No.551929

リトルな日々 (短編)

shuyaさん

短編連載を試みようとしていた時期がありました。
が、練り込んでもコメディが書けないことに気づいて、企画自体を没にしました。

注)没ネタ投稿です

2013-03-06 16:10:07 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:402   閲覧ユーザー数:396

 パチュリー様は、頭がおかしいんじゃなかろうか。

 

「本も人も妖怪も、変わらないでしょう?」

 

 なんて言っちゃって。私がいま話のネタにしているのは、さっき読みきったばかりの恋愛小説。出てくるのは人ばっかりだから、本や妖怪なんか話に出てくるのは絶対におかしい。意味不明だ。全くもって理解不能にもほどがある!研究のしすぎで脳内が一回転してしまったんじゃあなかろうか。

 ……まあ。ひょっとするとややもすると。実は、とてもとても深いところで密接な関係があって、私のリトルな脳みそではちょこっと汲み取れていないだけなのかもしれないけれど。それにしたって”恋愛とは”みたいな話をしているところに、本という非生物的な存在を組み込まれても、その……ちょっと困る。妖怪ならまだしも、本と恋愛を結びつけるなんて絶対にあり得ない。一緒に寝たらくしゃくしゃになってしまう相手と、どうやって愛を育めばいいというのだろうか。とんだ異種間交配だ。何もかもが一方通行じゃないか。どうせやるならもっと素敵な組み合わせでお願いしたい。悪魔とかおススメしたい。しれっとごり押しして、そういう話が苦手なパチュリー様の顔を赤く染め上げたい!

 ……もとい。

 たまにだけど『あの人の使っている言語って、私の理解している言語とは違うものなんじゃないかなー』なんてことを思ってしまうのは、きっと私のせいじゃない。発想が突飛過ぎて、思想が行き過ぎていて、創造するモノどもが悉くやり過ぎているようなお方だから。悪魔のはしくれである私でさえも、自分がとても平凡な存在であることが身に沁みてしまう。

 でも。それでも、やっぱり。『もうだけ、少し考えてみようかな』なんて思ってしまうのは、パチュリー様がとても頭が良いことを知っていて、その発言にはたいてい筋の通ったお考えがあるってことをどうしようもないほどに理解しているからだ。何故に恋愛が”本も人も妖怪も変わらない”のか。そこに意味があるのなら、たどり着いてみる努力をしてみよう。

 

 まずは前提条件。きっとこれは”パチュリー様にとっては”という話だろうから、純粋に本を愛しているということだろうか。いやいや、それなら人と妖怪が同列に並ぶわけがない。パチュリー様は、本のためならあらゆる生命をあっさり奪ってしまうお方。ここに並ぶ数えたくもない量の本たちを手に入れるために、この世から消え去った命はそれなりに多いのだ。ぱっと思い出すだけでも、紅魔館にいる者たちが全員で指を折っても届かない程度は失われている(もちろん、妖精メイドも含めての数だ)。

 考えてみれば。パチュリー様にとって、机に置かれた本の一冊と並ぶほどに価値がある命なんて、私の両手で十分に数え切れてしまうんじゃないかな。紅魔館の重鎮方と、幻想郷で見知ったいくつかと……あ、これって私は含まれるのかな?含まれてほしいなあ。案外、こういうトコ信用できないんだよなあ。っていうか、なんで本と人と妖怪が出て”悪魔”が出てないのかな?これはひょっとして、なかなかに寂しいことなんじゃあないだろうか。え、もしかして私って愛されてない?このメリハリボディながらもかわいらしさをかもし出すスタイルが最高すぎる愛され系の小悪魔だと思っていたのに――――

 

