No.557926

真・恋姫†無双 ~胡蝶天正~ 第一部 第07話

ogany666さん

今回の更新で第一部は終了となります。
書き溜めしている分まではこのペースで投稿致しますので。
今後共よろしくお願いいたします。

追伸:正宗は犠牲になったのだ・・・・。

2013-03-22 18:24:50 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:9771   閲覧ユーザー数:6872

 

 

 

 

 

 

この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

洛陽から落ち延び、涼州への道程を行くこと既に四日。

俺や母上、そして北家の従者たちは長安までまもなく着くと言う地点まで到達していた。

俺は長安の入り口付近で母上に話しかける。

「母上、申し訳ありませんがここでお別れです」

「何を言っているのですか一刀、わたくしと共に涼州へ来ないでどこへ行くというのです?さぁ、行きますよ」

「いえ、私は涼州へは参りません。そう決めておりました」

「どういうことですか?一刀・・・・」

俺の言葉に疑問を持った母上は納得いかない顔で俺に問いただす。

「張譲の目的は清流派の弾圧と北家の取り潰し、そして父上と私の抹殺にあります。このまま一緒に涼州へ向かっては母上やもう直ぐ生まれる子供にまで危険が及びます」

「だからといって、あなた一人がここで分かれてどこへ向かうというのですか!?父さんの後を追って張譲の手に掛かるというのですか!?母さんはそんなこと許しませんよ!」

「いえ、死ぬつもりはありません。私は鄒と正宗、そして諜報部隊をつれて身を隠すつもりです。そのために私財を二つに分けて移動させていたのです」

「一刀・・・・・あなた・・・・」

母上は俺が言っている事を理解してはいるが納得はいかないといった顔をしている。

当然だ、俺が同じ立場だったとしてもそうなる。

だがこれは生き残るためには必要なこと、その旨も伝えなければ了解はしないだろう。

「母上、このまま私が共にこの大所帯で涼州まで行けば、十常侍たちの耳に入り必ず追っ手が着ます。逆に私がここで別れて表向きには少人数で行動したほうが、母上や私にとっても安全なのです。どうかご承知ください」

「・・・・・・・解りました・・・・・・必ず生き残るのですよ。一刀」

「はい、母上」

母上に了承してもらった後、俺はそこに居る各々の者に話をする。

「韓白、母上とこれから生まれてくる子供の事、宜しく頼むよ」

「・・・・・はい、お任せください。郷様のそのお言葉を受け止めて誠心誠意、お二方にお仕えします」

「うん、いい返事だ。いつもそうなら良いのだけど・・・・・まぁいい、その返事の褒美だ、俺の真名をお前に預ける。俺の真名は一刀だ、心して受け取れ」

「は、はいっ!畏まりました!私の真名は白妙(しろたえ)と申します!一刀様の真名を胸にこれからは生きて行きます!!一刀様の真名・・・・ハァハァ・・・・」

駄目だこいつ、真名を預けるのは早計だったか・・・・。

それにしても名が白で真名が白妙とは・・・・。

「鄒、君にも俺の真名を預ける。俺のことは一刀と呼んで良いよ」

「畏まりました、一刀様。鄒の真名は名と同じで鄒と申します。どうぞいつも通りに及びくださいませ」

「・・・・・・・は?」

「聞き取れませんでしたでしょうか?鄒の真名は」

「い、いや、聞き取れたよ・・・・・解った、これからも宜しくな・・・・・鄒」

一瞬、聞いて驚いた。

名前と真名が一緒だなんて二人の親はすごいセンスをしている、カエサル・シーザーとかアレクサンダー・イスカンダルとかマ○オ・○リオと名前をつけるのと同じ発想だ。

俺は二人の真名を驚きながらも受け取ると、正宗のほうを向き、真名を預けようとするが…。

「郷様、大変申し訳ありませんが、郷様の真名を受け取る事を辞退させて頂きます」

正宗自身が辞退してしまい、気になって理由を問う。

「どうしてだ?良かったら理由を聞かせてくれ」

「はい、昨年郷様の愛刀を作らせて頂いたときから考えていたのですが、そろそろ引退を考えておりました。ですが、郷様から正宗の名を頂き、愛刀の手入れを命じられて踏ん切りがつかず、今までお世話になってきたのですが、これを気に身を引こうと考えております。ですので、今から引退するわたくしめに郷様の真名は身に余るもので御座いますので、申し訳ありませんがお受け取りする事は出来ません」

