No.551560

~貴方の笑顔のために~ Episode 29 小覇王最期の大号令

白雷さん

これは、一刀が愛紗のことを聞き、城を飛び出した後の話。
呉では、反乱軍との戦の準備が進んでいた。

2013-03-05 14:38:01 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:9865   閲覧ユーザー数:7788

一刀が荊州へと向かったとき、雪蓮たちは反乱軍を探るため、そして

反乱軍と戦うため、戦の準備を進めていた。

 

 

~雪蓮視点~

 

一刀はどこへ向かったのだろうか・・・

私が関羽、愛紗が荊州の樊城に向かったと伝えたら、顔色を変えて出て行った。

それは、彼の天の知識というものからだろうか・・・

 

「冥琳、戦の準備はできたかしら?」

 

私は、となりで忙しそうに動いている彼女にそう聞く。

 

「ええ、大体は、だな。やはり、内部に豪族であるものが、敵の探り、そして書を蜀、

 魏に書くために潜んでいた。とりあえず、そいつらは地下牢にいる。

 そして、こちらに今向かってきている反乱軍の総数は20万。

 これはたしかな情報だ。

 豪族たちの兵が約16万、そしてあとの4万は我々に不満を持っていた民、

 一般兵たちであろう。

 それらが、天の意志という大義をかかげこちらに向かってきている。」

 

20万、か。正直思っていたよりも多かった。

今、こちらですぐ動かせる軍は30万。数位的にはこちらが圧倒的有利だ。

それでも、やはりそれなりの被害は出てしまう。

 

母様が死んでから初めて、こんな大規模で仲間だったものを、敵として相対する。

そして三国の戦い終結以来の大きな戦だ。

 

「冥琳、少し時間をくれないかしら?」

 

「孫堅様のところか?」

 

「ええ、ちょっと話してきたいと思って。」

 

「そうか、しかし、念のため」

 

「誰かをつけるのでしょう?」

 

「当り前だ。 雪蓮は・・」

 

「王だから? ・・・ねえ、冥琳、」

 

「なんだ?」

 

「私は呉にふさわしい王なのかしら?」

 

「質問の意味が分からないのだが?」

 

「私は華琳みたいになんでもかんでもできるわけじゃない。 

 かといって桃香みたいに貫く理想と優しさもない。」

 

「なんだ、そんなこと」

 

「そんなこと、じゃないわよ。私だって結構悩んでるんだから」

 

「20万の反乱軍、か。反乱の大きさが予想以上に大きかった。そしてその反乱軍の

 ほとんどが一緒に戦ってきた者たち・・・」

 

「うん。」

 

「正直いって予想よりも多かった。それはやはり天の意志ということもあってだろう。

 だがな、雪蓮、考えてみろ。

 そんな天の意志みたいのを気にせずに雪蓮に、私たちについて来てくれている

 者はこうもたくさんいるんだ。

 どうして、何も魅力がない王にそこまで従える?

 魅力のない王だったら天の意志を選んでいるぞ。」

 

「もう、冥琳ったら、なんでそういつもとうまわしなの?」

 

「直接いったらどこかの王様はまたうぬぼれるからな。」

 

「ぶー、もう冥琳のいじわる。」

 

「まあ、でも雪蓮。一つだけ私から」

 

「なによ?」

 

「私が、この周瑜が一生をかけた王がつまらないわけがないであろう?」

 

「ははっ、ありがと、冥琳。  すぐ戻るわ」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

そこは城から少し離れたところ、

城内は騒がしかったが、そこだけはまるで違う場所のように、

静かであった。

そう、そこは私の母様が眠っているところだった。

 

「思春、ここで、待っていてはくれないかしら?」

 

「いや、しかし」

 

「すこし、母様と二人で話をしてきたいの」

 

「・・わかりました。私はここに。」

 

「ありがとう」

 

そうして、私は母様が眠る場所へと向かっていた。

 

 

 

 

少し歩くと、林の中に少し開けた場所があり、

そこに、一つの石碑がたっていた。

 

