No.557726

IS 黄金騎士物語 第五話

長らくお待たせしました
それではどうぞ

2013-03-21 23:58:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:902   閲覧ユーザー数:886

 

頭痛の種はいっぱいだ

 

 

鋼牙視点

 

「・・・ここか」

 

1025室。自分の部屋となるドアの前で俺は固まっている。

それもそうだ。女子と、しかも初対面同然の子と同室になるのだ。入りたくても入れない。こうなるのなら姉さんに誰が同室か聞くべきだった。同じクラスの子としか聞いていないし、名前さえ教えてもらえれば誰か分かったかもしれない。

・・・・駄目だ。いろんな子が話しかけて来たが誰が誰だかさっぱり分かっていなかった。解っているのは理子ぐらいだ。

 

「・・・行くしかないのか」

 

諦めた感じで部屋のドアノブに手を掛け部屋に入る。

 

「あ、こっちーだ~」

 

部屋に入ると、何とものんびりした声で同室になる子が俺に向かってきた。

・・・こっちーって俺?

 

「えっと、もしかしてこっちーって俺の事?」

 

「こっちーはこっちーだよ~。何言ってるの?」

 

不思議そうに俺を見る。

俺がおかしいのだろうか?

よく見るとおそらく彼女の寝巻だろうか。黄色を主とした動物の着ぐるみを着ている。

多分犬?だと思う。黄色で犬はおかしいと思うが。

しかも、服の袖が長すぎて彼女の手が出てない。それをぱたぱたの動かす。本来ならおかしいはずなのだが、彼女の出すのほほんとした空気と相まって似合っていると感じてしまう。

 

「・・・あ、あぁ、そうだ。一応、同室になる鬼崎鋼牙だ。よろしくな、えーと・・・」

 

彼女の空気に充てられてボーとして名前を言うのを忘れていた。

す、すごい。一瞬、森の中にいるような感覚にとらわれていた。何て空間だ。

よし、これからこの空間を『のほほんゾーン』と呼ぼう。

 

「わたしは~布仏本音だよ~。よろしくね~こっち~」

 

もうこっちーで確定のようだ。

 

「ああ、よろしく。本音って呼んでいいかな?」

 

「ええ~いいよ~、みんなわたしの事『のほほんさん』って呼んでいるからそう呼んでいいよ~」

 

「ん~」

 

そう言われてもな。確かにのほほんさんと言うのは彼女に合っている。

しかし、俺は渾名で呼ぶのがどうも苦手だ。

やはり、親からもらった名前だ。名前で呼ぶべきだと俺は思う。

 

「いや、俺は本音って呼ばせて貰うよ。いいかな?」

 

「えー、いいよ~、渾名で呼んで~」

 

「じゃあ、聞くけどなんで渾名で呼んでほしいんだよ?」

 

「だって~恥ずかしいよ~名前で呼ばれるの~」

 

そんなもんか。まぁ、おそらくあまり名前で呼ばれていなかったのだろう。だから、恥ずかしいのだろう。

 

「恥ずかしくないよ、いい名前じゃん、本音って」

 

「えぇ///」

 

?何かおかしなこと言ったか俺?

 

「だからさ、本音って呼んでいいかな?」

 

「う、うん。いいよ」

 

「じゃあ、よろしくね本音」

 

そう言って笑顔を向ける。

異性と同室になるのはどうかと思うがなったからには仕方がない。

同室になるからにはお互いが険悪になるのは駄目だろう。仲良くやっていくべきだ。

 

「よ、よろしく、こっちー」

 

顔を赤くしていう本音。

そんなに名前呼びが恥ずかしいのだろうか?

ま、そのうち慣れるだろう。

 

「そ、そうだ、こっちー。いっしょにご飯食べよう」

 

恥かしいのを紛らわすためかそんな事を言い出した本音。

ありがたい申し出だけど、

 

「ごめん、この後鬼崎先生に呼ばれているから先にそっちの方にいかないといけないんだ」

 

「そ、そっかー」

 

しょぼーんという擬音語が出てきそうなくらいに落ちこむ本音。着ぐるみと相まって可愛いと思ってしまう。

 

ナデナデ

 

「ふぇ!?」

 

「ごめんな、誘ってもらったのに。もし、よかったらまた誘ってくれないかな?」

 

何か見てたらいつの間にか頭を撫でていた。

本音も最初は驚いていたが気持ちよさそうにしている。

 

「っと、ごめん。急にこんなことして」

 

「あ・・・」

 

んっ?