そうだったのか、あのときから隠居を考えていたのなら、正宗には悪い事をしてしまったな。

「そうか・・・・しかし、正宗が居なくなるのはかなり痛手だな。お前ほどの名工を俺は他に知らない・・・・」

「郷様、ここで一つ御提案させて頂きます。わたくしめの故郷に息子と昨年の末に生まれたばかりの孫娘が居ります。郷様が刀工の力を必要とされましたらいつでも息子たちをお呼び下さいませ、直ぐに向かわせましょう」

「・・・分かった。期待させてもらうよ。それでは達者でな」

「はい、今までお世話になりました」

正宗はそう言いながら銘を分け与えたときのように深々と礼をして、母上の下へ向かった。

それを確認した後、俺は親衛隊に最後の号令を出し、母上に最後の別れを告げる。

「親衛隊諸君、先の命令通り母上を無事西涼へ送り届けた後は親衛隊の任を解かれる!その後は各々の判断で行動せよ!」

「サーイエッサー!!!!」

「母上、どうかお気をつけて・・・・」

「ええ、一刀も。決して死んではなりませんよ」

「はい、それでは」

俺は母上に別れを告げて、鄒と共に資財の一部を積んだ馬車に乗ると、長安を後にした。

「さて、鄒。一応諜報部隊が周りの警護も兼ねて密かに付いてきているけど表向きには俺たち二人だけだ、よろしく頼むよ。」

「畏まりました。しかし郷様、これから何処へ向かわれるのですか?洛陽へはもう戻れませんし、奥方様と違う場所へ向かう以上涼州へも行けません。かと言って南にはご縁がある方は居りませんし、北へ向かい南皮の袁家をお頼りになられるのですか?」

「いや、華琳たちや曹騰様が居られる曹家もそうだが、袁家も張譲の手の者が見張っているだろう。向かえば直ぐに気付かれて追っ手が来る」

「それではどちらへ?」

何処へ行くのかも分からず不安な顔の鄒に、俺はこれから向かう行き先を教える。

「河内へ向かい、父上の遠縁に当たる司馬家を頼る。前に俺の誕生日の宴に出席されていたのを覚えているからね」

「・・・司馬家で御座いますか。確かに旦那様の遠縁ではありますが、そこまで深い繋がりがあるわけではありません。厄介事を受け入れる気になれず断られるのではないでしょうか?それに河内ですと洛陽から近すぎるのでは?」

「逆だよ、洛陽から眼と鼻の先だからいいのさ。二日前に洛陽を出て長安まで母上と一緒に行動していた俺が、まさか河内に居るとは思わないだろう。それに司馬家とは深い繋がりがない分張譲たちも頼るとは思っていない。まぁ手土産も有るし何とか成るさ」

俺の言っている事を大体は理解出来たようだが、最後の言葉の意味が分からず鄒は聞き返してくる。

「手土産・・・・ですか?鄒たちが持っている資財全てを渡しても、朝廷の謀反人を匿って家を危険に晒すとはとても思えませんが・・・・」

「まぁそれは行けば分かるよ」

そう言って俺は馬車を司馬家が在る河内へと向かわせた。

 

 

 

 

