EP13 亡き天才の想い
和人Side
昨日の神代氏とのメールのやり取りを思い出しながら、俺は彼女からの連絡を待っていた。
本来ならば明日奈とデートをするか、友人達と出掛けるか、ALOをプレイするところだが、
今回ばかりはそれらの誘いを断って神代氏との待ち合わせ場所である東京駅の前で待っている。
そしてしばらくしてからの事だった……携帯に一通のメールが届いた、彼女からだ。
駅に新幹線が着いた、つまりこの駅に彼女が着いたということ。
神代氏は俺の顔を知っているとのことなので、彼女から声を掛けてくれるらしい。
そして…、
「桐ヶ谷、和人君ね…」
「……はい、神代凜子さん…」
女性から声を掛けられ、俺も確信を持って彼女に訊ね、頷く。
少しばかり重苦しい空気が流れるが、このままという訳にもいかない。
「ここではなんですから、手近な喫茶店にでも…」
「ええ、そうしましょう…」
俺は神代氏の少し前に出て、彼女と共に近くの喫茶店へと曇り空の下、足を進めた。
駅の近くにある喫茶店に入り、中央のテーブル席に腰を下ろした俺達。
店内には人は居らず、込み入った話をするには最適である。
1人のウェイターがメニューを受けにきたので俺はコーヒーのブラックを、神代氏は紅茶を注文した。
互いに沈黙を保ったままだが、俺は携帯を操作する。
その間にウェイターがコーヒーと紅茶を持ってきてくれた。
そして彼と喫茶店の店主はすぐに店の奥へと引っ込んで行った。
様子がおかしいことに気が付いた彼女が口を開こうとしたので、
俺は自分の唇に人差し指を立てて静かにするようにジェスチャーをした。
俺は操作していた携帯の画面を彼女に見せる。
『今から盗聴器と発信器がないか調べます。そのまま静かに…』
神代氏は文字を見て頷いた。
俺は
その結果、3つの盗聴器と1つの発信器を発見できた。
俺は2つの盗聴器と発信器を握り潰し、残った1つの盗聴器に向けて言葉を放つ。
「菊岡……俺がガキだからといって、あまり調子に乗らないほうがいい…。今後も、良い関係でいたいだろ? じゃあな…(パキッ!)」
最後の盗聴器と破壊し、俺は溜め息を吐いた。
やはり仕掛けられていたか…ま、これで懲りてはくれるだろうけどな。
「凄いですね、桐ヶ谷君は…」
「相手が相手ですから、警戒はしていたんです。
ちなみに、いまこの店は貸切にしてもらっていますから、もう大丈夫ですよ。ここ、友人の家の店ですし」
「そう、だから店員達がバックに下がったのね…」
この店は朝霧の系列店なので、雫さんに頼んでここの店を貸してもらえるように頼んだ次第だ。
そして現在この店の周りには志郎、景一、烈弥、刻、公輝の『神霆流』5名と、朝霧財閥の専属SP5名が警護に当たっている。
ちなみに先程のウェイターと店主は朝霧家の執事が扮した姿である。
俺と神代氏はそれぞれ用意された飲み物を少し飲んでから、話しを始めた…。
和人Side Out
誠二郎Side
「き、菊岡さん…」
「は、ははは……どうやら彼は、怒らせてはいけない類の人間らしいね…」
同僚が僅かに怯えながら僕の名前を呼んできた。僕も引き攣った笑みを浮かべているだろう。
まさか対策を打たれていたなんて、しかも正確にこちらを指摘してきた。
正直、彼が子供だと舐めていた部分はあった。それでも、こちらは警戒を緩めていない。
本当に恐れ入るところだよ…。しかも店の周りに近づけないときたものだ……朝霧が相手じゃ、ここまでみたいだね。
「仕方が無いか……全員、撤退してくれ…」
僕は無線を使って店の近くにいる
そして帰還した隊員の内、1人がボロボロになりながら怯えていた。
彼曰く、「死神は実在する…」ということらしい……どうやらキリト君の仲間にやられたみたいだね…。
【黒き死神】のハクヤ君に。
誠二郎Side Out
和人Side
「私と茅場君、須郷君は同じ大学で同じ研究をしていました…。
須郷君は、表面的には茅場君の事を慕っていたけど、猛烈な対抗心を燃やしていました。
私にも何回も交際を申し込んできました……断りましたけどね…」
訥々と語る神代氏、「茅場君の事が好きだから」と彼女は言った。
だがそれが須郷の茅場への対抗心を加速させてしまったとも思っているらしい。
「桐ヶ谷君も知っての通り、須郷君は道を外れ、茅場君も許されざる行いをしました。
茅場君の死に方は「自身の大脳に超高出力のスキャニングを行い、脳を焼切って死んだ、ですね…」…な、何故、それを…」
神代氏が驚くのも無理はない…。なんせ茅場が死んだ時、俺はまだナーヴギアの眠りの中にいたのだ。
そのことは当然彼女も知っている。だからこそ、俺が彼の死に様を知っていることに驚いているということだ。
「細かい事情は知りませんでしたが、大体のことは……茅場本人から聞きました…」
「茅場君、が……?」
話を聞かせてほしいと、強くそう望んでいる彼女の瞳を見て、俺はSAOクリア直前のヒースクリフとの決闘から話した。
