No.556190

双子物語-45話-夏休み編7-

初音軍さん

2年生の夏休み編の一応の終了回。完璧人間でも普通の人間と変わらない悲しさと苦悩は持っているのではないかなっていう。感じにしたかったですね。

2013-03-17 17:45:04 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:383   閲覧ユーザー数:369

【雪乃】

 

 高校2年の夏休みももうすぐ終わりというところで美沙先輩から声がかかった。

 

「ちょっといい?」

 

 ノースリーブの涼しげな格好で穏やかな笑顔で私の部屋に訪れてきた。

 

「どうぞ」

 

 休みが終わる憂いを残し、そのことにしか頭には何もなかった私を先輩の言葉が

大いに驚かしてくれた。いや、薄々は気づいていただろうがまだ先の話かと

思っていたのかもしれない。

 

「これからも創作部は無条件で好きに使ってくれて構わないわ」

「ありがとうございます」

 

「その代わりだけど。私が卒業したら生徒会に入ってくれないかしら」

「え・・・!?」

 

「無条件で好きなことさせるわけないでしょ。それなりの条件はつきものよ」

「それはまぁ、そうですけど」

 

 やること自体好きではないし、何より一番私が気にしてるのは体力が続くか

どうかである。雑用から色々物事決めたり指示しなければいけないこともある

大変な仕事であるからして、私に求められるのがあるのかというのが疑問の一つだった。

 

「反応からして察しは幾分かついてるようで話が早くて助かるわ」

「いえ、でも・・・。私は何をすれば」

 

 先輩は私の体が弱いのを知っているはずだし、十分に見てきてもいる。

それでも私の力が必要というほど生徒会の人手が足りないとも思えない。

だからこそ私はその頼みごとについて首を傾げるしかない。

 

 卒業したら先輩は私の傍にいることはできない。だから傍に置いておきたいという

話でもないだろう。半分ほど無意識に指を顎に当てて考える仕草をしていたのか。

私が疑問に思っていたことを察した先輩は言いにくそうにしながらも

ハッキリと言ってきた。

 

「今のあの子たちには人を惹き付ける魅力がないのよ」

「はい?」

 

「澤田雪乃は特に大きなことをしなくても、日頃から発してる雰囲気が普通じゃなくて。

何か特別違って、人の気を惹き付ける何かを持ってる気がするの」

「それって単に体が弱いから心配なだけなんじゃ・・・」

 

 私のツッコミに目を丸くしてから、一人で勝手に頷いて勝手に解決されてしまう。

 

「あはは、そうだよね。本人にはわからないことだわな、こういうの」

「・・・?」

 

「そうね、じゃあ私のことはどう思う?」

「えっと、勉強も運動も平均以上で大らかで頼りになる先輩っていう感じで

生徒達に好かれてるイメージ・・・ってとこですかね」

 

「成績はともかく、それ以降のは見てる方の感覚よね。私としては特別に何かを

心がけてるとかはないの。自然体」

「はぁ・・・」

 

「だから雪乃も自然体で居てくれれば、それだけで十分なのよ」

 

 後は生徒会役員の肩書きさえあれば、それだけで十分に役に立つとのことだ。

個人的には無茶な注文突きつけられたわけじゃないから大丈夫なんだけど。

本当にそれだけのことで役に立つのだろうかと、今まで活躍していた先輩といえど

こればかりはあまり信用できずにいた。

 

「人は憧れの存在が上に居た方が刺激もあるし、安心できるもんなのよ」

「そういうもんですかね・・・」

 

 私もその辺にいる生徒達と全く同じ感性を持っているかというとイマイチ自信が

もてないから先輩がそう言うのなら、と頷く。

 

「わかりました。とりあえず考えておきます」

「前向きにお願いね」

 

「それにしてもまだ半年もあるのに早い話ですね」

「こういう大事なことは早めに済ますものよ。それに半年なんて長いようで

短いものだし」

 

 そう呟くように言うと窓に視線を移して遠い目をする美沙先輩。

どこか寂しそうな眼差しを外に向けている。ちょっと気になるけど詮索するのは

違うだろうと私は口にチャックをした。

 

