No.551211

リリカルなのはSFIA

たかBさん

知りたがる山羊の足音

2013-03-04 12:19:32 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:5160   閲覧ユーザー数:4653

 知りたがる山羊の足音

 

 

 

 ・・・許してくれ。

 許してくれ。ゼスト。

 俺は…。もう、止まることが出来ないんだ。

 だから、頼む!

 

 

 

 ゼスト視点。

 

 俺の部隊はとある管理外世界でとある文明の痕跡があるという連絡を受けてその世界の調査を行っていた。

 その遺跡の近くにある森の中で、凶暴な原生動物がいないことを把握した俺達はキャンプの準備をしていた。

 

 「隊長。テントの準備が出来ました」

 

 「夕食の準備も」

 

 紫色と藍色の髪を腰まで伸ばした副隊長の二人の女性が歩いてくる。

 紫の髪をした方がメガーヌ・アルピーノ。

 シングルマザーで、確か二歳ぐらいの女児の母だ。ここ最近は託児所と管理局の往復で忙しそうだから俺とレジアスの口添えで休暇を取らせてやっていたのだが、今回の長期任務。

 アルピーノにいてもらった方が安全を確保できる。それに今回の任務の給与でアルピーノは親子二人で仕事を過ごしていけるだけの給与が出る。

 藍色の髪の方はクイント・ナカジマ。

 ゲンヤという俺の部隊とは別の部隊の旦那と、…二人の娘がいる。

 こいつもアルピーノと同じく今回の任務を契機に俺の部隊を引退し、専業主婦になって子ども達の面倒を見てやるそうだ。

 部隊の男陣営は紅一点?の二人の引退に嘆いていたが、女子供を戦場や荒事に巻き込むなと一喝すると「隊長、冗談ですよ。冗談」と言って笑っていたがその笑い声は乾いたものだった。

 

 「アルピーノはいいが。…ナカジマ。この世界の生態系に関与するほど乱獲はしていない、…よな?」

 

 「酷いですよ隊長?!いくら私が人よりも少し多く食べるからってそれはないです!」

 

 そうか…。ナカジマ家では総体積が五キロを超える食事も少しなのか…。

 こいつの家が両親共働きなのが少しわかった気がする。娘二人もよく食べるしな。

 

 「ゲンヤさんが今度出世するから余裕が出るのよね♪羨ましいわ、稼げる旦那様いて♪」

 

 「そうだけど!それじゃあまるでゲンヤさんの稼ぎが悪くて、私も働かなくちゃ食べていけないみたいじゃない!?」

 

 「・・・え?」

 

 「酷い!」

 

 アルピーノの発言にナカジマが涙目になっていたが…。

 俺と秘密で食費について愚痴をこぼしていたゲンヤは今のお前以上に涙目だったぞ。

 退職祝いにナカジマ家には米を送ろう。十俵ほど…。

 それで一週間。いや、三日は持つだろう。

 ちなみにゲンヤも結構な額を稼ぐ管理局員なのだが、それ以上にナカジマ家のエンゲル係数は高い。

 

 「はぁ…。私も稼ぎの多い旦那様がいればルーともっといられるのに…」

 

 「…今度、レジアスと交渉してみよう」

 

 ため息をつきながら俺の方を見るアルピーノ。思えば激務と言ってもいいいほどの仕事を任せている。それなのに給与の方に不安があるのだろう。

 

 「…ルーもお父さんがいた方がいいと思うんですよ」

 

 「そうだな。まだ赤ん坊に近い子どもだ。親の愛情は注げるだけ注いだ方がいい」

 

 「………そうですね。出来れば隊長程の高級取りがいいんですけど」

 

 「…ふむ。海の方に行けばいるかもな」

 

 「……………この鈍感、筆頭」

 

 「今、何か言ったかアルピーノ?」

 

 「知りません」

 

 周りの隊員もそれはまずいっすよ~。と、苦笑している。

 アルピーノも何やら不機嫌そうだが…?

