No.557942

魔法少女リリカルなのは -九番目の熾天使-

第二十五話『ガジェットⅣ型』

2013-03-22 19:43:40 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:16217   閲覧ユーザー数:6453

 

 

 

【転移、完了しました】

 

「なっ!? 此処は……」

 

 セレンが転移に驚いている。無理もない……あの世界でも転送技術などは無かったのだから。

 

 っていうか、さっきから顔が痛い。ったく、セレンめ……好き放題に殴りやがって!

 

「やあ、おかえり煉君。そちらのお嬢さんは誰だい?」

 

 俺はセレンを連れて研究所に戻り、二人に事情を説明した。そしてセレンがジェイルを見るなり「……コイツ、変態だな」と失礼にも程があることを言いやがった。ま、ジェイルはそんな彼女に対して起こるでも無く薄ら笑いを浮かべて挨拶したが。

 

 ……まあセレンの気持ちは解る。見た目がマッドなサイエンティストっぽくて嫌でもトーラスの連中を思い出してしまうからな。

 

 挨拶を済ませて簡単な状況を説明した後に俺は自室に案内させられ……一時間にも及ぶ説教をさせられた。

 

 しかしながら俺はふと疑問に思った。何でここまで執拗に怒られているんだろう、と。だが、そんな疑問は足の痺れですぐに吹き飛んだ。

 

 そういえば説教を受けている最中にチンクが心配そうに様子を見に来てくれたな。助けてはくれなかったど。

 

 そんなこんなで数日が経ち、今俺は無人世界にいる。

 

『ではこれよりミッションを開始する。内容はブリーフィングで聞いた通りだ。今回はへんた……スカリエッティの製作した試作ガジェットの実戦テストだ』

 

 ……オペレーターの言葉にツッコんだら負けだろう。

 

『まあ特に仕事と言うほどでも無いが、お前の役目はデータ収集だ』

 

 それにしても相変わらず上から目線だな。ま、それが彼女の個性であり、良いところでもあるんだが。

 

『それではテストが終わるまで待機しておけ』

 

「了解、飛行形態にて待機する」

 

 俺はセラフを変形させて視線を地上に移す。そこには四脚の機体が鎮座してある。その全ては分厚い装甲に包まれていた。っていうか、ぶっちゃけ四脚ACだ。

 

 武装は左腕に小型レーザーブレード。右腕に実弾のスナイパーライフル。背中には大口径のスラグガンとグレネード砲が装備されていた。

 

『ではテストを開始する』

 

 セレンの合図と共にACが起動する。そしてACの目の前と離れた場所の岩陰や丘にターゲットドローンが浮かぶ。

 

【…………】

 

 遠距離の物はスナイパーライフルで、近距離の物はスラグガンで、更に複数が集まっているところにはグレネードで破壊していくAC。ロックオン速度がまだまだ遅く、あくまで主観だがスムーズには行かなかった。ま、試作段階としては上出来じゃないだろうか?

 

 全てのドローンを破壊し終わるとACは行動をを停止した。

 

『まあこんなものだろう。よし、これで試作機のテストを…………いや待て、魔力反応だと!?』

 

 だが、事は順調に行く物では無かった。

 

『反応は二つだ! 真っ直ぐそっちに向かって向かっているぞ!』

 

 十中八九管理局だと俺は思う。しかし、タイミングが悪い。回収には少しばかり時間を要する。

 

『おい変態、これはどういうことだ! この世界には人はいない筈ではなかったのか!? ……何? イレギュラーは付きものだと? 巫山戯るな! レン、接敵まで30秒だが回収はできそうか?』

 

 ジェイルを変態と呼ばわりするセレン。

 

 ん? 意外と時間があったな。それぐらいあれば何とか……

 

「三十秒あるなら十分だ。これより回収にm『ダンッ』っ!」

 

 回収に向かおうとした瞬間、俺の目の前を銃弾が過ぎ去った。

 

 俺は咄嗟に回避行動を取った。そして再び銃弾が飛来してくる。

 

『なっ、AIが制御を受け付けないだと!? っく、ダメだ! 自爆プログラムも受け付けない! ……おい変態、どういう事か説明しろ!! なにぃ? 暴走しているだと? AIがまだ不完全? 私は聞いてないぞ! って、笑っている場合か貴様!! ……いいだろう、この件が終わったら覚悟しておけよ、変態』

 

 なんかかなり罵倒していたが、どうやらセレンはAIが不完全だと知らなかったらしい。俺はてっきり知らされていたと思ったが。

 

『聞いた通りだ。その試作機は暴走している。先ほどのプラン通りに事を進め……いや、遅かったか』

 

【敵影確認。目視可能距離です】

 

 ルシフェルの警告を聞いてやってきた者を確認する。そこにやって来たのは2年ぶりに見る顔だった。

 

「目標発見! って、何あれ!?」

 

 それは高町なのはだった。

 

「もう、折角任務の帰りなのになぁ。でも、頑張らないと」

 

【…………】

 

 高町がやって来たことに対し、ACはターゲットを変更したようだ。

 

『むぅ、これが魔法か。話には聞いていたがまさか人が生身で空を飛ぼうとは……。しかもまだ子供じゃないか』

 

 セレンはACと戦っている高町を見て感心していた。前に説明はしたものの実際に見るのは初めてなのだ。

 

『兎に角都合が良い。奴が破壊してくれるなら態々こちらがやる必要も無い。高みの見物と行こうか』

 

「了解した」

 

 ま、高町程の腕なら難なく倒してしまうだろう。そう思って俺は様子を見ていると、少し違和感を感じた。

 

 どういうことだ? 高町の動きが鈍い……それに表情も何か辛そうだが……?