 

「ねぇ、雪乃。お願いがあるんだけど」

 

 まるで双子のように同時に同じことを切り出してきた、現生徒会で黒田美沙先輩の

後輩で優秀な生徒会役員でもある。そんな二人、楓と裏胡が私の前に立ちふさがる。

とりあえず私は立ち話は何かと思い、二人を部屋の中へと招いた。

 

「珍しいね、二人して私のとこ来るなんて」

 

 いつもは二人共尊敬してやまない美沙先輩にずっと引っ付いているというのに。

というのは思っても声に出さないでいた。ミルクや砂糖が予め入っている

インスタントコーヒーを二人の前に置いて疑問の言葉をかけた。

 

「それがね」

 

 今日の二人は口に出すと同じ言葉を同じタイミングで言ってくるようだ。

それだけ考えてることがぴったり同じということなのだろう。

 

 それだけの関係を築けるのは何とも羨ましいことだ。だが二人ときたら

同じ言葉を言うから睨みながら真似しないでよって言い出す始末。

 

 いつ終わるかわからないケンカを眺めるのもかったるいので、私は間に入って

先を促した。

 

「先輩がここの所、元気なくてね」

「私達が元気付けようとしても上の空って感じで」

 

 前者が楓で後者が裏胡の言い分である。いつも可愛がってる後輩が居ても普段通りの

振る舞いをしていても、気持ちが乗ってこないそうだ。

 

「それで何で私に?」

「寂しいけど私達より雪乃の方が気になってるみたいなんだ。よくは知らないけど」

 

 何で私なのか聞いてみるとあやふやな言葉が返ってくる。普通なら普段一緒にいる

人たちの方がよく知って、気持ちを埋めれるはずだけど。そうはできないらしい。

 

 それと先日に先輩と話した内容が二人にいってるか、ちょっと気になっていた。

それによって私の出方も変わってくるから。しかし、二人の様子からして少し気になった

私は二人に押されるように先輩の部屋に入っていく。

 

「頼むね」

 

 そう言って扉を閉められると、私は観念して窓の外をボーッと眺めている先輩の姿が

あった。私はそんなことを気にせず声をかけた。

 

「何をしてるんですか」

「!」

 

 驚いた先輩は私がなぜここにいるのは不思議がって口をパクパクさせていた。

まるで地上に打ち上げられた魚のように必死である。

 

「二人が心配してましたよ」

 

 二人というのは言わずとも生徒会役員の楓と裏胡のことである。

それに対しても気づかなかったと、頭を掻きながらやや俯き気味で苦笑していた。

そんな行動をしていたことも意識していなかったようだ。

 

「それは裏胡と楓には悪いことしたなぁ」

「何かあったんです?」

 

 そういえば先日も普段話さないようなことを持ち出してきたのも引っかかっていたのだ。

彼女に何があったというのか。

 

「いや、ちょっと寂しくなってね。実は去年の同じ時期に私も先輩に後半年あるから

まだ暫く一緒にいられると思っていて、それが思いの外あっという間に過ぎてしまって。

貴女といられるのが少ないと思うとね」

「本人の前でよく恥ずかしげもなく言えますね」

 

「そりゃ隠してたって仕方ないでしょうし」

「それはまぁ、そうですね」

 

 こういう堂々と言うところは変わらず、こっちが照れるくらいである。

でも、確かに思い返せば叶ちゃんと付き合うようになってからは先輩と会ってる

時間は少なくなっている気がした。

 

 いつも私のことからかうように触れ合ってきた先輩の気持ちは本気だったのか

その様子からそう感じることができた。

 

「いいですよ」

「え?」

 

 私は腕を組んで先輩と目を合わせてそう言い切った。

先輩は何を言ってるのかわからないのか頭の上にクエスチョンマークが出ているかの

ような表情を浮かべる。

 

「残りの時間、特にこの夏休みの間は先輩に付き合うことにします」

「で、でも・・・。彼女は」

 