何か残念そうな声が聞こえたのだが気のせいだろうか?

 

「それじゃ、鬼崎先生に呼ばれているから、また後で」

 

「う、うん、また後でね」

 

そう言って俺は部屋を出る。

部屋を出るまで本音が俺をずっと見ているのを俺は知らなかった。

 

 

 

場所は変わり、寮長室。

つまり、俺の姉、千冬姉さんの部屋の前だ。

・・・寮長だったのか。道理で家に帰ってくるのが月に何回かだったのが分かったよ。

さてと、取り敢えず入るか。

部屋をノックすると、

 

『誰だ』

 

少しくぐもった声で千冬姉さんが答えてきた

 

「鬼崎先生、俺です。鬼崎です」

 

『・・・少し待て』

 

何やらごそごそと部屋から音がする。それも少しの間で、

 

「入っていいぞ」

 

ジャージ姿で姉さんがドアを開けてきた。

 

「失礼し・・・」

 

部屋に入るなり言葉を失う。

理由は簡単。部屋の中がごちゃごちゃになっている。

服はその場で脱ぎ捨てられ、書類などのものがそこ等辺に落とされているごみもちらほらとある。

 

「・・・鬼崎先生」

 

「今はプライベートの時間だから先生はいい」

 

「じゃあ、姉さん、部屋の片づけしてもいい?」

 

「別にいいだろう、部屋の掃除くらい」

 

「落ち着かないよ、こんな部屋だと」

 

そう言って俺は部屋の掃除に取り掛かる。服等は後で洗濯できるように分けておいて、書類等は大事そうなのを姉さんに聞いて分ける。ごみもきちんと分別しておく。

 

「こんなものか」

 

三十分経ってようやく一通りの掃除が終わった。

これでもまだやるべきことがあるが姉さんの話があるため、先にそちらを優先させる。

 

「それで姉さん、俺に話って何?」

 

「ああ、話か」

 

そう言うと姉さんはベッドの上に腰を掛ける。

 

「鋼牙、お前に専用機が用意される」

 

「専用機?」

 

専用機ってあれか、本来なら代表候補生や企業に属する人にしか渡されないIS。

それを俺に用意するってか。

 

「本来ならそう易々と用意される物ではないがお前の場合は特別だ」

 

「ですよね」

 

姉さんは言わないが、恐らく、と言うか絶対に俺のデータが欲しいんだろう。

何故なら、俺は世界唯一の男のIS操縦者。

その操縦データ等は世界でも注目度は高いはず。

欲しがって当然。

俺は平たく言えば、モルモットのようなものだ。そうでなければ、素人に専用機など用意しないはずだ。

 

「しかし、その専用機に関して問題があってだな」

 

「問題?」

 

姉さんの言った事をオウム返しに言う。

問題ってなんだ?

 

「お前の専用機は束が用意するそうだ」

 

「・・・束さんが?」

 

まじかよ、まさか束さんが俺に?どうして?

 

「お前がISを使えると分かると、

『こうくんのために束さんの愛がこもった特製のISを作ってあげる❤』

だと」

 

相変わらず身内に甘いなあの人は。

まさか、俺のために専用機を作ってくれるなんて。これって役得なのだろうか?

 

「さらに付け加えるならコアを一から作った正真正銘のお前専用のISだそうだ」

 

前言撤回。役得ではない。

 

「それって余計な火種になるよね?」

 

「当然だ。委員会でも問題になっている。いきなり、男でISを使えたり、さらには新しいISを、しかもコアから作ったISだ。お偉方も頭を抱えているよ」

 

何やってるんだか束さん。専用機を作ってくれるのはありがたいがそれが火種になっては駄目だろう。

 

「とにかくだ。お前の専用機に関してはあいつが今作っている。張り切って作ってるそうで、時間がかかる。出来次第、お前に渡すつもりでいる。それを頭に入れておけ」

 

「分かった」

 

取り敢えず、俺に専用機が渡されるのか。

ここは嬉しがるべきか、悲しむべきか。高校生初日なのにやっていく自信がなくなってきた。

 

「大丈夫だ安心しろ。お前ならやっていける。なぜなら私の弟なんだからな」

 

俺の心情を察してか。よくわからない理論で元気づける姉さん。

いつ聞いてもよくわからない理論だが、今はそれが嬉しいと思う。

両親を亡くして、今は二人っきりの家族。家族を支えている姉さんの言葉が純粋に心に響く。頑張って行こうと心から思えてくる。

 