俺と彼が一対一で殺し合い、相討つ形になったが、ゲームクリアということで生かされたこと。
そのクリア直後に茅場と色々な話しをし、明日奈を助ける手助けをしてくれたこと。
俺がALOに囚われた時に、しばらくしてからスキャニングの成功により俺と行動を共にしたこと。
俺と仲間達の手助けを行ってくれたこと。
彼の形見である『世界の種子』と遺言を預かったことを彼女に話した。
「……そぅ、ですか…。か、彼は…茅場君は、なんて…?」
震えながら言葉にしていく彼女に、俺は茅場からの最期の言葉を伝える…。
「『最後まで迷惑を掛けてすまなかった…。こんな男の側に居てくれありがとう。そして、愛している…』……と…」
「っ…ぅ、ぁぁ…うぅ…どう、して…? わたし、に言って、欲しかった、のに……こんな、こと…って…っ、あぁぁぁぁぁ!」
遺言を聞き終えた神代氏は我慢の限界だったのだろう、たくさんの涙を流しながら泣き始めた。
俺は席を外すことしか出来なかった……彼女が泣き止むまで、店の外に出る。
外は雨が降っており、俺の様子に気付いた公輝が傘を差しながら歩み寄ってきたが、俺は雨に打たれながら扉の前に立ち尽くした。
茅場を倒した事に後悔は無かった……だが、もしかしたら死なせずに済んだ方法があったのかもしれない。
今更になって後悔するようじゃ、俺もまだまだだな…。
しばらくしてから、俺は様子を窺う為に扉を開いて中へと入った。
すると、神代氏は眼が赤くなっているものの落ち着いた様子を見せている。
俺に気が付くとすぐにタオルを取り出してこちらに近づいてきた。
「ごめんなさい、気を遣わせてしまって…。使って、このままでは風邪を引いてしまうわ」
「あ、はい…ありがとうございます…」
そういえば雨に打たれて濡れていたんだったな、俺こそ気を遣わせてしまった。
タオルを受け取り、簡単にだが頭や服を拭いていく。
席に座り、冷めてしまったがコーヒーを飲んで心を落ち着かせる。
そして再び、彼女は話し始めた。
「私は、茅場君の潜伏していた山荘を、彼を殺すつもりで訪れました…。
ですが、殺せませんでした……そのせいで、多くの方の命が奪われました。
彼と私のしたことは、決して許されることではありません。
彼を憎んでいるのなら、託されたものを消去してください…。
でも、もしも…憎しみ以外のものが、貴方の中にあるのなら……」
どこか懇願するかのようにも見える彼女の姿と想い、俺はふっと笑みを浮かべてから彼女に言葉を掛ける。
「茅場にも、貴女と同じことを聞かれましたよ…。
俺は茅場にも、あのSAOにも、憎しみは抱いていません。
確かに多くの命が奪われる結果となりました…ですが、
あの世界で守れたものがあったことも、出会いがあったことも、全て夢や幻にはしません。
俺は、託された『世界の種子』を芽吹かせます」
「っ、ぁ…ありがとう、ござい、ます……」
俺の言葉に彼女は再び涙を流した……けれど今度は、嬉しさからきたものだと思う。
「ありがとうございました、彼の最期の言葉を教えてくれて…」
「いえ、俺は頼まれた言葉を伝えただけですから…」
いつの間にか夕方になっており、雨も上がっていた。
志郎達やSPの人達にも解散してもらい、今は東京駅にて彼女の帰りの新幹線を待っている。
「桐ヶ谷君、また今度…会ってもらえるかしら?」
「勿論です。俺としても、VR技術についてもっと学びたいですから…」
彼女も茅場と共に研究をしていた技術者にして科学者だ。この人から得られるものは大きいだろう。
「そう、貴方も……なら、私のことは凜子でいいです。
彼が注目していた貴方で良ければ、私が教えられることは出来る限り教えましょう」
「なら俺も、和人か……キリトで。茅場も最後まで俺をそう呼んでいましたから」
その言葉を言った直後、新幹線が着いた。彼女は荷物を持って新幹線へと乗り込もうとし、俺の方を振り返った。
「それでは、また会いましょう…キリト君」
「ええ、また…凜子さん」
彼女は新幹線に乗り込み、東京から宮城へと帰っていった。
俺も帰るとするか……いや、その前にちょっと寄って行くか…。
和人Side Out
To be continued……
後書きです。
茅場の最期の言葉を伝えた和人、その言葉に泣き崩れた凜子さん・・・。
本作の茅場の凜子さんへの心情は、『黒戦』におけるキリトとの対話である程度見え隠れしていましたからね。
凜子さんとの話しの中で見えた和人の感情、それはどんなものなのか?
それについては次回で明かします。
凜子さんの茅場への呼称はまぁ和人と初対面だったということでこんな感じです。
ではまた・・・。
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EP13です。
ついに対面する和人と凜子、そして茅場の遺言とは・・・?
どうぞ・・・。