 叶ちゃんのことだろうか。ちゃんと話せばわかってくれると思うし何より今まで

お世話になった先輩にあんな悲しそうな表情をさせたままでいられない気持ちが強い。

 

「後で話ししますよ。先輩さえ良ければ今日から遊びにいきません?」

「体は大丈夫なの?」

 

「はい、無理しないようにしますよ」

 

 そう言って私は笑顔で手を差し伸べる。高校当初は差し伸べられた方としては

不思議な状況であった。先輩は私の手と顔を見比べた後、嬉しそうに差し伸べた手を

喜んで受けた。

 

 

 その日は少し遅くなっていたから次の日に約束をして、その時間はすぐに訪れた。

私は外に出て天を仰ぐと気持ちが良くなるようなとても良い天気で清々しい気持ちになる。

絶好の外出日和であった。

 

 あの後、部屋に戻ると生徒会二人の姿があって部屋を交換しようと言い出して驚いたが

自分たちがいても仕方ないから私が先輩と同じ部屋になってくれと言うのだ。

 

『仕方ないことはないでしょうに。あんたたちはどれだけ愛されてるか知らないの?』

『それはわかってると何もしてあげられないと私達も辛いのよ。わかるでしょ?』

 

 私が誰かに何かをしてあげたいと思えたことはあまりないから身に染みるほどは

わからないのだけど、何となく力になりたくてもなれない時の脱力感はわかる気がした。

 

 それで仕方なく承諾した私は先輩の部屋で一泊したのだ。

ちょっと貞操の危機を感じていたが、楽しく話しをしていただけで特に何も起こる

ことはなかったから、ちょっと物足りない・・・じゃなくて不思議な感じがした。

 

 これは二人も心配するなと思いながらも、最近色々あったせいで眠かったからか

すぐに意識は溶け込んでいった。それで今日という朝を迎えたのだ。

 

「先輩、おはようございます」

 

 潜り込んでる先輩の布団をめくって寝顔を拝見した。

静かに寝息を立てている先輩の寝顔はとても綺麗で黙ってれば美人と影で言われるのも

納得である。ちなみに口を開くとイケメンと噂されている。

 

「せ~んぱい」

「ん・・・あ、おはよう」

 

 そういって上半身を起こすと、今度ははっきりとした口調で「おはよう、子猫ちゃん」

といって不意に頬にキスされた。思わず距離を空けて頬に手を当てたけど時既に遅し。

 

「ふあぁぁ、良い目覚めだった」

「こっちは最悪な目覚めになりそうですよ」

 

 といいつつ、驚きから来るものなのか。心臓が激しくドキドキとなっていた。

こんなに動揺しているとは当の本人はわかってないんだろうなって思うと少しばかり

不満が溜まる。

 

「とりあえず口の中綺麗にしてご飯食べて出かけましょうよ」

「そんな急かすことないじゃない~」

 

 私の前ではいつも明るく振舞う先輩。楓たちが見た暗い先輩はどこにいるのだろう。

見間違い?それとも私の前で無理しているのだろうか。

 

 とにかく今聞き出すのはタイミングがよろしくないので、やれることだけでも

さっさと済ました方が良いと起き上がった先輩の背中を押す私。

 

 前もって叶ちゃんに説明して良かったかもしれない。どれくらい一緒にいるか

わからないし、問題は早めに解決した方がいいからっていう説得に頷いてくれた。

物分りが良い後輩で助かった、とホッと息をつけた。

 

 だから今日の私は美沙先輩専用の後輩として一緒に居ることに決めたのだった。

ご飯を食べた後にどこに行くか二人で意見を出し合うと、先輩は綺麗な景色のある所

に行きたいと言っていたので、子供の頃からこの辺を散策していた私はあまり

人が通らない場所を案内した。

 

 

 通ってる間、あまりに懐かしくて私の小さい頃の話をしていて。

気づくと人の小さい頃の話は興味ないかもしれないと思って一瞬黙るが

先輩は笑みを浮かべながら続けてと言ってきた。

 

「雪乃の話は興味あるから、聞いていたいわ」

「そうですか・・・なら」

 

