No.56119

そうして人は堕ちていく。~彼の記録~

とかげ。さん

殺意の無い殺人、悪意の無い殺人。
そんなものが無いとは言い切れず。
けれど許せないものである。

プロローグでエピローグ。(連載未定)

2009-02-05 00:44:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:687   閲覧ユーザー数:660

 

 

 

「そこにただ居たのは僕。

 

僕は普通に暮らしていた方だったと思う。

 

口にするのは恥ずかしいが大きな夢もあった。

 

友達もいた。

 

仕事もあって、充実した毎日を送っていたのではないかと思う。」

 

その長くただ悲しいだけの映像はこの言葉で始まった。

 

ただ居ただけだと彼は言う。

 

流れが自分を変えたのではないかと

 

そう熱っぽく語った後に

 

少し息を呑んでから

 

「いや、すべては僕の罪なのだけれど」

 

と弁解をした。

 

これは人類史上が始まって以来の衝撃的な事件ではないかと思う。

 

彼は連続で人を殺し続けた殺人鬼

 

ひとつの事件に一本のナイフ。

 

結果365人というなんとも皮肉な数字をたたき出した恐るべき殺人鬼

 

彼は一日に一人ずつを殺害して

 

丁度一年後に死んだのである。

 

その人数にかかるのが衝撃的なのではない。

 

彼はその犯行の間、ただ生活を続けていたのだ。

 

アリバイ工作も偽装も何もなく

 

ただ生活の中に殺人があった。

 

それは世の中の奇跡が偶然が悪意が渦巻いた結果なのか。

 

彼は誰につかまることもなく

 

最後にはある少女を助けさえして

 

死んでいったのだ。

 

それは懺悔か

 

いや、私はこう思う。

 

彼は別に殺害を後悔したから助けたのではない。

 

われわれが一般的に誰かが命の危機に晒されていた場面に出くわしたのと同じくして

 

少女を助けたのだ

 

救える命だったからこそ

 

救った、それだけのことなのだろう。

 

弁明ではない、私だって彼を許せはしないだろう。

 

だけれどこの364回続く記録映像を見続けていると

 

言いようもない涙だけが流れていくのだ。

 

彼は死んだその瞬間に確かに救われたのだ。

 

毎日誰かを殺していく毎日であるのに

 

誰も自分を捕まえない、殺さない。

 

逃げることもしていないのに

 

それは神であると錯覚するよりは

 

自分が何者であるかを遠く疑うようなものだった。

 

彼は何度その中で死にたいと叫んでいただろうか…

 

それでも彼は殺し続けた、その衝動の理由は原因はもう誰にもわからない。

 

 

 

 

彼を殺してあげられたら

 

 

 

私はもう死んでしまっている彼に対してそう思わずにはいられなかった。

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択