「ちょっと。あまり羽をパタパタさせないでよ。埃が舞うでしょう」

「って、うわあ!!す、すみません」

 やってしまった……考え込むと勝手に羽が動いてしまうのは私の悪い癖。しかもそういう時って、たいてい結論が出る前に変な方向へと暴走してしまう。集中力が無いのは種族的なものもあるのだけど、もう少しくらいは頭が良くなって欲しいな。以前はそんなことを思わなかったのだけれど、ここへ来てからはその思いがどんどん強くなっていく。というか、なんだろう。ここに来てからというもの、私の思考はとても脱線しやすくなっているような気がする。この空間に、私の頭を蕩けさせるような何かがあるとでもいうのだろうか。

 でも、まあ。とりあえずわかったのは、『私の頭じゃあ推測すら無理っ!』ってこと。だから日常会話のネタらしく、わからないことはさらっと聞いてしまおう。日常会話は、会話そのものを楽しむためにあるのだから。

 

「それにしてもパチュリー様。本と妖怪と人間が一緒って、おかしくないですか?あっ!それとも、経験のないパチュリー様には全部一緒ってことですか?」

 思いつきを交えてさらっと問い掛けてみた。日常会話はテンポとリアクションが命。思い立ったが吉日とばかりにネタを盛り込むのが小悪魔流会話術なのだ。そして、パチュリー様はテーブルの上の本をパタンと閉じた。次に座っている椅子を少しずらし、私の方を向いてにっこりと笑った。まあ迫力のあるステキな笑顔。

「ねえ…………火と、水と、土。どれが好き?」

 今度はなんだろう。またわからない話が出てきてしまった。というか、そもそも会話が成り立っていないような気がするのだけれど、でもこれなら私にも答えられる。

「そうですねー。水、です。水がなきゃ生きていけませんからね」

 ちょっといいことを付け加えてみた。本当はただの好みなんだけど、私も時には偉ぶってみたいのだ。

「そう。なら、あなたの好きな水に包まれて死になさい」

「えっ?」

 

 パチュリー様がぶつぶつ言い始めると、魔力的な何かがどんどん両手あたりに集まっていって、あからさまに室温が急落していく。なんだかよくわからないけれど、一刻も早く受け入れなくてはならないことが一つだけある。どう考えても愛され系な私の命が儚く散りゆく寸前ってことだ。知らず上がっていたテンションが一気に急降下していくのがわかる。俗に言う”血の気が引く”という状態だ。よく『さー』とかいう効果音が当てられているけれど、本当に急激な場合は『ざっ』という方が正鵠を得ていることを知った。まさに今、体感した。身の危険は加速度的に現実のものとなりつつある。怪しげな動きをしているパチュリー様の手には空気が音をたてて集っていて、弾けるたびに水滴が広がっていく。一連の流れが勢いを増すにつれて、空中に存在する水滴がみるみる膨らんで、合わさって、水の玉を形成していく。

「こ、これは」

 だめだ。やばい。

 アレが私を包んでしまえるくらいに広がった時、私の可憐な花にも似た小悪魔生活の終焉を迎えるのだろう。どうにかしないと冗談すら言えなくなってしまう。たぶんだけど、パチュリー様を説得するのはもう手遅れ。それなりの付き合いだから、なんとなくわかる。何を言っても術の完成のほうが早い。あの人は、というか紅魔館の人は皆だけど、感情が高ぶると人の話を聞かないのだ。自分が悪くても関係なく、”思いのままにぶちまけてから後のことを考える”という性質を持っている。つまりは、もう手遅れなのだ。

 

 だから私は、言葉ではなく行動をすることを選んだ。

 

「ごめんなさいっ!」

 一応、謝りながら。謝罪の対象は、先ほどのやりとりではなくてこれからの行動。私は近場で最も貴重な本が納められている棚へと向かって、その中でもより貴重な本をいくつも胸に抱えた。そして体をできる限り本棚へと寄せて、どうやっても本に影響が出てしまう状況を作り上げた。

「ちっ」

 パチュリー様はそのお綺麗な顔を半分だけ歪めながら舌打ちをする。ある一部の人にはご褒美過ぎる表情だなあなんてことを思いながら。私もたいへん嫌いではないその表情を眺めれば、自然と笑みがこぼれるのはいたしかたのないことだろう。