 そう言われると悪い気はしないから、歩きながらそのままのテンションで語っていく私。

普通の道かと言われるとそうは言えないような獣道を進んでいく。

私達以外は通ってなかったのか踏まれた雑草たちはすっかり元気に生い茂っていた。

 

 私が先頭に立って道を踏みながら進んでいく。

記憶の通りの光景に私は迷うことなく歩を進めていく。

前は見えないが先は大きく変わってることなく、しっかりと地を踏みしめながら

向かうと、やがて開けた場所へと入っていく。

 

 森の中に丸くくり貫いたような広場の真ん中には大きな切り株があり

周辺は自然に出来たような、人が手入れしているような花が敷き詰められていて

不思議な感じのする花畑が目の前に広がっていた。

 

「いいねぇ、こういう場所。まるで夢の中にいるみたいだ」

 

 ハハッと嬉しそうに笑う先輩の表情はまるで今日の空のように晴れやかで

爽やかに見えた。花畑の中を通って中心の切り株に腰をかけると

ちょうどいい風が私達に向かって吹いてくれた。

まるでそれは私達を歓迎してくれてるように感じられる。

 

 足をぶらぶらさせて上半身を横にして空を見る。他愛の無いおしゃべりをして

世間から切り離されたような空間に身も心も委ねていると疲れも飛びそうである。

 

 飲み物でも持ってくればよかったかな、と今更ながらに思ってると私の気持ちが

透けているかのように、先輩は魔法瓶を私の視界の中に入れてきた。

 

「出かける際に強面の人に渡されたよ」

 

 笑いを堪えるように言う先輩。それは多分サブちゃんだろう。

小さい頃から私達の面倒を見ているから考えてることくらいはお見通しなのだろう。

蓋をコップ代わりにして二人で交互に熱々のお茶を口にした。

 

 夏で熱い陽気のはずだけど、適度に涼しい風が入ってくるので意外と快適で

しかも風に乗って花の香りが漂ってきて気持ちが落ち着く。

 

「あと、お弁当も渡された」

 

 それはマンガでピクニックに持ち寄る籠に酷似していて中には綺麗で美味しそうな

サンドイッチが入っていた。こういう可愛いことをするのは顔に似合わないなぁと

思ってしまう私だった。

 

 

 これだけされるとついつい長居してしまう私達。気づけばやや空の色が変わり始め

暖かかった気候も少しずつ冷めていくのを感じた。

 

 大きな切り株に上半身を預けていた私は体を起こして隣で同じようにしている

先輩に声をかけた。

 

「そろそろ行きましょうか、先輩」

 

 そういってピョコンと下りるようにして立つと先輩も同じように起き上がり

地に足をつける。

 

 ほとんどどこも遊びにはいかなかったが先輩は満足そうな表情を浮かべていた。

日が落ちる前に帰らないとって私が先頭で先に進もうとすると先輩は私の服の袖を

抓まんで引っ張る。

 

「先輩・・・?」

 

 歩き出す気配のない先輩が気になり振り替えると、さっきの満足そうな表情とは

違ってどこか悲しそうに私には見えた。徐々に赤く染まる空の下にはまるで花の

妖精がそこにいるように可憐で儚げな少女のように私には見えた。

 

 夕焼けを背景にしているせいか先輩の目がやや赤くなっているように見える。

だけどそれは気のせいじゃなくて、先輩の目元から涙が溢れてきていたのだ。

 

「先輩!?」

「ふっ・・・」

 

 一瞬口元が上がったがすぐに心が締め付けられそうな痛々しい表情に変わっていた。

まるでうめき声にも似たような苦しい声で泣くのを堪えるようにして目を瞑った。

 

「わたし・・・卒業したくないよぉ・・・!」

 

 言葉が出る直前に私の胸元にしがみついて子供のように泣き喚いた。

 

「まだやりたいこと残ってるのに・・・!まだ終わらせたくないのに!」

 

「なんで・・・!貴女と一緒にいられないの!!こんなことなら先輩という立場なんて

いらなかった!!」

 