長安を出て更に六日、俺たちは追っ手に見つかる事を警戒し、大きな街道を避けた甲斐もあって無事に司馬家の屋敷がある河内までたどり着いた。

鄒の案内で司馬家の屋敷までたどり着くと、屋敷の門衛が俺たちを止めて用件を尋ねてきた。

「司馬家の屋敷に何か用か?」

「はい、御当主の司馬防様に洛陽の一刀が尋ねてきたとお伝え下さい」

「承知した、暫し待たれよ」

門衛は用件を聞くと屋敷の中へ姿を消し、俺はその間門の前で待っていると鄒が話しかけてきた。

「大丈夫でしょうか、門前払いにならなければ良いのですが」

「大丈夫だよ、屋敷の中に入るまでは問題なく行くさ」

鄒とそんな話をしていると門衛が戻ってきて正門を開けながらこちらに声を掛ける。

「旦那様が広間にてお待ちです。馬車のほうはわたくしめがお預かり致しますのでお二方はそのままお進みください」

「畏まりました。それではお邪魔致します」

先程とは打って変わって丁重な案内をする門衛を見ると、何故俺がここに来たのかが司馬防殿には既に分かっているようだ。

流石は天下に名高い司馬家当主、俺の予想を遥かに超えた御方らしい。

俺と鄒は屋敷の中に入り、侍女に案内されるまま広間に入る。

広間の中には、優しく微笑みかけてはいるが、鋭い眼でこちらを覗っている初老の男性、当主司馬防その人が鎮座していた。

「お久しぶりです、司馬防様。この度は屋敷の中へと通していただけた事、誠に嬉しく思います」

「良く来たね、北郷君。父君の事はお悔やみ申し上げるよ。それで、私に何を頼みに来たのかな?」

形ばかりの挨拶が終わると早速本題に入る。

「はい、司馬防様には私を匿って頂きたく、お屋敷の門を叩かせていただきました」

「私と君の父君は確かに遠い親戚だけど、朝廷の謀反人の息子を庇うほど親しくは無いつもりだ。何故私を頼ってきたのかな?曹家の曹騰様や、君に婚約を申し込んだ袁家を頼ればすんなりと話が通っただろうに」

「その方達とは親交が深いゆえに十常侍の手の者が常に眼を光らせております。尋ねればたちどころに追っ手が掛かり捕えられていた事でしょう。そのため、司馬防様の下が一番安全であろうと思い、お尋ねさせて頂きました」

「確かに私の家を尋ねても宦官どもは気付きもしないだろうね。だが、正直言って厄介事を抱え込みたくないというのが私の本音だ。君は私がこの厄介事を抱えても良いと思えるだけの利益を提示する事が出来るのかな?」

司馬防殿は自分が動くに足る利益を、俺が理解していると解った上でこちらを試してきている。

俺が理解していてもそれを提示するだけの覚悟があるかを見定めたいのだろう。

だが、この屋敷を訪ねた時点でとっくに覚悟は出来ている。

俺は一片の迷いもなく、その問いに対する答えを口にした。

「出来ます。調度良い手土産がありますので」

「手土産?それはなんだい?乗ってきた馬車に積んでいるであろう北家の資産程度じゃあ私は動かないよ」

「手土産は、私自身です」

「「!?」」

俺の迷いの無い言葉に、俺の意図にようやく気付いた鄒はおろか、答えを分かっていた司馬防殿本人ですら驚愕する。

俺はそれを歯牙にも掛けずに話を進めた。

「司馬防様には七人の息子が居られたそうですが、宦官どもの謀略などで相次いで亡くなられて一人も残っておられず、奥様も昨年お亡くなりになられたと聞き及んでおります」

「・・・・・良く調べているね。優秀な間諜でも居るのかな?」

「この程度の事でしたら間諜を使うまでも無く耳に入ってくる事です。司馬防様には今は世継ぎが居られず、司馬家の行く末を心配されておられるご様子。そこで私が養子となりまして司馬家を守ろうと考えております。北家の件が落ち着いた後に養子として向かえれば十常侍どもの眼も欺けましょう。私を匿う事で司馬家が存続する、これが私が貴方様に提示できる最大の利益だと存じます」

司馬防殿は暫し沈黙した後、俺へ言葉を投げかける。

「君はこれから北郷という名を捨てて生きなければならない。それでも良いのか?」

「父上である北景が謀反人として捕まった以上、数日中に北家は取り潰しになり、母上も旧姓へ戻ることでしょう。最早、北家はこの世から存在しなくなるのです。名乗る事が出来ない名を捨てる事に私は躊躇など致しません。ですからこの屋敷に訪れた時、私は『北郷』ではなく『一刀』と名乗ったのです」