 

 「…俺が悪かった。この任務が終わったら一杯奢ってやるから」

 

 「まあ、それなら…」

 

 こういう時は謝るのが一番だと交渉上手のレジアスも言っていたな…。

 俺は槍しか知らんからあいつの助言に頼らせてもらう。

 

 「隊長っ、俺も!俺達にも奢ってくださいよ!」「空気よめバカ!」「だからお前はモテないんだ童貞!」「酷いっすよ!いくら俺が最年少だからって暴露しなくても!」「軽く自白しているぞ…」「ちくしょう!俺、この任務が終わったら風俗に行くんだ!」「恥ずかしい死亡フラグ乙」

 

 一番若い隊員を筆頭に他の部隊員達も騒ぎ出した。

 

 「…はぁ。わかった。この任務が終わったらお前等にも奢ってやる。ただし、ナカジマ、お前は駄目だ」

 

 「何故ですか?!」

 

 「は~。ルー、お父さんはまだできそうにないですよ…」

 

 俺にはお前の胃袋を満たすほどの甲斐性は無い。こいつに酒を飲ますと大食いに拍車がかかる上に暴れて居酒屋の破壊などが起こるのだ。

 そんな甲斐性はゲンヤに求めろ。

 一方で、ため息をつきながらそう言うとアルピーノの奴は更に不機嫌になった。

 

 「…すいませんアルピーノ副隊長。こいつはこの任務が終わったらたっぷり絞っておくんで!」「…風俗で?」「どうしてそう言う事には敏感なんだ?!」「自分、思春期ですから!」「全世界の思春期の青年に謝れ!」

 

 騒ぎは大きくなるばかりだ。

 

 「お前達、騒ぐのはいいが明日の調査に使う体力まで使うなよ。明日、動けませんと言ったやつは俺とアルピーノとナカジマの三連模擬戦だ」

 

 ナカジマとアルピーノが基本的に明るい性格のせいか、こんな部隊になった。

 一応こんなのでも管理局でエースの部隊なんだが…。任務中は管理局一の働きを見せるから世の中分からないことばかりだ。

 

 「…ふん。今度はレジアスも誘うか」

 

 あいつと酒を飲んだのはいつぶりだろう?

 最近はあいつ一人に厄介ごとを任せているし、悩んでいる様子もみれた。あいつも労ってやらないと…。

 そう思いながら未だに騒いでいる俺の部下たちの声を背に自分のテントに入り休もうとした時だった。

 

 

 

 ―残念だけど、それは叶わない未来だよ―

 

 

 

 ビィイイイイイイイ!

 

 

 

 「緊急メッセージ!?レジアスから!?」

 

 俺の持つデバイスにレジアスから秘匿のメッセージが入ってきた。

 メッセージを開こうとした瞬間、更なる異常が俺達の身に降りかかる。

 鳴り響いた警報にアルピーノ達は全員、俺同様に戦闘態勢に入っていた。だから、何とか対応できた。

 

 「傷ついた『偽りの黒羊』を癒す為。そして、『尽きぬ水瓶』を目覚めさせる生贄になってもらうよ。ゼスト・グランナイツ」

 

 突然現れた白と黒の入り混じる不気味な太陽の存在に。

 そこから這い出る異形の鎧に。

 

 だから、確認することが出来なかった。俺に送られてきたレジアスのメッセージに。

 

 『管理局から逃げろ』と、いうメッセージに…。

 

 

 一時間後。

 命からがら逃げだした、ナカジマ副部隊長と数人の話では聖王教会を襲撃したアサキムによって部隊は全滅。

 

 三日後。

 その際、大部隊を率いてアサキムと交戦しただろう場所で部隊員達の無残に殺された遺体が転がっていた。

 だが、隊長のゼスト。副隊長のアルピーノの遺体はどんなに探しても見つかることは無かった。

 

 一ヶ月後。

 事実上、ゼスト隊は全滅と判断され、解散となった。

 

 更に一年後。

 生き残った部隊員は全員瀕死の重傷を受けていたが、何とか命を繋いだ。が、襲撃を受けた際にリンカーコアが砕け散ったのか全員が魔導師生命を絶たれた。

 その部隊員は言う。隊長と副隊長が殿を務めて自分を助けてくれたと…。

 

 そして、意識が朦朧としている中でまるで、謝るかのように獅子が上げるような呻き声を聞いたという。


 
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