孫堅文台、初代呉王、享年37年、この地を去る。

 

私は、その石碑に水をかけ、花を添える。

 

「母様、元気かしら?」

 

いまだ忘れぬ偉大な王、そして母であった孫堅。

 

「母様が逝ってしまったあと、何が何だか正直わからなかったわ。

 勝手に私が王となり、そして多くのものが私を今までとは違うように

 扱うようになった。

 正直うんざりだったわ。だって、母様が死んだことがまるでみんなには

 何もなかったかなようだったんだもの」

 

私は最初に王座を継承した日を思い出し、なんだかこそばゆい気持ちになる。

 

「でもね、それは違っていた。みんな悲しかった、つらかった。

 そして、母様、みんな母様のことが大好きだったから、

 その気持ちをこらえていたのよ。

 戦いがまだ、終わってはいなかったから、

 守るべきものがあったから、

 母様が成し遂げられなかった目標がまだ、あったから。」

 

そう、その時の私は、みんなのそんな気持ちを気づくにはまだ、幼すぎた。

でも、年月がたち、私もそのようなことに気が付くようになった。

 

 

「だから、そんなみんながいるからきっと私は王になれたんだと思うわ。」

 

ほんとうに、そう思う。

きっと、みんながあの時ああしてくれなかったら、

私はきっと自分に、いやみんなに甘えていたであろう。

 

 

「それからは、大変だった。袁術から独立し、呉を復興させ、魏、蜀と戦ってきた。

 結局は負けちゃったけど、それでも、華琳は、魏王曹操は、私たちに

 呉をおさめるようにとそう告げた。

 そして、やっと。

 そう、やっとよ。母様。 私たちはこの呉で、平和を手に入れた。」

 

 

「長かった。思い返せばいろいろな日々があった。

 そのどれもが私には大切なものだったわ。母様」

 

 

 

 

   「雪蓮様―! そろそろお戻りくださいませ。」

 

私が一人になってから少し経ったのか、思春がそう向こう側から声をかける。

 

「わかったわー! 少し待ってて!」

 

私はそう思春に声をかけて話を続ける。

 

 

 

 

 

「ねえ、母様。母様は前に話してくれたわね。

 この腐った大陸には光が、そう、すべてをあたたかくつつむような、

 そんな光が必要だって。

 今、私はね。その光を見つけたような気がするわ。」

 

 

 

 

「彼の名は北郷一刀。 以前、華琳とともに戦い、魏を天下に導いた

 天の御使い。」

 

 

 

「私が最初、天の御使いって聞いたときは、ただのお飾りだって

 そう、思っていた。けれど、実際会って、

 実際話して、彼は違ったのよ、母様。」

 

「彼は天の御使いなんて名を気にしてはいなかった。

 ただ己が信念を貫くため、戦っていた。

 この世界のものでなかったとしても、

 その存在を見せびらかすこともなく、誇示することもなく、

 ただ、この世界にありたい、そう望んでいた。

 そして、彼はなにか不思議な人を引き付ける力がある。」

 

 

「母様、私は今回の戦い、呉王として全力で臨むわ。

 敵はもともと私たちと呉のために戦ってくれたものなのかもしれない。

 けれど、私は呉の未来を、母様がみていた理想を守るためなら

 鬼になる。」

 

 

 

 

 

「そろそろ母様、いくわね。みながまって・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・なんだ・・・

どこからか鈍い音が・・

 

 

反応が少しばかり遅れその痛みを徐々に感じるようになる。

 

見れば、左肩に一本の矢が刺さっていた。

 

くっ、こんなところでしくじるなんて・・

でも、これくらい!