「・・・・・一刀様・・・・・・」

「そうか・・・・・・・」

二人は俺の言葉から確固たる決意を受け取り、深く考えた後、司馬防殿が俺へ返答を返してきた。

「相分かった。この度の一件が静まった後、正式に君を私の息子として迎えよう。だが、私は今日から君を息子として扱う。名前も今決めてしまうが良いかね?」

「有難う御座います。ただ、字だけは母上が私自身で決めろと申されていたのでそれだけはご勘弁願います」

「分かったよ。大人になるまでに決めるのかい?」

「いえ、貴方の息子になると決めた時点で字は既に決めていました。《仲達》これが私の字です」

「仲に通ずる者か・・・・良い字だ。よし、今日から君の姓は司馬、名は懿、字は仲達、真名は一刀だ」

二人目の父上から名を受け取ると、俺は軍礼をしてそれに答えた。

義父もそれに答えて軍礼をすると、侍女を呼んで俺と鄒を部屋まで案内した。

一刀たちが居なくなり一息ついた司馬防は思わず口にもらす

「・・・・・・・・・・・流石は天の童と言う所か。私との交渉の場に、自分自身すら駒として平気で差し出すほどの巧者、噂に違わぬ怪物だな」

 

 

 

 

俺と鄒の部屋が用意出来るまでの間、しばらくは侍女に案内されたこの部屋で過ごす事になり、鄒と今後の事を話すことにした。

「鄒、俺の身の周りの事は君に一任するように義父様に取り計らってもらう。俺が正式に養子になるまでの間、肩身の狭い思いをさせてすまない」

「とんでもありません。一刀様がご自身の御名前まで捨てる覚悟でこの地へ来られたのです。鄒の事など何の問題でも御座いません」

「そうか・・・・・ありがとう、鄒。俺を支えてくれる君が傍にいてくれること、嬉しく思うよ」

「・・・・・はい、これからも鄒はずっと一刀様を支え、お傍でお仕えしてゆきます」

鄒はそういうといつもの様に俺に背を向けて、顔に手拭を当てだした。

今までは気付かなかったが、顔に当てている手の位置が目よりも若干下にあるのは俺の気のせいだろうか。

「仲達様、御命令通り洛陽での調査を終えて全員合流いたしましたのでご報告に上がりました」

俺が鄒の方へ意識を向けていると、いつの間にか部屋の中に諜報員の長が入ってきて俺に報告を始める。

「ご苦労様、相変わらず耳が早いねぇ。さっき初めて名乗ったのに、もう俺の字を知っているとは」

「はっ、仲達様の身を案じてあの部屋の隅で控えておりました。仲達様達が広間を出て行かれた後も司馬防殿を暫し張っておりましたが不審な動きは無いようです」

「あの方は家に招き入れて騙し討ちをするような人ではないよ。宦官どもにも息子を殺された恨みがあるから手を組むとも考えにくいしね。まぁ俺の身を案じてくれた事には感謝するよ」

「以後、気を付けます」

部隊長は俺に謝りつつも、現状の報告を述べ始めた。

「現在、我等諜報部隊はこの屋敷の周囲三里(※中国の一里=約500m)に散開して潜伏中、張譲の手の者がいれば即座に知らせる事が可能です。」

「宦官どもはどうしている?母上と共に西涼へ落ち延びたと思って後を追ったか?」

「いえ、仲達様が長安で行方をくらました事を知り追っ手を呼び戻してから各地方へと送り、血眼になって行方を追っている模様です。ですが、洛陽の隣に位置する河内、しかも親交が薄い司馬家には考えが及ばず、こちらに追っ手は掛かっておりません」

「そうか、洛陽の様子はどうだ?父上が捕まって清流派が騒いでいたりしないか?」

「・・・・・・・その様な生ぬるい物ではありません・・・・・・・洛陽、その城内は今や戦場の様になっております」

「・・・・・どういうことだ?」

洛陽が戦場になっている・・・・・それはおかしい。

清流派は役人の集まりで軍隊ではない、暴動は起こせたとしても戦までは起こせないのだ。

それに官軍の兵権は何進が握ってはいるが、あいつにはそれを動かすだけの度胸も影響力もまだ無い。

十常侍に対抗するだけの兵力は今の洛陽には存在しないのだ。

・・・・・ん?

待てよ?

洛陽の城内のみでの局地戦?

・・・・・まさかっ!?