 

「ダメですよー。怒るトコロじゃないですよー。パチュリー様は恋愛に興味を持っていないのですから、経験があった方がびっくりです。あ、それとも研究のためにお試しとかしてみちゃってましたか?」

 ニコニコと笑いながら、ちょっと冷静に正論とかも吐いてみる。無茶苦茶な人だけど、基本的には理論の人でもある。おかしいところを上手く指摘すれば、たいていは自省してくれるのだ。語るだけの時間を確保するのがなかなかに難しいけれど、この図書館においてはその存在が人質のようなもの。本への保護魔法もかけてはいるけれど、あのランクの水系魔法なら広範囲の簡易保護など軽く突き破ってしまう。実はここで争う限り、パチュリー様に勝ちの目は薄い。戦場にしてはいけない場所なのだ。もちろん、戦場がここであっても、私などが勝ちを得ることもないのだけれど。

「ふん…………お試し、なんて本を流し読むようなもの。活字を追っているだけじゃあ、真を得ることなどできやしないのよ」

 すねるようにそっぽを向いて、話しながら魔法の中断手順を終える。ながらで行った手順なのに、その所作は見事の一言に尽きる。私も悪魔のはしくれなので魔術の知識もそれなりにある。が、正直に言うと今の手順がどういう理屈で効果を発揮しているのかがちっともわからない。私がパチュリー様が準備した魔法を発動しようとすれば必ず暴発するし、仮に上手くいったとしても発動よりもはるかに難易度の高い中断なんて、恐ろしくて試みようとすら思わない。少しだけ暗い感情が心をよぎるけれど、とにかく助かったことを喜ぼう。そして、晴れて冗談を続行できる今に感謝をしよう。

「でも、お試しから始まる恋愛もあるのですよ。その気があれば、育むことだってできるのです。ああそうだ!パチュリー様。ここはひとつ、ワタクシめとお試ししてみるというのはどうですか?ほらほら、自分で言うのもなんですけど。よく見れば私、か・な・り・可愛いんですよっ!」

 にっこにっこしながら表情とか作ってみる。そのままさっさと本を戻してポーズとか取ってみる。ウインクばちーん。投げキスちゅっ。とどめに、ボタンを外して胸をアピール!ばーん!!

 

「はあ。なんでこんなの出てきちゃったんだか」

「否定はやっ。ってか召還から後悔しないでくださいよっ!いっちばん初めの始まりから全否定とか悲しすぎますからーっ!!」

 なんて。まあいいんだけどね。こんな会話ややりとりが冗談として成立する程度には、仲のいい主従をやっている。時間が空いたら馬鹿話に花を咲かせて、何かを為す時にはそれのみに集中する。やるとも言わず、切っ掛けもなく、ただ流れのままにスイッチを切り替える。例えば今、パチュリー様が何かの研究を始める気になったとしたら。私はそれに合わせて器具や場所、必要な書物などを用意することができるだろう。私自身にもよくわからないのだけれど、なんとなく伝わってくる。

 自分のことに関しては超合理主義なパチュリー様が、そばに置いてくださっているということの意味。それなりには、受け止めているつもりなのだ。

 

 

 

 

<『たとえばこんな日常です』・終>

 

 

 

【いつもの蛇足】

 

「で。結局、どういう意味なんですか?本も人も妖怪も変わらないって」

「関わり方の話よ」

「関わり方、ですか?」

「ええ。本はね、上っ面だけを読むなら、いくらでも早く読み切れる。重要そうな単語だけを拾い読みしたって、受け取る情報に大きな齟齬は出ないもの。辞書や専門書で探す時にやるような読み方で十分過ぎるほどに受け取ることができるわ。だけど、そんな読み方をするのは、真にくだらない本だけ。少しでも意味を見出すことのできる本ならば、出来る限り真剣に言葉の羅列を解釈しようとする。どれだけ力を入れて読もうとも、作者の脳内ほどには書いてある内容を理解できないのだから、私の能力の及ぶ範囲で可能な限り受け取る努力をするのよ。想像して、補完して、試してもみて。可能ならば作者以上にその事象を理解したいと思っている。なぜそこまで力を入れるのかというと、それは単に、私が本という存在を愛しているから」

