、瞳に宿したものの、決して気付かれなかったその【怒り】。

 

だが、【誰も知らない筈】のその姿を、金色の目が見つめていた。

金色の瞳は、そのまま踵を返して歩き出す桜の姿を見送ると、立ち去る。

 

 

 

そして、深夜の円蔵山――――――――柳桐寺裏、池の畔にその【影】が舞い降りた。

 

 

 

バサリ、と音を立てて、地に降りると。

そのまま、とてとて、と小さな足音を立てて、池の前で立ち止まると。

 

 

 

たった一言、告げた。

 

 

 

           <あのこ―――――――えらんだよ。>

 

 

 

その言葉が、人には分からない言葉が、響いた瞬間。

今の今まで、静かだった水面が、揺れた。

 

 

―――ザバァッ!!

 

 

おもむろに音を立てて、池から白い手が伸びた。

手は、そのまま岸へ伸びると、しっかりと掴みその体を引き上げる。

穹色の眼が、【影】を労わる様に見つめると、そのまま静かに伏せられた。

 

 

「……………………そうか、桜は、選べたか。」

 

 

ぽたり、ぽたりと滴が零れる中。

銀の騎士が、そう呟いた。

【影】は、濡れるのも構わず、【彼】の傍に近付き寄り添った。

 

<うん、おこってた、あのこ【ゆるせない】って、おこったよ。>

「なら、私も動くべきなんだろうな………【奴】が【自滅】するのを待っているつもりだったんだが、あまりにも状況が悪い。

カリヤの身体も心配だし、周りのサーヴァントも難敵ぞろいだし、いい加減にしないと手遅れになる……しょうがない、一か八かの【賭け】に出るしかなさそうだな。」

<―――――――かてるのか?>

 

【影】は【彼】の肩に飛び乗ると、気遣うような声を上げた。

それに、【彼】はいつもの貼り付けたような笑顔を向けず、微かな自嘲を浮かべた。

 

「……【勝つ】必要は無い。

そも、この身はたった1つの【概念】を望まれた器。

それ故に、その事柄に特化しているのだから、自分でそうしようと思えば―――――――【ソレ】で、【俺】の右に出る者はいないんだ。」

<■■■■……だから、おまえは『そばにいれない』んだな。>

「ああ、だって嫌だろう?傍にいたら、必ず【不幸】にするサーヴァントなんて、迷惑以外の何物でもないんだから。

まぁこれで何とかなる、この池の魔力だけでは正直限界があったが、桜が動いた以上【俺】もやっと魔力の問題に片が付く……あの害虫との、【決着】を確実につける【賭け】……それをマスターに隠れて行動するなんて、俺はやっぱり【バケモノ】だな、こんな、こんなモノだから…」

 

 

 

 

「―――――――――【俺】は、誰にも信じてもらえない(カリヤの傍にはいられない)。」

 

 

 

 

微かに響く笑い声。

月明かりに照らされて、銀が輝く。

何がおかしいのか、面白いのか、くだらないのか、笑う声。

まるで、笑う事しか出来ないように、ひたすらに笑っている声。

 

その声を聞きながら、【影】は静かにその肩の上で目をつぶった。

そうして、最初で最後、たった一度こう思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

ああ―――――やはり、【壊れていた】のか、と。

 

 

 

 

 

*************************************************

 

 

 

小さい願い、小さい勇気。

少女の意思は、今ここに顕現した。

その覚悟に応える者は、すべからく自らの意志を遂げるだろう。

 

理想を忘れ悦楽に浸るモノよ、知れ。

 

古来より在りし、【ある法則】が訪れるその時は―――――――――もうすぐなのだと。

 

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