 

私はそうおもって矢を腕から抜き立ち上がろうとしたが、

徐々に体から力が抜けていくのを感じる・・・

 

毒・・・か・・・

 

それも、こんな速さで体に回ってきている。

しくじっちゃったの・・・ね。

 

私は思いながらその場に倒れた。

 

 

 

 

 

~思春視点~

 

 

あー、まったく。雪蓮様は勝手が過ぎる。 もう敵はすぐにせまっきているというのに。

 

 

 

「雪蓮様――!雪蓮様! そろそろお戻りくださいませ。」

 

 

私は二度目となる声をかける。

 

しかし、私の声に反応はなかった。 

 

「雪蓮様――!」

 

私はもう一度、そう大声で呼んでみる。しかし、かえってくる返事はなかった。

 

なにか、おかしい・・・そんな違和感を感じ、私は孫堅殿が眠っているもとへと

駆け付けた。

 

 

 

 

 

 

「雪蓮様!  何があったのですか!しっかりなさってください!」

 

私の悪い予想は外れてくれることはなかった。

かけつけたその先には雪蓮様が矢を受け、倒れていた。

 

「雪蓮様!しっかりしてください!雪蓮様!」

 

「思春、ごめんね、なんかしくじっちゃったみたい・・」

 

「救護兵はいるか!救護兵!」

 

私はそう大声で叫ぶと、遠くからただ今、という声がする。

 

「思春、もう、なんか体がうごかないわ。」

 

「なにを言っておられるのですか! 冗談はやめてください!」

 

そんなことをいう私だが、雪蓮様の状態は危ないことに私は気が付いていた。

 

“ガサッ”

 

そんな時、私は木の茂みから、逃げようとする音を捕らえる。

 

「誰だ!」

 

私はすぐにその音に気づき、そのものを捕らえた。

そのものは雪蓮様に刺さっていた矢と同じ矢を持ち歩いていた。

 

「貴様か!」

 

私は、その男を縛り上げた。

 

「雪蓮様、これはどういうこと、なんでしょうか・・」

 

私は怒りにこぶしが震える。 その男は魏の鎧をきていたのだ。

 

「魏は、曹操殿は、なにをやっている!」

 

「思春、落ち着きなさい」

 

「魏はなんのつもりだ!」

 

「落ち着きなさいと言っている!」

 

「ですが!」

 

「思春、あなたなら、これが曹操、いや華琳が全く関知していないことくらい

 わかるでしょう。 で、あるならば、これは、敵の策であることくらい

 わかるはずでしょう。」

 

「そう、ですが・・・」

 

「今、三国の危機にお互いの信頼を、絆を失ってどうする!」

 

「雪蓮様・・・」

 

強い、さすが呉の王だと、そう思う。

自分がこんな状況に置かれてまで、ここまで王としていられるのだから。

 

 

「思春、私を城へつれていってちょうだい。」

 

だから、私にできることは、きっと、今の雪蓮様の思いにこたえることなんだ。

 

「御意・・・」

 

私はそううなづくと、雪蓮様を背に負い、城へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

~雪蓮視点~

 

私としたことが、しくじったわね・・・

 

思春の背中の上でそう思う。

 

ごめんなさい、思春。つらい役目を押し付けてしまって・・・

 

私をせおう彼女の瞳からは涙がこぼれていた。

 

 

 

 

 

城に近づいてくると多くの将たちが、何があったのかと集まってくる。

 

 

「姉さま! どうされたのですか!」

 

「雪蓮! いったい何があった!」

 

「策殿!!」

 

「雪蓮様!!!」

 

 

そんな皆に思春が、何があったのかを説明した。

 

「・・・・」

 

ただ沈黙が広がっていた。 だれも、魏が悪いと言及するものはいなかった。

それは、思春が涙を流しながら、必死にそう伝えたからであろう。

 

 

「皆、戦の準備を。」

 

私はその沈黙の中、ただそういった。

 

「姉さま!何をいっておられるのですか! はやく手当を!」

 

「蓮華、話を聞きなさい」

 

「ですがっ!」

 

「蓮華! これは呉王の命令よ!」

 

「姉さま・・・」

 

「蓮華、これからは、あなたがこの呉を引っ張っていく番。

 しっかりしなさい・・・」

 

