No.561161

SAO~黒紫の剣舞~ 第零話

bambambooさん

もし、ユウキが《SAO》の世界にいたら。この作品はそんな想像から生まれたものです。

それに合わせて、いろいろなところが変化しています。
キリト君とアスナさんがその影響を最も大きく受けています。

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2013-03-31 16:21:23 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2035   閲覧ユーザー数:1905

とある妖精界において、彼女は《絶剣》の異名を誇った。

剣の世界で二刀を与えられた黒き少年は、「もし剣の世界に居たとしたら、この力は彼女に与えられていた」と語る。

では、その世界に二人が存在していたら、剣の世界はどのような流れを歩んだのか。

今、《黒の剣士》と《絶剣》の刃が、剣の世界で交わる。

 

 

第零話 黒衣の剣客

 

 

右手の円盾(バックラー)を掲げ、右手の片刃曲刀(シミター)を引くトカゲ人間――――《リザードマンロード》を見据え、刀を正眼に構える。一触即発のピリピリとした空気を肌で感じながら、全神経を相手の四肢の動きに集中させて来るべき時に備える。

 

あのモーションから、リザードマンは曲刀カテゴリに部類する上位ソードスキル、単発重攻撃技《フェル・クレセント》を使ってくると予想できる。射程4メートルを0.4秒で詰めてくる優秀な突進剣技だ。

 

俺とリザードマンとの距離は大体4メートル弱。俺にとっては遠く、ヤツにとっては丁度いい距離。下手に動くのは得策ではないと判断した俺は、その場で受けの姿勢を取った。

 

次の瞬間、リザードマンが動いた。

 

右手シミターが熱を発しそうなほど明るい橙色のライトエフェクトを纏い、リザードマンが空間に残像を残しながら急接近してくる。4メートル近くあった間合いはあっという間にゼロになり、凶刃が俺目掛けて振り下ろされた。

 

その攻撃をあらかじめ読んでいた俺は、数センチだけ後ろに下がり、鼻先をかすらせる程度で済ませる。

 

同時に、視界左上に存在する俺の《命》を表す青色のバー、一般的にHPバーと呼ばれる横に引かれたゲージが数パーセント削れる。

 

狙いを外したシミターは、吸い込まれるように地面を叩いて激しい火花を飛び散らし、得物に全体重を乗せていたリザードマンは大きく態勢を崩した。まさに必殺の一撃。それだけの威力が今の斬撃に込められていた知り、もし直撃していたらと考えて背筋に冷や汗が流れる。

 

「ハアッ!」

 

しかし、折角作った好機だ。俺は臆することなどせず、鼻先に焦げ臭さを感じながら、振り下ろされたシミターの隣をすり抜けるようにしてリザードマンに肉迫し、お返しとばかりに無防備な胴体を横一文字に斬り付ける。手応えは上々だ。

 

「グルァ……」

 

その完璧な一撃に、リザードマンは完全に動きを止めた。それをスタンと見てとり、両手で持った刀を上段に高々と掲げる。丁度、剣道でいうところの《火の構え》と同じような構えだ。

 

直後、先ほどのシミターと同じように刀身が眩い茜色に輝き、半自動的に振り下ろされた。刀は茜の軌跡を描いてリザードマンの緑色の鱗を深々と切り裂き、振り抜かれる。リザードマンのHPがグイッと減少し、しかし、三分の二を削ったあたりで停止してゼロにするには至らなかった。

 

リザードマンロードはニヤリと嗤い、硬直の解けた体でシミターを構え直す。

 

それに同じく、口角を釣り上げて笑い返した俺は、振り抜いた刃を返して本命の一撃を喰らわせた。

 

刀の切っ先が地面を撫で、キイィィィンという甲高い金属音と火花を周囲にまき散らしながら、一撃目の倍近い速度で斬り上げられた刀は、相手が攻撃に転ずるよりも圧倒的に速くその体を両断する。そして、そのあとを追うようにして巻き起こった火柱にも似たエフェクトが、リザードマンロードの姿を包み込んだ。

 

上級刀スキルにカテゴリされる、二連続縦斬りソードスキル《秋閃華(シュウセンカ)》。

 

激しく燃え盛る紅色の焔が消えたその時、そこには既にリザードマンロードの姿はなかった。

 

「少し引き付けすぎたかな……」

 

左手で鼻の頭を軽く一撫でし、《フェル・クレセント》を避けたときのこと思い出しながら、刀に付着した血を払うように一度振い、腰に下げた鞘に刃を収めた。

 

――――パチパチパチパチ!