「母上を西涼へ送り届けていた親衛隊はどうした!?」

「奥方様を無事に送り届けた後に旦那様の計らいで洛陽を出た護衛班と合流。洛陽へと取って返し、十常侍の頸と取る為に城内へと侵入して建物を利用した局地戦を敢行。今頃、城の内部は敵味方の死体で地獄絵図になっている頃かと」

「あの大馬鹿野郎共がっ!!俺は捨石を育てたつもりは無いぞっ!!」

配慮が足りなかった。

父上は法に忠実な方なのだから、例え張譲がでっち上げた物であろうと勅令を前にすれば大人しく捕まるのは必定。

それを条件に護衛を引かせて洛陽から逃がすのは十分ありえた。

その護衛班が本隊と合流すれば洛陽へ侵攻するのは目に見えている。

これは各々の判断で行動しろと命令を出した俺のミスだ。

「仲達様・・・・」

「お前達まで洛陽へ向かう事は許さないよ」

俺は部隊長が何を考えているのかを察して即座に止めた。

「親衛隊と一緒にお前達まで失っては、俺は牙と目の両方を失う事になる。それだけは何としても阻止しなければならない」

「しかし・・・」

「今は耐えてくれ。あいつ等の頸を刎ねる機会は必ず来る。そのときは俺が先陣を切って戦うよ」

「・・・・・・・御意」

俺は部隊長をなだめつつ、今後の行動を指示する。

「これからの事だけど、宦官どもの動きに警戒しつつ、しばらくは司隷周辺の州の物の相場を調べてくれ」

「相場ですか?」

俺の言葉に何を考えているのか分からずに首を捻る部隊長に、少し所帯染みた話をしてやった。

「ああ、流石にお前達の給料を義父様の蓄えから出すわけにはいかないだろう。今手元にある私財を元手に増やせるだけ増やす。運搬もお前達にやって貰うつもりだから商人に扮して行動してくれ」

「御意」

「それと、この手紙を曹家の屋敷に居る華琳へと届けて欲しい。華琳の居る部屋に投げ入れる程度で構わないよ。くれぐれも張譲の手の者に見つからないように」

「お安い御用で御座います、それでは失礼します」

俺の指示を確認すると部隊長は珍しく笑った後に敬礼をして、いつもの様に箱を被り部屋を後にした。

その姿を見送ると、俺は鄒に今やらなければならない最優先事項を伝える。

「さて鄒、君にやらなければならない大切な事を頼もうと思う」

「はい、何でしょうか」

「それは・・・・・」

「それは?」

「馬車に積んである山のような俺達の荷物の荷解きだ」

「・・・・・・・・・・・はい、畏まりました。一刀様」

俺の言葉を聞くと鄒はここに来て初めて笑い、深々と礼をして馬車のある場所へと向かう。

俺も鄒を手伝う為に後に続く。

こうして、俺達の司馬家での生活の日々が始まるのであった。

 

 

 

 

洛陽からわずかに距離を置いた場所にある小高い丘の上にある曹騰の別宅、その庭園にある洛陽全体を見渡せる場所で、この館の主である曹騰は騒然とする夜の洛陽の様子を眺めていた。

善政をしき、現役を退いたとはいえ元は宦官の最高位である大長秋であった身、この騒乱に乗じて善からぬ事を考えるやからが本宅を強襲するとも限らない。

そのため、曹騰は華琳を含めた身の周りの者たちをこの別宅へと避難させていた。

洛陽の城内ではまだ戦闘が続いているらしく、宮中は警護と十常侍どもの私兵の屍で溢れかえっているらしい。

将も居ないたった五十人程度の私兵団で洛陽をこれほどの状態にする兵を作り上げた北郷がどれほどの者だったのかが覗える。

しかしそれも多勢に無勢、明日には鎮圧されてしまう事だろう。

「御爺様、こんなところに居られたのですか」

洛陽のほうを見ながら北家の者達の事を想っていると、後ろから華琳の声が聞こえて振り返る。

どうやら屋敷の中や茶を飲むのに使っている庭の卓に曹騰の姿が見当たらなかったので探していたのだろう。

「どうしたのじゃ華琳。春蘭たちを宥めるのはもういいのか?」

「春蘭は騒ぎ疲れて寝てしまい、秋蘭は一人にして欲しいと塞ぎこんで部屋に行ってしまいました」

「・・・・・そうか」

華琳は話しながら曹騰の横に並び同じく洛陽の方を眺め、少しの間をおいた後に祖父へと話しかける。

「・・・・・・・・・御爺様、北家の事・・・・・かつて大長秋であった御爺様のお力でどうにか出来ないのですか?」

「・・・・わしも帝に長らく使えておった身じゃが、ここまで事が大きくなってはもうどうする事も出来ん」

北景が謀反の罪で捕まっただけならば、曹騰と繋がりがある官僚達の力で何とか出来たかもしれないが、北家の親衛隊が宮中を強襲した時点でそれも敵わないものとなってしまった。