 

 だが高町がACの胸部に魔力弾をぶち込んで機能を停止させたので気のせいだと思った。

 

「なのはー!」

 

「あ、ヴィータちゃん!」

 

 その名前を聞いた瞬間、俺は胸が痛くなった。…………今更何を思っているんだ俺は。

 

 そして俺はそのまま撤退をしようとした、が……

 

『待て……再起動だと!?』

 

「何っ!」

 

 俺は機能停止した筈のACを見ると僅かに体を動かしてグレネードを高町に狙いを定めていた。

 

「くっ、間に合え!」

 

『待て、レン! 一体何をっ!?』

 

 俺は最高速度で飛行し、ACに狙いを定めてチェーンガンを乱射する。だが、僅かに遅かったのかグレネードが発射された。その弾頭は真っ直ぐに高町の所に向かって行く。

 

「っ! なのは、危ない!!」

 

「え?」

 

 幸いにもヴィータがいち早く気づいて警告する。高町の腕なら何とか回避かバリアで防ぐ事は出来る距離だ。だがしかし、俺の予想は裏切られた。 

 

 ドォオオオン!!

 

「なっ!?」

 

 高町は避けることも出来ず、直撃したのだ。そして爆煙の中から地面へ真っ直ぐと落ちていった。それを回収しようと動こうとしたがいち早くヴィータが助けた。そして俺を見てキッと睨む。

 

 今は飛行形態だから正体はバレていないはずだ。

 

『……レン、すぐに撤退しろ。これ以上は面倒事になる』

 

「……了解」

 

 そして俺はその場を逃げるように去った。

 

 

 

 

 

 ミッドチルダの総合病院。そのとある病室に俺は意識不明の少女の様子を見ていた。

 

「…………クソッ! また……また俺は守れなかったのか!」

 

 俺は2年前に誓った筈だ、彼女達を守ると。今回の事件は前世の記憶で知っていた。これからの事も。しかし細かい日にちは知らなかったから対処が出来なかったのだ。

 

「……いや、それはただの言い訳だ。結果的に俺は守れなかったのだから。」

 

 俺は再び少女に目をやる。体の至る所に包帯を巻かれて酸素マスクを取り付けられている。見るからに痛々しい。

 

 最近、高町が無茶をしているから近々事件が起こるのではないかと危惧してなるべく彼女の傍にいたが、俺がどうしても抜けられない任務がある日にそれは起こってしまった。

 

 犯人はもう分かっている。ジェイル・スカリエッティだ。あいつのくだらない実験の為になのはは重傷を負ったのだ。許せるはずが無い。

 

 ただ、気になっている事がある。それはなのはを襲ったガジェットだ。アレはアニメで見た物とは随分違っていた。上半身は人型で鎌もなく、ステルス機能も無い。だが、その武装は恐るべき物だった。

 

 遠距離から狙撃するスナイパーライフルにレーザーブレードなんて物がある。っていうかこれ、昔やっていたゲームに出てくる機体にそっくりだ。確かゲームの名前は……アーマード・コアだったか?

 

 俺は3までしかやったことが無いけど、確かに四脚の機体があったはずだ。

 

「なのは……」

 

 だが今はそんなことはどうでもいい。今はなのはの事だ。俺がもっと彼女の傍にいたら、忠告でも何でも言えばこんな事にならなかったのでは、と思う。

 

「王騎、ここに居たか」

 

「……シグナムか」

 

 俺が自責の念に捕らわれているとシグナムが病室にやってきた。

 

「まだ目が覚めないようだな」

 

「ああ……」

 

「……お前が気にしても仕方ないことだ。お前はその場に居なかったのだからな」

 

「……そうだな。なぁシグナム……」

 

「ん?」

 

 俺はヴィータの報告した黒い機体のことをシグナムに話した

 

「まさか奴か!?」

 

「いや、ヴィータの報告によればその機体は人型じゃなくて飛行機のような形をしていたって言ってたから多分違うだろう」

 

「……そうか」

 

 俺がそういうとシグナムは途端に肩を落として落胆した。

 

 二年前の事件……。シグナム達とは家族のように過ごしてきた煉がリィンフォースを殺害する事件。あれ以来皆は管理局に入り、必死に煉の行方を捜しているが手懸かりが一向に見つからない。

 

 特にはやてやシグナムは誰よりも必死に捜している。先日なんて徹夜で情報を洗っていたぐらいだ。まあ、なのはが襲われた以降はフェイトや他の皆によって無理はしないように言われたから大丈夫だろう。

 

 煉は俺達を裏切った。何故か? アイツは『必要だからだ』と言っていた。『いつ暴走するかも分からない』とも言っていた。恐らく、アイツはリィンフォースがいずれ暴走するかもしれない事を何処からか情報を入手したのだろう。若しくは第三者に情報を提供されたか、だ。確かにリィンフォースは助からない。

 

 俺の知識や力を持ってしてもそれは変えようのないことだった。それは神崎も同じようだった。そうそう、アイツも管理局に入っているんだったよな。最近はナンパが激しくて辺境の任務に飛ばされているらしい。自業自得だな。

 

 ……話を戻そう。

 

 たとえ、リィンフォースが助からないとしても、煉は俺達の気持ちを裏切って彼女を連れ出し、殺したんだ。到底許されることでは無い。だから俺はアイツを捜し続ける。

 

「王騎、私はそろそろ仕事に戻る」

 

「ああ」

 

 さて、俺もそろそろ戻るとしよう。いつまでも落ち込んでいる訳にもいかない。

 

 


 
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