 

「すごーい! さすがキリトだね!」

 

突然、後ろから聞こえて来た拍手と、俺を称賛する幼さの残る少女の声。聞き慣れたその声に振り返れば、案の定、そこには第一層から付き合いのある少女の姿があった。

 

濡れた烏の羽のような腰まである艶やかな黒髪。その間から覗く幼げな顔には、見る人を和ませる天真爛漫な笑顔を浮かべている。高く見積もっても十三歳くらいにしか見えない少女に、大人っぽい印象をあたえる紫紺の装備は妙にマッチしていて、チャームポイントともいえるその笑顔をより引き立てていた。

 

「ありがとう。でも、お前ならもっと上手く倒せるだろ、ユウキ」

 

自分の名前を呼ばれた少女、ユウキは、ニコリと花のような笑みを浮かべて俺の傍に小走りで近付いてきた。その様子がなんとなく子犬っぽくて、俺は小さく微笑む。

 

「今日は一人か? アスナとは一緒じゃないんだな」

 

ふと、よくユウキと行動を共にしている凄腕女細剣使い(フェンサー)がいないことに気付き、ユウキに問い掛ける。すると、ユウキは頬を膨らませて急に不機嫌になった。

 

「ふうーん……キリトはボクよりもアスナの方がいいんだ」

 

「いや、別にそういうわけじゃ……ただ、いつも一緒だから気になって」

 

「さすがに毎日一緒じゃないよ」

 

不機嫌になった理由が分からず、少し慌てて言い訳すると、ユウキはクスクスと可笑しそうに笑い、続ける。

 

「アスナは、今日は会議だって。ホントはボクと来る予定だったんだけど、突然はいっちゃったみたい」

 

「なるほど。《血盟騎士団》の副団長様も大変だな」

 

今ごろ、資料片手にテキパキと会議を進行させているであろうアスナの姿を思い浮かべ、ひとり納得する。

 

「……まあ、おかげでキリトと二人っきりなんだけどね」

 

「何か言ったか?」

 

「なんにも! それよりキリト、これから一緒に行かない?」

 

なにやらぼそりと呟いたあと、ユウキは上目遣いで俺を見上げながらそんな提案をしてきた。ボクなら大歓迎だよ、とでもいうように両手を横に大きく広げてもいる。

 

「そうだな……。折角のお誘いだし、俺としても願ってもない提案だからな。俺は別にいいぞ」

 

「ホントに!? やった!!」

 

尻尾があれば千切れそうな勢いで振っていそうな、それくらい嬉しそうな笑みを浮かべるユウキに、俺は思わず手を伸ばして、その艶のある濡れ羽色の綺麗な黒髪を撫でた。

 

ユウキは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにくすぐったそうに目を細めて微笑んだ。サラサラとした指通りのいいユウキの髪はずっと触っていたいし、ふにゃっとした表情はずっと見ていたくなるほど可愛かったが、このまま突っ立ているのも危険なため、適当なところで辞める。

 

手を離すと、ユウキは少し残念そうな顔をしてから「えへへ……」と頬を薄く朱色に染めて小さくはにかむ。

 

「それじゃ、よろしくな」

 

右手の人差指と中指をそろえ、下に振ってメニューを開いた俺は、そのまま少し操作してユウキにパーティ申請する。

 

「うん。よろしくね、キリト!」

 

ユウキが、目の前に現れたウィンドウをタッチすると、自分のHPバーの下に、【Yuki】と表記された新しいHPバーが出現した。この【Yuki】という四文字を見て、俺は第一層ではじめてパーティを組んだときの事を思い出し苦笑いする。申請されたのを確認したユウキは、そんな俺を見て頭に疑問符を浮かべて首をかしげた。

 

「なんだか、キリトとパーティ組むの久しぶりな気がするなぁ~」

 

「前に組んだのは六十八層だったけ?」

 

「違うよ! 六十九層だよ!」

 

「あれ、そうだっけ?」

 

「そうだよ……」

 

ユウキに間違いを指摘され、俺が正しい記憶を掘り起こしていると、ユウキは小さくため息をついてしょんぼりとし、すぐに何かを振り払うように顔を横に振る。その次のあとには、いつもの花のような笑顔が戻っていた。

 

「早く行こう。時間がもったいないよ!」

 

そう言ってダンジョンの奥に足を向けたユウキは、張り切っているからか、それとも楽しみだからかは分からないが、両腰に挿した二振りの片手用直剣を引き抜いて進みだした。

 

その様子に、頼もしくも微笑ましく感じた俺は、小走りでユウキに近付き並んで歩く。そのとき、隣のユウキが微笑む気配がして、俺も小さく笑った。

 

 

ここは、茅場晶彦という男が作り出したゲームの世界。名を《ソードアート・オンライン》。通称《SAO》。

 

初回ロットわずか一万本という競争に勝ち抜いたプレイヤーが、期待と不安、そして夢を抱えて心待ちにしていた、完全な仮想現実の世界。

 

しかし、それは今や過去の話。

 

2022年11月6日。SAOの正式サービスが始まった瞬間、全てが一転した。

 

この世界の舞台となる《アインクラッド》は、百層全てを攻略しなければ脱出することのできない《監獄》へと変わり、《SAO》というゲームは、ゲーム内での死が現実の死となる《デスゲーム》へと成り変った。

 

それから二年経った今、攻略された階層は全部で七十三。二年もかけたにもかかわらず、階層はまだ四分の一も残されている。

 

『――――これは、ゲームであって遊びでない』

 

茅場晶彦の言ったその言葉の意味を、俺たちプレイヤーは改めて思い知らされていた。

 


 
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