EP11 和人のヤキモチ
明日奈Side
それは担任の女性教師からの説明が終わって、先生が教室から出ていってすぐに起こった。
「ね、ねぇ…これってかなり不味くない?」
「里香も明日奈も大人しくしてろ。俺が居る…」
そう話しているのは里香と志郎君。
わたしは窓際の一番後ろの席に座り、里香がその隣、志郎君がわたしの前に座っている。
今がどういう状況かというと、
―――ざわざわざわざわざわっ……
クラスメイトに、そして他の学年の生徒達が何故か集まっています。
クラスメイト達は少しだけ距離を取って、それでもこちらを囲むようにしており、
他の生徒達は教室には入っていないものの、廊下にびっしりと集合している。
うぅ~、なんでこんなことに…。
「多分だけど、明日奈を見に来たんだと思う」
「え? わたしを?」
「あぁ~、なるほど。そういうことね」
志郎君の言葉にわたしは首を傾げるけれど、意味は分からず。
なのに里香は意味を理解しているみたい。
でも、なんでわたしなんかを見に来るんだろう?
「SAOでも五本指に入る美人、加えて攻略組の中でも最強のギルド『血盟騎士団』の副団長を務めた。
新聞にも載るほどに取り上げられていたんだ。
下層や中層のプレイヤーがほとんどとはいえ、顔は知られているだろうな。しかも名前が一緒だし」
「う、うそ……で、でも、わたしよりも、志郎君達の方が有名なんじゃ…?」
「明日奈、アンタ知らないの? 志郎達の存在はほとんど上層のメンツしか知らないようなものなのよ。
下層や中層が主で、攻略に興味がない人なら知らないわよ」
わたしに説明をしてくれた志郎君の言葉に驚き、里香はその意味を教えてくれた。
ど、どうしよう……こんな状況じゃあ、キリトくんに会えないよ~…。
「む……な、なんか、マズイかもしれない…」
「? どうしたのよ、志郎」
その時、志郎君の様子が変わった。
里香が怪訝に思っているようで訊ねているけれど、何かに集中しているみたいだ。
「(ぶつぶつ…)前…違う、斜め? いや、横だと…? 斜め後ろ……ま、まさか、後ろ……だと…!?」
小さな声で呟く彼、その意味を聞いてみようと彼に声を掛けようとしたその時…、
―――ガラガラガラッ!
「あ~す~な~♪」
「え?……か、和人、くん…?」
背後から名前を呼ばれて振り返ってみると、そこにはキリトくんがいた……窓越しに…え?
窓越し、つまりは何もないはずなのに……なんで?
そう思っているうちに、彼は窓を乗り越えて中に入ってきた。
「志郎、明日奈を守ってくれてありがと」
「和人……お前、外の縁の上を歩いてきたな?」
「ああ、よく分かったな…まぁ、気配が漏れてたか…」
「素人達にその怒りをぶつけなかっただけ、まだマシだけどな…」
普通に会話をするキリトくんと志郎君。
だけど話しの内容が凄い、キリトくんは窓の外の縁を歩いてここにきて、しかも周囲の状況に怒り気味らしい。
その周囲はというと、いきなり外から現れた彼に驚いている。
そして彼はわたしを立たせると腰に手を回し……って、腰ぃっ//////!?
「和人、お前ヤキモチか?」
「あ、分かるか?」
「分からいでか…」
え? キリトくんのヤキモチ?
そ、そういえば、やけにわたしの腰に回す手の力が強いと思ったら、そういうことだったのね……え、えへへ~、嬉しいなぁ///
「アンタはリアルでもメチャクチャな奴だったわね…」
「里香、問題無いぞ…俺も似たようなもんだ」
里香の一言に志郎君はあっさりと答える、確かに今更感がある気がする。
ちなみに集まっているギャラリーの反応は凄い。
数少ないながらも女の子達は黄色い声を上げており、男子からはキリトくんへの嫉妬や羨望、憤怒の視線が向けられている。
彼はそれに対してまったく反応せずにわたしを抱き寄せながら会話を続ける。
わたしはというと、そんな男子達の視線が気に喰わないのでキリトくんの体に腕を回してギュッとする。
それにより男子達からは絶望にも似た叫びが上がった。
「うるさいなぁ…」
「そう思うんなら、さっさと帰ったらどうだ?」
男子達の叫び声に鬱陶しそうにするキリトくん、志郎君は帰ればいいと促した。
「どうする、明日奈? みんなと出掛けるってのも、アリだと思うけど…」
「う、う~ん……わたしは、和人くんと出掛けたい、かな///」
「「あ、あははは…」」
彼に聞かれたので正直に答えると、志郎君と里香は呆れたように苦笑していました。
そんな時、男子が1人近づいてきた…見るに他のクラスの生徒のようだ。
「お、おい! お前、いきなり出てきておいて、なんなんだ! その娘に抱きついて!」
そんなことを言い、言ってやったぞ、というようなしてやった感を出している。
むっ、なんなのこの人! わたしの大切なキリトくんにこの言い草は!
「なにって、聞かれてもな…「わたしの彼氏です///!」…ということだ」
「「「「「「「「「「な、なにぃぃぃーーーーー!!!???」」」」」」」」」」
答えようとしたキリトくんの前にわたしがハッキリと言い切り、周囲は大絶叫を上げた。
は、恥ずかしいけど、別に恋人同士ってバレるくらいなら大丈夫///!
それに、こうすればわたしには男子が、キリトくんには女の子があまり近づかなくなるはず!