 私は黙っていることしかできなかった。先輩の家は大きくて、両親の期待通りの

成果を出さなくてはいけないのと、自分のしたいことの間に挟まれて苦しんでいた。

普段ならここまで追い詰められることなく、言われた通りにしていたのだろう。

 

 だけど、この時期。特別な関係が学園内で作ってしまったために初めてと

いっていいほどの苦痛を味わっているのだ。

 

 まるで子供が駄々を捏ねるように言葉を連ねるが、徐々に言葉が崩れて

ただ泣いているようになっていった。

 

 私は今にも崩れそうな先輩の背中に手を回して抱きついた。あんなに大きくて

立派に見えた先輩が恐ろしく小さく感じられた。

 

 そうだ、先輩も人間なんだ。完全に見えたのは先輩が頑張っていたから。

本当は中身はこんなにも脆くて小さな人間なんだ。みんなと同じ人間。

 

「ゆきのぉ・・・」

 

 

 泣き、声枯れて、それでも・・・何も出すものがなくても搾り出すように

か細い声で私の名前を呼ぶ先輩に私は回した手の力を強めて応える。

言葉で返すことができないから、せめて行動で示したかったのだ。

 

 私はここにいる。先輩の傍にいる。ずっとはいられなくても、この瞬間。

卒業までは出来るだけ先輩の力になりたいと思えたんだ。

 

 私もいつの間にか先輩の気持ちが移ったのか、見上げた夕焼けが滲んで滲んで

揺らいで、視界がまともにその景色を映らなくしていたのだった。

 

 どれだけの時間そうしていただろう。お互い少し気持ちが落ち着いた頃、

風が強くなってきて少し寒くなった所で一度お互い離れて気まずい空気が流れる。

 

「ご、ごめん・・・」

「い、いえ・・・」

 

 互いに視線を逸らしながら、しばらくしてズッというハナを啜る音がしてから

先輩は私に背中を向けてこう話してきた。

 

「前に言った、生徒会の件。あれ一度白紙にして頂戴」

「え・・・?」

 

「やっぱりこういうのは頼むものじゃないわ。貴女の意志で決めて欲しい。

今すぐじゃなくていいわ。卒業までの間に教えて」

「はい・・・!」

 

 私の返事に振り返ると先輩はいつもの笑顔を見せて。

 

「じゃあ、帰ろうか!遅くなったらみんな心配するわ」

「はい」

 

 1度目は強めに、2度目は優しく私は返事をする。笑顔に戻った先輩のいつもと

違うのは目がすごく赤くなっていた。この出来事はずっと二人の秘密でいようと

思えた。

 

 

 長かったような短かったような、楽しくも切ない複雑に入り混じった濃厚な夏休みが

終わりを告げる。帰りの車中で私は窓の外を見ながら初めて、名残惜しい気持ちで

胸が一杯になっていた。

 

 今の状況が一番私には心地良く幸せな時だが、ずっとそれも長くは続かないだろう。

また悩んだり悔やんだり喜んだり悲しんだり楽しんだり。色々するんだろうなって。

 

「どうしました、先輩?」

 

 一緒の車に乗っていた叶ちゃんがちょっと感慨に耽っていた私を見つめて

心配そうに聞いてきた。その時、好きな後輩に心配かけさせたくなかった先輩の

気持ちが少しはわかった気がした。

 

「ううん、何でもないわ」

 

 いや、気がするというより。可愛い後輩の顔を見てると今から実感出来そうなくらいだ。

そんな考えを私は頭を横に振って中断させる。それよりもこれまでお世話になったことに

対してやりたかったことを進めることに集中させることにする。

 

 それは私と生徒会の倉持楓を中心にして、ある創作活動に励んでいた。

先輩への感謝の気持ちを乗せて小説やイラストを手がけている。

まだ先だと思っていたことが今回の出来事で間近に感じていて、

私は活動のペースを早めようと思っていた。

 

 疲れていたのだろうか。車に揺られている内に無意識に夢の中へ誘われていた。

その時の夢はぼんやりとしていてどうだったのか覚えていないけれど、

どこか切なくなるような気分が残るような気がした。

 


 
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