すべてが後手に回ってしまったうえ、結果的に自分が推挙した事で北景に災いが降りかかった事に曹騰は苛立ちを感じていた。

「華琳よ、北郷の事じゃが洛陽を出た後の足取りは全く掴めん、親衛隊と共に洛陽城中で戦っているという噂まで流れておる。もしそうであるならば生きて再び会う事は敵わぬじゃろう。お前の命の恩人に何もしてやれぬ事、すまないと思っておる」

「・・・・・・・・・いえ、御爺様が気に病む事は御座いません。・・・・・・少々気分が優れないので部屋で休ませてもらいます。御爺様もあまり夜風に当たられてはお体に触りますのでお早めに中へお戻りください。それでは・・・・」

華琳はそう言い残して屋敷の中へと姿を消す。その寂しい後姿を曹騰はただ無言で見送る事しか出来なかった。

 

 

 

 

部屋へ戻り、暖に火をつけてから窓際にある椅子に腰を掛けると華琳は一人物思いにふける。

その華琳が心中にある言葉を思わず口に出してしまう。

「・・・・・・・・身近な人一人守ることが出来ないなんてね。今の私の無力さに腹が立つわ」

華琳は無力だった。

まだ六つの子供であるとはいえ自分の友一人守ることも出来ず、春蘭たちを宥める事しか出来ない自分が情けなくてしかたなかった。

それは、つい数刻前の事…。

「華琳様!北家の親衛隊が城中を襲撃したとのことですっ!一刀が居るやも知れませんので探しに行って参りますっ!」

「待ちなさい春蘭」

「何故お止めになるのですっ!こうしている今もあやつの身が危険に晒されているやもしれぬのですぞっ!秋蘭も一刀のことが気になるであろうっ!?」

「・・・・・確かに気にはなっているが」

鬼気迫る勢いで春蘭が妹に詰め寄るが、秋蘭は目を伏せて黙っているだけでそれ以上口を開こうとはしない。

秋蘭とて一刀の安否は知りたいのだが、闇雲に動いても無駄な事は分かっている。それに・・・・。

秋蘭が事情を言い出すことが出来ないのを察して華琳は春蘭に説明する。

「いい春蘭。一刀だけに限らず北家の人間は朝廷に謀反を起こした大罪人として名を列ねているの。そんな彼等を探して歩けば私たちまで朝廷に楯突いた者として裁かれかねないわ」

「そもそもそこが可笑しいのですっ!あの清廉潔白な一刀の父上がその様な事を企てよう筈がありませんっ!何者かの陰謀に決まってますっ!」

「それを証明できる物は何一つ無いわ。御爺様もそれがあれば動き出していたわよ。分かって頂戴、春蘭」

「それではっ!華琳様は一刀の事などどうでも良いと仰るのですかっ!?」

「良いわけ無いでしょう!!!」

華琳の強い一喝に、春蘭はおろか目を伏せていた秋蘭までもが身を縮める。

「この私が一刀を心配していないわけがないでしょう!私の宿敵であり命の恩人の一刀の安否が気にならないわけが無いでしょう!」

「・・・・・華琳様」

今まで胸の内に溜め込んでいた想いを春蘭の一言を皮切りに一気にぶちまける華琳、そんな彼女の言葉を聞いて我に返った春蘭は自分の言葉が如何に心無い事を言ったかを悟り、居た堪れない気持ちになってしまう。

そんな春蘭に今ので幾分落ち着いた華琳は諭すように話しかける。

「でもね春蘭、もし私たちが一刀を探し廻って都の兵に目をつけられでもしてごらんなさい。それで一刀は喜ぶと想うの?彼なら、自分のせいで私たちを危険に晒したとさぞ悔やむ事でしょうね。」