「それはそうと姉さん」

 

俺は最初から疑問に思ってきたことを聞く。

 

「どうした?」

 

「バスルームにいる人って誰?」

 

そう言うと姉さんは少し驚く。

 

「なんだ気づいていたのか」

 

「気配は消してるけど、さすがにこんなに近いと嫌でもわかるよ」

 

そう言ってバスルームを見る。俺の声は聞こえていると思うが顔を出すつもりはなさそうだ。

 

「何、お前がどんな奴か知りたいと聞いてくる奴でな。お前が来ると知ったら、ここにいると言ってうるさいから、バスルームに押し込んだのだ」

 

「俺を知りたいとかは置いといて、さっきの話聞かせてよかったの?」

 

「大丈夫だ、そっちの事情も分かっている奴だ」

 

「どんな人?」

 

「お前は知らんでいい。まだな」

 

そう言うが気になる。ま、姉さんがそう言うならいいか。

 

「もう、夕食の時間だな。ほれ、早くしないと食堂が閉まるぞ」

 

「姉さんは?」

 

「私はあそこにいる馬鹿に言うことがあるので後で行く」

 

「それじゃ、お先に」

 

「ああ」

 

靴に履き、部屋から出て食堂に向かう。

 

(後でもう一度、部屋の掃除を行かないとな)

 

 

 

千冬視点

 

「とっとと出てこい馬鹿者」

 

鋼牙を部屋から出すなり、バスルームにいる馬鹿を出す。

髪は青色で外側にはね、抜群のプロポーションを誇る、この学園の生徒会長、更識楯無。

まぁ、ただの馬鹿だ。

 

「バカバカ言わないでくださいよ。ていうか生徒に対してひどくありません?」

 

「貴様なんぞ馬鹿で充分だ」

 

「ひどい!!」

 

持っている扇子を開き、顔を隠し泣いたふりをする。

扇子には『暴君現る』と書かれてある。

誰が暴君だ。

 

「まったく、人の部屋に来るなりごちゃごちゃとうるさいな」

 

「なんですか鬼崎先生。それなら弟さんについていろいろ教えて下さいよ」

 

「断る。あいつにとってお前なんぞ害悪だ」

 

「そこまで言いますか!?」

 

「当たり前だ。お前といっしょにいると私の弟に悪影響を及ぼす」

 

「・・・先生は私が嫌いなんですか?」

 

「嫌いではない。客観的な事実だ」

 

「嫌いなんですよね!?絶対に嫌いですよね!?」

 

うるさい奴だな。事実を言ったまでだろう。

 

「要件がそれだけなら早く帰れ」

 

「ひどいです先生。せっかく私がいろいろ手助けしたのに」

 

「ならば言ってやる。それはそれ、これはこれだ」

 

「本物の暴君だ!?」

 

ホントにうるさい奴だ。

だいだい手助けにしても単に相部屋の相手を紹介しただけだろうが。それも鋼牙の情報を得られるように身内を選んだのだ。

これでお相子だ。

 

「もう、別にいいです。鬼のような先生には何も聞きませんよーだ」

 

「誰が鬼だ、とっと出ていけ」

 

「はーい」

 

間延びした声と共に部屋を出ていく。

ドアを閉める前に扇子を開く。

扇子には『ブラコン』と書かれている。

誰がブラコンだ。

 

 

 

楯無視点

 

「はー、全然教えて貰えなかったなー」

 

落胆の声を出すも正直そこまで気落ちしていない。

彼の情報を見る限り特におかしな所もない。どこにでもいるような普通の少年である。

鬼崎先生に話を聞きに行ったのも情報に誤りがないか確かめるだけだった。

しかし、

 

(私に気づくなんて・・・)

 

これでも、暗部としてそれなりに実践をこなしてきてのだ。

はっきり言って気配を消していたのに気付かれるたのは驚きを隠せない。

 

「鬼崎鋼牙・・・ふふっ」

 

ISを使える男だけと思っていたが彼に興味を持った。

 

「楽しみにしていてね鬼崎くん♪」

 

扇子を開き、口元を隠す。

扇子には『どうやって弄ろうかな』と書かれてあった

 

 

 

鋼牙視点

 

「うわぁ!!」

背筋に寒気が走り、声を出してしまった。周りに声を聴かれていないか見渡すが誰もいなかった。

 

「なんか分からんが頭痛の種が増えた感じがする」

 

後に生徒会長に散々振り回されるがそれは後の話である。

 

 

 
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