「愛ですか」

「愛よ。その表現が一番適している。じゃあ、人との関わりはどうかしら。人を判断する上で、ぱっと見と対応と雰囲気だけを見て判断するのは容易いわ。対人経験を積めば積むほど、その精度は上がるでしょう。でも、人ってそんなに単純なものかしら?初対面ではわからない良さがある人とか、仲が良くなってから駄目になる人だっている。初対面の判断ってそう間違えるものではないらしいけれど、それでも全てがわかるわけではないわね。踏み込むかどうかは、興味があるかどうかでしょう?そこに愛があるのなら、当然のように踏み込む。そして可能な限りで、その人のことを知ろうとする。私が本に対してそうするようにね」

「なるほど」」

「妖怪だって似たようなものよ。しかも今度は能力までついてくるんだから、余計に難しいわね。だからこそ愛を感じ難いわけなんだけど、それでも集っている。私たちも、地下の奴らも、寺の奴らも。育ちにくい愛を育んだ者たちは、それなりの強固な繋がりを持つことになるわ。紅魔館が襲われたら、レミィとか、きっとすごいことになるわよ。咲夜も実は激情家だから、レミィに従う振りして暴れまわるわよ。美鈴も、きっと弾幕なんて生ぬるいことはしないでしょうね。あの子、肉弾戦になるとかなり強いから。ああ、ほら。ここに来る前に本を奪われたことがあったでしょう。あの時の私と一緒って考えたらいいかも」

「う、うう……」

「何よ、どうしたの?」

「うあ、あ……ああっ!も、もう、あの時のことは忘れさせて下さい。お願いしますからもう思い出させないでください。私が悪いんじゃないんです。いない時に入った賊のことまで責任は取れないのです。どうしても、どうしてもというのであれば、私をここにくくり付けて頂いて結構ですのでどうか――――」

「ちょっと、何をトチ狂ってるの。あんたに責任なんてあるわけないじゃない。ただ、私が怒り狂って賊を狩りまくったって話よ」

「パチュリー様にとってはそうかもしれませんですけれどもね。私にとっては”じゃああの本を、敵のところから持って帰ったのは誰ですか?”って話になっちゃてしまっちゃうわけなのです。深く、ふかーく埋めておいた記憶が黄泉に還っちゃうんですよ!」

「それ、忘れてるじゃない」

「い・い・で・す・か?無差別に繰り出される致死級の魔法が乱れ飛ぶ中で、たった数冊のどこにあるかもわからない本を奪還してくるって……口にするだけでもかなり無茶な作戦ですし、実際に言葉では語り尽くせぬエトセトラが私の心を抉り放題やらかしていったわけですよ!この話を台本にすれば、米国あたりでステキな映画にでも出来そうな勢いだったんです」

「え、私そんなこと言った?あんた、そんなことやってたら悪魔でも死ぬわよ。気をつけなさい」

「わかってますよっ!誰が指示出したと思ってるんですかこの本原理主義者っ」

「あら、光栄ね。たまにはいいこと言うじゃない。じゃあ、また本を奪還してきてもらいましょうか。今度は一人で」

「えっ?」

「潜入先は魔理沙の家ね」

「ええっ?!」

「あの子、自分に害を為すものにはわりと容赦ないから」

「ぱ、ぱちゅりーさまあぁ!」

 

「まあ、せいぜい生きて帰りなさいな」

「あ、デレた」

 

 という流れで図書館を蹴り出された私が、魔理沙の家を一週間襲い続けて「この本なら持って行っていいからさっさと帰れ」という言葉と共に一冊の本を取り返してきたお話はまたの機会に。

 

 

 

 


 
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