「!」

「この私でさえ動きたくても我慢しているのよ。貴方も少しは自生なさい。いいわね、春蘭」

春蘭は華琳の言葉に押し黙ってしまい、返答する事も出来なかったがやがて・・・。

「くっそおおおおおおおおおっ!勝ち逃げなどゆるさんぞ一刀っ!うわあああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ...........!」

一刀のことを想い泣きながら部屋を出て行ってしまった。

走っていった方向が自分の部屋のほうだったので、それ以上言及すまいと華琳は心に決めると、傍でずっと顔を伏せている秋蘭にも話しかける。

「秋蘭、あの子の部屋に行って慰めてあげてくれないかしら?今頃涙で枕を濡らしている筈でしょうしね」

「華琳様。・・・・・・・申し訳ありませんが、その後命令は聞けそうにありません」

秋蘭の思いがけない一言に耳を疑い様子を覗うと、秋蘭は顔をこちらに向ける。

その目は涙ぐみ、とてもいつもの冷静な姿は覗えなかった。

「私も姉者を気遣えるほど心に余裕が御座いません。申し訳ありませんが部屋へ戻り今日はもう休みたいと思います」

「・・・・・・そう。・・・・良いわ、そうしなさい。あなたの事まで気遣ってあげられなくて、悪かったわね」

「・・・・いえ、華琳様。・・・・・・心中お察しいたします。」

秋蘭はそう言い残すと、トボトボと部屋を後にした。

「何をやっているのかしらね。本当に・・・・・」

先程までの事を思い悩んでいると、直ぐ傍の窓がわずかに開き、そこから紙切れのような物が部屋の中へ入ってきた。

何事かと思いそれを拾いつつ、窓の外を見てみるが誰も見つける事が出来ずに窓を閉める。

手元の紙切れを確認すると、それは手紙である事が分かり、封を切り中身を確認する事にした。

「これは!?」

その手紙の内容が、今の自分が最も欲する人からの物であることが分かり、食い入るように読む。

 

 

 

 

 

 

 拝啓、曹操殿。

 この様な形でしか別れを告げられず、申し訳なく思う。

 此度の一件で心を痛めておられるかもしれないが、どうか落ち着いて行動して欲しい。

 この手紙を華琳が読んでいる頃には、俺は洛陽をとうに脱出して行方をくらましている事だろう。

 情報が錯綜しているかもしれないが、君の手元にこの手紙が届いたという事は、俺が無事で居る証と受け取ってもらって構わないので

 どうか心配しないで欲しい。

 父上が大罪人になってしまった以上、息子の俺はしばらく身を隠す。

 またいつか会える日を楽しみにしているよ。

 その時には互いに成長して、王としての道を歩んでいる事を期待している。

 それでは、暫しの別れだが失礼させて貰うよ。

 

 追伸

 

 尚、この手紙は読み終わった後は直ぐに燃やして処分して欲しい。

 春蘭たちには君の口からこのことを伝えておいてくれ。

 

                                                                                                                     一刀

                                                                                      

 

 

 

 

 

一刀は生きている。

その事を知っただけで、華琳の心は曇天に一筋の光明が差し込んだように晴れ渡り、先程までの思い悩んでいた事も消え失せた。

「そう、あなたはこんな状態になっても、自分の道を踏み外さずに前へ進むというのね・・・・・・一刀。なら私も自身が想い描く覇道を歩んで見せるわ。私らしく・・・・・・貴方に負けないようにね・・・・・・・・次に会うときには・・・・分かれてからの話、たくさん聞かせてもらうわよ・・・・」

華琳はそう言うと、一刀からの手紙を暖へ投げ込み灰にする。

手紙が灰になったのを確認すると、華琳は微笑みながら何処かに居る自分の想い人へと別れの言葉を口にする。

「じゃあね!またあいましょう、一刀!」

 

 

 

 

洛陽城中での戦は翌日の昼には鎮圧され、洛陽全体での騒ぎもそれを機に収まった。

親衛隊は十常侍まであと一歩のところまで迫ったらしいが全員捕縛され、北景共々全員見せしめ惨殺された。

洛陽の民はこの一連の事件を党錮の禁と呼び、宦官の力を恐れる切っ掛けとなる。

その結果、腐敗した宦官政治は勢いを止めず、漢王朝の衰退に拍車を掛ける事となった。

そして・・・・この事件から十二年の歳月が流れる・・・・。

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
55
5

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択