私がそういうと、蓮華はただ涙しながら、その場に跪いていた。

 

 

 

 

 

 

「皆、戦の準備をしなさい!  これは呉王孫策の最期の命令よ!」

 

 

 

 

 

    「御意!!!!!!」

 

皆が呆然としていた。しかし、そう叫ぶ私の声に、皆がしっかりと反応した。

 

 

 

 

 

 

 

城壁から見下ろす景色は壮大で、何かさびしいものがあった。

それはきっと、これから始まる大きな戦の前の緊張感と、

自分がもうそこでは戦えないことの悔しさなのだろう。

 

「雪蓮、大丈夫か?」

 

私の横では、冥琳が私の体を支えてくれている。

もう、自分の力ではまともに立てなくなっていた。

 

 

「冥琳は、みんなみたいに泣かないのね」

 

「まあ、それはな。私は軍師だしな。」

 

「またまた、そうつよがっちゃって。」

 

「でも、雪蓮、これだけはいわせてくれ。 私は雪蓮、

 あなたに仕えることができて幸せだった。」

 

「なに?いまさらかしこまっちゃって。 それに仕えるって。

 私たちは昔からの親友でしょう?」

 

「それはそうだったな。 腐れ縁といったほうがよくないか?」

 

「なにそれ、もう、冥琳ったら最後までいじわるなんだから」

 

「雪蓮、  私はこれからしっかりあなたがひっぱてきた

 呉を守って見せるから。 ちゃんと、みんなを守って見せるから。

 あなたの理想を、絶対に忘れないから。」

 

「ええ、」

 

 

「だから、雪蓮。  呉は、もう大丈夫だ」

 

そういう、冥琳の声はかすかに震えていた。

 

 

「そう、ね。蓮華と、冥琳たちがいればこれから先、やっていけそうだわ。

 だから、ここは、この最後となる悲しみは、私がともに墓場へと

 持っていくわ。  冥琳、私を前へ。」

 

 

 

城壁から下を見下ろす。そこには30万の兵がこちらを見上げていた。

そこには涙の後もあるがそれぞれの将がしっかりと戦闘の準備を

整えていた。

 

 

 

 

 

母様、これが最後の晴れ舞台。

天国で、しっかりと見守っていてください。

 

 

そして、呂白、いや一刀。 あなたはどう思っているか知らないけど、

あなたは私たちの光よ。

この未来を、私の理想をあなたにたくしたわ。

だから、どこか遠くでもいい。

私のこの姿を見守っていてほしい。

私の生き様を。  そして私の死にざまを。

 

 

 

 

 

 

 

 

「呉の将兵よ!我が朋友たちよ!

 われらは父祖の代より受け継いできたこの土地を袁術の手から取り返した。

 だが!、今愚かにもこの地を欲し、無法にも大軍を持って押し寄せてきた

 敵がいる。敵は卑劣にもわが身を消し去らんと刺客をはなち、

 この身を毒におかさせたのだ!」

 

 

「卑劣な毒におかされ、わが身はもはや滅びるしかないであろう。

 しかしこの孫白符! ただでは死なん!」

 

「わが身魂魄となりて、永久にみなとともにあらん。

 わが魂魄は盾となりて皆を守ろう!

 わが魂魄は鉾となり敵を打ち殺そう!

 勇敢なる呉の将兵よ、

 その猛き心を!

 その誇り高きふるまいを!

 その勇敢なる姿を我に示せ!

 われはその姿を脳裏に焼き付け、わが母、文台のもとへ召されるであろう。」

 

 

「呉の将兵よ! わが友よ!愛すべき仲間よ!愛しき民よ!

 孫白符、命の炎をもやし、ここに最期の大号令を発す!」

 

 

「天に向かって叫べ! 心の奥底より叫べ!おのれの誇りを胸に叫べ!

 その雄叫びとともに、わが屍をこえてゆけーーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、私の視界はだんだんと霞み、最後には真っ暗となっていった。

 


 
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