「(ひそひそ)ね、ねぇ…あの人って、もしかしてキリトじゃない?」
「(ひそひそ)キリトって、【黒の聖魔剣士】の?」
「(ひそひそ)あ、あれは噂の中の存在じゃないのか?」
「(ひそひそ)けどさぁ、【閃光】様と結婚したって、新聞で…」
「(ひそひそ)そ、そういえば……ということは、SAO最強の称号を持つ…」
「(ひそひそ)で、伝説の剣士…」
ざわめくギャラリー達、その言葉を聞いたキリトくんの表情は楽しげである。
この人、絶対にこの状況を楽しんでるよ…。しゃしゃり出てきた男子は後に引けなくなったのか、
「ア、アンタが、彼女の彼氏だっていう証拠は…アスナさんの男である証拠は「オイ…」ひっ…!?」
証拠を示せと言おうとしたけれど、彼の強烈な威圧感がそれを遮った。
キ、キリトくん? い、いきなり、この威圧感は、良くないんじゃないでしょうか?
「お前、いま彼女のキャラネームを呼んだな…? それはこの学校ではマナー違反に当たる。
仮に彼女の名前を呼んだにしても……親しい仲でもないのに、だ…」
キリトくんのその言葉に詰まった様子を見せる男子。
そういえば名前を呼ばれていたけど、てっきり本名を呼ばれたものかと思っていたのに、まさかキャラネームの方だったのね。
でもキリトくんは違いが分かるんだ~……あれ? そのキリトくんもいまキャラネームで呼ばれていたよね?
気にしてないみたいだけど……わたしのために気を高めてくれるのは凄く嬉しいなぁ///…って、
そんなことを考えてる場合じゃない!
みんな明らかに怖がってるよ~、志郎君は呆れてるし、里香は「またか…」なんて言ってるし…。
「俺に関してはアンタらの解釈に任せるさ……だが、彼女や俺の仲間の事は別だ…。
次に見世物にしたり、嫌がるような事をすれば……潰す…!」
「「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」」
ギャラリーは完全に沈黙、志郎君は溜め息を吐いてから苦笑し、里香は慣れている反応をしているけれど表情が引き攣っている。
うん、これは恐いよね…わたしも出会った頃とか、仲が良くなかった頃は凄く恐かったし…。
しかし、男子はまだ何かを言おうとしている。
「お、俺は…ぐ、『軍』に所属して…「(シュンッ!)」…っ!?」
「それ以上は言わない方が身の為だぞ…?」
「同じくだ…」
何かを言おうとした男子に対して、キリトくんと志郎君は一瞬で接近し、
その喉元にまるで刃物を添わせるかのように手刀を突きつけた。
SAO同様にまったくその動きが見えない、速すぎる…。
「ここに来ている全員に言っておく…。SAOの事を忘れろとは言わない……だけどな、向こうでの事を持ち出すのはやめろ。
人を傷つける事にもなるし、自分が傷つく事にもなる。そのことをよく覚えておくといい……とまぁ、そういうわけで…」
キリトくんは集まった全員に警告すると、そのまま自分の空気を柔らかなものに戻した。
「今後注意してくれたらそれでいいし、彼女の事に関しては彼女自身の采配に任せるさ。
それじゃあ、帰るか…な、明日奈?」
「うん///」
彼は最後にそう言い、わたしは彼と手を繋いで教室を後にした。
ちなみにこのあと、わたしとキリトくんは一度自宅に帰ったあと、午後からはデートをして時間を過ごしました。
ふふ、やっぱりキリトくんとの時間は楽しいや///
明日奈Side Out
志郎Side
まるで嵐のような時間だったなぁ~…未だにみんな呆然としている……やりすぎじゃね?
「……志郎。和人と明日奈が帰っていったが、私達はどうする?」
和人と同じように外の縁の上を通って教室に入ってきた景一がそう問いかけてきた。
お前も和人も普通に登場しろよ…。
「景一か、学校の探索は明日でいいだろ。烈弥達にもそう伝えて、今日は解散しようぜ」
「……心得た。私が伝えておこう、それではな…」
「おう、また明日な」
今日の予定変更を伝えると景一は割れた人混みの間を通って教室から出ていった。
「おい、ケイ! さっきのカズとあの
「あの2人の関係は知ってるけど、なんか空気が違ったぞ!?」
「……簡単に説明を行うから、あまり大きな声を出さないでくれ…」
なにやら景一と聞き覚えの無い声の持ち主との会話が聞こえてきたが、おそらくクラスメイトだろう。
和人と明日奈の様子は……驚くよな(笑)
「さてと……里香」
「ん、なに?」
「俺達も帰るぞ」
「ぁ、ええ///♪」
俺と里香も自分達の荷物を取ると、さっさと教室を後にした。
改めて明日は学校の中を探るようにしよう、今日は変に疲れた…。
志郎Side Out
To be continued……
後書きです。
不機嫌な和人さん、実は彼のヤキモチでした~。
まぁそれで威圧感をまき散らされた方は堪ったものじゃないですけどねw
今回は和人視点ではなく、敢えて明日奈視点にしました。
この方が周囲の状況や和人の様子が伝わりやすいかな~、と思いまして。
結局のところ、一番苦労したのは志郎でしたw
景一、お前もマトモに登場しろw
それでは次回は今回と一転して、シリアス気味になります。
ではまた~・・・。
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EP11です。
さぁ前回の不機嫌モードからの和人さんでしたが、タイトルの通りで・・・。
どうぞ・・・。